■正しいファーストシューズの選び方は?
――ファーストシューズから意識していかないといけないのですね。どのようなものを選ぶといいのですか?
寺杣さん:ファーストシューズの定義というのも曖昧ですよね。生まれてすぐの記念に買えばファーストシューズと呼べるのですが、日本の場合は、家の中で靴をはかない文化なので、外で歩くための靴、初めて買う外ばきがファーストシューズでいいと思っています。
ファーストシューズ選びには、いくつかポイントがあります。歩き始めたばかりの赤ちゃんは、ひざを曲げてバランスがくずれないように、足と足の間隔を広くして支持面積を大きく取り、左右にぶれながら歩きますよね。まだバランスをくずしやすいので、靴底の幅が広く安定性のあるものがいいですね。
外は家の中みたいに必ずしも平らではなく、普通の道路であっても傾斜が付いていたり、デコボコしたりしています。ソールがふにゃふにゃしていると足を支えられなくなってしまうので、しっかりしたものがいいのです。
でも、ソールがしっかりしているだけではダメなんです。足指の骨の付け根は、それぞれが曲がるから歩行できます。その部分と靴の曲がる位置が合っているものを選びましょう。
指の骨の付け根がしっかり曲がるものを選びたい
――ハイカットの靴はどうですか?
寺杣さん:ハイカットは動きにくいんじゃないかという声もあるのですが、ハイカットをはかせて運動機能のテストをしてみると、まったく遜色がないという論文もあります。
確かに、ハイカットはローカットより足首の可動域が狭くなりますが、今は守りながら足をきたえるというのが私たちの考えです。骨の配列を守るために足首をガードしながら、たくさん遊ぶ。それでもちゃんと筋力がついてくるんですね。また、革靴だと土ふまず、足首、かかとの部分がよりフィットするんです。
――スニーカーはクッションがあるので良さそうですが…。
寺杣さん:今、お年寄りの靴で、ソールのクッションがあり過ぎることで骨刺激が失われてしまうという問題が懸念されていますが、子ども靴にも同じことがいえます。また、それと同様に、赤ちゃんが転んだら危ないからと、室内にジョイントマットをしく家庭が多いですが、実はそのほうがかえって危ない場合もあります。
赤ちゃんは倒れてバランス感覚を養っているんですね。赤ちゃんの足はぽっちゃりしていますが、あれはやわらかい骨を保護するためにたくさん脂肪がついているんです。あの脂肪だけで十分なんですよ。
日本は過保護的なところがあり、それが靴にも影響されています。脱ぎはきが多い文化なので、特に小さい子は、それを親が手伝いますよね。
そのため、親が簡単に脱ぎはきさせられる靴ばかりが重宝され、日本の子ども靴はガラパゴス化しているといえるでしょう。
それが靴の本来の機能と反比例しているのです。裏を返せば、脱ぎはきに手間がかかる靴ほど、足に良いと覚えていただけるといいですね。
■子どもの足「足が退化している現代っ子」
小さな子ども部屋のような雰囲気。店の入口で、親子で靴を脱いで上がる
――子どもの足のトラブルはどのようなものがありますか?
寺杣さん:最近の子どもは、5本の指の付け根の中足骨の横のアーチが崩れやすくなっています。中年以上の大人は横のアーチが崩れて開帳足になっているのですが、それと同じ傾向がすでに子どもにも見られているのです。本来、子どもは成長期でアーチが作られなければいけないのに、すでに退化しているんですね。
――それはなぜでしょうか?
寺杣さん:一番の原因は昔に比べて歩いていないからなんです。
便利な乗り物ができて、幼稚園や保育園の送り迎えは自転車や車になり、足を使っていない。学会の論文で、家から幼稚園まで歩く距離が長い子のほうが、土ふまずの形成率が高いという研究結果が発表されています。
――できるだけたくさん歩いたほうが良いのでしょうか?
寺杣さん:昔に比べて現代人は歩かなくなっていることは事実です。足を使うということに関しては、昔の生活のほうがはるかに健康に良かったのです。
時間に余裕のある時、自転車での保育園の送迎を週に1~2回は歩いて行ってみる、近所への買い物にベビーカーを使わずに歩いて行ってみる、緩い坂道を散歩したり、かけっこをしてみる。なかなか外で遊べない時には屋内でジャンプしてみる、それも難しければ、つま先立ちをしたり、足指じゃんけんをするだけでも確実に効果があるんです。これは、子どもも大人も同じで、いつも足や足の指を使うという意識が大切ですね。
――外反母趾など、大人と同じようなトラブルも増えているのですか?
寺杣さん:幼稚園に通っている3~5歳児の20%くらいで、すでに外反母趾が始まっているそうです。
また、店の近くの公立小学校のフットプリント検査では、8割の児童が浮き指であることが報告されています。それは、なりやすい骨格や体質の遺伝と、靴が合ってないためです。きつい靴はもちろん足をしめつけるのですが、逆にゆるいと足が前後左右にずれてしまうので、どちらにしても同じことがいえるんですね。
現代の子どもの足が退化しているとは、かなりショッキングな現実です。イギリスでは、すでに1800年代に、子ども靴の選び方が健康に影響を及ぼすとうたった靴メーカーの広告ポスターが作られており、「日本は足の健康と靴選びに関して後進国なんです」と寺杣さん。
欧米諸国に比べ、日本の靴の歴史は浅いものの、今や私たちの生活に欠かせないもの。もっと知識をもって、正しい靴を選んであげたいですね。次回は、キッズの靴の選び方についてうかがいます。
取材・文/河部紀子
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