人気絵本作家いわむらかずおさんが語る「絵本の楽しみ方」と「読み聞かせの意義」
じっくり、ゆったり。絵本には読者の意思が働く余地がある
絵本を読み聞かせるとき、お母さんがページをめくろうとすると、「まだダメ!」「もっと見る!」と、子どもが主張することがありますね。
このように、絵本には、読者の意思が働く余地があるんです。テレビのような映像だと、なかなかそうはいきませんね。生放送の番組を「ちょっと止めて」なんて、難しいでしょう。
今のメディアは、流す側の意思で、一方的にすーっと流れてきます。それを受け取る側はただ、流れていくのをぼんやりと見ることしかできません。でも絵本はそれと違って、機械的に進むものではないですよね。
受け取る側が主体的に味わうことができるんです。
ページをめくる手を止めて、何かをじっくり探したり、お母さんとの会話をゆったり楽しんだりする。子どもが自分の意思で読み進めていく。とても大事なことだと思います。
読み聞かせは、読み手と聞き手の強い人間関係を生む
読み聞かせは、読み手になる大人と、聞き手になる子どもとの間に、強い人間関係を生むと思うんです。
例えば、子どものときに、お母さんなり、お父さんなりに絵本を読んでもらう。そして、大人になったときに、昔お母さんに何度も読んでもらったな、と思い出す。その絵本を手にしたら、たとえお母さんはもうそこにいなかったとしても、お母さんの声が聞こえてくる。
あるいは、お母さんの膝の上に乗って読み聞かせをしてもらう。すると、お母さんの体温が伝わってくる。その絵本と一緒に、お母さんの温もりにふわっと包まれる感覚を覚えていて、ずっと後になっても、ふとあの温かさを思い出す。そんなこともありますね。
これは、すごく大事なことだと思うんです。もちろん、読んでもらう子どもにとって大きな影響を与えるだけでなく、読む側の大人にとっても宝物のような時間になるでしょう。読み聞かせには、そういう両者の強い関係を生む力があるんですね。
【プロフィール】
いわむら かずお
1939年東京生まれ。
東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひき」シリーズ、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの?To See My Friend!』(童心社)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」