蜷川幸雄演出による〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉の第26弾として『トロイラスとクレシダ』が上演される。本作はシェイクスピアが戯曲を書いた時代のスタイルそのままに、全キャストを男優が演じる「オールメール・シリーズ」の6作目にして初の悲劇。主演の山本裕典をはじめ、月川悠貴、細貝圭、長田成哉、佐藤祐基、塩谷瞬、内田滋ら若い俳優が多く出演する。7月下旬、熱気溢れる稽古場を訪ねた。『トロイラスとクレシダ』チケット情報物語は古代ギリシアのトロイ戦争が舞台。トロイの王子トロイラス(山本)は、神官の娘クレシダ(月川)に狂おしいほど思いを寄せていた。クレシダの叔父パンダロス(小野武彦)の取り持ちによってふたりは永遠の愛を誓い合い結ばれるが、捕虜交換によりクレシダは敵国ギリシア軍へ送られる。時がたち、軍使としてギリシア陣営に訪れたトロイラスが見たものは、新たな恋人と抱き合っているクレシダの姿だった。「勇気もって、言葉で言葉で!」蜷川の声が、エネルギッシュに鋭く、テンポよく次々と飛んでいる。気持ちの乗っていないセリフには「うそつき!」、手を抜いて演じているとみれば「省エネ!」と厳しい言葉も浴びせるが、そのスピードに役者は落ち込んでいる暇はない。蜷川には今回、若い世代を育てたいという思いがあり「最近の若い俳優たちは、自分の日常生活に近い芝居はできるけれど、シェイクスピアやギリシア悲劇のような、縦軸としての教養を必要とする戯曲は、違和感があってできない。今回のセリフは特に論理的。彼らにとって異質な言語をぶちこむ」と実に意欲的だ。厳しい言葉の裏には若い俳優たちへの愛情と優しさが透けて見える。気になるセリフには一つひとつ、どこを強調するのか、語尾の言い方などを具体的に演出していく。「屁理屈を言うよりもね、具体的で早いでしょ」と話すように、指示は的確で明快だ。稽古場を訪れた日は、トロイラスとクレシダがふたりで初めて朝を迎えたシーンの稽古中。やっていて難しいところはと山本に訊くと「ヒロインとは言え、相手は男性。いちゃつくところは抵抗がないと言えばうそになりますね」と照れ笑い。蜷川とは2回目のタッグとなるが「自分は無知なところがすごくあるので、今回は1から100まで鍛えてもらう感じで挑みます。毎日大変ですが、これを乗り越えれば役者としてまた一歩成長できるのかな」と話していた。稽古を終えた蜷川は「よし、ここは明後日くらいには熟成してくるだろう」とぼそり。多くの俳優を育ててきた蜷川には、すでに完成形が見えているようだ。強い言葉を浴びせながらも、期待に応えようと四苦八苦する若手俳優たちの姿に、蜷川が嬉しそうな表情をみせるのが印象的な稽古場だった。公演は8月17日(金)から9月2日(日)まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場にて上演。その後、大阪、佐賀、愛知を巡演する。取材・文:大林計隆
2012年08月06日作家・橋本治が東大在学中に書いた幻の戯曲が、蜷川幸雄の演出で上演される。その名も『ボクの四谷怪談』。鶴屋南北の怪談をベースに、生きる目的を求めて右往左往する若者たちの姿を描く“騒音歌舞伎(ロックミュージカル)”だ。橋本ならではのポップな現代語で綴られたセリフに加え、鈴木慶一によるオリジナル・ロックナンバーが随所で炸裂する。物語を担うのは橋本が「七人の侍」と名づけた若者たちで、民谷伊右衛門を演じる佐藤隆太は、今回が蜷川演出初挑戦となる。騒音歌舞伎(ロック・ミュージカル)「ボクの四谷怪談」 チケット情報「蜷川さんから声をかけていただけるとは思ってもいなかった」と率直に驚きを語る佐藤。近年では映像での活躍が目覚ましいが、「自分を試される場」という舞台への思い入れは深い。「役者として今まで何を積んで来たのか、あらわになるのが舞台だと思う。その怖さを感じているからこそ逃げたくないし、出来るだけ舞台に立ちたいと願い続けています。でも、ここまで大きな山に向き合うことになるとは(笑)」。共演陣には小出恵介、勝地涼、栗山千明ら、蜷川演出を経験済みの若手も多く、「一番の後輩のつもりでアドバイスをもらいたい」と笑う。「第一線を走りながら、なお挑戦を続けられる蜷川さんのパワーを感じたい。コテンパンにやられる可能性も含めて、楽しみです」。伊右衛門は病身の妻お岩を持て余し、職も生きがいも定まらず運命に流される。しかし女にはモテる、やっかいな色男だ。映像作品での「熱く真っ直ぐな男」像から、人生に戸惑い、真摯に悩む男性像へと表現の幅を広げている佐藤にとって、さらに新境地を拓く役柄でもある。「自分が思う以上に“熱い男”というイメージを抱いている方も多くて、驚くことはありますね。そう思っていただくのは光栄な一方で、役者としてどんな役にも挑戦したい。絶好のチャンスをいただきました」。今回は「ロックミュージカル」だけに、伊右衛門が歌うナンバーもしっかりある。実は1999年、佐藤が俳優デビューを飾ったのもミュージカルの舞台(宮本亜門演出『BOYS TIME』)だったが、「僕は歌が決してうまくないんです」と告白するのがこの人らしい。「目指すところは“魂をガツンと届けられる”歌と芝居です。思えば初舞台の時は、歌も芝居もダンスもピカイチで下手なのに、よくもあれだけ堂々としていたなと(笑)。10年以上役者をやってくると、どんどん芝居することが怖くなってくるんです。何も恐れずにハチャメチャをやっていた、あの時の自分も無くさずにいたいですね」。共演は小出恵介、勝地涼、栗山千明、三浦涼介、谷村美月、尾上松也、勝村政信ほか。公演は9月17日(月・祝)から10月14日(日)まで東京・シアターコクーン、10月19日(金)から22日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。チケットは東京・大阪ともに7月21日(土)より一般発売開始。なおチケットぴあではインターネット先行抽選を東京は7月11日(水)11時まで、大阪は7月10日(火)11時まで受付中。取材・文:市川安紀
2012年07月03日世界屈指のオーケストラ、バイエルン放送交響楽団のベートーヴェン交響曲全曲演奏会が、11月26日(月)から12月2日(日)まで東京と横浜で開催される。「バイエルン放送交響楽団」日本公演の公演情報バイエルン放送交響楽団は、1949年設立とドイツの楽団の中では比較的歴史の浅いオーケストラながら、その実力は世界屈指。グラモフォン誌をはじめ、各国の専門誌がオーケストラのランキングを選出する際には、ウィーン・フィルやベルリン・フィルと並んで必ずトップ5に入るほど。2003年に現首席指揮者マリス・ヤンソンスが就任して以降、その音楽性と人気にはますます磨きがかかり、充実の一途を辿っている。この世界屈指の楽団が今秋の日本公演で挑むのが、“音楽史の金字塔”ことベートーヴェンの交響曲全9曲だ。「ベートーヴェンの音楽には“不屈の精神”が滲み出ている」と評すヤンソンスは、これまでもベートーヴェンの交響曲をレパートリーの中核に入れているが、短期の日本ツアーでこれだけ集中的に取り上げるのは非常に稀だ。しかも“第九”こと交響曲第9番のために、欧州屈指の合唱団であるバイエルン放送合唱団を帯同、ソリストも藤村実穂子らの超一流歌手陣を起用と、その意気込みたるや並々ではない。ドイツ音楽の伝統にのっとった、名匠ヤンソンスとバイエルン放送響の重厚なサウンドは、大きな感動をもたらしてくれるに違いない。バイエルン放送交響楽団 ベートーヴェン交響曲全曲演奏会は、11月26日(月)から12月1日(土)にサントリーホール(東京都)で、12月2日(日)に横浜みなとみらいホール(神奈川県)で開催。チケットの一般発売は6月2日(土)10時より。また一般発売に先駆け、チケットぴあではインターネット先行先着プリセールを6月1日(金)23時まで受付。◆バイエルン放送交響楽団 ベートーヴェン交響曲全曲演奏会指揮:マリス・ヤンソンス【第1日】11月26日(月) サントリーホール第4番・第3番「英雄」【第2日】11月27日(火) サントリーホール第1番・第2番・第5番「運命」【第3日】11月30日(金) 19:00開演サントリーホール第6番「田園」・第7番【第4日】12月1日(土) 19時開演 サントリーホール第8番・第9番「合唱付」【横浜公演】12月2日(日) 15時開演 横浜みなとみらいホール第2番・第9番「合唱付」※その他の日本公演スケジュール11月23日(金・祝) 京都コンサートホール11月24日(土) 兵庫県立芸術文化センター11月28日(水) 東京文化会館
2012年05月31日村上春樹のベストセラー小説『海辺のカフカ』を演出家・蜷川幸雄が舞台化。5月3日の初日を迎えた彩の国さいたま芸術劇場は、世界に名を轟かせる両者のタッグ、さらに映画『誰も知らない』で衝撃的デビューを果たした、主演の柳楽優弥の初舞台に期待をかける観客で賑わった。『海辺のカフカ』チケット情報脚本はアメリカ人脚本家フランク・ギャラティが手がけ、2008年にシカゴで上演したものを使用。長年の村上文学ファンであるという蜷川も「非常によくまとめられている」と感心したそうだが、それだけに原作を損なわずに演劇に昇華させることに苦心し、巨匠にして危機感を伴う挑戦だったようだ。「メタファーで綴られた繊細な村上文学の世界を、あえて真逆の具体的なビジュアルを並べることで、多面的に立ち上げていく」。稽古場でそう語っていた蜷川の賭けの答えが、初日の舞台上に鮮やかに現れていた。「世界でいちばんタフな15歳の少年になる」ためにカフカ少年(柳楽)は家を出る。旅路で出会う商店街の看板や自動販売機、公衆トイレ、夜行バスなどの猥雑なノイズを想起させるアイテムたち、またカフカが行き着く図書館の整然とした書架などが、すべて黒枠のボックスに入って舞台に現れ、流れ過ぎていく。並行して描かれる、猫と会話ができる不思議な老人・ナカタ(木場勝己)の物語も同様で、ナカタが猫と語らう公園や、謎の人物ジョニー・ウォーカーの家、トラックなどがボックスに収められ、ほとんどの芝居がその中で進行。観客は展示物をひとつひとつ眺めるようにして、現実と非現実が錯綜するカフカとナカタの不安定な旅に誘われる。またピンライトの雨のような美しい照明効果が、カフカ少年の純粋な迷いを感じさせて印象深い。翻訳台本のセリフが、ほぼ原作小説での表現に沿っている点も難関だったであろうと想像するが、キャスト陣が健闘を見せた。柳楽は初舞台のぎこちなさはあれど、その心もとない表情がカフカ少年そのもので、原作にある「砂嵐を通り過ぎる」体験をまさに実践しているひたむきさが胸を打つ。多感なカフカを惑わせながらも安堵をもたらす女性さくらを、佐藤江梨子が小気味よく演じていて、ふたりのコントラストが愉快。飄々としたたたずまいから匂い立つ木場の巧さ、図書館の責任者・佐伯を演じる田中裕子の、浮遊感のある幻想的な立ち姿に惹きつけられる。図書館司書の大島を演じる長谷川博己は、人間味の薄い中性的な透明感をただよわせて面白い存在だ。15歳の少年が傷を受け、癒され、変化する成長潭を立体化した舞台は、ささやかな胸の痛みの余韻を残す。原作小説ファンにもぜひ踏み込んでもらいたい、新たな刺激を含んだ村上ワールドだ。公演は同劇場にて5月20日(日)まで上演。その後、大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!にて6月21日(木)から24日(日)まで上演される。チケットはいずれも発売中。取材・文:上野紀子
2012年05月07日ギネス記録を打ち立てた企画に再び挑戦。ピアニストの横山幸雄が、ショパンのピアノ・ソロ作品演奏会を5月3日(木・祝)に開催する。「横山幸雄“入魂のショパン”」の公演情報2010年にショパンのピアノ・ソロ作品全166曲を約16時間で、翌2011年に全212曲を約18時間で弾き通し、「24時間でもっとも多い曲数を1人で弾いたアーティスト」のギネス記録を打ち立てた横山幸雄。今回は、ショパンが自ら作品番号を付して世に送り出した全149作品に焦点を絞り、番号順に約15時間かけて奏破する。「朝はすがすがしいし、新鮮ですね。演奏会のプログラムでは、そこにショパンの若い時の作品があらわれます。お昼にさしかかるころには若々しいが既に脚光を浴びるショパンがそこにいる…」といった風に「ショパンの人生における成熟を、私たちの1日の流れに重ねあわせて感じていただくのも面白いのではないでしょうか」と語る横山幸雄。今回のプログラムの中でも特に注目は、ショパンのピアノ協奏曲第1番・第2番のピアノ独奏バージョンだ。演奏機会が非常に稀であり、一昨年にこの楽譜の存在を知ったという彼は、自身コンサートで演奏するのは初めてで「実際の舞台でどのような演奏になるのか楽しみ」だという。「横山幸雄“入魂のショパン”」は5月3日(木・祝)朝8時より、東京オペラシティ コンサートホールで開催。チケットは発売中。●横山幸雄“入魂のショパン”日程:5月3日(木・祝) 開演:午前8時終演:午後11時(予定)会場:東京オペラシティ コンサートホール〔朝の部〕午前8時~〔昼の部〕午後0時50分~〔夕べの部〕午後3時40分~〔夜の部〕午後7時5分~
2012年05月01日東京スカイツリーオープン1週間後の5月29日(火)より3日間、すみだトリフォニーホールで「1万人の《ベートーヴェン・ザ・634》」が開催される。1万人の《ベートーヴェン・ザ・634》の公演情報自立式電波塔として高さ世界一の高さとなる、東京スカイツリーの634メートルにかけた本企画。音楽史に金字塔を打ち立てたベートーヴェンの交響曲の中から、6番「田園」、3番「英雄」、4番が日替わりで披露される。会場は、スカイツリー近郊・墨田区錦糸町の開館15周年を迎えたすみだトリフォニーホール。演奏は、同ホールのフランチャイズ・オーケストラで創立40周年の新日本フィルハーモニー交響楽団が担当する。また公演の前半には、同ホールが所有する国内最大級のパイプオルガン(ドイツ・イェームリッヒ社製・パイプ数4735本)の演奏も。公演時間は約1時間(休憩なし)で、チケット料金は各回1500円、3日連続セットが3000円と、オーケストラのコンサートにしてはかなりのお手頃価格。気軽にクラシック音楽を楽しめる趣向となっている。東京スカイツリー(R)オープン×トリフォニーホール開館15周年×新日本フィル創立40周年「1万人の《ベートーヴェン・ザ・634》」は、5月29日(火)~31日(木)にすみだトリフォニーホールで開催。チケット発売中。■東京スカイツリー(R)オープン×トリフォニーホール開館15周年×新日本フィル創立40周年1万人の《ベートーヴェン・ザ・634》・5月29日(火) 昼15:00開演夜19:30開演【曲目】[オルガン独奏]J.S.バッハ:コラール前奏曲「イエスよ、いまぞ汝御空より降り来たりて」BWV650 ほか[オーケストラ]ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調「田園」・5月30日(水) 昼15:00開演夜19:30開演【曲目】[オルガン独奏]J.エルンスト(J.S.バッハ編)/協奏曲 ト長調 BWV592より第1楽章ほか[オーケストラ]ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調「英雄」・5月31日(木) 昼15:00開演夜19:30開演【曲目】[オルガン独奏]ヴィドール:オルガン交響曲第5番より「トッカータ」ほか[オーケストラ]ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調【出演】室住素子[オルガン] 小泉和裕[指揮] 新日本フィルハーモニー交響楽団[管弦楽]
2012年04月06日文壇の鬼才・橋本治の幻の戯曲『騒音歌舞伎(ロックミュージカル)「ボクの四谷怪談」』を蜷川幸雄の演出により、東京・Bunkamuraシアターコクーンにて9月・10月に上演することが決定した。出演は佐藤隆太、小出恵介、勝地涼、栗山千明ら若手俳優から、麻実れい、勝村政信、瑳川哲朗らベテラン勢が顔を揃える。本作は、現代を生きる若者たち<七人の侍>の自分探しの青春群像劇で、作家・随筆家として多くの名作を輩出しながら、古典文学の現代訳や二次創作にも意欲的な橋本治が学生時代に書き下ろした幻の戯曲。それを蜷川が発掘、舞台化するもの。登場人物のねじれた青春が疾走する破天荒な物語は、橋本のダイナミックかつ繊細な手法で抽出された現代性と、『四谷怪談』の作者・鶴屋南北へのオマージュが見事に昇華されている。また多種多様な音楽が効果的に挿入されており、橋本の<四谷怪談>と<ミュージカル>への情熱がほとばしる超大作だ。音楽はロックの黄金時代といわれる1970年代に本格的な活動を開始した鈴木慶一が手掛ける。執筆されてから40年の間、活字にもされたことなく静かに眠り続けていた貴重な戯曲を、蜷川が若い俳優たちの体を通してどのように表現するのか期待したい。公演は9月17日(月・祝)から10月14日(日)まで同劇場にて上演。チケットは7月21日(土)より一般発売する。【キャスト】佐藤隆太小出恵介勝地涼栗山千明三浦涼介谷村美月尾上松也麻実れい勝村政信瑳川哲朗青山達三梅沢昌代市川夏江大石継太明星真由美峯村リエ新谷真弓清家栄一塚本幸男新川將人ほか
2012年03月12日蜷川幸雄が率いる若手演劇集団さいたまネクスト・シアター。その第3回公演となる『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』が、2月20日(月)から3月1日(木)まで、彩の国さいたま芸術劇場で上演される。2012年・蒼白の少年『少女たちによる「ハムレット」』公演情報稽古場では、無名の若い役者たちが衣裳や演技のアイデアを出し、そこに蜷川の情熱的な声が飛んでいた。「今ある自分の感性を信じすぎるなよ!」「他人と似ないことをしろ!」「そんなことで新しい風を持ち込めるのか!」……若者たちは途方に暮れながらも、考え、動き、また打ちのめされ、自分にしかできない表現を少しずつ探っていく。厳しい演出だが、「若い連中を矯正するつもりはないよ」と蜷川は言う。実際、昨年のオーディションでは「無表情」の若者たちをあえて選んだ。デジタルな電子機器に囲まれ、遮蔽物を通してしか他者と関われない現代への興味がそこにはある。しかし蜷川はまた、まるで若者たちを挑発して楽しむかのように言い放つ。「オレはお前たちをそこまでは肯定しないぞ!」自身、7度目の演出となる『ハムレット』については、「いつも謎が残り、取りこぼしてしまうものを感じてきた」という。今回は舞台装置にアクリル板を使い、ひんやりとした距離感を体現する。「氷の張った池の下にいる金魚を眺めるようなハムレット。報復の連鎖に荷担することを躊躇し、透明な抑圧の中に生きる姿を描きたい」。翻訳テクストは、藤原竜也が主演した2003年版と同じく河合祥一郎訳。一部カットはするものの恣意的な変更は加えない。そうしたある種の「不自由な条件」の下に他者を信頼し、その言葉を許容していくプロセスに、蜷川は演劇の可能性を見ているようだ。最大の見所は、演歌歌手・こまどり姉妹の特別出演!蜷川はおよそ40年もの長きにわたり、「生活者の目線」として、極貧生活から這い上がってきた彼女たちの存在を意識してきた。果たしてこまどり姉妹はどのように舞台に登場し、そこに若い役者たちはどう応えるのか?「3.11で、老人も若者も子供もみんな体育館に雑居する生活のるつぼが生まれた。かつての演歌にあった混沌さのようなものが、一気に露見してくる共通の土壌が今、できたんじゃないか」。世界的演出家と、無名の若者たち、そして伝説の演歌の女王による実験的『ハムレット』。予想を超えたセッションが生まれそう。チケットは発売中。取材・文:藤原ちから
2012年02月09日2010年4月9日に永眠した井上ひさしの70近い戯曲の中から8作品を、蜷川幸雄、栗山民也、鵜山仁、長塚圭史の4人が演出し、『井上ひさし生誕77フェスティバル2012』として開催されることが決定した。なお、長塚は井上戯曲初挑戦となる。『十一ぴきのネコ』チケット情報このフェスティバルは、2011年11月16日に井上ひさしが77歳の誕生日を迎えることを祝い、2012年に喜寿のフェスティバルとして開催を予定していたが、趣向を変えて“生誕77年のフェスティバル”として開催することとなった。生前、井上ひさし自身もこのフェスティバルについて「それは、大変おもしろいね」と楽しみにしていたそうで、今回、井上戯曲とつながりの深い演出家や、生前に親交のあった関係者らが協力する形での実現となる。なお、フェスティバル参加作品は以下のとおり。公演は1年を通じて上演される。・長塚圭史…『十一ぴきのネコ』紀伊國屋サザンシアター1月・鵜山 仁…『雪やこんこん』紀伊國屋サザンシアター2月、『芭蕉通夜舟』紀伊國屋サザンシアター8月・栗山民也…『闇に咲く花』紀伊國屋サザンシアター4月、『藪原検校』世田谷パブリックシアター6月、『組曲虐殺』天王洲・銀河劇場12月・蜷川幸雄…『しみじみ日本・乃木大将』彩の国さいたま芸術劇場7月、『日の浦姫物語』Bunkamuraシアターコクーン11月チケットは東京・紀伊國屋サザンシアターの『十一ぴきのネコ』が10月29日(土)より発売。上演スケジュールは2012年1月10日(火)から31日(火)まで。その他の公演は詳細が決定してからの発売。
2011年10月11日人気ミステリー作家・横山秀夫の4つの短編を、仲村トオル、岸谷五朗、玉山鉄二、渡部篤郎という4人の人気俳優をそれぞれ主演に据えて映像化した「横山秀夫サスペンス」。WOWOWで放送された本作がこのたび、DVDでリリースされ、4作品をまとめた予告編も到着した。『半落ち』、『出口のない海』、『クライマーズ・ハイ』などの映画化作品をはじめ、その著作が数多く映像化されている横山秀夫。数々の名作の中から「真相」(双葉社刊)に収録されている「18番ホール」、「他人の家」の2作と、「看守眼」(新潮者刊)に収められている「自伝」、「静かな家」をそれぞれ約1時間のドラマとして映像化した本作。「18番ホール」は、地元の村の再開発の話を聞いて村長選に立候補した男が主人公。実は彼には12年前のある秘密を隠すため、何としても当選する必要があった。当初は楽勝と思われていたが、強力な対抗馬の存在で徐々に暗雲が…。『行きずりの街』の公開を控える仲村トオルが当選のために必死で奔走する主人公に挑む。「静かな家」は「誤報」というタイトルで岸谷五朗を主演に映像化。ある地方新聞の記者が、写真展の日程を誤って報道してしまうのだが、それに端を発して謎めいた事件が…。「自伝」の主人公で、母に捨てられたトラウマを抱えて生きるライターを演じるのは『ノルウェイの森』がまもなく公開となる玉山鉄二。彼の元に家電量販店の会長の自伝執筆の依頼が。取材の初日、その会長は人を殺した過去を告白。そこから衝撃的な真実が明らかになる。「他人の家」は強盗事件で服役し、いまは妻との静かな暮らしを望みつつも前科のせいで行くあてをなくした男が、近所のがんを患った老人の申し出で、彼の養子に入り家を受け継ぐ約束をする。ここから、彼と妻は、恐るべき事件に巻き込まれることになる。渡部篤郎が再起を図る前科者の悲哀を見事に表現している。日本随一のミステリー作家の作品を原作にした4人の実力派俳優の物語が一挙に楽しめる本作。男たちの運命は――?「横山秀夫サスペンス」DVDは発売中(同時レンタル中)。※こちらの予告編映像はMOVIE GALLERYにてご覧いただけます。MOVIE GALLERY「横山秀夫サスペンス DVD-BOX」価格:4,980円(税込)発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント© 2010 WOWOW■関連作品:行きずりの街 2010年11月20日より全国にて公開© 2010「行きずりの街」製作委員会クライマーズ・ハイ 2008年7月5日より丸の内TOEI1ほか全国にて公開© 「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ■関連記事:【TIFFレポート】仲村トオル俳優デビュー25周年50度カクテル一気飲み「ファイヤー!」仲村トオル、チャン・ドンゴンとの再会に感激!『行きずりの街』韓国公開も即決定ハズレなし!「映画館大賞2010」まもなく発表中谷美紀が選ぶ「1本」は?尾野真千子インタビュー「ここで隠したら一緒になれない気がした」と“覚悟”明かす堺雅人が語る太宰、そして『人間失格』――。「近代文学と“再会”できました」
2010年11月02日