ジャーナリスト。音楽家、アーティストのインタビュー、アート評を中心に活動。女性誌で、表紙からインタビュー、ファッション、美容、書評まで担当した経験を基に、2006年から婚活サイト「エキサイト恋愛結婚」で、お悩み相談への回答コラムや婚活コラムを執筆。著書に「日本の貴婦人」(光文社)など。
大人の純愛…という言葉からどんな恋愛を思い浮かべますか。淡々と落ち着いた節度ある感情? 激しくドラマティックな官能? ワケありで他人に言えない関係? 大人の事情が絡んで複雑に交錯しているかもしれません。純愛の定義は難しいけれど、でも、決して駆け引きをしないこと、そして安全地帯に逃げ込まないのが純愛ではないでしょうか。 酸いも甘いも噛み分けられるからこそ、ピュアさの純度が高くならざるを得ない恋。せつなさで胸が締めつけられる感覚は、私たちをダイレクトに刺激してくれる キレイの源 だと思うのです。枯れるには早すぎる! 乾きがちな心と身体に潤いを行き渡らせてくれる、大人の純愛映画を3本ご紹介しましょう。 タンゴとともにほとばしる恋 ▼ 愛されるために、ここにいる 監督:ステファヌ・ブリゼ 出演:パトリック・シェネ.アンヌ・コンシニ.ジョルジュ・ウィルソン 離婚して一人暮らしをしている、人生に疲れた中年男ジャン=クロード(パトリック・シェネ)は、裁判所の司法執行官。医者に運動不足を指摘され、オフィスの窓を開けると音楽が聞こえてくる近所のタンゴ教室に通い始めます。 そこで出会ったのが、結婚を控え、ウェディングパーティーでタンゴを踊るため、レッスンに通っているフランソワーズ(アンヌ・コンシニ)。彼女の婚約者は小説の執筆に追われていて、二人はすれ違ってばかり…。 堅物で不器用なジャン=クロードが、アルゼンチンタンゴの調べとともに、フランソワーズと恋に落ちていく様子が自然で美しく、ぎこちなく踊るシーンから目が離せません。 ジャン=クロード演じるパトリックが、インタビューで「 主導権を握るのは女性です。 男は居心地の悪さを感じながらも女性について行く。自分が何を求めているかわからないこともあるのに、 女性は常に自分の感情に素直なんです 」と語っているのも興味深いものが。 一見、地味な恋愛映画ですけれど、セザール賞に主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞と3部門もノミネートされた、フランス人好みの名作。やるせない哀愁と孤独、そして、シンプルな感情が心を打つ純愛映画。心の水脈がヒタヒタとみなぎってくるでしょう。 女性作家ジョルジュ・サンドと年下の詩人ミュッセの恋愛 ▼ 年下の人 監督:ディアーヌ・キュリス 出演:ジュリエット・ビノシュ, ブノワ・マジメル, ステファノ・ディオニジ, ロバン・レヌッチ, カリン・ヴィアール 19世紀、ロマン主義花咲くフランス。男尊女卑だった時代に、奔放で恋多き女性作家ジョルジュ・サンド(ジュリエット・ビノシュ)と詩人アルフレッド・ミュッセ(ブノワ・マジメル)の激しい愛の葛藤が描かれます。 1999年の作品で、当時25歳のブノワ・マジメルがセクシーで美しい。役柄では6歳年上、実際は10歳年上のジュリエット・ビノシュと、この共演がもとで結婚するのですから、いかにドラマティックな映画かわかるはず。 ディアーヌ・キュリス監督は、「私はジョルジュ・サンドを通して、すべての 自由な女性を讃えたかった 。ある日、『もうたくさんよ!』と言って立ち上がることのできるすべての女性を」と語っています。クリスチャン・ラクロワの衣装も美しくゴージャスで圧巻。文学好きでなくとも愉しめる、現代にも通じるせつない恋をぜひ堪能してください。 キレッキレの純愛のせつなさに酔いしれる ▼灯台守の恋 監督:フィリップ・リオレ 出演:サンドリーヌ・ボネール, フィリップ・トレトン, グレゴリ・デランジェール “世界の果て”と呼ばれるブルターニュの小さい島。そこで生まれ育ったマベは、灯台守の夫イヴォンと暮らしていますが、そこにアルジェリア帰還兵のアントワーヌが、新人の灯台守として赴任してきて…。 最初の視線で、何かを感じ合う二人。閉鎖的な過疎の村という環境と、荒れ果てた海の中に立つ灯台という絶景なロケーションの中、絡み合う視線だけで描かれていく 禁断の恋 が見事です。 マベを演じるサンドリーヌ・ボネールは、派手な美人ではないのに、女の人っていいなあ、と同性にも感じさせる魅力で惹き込まれます。穏やかだけれど何かを秘めているアントワーヌとの恋が夫に知られてしまい…。 嵐の夜、二人一組で灯台守をすることになったアントワーヌとイヴォン、荒れ狂う波に飲まれそうになるアントワーヌを、イヴォンは助けるのか? ドキドキが止まらない、これぞまさしく大人の純愛! お薦めです。 この3本に共通するのは、恋する視線の清冽さ。視線が語る純愛は、大人度が高くてせつないです。恋していてもいなくても、濃密で繊細な感覚が美意識を研ぎ澄ませてくれる映画たちで、感性の潤い美人になりましょう。
2015年07月23日長い間、フラメンコやサルサ、タンゴなどラテンの音楽やダンスは、日本人には本来向かないんじゃないか? という偏見を持っていました。生々し過ぎる! というのがその理由です。しかし周囲には、休職してスペインにフラメンコ留学したり、サルサやタンゴを習う友人がいつの間にか増えたりして、気がついたら違和感ナシ! もともと聴くのは好きだったのですが、今では夏の熱い風を感じると、なくてはいられない身体に…。 情熱的なだけでなく哀愁が漂い、エキゾティックな雰囲気を味わえるラテン音楽は、実に魅力的です。中でも、19世紀半ば、アルゼンチンのブエノスアイレスを中心に生まれたタンゴミュージックは、“聴かず嫌い”でいるにはもったいない美しさ。ラテン音楽を、初めて聴く方にも楽しんでいただける音源を3枚、ご紹介しましょう。 タンゴの王道、カルロス・ディ・サルリの哀愁が胸に染みる 20世紀半ば、ブエノスアイレスで最高の人気を誇ったタンゴ六重奏団を率いるマエストロでピアニスト、 カルロス・ディ・サルリ のベストアルバムがこれ。1曲目の「エル・チョクロ(トウモロコシという意味)」は、タンゴ界初期の大物、アンヘル・ビジョルドが作曲したスタンダードナンバーですが、数ある演奏の中でも、ディ・サルリは最高の名演といわれています。 私がディ・サルリを知ったのは、実は「愛されるために、ここにいる」というフランス映画で使われていたから。それも単なるBGMではなく、パリの街中にあるタンゴ教室のレッスンで流れるという設定で。タンゴという言葉から想像される華やかさはなく、ごく普通の男女が仕事帰りに習いに通うような地味なシーンでした。だけど、たまらなくせつない。それ以来、タンゴは私を離してくれません。ぜひ聴いてみてほしい1枚です。 ゴタン・プロジェクトならクラブ気分でタンゴを 本格的なタンゴもいいけれど、もっとカジュアルに聴ける今っぽいタンゴも聴いてみたい、という方にぴったりなのが、タンゴとエレクトロニカを融合したパリのユニット、 ゴタン・プロジェクト 。タンゴの情熱と哀愁はそのままに、大人が集うクラブで流れているようなシックな佇まいがクールで、BGMとしてずっと流していても飽きません。 彼らを最初に知ったのは、パリにあるお洒落なデザインホテルの草分け「ホテルコスト」をイメージしたコンピレーションシリーズ。パリ出身のDJステファン・ポンポニャックが選曲し、2000年代に一世を風靡しました。官能的な香りが漂う薄暗い階段を下りていくと情事に巻き込まれてしまいそうな…そんな予感がするカッコいいタンゴ。お薦めです。 ピアソラを演奏するクレーメルの詩情溢れるモダンなタンゴ 20世紀後半、タンゴに新たな息吹を与えて“タンゴの革命児”“タンゴの破壊者”とまで呼ばれた、アルゼンチンの作曲家でバンドネオン奏者、 アストル・ピアソラ 。彼の斬新でエッジィな音楽は、サントリーのCMでチェリストのヨーヨー・マが演奏した「リベルタンゴ」はじめ、よく使われていますから、きっとどこかで耳にしたことがあるはず。 こちらは、世界的ヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルが演奏するピアソラ。イタリア移民三世の子で、移住を繰り返し、どこにいても 孤独とノスタルジー と背中合わせだったであろうピアソラの刹那的なパッションを、ラトビア・リガ生まれのクレーメルは、亡命者に許される音楽という希少な所有物として、共感していたのかもしれません。「鮫」という曲で鳥肌が立ちました。心をワシ掴みされること間違いなしの1枚です。 東京で唯一、アルゼンチンタンゴのライブが定期的に行われ、世界的な音楽家も演奏に訪れるタンゴバー、雑司ヶ谷の 『エル・チョクロ』 のオーナー伊藤修作さんによると、「タンゴの魅力は、上質な大衆音楽ということ。ピアソラ以降、若いファンも増えています。ぜひ一度聴いてみてください。タンゴの素晴らしさの虜になりますよ」とのこと。この夏、あなたの耳をタンゴデビューさせてみませんか? ・ カルロス・ディ・サルリ「ベストセレクション」 ・ ゴタン・プロジェクト「ラ・レヴァンチャ・デル・タンゴ」 ・ ギドン・クレーメル「ピアソラへのオマージュ」 ・ 雑司ヶ谷タンゴバー『エル・チョクロ』
2015年07月16日そろそろ夏休みが視野に入ってきましたね。ヴァカンスといえば旅! 旅には常に憧れがありますが、ただの観光旅行ではない、アラフォーだからこそ愉しめる、一癖も二癖もある旅にまつわる映画で、一足早いヴァカンスを体験してみませんか? 旅先では、どこに宿泊するかが重要な要素。大人だから味わえるホテルライフの魅力は、私たちを非日常へと誘ってくれるはず。今回は、「ホテル」がキーワードの映画3本をご紹介しましょう。それでは、行ってらっしゃい! Bon Voyage♪ 世界のラグジュアリーホテルを満喫 ▼はじまりは五つ星ホテルから 監督:マリア・ソーレ・トニャッツィ 出演: マルゲリータ・ブイ、ステファノ・アコルシ、レスリー・マンヴィル 40歳、独身。職業は超高級ホテルの覆面調査員。仕事は5つ星、でも私生活は1つ星…!?と紹介される主人公は、ローマ在住のアラフォーど真ん中、イレーネ。世界に名だたる5つ星ホテルが、星の数にふさわしいサービスを提供しているかどうを調査するため、彼女が実際に宿泊して世界中を巡るという、そこだけ聞くと夢のようなストーリーです。 そこに、彼女が独身でいることを心配する妹で、二人の娘を持つシルヴィア、元婚約者だけれど今は親友化していて、若い女性と“できちゃった婚”しそうなアンドレア、旅先での出会いと別れなどが重なり、自分の生き方を模索しながらドラマティックに物語が展開していきます。 世界80ヶ国、430軒以上のホテルが加盟するザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールドの協力のもと、フランスの オテル・ド・クリヨン 、イタリアの フォンテヴェルデ・タスカン・リゾート&スパ 、スイスの グシュタード・パレス 、モロッコのパレ・マラケシュなど、実在ホテルでのロケが眼福です。ホテルの従業員に “ミステリーゲスト” と畏れられるホテル調査員の“秘密のチェック10項目”に従って、映画を観るのも一興かも。 魅惑のインドで繰り広げられるドラマと、心に響く言葉たち ▼マリーゴールドホテルで会いましょう 監督: ジョン・マッデン 出演:ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン イギリス人の熟年男女7人が、インドの豪華リゾートホテルで魅惑の日々を…という謳い文句に惹かれて来てみたら、将来、豪華になる“予定”の個室に扉もないホテルだった…という地味~な設定なのですが、これが予想を裏切るおもしろさ! インドの異文化の渦に飛び込んで、違和感からすぐイギリスに帰りたいと嘆く人、あちこちを訪れて現地に溶け込もうとする人、インドに特別な思いを持つ人など、7人の反応は様々。これって、私たちの普段の生活にも当てはまりませんか? そして、初めての長旅だけれど「何事もチャレンジ! 何事も楽しまなければ!」という姿勢を持つ主人公イヴリンを、オスカー女優の ジュディ・デンチ が好演。悲喜こもごもが織り成されます。 それぞれのドラマと、インドの光、色彩、動物、すさまじい数の人々、子供たちの笑顔などが交じり合い、 「“生”を権利ではなく、恩恵と思うインドが心に響いた」 と語る登場人物の言葉がそれこそ心に響いたり、同じく 「リスクを嫌って冒険を避ける者は何もせず、何も得ない」 という言葉に考えさせられたり。インドは、“インドに呼ばれた人しか行けない”…と聞いたことがありますが、この映画を観て、初めて行ってみたくなりました。 ミステリーに巻き込まれる“伝説のコンシェルジュ” ▼グランド・ブダペスト・ホテル 監督:ウェス・アンダーソン 出演: レイフ・ファインズ、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジュード・ロウ ヨーロッパ最高峰と謳われたグランド・ブタペスト・ホテルの“伝説のコンシェルジュ”グスタフ・Hが主人公。高齢マダムの夜のお相手までこなすプロフェッショナルですが、ある日、彼の長年のお得意様、マダムDが殺されたことから事件に巻き込まれて…。 ヨーロッパ大陸を逃避行しながら真犯人を探す、というミステリータッチのストーリー。愛弟子のベルボーイ、ゼロの協力と、コンシェルジュの 秘密結社 ネットワークを駆使するグスタフ。危機一髪のときに電話で助けを求めると、世界の高級ホテルのコンシェルジュたちがどんなVIPと応対中でも、彼の電話には出るシーンにワクワクしました。 美しい風景に囲まれた優雅なホテルのインテリアとゴージャスな衣装にうっとり。主演のレイフ・ファインズはじめ、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジュード・ロウ、ティルダ・スウィントンら豪華スターが勢揃い。ウェス・アンダーソン監督らしいポップなスパイスも効いて、見どころ満載。まさに5つ星の ミステリーコメディ です。 この3本で、忘れられない旅のホテルをぜひ堪能してください。 ・ 「はじまりは五つ星ホテルから」 ・ 「マリーゴールドホテルで会いましょう」 ・ 「グランド・プダペスト・ホテル」
2015年06月29日毎日が変わり映えのしない生活のように思えてきたら、パリが舞台の映画を観て、気分をリフレッシュさせませんか? 美しい街並みもさることながら、世界有数のお洒落都市なのに、 常に自分らしくあろうとする 自然体な人々が魅力です。ウィットに富んだ会話や、ちょっとしたスカーフの巻き方やコートの着こなしのこなれていることといったら! 何気ないシーンを観ているだけで世界観が広がります。相手の自由を尊重し、距離感の取り方が大人なのに、自分の意見も素直に主張し、それが、時には相手の人生に大きく食い込むことも。そんな生き生きした会話の妙が楽しめる映画を3本、ご紹介しましょう。 美しく由緒あるパリの街並みに、旅する気分に! ▼モンテーニュ通りのカフェ 監督:ダニエル・トンプソン 出演:ヴァレリー・ルメルシエ, セシル・ド・フランス, アルベール・デュポンテル パリ8区。どこからでもエッフェル塔が見えるモンテーニュ通りは、劇場、高級ホテルのプラザ・アテネ、有名メゾンなどがひしめくスノッブな地区。その通り沿いの由緒あるカフェで、地方からパリに憧れてやってきたジェシカがギャルソンとして働き始めます。 カフェに集うのはクラシックに疲れたピアニスト、資産すべてをオークションにかけようとしている美術コレクター、自分のキャリアにあきたらない女優など、多彩な面々。彼らの人生が交錯する中、ジェシカの素直なキャラと笑顔がみんなを和ませるのですが…。 彼女が客と交わす会話から垣間見る “見栄を張らないピュアさ” が印象的です。美術コレクターからブランクーシの有名な彫刻「接吻」を見せられて、「素敵ね。見てると恋したくなる」、ピアニストにミント水を運んだときに「コンサートには行かないの?」と聞かれて、「教養がないからクラシックはわからないの」と答えるジェシカの素朴な佇まい。演じるセシール・ド・フランスのボーイッシュな魅力に、きっと元気をもらえます。 “飾らない”トレンチコートの着こなしを学ぶ ▼僕の妻はシャルロット・ゲンズブール 監督:イヴァン・アタル 出演:シャルロット・ゲンズブール, イヴァン・アタル, テレンス・スタンプ 監督はシャルロットの実の夫、イヴァン・アタル。彼がスポーツ記者役を演じ、女優を妻にしてしまったヤキモチ焼きの夫の悩みを描きます。両親がジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールという生まれながらのセレブで、どこにいてもサイン責めに合う妻。撮影現場を訪ねれば濃厚なラブシーンや全裸シーンが…。リアル過ぎてちょっと心配になるストーリー。気取らず自然に振る舞う1971年生まれのシャルロットがカッコいい! きちんとドレスアップしてヘアメイクも決めて、ネイルもばっちり…みたいな日米の女優さんを見慣れていると、シャルロットの あまりの飾らなさ に驚くかも。とはいえ、わたしにとっては、彼女はファッションアイコンです。かつて映画を観終わった後、彼女のトレンチコートの着こなしにインスパイアされ、その足でバーバリーに飛び込みました。“いかにもイイ女風”じゃない、ユル~い着こなしが素敵! ぜひご確認ください。 フランス人らしさが際立つ小粋な映画。パリジェンヌの神髄がわかります。ブラッド・メルドーの音楽も素敵なので、サントラもお薦めです。 大人の男女の会話にドキドキ ▼シェフと素顔と、おいしい時間 監督:ダニエル・トンプソン 出演:ジュリエット・ビノシュ, ジャン・レノ, セルジ・ロペス 舞台は、ストで飛行機全便が飛ばなくなったシャルル・ド・ゴール空港。DV彼氏から逃げてきたローズ(ジュリエット・ビノシュ)は、トイレに携帯電話を落としてしまうというアクシデントがきっかけで、フィリップ(ジャン・レノ)に出会います。 化粧が濃く感情的なタイプのローズは、繊細で不器用なフィリップの好みとは正反対。追いかけてきたDV彼氏から助けてあげた行きがかり上、二人は空港近くのホテルで一夜を過ごすはめに…。 ルームサービスでディナー中、出会って数時間とは思えない、ドキドキするような男女の会話が繰り広げられます。 ずっと前から別れを意識し、DV彼氏に置き手紙をして出てきたと話すローズに「じゃあ、その間、もう愛してない男と感じたフリをしていたの?」と思わず聞いてしまうフィリップ。「本当のことを言うわ。私はとても長い間、感じたフリをしてたのよ。まだ愛してる男と…」と応じるローズ。 その後、オリーブオイルが顔にかかり、バスルームで素顔になって戻ってきたローズを見たときの、フィリップの顔は見逃せません。ガーリーなスッピンの顔は、フィリップのもろ“タイプ”だったのですから! そこから展開する 大人のラブストーリー が必見。フランスを代表する國際的トップスター二人の初共演という触れ込み以上に、心が深く満たされるハッピーエンドは見事です。 たったワンシーンで、人生を味わい深いものにしてくれる映画たち。パリが舞台のこの3本は、迷いがちな私たちの感性と美意識をキレイに磨いて癒してくれるでしょう。 ・ 「モンテーニュ通りのカフェ」 ・ 「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」 ・ 「シェフと素顔と、おいしい時間」
2015年06月25日室内楽というとクラシックを思い浮かべるかもしれませんが、それだけではありません。オーケストラと違って、小さい編成によるピアノや管弦楽のアンサンブルは、まさに小部屋で聴くのにふさわしい親密な肌触りで、私たちの心のひだに優しく分け入ってきます。 あわただしかった1日を一瞬にして心潤し、いい香りが漂ってきそうなひとときに変えてみませんか? そんな極上の時間を演出してくれる、選りすぐりのジャジィな室内楽をご紹介しましょう。 ・「バー・ブエノスアイレス ~ソワレ~」 ・ チリー・ゴンザレスの「チェンバース」 ・ 中島ノブユキ「散りゆく花」 「バー・ブエノスアイレス ~ソワレ~」で心底リラックス アルゼンチンの天才ピアニストで作曲家、カルロス・アギーレの繊細な楽曲につながる、世界の様々な音楽を集めた人気のコンピレーション・シリーズ4作目。コンセプトはまさしく、 “エヴァンスと室内楽” で、偉大なジャズ・ピアニスト、 ビル・エヴァンス の作品がフィーチャーされています。 とはいっても、単なる寄せ集めやカバーではなく、エヴァンスのピアノと管弦楽器とのマッチングの良さ、つまり、室内楽的な魅力に焦点を当てた作品で編まれており、エヴァンスならではの繊細さがクローズアップ。さらにイマジネーションが広がります。 特筆すべきは、ギタリストのパット・メセニーとピアニストのライル・メイズが、エヴァンスに捧げて作曲した 「September Fifteenth」 。彼の命日である9月15日がタイトルになっていて、 カルロス・アギーレ と、世界一美しいアルペジオを奏でるといわれるギタリスト、 キケ・シネシ が、このアルバムのために共演しています。丁寧な愛撫のようにデリカシーのある演奏に、心身がほぐれて美酒に酔いたくなるかもしれません。 チリー・ゴンザレスの「チェンバース」は まさに芳醇な室内楽の味わい カナダ出身のピアニスト、 チリー・ゴンザレス の前作「ソロ・ピアノⅡ」を愛聴し、ジャズとクラシックの境界を自在に行き来する独創性に惹かれてきましたが、3年ぶりの新作は、その名も 「チェンバース」 。まさに 「Chambers(室内)」 という意味をあわせ持つタイトルです。 ピアノで自分自身の “声” を表現し尽くせる彼が、弦楽器でも同じように 歌う という試みで、ピアノと弦楽四重奏、つまりピアノ五重奏曲という編成で書いたのがこのアルバム。クラシック色が濃さを増してはいるものの、バッハからヒップホップまでを縦横無尽にエンタテインしながら、彼ならではの色彩感豊かな室内楽作品集を織り上げました。 堅苦しいからクラシックは苦手…という方でも、そこにジャジィな雰囲気が漂うと、途端にお酒が進みませんか? 緻密なのに遊び心と抜け感が素晴らしいチリーのセンスは、いつ聴いてもあなたを飽きさせず、満足感を与えてくれることでしょう。 中島ノブユキ「散りゆく花」の美しさに魂が震える極上のひととき パリと東京で作曲を学び、NHKの大河ドラマ 「八重の桜」 の音楽担当、フランス女優で歌手、 ジェーン・バーキン のワールドツアーの音楽監督、ピアニストを務めるなど、国際的に活躍する 中島ノブユキさん の最新アルバム 「散りゆく花」 が、6月3日に発売されます。 彼のピアノに、藤本一馬さんのギター、北村聡さんのバンドネオン、金子飛鳥さんのヴァイオリンなどが加わり、重奏的で美しく独特なニュアンスを持つ中島ワールドが展開。“新しい室内楽”と自らの音楽を語る中島さんに、室内楽についての思いを伺ってみました。 「室内楽って派手さがないというか、顧みられないところがあるでしょう? でも、デビューアルバムの『エテパルマ ~夏の印象~』以来、“新しい室内楽”という言い方をしています。小さなアンサンブルとして、個々の演奏家の背景がにじみ出るような、それらが織りなされることによって響きを構築するのが、室内楽ではないかと思うのです」と中島さん。 せつないタイトル曲やバンドネオンとの「エスペヒスモ ~蜃気楼~」はじめ、斬新なアンサンブルの妙に心が欣喜雀躍。映像が浮かびくる詩情に魂が震えました。日々を美しく送るのに欠かせない、自分の人生にご褒美で贈りたいアルバム。「散りゆく花」コンサートツアーも全国で開催されるので、ぜひサイトもチェックしてみてください。 ・ 「バー・ブエノスアイレス ~ソワレ~」 ・ 「チェンバース」 ・ 「散りゆく花」 (2015年6月3日 リリース) 中島ノブユキコンサートツアー
2015年06月03日4月はやる気満々だったのに、5月を迎えたら、何となく気持ちが晴れない…ということはありませんか? あまりに不調であれば専門家に相談すべきですが、ちょっと落ち込んでいるくらいなら、気分をスカッと爽快にしてくれるDVDを観て、モチベーションをアゲましょう。 “よっしゃ~っ!”っと弾みがつけばしめたもの。お薦めの映画3本をご紹介します。 あり得ない展開に快哉を叫びっぱなし ▼最強のふたり 監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 出演:オマール・シー、フランソワ・クリュゼ 2012年公開のフランス映画ですが、“フランス映画界 歴代1位”という呼び声を聞かなければ、普段なら観ないかもしれないマッチョな邦題。原題はというと「intouchables」で、直訳だと「触れることのできないものたち」という意味です。 舞台はパリ。不慮の事故で首から下がマヒした、大富豪フィリップの介護者選びの面接に、スラム街出身の黒人青年ドリスが、生活保護の申請に必要な不採用通知を目当てに訪れるところからスタートします。 おためごかしを一切言わないドリスに新鮮味を感じたフィリップは、彼を採用。そこから展開する、 背景も趣味も真逆の二人が織りなす破天荒な冒険譚 のおもしろいこと! 最初は衝突ばかりだった二人が、次第に共犯者意識を深め、驚異のカーチェイスやパラグライダー体験も。 「彼だけは私を対等に扱う」 というフィリップの言葉が刺さります。 おすすめは、フィリップが招いたオーケストラ演奏の後に、ドリスがアース・ウィンド・アンド・ファイアーをかけてダンスを見せつけるシーン。ドリス役のオマール・シーは、最初はテレていたのにいざとなったら体が自然に動いて、奇跡的なダンスシーンをワンテイクで決めたそう。 実話 がもとになっているというのが驚きの、元気になれる1本です。 不自然なほど多発するホームラン数にスカッ! ▼ナチュラル 監督:バリー・レヴィンソン 出演:ロバート・レッドフォード、ロバート・デュバル 野球に特に関心もなく、スポーツオンチのわたしが唯一、ハマッたスポーツ映画が『ナチュラル』です。名優 ロバート・レッドフォード が若い頃、といっても40代前半、訳あって30代半ばでメジャーリーガーになる夢を叶え、“伝説の人”となった野球選手を演じています。アメリカの作家バーナード・マラマッドの小説を映画化した、1984年の作品。 天才野球少年だったロイは20歳になり、愛する女性アイリスにしばしの別れを告げた後、プロ球団のテストに向かう途中、とんでもない事件に巻き込まれます。10数年のブランクを経て、ようやくスカウトに見いだされ、最下位の球団に入団した彼は、とにかくホームランを打って打って打ちまくり、球団はトップに。ところが、なぜか女性の色香に迷うと打てなくなり、彼本来のナチュラルな生き方に戻ると、またホームラン…という展開。 どこか神話めいたファンタジーを感じながらも、 投げる球全部をホームランで打ち返す という、文句なしにスカッとする映像から目が離せません。アイリスとの再会、最後のバッターボックスの奇跡…レッドフォードゆえの誠実さ、真摯さがリアリティをもたらす感動映画です。 武闘派シャーロックのカッコよさに脱帽 ▼シャーロック・ホームズ シャドウゲーム 監督:ガイ・リッチー 出演: ロバート・ダウニー・Jr.、ジュード・ロウ ロバート・ダウニーJr.扮するホームズ、その相棒ワトソンはジュード・ロウと、イケメン二人が登場する『シャーロック・ホームズ』(2009年)。『シャドウゲーム』(2011年)はその2作目となります。 わたしはもともとコナン・ドイルの原作への思いが深く、「イマドキのチャラい映画だったら許さないぞ」みたいな色眼鏡で観たのですが、とんでもない! すっかりファンになってしまいました。1作目を観ていなくても問題なく楽しめます。 世界各地で多発する連続爆破事件を追う、天才的名探偵ホームズは、“もう一人の天才”宿敵モリアーティ教授との決戦へ。書斎派探偵のイメージが強かったホームズが、 武闘派のやんちゃさ が強調され、ダイナミックな展開は007も真っ青のカッコよさ。 ガイ・リッチー監督のセンスに度肝を抜かれたのは、銃口から向こう側を覗くなど、細部からズームする独特の映像美。そして、今まで見たことがないエッジの効いた森の中の銃撃シーン。全編をエキゾティックに彩るロマ(ジブシー)風の魅惑的な音楽。新感覚アクション・エンタテインメントと謳われるのも納得です。気分がアガること間違いなし! もちろんこの3本、五月病でない方もぜひご覧くださいね。 ・ 「最強のふたり」 ・ 「ナチュラル」 ・ 「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」
2015年05月21日肩ヒジ張らずに読めて、爽快な読後感を味わえる秀逸なエッセイに出会った時の歓びは、ささくれた心を、洒脱なユーモアで包み込んでくれる親友を得たようなもの。そのおもしろさに快哉を叫びながら、大きく深呼吸できるような気分になれるから不思議です。 著者がアラフォー、あるいは、アラフォーの頃に書かれたエッセイ集で、クスリと笑えるのにジンとくる、味わい深い珠玉の3冊をご紹介しましょう。 類まれなるセンス。片桐はいりさんの文才にハマる! ▼『わたしのマトカ』 片桐はいり(幻冬舎文庫) 片桐はいりさんという俳優をもともと好きだったのですが、2006年に出版された彼女の初エッセイ集 「わたしのマトカ」 を読んだとき、あまりのおもしろさと類まれな文章センスにぶっ飛びました。2005年、映画「かもめ食堂」の撮影のため、フィンランドに1カ月間滞在したことをきっかけに、書き下ろされたエッセイが本書。マトカは、フィンランド語で 「旅」 という意味だそうです。 撮影の待ち時間、フィンランド人の若手俳優と「ヤッチマイナ!」と「キル・ビル」ごっこをしたり、フィンランドの鬼才、アキ・カウリスマキ監督映画の常連俳優との共演に胸ときめかせたり、サルミアッキという甘塩っぱいゴムみたいなお菓子に驚いたり、「大根おろしが食べたい」と発作のように思ったり、フィンランドの魅力のみならず、片桐さんの役者人生と世界各地への旅がレイヤーで描かれ、息もつかせぬおもしろさ。 映画好き、芝居好きという芳醇な愛情が根底にピシッと1本通っており、生き方にも感銘を受けずにおれません。この後に出た『グアテマラの弟』(幻冬舎)、『もぎりよ今夜も有難う』(キネマ旬報社)も間違いなくおもしろいので、心から一読をお勧めします。 電車で読んだら危険!? 報復絶倒のエッセイ 『ワタシは最高にツイている』 小林聡美(幻冬舎文庫) 女優の小林聡美さんが、30代から40代にかけての3年間に書いたエッセイがまとめられ、2007年に出版されたもの。「かもめ食堂」つながりというわけではないのですが、主演された映画の撮影期間はこの3年間に含まれるので、ヘルシンキ滞在中のエッセイも2編。もちろん映画を観ていない人にも楽しめる内容で、笑いなしには読めません。 長期滞在者向けのアパート型ホテルで、鉢植えの花を窓辺に飾って愛で、ささやかな幸せを満喫しながらも、控えめそうな国民性なのになぜか目立つ若者の尻出し率(パンツの位置が下過ぎ)を憂う。また、フィンランドと日本のスタッフが双方の言葉を覚えて、互いに「ホンバンイキマ~ス」「ウスコマトンタ(信じられない)!」などとやりとりする現場の雰囲気を活写。それ以外にも、3年分のリアルアラフォー感が味わえます。 かつて夫であった三谷幸喜さんが、原稿が書けなくて七転八倒し、リビングルームで気分転換に彼女の本を手に取ったら、おもしろ過ぎてかえって自信をなくした…というエピソードが残っているくらいの名文家。同じく幻冬舎から出ている『マダム小林の優雅な生活』『マダムだもの』なども、報復絶倒なので電車の中では読まないほうがいいかもしれません。 一切ハンパなし! 妄想炸裂の爆笑エッセイ 『お友だちからお願いします』 三浦しをん(大和書房) 作家の三浦しをんさんは、もちろん小説も素晴らしいですが、エッセイの絶品さは他の追随を許さないものが。脳内で妄想が炸裂し、血中濃度の臨界点を振り切った描写は、一切ハンパなし。とはいえ、これは、様々な新聞や雑誌に書かれたものが1冊にまとめられ、2012年に刊行されたエッセイ集。帯に「よそゆき仕様・自社比」とある通り、初心者の方にも非常に入りやすく、食わず嫌いの方にも読みやすい内容となっています。 「私はふだん、『アホ』としか言いようのないエッセイを書いているのだが、本書においてはちがう!(自社比) よそゆき仕様である!(あくまで自社比)」という前書きから始まり、個々のタイトルからして、「オヤジギャグのマナー」「加齢の初心者」「ヴィゴ・モーテンセンと妄想旅行」「町田も東京だったんだ」など、妙にそそられるものばかり。 また、後書きで「いかがでしたでしょうか。お友だち以上になっていただけそうですか? 『なれるわけないだろ、ごるぁ!』という怒声が聞こえてくるようだ。精一杯よそゆきの姿勢を装ってみたつもりなのだが、ほうぼうで本性が表れてしまってるもんなあ……。今回読み返して、自分のあまりのダメぶりに、『お友だちですらご免です』と思った」としをんさん。いえいえ、もうお友だちですってば。よそゆきじゃないほうをお望みなら、新潮文庫の『しをんのしおり』『人生激場』『乙女なげやり』をぜひ! この3冊は、すべて“旅”が通底しています。それも魅力のひとつかもしれません。笑ったりジワッとしたりスカッとしたり…脳内の果てしない旅をどうぞお楽しみください。 ・ 『わたしのマトカ』(幻冬舎文庫) 片桐はいり ・ 『ワタシは最高にツイている』(幻冬舎文庫) 小林聡美 ・ 『お友だちからお願いします』(大和書房) 三浦しをん
2015年05月18日友人との飲み会、たまには自宅に招いてまったりと楽しむのもいいですよね。みんなの顔や好みを思い浮かべながら作る料理、会話が弾むように選ぶお酒…ここからもう、パーティー気分が盛り上がってきます。ササッと掃除をして花を飾ったら集まるメンバーに合わせてBGM選び。これがまた楽しいのです! ホームパーティーの醍醐味のひとつではないでしょうか。 わたしの場合、旅から帰ってきた人がいるならば、 旅先の思い出 に重なるように。ハードワークにあえいでいる人には 癒し になるように。ラブラブの友人が来るならば 小粋なラブソング を。…こんなふうにイメージをして事前に仕込んでおくのですが、実際はその時の話題や雰囲気で臨機応変、変幻自在に。そんな中でも、必ず楽しい雰囲気を演出してくれて、かなりの頻度でBGMとしてかけているイチオシCDを3枚ご紹介しましょう。 ビョーク「グリン・グロ」で楽しいパーティーの始まり、始まり! 昨年、最愛のパートナーだったアーティストのマシュー・バーニーと離婚。その苦悩を歌ったハートブレイクアルバム「ヴァルニキュラ」を発表したばかりの ビョーク ですが、これは4半世紀前、母国アイスランドでリリースされた、彼女の 幻のジャズアルバム 。 ピアノ、ドラム、ベースのシンプルなトリオをバックに、子供が童歌を歌うみたいに母国語で楽しげに歌うビョークの天真爛漫な歌声は、大人の人間関係の煩わしさから逃れて、プリミティブな 柔らかい気持ち に戻してくれることでしょう。このCDを聴くたびに「女性を常にこういう状態にさせてくれる男性こそ、本当のパートナーでは?」と思ってしまいます。 ジャズとはいえ、人が集まり始めたざわめきに呼応する、こなれたオフビート感が洒落ています。思わずホッとくつろいで、おしゃべりに花が咲くこと間違いありません。 ジャンゴ・ラインハルト「スウィンギン・ウィズ・ジャンゴ」で宴たけなわ♪ 没後62年を経た今も、愛され続ける天才ギタリストの ジャンゴ・ラインハルト 。マヌーシュと呼ばれる、フランス語圏に住むロマ(ジプシー)出身の彼は、戦前のパリで、ヴァイオリン奏者のステファン・グラッペリと組んだフランス・ホット・ジャズ五重奏団で活躍。ジャズ史に刻印を残す、 “ヨーロッパ初の偉大なジャズミュージシャン” なのです。 タイトル通り、スウィングする自由闊達な雰囲気と楽しげなメロディには、ワクワクさせられっぱなし。宴もたけなわな時、ジャンゴの名演をかけると空気感が鮮やかにリフレッシュされ、なぜか 会話がますます盛り上がる から不思議です。ぜひ、お試しを! サラ・ヴォーン「クレイジー・アンド・ミクスト・アップ」でさらに濃いひととき 終電の人には、そろそろアテンションしないといけないな…と思ったら、逆に、このCDをかけるとよいかもしれません。 サラ・ヴォーン の酸いも甘いもかみ分けた、成熟したジャジーな歌声を耳にすると、華やかなのにすごく 気分が落ち着いて くるようです。みんながそれまで以上に本音で語り始めるのを、これまで何度耳にしてきたことでしょう。わたしは、そういう会話をキッチンで洩れ聞いているのが大好きです。たいていは会話に加われと言われてしまうのですが。 ノリにのった自信たっぷりの天衣無縫な歌い方が圧巻で、見事なジャズシンガーというより、彼女が歌いたいように気持ちに忠実に歌ったらこうなった…という感じ。パーティーならずとも、 自分を鼓舞したい 時に聴くと、感性が柔軟になるのを感じるはず。 必ずしもこの順番で聴かなくてもかまいません。友人を招いた際、BGMが効果的だと 親密度 がさらに深まるもの。そんな思い出深い、濃いひとときを音楽で演出してみてはいかがでしょう?
2015年05月15日パーソナルスタイリスト という職業をご存じですか? 撮影のために服や小物を用意するだけでなく、その人の生き方にまで深くかかわり、その人本来の魅力が最も輝く服装を、 本人自ら選べるように導く 仕事だそうです。 政近準子 さんは、日本でその第一人者です。 各界の女性管理職やビジネスエリート始め、イタリアでは貴族のスタイリングを担当するなど特異な経験をお持ちですが、驚くべきは、この15年間で2万人近い一般女性の服装を変え、ひいては、人生をも変えたというデータに裏打ちされたキャリアでしょう。 そんな政近さんに、 服にも人生にも迷いがちなアラフォー女性へのアドバイス を伺いました。 美魔女さんたちが辛かったと、泣きながら駆け込んで来る 実際、お会いしたらファッションチェックされちゃうのかな? とドキドキでしたがとんでもない! 慈愛に満ちて頼りがいのある美しい政近さんに、すっかり惹き込まれてしまいました。 スタイリスト養成学校も経営する彼女のところには、20年以上のキャリアを捨ててまで、弟子入りしてくる40代の女性が多いとか。「このままで本当にいいのか? 人生の後半戦、自分を活かしたいなら清水の舞台から飛び降りるのか、現状維持か」と。 そんな命がけで…と思いますが、 人生は服選びそのもの 、と政近さん。年齢を重ねることを怖れるアラフォー女性に対し、まず 「年を取ることを受け入れるのが大事」 と明言します。 「若さにしがみつくのは、若くてキレイだった時の自分が最高だと思っていて、そこから遠のくのが許せないから。美魔女さんをがんばって続けていた人たちの中には、実は辛かった~っと、涙する方もいますよ。プチッと切れる時がやはり来るんですね」 自分を知ること、客観視が第一歩 政近さんいわく、その辛さは「何を着たらいいかわからくなっていることも原因の一つ」だそう。迷える子羊たちに、彼女はまず 「あなたはどういう人ですか?」 と尋ねるとか。そこで、自分の 現状 についてしか話せない方が多いのだそうです。日本の方はとくに…。 「自分のルーツ、アイデンティティーを知らないことは、服選びにも支障をきたします。両親、祖父母、先祖にまで遡って、家庭で話し合ってルーツを探り、 自分を知ること 、これがすべての第一歩です。そして 自分を客観視すること 。そこから、あなたが着るべき服も決まってきます。 服を選ぶとき、自分はどうなりたいか、少し先の 未来 を想像できることが重要なのですが、それにはまず 過去 を知らないとダメ。過去の自分のことを知らずして 自分探し のしようもないんですね」と、政近さんは力説します。 NHK『助けて!きわめびと』での、凄絶なスタイリング体験 また、同じ40歳でも東京と地方ではまた環境が違う、と政近さん。5月9、16日に放映予定のNHK『助けて!きわめびと』という番組のロケで、山形県に住む48歳の主婦の方と出会ったそうですが、地方の方は結婚する時期が早く、40代で子供の手が離れた後、どうしたらいいかわからなくなってしまう女性が多いというのです。 その女性は、「一生に、一度でいいからキレイと言われてみたい」と意を決して、番組に応募してきたとか。 彼女のワードローブは、Tシャツ、アロハ、カーデガン、ジーンズだけ。 政近さんは、ワードローブチェックを通して、なぜ、彼女がそうなっているのか、カウンセラーのように、家族との関係や本人の生き方にまで分け入って聞き出します。そして、おしゃれで美人な姉と常に比較され、華やかな服は似合わないと思い続けてきた “自己肯定感の低さ” に着目するのです。 そして彼女に、今、着ている服が似合っているのか、似合いそうな服は何なのか、街角で多くの人に聞き取り、 自分を客観視する 。家族との関係を含め、どんな自分になりたいのか、どういう服を着たいのか徹底的にイメージするなど、様々な宿題を出していきます。 こうした「荒療治」を経て、その女性は素敵に生まれ変わったそうです。 「凄絶過ぎますか? 私にとっては、毎日がそうなんです(笑)」と政近さん。人を素敵にしようと思ったら、そこまで必要なのだと。 人生は服次第! だと実感させられました。 自分にふさわしい服を見極める “目” を養おう アラフォー女性ならば、洋服の価値やクオリティをチェックして、情報を頭にいれておくことも大切だと政近さんはいいます。 「若い人向けのブランドも高級ブランドも、両方をチェックしましょう。また、高いから買わないと決めつけないで、クオリティ、着心地、自分に似合うかどうかをしっかりと吟味して、『これは高くても買うべきだ』などの判断ができないとダメ。金額やブランドじゃなく、自分の価値観で選ぶこと。それが 知的ファッション なのです」と具体的なアドバイスも。 50代に向けてどう生きるのか、お金をどう使うのか? 自分のルーツ・過去を知り、自分を客観視して、自分に似合う洋服を選ぶ。自分らしいおしゃれをすることで気持ちもハッピーになり、自然と心のゆとりが生まれてきます。これは、ひいては 周りの幸せ につながるのだそう。 「お母様やお祖母様から引き継げるものはないか? 考えても見当たらない場合は、自分で作っていけばいいんです」 そう言うと、よく「娘がいないから・・・」と言う方がいるそうですが、引き継ぐとは、単に服や宝石といった物質的なものだけでなく、家風、価値観、美意識などの精神的な部分も含まれるとか。 自分の服選びについても、「30過ぎたら人のせいにしないこと」と政近さん。「自分にふさわしいものを見つけるために、もっと必死になるべきです」と語ります。 「また、よく“自分にご褒美”という方がいますが、そうではなく、40代になったらもっと 社会に貢献する考え を持ったほうがいいですね。みなさん、お金の使い方がちょっとおかしい。家族にも周囲にも気持ちいいように…と考えたほうが幸せになれると思いますよ」とニッコリ。 歯に衣着せぬ、政近さんの力強いアドバイスは、アラフォー女性にとって心地よい刺激となるはず。ご出演される、NHK『助けて!きわめびと』~キレイと言われてみたい 前編/後編~ の放送がとても楽しみです。 【政近準子さん プロフィール】 パーソナルスタイリスト創始者 (有)ファッションレスキュー社長、パーソナルスタイリストプロ育成校 PSJ学院長。 株式会社東京スタイル ファッションデザイナー出身。25歳でイタリアへ移住後、【その人を輝かせる服を提案できるパーソナルスタイリング】 の必要性を提唱。2001年に起業し、日本で初めてタレントやモデルだけではなく 一般の方にもスタイリングを提案。政治家 会社社長 管理職 起業家などの富裕層を主に顧客に持つ。国内最大のプロパーソナルスタイリスト所属事務所ファッションレスキュー全体では、延べ1万人以上をスタイリング。著書に、『働く女性のスタイルアップ・レッスン』、『「似合う」の法則』、『「素敵」の法則』、『一流の男の勝てる服二流の男の負ける服』、『人生は服、次第。』、『チャンスをつかむ男の服の習慣』がある。 NHK『助けて!きわめびと』 「キレイと言われてみたい 前編/後編」 【放映日時】2015年5月9日(土)、16日(土) 午前9時30分~9時55分 NHK総合 ひとつの道をきわめた“きわめびと”が、視聴者からのお悩みに応える番組。1万人以上を顧客にもつパーソナルスタイリストの政近準子さんは、本人すら気づいていない「キレイ」を引き出す“きわめびと”。「服が人生を変える」をモットーに、「いま、似合う服より、未来のなりたい自分に似合う服を選ぶ」ことで、自分自身を変えていくことが本当のキレイを生むと説く。そんな政近さんにお悩みを寄せたのは、「一生に、一度でいいからキレイと言われたい」という山形の主婦だった。 【司会】三宅裕司、松嶋尚美、一柳亜矢子アナウンサー(NHK大阪) 【出演】パーソナルスタイリスト 政近準子 【ナレーション】本上まなみ
2015年05月07日すっきりとシンプルな雑貨、大胆な色使いのテキスタイル、自然がモチーフの小物など、北欧のモダンなデザインが、私たちの生活に浸透してからずいぶん経ちますよね。日本的な美意識にもどこか通じ、お洒落の代名詞のひとつ、といっても過言ではないかもしれません。女子はみんな北欧デザインが大好き!見ているだけで癒されるのですから。 そんな北欧が舞台で、しかもお洒落なだけでなく、ライフスタイルや生き方にもコツンと一石を投じてくれて、心に深く響く映画を味わってみませんか?スウェーデン、デンマーク、フィンランドで撮影された選り抜きの映画を3本、ご紹介します。 自分を貫き、夢をあきらめない生き方 ▼ストックホルムでワルツを 監督:ペール・フライ 出演:エッダ・マグナソン、スベリル・グドナソン、シェル・ベリィクヴィストほか 1960年代、スウェーデンの田舎町で電話交換手をしながら、娘を育てるシングルマザーのモニカはジャズシンガー志望。両親に娘を預かってもらう度、厳しい父親に叱られ、娘に寂しい思いをさせつつも、シンガーへの夢を実現していきます。偶然、歌を聞いてもらったエラ・フィッツジェラルドに「人真似はやめたら」と鼻で笑われ、落ち込むモニカ。 英語でなく母国語でジャズを歌ったらそれが当たり、巨匠ビル・エヴァンスと彼の「ワルツ・フォー・デビー」を、ジャズの聖地ニューヨークで共演するまでに。世界が注目する中、ずっと反対していた父親から電話がかかるシーンは涙なしには観れません。 実在したモニカ・ゼタールンドという歌手の存在を、この映画を観るまで知りませんでした。彼女を演じるエッダ・マグナソンのきれいなこと!歌が上手いこと!時に傲慢なまで自分を貫き、傷ついても夢をあきらめないひたむきさに打たれます。60年代の北欧デザイン、それこそお洒落なインテリア、雑貨、ファッションにもインスパイアされるはず。 愛と孤独を描く大人のラブストーリー ▼アフター・ウェディング 監督:スサンネ・ビア 出演:マッツ・ミケルセン, シセ・バベット・クヌッセン, スティーネ・フィッシャー・クリステンセン ほか コペンハーゲンに暮らすヘレネは、優しく裕福な夫ヨルゲンと結婚を控えた娘アナ、まだ幼い男の子たちと幸せな日々を送っていました。ヨルゲンが、仕事の関係で出会った男ヤコブを、たまたま娘の結婚式に招待するまでは・・・。 ヤコブはヘレネが20年前に別れた恋人で、実はアナの父親だった、という衝撃の設定がデンマークの美しい風景を背景に描かれます。果たして夫の意図とは?忘れられない過去を持つ男性と、幸せな家庭に突如訪れた容赦ない現実。ドンデン返しの続く展開から目が離せません。 時に残酷と評されるくらい、人間の深く鋭い描写に定評のある女性監督、スサンネ・ビアの映画は、人生の酸いも甘いも噛み分けたアラフォー女性だからこそ共感できる傑作揃い。アカデミー外国語映画賞受賞の「未来を生きる君たちへ」、ロマンティックコメディの最新作「愛さえあれば」もお薦めです。 風景も人間も。北欧の魅力をすべて教えてくれた! ▼かもめ食堂 監督:荻上直子 出演:小林聡美, 片桐はいり, もたいまさこ ほか 「イタリアならパスタとピザ、インドならカレー、ではフィンランドなら?」「サーモン?!」という会話のやりとりが映画の中にあるのですが、サケを愛好する日本との共通点から、ヘルシンキで食堂を開くことにしたというサチエ(小林聡美)。旅行で訪れたミドリ(片桐はいり)とマサコ(もたいまさこ)がひょんなことで集い、店を手伝い始めます。 大事件が起こるわけでもないのに、小さな出来事が淡々と紡がれる日常が魅力的。ゆるいようで一本通った生き方が潔いサチエを筆頭に、役者陣の存在感が光ります。この映画のもう一つの主役は何といっても料理。日本のソウルフード、おにぎりを始め、焼きザケ、トンカツ、焼き立てのシナモンロールは、美味しい匂いが漂ってきそうで生ツバもの。 「この国の人は、どうしてこんなにのんびりして見えるんでしょうね?」という問いに、「森があるから」と答えるフィンランド人。ストーリーとともに、白夜、森、マルシェ、トナカイの肉…と、観光気分も味わえます。客の全く訪れなかった店に少しずつ人が集まり始め、満席になった時は思わず拍手したくなりました。オールフィンランドロケが美しい心温まるヒューマンドラマ。どこを見ても北欧の魅力に開眼させてくれるでしょう。 美しいビジュアルも楽しみながら、人間や人生にふと思いを巡らせたくなる映画ばかり。北欧ならではの爽快感と深い人生観を、この3本でぜひ堪能してください。
2015年04月23日あわただしい日々の中、様々な環境変化や、時には耳を塞ぎたくなる雑音から離れて、自分自身に戻りたくなることはありませんか?新しい環境に順応し、周囲と調和できるように、まず自分のスタンスをしっかり確立したいですね。ホッとリラックスでき、すっきりリフレッシュすることのできるCDを3枚ご紹介します。 ラドカ・トネフ「フェアリーテイルズ」で心のざわめきを癒す くたくたになってやっと帰宅。それでも体の疲れや心のざわめきから逃れられない時は、このCDがおすすめです。自らに語りかけるかのように内省的でピュアな歌声に、何度でも癒されるでしょう。 ラドカ・トネフは、オスロ生まれのシンガーソングライター。1982年、このアルバムを作った後、わずか30歳で自殺してしまいます。彼女の心に何があったのかはわかりません。でも、この美しい音楽に身を浸すと、自分の心のわだかまりが柔らかくほぐされていくのがきっとわかるはず。ストックホルム在住のジャズ・ピアニスト、スティーヴ・ドブロゴスのピアノが対話するように絡み、心の奥底の声に耳を傾けさせてくれるのです。 ヴァシュティ・バニヤン「ルックアフタリング」で森の妖精に出会う ヴァシュティ・バニヤンの素性は、あまりよく知られていません。イギリスの伝説的なフォークシンガーで、1970年ファーストCDを発表した後、旅から旅を経て、森の中で動物たちと暮らしているという説もあるようですが定かではありません…。 このCDはそんな彼女らしい、ミステリアスでダウントゥーアースな魅力に満ちた音楽がつまっています。ありのままでいていいんだなあ、がんばり過ぎなくていいんだなあ、と心から思えてくるから不思議。好きな自分に戻りたいときにおすすめの1枚です。ヴァシュティ・バニヤンの世界に佇んでいたら、不思議の国のアリスならぬ、森の中で妖精に出会えるかもしれません。 モリー・ドレイク「モリー・ドレイク」の優しさに包まれて 古い時代のラジオから流れてくるような、どこかノスタルジックで優しい歌声。モリー・ドレイクの肉声を今、聴けるのは奇跡だと言う人も。亡きイギリスのシンガーソングライター、ニック・ドレイクの母である彼女が、1950年代に自宅で録音していたピアノの弾き語りが、ニックのエンジニアによってこの1枚になりました。 CDに収録されているのは、古き良き時代の英国家庭の幸福感と、自然の美しさが詰まった音楽。とことん疲れ果てたとき、少しだけ現実逃避させてくれて、やがて自分の日常に戻してくれる貴重な1枚です。 忙しい日々で自分らしさを忘れていると思ったら、こんな音楽を聴きいてみてください。自らの心とゆったりと対話し、見失いかけていた自分を取り戻せるはず。心豊かにメンテナンスされ、さらにバージョンアップできるでしょう。
2015年04月20日新しいことを始めたり、今までとは違う環境になったり、春は変化の多い季節。何かと迷いが生じることも多いのではないでしょうか?そんな時、力強い味方になってくれるのが、フレンチマダム達の考え方。 彼女達はお洒落なのに常に自然体で、アール・ド・ヴィーブル(生活芸術)という言葉があるくらい、日常生活全般に美意識を行き渡らせています。そして恋愛が国技なんじゃないかと思えるほど、いくつになっても情熱的。 彼女達に魅了されて書かれた3冊の本から、フレンチマダムの自信に満ちた生き方に、背中を押してもらいましょう。不思議と本を書いているのは、たいていフランス人以外の女性。だからこそ鋭く客観視されていて、私たちの参考書になってくれるはずです。 価値ある自分を身につける。パリ貴族のライフスタイル ▼『フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質"を高める秘訣~』 (大和書房) ジェニファー・L・スコット タイトルを見て、「え?ファッションか断捨離の本でしょう?」と思った方も多いと思います。間違いではないのですが、これはカリフォルニアガールだった著者のジェニファー・L・スコットが、交換留学生としてパリの貴族宅にホームステイ中、インスパイアされたマダム・シック(仮名)という、その家のマダムの存在や、パリの価値観についてが全体の基本になっています。 ヘアスタイルは典型的なパリジェンヌのボブ、服装はコンサバ、美味しい料理を作り、家族を大切にするマダム・シック。そんな彼女から学んだポジティブさで印象的なのは、「自分の体型に満足する」「身だしなみは自分や周囲に敬意を表すこと」「私はいつだってきれいな女性らしいものを身に着ける価値がある、と自分を大切にする」「本当に気に入った服だけを着る」「ほめられたら謙遜しないで、ありがとうと言う」などのアドバイス。 また、目に見える女らしさ以上に大切なのは、 目に見えない女らしさ だと、著者は強調しています。自信、ユーモアのセンス、遊び心、冒険心などが、多くの女性達が憧れる “何とも言えない魅力” を醸し出すのだとか。 いくら最高のエステサロンに行き、最高級な服を買い、完璧なネイルをしていても、それにふさわしい自信がなければ何の意味もないということ。こういった価値観を知ることで、自分にもっと自信を持とう!という気持ちになれるはず。 セクシーさを忘れずに…。年齢を重ねるほどに魅力が増す生き方 『パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン) 岩本麻奈 “生涯恋愛現役” という言葉、パワフルですよね。著者は1997年に渡仏して以来、パリと日本を行き来する皮膚科医・美容ジャーナリストの岩本麻奈さん。彼女が専門の皮膚医学から思いきって逸脱し、 生涯を美とアムールに生きる というパリの先輩マダム達から学んだ、年齢を重ねるほどに魅力を増す生き方、センシュアルであるための秘訣が描かれます。 生涯恋愛体質、80歳代でも週1回は愛し合うカップル…などの記述に、淡泊気味な日本人はクラクラしてしまうかもしれません。美と誘惑の必需品として、「セクシーでなければランジェリーではない」という名言や、シャンパン、アロマキャンドル、最高の媚薬であるチョコレートなどについて語られるのですが、思いきりヒザを打ったのは、 ボディクリーム について! マダム達はいつ何時恋人に触れられても、なめらかでしっとりとした「気持ちいい」肌であるようにしているのです。いざという時、相手を最もダイレクトに魅了するのは、やはりボディの肌触りということでしょう。 化粧品の消費は世界のトップクラスの日本ですが、ボディ化粧品を日常的に使っている日本女性は少ないそう。国民性や習慣は違っていても、「肌触りの良さ」が女性としての魅力をあげてくれるという事実は一緒。顔に手をかける以上に、ボディローション、ボディオイル、ボディクリームを愛用したいものです。これこそ、最強にポジティブでいられる秘訣ではないかと思います。 年齢を重ねることを楽しめるようになる、珠玉の言葉たち 『French in Style フランスマダムから学んだ最上級の女になる秘訣』 (CCCメディアハウス) 畑中由利江 こちらはモナコ在住の国際マナー研究家で夫はフランス人、伯爵夫人の称号を持つ畑中由利江さんの著書。冒頭から「女は赤よ。赤い口紅を塗らないと、ジョン(彼女のご主人)が浮気するわ」という義母の言葉にのけぞり、「ひとつ年をとったら、ひとつ露出を増やしなさい」「疲れたときには赤い肉と赤ワイン」など、彼女がモナコやフランスで出会ってきた、フレンチマダムたちの珠玉の言葉に刺激を受けます。 日本の世界しか知らなかった頃は、年を取ることがとても不安だったという畑中さん。でも、彼女たちのおかげで、 年齢を重ねることを心から楽しめるように なったとか。時には「カワイイから卒業しなさい」「もっと大人の女の服を着なさい」などのダメ出しもありますが、“人生の上級者”ならではのアドバイスは、ハッとさせられることばかり。 20代~30代前半であれば、そのまま鵜呑みにしてしまうかもしれないような参考書ですが、アラフォー世代の私たちならば、その時々に合わせて、自分らしくバランスよくアレンジしていけるはず。それこそが最高にポジティブな生き方ではないでしょうか。
2015年04月07日シンプルライフや整理術、ときめく片づけなどを含め、断捨離ブームが起こって久しく、すっかり定着してきています。単に、きれいだと気持ちがいいという次元を超え、断捨離は精神や生き方にまで示唆を与えるところが、日本人の心に響いたからではないでしょうか。 そして現在、ポスト断捨離はさらに研ぎ澄ませて自分を極める方向へ。どうしたら真に自分らしく心地よく生きられるか? 様々な試行錯誤の例に触れてインスパイアされる、お薦めの3冊をご紹介しましょう。 所有物は100個以内?! 一番大事なものを再認識させてくれる ▼『minimalism 30歳からはじめるミニマル・ライフ』 (フィルムアート社) ジョシュア・フィールズ・ミルバーン、ライアン・ニコデマス ミニマルは「最少の」という意味。ジョシュア・フィールズ・ミルバーンとライアン・ニコデマスというアメリカ人男性2人組が、2010年「ザ・ミニマリスツ」のユニット名で立ち上げ、現在、400万人の読者数を誇る人気サイトから生まれたエッセイ集が本書です。 20代後半に親友同士になった2人は、当時若手企業人として数10万ドルの高給を取り、誰もが羨むゴージャスライフを満喫していたのにもかかわらず、人生に満足していなかったそうです。 それが30歳の時、 「大事なものは、そんなにはない。最小限しか持たずに、最大限に豊かな暮らしをする」 “ミニマリズム” という考え方に出合います。その “ミニマリズム” を実践し始めてから、心から幸せを実感できるようになったとか。本書ではそこへ到達するまでの試行錯誤が描かれています。 所有物は100個以内(!)、メールチェックは週に2~3回、テレビは捨てる、など具体的なハウツーが書かれているのがプラクティカルなアメリカ人らしいかもしれません。 大量消費社会への警鐘のようでもありますが、要は物欲でなく、 パッション(情熱)やミッション(使命)を大事にする生き方 のすすめ。国は違っても、時間に追われて人目を気にする生活に慣れきった私たちに“喝”を入れ、自分の人生で一番大事なものを再認識させてくれるはず。 迷ったときは、 “より自然な方を選ぶ” がキーワード ▼『わたしの中の自然に目覚めて生きるのです』(筑摩書房) 服部みれい シルクとコットンの靴下の重ね履きや半身浴でデトックスする “冷えとり健康法” 、 “白湯飲み”などを特集してきた『マーマーマガジン』の編集長、服部みれいさんの最新著。 服部さんの著書は、 “お金をかけず、なるべく自然に、そして自分らしく生きる方法” を教えてくれます。「もっと好きに生きていいんです」という言葉に背中を押してもらったり、『なにかいいこと』(PHP文庫)の詩のようなワンフレーズに救われた、という方もいるのではないでしょうか。本書も、生き方の岐路に立った時、必ず支えてくれるであろう1冊です。 本書は、脱毛からセックス、孤独からエイジング、恋愛から子供を持つことまで、心身ともに、美しさ、人間関係、暮らしにも役立つ知恵が満載。 迷ったら、“より自然な方を選ぶ”がキーワード です。 そろそろ、20代や30代からアップグレードして、その場限りの小手先じゃない生き方にシフトしていきたいですよね。頭でなく、より深く魂で生きる人になりたいなら、ぜひ! 夫まで捨ててしまう女、圧巻!前人未踏の極め方 ▼『捨てる女』(本の雑誌社) 内澤 旬子 著者の内澤旬子さんは、徹底的に極める方。38歳の時に乳ガンを患いながらも、ヨガなどに励んですっかり健康になってしまったプロセスを描く『身体のいいなり』(朝日文庫)の淡々とした筆致には度肝を抜かれます。 その後、製本への興味から、革なめしの現場に行きたい一心で『世界屠畜紀行』(角川文庫)を書き、その流れで自ら豚を飼い、つぶして食べた体験ルポ『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)を刊行。前人未踏の極め方が圧巻です。 そんな彼女はある日、ごちゃごちゃした部屋のカオスに耐えられなくなってしまったそうです。風通しの悪い日陰や地下などにいても、いやーな感じに襲われ、息苦しい…。それまで“身体のいいなり”に生きてきた彼女が、今度は “気持ちのいいなり” になって、捨てまくっていく様子が描かれるのが本書です。 豚を飼うため千葉県の廃屋に移住し、歴代先住者の残した膨大な粗大ゴミを処理センターへ車で運び込んで、落ちたら自分も一緒に撹拌されそうな谷底のような穴に捨て、脳のネジが切れてしまったとか。帰京後、夫まで捨てて(離婚して)しまいます。 また東日本大震災後、トイレットペーパーが買い占められて姿を消したことに腹を立て、自分にできることをしようと、イランで一昔前まで使われていたアーフターベと呼ばれるジョウロに似た水差しで、お尻を洗う方法をマスター。そして現在に至るとか。読み物としておもしろ過ぎる1冊でした! いかがでしたか?気になる一冊が見つかったらぜひ手にとってみてください。この機会に、自分の内なる声に耳を澄ませ、価値感を問い直してみてはいかがでしょうか。
2015年04月02日待ちに待った春の到来。日差しが輝きを増し、花々が咲き始める季節です。長く寒い冬に慣れてしまっていた心身を、思いっきり開放してあげたいですね。さあ、これぞ名演!と呼べる歴史的なピアニストの最高の演奏に身を委ねて、春気分を盛り上げませんか? 20世紀を代表する3大ピアニスト、 ウラディミール・ホロヴィッツ 、 スヴャトスラフ・リヒテル 、 アルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリ による感動的な美しい音楽は、新しい生活のリズムに弾みをつけ、一歩踏み出す勇気を鼓舞してくれることでしょう。 ホロヴィッツのショパンで高らかに春を謳歌 1903年、ロシア生まれの ホロヴィッツ は、日本とも縁の深いピアニストです。世界的ピアニストとして圧倒的人気を誇っていた1983年、初来日時のチケットは数万円なのに完売して話題になり、クラシックに興味がない人たちにも驚愕を与えます。 80歳の高齢に加え、体調不良だったというこの時の演奏は、評論家の吉田秀和に 「ひびの入った骨董品」 と評されますが、それを受けて1986年、再来日の公演で見事にリベンジ。 その3年後には亡くなってしまうのですが、巨匠と呼ばれながらのその真摯な姿勢に感銘を受けるとともに、悪魔的とまでいわれたパワーとスピード感、最弱音すらホールの最後列まで届いたという壮絶な表現力には、ひたすら圧倒されます。 彼のラフマニノフやリストも素晴らしいですが、春の1枚といえば、ショパンを集めたこの1枚がおすすめです。個人的には、最後の 「英雄ポロネーズ」 を数回リピートしてから1曲目に戻るのがお気に入り。 超絶技巧が求められる難曲を、まるで童歌のように軽やかに歌い上げる演奏は、「ピアニストにとって一番大切なのは、ピアノを打楽器から歌う楽器にすること」と語っていたホロヴィッツらしさを実感できるはずです。 ピアノコンチェルトの王道をリヒテルの名人芸で ピアノとオーケストラが競演を繰り広げるピアノ協奏曲といえば、このCDに収録されたラフマニノフの2番か、チャイコフスキーの1番を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?それだけポピュラーな王道中の王道です。 1940年代の イギリス映画「逢びき」 にも使用されたというロマンティックなラフマニノフと、第1楽章の冒頭から印象的なメロディがドラマティックに展開する雄大なスケールのチャイコフスキー。 1915年、ロシア生まれの名匠 リヒテル が、膨大なレパートリーの中でも最も得意とするロシアもののこの2曲の魅力を、余すところなく弾ききります。手も体も大きいのに繊細な感受性を持つリヒテルは、ある評論家から 「傷つきやすい巨人」 といわれたとか。 ダイナミックでありながら抑制の効いた細やか演奏は、私たちの心をワシづかみするでしょう。一家に1枚の逸品!クラシック好きでない人をも感動させる1枚かもしれません。 まさに至宝、ミケランジェリの「皇帝」は春に聴きたいマストな曲 完全主義者ゆえにコンサートを頻繁にキャンセルする、いわゆる “キャンセル魔” としても有名だったミケランジェリ。昨年、同志的なシンパシーを持つ指揮者、セルジュ・チェリビダッケの依頼で、1974年にフランス国立放送管弦楽団創立40周年特別記念コンサートで演奏した、ベートーヴェンの ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 がCD化されました。 1920年イタリアに生まれ、1995年に亡くなった ミケランジェリ と親交があり、このCDのプロデュースにかかわった久保木泰夫さんによると、「この演奏に一切のコメントは不要です。無心に聴くだけで、その一音一音、一粒一粒のキラメキで目が眩み、身動きできなくなるでしょう」とのこと。躍動する生命感にものすごくパワーチャージされるのです。 みずみずしい輝きに満ちた晴れ晴れとする演奏は、まさに春という季節にぴったり! 新生活、入学、結婚、出産などのお祝いにプレゼントしても素敵ですね。この春、これらの音源を楽しんで、生活のみならず心身のリズムにも軽やかな弾みをつけてみませんか?
2015年03月13日年齢を重ねると恋愛に対するスタンスが固まってしまっていること、ありませんか?恋愛感情はもう関係ない…なんて思っている人もいるかもしれません。でも、いわゆる“胸キュン”な気持ちは、いかなる時も大切な生きる源ではないでしょうか。 人生の酸いも甘いもを噛み分けた大人の女性だからこそ愉しめる恋愛映画3本をご紹介します。 年下男子と恋愛するなら? ▼「ぼくの美しい人だから」 監督:ルイス・マンドーキ 主演:スーザン・サランドン、ジェームズ・スペイダー 年下の男性って好き? という話題になると「自分はいいけれど、相手がどう思うか…」と答える女性が多いように思います。自分がどう思うか以前に、年下男のオシリを追いかけるなんてはしたない、という刷り込みがあるのでしょう。でも、この映画のノラは、つい先ほど自分が働くハンバーガーショップの客だった彼とバーで再会すると、酔っている彼の隣りに座り、やがて一夜をともに過ごすことに…。 いわゆるワンナイト・スタンド。行きずりの恋?とも言えないような出会いから始まる二人。27歳のエリート広告マンで、教養がありクラシック音楽を愛し、インテリア雑誌から抜け出たみたいなモダンな家に住むキレイ好きな彼、マックスをジェームズ・スペイダーが、43歳で教養もなく部屋はぐちゃぐちゃのノラを、スーザン・サランドンが好演。 あり得ないはずの二人の関係が、燃えたり冷えたりしながら進んでいくプロセスがリアルで、だらしない中年女だと思われていたノラが、最終的には、誰にも媚びない凛とした生き方を貫くカッコよさ! 衝撃的なハッピーエンドに年上女性は快哉を叫ぶでしょう。 1990年代、マックスに近い年齢で観た時は、「こんなオバサンとアリ?」と感じました。現在は年上女性と付き合うカップルも増えてきたこともあり、まったく違和感を感じません。ただ、自分からいつでも別れを切り出せる、潔い年齢の重ね方をしている真に大人の女性だけに許される恋愛なのかな、と思います。 男女間の絶妙な会話術を学ぶ ▼「ビフォア・サンセット」 監督:リチャード・リンクレイター 主演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー 前作「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」では、ユーロトレインの車内で偶然出会い、ウィーンで一夜だけをともにしたアメリカ人のジェシー(イーサン・ホーク)とフランス人のセリーヌ(ジュリー・デルピー)が、別れ際に約束した半年後の再会を果たせないまま、その9年後…という設定の続編がこの映画。 作家になったジェシーが、パリの書店で新著「This Time」(あの一夜を描いてます)のプロモーション中、セリーヌと再会し、ニューヨーク行きの飛行機に乗るまでの85分間で、9年間を語る様子が描かれます。前作同様、ほとんど二人の会話だけで進行しますが、セリーヌのアパルトマンを訪れ、彼女がギターを弾いて歌ったり、最初は常識的なきれい事を含んでいた会話がどんどん剥き出しになっていったり…、自然なテンポから目が離せません。主演の二人が、会話のシナリオに関わっているのが納得の素晴らしい展開です。 男女の会話の妙味だけでこれほどおもしろいとは! 実際にはセックスしていないのに実にセクシーで、“これぞ極上のエロティシズム”と思っていたら、アメリカの雑誌で「セクシーな映画トップ25」の10位にランクインしていて驚きました。男女の間で、肉体関係はもちろん大事だけれど、一番大切なのは会話ではないでしょうか? 大人の女性なら魅力的な会話がしたい、そういう会話ができる関係でありたい、と思わずにいられません。この映画は、第3作「ビフォア・ミッドナイト」に続くので、そちらもお楽しみに! ピュアな愛情の生命力を教えてくれる ▼「ラブソングができるまで」 監督:マーク・ローレンス 主演:ヒュー・グラント、ドリュー・バリモア 1980年代に一世を風靡したバンド、「ポップ」の元ボーカルで、現在は落ち目のスター、アレックスを演じるのがヒュー・グラント(これだけで既に笑えます)。彼が人気歌手の新曲を作るため、ピアノに向かって苦心する中、植物の水やりのバイトで訪ねてきたソフィー(ドリュー・バリモア)が、ふと口ずさんだ歌詞がアレックスのハートを直撃!そこから恋が始まるラブロマンスの王道映画です。 ソフィーの姉ロンダが「ポップ」の大ファンで彼に会って狂喜乱舞したり、遊園地で歌うバイト中のせつない彼をソフィーが励ましたり、ソフィーの過去の失恋が絡んだり、音楽業界の内幕に触れたりと、それこそポップな音楽とともに展開する珠玉のストーリー。すれ違いながらも、真摯にピュアな愛情を注ぎ合う二人の姿勢がダイレクトに刺さりました。ピアノすら弾けなかったというヒュー・グラントの見事な歌と演奏も、さすが役者!と感心させられる見どころのひとつです。 実は、これを初めて観たのは、東日本大震災から3日後の深夜のテレビでした。自粛で通常の番組はオンエアされず、あの怖ろしく悲しい映像と金子みすずの言葉ばかりが流れ、被災地のことを思うと仕事がまったく手につかない、一字も書けない、と懊悩していた時、なぜか深夜2時から突然、この映画が放映されたのです。 すがりつくような思いで観て、そして、生き返りました。後年、何度観てもその感動は変わらず、サントラCDも購入し、未だに視聴しています。恋愛以前、生きる意味さえわからなくなった時に救われ、愛の力で生きる勇気を与えてくれた映画です。 これらの映画で、大人の女性ならではこそ味わえる愉しみを満喫してみませんか?
2015年02月17日NHKで放映中の「マッサン」の妻、リタは「あなたの夢を共に生き、お手伝いしたいのです」と故郷スコットランドを離れ、内助の功で夫を支えるピュアで健気な生き方で私たちを魅了します。このマッサンとリタのように夫婦2人支え合い生きた、純印度式カリーなどで有名な老舗、中村屋の創業者である相馬愛蔵とその妻、黒光(こっこう)のことをご存知ですか? 黒光は、リタが生まれる21年前の1875(明治8)年、星良(ほし・りょう)という本名で仙台に生まれました。“アンビシャス・ガール”と呼ばれた少女時代を経て、結婚、出産、起業。明治の終わりから大正、昭和初期にかけて多くの芸術家たちをサポートし、中村屋に彼らが集ったその様子は、のちに“中村屋サロン”と呼ばれました。夫を支え、自らの生き方も貫いた彼女の足跡をご紹介します。 相馬黒光(そうまこっこう)という鮮烈な生き方 黒光の自伝「黙移」には、自伝的要素だけでなく、大正デモクラシーと呼ばれた当時の自由な空気、時代の変化が描かれており、歴史を知るうえでも貴重な史実が満載。女子教育のプロセスとしても実に興味深い書籍です。 このころは女性が学問を続けることが、まだ一般的ではなかった時代。しかし、向学心の強い黒光は、生まれ故郷の宮城女学校で学んだのち、当時の女学生たちの憧れの的、ミッションスクールの最高峰で英語教育の名門、フェリス女学院に転校しました。さらには、進歩的かつ芸術的な校風を求めて、作家の島崎藤村や北村透谷が講師を務めていた明治女学校に転校します。 その女学校時代だけでも、多彩な友人に囲まれ、ストライキを起こしたりプラトニックラブに翻弄されたりとチャレンジングな日々。彼女のペンネームでもある“黒光”は、明治女学校校長が「あなたの才気溢れる光を黒い色で隠しなさい」と命名したもの。いかに才気煥発であったかがうかがえます。 中世ヨーロッパのような芸術支援の殿堂 “中村屋サロン” 卒業後、黒光は故郷の知人の紹介で長野の相馬愛蔵に嫁ぎますが、1901(明治34)年に上京します。そこで本郷の「中村屋パン」を居抜きで買い取り、中村屋の店名をそのままに創業します。初めて食べたシュークリームの美味しさに驚き、パンにできないか考え、クリームパンを創案します。そのクリームパンは今でも日本の三大菓子パンのひとつといわれています。 その後、新宿に本店を構えてからは、彫刻家の荻原守衛(碌山)、画家の中村彝(なかむら・つね)、ロシアから訪れた盲目の詩人ワシリー・エロシェンコら、多くの芸術家に中村屋の敷地内にあった洋館を解放。彼らを物心両面でサポートします。 相馬夫妻や彼らを「安曇野」という小説に書いた作家の臼井吉見は、「まるで中世ヨーロッパのサロンのようだった」と描写しています。この中村屋サロンは日本の近代芸術・文化を牽引し、大きな刻印を残す偉業を果たしたのでした。 2014年10月、中村屋は本店を建て替え、商業ビル「新宿中村屋ビル」としてグランドオープンし、3階には「中村屋サロン美術館」という美術館を併設しました。現在は、「開館記念特別展」が開催中(2015年2月15日まで)。黒光の情熱的な意志が、現在も脈々と受け継がれているのを感じます。 昭和2年発売の純印度式カリー、ボルシチ、 中華まんは現在も人気商品 黒光のすごいところは、実業家としての商品開発センスも然り。インドの革命家ラス・ビハリ・ボースとの出会いから、日本で初めて純印度式カリーを発売しました。また、ロシアの詩人ワシリー・エロシェンコとの出会いをきっかけにボルシチやピロシキなどのロシア料理を、中国視察旅行では、月餅や包子(パオズ、現在の中華まんじゅう)と出合い、日本人の口に合うようにアレンジして発売しました。彼女の企画・発想力はとても素晴らしく、それらが現在も中村屋の人気商品として愛され続けているのは、ご存じの通りです。 黒光は自らの志を持ち、夫とともに仕事に励みながら、己から溢れ出る光を黒色で消すことなく、周囲を愛の力で照らし続けました。リタより6年早い1955年、79歳でこの世を去った黒光。こんな圧巻な女性が日本に存在していたということに、勇気が湧いてくる気がします。人生の折々に迷ったら、ぜひ彼女の自伝「黙移」を開いてみてはいかがでしょうか。
2015年02月05日30代が終わりに近づくと、もう若くはない、と焦りやあきらめに似た気持ちを持つ人もいれば、早く40代に突入したいと期待する人もいるかもしれません。アラフォー女子は、選択肢が一番多い年代。その分、迷いも多いのではないでしょうか? 公私の環境も生活形態も様々で、どんな人生であってもより良く年齢を重ねたいもの。いろいろな状況の対処法を教えてもらえたり、迷っている時に“活”を入れてくれたり、自分とゆっくり向き合いたい時や寂しい時にそっと寄り添ってくれたりする、頼もしい本たちを3冊ご紹介しましょう。 第二の“お年頃”40代~を飼いならす、あの手この手の妙 『40代 大人女子のための“お年頃”読本』(アスペクト) 横森理香 著者の横森理香さんは、自らのリアルな体験をもとにした歯に衣着せぬ本音で、私たちに元気オーラを送り続けてくれています。たとえば『地味めしダイエット』(知恵の森文庫)でシンプルで健康的な“食”を、『横森式シンプル・シック』(文藝春秋)では断捨離が流行る前からミニマルな“住”を書き、『愛しの筋腫ちゃん』(集英社)では子宮筋腫を自然治癒させたプロセスを、その後、40歳で出産して『横森式おしゃれマタニティ』(文藝春秋)を著わすなどなど。 今回ご紹介する『40代 大人女子のための“お年頃”読本』でも、具体的なアドバイスの数々が有意義で、賛否はそれぞれあるかもしれませんが、何かしら自分らしい居場所を見つけるためのヒントが詰まっているはず。どんな時も、基本はポジティブに生きる姿勢!に勇気づけられます。 “オンナらしさ”の呪縛から解放されて、“女”として生きる術 『四十路越え!』(角川書店) 湯山玲子 常にエッジーで、文化系女子の最先端を闊歩する湯山玲子さん。冒頭から「『恋愛できなきゃ、女は終わり』は本当か」「モテる女は『オモロイ女』」「四十路とセックス」「『人並みから逸脱せよ!』」「『褒められたい』動機は身の破滅」などと刺激的な見出しが気になります。そして本当におもしろい! 背中を押し倒してくれる一冊です。本書は『四十路越え!戦術篇』(ワニブックス)へと続きますが、既に両書とも文庫化に。 湯山さんの『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著 /幻冬舎)も、感動した箇所にポストイットを貼り過ぎて本が閉じれないほどでしたし、最新刊の『文化系女子という生き方』(大和書房)も快哉を叫びたくなりました。お心当たりの方は、ぜひページを繰ってみてはいかがでしょうか。 “ナチュラルな自分”を愛して生きていく 『小鳥がうたう、私もうたう。静かな空に響くから』(主婦と生活社) カヒミ・カリィ ミュージシャンのカヒミ・カリィさんをご存じですか? どこかフワ~ッとした印象があって美しく、でもクリエイティブで個性的。彼女が、2009年1月に出会ったタップダンサー熊谷和徳さんと結婚し、その年の11月末に41歳で出産したと知った時は驚きました。その運命的な出会いやその後の生活、音楽、美しさなどについて描かれているのが本書です。 カヒミさんの自然を愛するナチュラルな生き方に、憧れを持つ人も多いのではないでしょうか? 主義というより本能的な身体感覚から発しているライフスタイルに惹かれます。 現在は、ご主人の仕事の関係でニューヨークにお住まいですが、ブログなどで垣間見られる、愛娘とダンナ様とダウン・トゥー・アースなニューヨークライフを楽しんでいる様子が素敵! 何気ないようでいて、こういう生き方ができるのは強い意志の賜物だと思うのです。自分らしい生き方を模索しているなら、ぜひ出合ってみてほしい本です。 人生の折り返し地点にも満たないアラフォーではありますが、自分らしく生きようと決めたり深く内省したりしていないと、人生なんてアッと言う間。示唆的で楽しい本との出合いは、人生をますます濃く味わい深いものにしてくれることでしょう。
2015年01月27日シャネル銀座ビル4階に位置し、昨年末で10周年を迎えた シャネル・ネクサス・ホール 。若手音楽家をサポートするクラシック音楽のコンサートや、意欲的な展覧会を開催しています。2015年は、 「ボヤージュ(旅)」 をテーマにした展覧会が企画されています。 新年の幕開けを飾るにふさわしい展覧会は、20世紀を代表する写真家の一人である、1923年フランス・リヨン生まれの マルク リブー が、約60年前に秘境アラスカを旅して撮影した貴重な作品によるものです。リブーの「アラスカ」シリーズは 日本初公開 となります。 写真ににじみ出るリブー独特の詩情が魅力 ここは……雪原? 展覧会場に足を踏み入れた瞬間、白一色でデザインされた見事に潔い空間が、決して広くはないのに果てしなく続く雪原のように見え、テンションが上がります。 アンリ カルティエ=ブレッソンやロバート キャパとともに、写真家集団マグナムの一員として活躍したマルク リブー。彼は1958年、ジャーナリストのクリスチャン ベルジョノーと「パリ・マッチ」誌特派員として、目的地アラスカを目指しデトロイトを出発しました。フェアバンクスとコッツビューに1週間ずつ滞在した後、2ヶ月かけて終着地メキシコへ南下する旅を敢行します。 そんな今回の展示作品は、「写真を撮ることは旅すること」と語っていたリブーらしい、アラスカ縦断中の驚きに満ちた旅の記録であり、写真史に残る名作です。 走行中は、絶えず車のフロントガラスから氷を削り取らなければならず、パンクしたら凍え死ぬといわれていた過酷なアラスカ・ハイウェイ約2500キロの道程。 その広大な未開の風景を、白いキャンバスに描かれる点描のようにレンズで切り取り、現地に暮らすエスキモーの生活を生き生きと活写しています。零下34度の中、氷に穴を開けて魚を釣る姿や、凍結した馬の死体が横たわる写真など、目を奪われずにはいられません。それはリブーの視点が、フォトジャーナリストとしてだけでなく、ヒューマニストとしても卓越しているからでしょう。 同時に、リブーの美意識が反映された白と黒の絶妙なバランス、幾何学的なグラフィックとしての斬新さは非常に現代的であり、私たちをみることへの情熱で釘づけにします。 「リブーの写真を“芸術作品”に昇華させているのは、そのイメージに色濃くにじみ出る独特の詩情である」とは、本展覧会のキュレーターである佐藤正子さんの言葉。その詩情をぜひ、展覧会場を訪れて実際に体感してみてはいかがでしょう? ココ シャネルの美意識とメセナ精神を踏襲する展覧会 写真のみならず、空間全体もそこに漂う空気感も含め、透徹した美意識がすべてに行き届いた、こんなにも完成度の高い写真展が日本で楽しめるとは驚きです。(しかも無料で!) 今さらながら、ピカソ、コクトー、ストラヴィンスキーら若き芸術家たちを支援し、革新的であることを追及し続けたシャネル女史のエスプリが、現在も脈々と受け継がれているのを感じ、白銀の世界が熱気で満たされる思いでした。 リブーご本人は、高齢のため来日なさいませんでしたが、息子さんで建築家のテオ リブー氏がオープニングに際して挨拶し、「私はアラスカで、生涯一番寒い日々を過ごした」「世界の暴力より美しいものを撮りたい」というお父様の言葉を紹介。 フランスの連続銃撃テロの直後だけに、「父がもし若かったら、レピュブリック広場に駆けつけて、デモに参加したでしょう」「リブーは自由な人々の味方です」と語り、やはり熱い想いを感じました。 本展覧会は、2015年4月18日(土)~5月10日(日)、國際写真フェスティバル京都グラフィーの公式展覧会として、京都に巡回されます。京都展にもぜひ訪れたいと思います。
2015年01月21日ある程度年を重ねてくると、仕事や人間関係にも慣れてきて、発想が定型通りになったり…と、自分でも気がつかないうちに形式化した人生に流されてしまっているかもしれません。司令塔である脳内がサビつけば、心身のエイジングも早く進んでしまうでしょう。 そこで、脱マンネリ!するために発想を転換し、新しい風を呼び込んでみませんか?今回は、 清新で理知的な刺激 が、細胞を生き生きと若々しい方向へシフトしてくれる音源を3枚ご紹介しましょう。 ストラヴィンスキー「ピアノ作品集」の一癖二癖にドキッ ストラヴィンスキーって「春の祭典」とか「火の鳥」とか、大胆で仰々しいダンス音楽を作った人でしょ? などという印象をお持ちかもしれません。しかし、年代によって次々と作風を変えたことでもストラヴィンスキーは有名でした。 原始的で力強い「春の祭典」と違って、「プルチネラ」というバレエ音楽はバロックか古典派のような瀟洒(しょうしゃ)な優美さがあります。また、このピアノ曲集の中の「ピアノ・ソナタ 嬰ヘ短調」は、彼が22歳の時の作品ですが、最初にこれを聴いて作曲者を当てられる人は、多分少ないでしょう。同じくロシアのラフマニノフかチャイコフスキーの作品だ、といわれたら信じてしまうかも。それだけ変幻自在に書ける天才なのです。 とはいえ、決して過激に聴こえず、むしろ聴きやすいのにそれだけではない遊び心があちこちに仕組まれていて、聴くうちに脳ミソがシャッフルされてくるから不思議です。 バルトーク「弦楽四重奏曲」が、脳の新たな場所を揺さぶる 1881年、ハンガリーに生まれ、後期ロマン派や印象主義の影響を受けながら、民俗的な野性味を織り込んで独特の世界を構築したバルトーク。6曲から成る「弦楽四重奏曲」は、ベートーヴェンの16曲と並び称される名作です。 この「弦楽四重奏曲」は、1908年から30年余をかけて作曲されたました。民俗舞曲を思わせる情熱的な1番から、ナチスの暴虐を逃れてアメリカに亡命する直前に、ヨーロッパへの“惜別の音楽”として作曲され、4楽章すべてに「メスト(悲しげに)」と指示がある6番まで、感情の深淵に至る様があまりにも深く描かれています。アルバン・ベルク四重奏団による珠玉の演奏も圧巻で、脳ミソの今まで使われていなかった部分が、メリメリと動き始めるのがわかるでしょう。 近藤譲 作品集「表面・奥行き・色彩」が、新たな扉を開く快感 2012年、アメリカの芸術・文学アカデミーの外国人名誉会員に、日本人作曲家で武満徹に続いて2人目に選ばれた、国際的に活躍する現代音楽作曲家・近藤譲をご存じですか? 同年に発表され、タイトル曲を含む7曲が収められたこのCDは、聴き慣れない音楽かもしれませんが、ストラヴィンスキー、バルトークと聴いていただくのがおすすめです。感情や物語だけに支配されない美しさで、自分でも知らなかった心の領域に降りていけると思います。国内最高の現代音楽演奏集団アンサンブル・ノマドの演奏が見事で、身体感覚として新たな扉が開くのを感じるはず。 近藤譲は現代音楽についてこう語っています。「現代音楽は、今まで聴いたことがない音楽を聴くおもしろさもあるけれど、それ以上に、それを聴いたことで過去の音楽が違って聴こえるおもしろさがある。実はこういうふうに聴くことができたんだ、と気づけることこそ、とても新鮮!」これって人生にも当てはまるような気がします。そんな素敵な音楽に、出会ってみませんか? ・ ストラヴィンスキー「ピアノ曲集」 ・ バルトーク「弦楽四重奏曲」 ・ 近藤譲 作品集「表面・奥行き・色彩」
2015年01月02日ここは、どこ? 地下鉄の茅場町駅で下車し、永代通りを霊岸橋に向かって徒歩1分、橋の手前、右手に位置する古い戦前のビルを見た瞬間、時代と場所をワープしたような不思議な感覚に包まれます。 段差が均一でない石の階段で3階へあがると、そこに広がるギャラリー。そのギャラリーを併設する書店が、写真集や美術書を中心に扱う森岡書店です。知る人ぞ知る、隠れ家のようなこんなスペースで、自分だけの静謐なひとときを満喫してみませんか? 美と知のワンダーランドへようこそ! 店主の森岡督行さんは、神田の老舗古書店、一誠堂にお勤めだった2006年4月、たまたまこのビルの古美術店を訪れて建物に魅了され、それまで独立しようなどと思ってもいなかったのに、「ここで古本屋をやってみたい」と、気持ちが一転したのだそう。 辞表を出して、それからプラハとパリに買い付けへ。アクシデント続きの旅で悪戦苦闘を経て、7月に開店。今年で9年目を迎えましたが、森岡さんは「どうにか維持できているだけ」と笑います。開店に際しては、懇意にしているお客さんから「勇気あったね」と言われたというエピソードも。 店内には、美術関係の個展が開催されるコーナーを含め、店主自らが集めた選りすぐりの書籍が置かれています。 シンプルで素っ気ない内装でありながら、個人宅のリビングルームのように落ち着ける店内は、一度訪れたら忘れられない空間です。 併設されたギャラリースペースでホッと一息 お邪魔した時、ギャラリースペースでは、アートディレクターの新保慶太さんと新保美沙子さんの「given」という展覧会が開かれていました。 1枚の同じ判型の紙を、どれだけ展開できるか? というコンセプトによるグラフィックデザインの数々は、紙1枚なのに動きがあって自由自在に浮遊。この発想は、生き方にも通じるなあと刺激を受けました。 また、開放感あふれるギャラリーが併設されたここは、貴重な書籍も多いのに、木のテーブルに何気なく積まれていたり、壁に立てかけられていたり。 何だかアリスのワンダーランドに迷い込んだみたいな気持ちになって、展示を見たり写真集を繰ったり、ワクワクした気分をずっと持続できるのです。 アラフォー女性にお薦めの絵本「ARCHIE'S PRESENT」 “誰かに贈りたくなる108冊”という副題のついた「写真集」という素敵な著書もある森岡さん。アラフォー女性にお薦めの本を伺ってみました。 「私は今年40なのですが、まわりを見ると、友人たちも結婚して10年くらいだったり、子供がまだ小さかったり…。クリスマスも近いことですし、言葉のない絵本をプレゼントしたらいいな、と思ったんです。言葉がないから、一緒に見た時、コミュニケーションになるかな、と。相手は子供でも恋人でもいい。新たなコミュニケーションが生まれたら素敵じゃないですか」 そんな森岡さんのあたたかさが胸に響きました。大切な人へのプレゼントをここで選んだら楽しいですね。居るだけで癒される森岡書店、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょう。 ・ 森岡書店
2014年12月04日JRの目黒駅、東京メトロの白金台駅から、徒歩数分という都心にありながら、鬱蒼とした緑に囲まれた東京都庭園美術館。3年間という改修期間を経て本館が修復され、広々としたモダンな新館も増設。11月22日、リニューアルオープンしたので訪ねてみました。 もともとは、朝香宮邸として1933年に建てられた建物。戦後の一時期は、外相公邸、迎賓館などに使用され、1983年、美術館として一般公開されるように。アール・デコ様式を現代に伝え、ヨーロッパの装飾美術に日本独自の感性を加えた歴史的建造物としての佇まいも、庭園の美しさとともに魅力のひとつになっています。 二つの展覧会が同時開催。ゴージャスなリニューアルオープン記念 12月25日まで、美術館の建物内部が公開され、通常の展覧会中は展示しない家具やオリジナルの壁紙、デザインにかかわったフランス人室内装飾家 アンリ・ラパンや、ガラス工芸家 ルネ・ラリックの作品も展覧できる「アーキテクツ/1933/Shirokane アール・デコの様式を見る」展と、彫刻家の「内藤礼 信の感情」展を同時に開催しています。 内藤さんらしい静かで優しい木の彫刻「ひと」が点在している本館。小さい「ひと」なので、まるで個人宅の居間や窓辺に置かれているかのようなさりげない風景ですが、気づいた瞬間、ハッとします。10点ほど設置されているそうですが、全部気づけるかな? ガラスのアプローチが現代的な新館は、天上が高く、大型作品も楽々展示できる白い箱のような空間。こちらのギャラリー1にも内藤礼の違う作品が。本館と新館を連動させ、庭園美術館の個性を活かした展覧会を、これから年に4、5本、開催していくとか。 歴史的名所でのサロンコンサートは貴重な味わい リニューアル前から人気があった、旧朝香宮邸の大広間など庭園美術館ならではの特別な空間で、一流の演奏が堪能できるコンサートも定期的に開かれます。12月20日(土)、本館大広間で藤原真理チェロ・リサイタル(この回はチケットは完売)、2015年2月13日(金)、新館ギャラリー2で松本蘭ヴァイオリン・リサイタルが、開催予定。ここでしか味わえない至福のひとときを満喫してください。 「庭園美術館へようこそ 旧朝香宮邸をめぐる6つの物語」出版 リニューアルを記念して、作家の朝吹真理子さん、漫画家の小林エリカさん、お菓子研究家の福田里香さん、サウンドアーティストのmamoruさんによるエッセイ、漫画家のほしよりこさんの漫画、音楽家の阿部海太郎さんの作曲作品、朝香宮家にまつわるコラムなどで重奏的に編まれた書籍が、河出書房新社から出版されました。写真も美しいです。 阿部さんが作曲した「ピアノのための小組曲《三つの装飾》」の楽譜が載っているのには驚きました。組曲はそれぞれ「香水塔」「モザイク模様の昼下がり」「楕円形の食卓」とタイトルがついており、すべて旧朝香宮邸にまつわるものばかり。弾いてみると、フランスで学んだ阿部さんらしい小粋で洒落た曲。書籍でも美術館が楽しめます。 こんな魅力的な庭園美術館へ、この週末あたり、ぜひ訪れてみませんか? ・ 東京都庭園美術館 ・ 「庭園美術館へようこそ」
2014年12月01日枯葉の舞うロマンティックな秋にぴったりの詩情あふれる音楽に浸ってみませんか? 19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス近代音楽は、それまでの重々しいドイツ的な古典音楽の世界に風穴を開け、型にはまらない軽やかで色彩豊かな風を吹き込みました。 暮れゆく秋を惜しみつつ、冬の扉を叩く音が聞こえてきそうなこの季節。寒くて閉じこもりがちになる身も心も、音楽に乗せて自由に羽ばたかせてはいかがでしょう。フランスの香りが漂う遊び心に満ちたBGMを3枚ご紹介します。 ドビュッシー、サン=サーンス、ラヴェルの 弦楽四重奏曲はテッパン! もし彼がいなかったら、この世界は半分もおもしろくなかったんじゃないかと思えてしまうほど、多彩な色彩感を音符で描いたドビュッシー。「動物の謝肉祭」で有名なサン=サーンスの弦楽四重奏曲は、クラシカルな味わいを持ちながら新鮮な響きを秘めている曲。そして、ラヴェルのなんともフラジールで斬新な展開といったら! こわばった体が柔らかくほどけていくような官能的ともいえる美しさに胸が震えます。 この3曲を収めたお得な2枚組を演奏しているのが、フランスの若手を代表するモディリアーニ弦楽四重奏団。フランス近代弦楽四重奏曲の名曲揃いという、まさに得意中の得意であろう緩急自在な演奏は、ダイナミックかつ繊細、しかも、一音一音が炊き立てのご飯のようにリアルな粒立ちの音で、確かな“今”を感じさせてくれるのです。 現在のBGMの先駆け、エリック・サティ >>続きを読む 現代のポピュラー音楽への扉を叩いたエリック・サティ 1866年生まれ、“異端の作曲家” “音楽界の変わり者”と称されたエリック・サティをご存じですか? 生まれたのはドビュッシーの4年後ですが、家具のように邪魔にならない、「家具の音楽」といった、いわゆる今でいうBGMのような発想の曲など、非常に斬新で現代につながる作品を書き、同時代と後年の作曲家に多大な影響を与えました。 とはいえ、再評価されたのは比較的最近。彼のピアノ曲「ジムノペディ」は、今やコマーシャルや病院の待合室でもかかっていますから、その人気を知ったら一番驚くのはサティ本人かもしれません。 このCDには「ジムノペディ」以外にも、ロシア・バレエ団を創設したディアギレフのために、コクトーが台本、ピカソが舞台美術、サティが音楽を担当したバレエ音楽「パラード」や、同じくバレエ音楽で、彼と「フランス6人組」のコラボレーション「エッフェル塔の花嫁花婿」など、ハッピーで楽しい管弦楽が中心に収録されています。小粋でお洒落でパーティにもお薦めなBGMです。 サティの精神を受け継ぐ「フランス6人組」の洒脱な軽妙さ 新しい芸術運動が盛んで“狂乱と祝祭の日々”と呼ばれた1920年、パリ。コクトーのプロデュースのもと、サティの精神を受け継いだ「フランス6人組」という名前の作曲家集団が誕生しました。ルイ・デュレ、ジェルメンヌ・タイユフェール、ダリウス・ミヨー、アルチュール・オネゲル、ジョルジュ・オーリック、フランシス・プーランクの6人です。 シンプルで覚えやすく美しいメロディが特徴の彼らの音楽と、サティを中心に演奏しているピアニスト神武夏子さん。彼女の演奏は、1曲目、プーランクの即興曲第15番「エディット・ピアフを讃えて」から、その美しさ、せつなさに心をワシづかみされるでしょう。 晩秋のロマンティシズムにぴったりの音楽、ぜひ触れてみてはいかがですか?12月3日には、千代田区立内幸町ホールで、「サティを弾きながら」(第1部)と題されたリサイタルも開かれるとか。そちらも訪れてみたいです。 ・ 「フランス近代弦楽四重奏曲集」 ・ エリック・サティ「サティおじさんのおかしな交遊録」 ・ 神武夏子「フランス6人組」 ・ 神武夏子ピアノリサイタル「第22回神武夏子ピアノリサイタル「かむながらにVII」」(2014年12月3日開催)
2014年11月21日季節の移ろい、深まる秋に、寂しさや孤独感を募らせる人もいるかもしれません。そんな時、明るい音楽で無理に盛り上げようとしないで、自分の心の奥底と思いきり向き合ってみてはいかがでしょう? 逆に、少しずつ気持ちが落ち着いてくるのがわかると思います。 チェロの深い響きは、ありのままの“私”を優しく抱きとめてくれるでしょう。豊かな包容力のあるチェロの音色に身をゆだねてみませんか? お薦めの3枚をご紹介します。 シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」で心を柔らかく 1823年、ウィーンで初めて製作されたアルペジオーネという、ギターとチェロが合体したような楽器をご存じですか? その翌年、シューベルトがこのソナタを書き、その後、この楽器はすたれてしまうのですが、唯一、現在も愛されている美しい名曲がこの曲。 モントリオール生まれの人気チェリスト、ジャン=ギアン・ケラスと、パリ生まれの俊才ピアニスト、アレクサンドル・タローの名コンビによる、気心の知れた会話のような、それでいて、互いに挑み合うような生き生きとした演奏が、乾いた心を柔らかくしっとりと潤わせてくれます。心身が疲れている時にも効果的なヒーリング・ナンバーです。 自分の心の奥底へと導く、チェロの話し声 >>続きを読む チェロの話し声「フランスの無伴奏チェロ作品さまざま」 伴奏が一切ないチェロだけのソロ。それは、演奏者にとっては非常に緊張を強いられるものかもしれません。しかし、聴く側からすると、チェロの話し声を聴いているような印象があってなごみます。問わず語りとでもいうのでしょうか。とつとつと、時に雄弁に語られるモノローグは、普段はなかなかたどりつけない自分の心の奥底へ、ある程度年齢を重ねないと得られない深い内省へと、導いてくれることでしょう。 20世紀前半に活躍したアルチュール・オネゲル、20世紀後半まで活躍したアンドレ・ジョリヴェ、昨年まで活躍していたアンリ・デュティユーなど、フランスの近現代を代表する作曲家のチェロ作品は、人生の一場面一場面を浮き彫りにする臨場感で、時に舌にざらつくような陰影ある美しさを心に刻みます。そんな余韻を味わってみてはいかがですか? 古今の名チェリストたちが競い合う、バッハの名曲 >>続きを読む バッハの「無伴奏チェロ組曲」が与えてくれる深い内省と癒し バロック期の無伴奏チェロの最高峰、バッハの「無伴奏チェロ組曲」の魅力を何から話せばよいでしょう。クラシックで一番好きな曲に挙げる人も多いこの曲は、6曲から成り、“チェリストのバイブル”と言われているとか。技術的に高度で、それ以上に、深い精神性を求められる難曲。古今の名チェリストたちが競って音源を残しています。 パブロ・カザルス、ヨーヨー・マ、ミッシャ・マイスキーら、ベテラン勢ももちろん素晴らしいのですが、ここでは、「アルペジオーネ・ソナタ」でもご紹介したジャン=ギアン・ケラスの躍動感あふれる真摯な音色に包まれてみてください。まさに冷静と情熱のあいだといえるような、ケラス40歳の時のドラマティックかつ抑制の利いた名演です。 いい演奏を聴くと、不思議ともう少しがんばってみようか、という気持ちになれるもの。心の中の秋風を熱い演奏で一掃し、心豊かに暖かい冬を迎えてくださいね。 ・ シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」 ・ 「フランスの無伴奏チェロさまざま/Paroles de violoncelle」 ・ バッハ「無伴奏チェロ組曲」
2014年11月17日忘れられない本があります。人生の節目ごとに開きたくなり、軽く読み返するつもりがふと気づくと、またもやそのおもしろさの深淵にはまり込んでしまう…そんな本たちが。 須賀敦子は、1990年、61歳の時に「ミラノ 霧の風景」というエッセイ集で遅いデビューを飾ると同時にブレークし、1998年に亡くなってしまった随筆家・イタリア文学者です。生前出版されたエッセイ集はわずか数冊ながら、後年、全集が編まれるなど、珠玉の文章の魅力は褪せることがありません。そんな彼女のワンダーランドを覗いてみませんか? 須賀敦子全集と須賀敦子の周辺で描かれた本たち 芦屋の恵まれた家庭に生まれ、読書大好き少女だった彼女は、宝塚の小林聖心に入学。8歳で東京に引っ越してからも白金の聖心で学びます。そして、パリ留学後、さらにローマに留学。ローマからミラノに移り、イタリアの改革運動の拠点で文化発信サロンでもあったミラノのコルシア書店で、そこの中心人物ジュゼッペ(ベッピーノ)・リッカと出会い、32歳で結婚。夫の勧めもあり、谷崎潤一郎をはじめ、様々な日本文学のイタリア語訳を出版しますが、数年でペッピーノが病没。42歳の時に帰国してからは、大学で講師を務めたり、翻訳の仕事をしたりという生活へ。 常に文章と対峙しつつも、ずっと「ものを書く人になる」と熱望していた須賀さん。磨き上げ洗練された文章の美しさ、みずみずしさ、お茶目さの中にもにじみ出る格調と品格は、そんな長い胎動の時をへているからなのかもしれません。少女時代、イタリアの風土や人々、読書や旅の記憶は、須賀敦子全集8巻(河出文庫)に満ちあふれ、熱い息吹きを伝えます。「生きることほど、人生の疲れを癒してくれるものはない」という、第6巻の帯に記された彼女の言葉には、ハッとさせれられます。 生前の須賀さんと親交の厚かった、写真家・文筆家である大竹昭子さんの「須賀敦子のミラノ」(河出書房新社)も須賀敦子の軌跡を、写真とエッセイでたどる名著。大竹さんが撮影した臨場感ある写真と文章に酔いしれることができます。 しかし、作家 松山巌さんが最近上梓した「須賀敦子の方へ」(新潮社)を読まなければ、須賀敦子を再読しなかったかもしれません。須賀さんの晩年をよく知る一人である彼が、彼女とゆかりのある場所を歩きます。それは、彼女との対話だそう…。名文に心が躍ります。 これらの本たちで、須賀敦子と彼女の人となりに触れてみてはいかがでしょう? 生きていくことの辛さも喜びもすべて包み込む、須賀さんの懐の深さ、誠実さ、研ぎ澄まされた美意識、潤いに満ちた香りは、私たちに生涯寄り添って光を指し示してくれると思います。 神奈川近代文学館で開催中の「須賀敦子の世界展」 間近に海を臨む港の見える丘公園に佇む、お洒落な神奈川近代文学館へ「須賀敦子の世界展」を見に行ってきました。深呼吸したくなるような緑の多いロケーション。創立30周年を記念するこの企画は、彼女の生涯と文学を総合的に紹介する初めての展覧会です。 親しい友人たちからは、須賀を逆さまにしてガスちゃんと呼ばれ、誰からも愛された聖心時代の愛くるしい笑顔、夫ペッピーノとの仲睦まじい2ショット、晩年の原宿のマンションの本棚…などの写真に見入り、ダンテの「神曲」の下訳、彼女が翻訳したナタリア・ギンズブルグの付箋がいっぱい貼られた原書に息を飲み、「ママ…」から始まる家族への手紙、愛用の着物、真珠のブローチなどの展示に見とれていると、須賀さんの穏やかで明るい肉声が響いてくるようでした。こちらへも、ぜひ訪れてみてはいかがですか? ・ 須賀敦子全集 ・ 大竹昭子「須賀敦子のミラノ」 ・ 松山巌「須賀敦子の方へ」 ・ 「須賀敦子の世界展」
2014年10月30日空が高く、木々が色づき、凛とした透明感のある大気に身を任せていると、どんな都会であっても、移ろう自然の美しさに気づかないわけにいきません。日本の秋を愛でるなら、山野もいいけれど、美術館で、“心に染み入る秋”を、さらに深く感じてみませんか? 東京国立近代美術館で開催中の「 菱田春草展 」は、明治時代を代表する日本画家、春草の生誕100年を記念し、100点余の作品を集めた大回顧展。世田谷美術館での「 北大路魯山人展 」は、書、篆刻(てんこく)、陶芸、絵画、漆芸、そして、美食家としても著名な彼の作品が約150点、一堂に展示されています。この秋、お薦めの展覧会を二つご紹介します。 重要文化財《黒き猫》はじめ“猫作品”と《落葉》連作が勢ぞろい 東京メトロ東西線の竹橋駅から地上に出ると、都会なのに広々とした空に包まれ、思わず深呼吸しながらお堀を渡ったら、そこが 東京国立近代美術館 です。お目当ての一つは、近代日本画で最も有名な猫と言える、 重要文化財《黒き猫》 を含む、猫作品たち。一度に会えるこの貴重な機会は、猫好きはもちろん、そうでない人にも必見です。 本展では、白、ぶち、別の黒猫なども集まり、さながら猫の集会のよう。実際に猫たちと目を合わせると、ふわふわでモフモフしたくなる毛並み、今にもピョンと動きだしそうな背中が本当にリアルで、もう目が離せません。 重要文化財《黒き猫》は、この作品がなければ、竹久夢二や速水御舟が「黒猫」を描くことはなかったかもしれないと言われるほど、後世の画家たちにインパクトを与えました。この《黒き猫》は、10月15日から(11月3日閉会まで)の限定公開です。 36歳で早逝した春草は、亡くなる少し前に眼病を患い、絵を描くことはドクター・ストップに。やっと許されて描き始めたのが、武蔵野の雑木林の 《落葉》 でした。深い色合いと明るい色合い、遠近のバランスが微妙に異なる《落葉》連作からは、秋がしみじみと伝わってきて、ずっと眺めていたくなります。 珠玉の味わいの「魯山人」塩田コレクション 今でこそ、究極の美食家の代名詞となっている「魯山人」ですが、その伝説的な生涯も作品も広くは知られていなかった1985年、魯山人の支援者であった塩田岩治氏の未亡人サキ氏が、世田谷美術館に作品を寄贈しました。 多方面に才能を発揮した偉才でありながら、人を人とも思わぬ傲岸不遜な言動で、生前敵も多かった魯山人と深い親交を結び、終生支援し続けた元利根ボーリング社長、塩田氏のコレクションは、氏の人柄と趣味を表すかのように、広範なジャンルにわたり、華美ではないけれど、日常使いの穏やかで雅味豊かな魅力に満ちています。 かつて、骨董や美術の目利きである青山二郎から魯山人を紹介された白洲正子は、やはり魯山人の傍若無人な性格に悩まされるのですが、彼女いわく「抜群に趣味がよく、胸のすくような作品を遺したのは、稀に見る珍品」と絶賛。塩田コレクションは、実際に使ってみたくなる器の数々に、料理のイメージが湧き、胸がときめいて息苦しいほどでした。 展覧会の最後に記された「画でも字でも、茶事でも雅事でも、遊んでよいことまで世間は働いている。なんでもよいから自分の仕事に遊ぶ人が出て来ないものかと私は待望している。仕事に働く人は不幸だ。仕事を役目のように了えて他のことの遊びによって自己の慰となす人は幸せとはいえない。政治でも実業でも遊ぶ心があって余裕があると思うのである」という魯山人の言葉は、現代の私たちにこそ響く至言ではないでしょうか。 菱田春草展展 おみやげグッズ 北大路魯山人展 おみやげグッズ ・ 菱田春草展 ・ 北大路魯山人展
2014年10月28日分刻みの崖っぷち、心臓がバクバク音を立て、胃がキリキリ縮みあがるような…、そんな一日になってしまうことが、なぜかあるものです。さあ、緊張からゆったり解き放ってくれる穏やかな響きに、その身を任せてみませんか? 金属的でエッジの効いたスティール弦でなく、人の指のぬくもりやタッチが直に伝わってくるナイロン弦によるギターの優しい調べ。そこに混じるあたたかみのある声。思わずうっとりして体中の力みが抜けていくのがわかるでしょう。お薦めの3選をご紹介します。 ギジェルモ・リソット「ソロ・ギターラ」で少しずつ緊張を解放 猛スピードの車に急ブレーキをかけたら、スピンして横転してしまうように、極度に緊張した体に、いきなり静か過ぎる音楽を与えても、体は受け容れられません。 1980年、アルゼンチンのロサリオに生まれ、母国の伝統音楽を心に宿しながら独自の息吹を吹き込み、“印象主義”ギタリストと呼ばれ、現在はスペインのバルセロナで暮らす ギジェルモ・リソット 。人生の様々な起伏にさりげなく寄り添ってくれる、彼の溢れんばかりの繊細さを秘めたギターなら、閉じきっていた心も体も徐々に開いてくれるでしょう。 「あなたと一緒にいるみたいに、どの部屋へも訪れて弾いているように」演奏したいと語る彼は、日本のタカミネギターも愛用(このアルバムでは4曲)。親近感が増しますね。 セサル・ポルティージョ「伝説のフィーリン」は究極の癒し 甘美でとろけてしまいそうなギターの弾き語り。ブラジルでいえばボサノヴァに当るような、キューバではフィーリンと呼ばれる歌謡音楽をご存じでしょうか? その草分けの一人、 セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルス 。クラシック、特に印象派の影響を受けたといわれる彼の音楽は、ラブソングのみならず、キューバ革命でのチェ・ゲバラの虐殺を歌っているらしい曲もあるのに、限りなく優しく心に染み入ってくるのです。 居ても立っても居られないような時、彼の歌声にどれほど癒されたことでしょう。涙ぐんでいたのが、やがて落ち着き、きっと微笑みがもどってきますよ。 露木達也「アゴラ」の心地よさにどこまでも溶けて… 日本の若手ギタリストによるボサノヴァとは思えないかもしれません。心地よい風が吹いているのだけれど、明る過ぎるラテンのピーカンの青空ではなく、南米もヨーロッパも日本も、すべて含んだような多彩な色彩感に満ちた大空。ボソボソとくぐもった歌声がセクシーで、その空に柔らかいニュアンスの息遣いに満ちたグラデーションを描きます。 「 agora 」とは、ポルトガル語で「今」という意味。最初、歌は少なめにするはずだったそうですが、歌を絶賛するプロデューサーでギタリスト、加藤みちあきさんのアドバイスもあって、数曲に。「ブラジル音楽にとどまらない、ジャズ的なハーモニーやリズム、もっと感覚的なものも取り込んでいる本物の才能。名盤です」と加藤さん。バッキングのギターはスピード感があるのに、歌声はゆったりと耳にまとわりつき、乾いた心をみずみずしく潤わせてくれるから不思議。このリフレッシュ感、ぜひ体感してみてください。 2014年12月3日には、「agora」CDリリース記念ライヴが、渋谷のサラヴァ東京で開催される予定。こちらで、彼の“今”に触れてみてはいかがでしょう? ・ ギジェルモ・リソット 「Solo guitarra」 ・ セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルス 「伝説のフィーリン」 ・ 露木達也「agora」 ・ 露木達也「agora」ハイレゾ音源配信 ・ 露木達也 1st. Solo Album サラヴァ東京ライヴ
2014年10月24日あの晴れやかで平和な、昭和の香り漂う日本の典型的な家庭の団欒が、ささやかで慎ましい幸せが……展開されるテレビ番組「サザエさん」を観ながらだんだんと、エンディングのテーマソングが流れるころに至っては確実に、襲ってくるどこか心もとない虚しく寂しいような気持ち。体験したことありませんか?もしかしたら「サザエさん症候群」かもしれません。 明日からはまた1週間が始まる。大したこともしないで日曜日が終わってしまった…そんな虚脱感に満ちた心を、何とか明るく前向きにシフトしたいもの。そんな時に優しく寄り添ってくれるBGMをご紹介しましょう。 ハイドンの「チェロ・コンチェルト」で心に弾みをつけて ハイドンらしい明快で優美なメロディが軽やかに始まると、沈みかけた気持ちがフッととどまってくれるはず。アフター「サザエさん」という時間帯は、一見穏やかなようでいて、心は非常にデリケートに傾いていますから、BGMは明る過ぎても元気過ぎてもダメ! ヘタするとますます落ち込んでしまうので、微妙な配慮が必要です。 ハイドンにしてはパロック色が濃く、やや牧歌的な響きは、現実を直視するのが辛い時、うまく距離をとって安全地帯を与えてくれる感じです。この音楽が流れている空間で、どうにか気持ちを立ち直しましょう。ヨーヨー・マのリズミカルで清廉な演奏が絶妙で、このまま穏やかに自分を肯定しながら、明日を迎えられそうな気がしてくるから不思議です。 チェロ・コンチェルトの1番は、実は楽譜が発見されたのが1961年と、比較的最近。それまでは、2番が1番だと思われていました。この1番が発見されて本当によかった! 聴く人の心をなごませるような親しげな表情に満ちた旋律は、きっと明日もがんばろうという意欲を起こしてくれるのではないでしょうか。 バッハの「イタリア ピアノ」と題されたCDで心を整えて どんなにもう少し休みたい!と思っても明日は来ます。せっかくなら、気持ちを調整して落ち着きましょう。考えるとどんどん負のループにハマってしまいそうなら、音楽に身を委ねて大らかな気持ちになれたほうがお得です。 そういう時にもってこいなのが、このバッハ・アルバム。ドイツで生まれ、生涯をほぼドイツで過ごしたバッハが、ヴィヴァルディはじめヴェネツィアの作曲家から影響を受けて作ったイタリア・モードの曲が集められています。しかも、現代ナポリを代表する大御所ピアニスト、アルド・チッコリーニとマリア・ティーポに師事した俊才、オリヴィエ・カヴェーの若々しくも緻密な演奏が気持ちを整えてくれ、光が見えてきますよ。 マイスキーの弾くメンデルスゾーンの「チェロ・ソナタ」で元気に マイスキー独特のダイナミックな動きのある演奏で始まるメンデルスゾーンの「チェロ・ソナタ」2番。この曲から始まるのが嬉しいCDです。どの曲からスタートするかは意外と大事。「サザエさん症候群」の心理状態を甘く見てはいけません。ヘタしたら涙ぐんでしまいそうな自分を、少しずつ鼓舞し、穏やかに明日へとバトン・タッチしましょう。 ラトヴィアに生まれ、18歳でチャイコフスキー・コンクールに入賞しながら、反体制人物とみなされ強制労働に従事した経験を持つミッシャ・マイスキーのチェロは、ダイナミックでありながら限りなく繊細。メンデルスゾーンの美しくのびやかなメロディを自在に操り、徐々に、でも確実に、無理なく、私たちを落ち込みから救い出してくれるでしょう。 音楽で気分は変わります。こんなBGMで、心を明るく軽い方向へ導いてみませんか? ・ ハイドン&ボッケリーニ:チェロ協奏曲 ・ ヨハン・セバスチャン・バッハ:Concerti,Capriccio & Aria ・ メンデルスーン:チェロ・ソナタ他
2014年10月20日日常生活で、身近な植物に目をとめることがありますか? 道端でそっと咲いている名も知れない草花がやがて朽ち果てていく様子は、誰にも気づかれない風景かもしれません。それでも懸命に咲く彼らが放つ、生命力の輝きには類まれな癒しがあります。 花は生きている花、あるいは生を終えた(枯れた)花にしか“美”を認められずにいたのに、シルクフラワー作家・中島みゆきさんの作品に出会った時、そのはかない一瞬の命を切り取って絹布に封じ込めた、こんな美しい別世界があるのか…と心が震えました。シルクで創られた花たちが語り始めるポエティックな遊び心に、あなたも触れてみませんか? 植物に癒され、退社して花を創るシルクフラワー作家に ジュエリーメーカーに勤めていた頃は、充実していたものの、多忙で草花に目をやる余裕すらなく、まとまった休暇を取って、家にこもったり散歩したりしながら、この先どうしようかな…と考えていた、というみゆきさん。そんな中、道端に咲く雑草に、ふと目がとまった時、心がとても軽くなったそうです。 そして、会社を辞め、最初は趣味のつもりで、一人で布花を創り始めたのでした。あるファッションデザイナーが、みゆきさんの作風を評価してくれたことも励みになり、シルクフラワー作家になることの背中を押してくれたとか。何より、布花を創ることで心のバランスが保たれたといいます。 もともとは学生時代、サンフランシスコ在住の大好きな伯母を訪ねた時、手芸好きでハットコサージュなどを手作りしていた伯母からシルクフラワーを勧められたのが始まり。彼女が一時帰国した折、一緒に花材屋さんに行ってコテなどの道具を揃え、作り方の手ほどきを受けていたみゆきさん。2013年には、SOIE:LABO(ソワ・ラボ)というブランドを立ち上げます。同年、結婚した夫、音楽家の中島ノブユキ氏との出会いも、みゆきさんが創ったコサージュを彼がサイトで見て気に入ったことがなれそめ、という素敵なエピソードが…。 イヴ・サン=ローランとミケランジェロの「ピエタ」に心酔 みゆきさんの美意識の萌芽は、15歳の時に遡ります。母親からイブ・サン=ローランの本をプレゼントされ、エレガントで華やかだけれど、繊細さゆえの危うさ、女らしいだけではないマニッシュな魅力に開眼。イヴ・サン=ローランが、自分と向き合い葛藤し苦悩する姿が伝わってきて、胸が締めつけられたとか。 高校時代は、美術史で学んだミケランジェロの「サン・ピエトロのピエタ」、磔刑に処されたキリストの亡骸を腕に抱く聖母マリアの彫刻に、心をワシ掴みされます。大学3年の時、訪れたイタリアのサン・ピエトロ大聖堂で、実物を見た時は大泣きしたそう。 彼女の作品に、きれいで可愛いだけじゃない、時にデモーニッシュな魅力が漂うのは、そんな影響もあるのでしょうか。まるで、男装して社交界に登場したことでも衝撃を与えたフランスの女流作家、ジョルジュ・サンドに似合いそうな…とでも形容したくなります。 新作は、カズオ・イシグロの小説「私を離さないで」から着想 2014年11月14日(金)~16日(日)、代々木上原のhako galleryで開催される展示会「SOIE:LABO 2015 S/S “あいまいなふちどり”」では、愛読書、カズオ・イシグロの小説や、フランスで活躍したアルメニア人画家、ジャン・ジャンセンから着想を得た作品が並ぶ予定。 「コンセプトを先に決めて創るのは苦手なんです。その折々、心に飛び込んできた本や映画、絵画、音楽などが持つ空気感や背景と植物が重なった時、作品のイメージが生まれます。『私を離さないで』は辛いストーリーですし、ジャンセンの絵も独特の暗さがあるけれど、その辛さ、暗さの中に潜む美しさにこそ胸をかき乱されます」 そう語るみゆきさんの作品に触れて、癒しと感動を味わってみてはいかが? 秋の装いに似合うコサージュやアクセサリー、憧れの世界で一つのブライダルアイテム、インテリアにも…。彼女の花たちは、詩情あふれるロマンティックな世界へ誘ってくれるでしょう。 ・ SOIE:LABO(ソワ・ラボ) ・ hako gallery
2014年10月17日「なんだか今日はテンションがあがらない」生きていれば、そんな気分の朝もありますよね。ストレスの多い現代に生きる私たちにとって、身体的ケアと同じくらい精神的なケアは重要です。こんな気分の時、穏やかで生き生きとした気持ちになるための方法のひとつとして、吹奏楽をおすすめします。 人の息吹で音を発生させる管楽器の調べは、私たちの脳や気分を引き立ててくれるはず。朝イチにぴったりの音源を3枚ご紹介します。 モーツァルトのオーボエやファゴットで気持ちを整えて どこかで聴いたことがあり定番ともいえるモーツァルトの「オーボエ協奏曲」「クラリネット協奏曲」「ファゴット協奏曲」は、木管楽器の持つ安らぎの音色の中にも軽やかな動きがあり、これから始まる1日に寄り添ってくれそう。沈みそうな心なら浮き立たせ、そわそわと落ち着かない時も、気持ちを穏やかに整えてくれるはずです。 フルートの音色がお好きな方は、もちろん「フルート協奏曲」もOKです。 ちなみに、モーツァルトの2曲ある協奏曲のうち、第2番はオーボエ協奏曲をフルート用に編曲したものと言われています。フルートは音域が高い分、流麗でテンションが高めに感じられるかもしれないので、その日の気分に合わせて選曲してみてください。 軽快で粋なフランスのエスプリ「田園のコンセール」 クラリネット、オーボエ、バスーンで演奏される木管三重奏をトリオダンシュ(Trios d'anches)と呼びます。その管の名手3人が奏でる、フランス近代管楽作品を集めたのがこのCD。1曲目、ジョルジュ・オーリックの「三重奏」が流れ始めた瞬間、遊び心に満ちた活気ある楽しげなメロディに心をつかまれ、「今日もがんばってみようかな」と気分が高まり元気になれるはず! タイトルの「田園のコンセール」は、1901年マルセイユ生まれのアンリ・トマジの作品。20世紀後半まで活躍していたフランスの作曲家の曲ばかりが集められ、こんな自由な展開もあっていいのかと、発想を転換させてくれ、新しい1日を始められそうです。 リコーダーの素朴な音色で本来の自分らしさを取り戻す 小・中学校でリコーダーに触れた人は多いことと思いますが、リコーダーは中世から続いている木管楽器。そのナチュラルで素朴な音色は、地に足の着いた力強さを私たちに与えてくれます。人間関係などに悩んでいたとしても、プリミティブな人間本来の自分に気づかせてくれる。それが笛の原型ともいえるリコーダーの魅力だと思うのです。 テレマン、バッハ、コレッリ、オルティス、マレなど、木管のぬくもりが最大限に生かされた選曲は、あれこれ迷いがちな朝の気分をシャンと基本に戻してくれそうです。木管楽器ならではのあたたかさが持つ平明さと健全さが優しく後押ししてくれる朝を、あなたも迎えてみませんか? ・ モーツァルト ・ 「田園のコンセール」 ・ 「リコーダー×リコーダー ~リコーダー・アンソロジー~」
2014年10月15日安眠のためには、夜眠る時、少なくとも1時間前までにはパソコンやテレビを消しましょう、と言われています。分かってはいながら、布団の中に入ってもスマートフォンでメールやSNSをチェックしてしまったりと、頭の中を興奮したままにさせてしまいますよね。なかなか入眠モードになれず、疲れているのに眠れない…と、お悩みの方も多いのではないでしょうか。 できるなら心身ともにリラックスして、眠りに臨みたいもの。人生の3分の1はベッドの中なのですから、睡眠時間を気にするだけでなく、その質も高めたいですよね。そんな時、安心して身を任せられ、上質な眠りへと誘ってくれるおすすめの音楽3選をご紹介します。 1日の乱れた心を浄化する「グレゴリオ聖歌」 中世の8世紀頃に生まれたとされるグレゴリオ聖歌(Gregorian Chant)は、単旋律、無伴奏で歌われる教会音楽です。最近、このグレゴリオ聖歌が“心の休息”、“癒しの音楽”としてポピュラーになってきているとか。ユニゾンのメロディーを合唱で朗々と歌い、伴奏の楽器演奏も付かないというシンプルさ。人間の原初的な部分を刺激する素朴で飾らない響きは、様々なことで乱れてしまった1日の心を浄化させてくれるでしょう。 あんなことを言われた、こんな態度に傷ついた…などなど、心に去来する嫌なことをきれいに洗い流し、清らかな心で眠りにつけたらいいですよね。このCDに収録されている「Graduale Romanum」(「グラデュアーレ・ロマヌム」)はミサ曲のひとつ。穏やかで安らぎに満ちており、これを聴きながら眠ると、天使に守られているような安心感に包まれます。 単調さが眠りのリズムへ導く ヘンデル「ハープシコード組曲」 バッハと同い年、1685年生まれのヘンデルですが、様々な器楽曲を数多く書いたバッハと違って、歌劇やオラトリオなどの声楽曲が多く、器楽曲はあまり作曲していません。そんな彼の「ハープシコード組曲」は、希少な器楽曲。シンプルだけれど優美で気品があります。テンポは決して遅い曲ばかりではないのですが、安定して単調さにも感じられるリズム感が、聴いていると自然に眠りのリズムに呼応してくるから不思議です。 演奏しているオリヴィエ・ボーモンはフランスのチェンバロ奏者。彼の自在で独特な演奏が素晴らしく、あっさりと別世界へ連れていってもらえる心地よさが魅力です。ラモーやパーセルなど、他の作曲家の作品もとても美しいです。 許しと救いを与えてくれる オケゲムの「レクイエム」 バカなことを言ってしまった、恥ずかしいことをしてしまった…など、自分の不甲斐なさを許せない日も、ぐっすり眠れそうにありませんよね。そんな時は、15世紀初頭生まれのフランドル楽派と呼ばれるルネサンス音楽の代表的作曲家、オケゲムがおすすめ。俯瞰して物事を見れるようになり、クール・ダウンできるはず。 この「レクイエム」は、死者を鎮魂するための音楽ですから、猛々しい感情はすべて現実のものではなくなり、過去という箱の中にしまっておくことができるのです。多声部にわたる合唱の天上を思わせる美しい響きが心に染み入ると、許せる気持ちになれるかもしれません。眠りたいのに眠れない夜、ぜひ試してみてください。 ・ グレゴリオ聖歌 ・ ヘンデル「ハープシコード組曲」 ・ オケゲム「レクイエム」
2014年10月08日