去る5月末、東京芸術祭特別公演「ファンタスティック・サイト」として、大駱駝艦・天賦典式『Crazy Camel Garden』公演が、東京都庭園美術館の芝庭で行われた。「ファンタスティック・サイト」とは、「江戸から明治へと歩き出し」「ときには動揺しながらも、その文化をしなやかに受け入れ、新たな社会を形成してき」た日本の、「時代の狭間が存在し続ける土地を舞台に、日本発の芸術表現である舞踏やそのエッセンスを受け継ぐアーティストたちのパフォーマンスによって、当時そのままの風景や感情をありありと浮かび上がらせ」るという試みだ。1960年代に土方巽や大野一雄らによって創設、発展された舞踏は、近代化・西洋化が進む日本にあって、前近代的で土着的な身体を目指した前衛芸術。今では世界でも「BUTOH」の名で知られるジャンルとなっている。大駱駝艦を率いる麿赤兒は土方巽に師事し、1972年に大駱駝艦を旗揚げ。国内外で精力的に公演活動を展開している。今回の『Crazy Camel Garden』は2012年にパリで初演された『Crazy Camel』を原型としており、タイトルはパリの有名なキャバレー「Crazy Horse」に由来する。一方、会場となった庭園美術館は、久邇宮朝彦親王の第8王子である鳩彦王が1906年に創立した宮家・朝香宮家の邸宅だった場所。フランスに長期滞在していた朝香宮夫妻は、フランス人芸術家アンリ・ラパンに主要な部屋の設計を依頼し、日本古来の職人技を駆使しながらアールデコ様式でこの邸宅を作った。つまり、今回の『Crazy Camel Garden』はまさに、様々なレイヤーで近代と前近代、日本と西欧が交錯する催しであるわけだ。晴れて心地よい風が吹く夕べとなった公演最終日、芝庭の特設舞台にまず現れたのは、全身に金粉を塗った舞踊手たち。舞踏の創成期、踊り手たちはキャバレーなどでの金粉ショーに出演して生計を立てた歴史があり、大駱駝艦では今も路上などで金粉ショーを行っているが、『Crazy Camel Garden』の舞台上に居並び、こちらをみつめる舞踊手たちはさながら、三十三間堂の仏像だ。次第に深まる夜闇の中、金色の肉体がきらめくさまは実に艶やか。初日は雨だったようだが、濡れた身体もまた風情があったことだろう。と、そこに、リボンとセーラー服の白塗りの女学生(麿赤兒、鉾久奈緒美)がやってくる。容姿は対照的だが仲良く戯れる二人。しかしそこに男子学生(村松卓矢)が登場すると、彼女たちの様子は一変。競い合うように、男子学生を誘惑し始める。激しい恋の鞘当てにもかかわらず、モネの画集を持ち歩く、どこか気取った男子学生は、どちらにもなびかない。ヴィヴァルディ「四季」に乗せて彼らの人生の四季も移ろい、二人に服を脱がされた男子学生は老人の姿に。人生が永続するかのような錯覚は、この一瞬によって裏切られ、儚さを露呈する。本作はパリでの初演後、形を変えながら日本各地で上演されているが、今回はシンプルな構成となった分、群舞のダイナミズムが際立った半面、女学生と男子学生のドラマには枯淡の趣が増したようにも感じた。金色の肉体の中で描かれる性の目覚め、成長、そして老い。聖俗も時も超え、大駱駝艦のパフォーマンスはひととき庭園に降り立ち、そして美しく消えたのだった。取材・文:高橋彩子【開催概要】東京芸術祭特別公演 ファンタスティック・サイト 大駱駝艦・天賦典式『Crazy Camel Garden』日程:5月21日(金)・22日(土)・23日(日) ※公演終了会場:東京都庭園美術館・芝庭振付・美術・演出:麿 赤兒出演:麿 赤兒、村松卓矢、田村一行、高桑晶子、鉾久奈緒美ほか
2021年06月04日東京都港区白金台の東京都庭園美術館は4月7日まで、開館30周年を記念した展覧会「幻想絶佳: アール・デコと古典主義」を開催している。○33作家・80余点のアール・デコ作品に酔いしれる同展は、1910年代半ばから1930年代にかけて流行、発展した装飾様式「アール・デコ」をテーマに、古典主義のアール・デコ作家たちの豊かなイマジネーションから生まれた幻想絶佳の世界を紹介するもの。会場となる同館は、アール・デコの様式美に魅せられた久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王がその様式を積極的に取り入れ建設した「朝香宮邸」を美術館として公開しており、今回の展覧会ではアール・デコにおける朝香宮邸の位置づけも明らかにするという。展示作品は、「ウジェーヌ・ロベール・プゲオン《蛇》1930 年頃」、「ジャン・デピュジョル《青の母子像》1935年頃」、「カルロ・サラベゾール《海神》1935年」、「ルネ・ラリック ダイニング用センターピース《二人のナイト》1920年」など。フランスの美術館所蔵品を中心とした33作家による家具、磁器、銀器、ガラス、ドレス、絵画、彫刻など80点余りが一堂に会する。また、関西学院大学准教授・久保昭博氏による「反近代のフランス文学 - 第一次世界大戦を中心に」、茨城大学人文学部教授、藤原貞朗氏による「1931年パリ国際植民地博覧会と驚異の美術」といった、ゲストを迎えての記念講演会も実施。そのほか、スポーツ&文化ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏による映像×トーク「パリのアール・デコ建築をみる」、アートエデュケーターの三ツ木紀英氏による「ギャラリーカンバセーション(対話による鑑賞)」なども行われる。開館時間は10時~18時(入館は17時30分まで)。入場料(税込)は、一般1,200円、大学生・専修・各種専門学校含む960円、中・高校生・65歳以上600円。なお、同展のメインビジュアル「Le Serpent」にちなみ、蛇のモチーフや模様を身に着けて来館すると、100円引で観覧できるドレスコード割引も用意されているとのこと。
2015年01月19日