更新日:2020/12/12
傷病手当金をもらうと就職活動に不利?転職して2回目の傷病手当金を受け取れる?
- 転職後すぐに傷病手当金を受け取るために必要な要件
- 前職ですでに傷病手当金を受け取っていたり、傷病手当金を受給しながら転職活動をする場合のデメリット
- 転職先に以前傷病手当金をもらっていたことを知られる可能性
- 傷病手当金を受給中で転職を考えている方
- 転職後すぐに退職した方
- 転職後に傷病を再発した方
目次を使って気になるところから読みましょう!
転職後すぐに病気をした場合でも、傷病手当金は受け取れる
転職後にすぐ病気にかかった場合に傷病手当金を受け取ることができるか、不安な方もいるのではないでしょうか?
転職前の会社と後の会社での健康保険の被保険者期間が1日の空白もなく継続1年以上であること、退職前に申請し退職するときには既に支給が開始されていること、退職時に労務不能であることなど、所定の要件を満たしていれば、転職後すぐに傷病手当金をもらうことは可能です。
以下では、
- 退職後の継続給付に必要な被保険者期間
- 退職前の申請の必要性
- 退職時に労務不能であることは必須
継続して1年間の被保険者期間があること
転職、退職前に申請を行うこと
退職後、または転職後すぐに傷病手当金の給付を受けるためには、前の会社の健康保険の被保険者資格を喪失する際に、既に「傷病手当金の支給を受けている」ことが要件となります。
退職してから申請をすると、前の会社の健康保険の被保険者資格を失う時点ではまだ傷病手当金の支給を受けていないため、受給資格を得ることはできません。
退職後、転職後すぐに傷病手当金の継続給付を受ける場合は、退職前に申請をし受給が開始されている必要があります。
退職時に労務不能であったこと
上記の退職・転職後に傷病手当金の給付を受けるための要件「退職時に既に傷病手当金の支給を受けていること」にも重なりますが、退職時にも必ず労務不能の状態でないと、退職後の傷病手当金の継続給付を受けることはできません。
なぜなら、傷病手当金の支給を受けることができる状態とはつまり、労務不能の状態であることを指すためです。
退職時には働くことができるようになっていたなど症状が改善している場合は、支給要件に該当しなくなってしまうので、気をつけましょう。
転職後に傷病手当金がもらえないケースとは?
それでは、転職後に傷病手当金がもらえないケースはあるのでしょうか?
残念ながら、退職時に傷病手当金をもらっていなかったり、前職の退職日と転職までに1日でも空白期間が生じてしまったりすると、転職後に傷病手当金をもらうことはできません。
ここでは、
- 前の会社の退職日に出勤してしまった場合
- 前職の退職日と新しい会社への転職までが空いてしまった場合
- 被保険者期間が1年未満の場合の傷病手当金を算出する際の考え方
- 傷病手当金の原則的な計算方法
前職の退職日に出勤していた場合
前職の退職日に出勤してしまうと、資格喪失後の傷病手当金の継続給付金を受けることはできなくなります。
出勤すると働ける状態にあるということになり、その時点で労務不能とみなされなくなってしまうからです。
そして、傷病手当金の支給はそこでストップしてしまい、「退職時に傷病手当金の支給を受けていること」という支給要件にあてはまらず、退職後の継続給付を受けることもできなくなるので、退職日の出勤には要注意です。
ただし現実的には、ずっと欠勤していた人が最後に退職の挨拶をしようと、あるいは私物の整理や事務手続きなどで会社に行くといったことは十分にあることですので、会社に行った場合でも「出勤扱いにしない」ことが重要です。
前職の退職日と転職までの間に空白期間がある場合
転職・退職後にも継続して傷病手当金の受給するには、継続して1年以上健康保険の被保険者であったことが求められます。
したがって転職前の会社を辞め、転職先の会社に勤め始めるまでに1日でも空白が生じてしまうと、その間は健康保険の被保険者期間とはならず、退職後の傷病手当金の継続受給がかないません。
前の会社と新しい会社の間で、ブランクを生むことなく健康保険の被保険者資格を継続させることが重要です。
被保険者期間が1年未満の場合は、標準報酬月額の平均額か28万円の少ない方
傷病手当金の1日あたりの支給額は、被保険者期間が1年未満のときは、下記の2つの計算式によって得られる額のうち、どちらか少ない方の3分の2に相当する金額となります。
- 支給が開始される日の属する月以前の直近の継続した月の標準報酬月額の平均額の30分の1に相当する額
- 支給が開始される日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額を、報酬月額(=標準報酬月額の基礎)とみなしたときの標準報酬月額の30分の1に相当する額(※)
※協会けんぽの場合、「令和元年9月30日時点の全被保険者の標準報酬月額の平均(報酬月額)」は292,822円であったため、令和2年度の標準報酬月額は30万円となります。
(参考)傷病手当金の計算方法
1日につき支給される傷病手当金の原則的な計算方法は、
支給開始日が属する月以前の、
標準報酬月額を平均した額×1/30×2/3
となります。
おおよそ月収を日割り計算した額の3分の2程度を受給できることがわかります。
なお標準報酬月額とは、健康保険料を計算する際に用いるもので、実際の1ヶ月の給与を1~50等級のいずれかの区分に当てはめるものです。
たとえば東京都において、月に21~23万円の給与が支払われている場合、標準報酬月額は22万円となります。
具体例:東京都在住・月収29万円の会社員の1日当たりの傷病手当金の金額はいくら?
→月収37万円は標準報酬月額36万円にあてはめられ、
36万円×1/30×2/3=8.000円
となり、1日について支給される傷病手当金は8,000円となります。
再就職して健康保険組合が変わった場合でも、傷病手当金の支給期間は通算されるの?
再就職して所属する健康組合が変わった場合、たとえば
- 大企業の従業員や家族が加入する「組合健保」から同じ「組合健保」への変更
- 「組合健保」から中小企業の従業員や家族が加入する「協会けんぽ」への変更
いずれにおいても、傷病手当金の資格喪失後の継続給付の要件である「1年以上」被保険者であったとする期間に通算されます。
ただし前述のとおり、切り替えの際に1日の空白期間もなく継続していることが必要です。
なお、学生や自営業者が加入する市町村の国民健康保険において、任意給付となっている傷病手当金の支給実績は、これまでありません。
そのため、国民健康保険の加入期間を傷病手当金の継続給付の支給要件の算定に加えることはできないので、注意が必要です。
転職後に同じ病気が再発した場合、2回目の傷病手当金は受け取れるの?
転職後に同じ病気が再発した場合、傷病手当金の支給期間である1年6ヶ月以内であれば、再び受給することができます。
たとえ1年6ヶ月以上経過していても、最初の病気が「社会的治癒」したとみなされ、一定期間仕事に復帰していた場合には、2回目ももらうことができます。
以下において、
- 最初の傷病手当金の支給開始から1年6ヶ月以内
- 社会的治癒していたと認められていたケース
最初の傷病手当金の期間内であること
1度復職したものの同じ病気により再び休職を余儀なくされた場合に、また支給を受けることはできるのでしょうか?
傷病手当金の支給期間は、その支給が開始された日から1年6ヶ月です。
その期間内であれば、同じ病気が再発した場合でも傷病手当金を受けることができます。
この1年6ヶ月間は、転職などをして保険者が変わっても、同じ傷病については通算されます。
ただし、退職し資格喪失した後については、一度回復し支給が終わりその後再び再発した場合でも支給は復活しません。
資格喪失後の継続給付は、その名のとおり「継続して受給」していないと該当しないためです。
最初の病気が社会的に治癒したと判断されていたこと
一方、再発のタイミングが最初の支給開始から1年6ヶ月以上経過していた場合はどうでしょうか?
この状況で傷病手当金の支給を受けるときには、一度「社会的治癒」していると判断されるか否かがポイントになります。
社会的治癒していると見なされれば、同じ病気が原因で再び休職したとしても最初の休職の理由とは別の病気とされ、1年6ヶ月の支給期間は関係なく、その期間を超えていてもまた支給を受けることができます。
社会的治癒とは、医療的な視点から厳密に治癒しているかを決めるのではなく、ある程度病状が回復して労働を含む日常生活を営めている状態をいいます。
数値的な目安としては、治療の必要もなく1年程度職場復帰をしているような状況です。
ただし1年程度というのはあくまで目安であり、病気の種類などによっても判断が異なるため、健保組合など保険者に確認するようにしましょう。
社会的治癒した後、再び休職する際にはまったく別の病気によるのものという扱いですので、傷病手当をもうらうためには再度3日間の継続した待機期間が必要になります。
傷病手当金を受給中に転職活動をするデメリットとは?
傷病手当金を受給しながら転職活動をする際、
- 自分から傷病手当金をもらっていると伝えた方が良いのか
- 傷病手当金の受給について質問され、隠した場合はどうなるのか
- そもそも傷病手当金をもらいながらハローワークで転職活動をすることに問題はないのか
など、不安はつきませんよね。
結論からいうと、
- 面接で傷病手当金の受給の事実を話すことで「不正受給」と判断される可能性
- 質問されたのに事実を伏せることで「虚偽申告」と見なされるリスク
が多少でもあることは認識しておいた方がよいかもしれません。
以下で
- 面接で傷病手当金受給について伝えること
- ハローワークでの就職活動
不正に傷病手当金を受給していると判断される場合もある
傷病手当金とは本来、労務に服することができない場合に、療養中の生活保障として支給されるものです。
そのため、傷病手当金をもらいながらの転職活動は上記の前提に反しており、傷病手当金を不正受給していると判断される可能性もあることを理解しておく必要があります。
一方で、転職活動中に自ら傷病手当金を受給していることを伝える必要はありませんが、質問された場合に「もらっていない」と答えてしまうと、今度は虚偽の申告となる危険があります。
虚偽申告によって内定取り消しになる可能性も0ではありません。
どちらにしても扱いが難しいため、転職活動中に傷病手当金を受給するのはデメリットになると考えざるを得ないでしょう。
ハローワークでの就職活動はできない
そもそも、傷病手当金をもらいながらハローワークで就職活動をすることは可能なのでしょうか?
残念ながら、それはできません。
傷病手当金は支給要件として
- 病気やけがなどで療養中
- 病気やけがになどにより労務に服することができない
などがあげられます。
また雇用保険において、失業を「被保険者が離職し、労働の意思および能力を有しているにもかかわらず、職業に就くことができない状態」と定義しています。
そのため、まず傷病手当金をもらいながら就職活動をするのは、傷病手当金の支給要件に反していますし、ハローワークで就職活動をすることはすなわち現在失業中とすることになりますが、病気やけがをしていると失業の定義である「労働の能力を有している」には該当しないとされるので、どちらの面からも矛盾してしまうからです。
前職で傷病手当金を受け取っていたら、転職活動に不利になる?
病気やけがを抱えながらの転職活動は、体力面で万全でないこともあり、普通の転職活動以上に不安を抱えがちです。
さらに、前職で傷病手当金を受けとっていた場合に、応募先企業から心身の健康状態に不安をもたれ、転職活動が不利になってしまうんじゃないか?など、悩みはつきません。
次では
- 源泉徴収票などで知られる可能性
- うつ病で傷病手当金をもらっていた場合
源泉徴収票で休職中であったことがバレる?
前の会社で傷病手当金をもらっていたことを、聞かれていないときには伝える義務がないことは先ほど述べたとおりですが、こちらから伝えなくても前職での休職が知られるケースはあるのでしょうか?
入社後の手続きの中で離職票や源泉徴収票の提出を求められたり、住民税などの手続きをする際に知られてしまう可能性もあります。
源泉徴収票を例にあげると直接「休職していた」と記載されているわけではありませんが、その内容を確認した結果、一般的な収入を大幅に下回っていたことなどがわかると、長期間休職していたことを知られる可能性は高いでしょう。
その他、課税額が前年の所得によって決まる住民税を調べることで、長期の休職を疑われるケースも考えられます。
うつ病の場合は?
- 風邪やインフルエンザなど誰しもが罹患する可能性があり完治しやすく再発のリスクが少ないもの
- 骨折など完治が望め、特に後遺症のない外傷
ただし繰り返しになりますが、聞かれていないのに、以前傷病手当金をもらっていたことを申告する義務はありません。
転職先で、前職と同じ病気で傷病手当金を受け取ろうとするとバレる?
まとめ 再就職後も傷病手当金を受け取るために、事前に条件を確認しておこう
いかがでしたでしょうか?
今回は
- 転職後すぐの傷病手当金の申請
- 転職後に再発した場合の2回目の申請
- 傷病手当金を受給している、あるいは受給していた人の転職活動
などについてご紹介しました。
記事のポイントは
- 継続して1年以上の被保険者期間がある、退職時に労務不能であったなど、所定の要件を満たせば、転職後すぐに傷病手当金を受け取ることは可能
- 健康保険組合や協会けんぽであれば、転職で保険者が変わっても、資格喪失後の継続給付の要件である「1年以上」被保険者であったとする期間に通算される
- 転職後すぐに傷病が再発した場合、支給期間である1年6ヶ月以内の期間であるか、一度社会的治癒が認められているケースであれば、再び受給することはできる
- 傷病手当金をもらいながら転職活動をするデメリットとしては、その事実を申告するのも隠すのもリスクがあること、ハローワークでの転職活動ができないことがあげられる
- 転職前に傷病手当金をもらっていたことは自ら申告する義務はないが、源泉徴収票の確認や再度傷病手当金を申請する際の問い合わせ等で知られる可能性はある