大学卒業後、出版社などを経て独立。雑誌、書籍の編集や執筆、ウエブの企画などの仕事に関わる。道具を通じて江戸と現代の暮らしのつながりを書いた『江戸な日用品』〈平凡社〉を出版。江戸への興味や関心が高じて、ネットラジオ・ソラトニワ銀座にて江戸を切り口に東京を紹介する番組「江戸ごよみ、東京さんぽ」(月2回、水曜15時半~)を担当中。また10年来、スタイルを任せているヘアサロン店主と手掛けたメンズヘアカタログ『30代からのリアル、薄毛&白髪を活かすヘアスタイル HAIR DESIGN BOOK』(京阪神エルマガジン社)も好評発売中。
・平凡社「江戸な日用品」
・ソラトニワ銀座
・京阪神エルマガジン社「HAIR DESIGN BOOK」
時を重ねても、色褪せることなく、輝き続けるアンティーク時計。今の時計にはない凝ったデザインや繊細な細工に魅了される人は多いのではないでしょうか。とはいえデザインが気に入ってもケアやメンテナンスに不安を感じて、買うことを躊躇する人は少なくないはず。 そこでアンティーク時計ビギナーにむけて、その選び方や注意点、使いやすいモデル、ケアやメンテナンスについて、アンティーク時計を数多く扱っている時計専門店 「シェルマン」 青山店のバイヤー・ 一文字桂子 さんに教えていただきました。 ファッションやアクセサリー感覚で楽しめる アンティーク時計の魅力について、一文字さんは「今の時計にはない細やかなデザインや美しい装飾、時計としてはもちろん アクセサリー感覚 で楽しむことができます。一点ものが多く流行にとらわれないデザインだから、同じモデルを20代でも50代でも年代問わず身につけられること。そして憧れのブランドやダイヤ付きモデルが比較的お手ごろな価格で手に入ることも魅力のひとつ」と言います。 そもそもアンティーク時計とは、電池で動くクォーツ時計が主流になる以前の1920年代から1970年代前半までに作られた、ゼンマイで動く 機械式時計 のこと。とはいえ、お店でよく見かけるアンティーク時計は、50年代~70年代のものが主流。機械式時計の成熟期といわれる50年代以降の時計は、精度も安定していてモダンなデザインが多いとか。アンティーク時計ビギナーならば、50年代以降のモデルだとデイリーユースにも安心ですね。 見た目のデザインや憧れブランドだからと即決!する女性は多いそうですが、「ビギナーの方は、いろいろなモデルを 試着 することをおすすめします」と一文字さん。気に入ったデザインなのにつけると肌馴染みが悪い、逆に華やかすぎると感じてもつけると意外にシックな雰囲気に、など試着してみてイメージが変わることは多いそう。また試着時は手元だけを見るのではなく、 ファッションとの相性もチェック することを忘れずに。定期的なメンテナンスが必要なので 修理やケア体制が万全な専門店 で購入するのがベターです。 オンオフ楽しむ革ベルト、 着物に似合う紐タイプ、アクセ使いができるブレス デイリーユースしやすい3つのタイプをシェルマン青山店で選んでいただきました。 まずは、オンオフどちらのシーンでも使いやすい定番の『革ベルト』。ベルトを変えることでイメージが変わるので、シーズンごとに付け替えると新たな気分で楽しめます。簡単にベルトの付け替えができるタイプ(写真左)やベルトに本体通すロレックスのカメレオン(写真中央)などは昔から変わらず人気が高いとか。 アンティーク時計らしさが漂う『紐タイプ』。小ぶりなケースが多く、上品で繊細な雰囲気が漂う紐タイプは、浴衣や着物など和装にもあわせやすい。またラグ(※1)の形によっては革ベルトへの付け替えができるものがあります。ブランドにこだわらなければ、このモデルはデザインや細工以上にお値打ちな1本を見つけやすいとか。 ※ベルトやブレスレットをケースに連結するための接合部分 最後は『ケース&ブレスレット一体型』タイプ。デイリーユースとは一線を画す、華やかなイメージがあるものの、洗練されたデザインやシックな質感のイエローゴールドやホワイトゴールドのモデルを選べば、上質感漂う日常使いアイテムに。華奢な手元を演出するリボン状のイエローゴールドモデル(写真左)や存在感のあるデザインに知的な輝きが映えるホワイトゴールドモデル(写真右)は、アクセサリー使いのみならずオンシーンにも使える1本です。 水気と衝撃と磁気にはご注意! 2~3年に一度は専門店でフルメンテナンス アンティーク時計を使う上で気をつけたいのは、 水気 と 衝撃 と 磁気 です。基本的に、アンティーク時計は非防水なので、大雨の外出や湿気が強い場所でつけない、水仕事時は外すことを心がけてください。また衝撃には弱いので、時計をつけ外しする時に落とさないように、仕事中はデスク等に当てないように、気をつけましょう。さらに磁気にも影響されるので、電化製品が多い場所やパソコンや携帯の近くには保管しないでください。 使い終わったあとには、眼鏡拭きのような柔らかい布で時計全体を軽く拭いて保管してください。また 2~3年に一度は、時計専門店でオーバーホール (時計を分解して油をさすこと)をすることで長く楽しめます。 手元をみせる季節到来、春からのおしゃれにアンティーク時計を取り入れてみませんか? 取材協力/ シェルマン青山店 東京都港区北青山 3-6-16 表参道サンケイビル内 1Fフロア 03-5466-3786 営業時間:11:00-19:30 水曜休み
2016年03月11日漆器は、英語でJAPANと称されるように、日本美を象徴する工芸品。輝きを放つのではなく輝きを内包した光沢感が、器に上質さや品格をまとわせている気がします。 江戸初期までは貴族や大名の道具であった漆器ですが、江戸時代中期には一般市民にも普及。各藩では、漆工芸を奨励。江戸以前より産地だった、輪島、山中、越前、飛騨、会津などは、より漆工芸が盛んになります。 日本橋のたもとにある 「黒江屋」 は、元禄二(1689)年に創業の漆器店。徳川家や諸大名の御用達だったという黒江屋では、数百万は下らない蒔絵の文箱や作家ものの茶道具を見ることができます。とはいえ店内にならぶ漆器の多くは、今の暮らしに気軽に取り入れられるもの。普段使いの漆器を提案する老舗「黒江屋」にて漆器の良さや選び方を教えていただきました。 まず器の生地には、 木製 と 木粉樹脂製 があります。丈夫なうえに厚みがあるので修理が可能な木製漆器。木製(くり抜き)加工で作れないデザインや軽さが持ち味の木粉樹脂製漆器。一般的には、木製よりも木粉樹脂の素地のほうが、価格はお手ごろです。ただ、塗りの回数や工程の複雑さによっては、木粉樹脂が高いことも。どちらにも良さがあるので、使い方にあわせて選んで欲しいと言います。 また木製の漆器の良さは、熱伝導率が低いため、熱いものをいれると冷めにくく、冷たい氷水をいれると氷が溶けにくく水滴がつきにくいこと。さらに抗菌効果が高いため、昔から料理を重箱に詰めるのは理にかなっていたとか。 はじめて漆器を選ぶ場合には、産地や価格の比較ができる 専門店 を訪ねてみるのがおすすめ。自分で使う器ならばお好みで決めればいいけれど、贈り物にする場合には 決まりごと があるのでプロにご相談を。また生地が木製か木粉樹脂は、一見するだけではわかりにくいもの。だからこそ、そんなことまできちんと話してくれるお店ならば安心ですね。 お弁当箱からコーヒカップまで、暮らしになじむ漆器たち 工芸品から普段使いの器までさまざまな漆器をあつかう黒江屋で、大人女子たちに人気がある漆器をいくつかご紹介いただきました。 値段もお手ごろな拭き漆の椀は、普段使いの汁椀として人気。器を彩る木目があたたかい雰囲気を醸しだします。 モダンなのにほっこり感があるマグカップ。持ち手つきですが、熱伝導率が低いのでカップ部分を手で持っても大丈夫。同じデザインで大・小のサイズがあります。 ギフトにすることが多いカップ&ソーサー。最近は、マットに仕上げたシンプルなデザインも人気だとか。塗りのコーヒースプーンは、金属のスプーンと違って匂いがうつらないのでコーヒー好きにはおすすめ。 日本酒好きならば道具にもこだわりたいもの。塗りの片口でさしつ、さされつ、の休日はいかが?もちろんお酒だけではなく、お惣菜を盛り付けてもステキです。 会社に手作り弁当を持参する弁当男子が増えている昨今、注目アイテムが塗りの弁当箱。漆器は抗菌効果も高いのでお弁当箱にぴったり。いいお弁当箱に詰めると、おかずがおいしそうに見えるから不思議ですね。 つけおき洗いはNG、洗剤で洗って水きりすればOK お手入れが大変そうな漆器ですが、最近では食器洗浄機で洗える漆器も多いそうです。普段使いの器であれば、洗剤で洗って水きりだけしっかりすれば大丈夫。ただし塗りハゲや変形しやすくなるので、 つけおき洗いだけは避ける こと。思った以上にお手入れもラクなのです。 特別な日の器と気負わず、汁椀やマグカップを日々の暮らしにとりいれてみませんか。 取材協力/ 黒江屋 東京都中央区日本橋 1-2-6 黒江屋国分ビル2F 03-3272-0948 営業時間 9時00分~18時00分 土・日曜、祝日休み
2016年02月18日少し気合いが入る日には、お気に入りの 香水 をひと吹きして出掛けます。好きな香りに包まれると、守られるような 安心感 があり、気分が盛り上がるような 高揚感 も沸く、それは香りがかけてくれる魔法のようなもの。 さまざまな香水遍歴を経て、“私はこの香り!”と決めている人は多いと思いますが、新たな香りは気分が変わりワクワクするものです。 そこで、南米ブエノスアイレス発のフレグランスメゾン『FUEGUIA 1833』(フェギア1833)ブランドマネージャーの 武田麻美 さんに、 新たな香りの取り入れ方、香りの楽しみ方 、などを教えていただきました。 新たな香りを愉しむ、大人女子のフレグランス選び まず新たな香りを取り入れるタイミングを聞いてみると、武田さんは「香りは記憶とも直結するものなので、結婚、転職や昇進などの 転機 に新たな香りを取り入れるのはいいかもしれません。またご自身が と思っている時にもいいですね。日本は 四季 があるので、その変わり目で選ぶのもおすすめですよ」と言います。 フローラル、シトラス、グリーン、フルーティ、などいくつもある香りの系統。選ぶポイントとして、好きな系統で広げていくと失敗は少ないそう。 また、服選びと同じく香りも 試香(しこう) が大事だとか。「必ず肌にのせて試してください。30分後には、香りが落ち着きます。試香する際は、 20cmぐらい離して スプレーをし、肌にまとわせます。これは実際に使う時も同じようにしてください。近距離から肌にふきかけると、香りがつぶれてしまいます」と武田さん。 オンオフや時間帯、香水で上手に気分を切り替える 香りの楽しみ方について「意識的に オンオフ の香水を変えると気分がガラッと変わるのでいいですね。 朝 と 夜 などの 時間帯 で香りを変えることもおすすめ」と武田さん。 プロならではの使い方として「香水を 名刺 にまとわせています。お渡しした時、香りが立ち上るのが好評です。ご自身のお好きな香りで試してみてください」とのご提案も。 また香りは下から立ち上ってくるものなので「自分も香りを楽しみたい時は、 胸 や お腹 など体の 前面 にまとわせます。ほのかに香らせたい時には、 足首 や 膝の後ろ などにまとわせること」とアドバイス。 近しい関係だからこそ選べるのが「香水」 もうすぐバレンタイン、そしてホワイトデーなどギフトマンスリーが続きます。香りを ギフト として贈る場合は、どのように選んだらよいのでしょう? 「香水は、非常に パーソナル なもの。だから男女ともに贈る相手の お好みのファッション や ご本人のイメージ など細かい情報をブティックでプロにお伝えいただき選んでもらうのがおすすめです。でもおふたりで一緒に香りを選ばれるのが一番ですね」(武田さん) 誰にでもギフトできるのは「ルームフレグランス」 香水をギフトにするのはハードルが高いと思う人は、 ルームフレグランス という手も。ルームフレグランスの場合、ちょっぴり個性的な香りも喜んでもらえそう。 また寒い時期には、 キャンドル などの見た目が温かいフレグランスはぴったり。キャンドルを使う場合、一度つけたら2~3時間は連続して灯し続けるとキレイに蝋がとけるそうです。 暦のうえではもう春、新たな香りを取り入れてみるのもいいかもしれませんね。 取材協力/FUEGUIA 1833 東京本店 FUEGUIA 1833 東京本店 住所:東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京 1Fロビー内 TEL:03-3402-1833 営業時間:11:00~20:00 年中無休
2016年01月28日何かとサインで済ます欧米とは異なり、契約ごとには 判子 が必要な日本。江戸時代のことわざにも「印形(いんぎょう)は首とつりかえ」と言われ、判子は 命の次に大事なもの とされてきました。そんな諺が生まれるほど、庶民にまで判子が浸透した江戸時代。 世の中が安定して、商業も発達するなかで商取引やお金の貸し借りなどの契約の証書には、必ず捺印が求められるようになります。暮らしのなかで欠くことのできない道具となった判子。庶民の判子には、細工のしやすい柳から硬くて丈夫な黄楊まで、 木の枝 が用いられてきました。 黄楊はもちろん、桜、竹、山椒、お茶の木、灯台躑躅(ドウダンツツジ)、などさまざまな木の枝を使い、 世界にひとつ しかない 手彫りの判子 を作ってくれるお店があります。酉の市で有名な浅草・鷲神社の近くに店を構える 「伊藤印房」 。 2代目の店主・伊藤睦子さんは、東京都優秀技能者として認定された腕の立つ判子職人です。彼女が父の跡をついで判子職人として活躍しはじめたころ、業界には機械化の波が押し寄せます。そんな折、知人の箒職人から「お茶の木で作る判子がある」と聞き、 自然木 を素材にするとおもしろいかも! とひらめきます。木々に詳しい夫に頼み、お茶の木を獲ってきてもらい、試しにと作ってみたところ、なんとも 素朴で味のある判子 ができあがりました。 その判子に「干支のうさぎを彫ってみたらかわいいかな」と、うさぎからはじまり 十二支 や 花、動物 などを彫るうちに話題になり、 “小枝判子” 名づけます。 「うちの猫を」「御神輿を彫って欲しい」「孫の顔を」などオリジナルの依頼にこたえるうちに、どんどん絵柄も増えていったそう。趣味の判子としてだけではなく、絵柄の横に名前を彫ると 銀行印 として使えるのもうれしい。サイズや絵柄内容にもよりますが、依頼後2~4週間ぐらいで仕上がるそうです。気になるお値段はサイズにより異なりますが、銀行印に使える1本(1.2cm前後)だと大体¥10,000程度(税別)です。 干支、猫、兎、お地蔵さん、ほっこりかわいい絵柄判子 春生まれだから桜、竹が好きだから竹、この形がいいから躑躅、と素材を選ぶことができる小枝判子。自然木なので、その形はひとつとして同じものがないことが大きな魅力です。木の形に応じて、いろいろな絵柄のアイデアが沸くという伊藤さん。そんな伊藤さんのアイデアから生まれた定番判子をいくつかご紹介します。 漢字やひらがなで描かれた十二支シリーズは、飾り物として購入する人も。十二支あるので、これから年賀状の彩りには困ることがなさそうですね。 昔から変わらず人気がある猫柄。後ろ姿、横顔、肉球、などの猫のかわいらしい部分を表現した猫シリーズ。猫好きには、たまりません。 今年の干支である、お猿さんもいろんな表情が揃います。生まれ年の干支柄に名前を彫って欲しいという依頼も多いとか。 うさぎ、お地蔵さん、りんご、鳥などの絵柄判子はいくつあってもいいですね。 プロポーズで渡すため判子づくりワークショップを訪れる男子も! 伊藤印房では、お店でワークショップを開催しています。手ぶらで 判子づくり を体験できるとあって、大人女子にも大人気だそう。 なんとプロポーズ時に渡したいと、彼女(未来の妻)の判子を作りにやってくる男子も少なくないとか!? 婚姻契約にむけて判子を贈るのは、なんだか理にかなっていますよね。浅草寺に参拝して甘味処でほっこりして、手彫りの判子を作って、夜は名物どじょう鍋で粋に一杯! そんな楽しそうな浅草散歩コースが浮かんできます。お気に入りの自然木や絵柄の判子は、新たな年の 運気アップ につながりそうですね。 伊藤印房 東京都台東区千束1-19-4 03-3873-0489 営業時間 8時30分~18時30分 不定休 *ワークショップ(¥3,000/材料費込)は電話予約必須。
2016年01月22日ここ数年、 いつか富士山に登りたい とぼんやり思っていたのですが、そろそろ登っておかないと自分自身や自然環境の変化で登れない状況になった時、かなり後悔するかも! と感じたのが2015年の年明け。 大人女子とカワイク(ないけど)誤魔化してみても、しっかりとアラフォー世代。だけど、まだまだ “新たなこと” にもがきたくなるお年ごろ。「よし、2015年の夏は富士山でご来光を見るぞ、オーッ!」と気炎をあげて “富士登山計画”をはじめました。 山ガールでも極度なスピリチュアル乙女でもないワタクシがなぜか富士山へ!? ご来光のすばらしさ、富士登山するために準備するものなど、 山ビギナー による 富士登山記 です。 「来年こそ、富士山登山を!」 と、富士山が気になるアナタのお役にたてば幸いです。 霊峰でありながら、市民に親しまれてきた富士山 中世までは修行者しか寄せつけなかった霊峰・富士。しかし江戸時代後期には、江戸市民による民間信仰 「富士講」ブーム が起こり、富士山に登拝する人や富士塚を作り参詣する人など庶民の暮らしに富士山は溶け込んでいきます。浮世絵や芝居に描かれ人々に愛された富士は、 江戸文化の象徴 。最高峰ゆえに 神格化 と 大衆化 、そんなアンビバレンツな面を持つことになったのですね。 登山ルートは大きくふたつ、登山期間は年に2カ月のみ さて富士山の登山ルートは4つありますが、山梨県側からの吉田ルートと静岡県側からの富士宮ルートの2ルートが主流。年中登れるわけではなく、吉田ルートは7月1日~9月14日まで、富士宮含む3ルートは7月10日~9月10日が登山期間です。 1年のうちわずか 2カ月間 しか登れない最高峰。登る手段は、 個人 で登るか、 ツアー に参加するか、になります。もし私のような登山ビギナーならば、 ガイド付きツアー を推薦。ちなみに東京発の富士登山ツアーは、午前東京を出発して昼ごろ五合目・富士スバルライン(吉田の場合)に到着。休憩後に登りはじめ夕方に山小屋へ到着して夕食&仮眠。そして深夜から頂上を目指してご来光を!という流れとなります。大体どのツアーでも同じようなスケジュールです。 食事や仮眠をする山小屋は、登山期間のみの営業です。年間 2カ月 しか登れない世界遺産ですから、その期間の土日やお盆期間、八合目以上の山小屋は予約開始日(3月上旬~4月上旬)にはほぼ満室状態に。 当初は個人で登る予定だったため、4月中旬に7月3連休の予約電話をしてみたのですが、八合目以上の山小屋はすべて満室。そこで仕方なく ガイド付き富士登頂ツアー を予約したのですが、結果としてこの選択がとてもよかったのでした。 人気山小屋も予約OK、一人参加しやすい ガイド付きツアーの魅力 消去法的選択でツアー参加にしたものの、登山ビギナーの私が感じたガイド付き富士登頂ツアーの メリット をご紹介します。 メリット1:八合目以上の山小屋を組み込んだツアーが多いこと 八合目まで登っても頂上でご来光を見るために深夜2時前から2時間程度(渋滞があるので)は登ります。だから休憩や仮眠の時間をしっかりとれる八合目以上の山小屋泊にすることは、ビギナーがご来光を拝む上では重要かも。特に土日やお盆期間は、ツアー会社が山小屋を押えてしまっていることも多く、 休日 に登りたい人はツアーを活用したほうが何かとスムーズです。 メリット2:ガイドの先導で登山ペースがつかめること スタート地点である五合目の富士スバルラインで2305メートルですから(ちなみに高尾山は599メートル)、ガイドはカラダを慣らすように歩幅も小さく登っていきます。高山病対策とはいえ、ゆっくりすぎない? と思っていたのですが、カラダに負荷なく何時間も登るためのペースなのだとわかりました。 高山病対策は ゆっくり歩き と 深呼吸 が一番だとか。ちなみに我がツアーは参加者29名に、熟練登山ガイド2人、さらに添乗員ガイド1人と、かなり強力なガイド体制でした。 メリット3:一人参加がしやすいこと 私は仲間と一緒に登りましたが、 ひとり参加 している大人女子も割と多かったです。また帰路に 温泉 に立ち寄るなど、メリットは色々。価格も個人で登る場合と比較しても大きくは変わりません。 ただし登山中の2日間は、何につけても団体行動が基本。景色がいいからゆっくり休憩したい! と思ってもガイド付きのツアーの場合は難しい。そのへんが苦手と感じる人は多いかもしれません。山小屋や交通機関だけ手配するガイドなしツアーもあるので、ご自身にあった無理のない登り方を探してみてください。 まずは登山靴から揃えよう、知識も手に入る登山専門店へ さて富士登山の準備や道具についてです。山ガールではないので、登山アイテムはゼロからスタートでした。 まず揃えたのが 登山靴 です。何でもネットで買えるご時世、色々と調べたものの、結局は神田の登山専門店へ向かいました。これが大正解! 靴の履き方 、 歩き方 、アフターケア、富士山とは、など聞けば(聞かなくても)何でも教えてくれる専門店のスタッフ。プライスレスな知識を得ることができるので、ビギナーほど専門店で買うべきと実感した次第です。最初に靴を購入したのは、足に馴染ませるため。靴びらきと称し、5月、6月は高尾山や陣馬山で数回ライトトレーニング。もちろん登山後は、祝杯トレーニングも欠かしません。登る直前には、 ポケットだらけのザック (30L)も購入。 登山のためザックに詰め込んだのは、 サングラス 、 帽子 、ゴアテックスの レインウエア (上下に分かれるタイプ)、 手袋 、寒さ対策に カイロ と ダウンジャケット 、ヘッドライト 。飴やチョコレート、ドライフルーツなどのおやつ、500mlの飲料水を1本。水やおやつは、山小屋で販売している(ただし八合目の山小屋では水500mlが¥500と高価格)ので、荷物を増やしたくないなら最低限でいいと思います。 また五合目から トイレが有料 になるので(五合目は¥100、それ以上は¥200)、 100円玉を多めに用意 するとよいかも。見知らぬ人と隣り合わせで仮眠する山小屋、 マスク や 耳栓 もお役立ちでした。 ご来光はクセになる、来年に向けてトレーニング開始 登山当日は台風直後、強風と雨という厳しい天候のため登山中は常に必死でした。でも登るという行為自体は、つらいとか大変とは感じなかったです。しかし下りは「目指せ! 頂上」的なモチベーションがなくなるのと、かなり疲労困憊ぎみで六合目からが本当につらい。登りよりも 下り がつらいことをどうぞお忘れなく! 六合目付近には、五合目スタート地点まで乗せてくれる “馬” がいるので大人女子は馬活用もアリだと思います。 数年来の希望であった富士山登頂に、とても満足したワタクシです。が、まさかの再び登りたい山に変わるとは思いませんでした。暴風雨のなか死に物狂いの登り、暑すぎて倒れそうな下り、見知らぬ人のいびきに悩まされた山小屋、とできれば経験したくないことばかりなのに、あのご来光が見たい! と思いはじめている自分自身に驚きです。 さて今年の富士山は、すでに 山じまい となりました。そして来年に向けて、今から富士山トレーニングしなくちゃ、と山ガールならぬ登山オンナ気取りです。大人女子のみなさん、クセになるご来光を目指して、来年こそ富士山に登ってみませんか? *すべて2015年7月時点の情報です。登山期間などは年によって変化することもあります。登山時には、最新情報をご確認ください。
2015年09月21日まだまだ日中は暑い日が続きます。とはいえ暦の上では、もう秋。夜になれば心地よい風も感じられるようになりました。部屋に風を通しながら、お気に入りの本といただく冷たいビールや日本酒、私にとって最高に贅沢な時間です。さて、そんな贅沢な時間にいただくお酒(お酒でなくても)は、ちょっといいグラスで飲みたいもの。 花街文化に一役かった江戸硝子から生まれた お酒をおいしく飲める“うすはり”グラス ここ数年、私は松徳硝子の うすはりグラス を使っています。薄く吹かれたガラスは、口当たりや手馴染みのよさ、また氷があたる涼しげな音など、五感を刺激するグラスでお酒がさらにおいしく感じられます。ただし、お酒がすすみすぎる危険性をはらんでいますが… うすはりグラスを手掛けているのは、東京は下町・錦糸町の 松徳硝子 。大正11年に手吹きの電球用ガラス工場として創業。時代とともに、今に受け継がれる手吹きのガラス食器の製造工場へと切り替わりました。電球の製法で培った薄吹き製法に磨きをかけて、新たな商品を生み出していきます。 そのひとつが 江戸硝子 と呼ばれる、江戸の花街文化に一役かった「一口ビールグラス」。そして江戸硝子から発展させて「うすはり」が生まれました。ビールグラスはもちろん、日本酒の猪口やワイングラス、また徳利やデキャンタなど酒器の種類も増えて、多くの人に愛されるシリーズになっています。 ノスタルジックモダンな器で日本酒、 江戸切り子が彩る器でウィスキー 山口県の名酒「獺祭」の獺祭Barに代表されるように、酒蔵が手掛ける日本酒バーをはじめ純米酒だけにこだわった日本酒専門店が増えています。とりあえずビールではなく、まず日本酒から、という女性も珍しくなくなってきました。そんな日本酒好きな大人女子におすすめたしたい酒器が、今年発売された 「SUHUKI」 シリーズです。 懐かしい、でも新しい、ノスタルジックモダンな酒器たち。モールと呼ばれる模様が器を彩り、温かみのある表情をもたらします。また柔らかなおうとつは、心地よい手触りです。ひょうたん型とボトル型の徳利は、おいしく酔える一合サイズ。4種類ある猪口は、気分にあわせて選ぶ楽しみがあります。きりりと冷えた冷酒だけではなく、これからの季節はぬる燗にもあわせたいですね。 さてマッサン人気で国産ウィスキーが注目されていますが、ウィスキーがお好きな人には 松徳硝子×江戸切子 がコラボレーションした「ROCK」シリーズはいかがでしょう。自他ともに認める酒好きの松徳硝子・ 齊藤能史 さんが、日本人のためのロックグラスをと、 3年かけて作り上げたロックグラス です。 上部の薄さはキープしつつ、底に厚みを出して、ほどよい重量感を演出。ウィスキーの琥珀色を邪魔しないように、どこまで文様を入れるのかなど試作を重ねて遂に商品化。美しい切り子文様は、 堀口切子 の三代秀石である 堀口徹 さんが手掛けたもの。彫りが鮮明で華やかな江戸切子、その文様を刻んだグラスでいただくウィスキーは特別な味わいになりそうです。 サイズ感のいいガラスのお鉢は サラダや麺物、家飲み会で大活躍 グラスのイメージが強い松徳硝子ですが、昨年はじめたボウル型の器 「8 -hachi-」 も人気だそう。サラダボウルや麺物にピッタリという器は、無地と格子の2種類。友人を招いての家飲み会で、キューブチーズやかきぴーなどのお酒のつまみをドーンと盛ってもいいかもしれません。 さて松徳硝子では、月に1度、予約制にて直接工場で商品を購入できるショールームオープン日を開催しています。興味のある人は松徳硝子のウェブをご覧ください。 取材協力/ 松徳硝子 東京都墨田区錦糸4-10-4 03-3625-3511
2015年08月14日酒粕でつくる冬の飲み物という印象が強い甘酒。しかし本来は、米と米麹に水をあわせて発酵させた飲み物であり、江戸時代の書物「守貞謾稿(もりさだまんこう)」には、「京都や大坂では夏の夜だけ、江戸では年中売っている」と記されているように、もともとは 厳しい暑さを乗り切る ための 夏の飲み物 でした。 発酵食品である甘酒は、タンパク質分解酵素やでんぷん質分解酵素などの 100種類以上の酵素 が含まれ、 ブドウ糖 がたっぷりと含まれるので 「飲む点滴」 ともいわれています。また麹に含まれる コウジ酸 が肌にいいともされて 「飲む化粧水」 という人もいるほど。さらにほぼアルコール成分は入っていなので、子どもから老人まで安心して飲めるのがうれしいですね。 さて江戸の鎮守神、神田明神の大鳥居下に店を構える 「天野屋」 。幕末の弘化3(1846)年の創業以来、甘酒を作り続けています。「材料や作り方は、ほぼ昔のままですよ」とご店主・天野亀太郎氏。 蒸した米に種麹を加えて丸2日間ほど発酵させ、でき上がった麹に蒸した米と水を加えて寝かせること十数時間。おおよそ5日間かけて天野屋の“明神甘酒”は完成します。柔らかな口当たりとサラリと優しい甘味で、多くの人に愛されてきた明神甘酒。 味の秘訣を尋ねると「甘酒は 麹が命 。天野屋の麹は、店の地下6メートルにある室(むろ)で発酵をさせます。 温度や湿度が年中一定 の室で発酵させていること、また室にいる 家つき酵母 のおかげもあって、この味が生まれるんですよ」と教えてくれました。 夏のスペシャル滋養甘味、 大正生まれの氷甘酒をお試しあれ 甘酒、味噌、納豆などを製造販売する天野屋は、 甘味処 も切り盛りしています。ご店主が趣味で集めたランプや古時計、また珍しい列車模型などが飾られていて、まるでアンティークショップのような店内。夏の時期には、店に吊るされた多くの江戸風鈴があちこちで涼しげな音を鳴らしています。 レトロな雰囲気漂う天野屋には、今の季節にこそ食べて欲しい甘味があります。それはガラス鉢に注いだ甘酒に、ふわふわなカキ氷をのせた 氷甘酒 。灼熱の炎天下、干上がったカラダをひんやりじんわり癒してくれる、まさに 滋養甘味 。もちろん天野屋には氷甘酒のほかにも、イチゴやレモン、また宇治抹茶やミルク小豆など、定番カキ氷が数多く揃っています。 そして完全に暑さにバテてしまった時は、 熱い甘酒 で体調を整えるのもいいですね。自家製の久方味噌がそえられた甘酒をいただいていると、カラダがホッとするのがわかります。 砂糖代わりにヨーグルトや煮物に まろやかな甘味がでるのでおすすめ 明神甘酒の楽しみ方をお聞きしたところ、「凍らせて シャーベット状 にしても氷甘酒みたいでおいしいですし、 砂糖代わり にヨーグルトに入れても、煮物に加えてもまろやかな甘味になっておいしいですよ」とご店主。砂糖代わりに使うアイデアは、なかなか魅力的かも。またヨーグルト×甘酒は、 発酵×発酵 でさらに栄養価がアップするかもしれませんね。 江戸の鎮守神を名にいただく“明神甘酒”で、今年は夏バテ知らずで過ごしたいものです。 取材協力/ 天野屋(あまのや) 東京都千代田区外神田2-18-15 TEL: 03-3251-7911 営業時間: 10時~18時(月曜~土曜、祝祭日は~17時) 休日: 日曜日(4月~12月第1週)、海の日、8月10日~17日(夏期休業日)
2015年08月05日夏の夕暮れに、チリーンと鳴る風鈴の音は、心にまで涼しさを届けてくれます。見た目にも涼しいガラスの風鈴は、江戸時代に作られるようになりました。当初は、とても高価なもの、庶民の手に届く代物ではありませんでした。庶民が気軽に楽しめるようになったのは、明治になってしばらくしてからのことだったようです。 さて東京の江戸川区に、昔ながらの製法でガラス風鈴を手掛ける 工房・篠原風鈴本舗 があります。江戸風鈴と名づけられた、ガラス風鈴の魅力についてお伺いしてきました。 大正4年の創業から、4代目へと続く江戸風鈴 幕末のころ、旗本務めの御家人が内職としてはじめたガラス風鈴。その技術を受け継ぎ、大正4年に初代・篠原又平が創業した篠原風鈴本舗。工房で手掛けるガラス風鈴を 江戸風鈴 と名づけた2代目、それを受け継ぎ発展させた3代目。そして今では、4代目の篠原由香利さんや古参の職人が中心となり工房を切り盛りしています。 江戸風鈴は、とけたガラスをガラス棒でまきとり息を吹き込みながら風鈴形に仕上げていきます。空中でふくらます製法は、 宙吹き と呼ばれていて、この技術を習得するだけでも数年はかかるそうです。 また涼やかな音色と絵柄を楽しむ風鈴。江戸風鈴では、いい音が鳴るようにと鳴り口の部分を ギザギザ に仕上げています。また絵柄は、金魚や朝顔などの定番柄以外に、 ラメ細工の花柄、切り子細工、東京の夜景を描いたアート風鈴 など、毎年新スタイルを続々発表。1000円代の風鈴から 10万円代 の風鈴まで、さまざまな風鈴が作られています。 金魚、切り子、夜景まで 江戸や東京を感じさせる風鈴 4代目・篠原由香利さんに定番から新スタイルまで、人気の風鈴をいくつか選んでいただきました。 まずは定番の 金魚 と 紫陽花 。昔から風鈴の柄として好まれてきた金魚柄のガラス風鈴は、三代歌川豊国の 「二十四好今様美人 金魚好」 (文久3年製作)にも描かれていて、江戸時代から人気柄だったことがわかります。またお客さまからのオーダーで絵柄に加わった 兎 も人気が高いそうです。 切り子職人 とコラボした切り子風鈴。青、赤、緑、などの彩色ガラスの風鈴は珍しいので、 東京土産 として、または シーズンギフト におすすめです。 東京の街を描く風鈴を作り続けている4代目・篠原由香利さんが手掛けた 東京花火 。夜の東京を花火が彩る、絵画のような風鈴です。 子どもも大人も喜ぶ! キャッチ―なウルトラマンシリーズ 江戸、東京を感じさせる粋な絵柄が多いなか、 ウルトラマン とのコラボ風鈴が登場!まるまるしたウルトラマンや ピグモン はどこかかわいく、 ダダ もなかなかイケています(笑)。子ども向けというよりは、サブカル好きな大人がよろこびそうですね。 昔は軒下に吊るした風鈴ですが、今はカーテンレールにS字フックをつけて風鈴を吊るすのが主流だとか。また卓上や玄関に風鈴を飾りたい人は、篠原風鈴本舗が鉄職人にオーダーしたシンプルな アイアンフレーム もあります。 オリジナル風鈴を楽しめる ワークショップはいかが? 篠原風鈴本舗では、風鈴作りを体験できる ワークショップ も人気だそう。宙吹きや絵付けなど、職人さんに教えてもらいながら オリジナルの風鈴作り が楽しめます。8月のワークショップ詳細は、篠原風鈴本舗のサイトをチェックしてみてくださいね。 篠原風鈴本舗は、拙書『江戸な日用品』(平凡社刊)にてご紹介しています。 取材協力/ 篠原風鈴本舗(しのはらふうりんほんぽ) 東京都江戸川区南篠崎4-22-5 TEL: 03-3670-2512 営業時間:9時~18時 休日:日曜・祝日
2015年07月27日昨今の日本美術ブームをうけて、江戸のポップアートと称される 「浮世絵」 に注目が集まっています。2014年に開催された「大浮世絵展」は、3館(江戸東京博物館、名古屋市博物館、山口県立美術館)で来場者数約38万人という大盛況ぶり。 また葛飾北斎(かつしかほくさい)や娘の葛飾応為(かつしかおうい)を描く、杉浦日向子原作の漫画 「百日紅」 (さるすべり)が映画化されるなど、どうも “浮世絵” が キテいる 感じなのです。 そこで浮世絵専門美術館の 太田記念美術館 で、浮世絵の魅力や楽しみ方、一万四千点もの所蔵作品から大人女子に観て欲しい浮世絵を教えていただきました。 江戸市民が生み育てた芸術だから 大人女子が共感する部分も多い 浮世絵は、江戸市民が生み育てた芸術。だから描かれた題材に親近感や共感が持てることが魅力のひとつだと言います。浮世絵には、様々な江戸が表現されていますが、なかでも多いのは 美人画 、 風景画 、 役者絵 の3つの題材です。 美人画には、 美人の変遷がわかる楽しみ があります。髪型はもちろん、顔の造作やたたずまいが時代によってまったく違うのが面白い。また吉原の花魁を描いたものだけではなく、真剣にお化粧をする町娘、浴衣で夕涼みする色っぽい芸者、旬ものをおいしそうに食べる遊女、など江戸市民の日常を描いた作品も多いのです。 今と変わらぬ江戸女の日常 を観ているとなんだか親しみが湧いてきます。 美人画を画期的な手法で表現したのが 喜田川歌麿(きたがわうたまろ) です。彼は、胸元から上をクローズアップする手法 (大首絵) をはじめて美人画に用いた浮世絵師。表情には心の機微まで表現された美人画は、庶民の心をつかみ爆発的に売れたと言われています。 「百日紅」で北斎宅の居候として出てくる 溪斎英泉(けいさいえいせん) 。「百日紅」では葛飾応為に絵が下手と揶揄されたこともある英泉ですが、美人画の名手として名を馳せます。ちょっとあだっぽい美女がお得意。高価な紅を重ねづけて玉虫色に光らせる笹紅に、眉をつくっている女性の姿を観ていると、ふわっと白粉の香りが立ち上ってきそうです。 今の風景と重ねる面白さ 風景画で江戸へタイムトリップ 美人画や役者絵より後に人気となった風景画。地名が記されているので、 今の風景と重ねる楽しさ があります。歌川広重が描く江戸の名所絵を観ていると、赤坂は桐畑だったこと、浅草寺や日本橋は今と同じく賑わっていたこと、江戸ではどこでも富士が見えたことなど、発見だらけ。大きく変わった町並みや光景と重ねながら、 江戸の町へタイムトリップ ができちゃいます。 描き損じの絵に囲まれた家で暮らし、ゴミ屋敷になるたび引っ越しを繰り返したとされる 葛飾北斎(かつしかほくさい) 。そんな暮らしから生まれたとは思えぬ、ダイナミックで斬新な構図の 「冨嶽三十六景」シリーズ 。特に波と富士山の色と形のバランスがすばらしい「神奈川沖浪裏」は、ひと目見たら忘れられない作品です。 北斎の風景画と並び称される 歌川広重(うたがわひろしげ) 。力強い筆致の北斎に対して、 抒情的な表現 が持ち味です。なかでも雨、雪、夜景を描いた作品には、秀作が多いといわれます。 「名所江戸百景 日本橋雪晴」 は、雪が降った翌日の晴れ渡る江戸市中が描かれた作品。真っ白な富士を愛でながら雪かきする江戸市民の姿が浮かんできます。 一枚の浮世絵を通して 江戸の人々との対話を楽しみたい 役者絵は、江戸市民のアイドルだった歌舞伎役者が描かれたもの。昔から市川団十郎は目が大きく、松本幸四郎は彫の深い顔立ちなど、今に続く名跡の顔や雰囲気が 似ている点を探しだすのが面白い 。ほかにも愛らしい動物、恐ろしい妖怪、事件や風俗が描かれた浮世絵からは、江戸市民が何に興味を持ち、どんなことを楽しんだのかがわかります。 絵を通して彼らと対話 している気分になってきます。 赤穂浪士の仇討は「仮名手本忠臣蔵」として歌舞伎や人形浄瑠璃で演じられ、その物語は江戸の人々を熱狂させました。この作品の役者絵は数多いのですが、役者を蛙に描き変えた奇才・ 歌川国芳(うたがわくによし) の「蝦蟇手本ひやうきんぐら」は観ておきたい一枚。ユーモアセンスや批評眼に優れた国芳は、動物などを人に見立てた作品が多く、大の猫好きだったので猫の浮世絵が数多くあります。 明治初期の作品ですが、 四代目・歌川国政(うたがわくにまさ) 「しん板猫のそばや」は、猫が蕎麦屋で楽しむ様子を描いた浮世絵。かけともりが八十文であること、膳の上で食べていること、当時の蕎麦屋が見える一枚ですね。 ご紹介した浮世絵ですが、雑誌や書籍ですでに観たことがある作品かもしれません。しかし絵の迫力、摺り色の妙、彫の細やかさ、は印刷物ではなかなか伝わりにくいもの。また浮世絵は退色もしやすいため、保存状態のいい本物の作品に触れて欲しいと思います。 今キテいる、江戸のポップアート“浮世絵”を観に行きませんか。 取材協力/ 太田記念美術館 東京都渋谷区神宮前1-10-10 03-5777-8600(ハローダイヤル) 開館時間:10時30分~17時30分(入館は17時まで) 一万四千枚の所蔵作品を持ち、常にオリジナリティの高い展示を仕掛けている太田記念美術館。大盗賊や悪女、侠客を題材にした「江戸の悪」展(2015/6/2~6/26)や「浮世絵の戦争画」(2015/7/1~7/26)が近日開催予定。
2015年06月22日江戸では、旧暦5月末に隅田川の川開きがありました。この日から江戸は夏気分、市民は屋形船で隅田川に繰り出して花火や夜店を楽しみました。また川辺で涼をとる人々も多く、 ゆかた姿で夕涼み する女性の姿は錦絵にも描かれています。 今年もそろそろゆかたでお出掛けしたくなる季節に。そこで、大人女子に人気が高い 銀座三越・呉服バイヤーの浅子堅一郎さん に、最新ゆかた事情や着こなし術を教えていただきました。 伝統×モダンな色柄がトレンド 昼も夜もゆかたで街へ繰り出そう 最近は、伝統的な色柄に モダンな要素 をプラスしたゆかたが増えてきていると言います。銀座三越が提案する今年のゆかたは、大胆な花文様、伝統的な紫陽花柄×太めなストライプ、ペイズリー柄や絵更紗柄のオリエンタルな総柄など、 ファッション性の高いゆかた が揃っているそうです。 花火やお祭りなど夏の夜を彩ってきたゆかたですが、夜のイベントだけではなく日中の外出やレストランなどの会食へ着ていきたいという女性が増えているとか。そんな声を受けて銀座三越では、襟をつけて、帯には帯締や帯留をあしらい、足袋をはくという 着物風な着こなし を提案しています。 古典スタイルは花火や祭りへ かれんスタイルでランチ女子会 銀座三越が提案する、大人女子に着て欲しい最新ゆかたコレクションを4つのテーマ別にご紹介します。 ひとつめは 『古典スタイル』 、これは 伝統的な柄をモチーフに したスタイルです。生成り地に紫のテッセン柄が涼感をさそいます。伝統柄にパステル系カラーの帯を選ぶことで、ふんわりとしたかわいらしい印象に。夕方から夜にかけての 野外イベント にお出掛けする際におすすめです。 ふたつめは、人気の高い花柄を大胆に取り入れた 『かれんスタイル』 。大人女子に着て欲しいゆかたは、藍染を思わせる濃紺地に大輪の菊が咲き誇る一枚。シンプルかつモダンなゆかたは、大人のかわいらしさを演出してくれます。襟をつけて、帯締や帯留をあしらい、着物風にも着こなせます。涼やかなレース足袋をはけば、 ランチ会食 にもぴったりです。 ネオ古典にアーバン、スタイルも多彩! 夏のファッションアイテムとして楽しみたい こちらは、素材にこだわった 『ネオ古典』 スタイル。絹に似た高級感のある新素材ゆかたは、吸湿速乾性が高く 自宅で洗濯が可能 です。白地に大ぶりな紫陽花柄×太い縦ストライブのシャープな柄合わせのゆかたは、すっきりと見えるので 着痩せ効果 がありそう。濃紺×薄紅というメリハリの効いた帯でモダンにまとめるのが◎。 最後にご紹介するのは、 『アーバン』 スタイル。 日中ショッピングやレストランでの会食 など、着物風に楽しめるゆかたです。なかでも絵更紗柄があしらわれた一枚は、上質感のあるシックな雰囲気。落ち着いた薄紅の帯には、ゆかた柄の色をとりいれた帯締や帯留をあわせて、品のある着こなしに。足元には夏らしいレース足袋を選んで。 夜のイベントはもちろん、女子会、レストラン、ショッピングと、小物や着こなしを変えることでいろんなシーンで楽しめるゆかた。 夏のワードローブのひとつ として考えたいですね。 取材協力/ 銀座三越 銀座三越では、ゆかた選びを楽しめる「銀座ゆかたガーデン2015」を開催中。参加費無料のお茶会やゆかたヘアアレンジ講座などのイベントも予定。 ※2015年6月30日(火)まで9階テラスルーム、7月1日(水)~27日(月)8階催物会場 7月28日(火)~8月16日(日)9階テラスルームにて。
2015年06月17日実用とおしゃれを兼ね備えたサングラスは、これからの季節欠かせないファッションアイテムのひとつ。なんとなくデザインだけで選んでしまいがちなサングラス、でもサイズやレンズカラーなどで掛け心地が大きく変わるって知っていますか? そこで大人のためのスタンダードなアイウエアを提案する眼鏡店 Continuer(コンティニュエ) にて、サングラスの選び方やこの夏の新作を教えていただきました。 デザインはもちろんだけど サイズ感やカラーも大事なのです 最近のデザイン傾向は、ややビッグシェイプでボリューム感あるデザインが主流ではあるものの、スリムでフェミニンなフレームデザイン、レトロでファッショナブルな丸型など、ファッショントレンド同様に細分化されてきているとのこと。お好みなデザインのサングラスはもちろんですが、ファッション性が強いアイテムなので、ちょっぴり冒険したデザインを選んでみることもサングラス選びを楽しくするポイントだそう。 そして洋服と同じように必ず フィッティング をすること。実際にかけてみるとサイズ感や掛け心地によってイメージと異なることも多いとか。その上でプロにみてもらい、かけ位置などを調整してもらうことが大事。プロが調整することで、今まで似合わないと思っていたデザインが、意外としっくりすることも多いそうです。 さらにサングラスは、同じデザインでも レンズのカラー によってイメージが大きく変わります。ブルーやグレーなどの寒色系レンズだとややハードな印象になり、ブラウン系だとソフトな雰囲気になるとか。またイメージだけではなく、レンズカラーと 瞳の色の相性 もあるそうなので、そのあたりはプロに相談を。 リュクスな肉厚ボリューム系から デイリーなスリムモード系までずらり この夏、おすすめしたいサングラスをコンティニュエで選んでいただきました。 モードかつクラシカルな雰囲気の丸型サングラス。やや個性的に感じるデザインですが、華奢なメタルフレーム使いのものならば、顔馴染みもよく柔らかな印象に。トレンド感あるデザインだから、いつものスタイルがファッショナブルに感じられそう。 クリアピンクのフレームでフェミニンな印象を与えるボストン型サングラス。メタル使いのブリッジやカーブのないフラットレンズなど精巧なディテイールが上質さを醸します。デイリーからリゾートまで幅広くカバーできそうです。 ポッテリした肉厚系フレームのサングラス。フランスの伝統的なブランドだから、ヨーロッパのヴィンテージを思わせる重厚さや高級感のあるエレガントさが漂います。リゾート感たっぷりなシチュエーションにピッタリですね。 ほどよいボリューム感と丸みのあるシェイプのサングラス。ウエリントンとボストンの中間のようなデザインは、クラシカルでありアクティブな雰囲気。男女ともに人気のあるデザインだそう。 トレンドだけではなくスタンダードを意識したシャープなウエリントン型のサングラス。スリムなフレームで軽やかなタイプだから、気負わずにデイリー使いできそう。セルフレーム、コンビネーションフレームなど、2型5色から選べるのがうれしいですね。 掛け慣れていない人ほど センスのいい眼鏡店で選びたい 最後に、サングラスを掛け慣れていない人(選び慣れていない人)ほど、ブランドショップや百貨店のシーズンフロアではなく、デザイントレンドや機能性などの話をしてくれる 眼鏡店 でサングラスを選ぶことをおすすめします。私自身、サングラスをコンティニュエで購入したのですが、瞳にあうカラーレンズ選びやフレーム調整を手掛けていただいたので、掛け心地がすごくいい1本になっています。 今年は、お気に入りのサングラスで楽しい夏をお過ごしください。 取材協力/ Continuer(コンティニュエ) 東京都渋谷区恵比寿南2丁目9-2 1F 03-3792-8978 営業時間 12:00-21:00 休日 水曜日
2015年06月11日団扇で夕涼みする姿は、夏の風物詩ですね。団扇は、奈良時代に中国から伝わり平安中期の書『和名類聚抄』には唐で作られた宇知波(うちわ)との記述があります。道具として古い歴史を持つ団扇ですが、庶民に普及したのは、紙や竹材を使って大量生産できるようになった江戸中期以降のことです。 広重、豊国、国芳とコラボ 江戸市民が待ちわびた江戸うちわ 地域特産の和紙を使ったもの、ひとりの職人が型から絵まで描くものなど、日本各地の特色を打ち出した団扇は夏を彩ってきました。さまざまな団扇がありますが、江戸の団扇といえば日本橋生まれの 「江戸うちわ」 です。 江戸きっての繁華街、日本橋には和紙や竹材を商う店がたくさんありました。そんな店が自然に作り始めたといわれる江戸うちわ。世界に先駆けて百万人都市になった江戸、そんな江戸市民に向けてですから大量生産は必須です。仕様を簡略化するため持ち手や骨を1本の竹を割いて作りました。また人口密集で熱気がこもりやすい江戸の町ゆえに涼をとりやすいように形状も大きめだったそうです。 そんな江戸うちわを道具から嗜好品へと変えたのは、今も日本橋で団扇や扇子を商う 「伊場仙」(いばせん) 。天正18(1590)年を創業年とする伊場仙は、 徳川家 に竹や和紙を収めていました。その材を使って団扇や扇子を手掛けるようになります。江戸後期には、初代の 歌川豊国 や 歌川国芳 、 歌川広重 などの絵師の版元になり、錦絵を刷り込んだ 「浮世絵団扇」 を考案。絵師の描く歌舞伎役者や花魁、日本の名所が刷り込まれた団扇は大当たり、江戸市民のみならず江戸土産として京や大坂の人に喜ばれたそうです。昭和30年代ごろまで店で団扇を作っていた伊場仙ですが、今ではその技術を踏襲する千葉・館山の職人さんにお任せしているそうです。 大人女子が注目する、竺仙とのコラボ団扇 江戸薫る浮世絵団扇、気軽に使える手拭生地の団扇など、さまざまな団扇を商う伊場仙。大人女子におすすめしたい団扇をご紹介します。 大人女子の人気ナンバーワンは、竺仙(ちくせん)の浴衣地で作られる団扇たち。 竺仙ブルー と称される青の生地から仕立てられる団扇は、見た目に涼感が感じられます。花や蝶などの身近なものを染め抜いた柄も竺仙ならでは。新作柄の浴衣は新調できなくても、団扇ならば気軽に楽しめそうです。 手拭生地 で作られた団扇も人気。洒脱で遊び心のある、斧琴菊(よきこときく)や弁慶格子などの柄は江戸っぽさを醸します。サイズが小さめでお手頃な価格なので、夏のプチギフトにいい。かくいう私自身、仕事仲間や友人へ贈る夏の定番ギフトになっています。 手拭生地の柄長タイプ(踊り団扇仕様)は、デスクのペン立てやラックに差しやすいのでオフィス用に購入する人も多いそう。金魚や竹林など見た目に愛らしく涼しげな柄は、仕事のストレスをちょっぴりやわらげてくれるかもしれません。 浮世絵シリーズ復刻版。歌舞伎座などで販売していて、海外からの観光客がお土産に購入していくそうです。軽くてかさばらず、道具にも飾り物にもできる、そう考えるとお土産にぴったりですね。江戸土産として喜ばれた江戸うちわが、時を経て日本土産に! 私も浮世絵シリーズを一枚持っています。お値段が張るのでもったいなくて道具使いできませんが、初夏から夏にかけて部屋に飾って楽しんでいます 日本の暦に根ざした古からの道具 毎年五月には、新作の団扇や扇子で賑やかに彩られる伊場仙。「本来、団扇はいつごろまで使うものですか?」と伊場仙でお尋ねしたところ「七月いっぱいかな」というお答えでした。少し早いように感じますが、旧暦の秋は七月から始まります。日本の暦に根ざした道具だということを実感しました。 暦は皐月、まだまだ団扇に頼れますね。あおげば涼し江戸の風です。 伊場仙のうちわは、拙書『江戸な日用品』(平凡社刊)にてご紹介しています。 取材協力/ 伊場仙(いばせん) 東京都中央区日本橋小舟町4-1 03-3664-9261 営業時間 10:00~18:00(土・日曜のみ11:00~17:00) 休日 土日曜・祝日(5月~8月末まで土日曜営業)
2015年05月26日春前はスプリングコートが、花見時期は白いシャツが、というようにその季節になると気になるものってありますよね。毎年、初夏の時期に気になるもの、それが “ゆかた” です。ゆかたは、もともと貴族が湯あみ時に着ていた 湯帷子(ゆかたびら) が語源ともされ、庶民に普及したのは江戸中期以降と言われています。 歌舞伎役者の衣装で話題に 江戸ッ子も飛びついた 「竺仙」のゆかた 江戸の浴衣文化にひと役かったのは、木綿生地に柄を染め抜いて舞台衣装や普段着とした歌舞伎役者でした。当時のスーパーアイドルだった役者の衣裳を真似て人々はすぐさま同じ柄の着物を作ったと言われています。 そんな歌舞伎役者たちに個性的な浴衣をプロデュースしていたのが、天保13(1842)年創業の 『竺仙』(ちくせん) 。俳句や絵画に通じていた初代は、自ら考案した型染めの衣装を歌舞伎役者や江戸の俳人たちに提案。彼らが好んで着たことで、江戸市民がこぞって買い求めたと言われています。 昔と変わらず今も、竺仙の“ゆかた”は、多くの女性の憧れのまと。毎年千種類もの新作を発表しています。そこで竺仙5代目・小川文男さんに、似合う一枚を選ぶコツを聞いてみると「 顔うつりがいい色柄を選ぶこと 、それにつきます」とごくシンプルなお答え。 重ね着で変化をつけられる洋服とは違い、色柄のみで勝負するゆかたは、顔の雰囲気とあうかが大事と言います。さらに色柄の顔うつりは、着物のプロに指南いただくのが一番。着物のプロがいるお店で、いろんな色柄をあててみて、似合う一枚を選びたいですね。 伝統と革新の絶妙なさじ加減 お出掛けしたくなる “大人ゆかた” 7選 ここ数年、竺仙では萌黄色(もえぎいろ)や鴇色(ときいろ)などの優しい色柄のゆかたが人気。新鮮なのに奇抜ではなく、トラディショナルでありながら古くはない、竺仙ならではのさじ加減。そんな絶妙なセンスのゆかたは、大人女性を虜にしてやまないのです。花火や夜祭りだけではなく、街にも出掛けたくなる、大人ゆかたをご案内いただきました。 夏空に映える、爽やかな 瑠璃色 のゆかた。お馴染みの朝顔柄は、秋草が彩ることで落ち着きある雰囲気に。朝顔の花弁を絞りのように染めている繊細さも魅力です。 紺白で染め抜かれた大胆な 牡丹柄 。柄と同じく華やかな髪飾りや履物でポップに着こなしたり、伝統的な紺白の色遣いを活かして品よくまとめるのもいい。そんなダブルな楽しみがある一枚です。 手織り紬のような独特の風合いの綿生地に引き染めによる緑の染料で 唐草柄 を染めだした一枚。オリジナリティを大事にしたい大人の女性にはぴったりです。 江戸時代初期から越後で織られてきた麻織物 「小千谷ちぢみ」 。麻素材が持つ涼感と縮布独特のシャリ感、そしてふんわりと優しい色柄は、盛夏のお出掛けにいい。江戸市民が愛した縞柄は、小粋な夏を演出してくれます。 『江戸好み』シリーズは、男女問わず人気柄。よく知られている 「斧琴菊(よきこときく)」 は、代々音羽屋・尾上梅幸の使っている江戸文様。 福をからめ捕る、すくい取る吉祥柄 「網目」 や、吉原の手引茶屋の暖簾柄 「吉原繋ぎ」 は人気が高いそうです。花火や夜祭り、夏の夕涼みに似合うゆかたです。 『江戸好み』以外のシリーズは、襟をつけてカジュアルなお出掛け仕様にしてもすてきですね。 ※仕立て代は1万3千円~3万円程度、ゆかた生地と手縫いか半ミシン縫いによって異なります。 お出掛けは足袋、胸元すっきり和装下着 “美しいゆかた姿” でいるためのあれこれ 美しいゆかた姿のポイントを、いくつか教えていただきました。胸元がすっきりまとまるので 和装ブラジャー をつけること、そして帯を締める前の下ごしらえをキチンとすることは、着物ビギナーに必ず伝えているそうです。胸の大小にかかわらず、 和装仕様の胸元へ補正してくれる ので和装ブラジャーは必須です。そして足元は、裸足でも足袋でも歩きやすい 草履げた がおすすめとか。さらにお昼のお出掛けや食事に出掛ける時は、 足袋 をはくと品よく見えてベターです。 今年の夏こそ、着ているだけで格上げしてくれる、江戸なゆかたはいかがでしょうか。 取材協力/ 竺仙(ちくせん) 東京都中央区日本橋小舟町2-3 TEL:03-5202-0991 営業時間: 9:00~17:00 休日: 土日曜・祝日(4月~7月まで土曜営業)
2015年05月11日ポカポカな春のご陽気に誘われてお弁当を持ってどこかに出掛けたくなりますね。お弁当の語源ですが、「当座の用を弁ずる」ことで“とりあえず空腹を満たすためのもの”という意味が込められています。平安時代には、弁当の原型であるにぎり飯を包んだだけのものがあったりしたそう。 空腹を満たすことには変わりありませんが、今では料亭弁当や有名駅弁など “とりあえず” ではなく “お楽しみ” な存在 として様変わりしたお弁当。今回は、形を変えながらも、今なお昔の味を楽しめる『江戸っ子弁当』をご紹介します。 江戸の味を気軽に堪能できる 創業160余年、日本橋弁松総本店 あまたあるお弁当ですが、江戸が色濃く薫るお弁当を知っていますか? それは日本橋に店を開いて、凡そ160年になる 『日本橋弁松総本店』 のお弁当です。 江戸が世界に先んじて百万人都市となり、江戸の町人文化が華ひらきはじめる文化文政時代。文化7(1810)年に、日本橋に樋口与一が開いた食事処。盛りいいと人気をよび、魚河岸で働く男たちで賑わいをみせていました。 でも時間に追われる河岸の男たちは、大盛りの飯や菜を残しがち。そこで残ったご飯や菜を包んで持ち帰らせたところ、それが評判に。それならと三代目松次郎が食事処を畳んで、弁当専門店を嘉永3(1850)年に開業。弁当屋の松次郎を略した愛称、 『弁松』 がそのまま屋号になりました。 今に残る弁当専門店として、日本一の歴史を持つ『日本橋弁松総本店』。そんな弁松の一番のこだわりは、砂糖と醤油をたっぷりと使った 『甘辛の濃ゆい味』 。江戸から続く味と言いますが、なぜこのような味に? 弁松八代目・樋口純一さんによると「日持ちするようにとか、砂糖が高価な時代なので見栄を張りたくさん入れた江戸ッ子気質、魚河岸の肉体労働者に向けた弁当なのでカロリーを高く味つけをはっきりさせた、など諸説いろいろ」あるとか。 確かに煮物や焼き物は、かなり甘めです。でもこの甘さが病みつきになっている人も多いとか。かくいうワタシもそのひとりです。 「江戸から続いてきたこの味は、好き嫌いがはっきりとわかれます。毎日食べるお弁当ではなく、嗜好品として召し上がって欲しいです」と樋口さん。しかし160年以上にわたる歴史を紡げたのは、好き嫌いが分かれるほど突き抜けた個性派弁当だったからでしょうね。 甘煮と書く “うまに” から 締めスイーツ豆きんとんまで さて『甘辛の濃ゆい味』の折詰弁当を彩る、江戸の味をいくつか見ていきましょう。 まず「野菜の甘煮」ですが、甘煮と書いて “うまに” と読ませる煮物。素材を別々に煮て合わせる煮物ですが、甘くて濃ゆい味にするために普通の煮物に比べると手間も時間も三倍はかかるそうです。 そしてお弁当の王様「玉子焼」。ふんわりと柔らかく、だしの効いた玉子焼。なんと当日の未明からその日に入れるものを焼いているとか。また今でも手焼きで焼いているそうです。 「蛸の桜煮」は、江戸百人一首に『雪と見る笹折詰の弁当は月の玉子や花のさくら煮』と詠まれている、弁松ならではの味。じっくり煮込み桜色になった蛸に吉野葛の餡をからめます。柔らかくて、サクッと噛みきれる蛸。でき上がるまで3日間かかるだけあります。 弁松スイーツとの呼び声が高い「豆きんとん」。おせち料理でお馴染みのきんとんは、「金団」と書き「財をなす」意味ですが、弁松は “豆きんとん” ですから「豆に働いて財をなす」という意味だとか。甘煮、甘い玉子と続いて、最後の締めは甘い豆きんとんで。 弁松弁当で使われる折箱は、昔ながらの経木で作られています。経木とは、薄くスライスした板のこと。昔は、紙の代わりに杉や檜の板にお経を書き留めたことから、そう呼ばれています。底板まで木を使っている折箱は、今では珍しいそうです。蓋を開けた瞬間、木の香りが漂うのも弁松ならではの味わいです。 歌舞伎、相撲、寄席など 江戸文化とあわせていただきます! 嗜好品として楽しんで欲しいと八代目が語る、弁松の折詰。どこでいただいてもおいしいのですが、江戸文化が薫る場所やシチューションでいただくと気分があがること間違いなし! 個人的に、歌舞伎を観に行く際には、近くの百貨店で仕入れて幕間に楽しんでいます。お花見はもちろん、寄席や相撲を楽しみながら、隅田川くだりの船内なんてのもオツですね。 『甘辛の濃ゆい味』と江戸文化を楽しむ、そんな行楽はいかがでしょうか? 取材協力/ 日本橋弁松総本店 東京都中央区日本橋室町1-10-7 03-3279-2361 営業時間/9:30~15:00 (土・日曜、祝日~12:30) 休日/無休(正月休み除く)
2015年04月30日日に日に日差しが強くなってくるこの季節、実用性とおしゃれを兼ね備えるファッションアイテムが“帽子”ですね。しかし「似合う帽子がない」、「うまく取り入れたいのだけど…」という帽子に積極的になれない大人女子は多いとか。 そこでクラシカルなスタイルながらも、レースやリボン、刺繍を用いて大人女子の心をときめかせる帽子ブランド「Sugri(スグリ)」を手掛けている佐々木恭子さんに帽子の選び方や楽しみ方を教えていただきました。 第一印象を大事に 躊躇せずに被って試して 洋服と違って帽子は選び慣れていない人が多いと思うので、と前置きしたうえで「顔型だけで『この帽子は似合わない』と決めてしまう人がいらっしゃいますが、顔型よりも 頭の形や額とのバランス が帽子との相性を決めます。カタチは同じでもツバの長さによって似合うこともあるので、気になるものはどんどん被って試して欲しい」と佐々木さん。 ステキ!と思ったら、 躊躇せずに被ること が帽子選びのキホンのキです。 また洋服選びと同じように、シーンやスタイルにあわせて帽子を選ぶことをすすめています。 「海や山へ出掛ける時、ちょっぴりいいお店で食事をする時、どちらのシーンでも被れる帽子って難しいですよね。TPOやあの服にあわせたいと焦点を絞ったほうがステキな帽子に出会えるはず」(佐々木さん) アレにもコレにもあわせたいと思うと、結局どちらにもあわせ難かったり…。欲張らずに シーンやスタイルを決めて選ぶ ことが大事なようです。 そしてピピッときた第一印象は大切にして欲しいと言います。 「ひと目で“いいな”と心が動いたものって、人からおすすめされたものよりも断然被る回数が多いはず。そうすると自然と似合うようになってきます」(佐々木さん) デイリーユースな天然素材系から スペシャル感の高いチュール系まで 今の時期、大人女子におすすめしたいSugri(スグリ)の帽子やカチューシャを佐々木さんに選んでいただきました。 帽子ビギナーが取り入れやすい天然素材系帽子から3スタイル。 ラフィアのソフトハットは、甘辛スタイルどちらも使える優れモノ。夏のカジュアルスタイルを格上げする上質感あるモットルのサイドアップブルトン。またリゾートにぴったりなコーサイ麦のキャプリンは、海や山のお伴に。素材の上質さ、形の豊富さ、リボンの幅や巻き方など、Sugriの天然素材系帽子は大人女子の心をつかむこだわりが詰まっています。 チュールやお花のコサージュ使いでドリーミィな雰囲気に包まれた、クチュール感の高い帽子から2スタイル。 おしゃれして街へ出掛ける時、または華やかなパーティシーンなど、心を弾ませてくれる美しい帽子たちです。 インドシルクを使った新シリーズもおすすめとか。フロントはキャップスタイル、バックはスカーフを海賊巻き風に。 光沢あるインドシルク、蝶のモチーフ、たっぷりとしたスカーフが、エレガントなカジュアルさを演出してくれます。折り畳めるので、旅行やアウトドアシーンにいいですね。 子どもっぽくなったり、華やかになりすぎたり、大人女子のカチューシャ選びは難しい。でもリボンやレースの装飾ながら、華美になりすぎずデイリー使いできるSugriのヘアアクセサリー。 おしゃれな大人女子におすすめです。 お気に入りのものを身につけて 家事や仕事を楽しい時間に 最後に佐々木流帽子の楽しみ方とは? 「お出掛けする時はもちろんですが、モノによっては家で用事をする時や仕事をする時にも被ります。お気に入りのものを身につけると、それだけで気分が楽しくなりませんか?なんだか作業自体が楽しくなってくる。だからドレスアップした時だけではなくて、お気に入りのものほどデイリー使いして欲しいですね」(佐々木さん) 日常から非日常まで、あらゆるシーンで大人女子の心をときめかせてくれる帽子をSugriで探してみてはいかがですか? 取材協力/ Sugri(スグリ) 東京都目黒区青葉台3-19-9 第2久保ビル 4F TEL: 03 6416 5232 営業時間: 12:00-19:00 休日: 月曜日 *2015年4月24日(金)~26日(月)まで着物や小物のデザインを研究する、さく研究所と帽子ブランドSugriとのコラボイベントが中目黒Sugriにて開催します。また佐々木恭子さんによるコサージュ作り、帽子×着物展など、さまざまなイベントを予定しているので最新情報はHPをチェックしてください。 **すべて2015年4月17日の情報(価格・商品)になっていますので、予告なく変わることもあります。
2015年04月22日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生れた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品“江戸な日用品”をご案内していきます。 大奥からも愛された江戸屋の化粧刷毛 日本橋大伝馬町にある「 江戸屋 」は、将軍家お抱えの刷毛師だった初代が享保3(1718)年に 徳川家 より屋号を賜ったという由緒ある老舗。 レトロな看板建築に誘われて店に足を踏み入れれば、昔ながらのショーケースや籠に洋服ブラシやヘアブラシ、天井からは多種多様なブラシや刷毛が吊るされています。そんな店内は由緒ある老舗というより親しみやすい町工房のような雰囲気が漂っています。 さて江戸時代の 刷毛 といえば、暮らしに深く関わっていた道具。漆刷毛、染色刷毛、木版刷毛、糊刷毛、化粧刷毛と、目的に応じたさまざまな種類の刷毛がありました。また素材になる毛は、山羊、鹿、豚、馬、人毛など特性をいかして使い分けられてきました。 器、着物、家作りと職人には欠かせない道具であり、また一方では婦女子の必需品だった刷毛。だから将軍家お墨付きである江戸屋の刷毛は、職人から町娘まで大変な人気だったそうです。特に化粧刷毛は、品質のよさから大奥の女性たちが絶賛していたとか。 明治時代を迎えると、西洋からブラシが入ってきます。西洋のブラシを参考にして江戸屋ではブラシ製造をスタート。刷毛作りの技術を活かして、歯ブラシや洋服ブラシといった生活道具から工業用ブラシなどの特殊ブラシまで多種多様な道具を生みだしていきます。刷毛からブラシへ伝統の技は受け継がれ、今では 三千種類を超える 刷毛やブラシを商う店になりました。 春だから手に入れたい、江戸屋の定番名品たち 新学期、新生活、いくつになっても新たなスタートを感じる春という季節。そんな季節だからこそ手に入れたい江戸屋の道具があります。 陽気に誘われて外出の機会も増える春。そんな時、コートやスーツを洋服ブラシでサッとはらって出掛けると、気持ちまでシャンとするもの。もし洋服ブラシをお持ちでないならば、江戸屋の 手植え万能ブラシ はいかがでしょう。 素材選びから職人が行い、コシ、ツヤ、硬さとすべてに納得した上質な豚毛のみを使用。ひと束、ひと束を手植えする洋服ブラシは、力を入れてこすっても 生地が傷みにくい そうです。少し値が張りますが、いいお洋服を着ている大人の女性ならば、いい洋服ブラシを持つことも嗜みのひとつ。フォルムもチャーミングな洋服ブラシは、粋なギフトとしてもおすすめです。 メイクが変わる春、大人の女性ならば化粧品だけでなく化粧道具も見直したいですね。やわらかく肌なじみのいい 山羊毛のブラシ は、なめらかな質感の肌へと仕上げたい時にぴったりのフェイスブラシ。 コシのある 馬毛のブラシ は、肌にポンポンとのせるチークブラシに最適。今年流行の ナチュラルな太眉に仕上げやすい のは、弾力性が高くコシが強い ムジナのアイブロウブラシ 。口元を決めるのは、日本古来の馬毛を使用した 紅筆 か イタチ毛のリップブラシ で。新たな道具で春メイクもますます楽しめそうです。 キーボードや珈琲ミルに使えるお掃除ブラシに注目! 最近、話題になっているのが 孫の手ブラシ だそうです。握りやすいヒノキの棒に少し硬めの馬毛ブラシがついているのですが、これがとっても使いやすい。ただ 手仕事の道具 ゆえに大量生産ができず、今は予約販売スタイルで展開中だとか。 今回私が注目したのは、 キッチンや水廻りに使えるお掃除刷毛 です。珈琲ミルやパソコンのキーボードのお掃除にちょうどいいニッチなアイテムです。 江戸の暮らしを支えた道具に磨きをかけて、時代にあわせた新たな道具を手掛けてきた江戸屋。いつの時代も愛される日用品が揃っています。 取材協力/ 江戸屋(えどや) 東京都中央区日本橋大伝馬町2‐16 03-3664-5671 営業時間/9時~17時 休日/土日曜・祝日
2015年03月25日国内外の古道具や民芸、現代作家の道具を扱う「toripie(トリピエ)」。大阪の下町、九条にあるお店は、古いインドの布や韓国のスッカラ(真鍮製の匙)、江戸時代の酒瓶や現代作家の器やアクセサリーなど国や時代を越えた道具が並びます。 江戸時代の酒瓶には花を活けて、アフリカの古い祭具はオブジェとして、今の暮らしになじむ古道具スタイルを提案しています。好きが高じて古道具を扱うようになったトリピエの店主・鳥越智子さんに古道具の魅力、その楽しみ方、暮らしへの取り入れ方について教えていただきました。 使っていた人の暮らしを想像する楽しさ 人々が生活で使っていた道具には、人の手を介したあたたかみといつかはその人から離れていく物寂しさやせつなさがある。そのあたたかさとせつなさは、 道具を道具以上の存在にかえる 、だから鳥越さんは古道具に惹かれると言います。この腕輪はどんな女性が身につけていたのか、このポットでどんなティータイムを過ごしたのか、用途だけではなく使っていた人の暮らしを想像する楽しさは、古道具の魅力のひとつなのです。 鳥越さんは、興味があっても古道具を買うことに慣れていない人には 自分の好きなジャンルの物をひとつ買ってみる ことおすすめしています。ファッション好きならばアクセサリーや布、料理や器に興味があるなら皿やグラス、部屋を飾るアイテムが好きならばオブジェに使える道具など、使うシーンが多いことで道具への愛着がわいてくるとか。鳥越さん自身もアクセサリー、そして布や器、オブジェなど、と興味を広げていったそうです。 自由に見立てて暮らしに取り入れたい 古い徳利や器を花器にしたり、古い瓦をトレイにしたり、韓国の飯椀を小物入れにしたりと、本来の使い方ではなく自由に遊べる面白さも古道具の魅力。古道具を暮らしに取り入れるトリピエ流の見立てを提案していただきました。 幕末から明治期に瀬戸で作られていた徳利は花器使いに。シャビーシックな風合いでデコラティブなお花がよく似合います。また花器のトレイにしているのは、東北地方で使われてきた古い瓦。薄い瓦なので菓子盆などによく使うそうです。 幕末や明治初期に使われていた陶器製の炬燵。火鉢を置いていた部分に飾り物を置いてオブジェとして使用。キャンドルを入れて火を灯してもいい雰囲気。道具の性質上、耐火性があるのがうれしい。 熱燗がすすみそうな酒杯は、仏製の陶器でつくられたエスカルゴカップ。茶卓使いや小皿使いも楽しめる江戸時代の襖の引き金具にのせて。 モロッコで買い付けたピューターのポットと中園晋作のカップ&ソーサーで寛ぎのティータイムを。インドでお布施時に使っていた道具をティートレイに。 アフリカの祭事で使われていた木製の祭具は、棚や壁にオブジェとして飾りたい。素朴なかわいさやプリミティブな力強さは、空間の和洋問わずなじむとか。 古道具のなかでも、きちんとお手入れしてから使いたい器や酒杯などの食器類。陶器の皿や酒杯は、中性洗剤で洗ってよく乾燥させてから使用を。漂白剤は、色や風合いが大きくかわったりする恐れがあるので、使わないほうがよいとか。また壊れやすいので保管時は、布を巻くなどしてカバーをすること。真鍮製の器や匙は、水あとが残りやすいので洗浄後は布でふいて、定期的に磨き粉で磨いてあげると長持ちするそうです。 蚤の市では気になる店をじっくり攻める いろんなタイプのお店を楽しめるのが、各所で開催している蚤の市。蚤の市では、道具や雰囲気が気になるお店を数店舗に絞ってじっくりと見て欲しいと鳥越さん。店主といろいろと話しをすることで掘り出し物が出てくる可能性が高いとか! 古道具は、一点ものが多いので一期一会、気に入ったら買うべし。だからこそ道具の背景、使い方、お手入れ方法など、どんなことでも遠慮なく店主に聞いて欲しいそうです。 センスひとつで新たな道具になる、それが古道具です。 取材協力/ toripie(トリピエ) 大阪市西区九条2-9-14 TEL: 090-9991-7802 営業時間: 13:00~19:00(木~土)
2015年03月18日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生れた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品“江戸な日用品”をご案内していきます。 誰もが知る“たわし”を生んだ亀の子束子 たわしを知らない人はいないと思いますが、使ったことがない人は結構いるのではないでしょうか。かくいう私自身、たわしを使いはじめたのはここ数年のこと。拙書にて亀の子束子・西尾商店に取材をしたことがきっかけとなり、今では台所に欠かせない道具となっています。 さて藁や棕櫚(シュロ:椰子科の常緑高木)の毛を束ね作っているから、その名がついたという“たわし(束子)”。江戸時代以前から洗浄道具として使われていました。そんな束ねた形状を誰もが知っている丸い形へと変えたのは 「亀の子束子・西尾商店」 でした。 江戸後期に棕櫚縄業を営んでいた西尾家は、明治期に入り棕櫚縄を使った家庭用品を手掛けるなかで、女性の手におさまる丸い形のたわしを開発。洗浄力の高さと丈夫さでプロの料理人から主婦までじわじわと広がり大ヒット商品になったそうです。 大ヒットしたたわしですが、時代を経てナイロン製スポンジが洗浄道具の主流になり、その姿を見る機会が減ってきました。しかし昔ながらの愛好家はもちろん、エコでかわいいという新たな“たわし”ファンが少しずつ増えてきているようです。そこで昨年末にオープンした「亀の子束子・谷中店」で“たわし”の選び方や使い方などをあらためて教えていただきました。 何を洗う?どう使う?用途で変わる選び方 たわしは、ざるやカゴなどの目のあるもの、包丁やおろし金のように刃のあるもの、まな板やすり鉢のように溝があるもの、などの調理器具にもっとも適した洗浄道具。そして食材を洗うのもおすすめ。大根やごぼう、さといもなどの根菜の泥落としや薄皮を剥いたりするのにもぴったりです。 亀の子束子には、 パームヤシ、棕櫚、サイザル麻 と3つの自然素材のたわしがあります。適度な硬さがあるパームヤシのたわしは、 鍋の焦げを落とす、ザル目に入りこんだ汚れを落とす、また根菜の皮を取り除きたい時には威力を発揮 するそうです。そのかわり繊細な器、テフロン製やホーロー製器具の洗浄には向いていないとか。 強度と柔軟性がある棕櫚のたわしは、 木のまな板(細かい溝)、曲げわっぱなど木製道具や根菜の皮を残して洗いたい時におすすめ 。わりと繊細な道具や器にも使えるので、ひとつあると便利な万能選手。また籐やあけびで編んだカゴを暮らしに取り入れている人も多いと思いますが、このカゴのほこり落としにも棕櫚のたわしが効果的。ツヤ出し効果も期待できるそうです。 柔軟性があり吸水性も高いサイザル麻のたわしは、 鉄製の調理器具やテフロン加工のフライパン、また優しく洗えば繊細な食器にも使えます 。さらに汚れの吸着がいいので洗剤要らず。また素材の白さを活かし、まん丸なベーグル型という愛らしい仕様にしたことで、台所はもちろん、モダンなキッチンにもすんなりとなじみます。 キッチン経由玄関行き、道具として使いきる お手入れについてですが、たわしに入り込んだ汚れはたわしで取るのか一番だそう。だから購入する際、サイズ違いでふたつ買っておくのがおすすめ。そして使い終わったらしっかり乾燥させることが大事。週に数回は、ベランダや軒先に吊るして天日乾燥させましょう。 洗い心地が悪くなればスニーカーの泥落とし、玄関のたたきやベランダの床掃除など最後まで 道具として使いきることができるのも魅力 です。亀の子束子・谷中店では、たわしの選び方や使い方を丁寧に教えてくれるので、谷中散歩ついでに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。 取材協力/ 亀の子束子・谷中店 東京都台東区谷中2-5-14 C店舗 03-5842-1907 営業時間/11:00~18:00 休日/月曜日(祝祭日の場合は翌火曜日) 公式サイト
2015年02月12日神戸の六甲にある「フクギドウ」は、暮らしの道具を扱うお店。手になじんで心地いい、手仕事の器や生活用具などが、7坪の小さな店にぎっしりと並びます。それらはどれも店主自らが“使いたい”と感じる作り手や窯元を訪ねて仕入れる器や道具たち。 目利き店主のセンスに魅了されて関西圏はもちろん東京、山陰や四国などの遠方からファンが訪ねてくることも多いとか。そんなフクギドウ店主に大人の女性におすすめしたい器を選んでいただきました。 煮物、汁物、お茶づけも“小どんぶり”で “小どんぶり”の名称がぴったりな五寸(直径15cm程度)のお鉢。1人前の汁物や煮物を盛りつけるのにもいいし、小腹がすいた時にお茶漬けや麺物をサラッといただける絶妙なサイズ感。 小どんぶりには、沖縄の焼き物である“やちむん”がおすすめ。やちむんには、あたたかさや大らかさがあり、和洋何を盛っても受けとめてくれるとか。やちむんが気になっているならば、“小どんぶり”からはじめるのがいいかもしれません。 お酒から花器まで遊べる“片口” 片口とは、片側に注ぎ口がついた器。口があるだけで、こなれ感がでるから不思議です。はじめて使うならば4寸(直径12cm)ぐらいが使いやすいとか。このサイズだとお酒はもちろん、料理や花などを飾っても様になるそう。 そんな片口でおすすめは、小鹿田焼き。シンプルで主張しない、でも存在感がある、そんな片口です。 料理上手にみえる“スリップのお皿” 絵が描かれているので食卓が華やかになるスリップのお皿。何をのせてもおいしそうに見せてくれるのでホームパーティなどにはぴったりです。また高温で焼きあげるため直接オーブンで使える器が多いそう。 フクギドウのイチオシは、文様と形が絶妙なバランスの小代焼・井上尚之さんのスリップ皿。はじめて使う人は、あまり小さなものではなく、文様の魅力を堪能できる20cmぐらいの皿を選んで欲しいそう。 意外に使える“ピッチャー” 水差しとしての用途はもちろん、鍋の出汁やそうめんや蕎麦のつゆをいれたり、ポット代りに珈琲を落としたり、焼酎の割物をいれたり、季節の花を飾ったり、いろんな使い方ができるピッチャー。サイズは15~20cmぐらいが使いやすいそう。 自身もピッチャーを使う暮らしをしている、お料理好きな作家・斎藤十郎さんのものは、使い勝手と形状のバランスがいいとフクギドウ店主が太鼓判を押します。 必ずおいしく見える魔法の器“そばちょこ” 蕎麦つゆだけでなく、カップや小鉢、アイスクリームなどを入れてデザート器使いなど、幅広く使える“そばちょこ”。多くの作り手が手掛けていますが、フクギドウが提案するのは、石川硝子工藝舎の硝子のそばちょこ。石川硝子工藝舎の硝子の器は、少し黄味がかったハチミツのような色あい。だから入れたものが、ますますおいしそうに見える魔法の器だそうです。 手仕事の器は、同じように見えてもひとつひとつ違います。見て触れた瞬間にコレだ!と感じた器を選ぶのが一番、多少の難があっても結局は長く使うものになるというアドバイスも。 今、暮らしに取り入れたい器をぜひ見つけてみてはいかがでしょうか。 取材協力/ フクギドウ 兵庫県神戸市灘区八幡町 3-6-17 六甲ヴィラ1F TEL 078-767-0015 営業時間 10:00~17:00 休日 日曜・祝日*企画展中は無休 公式サイト
2015年02月09日竹製のカゴや箒、トタンのちりとり、アルマイトの急須、天然ゴムの長靴など、どこか懐かしい日用品の数々。丈夫で長持ちして、使いこむほどに味が出てくる、そんな普段使いの生活道具を「荒物雑貨」とよび、商っているのが日本橋馬喰町の荒物問屋・松野屋です。 店主・松野弘さんは、日本各地の小さな町工場や職人を訪ね歩き、大量生産のプラスチック製品や安価な輸入品におされ、風前の灯となっていたアルミやトタン、天然素材の“荒物雑貨”を見出して光をあててきました。 「シンプルで使い勝手がよくて買いやすい、そんな昔ながらの生活道具を多くの人に使って欲しい。そしてそれらを生み出す日本の町工場や職人のモノづくりへの取り組み、その技術力の高さを伝えていきたい」と話します。 そんな松野さんに大人の女性にオススメな荒物雑貨をいくつか選んでいただきました。 愛らしいデザインを作る職人たちの技 竹、あけび、籐など、いろんな素材で様々な編み方があり、それが地域の特色にもなっているかご。松野屋では、各地の職人が作っている多くのかごやざるを扱っています。 「インドネシア産の籐を使い長野県の職人が編んでいるタマゴ型かごは人気。洋服にもいいけど和装にあわせてもすてきですよ」と松野さん。 編み込んでできる格子模様、ころんとした形状もかわいい、カゴビギナーにも使いやすそうです。 独特の風合いがあるアルマイト製も人気商品。「デザインも愛らしいアルマイトの急須は使いやすいですよ。たっぷりとお湯が入っても、アルミ製だから軽い。熱いお茶が入った急須は、ドーナツ型のワラ釜敷きの上に置くとかわいい」と松野さん。 ワラ釜敷きは、新潟は佐渡のおばあちゃんとお嫁さんがふたりで作っているとか。「藁を綯ってひも状にして編んでいくんです。綯って編んで、と美しい網目にするために嫁姑が協力しながら仲良く作っています」と教えてくれました。 職人の厚口グラスはパリでも人気 飲み屋の厚口グラスと酒受皿は、松野さん行きつけの居酒屋でも使っているのだそう。 「グラスは福島、皿は山形で作られています。厚くて丈夫でカタチもかっこいいでしょう。熱いモノをいれても持ちやすいし冷めにくい。お茶を淹れてもいい」と絶賛。なんとパリのセレクトショップ、メルシーでも置いているそう!美意識の高いパリ市民も認める荒物です。 気に入った道具が暮らしを変える 掃除だけでなく、お花を活けたり、小物入れに使いたいトタンのバケツ。「大阪の町工場で作っています。使いやすさを重視した無駄のないカタチは、どんな空間にも馴染みますよ。また持ち手が木製ってなかなかないんです」。 大人が使う弁当箱には、木曽漆器の曲げわっぱ弁当箱を提案。木曽の檜材とさわら材で作られ、漆拭で仕上げたお弁当箱は、水分をほどよく吸ってご飯が腐りにくい。「昔からの木曽漆器の産地で職人が作る曲げわっぱ弁当箱。糊も留め具も天然素材でできています。ちょっと高いかもしれませんが、外食ランチを少し我慢すれば買える。長く使えるものだから、結局節約にもなるでしょう」。 酒杯で家飲みが楽しくなったり、弁当箱で食生活を見直したり、バケツに野花を飾ってみたくなったり、気に入った生活道具は暮らしを楽しく変えるきっかけになってくれます。選んでいただいたものは、松野屋で扱う荒物雑貨のホンの一部です。荒物ワールドを知りたい人は『あらもの図鑑』(松野弘編/新潮社とんぼの本)を、東京・谷中にある「松野屋」ショップを覗いてみてください。無骨なのにチャーミングで、懐かしいのに新鮮な荒物雑貨に出会えます。 ※価格やデータはすべて取材時(2014年12月)のものとなります。 取材協力/ 谷中 松野屋 東京都荒川区西日暮里3‐14‐14 03-3823-7441 営業時間 11時~19時(土日祝10時~) 休日 火曜 公式サイト
2015年02月04日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生れた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品“江戸な日用品”をご案内していきます。 江戸薫る染め小物屋のトートバック 染め小物の「濱甼高虎(はまちょうたかとら)」は、江戸時代の「紺屋」が前身です。時代が変わるなかで、紺屋から染元として呉服卸へ。そして昭和50年代の後半から染め小物を仕立て商う店となりました。神輿や祭り好きな諸兄から好まれる袋物や袢纏(はんてん)、そして暖簾に手拭までを手掛けています。 江戸好きを魅了するお店なのですが、今回ご紹介するのはデイリーユースにぴったりなオリジナルのトートバッグです。江戸意匠を染め抜いた袋物で知られている濱甼高虎ですが、6年ほど前からトートバックをつくりはじめました。 「今までの袋物とイメージが異なりますが、今の暮らしにあう袋物を作ろうと4、5型ぐらいからはじめたんです」と濱甼高虎オリジナルトートの生みの親・髙林 晋さん。しかし作ってみると思った以上に反応はよく、口コミなどで少しずつ広がり、今では手拭や袴、刺子などの生地で仕立てた20~30種のトートバックが店頭に常時並んでいます。 オーダーメイドで自分好みの仕立て 大人女子にご提案したいのは、オーダーメイドで仕立てる刺子地のトートバックです。手拭地や袴地で作るトートバックもステキなのですが、デイリーユースでガンガン使うには丈夫な刺子地がおすすめ。 ちなみに江戸時代の火消しは、刺子の頭巾や袢纏で消火にあたったそうです。命をかけた現場で身を守れるヘビーデューティな生地として刺子は重宝されていました。 また耐久性に優れているものの、濱甼高虎の刺子地は柔らかいので手や肩に持った時の肌触りも気持ちいい。そしていかにも和モノという雰囲気にはならず、今どきのカジュアルスタイルにしっくり馴染みます。 オーダーする場合、まずは表生地から選びます。色は、白、黒、赤、緑、紺、紫、ねず、と7色(白は、染めなしの刺子地)揃っています。最近では、単色だけではなくバイカラーやトリコロールのデザインも人気だとか。 表生地、サイズ、持ち手の長さ、裏生地、ポケット有無など、いろんな仕様を相談しながら決めていきます。 ただジッパーなど通常使わない付属品は、オーダーといえどもご遠慮いただくそうです。価格はサイズにもよりますが大体1万円~2万円ぐらい。製作期間は、大体1カ月ぐらいだそうです。 江戸の心意気を東京のライフスタイルへ 伝統の技や江戸の心意気を継承しながらも、今の暮らしに取り入れられるものを発信していく濱甼高虎。 「トートバックといっても袢纏や暖簾などを仕立てる時と、染工法など技術的な事は何も変わりません。大量生産しているわけでもなく、職人がひとつひとつ手作業で作り上げています」と髙林さん。 1年がスタートするこの時期、私だけの“トートバック”を作ってみませんか。 濱甼高虎(はまちょうたかとら) 東京都中央区日本橋浜町2-45-6 03-3666-5562 営業時間/9時~18時(土曜は~17時) 休日/日曜・祝日
2015年01月29日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生まれた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品“江戸な日用品”をご案内していきます。 老舗和紙専門店で学ぶ“包む”というお作法「折形」 日本の礼法のひとつである 折形(おりがた) 。お金やモノを渡す際に、そのまま渡すのではなく、紙を使ってお金やモノを包む方法のことです。 平安時代、貴族の間では物を贈る際には紙で包んでいたとされています。室町時代には武家礼法のひとつとして折形が確立、江戸時代には武家礼法の大家・伊勢貞丈が折形を紹介した『包結図説』を出版しています。貴族文化から武家礼法へ、そして紙が安価になった江戸時代には庶民の間にも広がっていきました。 江戸は文化3(1806)年に日本橋に創業した、 和紙専門店の榛原(はいばら) 。今も変わらず日本橋に店を構え、和紙や千代紙、祝儀袋や水引、便箋にハガキなど、和紙関連の品々がずらりと並んでいます。 江戸後期から明治初期には 柴田是真 や 河鍋暁斎 などと親交を得て数多くの作画を依頼します。大正時代には 竹久夢二 が、今でいう榛原の ブランドデザイナー を務めた時期もあったとか。力を入れているオリジナル図版の復刻シリーズによる便箋やハガキなどは、大人女子の間でも人気です。 そんな榛原では、明治後半から大正期に雛形(ひながた)を販売していました。それらは文章類、衣服類、祭事類、粉薬味類など10項目にもわたり、そのなかには10~20種類もの折形が入っています。江戸時代に庶民の間に広がった折形は、やがて 女性のたしなみのひとつ になり、花嫁道具として母から娘へと贈られたそうです。 しかしながら10項目もあり、項目ごとに10種以上にもわたる折形があるなんて、一度では覚えられそうにありませんね。 いまは、どんなものでもお店で包装してもらえて、祝儀袋やぽち袋がどこでも手に入ります。そんな時代だからこそ、 自分で作った折形に手紙や贈り物を包んで欲しい との思いから、榛原では月に1回程度のペースで折形のワークショップを開催しています。参加者は、折形自体を知らない世代のほうが多いとか。 一枚の紙を折ることで、 熨斗袋(のしぶくろ) になり、ポチ袋になり、箸袋になり、と変わっていくことに新鮮な魅力を感じる人が多いそうです。 ここで簡単なのし袋の作り方を教えていただきましたのでご紹介します。まず正方形の紙(*今回は榛原の「色ふち紙」を使用)をご用意ください。 ・三角形に折り、それを横半分に折ります ・三角形の山を上に折りあげ、その半分をさらに折りあげます ・(4)の状態から(2)の状態まで戻し、線Cで上の紙だけを折りあげます。線Bを山折り、線Aを谷折りにします。 ・下も同様に折ると、のしができます。のしを残し、両端を後ろに折ります。のしを右側にして、上の折りたたみを下の折り込みに入れて完成 実際に作ってみると、慶事のみに使うためのしの位置は必ず右側、背面は上の折りたたみを下に入れる、という基本的な決まり事があるのがわかります。 熨斗付き折形には、 差し上げるものの意 がありますので、自分で作ったとはいえ借りたお金を入れて返してはいけません。お祝いの手紙やお年玉などを入れるようにしてください。 興味をもたれた方は、専門書籍を読んでみたり、榛原のワークショップにお出掛けください。相手のことを考えながら贈り物を折り包む、たまにはそんな時間を暮らしのなかに取り入れたいですね。 取材協力/ 榛原(はいばら)TEL 03-3272-3801 東京都中央区日本橋2-8-11 旭洋ビル2階 営業時間 月曜~金曜 10時~18時半(土曜~17時) 休日 日曜・祝日 公式サイト
2015年01月20日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生まれた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品“江戸な日用品”をご案内していきます。 江戸市民が愛した「江戸箒」(えどほうき)とは? 年末モードも高まってきましたが、年末といえば大掃除。江戸の町では、寛永17(1640)年以来ずっと江戸城の煤払いにあわせて、12月13日に一斉に大掃除が行われていたそうです。 大店(おおだな)と呼ばれるような商家では、高張提灯をたて店員総出で大掃除にとりかかっていたようです。その様子は、江戸の祭礼や行事をまとめた『東都歳事記』にも描かれています。夕方には掃除を終えてみんなで湯屋に出掛け、夜はご祝儀酒で盛り上がる。慌ただしい年末の楽しい商習慣だったと思います。それは年末の最終出社日に行う大掃除プラス納会のようなものですね。 さて江戸の大掃除に活躍した道具といえば、江戸の町で作られていた 江戸箒 だったはず。この江戸箒を今に伝えるお店が、東京は京橋にある 白木屋傳兵衛 です。天保元(1830)年創業の店には、昔と変わらない材料や作り方で箒職人が作りあげた江戸箒が並んでいます。 江戸箒の特長を聞いてみたところ 「シンプルな装飾、軽くてコシがあること、小ぶり」 という3点を挙げてくれました。江戸市民が装飾性よりも実用性を好んだこと、また庶民たちが暮らす長屋は狭かったので小ぶりな仕様になったと言われています。 音や排気を気にせず、いつでもお掃除 今の時代、箒を買いに来るきっかけって何なのでしょうか?掃除機が壊れたから、赤ちゃんがいるから、日中に掃除ができないから、生活工芸品として気になるから、昔使っていたから、その答えはさまざま。確かに、どれだけ音が小さくなったとはいえ集合住宅に住んでいる都市生活者は、深夜や早朝に掃除機は使いにくい。赤ちゃんがいるなら音もそうですが排気も気になるはず。 だから掃除のために箒を選ぶ、という人が増えているのは理解できます。そして掃除道具であるものの、どんな空間にも馴染むシンプルなデザインの江戸箒は、暮らしや道具にこだわる人にとって魅力的に映るのかもしれません。 白木屋傳兵衛には、長短2種類(江戸長柄箒¥12,960~、江戸手箒¥6480~)の江戸箒があります。はじめて箒を購入する方には、短いタイプから試してみることをおすすめしているそうです。ワンルームを掃くぐらいならば短いので十分だとか。 箒で掃除をするメリットは、自分の都合で掃除ができることはもちろん、床を傷めない上に自然素材同士なので畳やフローリングの風合いを引き出すことができる、という点があります。また掃き清める行為自体、スッキリして気持ちがいいものです。 暮らしにあわせた道具を選びを 白木屋傳兵衛では、卓上用の小箒(¥1,026)や洋服払いの箒(¥1,836)なども販売しています。仲の良い友人や会社の同僚へのちょっとしたお歳暮やお年賀に贈るのもいいかもしれません。 そして使っていない箒で妊婦のお腹をなでると安産祈願にもなると昔から言われていて、安産祈願とかかれたミニ箒も売られているので、由来を含めてプレゼントすると喜ばれそうです。 新たな年からは、道具にあわせた暮らしではなく、暮らしにあわせた道具を選べるようになりたいものです。 取材協力/ 白木屋傳兵衛 東京都中央区京橋3-9-8 白伝ビル1F フリーダイヤル /(0120)375389 (ミナゴミハク) 営業時間 / 月曜~土曜 10:00~19:00 休日/日曜、祝日 公式サイト
2014年12月19日粋で洒脱、でも使い勝手にすぐれた江戸の日用品。京や大坂で生れた道具は、江戸という町で暮らす人々の好みや仕様にあわせた道具へと作り変えられてきました。江戸の道具と暮らしとのかかわりをまとめた拙書『江戸な日用品』から、今の暮らしに取り入れたい東京の逸品 “江戸な日用品” をご案内いたしましょう。 新年からは、握りやすくつまみやすい「江戸木箸」を 師走を迎えるこの時期は、手帳やカレンダーを新調したりするだけではなく、古びてきた日用品も買い変えたい、なんて思いますよね。特にお箸は、年末になると今まで使っているお箸がなんとなく古びて見えてきて新しいお箸が欲しくなります。 私の箸選びの基準といえば、素材やデザインぐらいだったのですが、5年ほど前に大黒屋の 江戸木箸 に出合ってから、日常的に使うお箸は江戸木箸と決めています。握りやすさとつまみやすさというお箸の機能が、食べ物の味を大きく左右するとわかったからです。なぜ握りやすく、つまみやすいのか、追ってお話していきますね。 まずは 大黒屋 のご紹介ですが、墨田区は曳舟に工房を構える箸の専門店。「生の根源である食を口に運ぶ道具だからこそ、ひとりひとりの手に馴染む箸を」と店主・竹田勝彦さんが考案した江戸木箸が店内にずらりと並んでいます。黒壇(こくだん)や鉄(てつ)木(ぼく)など堅い木を削りだして、素材の風合いを活かした江戸木箸は、三角から九角まである角箸、また丸形、小判、変形と、さまざまな形状のものがあります。 ラクにつかめて手も疲れにくい「角箸」 いろんな形状がありますが、おすすめしたいのが 「角箸」 (¥6,480/税込~)シリーズ。私自身が使っているお箸は、「角箸」シリーズの 八角箸 です。大黒屋では丸型の柔らかさに角をつけて握りやすくした八角箸からはじまり、指三本で使う道具だから奇数形状が手に馴染むと五角箸へと発展させます。さらに五角の握りやすさに八角の柔らかさを加えたいと、完成させたのが七角箸でした。 七角箸は、誰の手にもなじむと評判を呼び、著名人にもファンが多いとか。しかしながら七角箸は、三六〇度では割りきれないために作るのは容易ではなく、箸先のぎりぎりまで七角に削りだすのは至難の業(わざ)。「熟練の職人ですら、何度も息を止めて仕上げをするんですよ」と竹田さん。この箸先の仕上げによって、つまみやすさがまったく変わるそうです。 また角箸は、どれも先にいくほど細くなっていきますが、先が細いと握る部分を大きく開かなくても箸先があうので 食べ物がラクにつかめて手も疲れにくい とのことでした。 服や靴を試着するように、お箸も“握って”選ぶ 竹田さんは「箸は道具、食べ物や状況にあわせて替えて欲しい」と話します。卵かけご飯やお茶漬けなどかきこんで食べるための「卵かけご飯箸」(¥972/税込)は、先端が平らに削られていて握ると小さな匙のようになります。 また最近のヒット箸は、握力の弱い老人や子どもでも使いやすい「楽ちん吸いつき箸」(¥2,160/税込)です。七角にした握り部分は、特殊な塗装をして滑りにくく加工しているとか。今秋発売ながらも口コミで広がり全国各地から注文がきているそうです。手をケガした際はもちろん、長時間パソコンに向かって手が疲れてしまいお箸が持ちにくくなる方にはピッタリかも知れません。 「箸は自分専用の道具なのに、家族が購入したものやデザイン優先で購入したものを使っていることが多い。服や靴を試着して買うように、江戸木箸は 触って握って手にしっくりとくるもの を選んで欲しい」と竹田さんは言います。新しい年に向けて、自分だけのこだわりの箸を見つけるために東京の下町に出掛けてみるのもいいかもしれません。 取材協力/ 江戸木箸 大黒屋 東京都墨田区東向島2-3-6 TEL:03-3611-0163 営業時間/月曜~土曜 10:00~17:00 休日/日、祭、第2・3土曜日(年末年始、夏季休暇あり) 公式サイト
2014年12月11日