シャープは8月19日、米Kymeta Corporation(カイメタ)と共同で、新たな方式のフラット型衛星アンテナを開発すると発表した。開発するフラット型衛星アンテナは、従来のパラボラアンテナと同等の送受信性能を有しながら、可動部品なしで衛星を追尾でき、信頼性が高く薄型で軽量のため、車や船舶、航空機などの移動体に容易に設置することができる。同アンテナはカイメタが開発したmTenna技術を採用し、衛星との送受信に必要な回路を形成したガラス基板に、もう1枚のガラス基板を重ねた基本構造となっている。液晶ディスプレイの構造に近いため、シャープが保有する液晶用の生産ラインを用いた開発や試作が可能だという。また、民生に向けて培った生産プロセスにより、シャープが見込む同アンテナの旺盛な需要に十分対応できるとしている。
2015年08月19日神戸大学は8月18日、土星のFリングとその羊飼い衛星が、土星衛星の形成過程の最終段階で、自然な副産物として形成されることを明らかにしたと発表した。同成果は、神戸大学大学院理学研究科の兵頭龍樹氏と大槻圭史 教授によるもので、英学術誌「Nature Geoscience」に掲載された。Fリングは主要リングの外側に位置する、幅数百kmの細いリングで、内側にプロメテウス、外側にパンドラという2つの羊飼い衛星を持つ。羊飼い衛星とは、自身の重力により、惑星のリングを保つ働きをしている衛星のこと。最新の衛星形成理論では、かつて土星の周りに現在よりも多くの粒子を含むリングがあり、そこから拡散した粒子が集まって衛星が形成され、その最終段階では、小さな衛星が近い軌道に複数形成されるとされている。一方、探査機カッシーニによる観測から、主要リング外縁付近にある小衛星は密度の高い核を持つことが示唆されている。今回の研究では、国立天文台が所有する計算機などを用いたシミュレーションにより、密度の高い核を持つ小衛星同士が衝突して部分的に破壊され、Fリングと羊飼い衛星が形成されたことを明らかにした。したがって、Fリングとその羊飼い衛星は、土星衛星系の形成過程の最終段階で、自然な副産物として形成されたと考えられるという。このようなリングと羊飼い衛星の形成メカニズムは、同じようなリングと羊飼い衛星を持つ天王星にも当てはめることができ、今後太陽系内外の衛星形成メカニズムを解明する一端となることが期待される。
2015年08月18日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月5日、2015年12月7日に予定している金星探査機「あかつき」の金星周回軌道への再投入に向けて7月17日、24日、31日の3回に分けて実施した4回目の軌道修正制御の結果を発表した。この結果、8月2日までに取得したテレメトリデータを解析したところ、8月4日17時30分(日本時間)を持って、軌道修正制御が計画通りに実施されたことが確認されたとしている。あかつきは今後、8月29日に太陽の近日点を通過した後、10月から12月にかけて軌道の微調整を実施。その後、軌道投入の前日となる12月6日に姿勢を観測に適したものへと変更し、翌12月7日に金星の周回軌道への投入が計画されている。
2015年08月05日千葉工業大学は7月21日、日本初の3Uキューブサットである流星観測衛星「S-CUBE」が宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機に搭載され、8月16日にH-IIBロケット5号機で打ち上げられることが決定したと発表した。「S-CUBE」は同大学惑星探査研究センターを実施責任機関として、同センターと東北大学が共同で開発を進めてきた。同衛星は3Uキューブサットというカテゴリの衛星で、10cm角のユニットからなる超小型サイズであることを特徴とする。可視カメラ1式と紫外線センサ3式を搭載しており、宇宙からの流星紫外線を観測することで、流星の発光メカニズムの解明や、流星塵成分の新たな情報を得ることが期待されている。打ち上げ後は、「こうのとり」で国際宇宙ステーションに届けられた後、「きぼう」日本実験棟から放出され地球周回軌道に投入される予定。同衛星は2度の打ち上げ失敗に見舞われた流星観測カメラ「メテオ」と相補的な関係にあり、「メテオ」との同時観測を目標としていた。
2015年07月22日IHIは6月24日、子会社のIHIエアロスペース(IA)が、米ボーイングの子会社ボーイング衛星システムズインターナショナルより、米インテルサットの人工衛星インテルサット35eのメインエンジンを受注したと発表した。IAが受注したエンジンは、人工衛星を軌道へ投入するためのもので、推力500Nという世界最高の燃費性能を有し、ボーイングが製造する702MPバスの一部としてインテルサット35eに搭載される。IAは、衛星用エンジンでは138台の海外向け受注実績があり、今回の受注によって米ロッキード・マーチンのA2100衛星バスや米オービタル・サイエンシズのGEOSTAR衛星バスなどを含めて、N2H4(ヒドラジン)およびMON3(酸化剤)を燃料とする米国の主要な静止軌道衛星にエンジンを供給することになる。
2015年06月25日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月11日、X線天文衛星「すざく」が、6月1日以来、衛星の動作状況を知らせる通信が間欠的にしか確立できない状態が続いていると発表した。この通信不良は「すざく」の電力不足に起因していると考えられており、バッテリーが機能しておらず、衛星の太陽電池パドルに日が当たっている時間だけ衛星の電源が入り、パドルに日が当たらなくなると直ちに衛星電源が切れる状況だという。また、電源が失われたことで姿勢制御ができず、約3分間に1回の周期で無制御にスピンしている状態だと推定されている。JAXAは、今後少なくとも1~2カ月にわたって正常観測への復帰を目指し、まずは姿勢の安定と、安定した電源を確保する方法を模索していくとしている。「すざく」は2005年7月10日にM-Vロケット6号機で打ち上げられた、国内で5番目のX線天文衛星。目標寿命は約2年だったが、打ち上げ後約9年にわたり観測を続け、銀河団外縁部に至るX線スペクトルを初めて測定するなど、さまざまな成果をあげてきた。一方でバッテリーの劣化が進み、観測継続のためにバッテリーの使用方法を工夫しながら運用が続けられていた。
2015年06月12日アメリカ航空宇宙局(NASA)は5月26日(現地時間)、木星の第2衛星・エウロパに向けて2020年代に打ち上げる予定の探査機の開発を開始したと発表した。同探査機はエウロパの表面を覆う氷の下に、生命が存在しうる海が存在するかどうかを調べることを目的としている。エウロパの海は地球の倍以上の海水を保持していると目されており、潮汐加熱など生命の発生に必要な条件が揃っている可能性がある。探査機にはカメラや温度計のほか、大気中の微小粒子を検知する装置などが搭載され、3年間にわたり木星を周回し、エウロパのフライバイ観測を実施する計画となっている。
2015年05月27日第1回では、中国の全地球測位システム「北斗」の計画立ち上げから、第2世代衛星によるアジア・太平洋地域を対象にしたサーヴィス開始までの経緯について紹介した。また第2回では、2015年3月30日に打ち上げられた初の第3世代衛星「北斗三号」と、北斗の今後について紹介した。最終回となる今回は、その北斗三号の打ち上げで使われた新型の上段「遠征一号」について紹介したい。○「上段」とは「上段」(Upper Stage)という部品は、あまり有名ではないかもしれない。上段はロケットの最終段、言い換えればロケットと積み荷である人工衛星との間に位置し、衛星を最終的な目的地の軌道へ送り届ける役割を持つ。母機となるロケットとは別の名称を持つものも多いが、影は薄く、たいていの場合「ロケットの第何段」とか、あるいは「最終段」としか呼ばれない。それは間違いではないものの、いくつかの上段に関しては、それ自体が独立したロケット、あるいは宇宙機になっており、また上段の性能がそのロケット全体の能力を決定付けることもあるほどだ。例えばロシアの「ブリースKM」や「ブリースM」と呼ばれる上段は、エンジンを最大8回再点火することができ、軌道上での最大24時間にわたって運用ができる。この性能を生かして、複数の衛星を異なる軌道に投入したり、静止衛星を直接静止軌道に投入したりすることが可能だ。また同じロシアの「フリガート」という上段も、最大3日間の軌道滞在と、20回以上ものエンジンの再点火が可能な性能を持つ。また米国にも「セントール」という、改良されながら半世紀以上も使い続けられている高性能な上段があり、現在でもアトラスVロケットの上段として使われている。日本では長らく上段らしい上段は持っていなかったが、最近になりH-IIAロケット第2段を改良し、運用可能時間を従来の約1時間から約5時間にまで強化する試みが実施されている。本格的な初飛行は今年末ごろになる予定だが、すでに一部の技術は、2014年末の「はやぶさ2」の打ち上げで使用されている。一方、中国も再点火が可能なエンジンを持つ第3段を装備したロケットはあったが、衛星を直接目標の軌道に投入したり、複数の衛星を異なる軌道に投入するには力不足であった。そこで開発されたのが、今回初飛行した「遠征一号」だ。○人工衛星を目的の軌道まで送り届ける「遠征一号」遠征一号は「長征三号」ロケット・シリーズの第3段と、搭載する人工衛星との間に装着される。長征三号シリーズは3段式だから、遠征一号を搭載することで4段式ロケットになる。また遠征一号、積み荷である衛星と一緒にフェアリングの内部に収められており、打ち上げ時は外部に露出していない。遠征一号は球形の推進剤タンクを持ち、それを4つ四角形状に並べ、その中心にできる隙間にロケット・エンジンを装備している。エンジンの推進剤には四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンの組み合わせを使用し、2回の再点火が可能だという。軌道上での運用可能時間は最大で6.5時間とされる。開発と製造は、長征二号ロケットや長征三号ロケットの製造も手掛けている中国運載火箭技術研究院(CALT)が行っている。外見やタンクとエンジンに配置などから、おそらくはロシアのブリースやフリガートを参考に開発されたものと推測される。エンジンの再点火可能回数や、軌道上での運用可能時間などの性能はブリースやフリガートより劣っているが、これには2つの理由が考えられよう。1つ目は、中国がこれまでに、この手の上段を開発したことがないことから、技術を持っていないためという可能性だ。ただ、上段という形ではないが、いくつもの人工衛星や有人宇宙船「神舟」の開発と運用を通じて、ロケット・エンジンを軌道上で何日も運用し、そして何度も再点火させる実績はあるため、根拠としては弱い。2つ目は、ブリースやフリガートの性能を過剰なものとして捉え、必要な能力のみ出せるようにした結果である可能性だ。実際、フリガートの最大3日間の滞在と、20回以上ものエンジンの再点火が可能という性能は、通常の人工衛星の打ち上げに使うことを考えると過剰である。今後、遠征一号の次に開発されるであろう、新しい上段がどのような性能を持つかが注目される。遠征一号は北斗のような航法衛星や、静止軌道に投入される通信衛星などの打ち上げで威力を発揮する。従来であれば、ロケットの能力の限界から、衛星は目標軌道の一歩手前の軌道に投入され、そこからは衛星が自身のスラスターを噴射して、最終的な目標軌道まで移動していた。だがもし、ロケット側がそれを肩代わりし、目標の軌道や、それに近い軌道まで衛星を送り届けることができれば、衛星にとっては大きな負担軽減となる。実際に、これまでの北斗衛星や静止衛星の打ち上げでは、ロケットは目標軌道の一歩手前の軌道に衛星を投入していたが、今回の打ち上げでは、北斗衛星17号機は高度約3万6000km、軌道傾斜角55度の、実際に衛星が運用されるのに近い軌道に投入されている。○遠征二号とTY-1、先進上段いくつかの報道によれば、現在より大型の「遠征二号」の開発も進められているという。これは同じく現在開発中である大型ロケット「長征五号」に搭載できるように造られており、長征五号に合わせて大型化され、エンジンも2基装備される。エンジンの再点火可能回数や、運用可能時間など、性能についてはまだ情報はない。遠征二号が完成すれば北斗衛星を最大4機同時に打ち上げることが可能になり、北斗システムの構築や維持がより効率良くできるようになるという。また、主に低軌道や極軌道への衛星打ち上げに使われている「長征二号」ロケットや「長征四号」ロケットに使用できる上段「TY-1」の開発も行われている。手掛けているのは上海航天技術研究院(SAST)で、同研究院が開発中の新型小型ロケット「長征六号」にも使用できるという。具体的な性能は不明だが、主に小型衛星を複数載せることを意図しており、最大で10機の衛星を異なる軌道に乗せることができるとされる。またTYは中国語の名称の頭文字であることは間違いないが、元の名前が何であるかはわかっていない。TY-1が「多星発射上面級」、英語では「Multi-Launch Upper Stage」と呼ばれていることまではわかっているが、どう略してもTYという頭文字にはならない。さらに、ケロシン系燃料(RP-1とされる)と過酸化水素を使う、より高性能な上段「先進上段」(Advanced Upper Stage, AUS)の開発も進んでいるという。こちらも、エンジンの再点火可能回数や、運用可能時間についてはまだ情報は明らかになっていない。こうした上段を手にすることで、中国の衛星打ち上げ能力は大きく向上することになる。現在中国は、国際武器取引規制(ITAR)によって、事実上海外の商業衛星の打ち上げができない状態にあるが、万が一商業打ち上げ市場に再参入することがあれば、この上段の存在意義は大きい。また何よりも、資源探査衛星や軍事衛星など、地球軌道に実用衛星を多数打ち上げている中国にとって、衛星の寿命が延ばせるなどの大きな恩恵がある。そして特殊な軌道へ送られることの多い科学衛星や、月や惑星へ航行する探査機にとっても、こうした上段の存在は、非常に大きな意義を持つだろう。
2015年05月01日第1回では、中国の全地球測位システム「北斗」の計画立ち上げから、第2世代衛星によるアジア・太平洋地域を対象にしたサーヴィス開始までの経緯について紹介した。第2回となる今回は、2015年3月30日に打ち上げられた初の第3世代衛星「北斗三号」と、北斗の今後について紹介したい。○北斗三号2012年12月27日から、アジア・太平洋地域を対象にした航法サーヴィスが始まった「北斗」だが、当然その最終目標は、米国のGPSなどと同じように、全地球で航法サーヴィスを展開することにあった。そのためにはもっと多くの衛星が必要であり(例えばGPSは約24機)、北斗では静止軌道に5機、傾斜対地同期同期軌道に3機、そして中軌道に27機の衛星を打ち上げることを目指している。ただ、軌道上での予備機なども打ち上げる必要があるため、実際の数はもう少し多くなり、以前に打ち上げられた衛星が長生きすれば、軌道上での稼動数も多くなる。しかし、北斗二号で打ち上げられた16機の衛星のうち、静止軌道には6機、傾斜対地同期軌道に5機、そして中軌道に5機が配備されており、それぞれの数に少し偏りがある。また、静止軌道や傾斜対地同期軌道も、中国上空を中心とした経度に偏っている。このことから、中国はいきなり全地球でのサーヴィス展開を狙っていたわけではなく、まず中国国内のみを対象にサーヴィス提供ができるようにし、次にその周辺のみを、という形で、堅実に構築を進めていく方針を採っていたことがわかる。2012年の北斗衛星16号の打ち上げと、その年末のアジア・太平洋地域を対象にしたサーヴィス開始の後、北斗の打ち上げはしばらく行われなかった。しかし2015年3月30日に、第3世代機にあたる「北斗三号」の1号機、正式名称「北斗衛星17号」が打ち上げられた。北斗三号が北斗二号からどの程度変わっているのかについては、詳しくは明らかにされていないが、おそらく搭載されている機器の性能、特に原子時計の正確さは上がっているものと思われる。また、測位の精度については従来の最大10mから、2.5mにまで改善されることが報じられている。衛星の姿かたちは、静止軌道、傾斜対地同期軌道、中軌道ですべて変わっており、静止軌道用は新たに「東方紅三号B」バスが用いられ、さらに大きなパラボラ・アンテナが装備されている。傾斜対地同期軌道用は東方紅三号Bを使うもパラボラ・アンテナはない。中軌道用は東方紅三号Bではなく、小型の新しいバスが使われているようで、打ち上げ時の質量は800kgほどになるという。北斗二号では傾斜対地同期軌道と中軌道の衛星はほぼ同型だったと思われるが、実際の運用を通じて得られた知見から、別個の衛星にした方が良いと判断されたものと思われる。○北斗の今後北斗三号は今後も続々と打ち上げられ、2020年ごろに全地球での航法サーヴィスが開始される予定だ。一部報道では、これを3年早め、2017年を目標にするように変更されたとも言われているが、実際のところは不明だ。北斗による全地球での航法サーヴィスが始まれば、中国はGPSなどに頼ることなく、またより高い精度で、地球上のどこでも自身の位置や速度、時刻がわかるようになる。例えば、中国国内はまだインフラが整っていない地域が多いため、役に立つことは間違いない。すでに2008年の四川大地震で活用されたことが報じられている。また、GPSやGLONASSなどにはない、メッセージを送受信できる機能があることが特長だ。北斗による恩恵を一番受けるのは、やはり中国人民解放軍だろう。以前までなら、中国は民間向けのGPS信号を利用せざるを得なかったが、米国のGPSは、民間向けの暗号化されていない信号と、軍用の暗号化された信号の大きく2種類の信号を出しており、軍用の信号は民間用の信号よりも高い精度を出せるといわれている。だが、中国が独自のシステムを持つことで、米軍が利用しているとのほぼ同じ精度での航法が可能になる。サーヴィスの対象地域が全地球へ広がれば、例えば中国海軍が外洋に出て行こうとする際には特に役立つことになろう。また衛星航法システムは武器の誘導にも使え、領土問題を抱える隣国に対して優位性を獲得することにもなる。また、サーヴィスの対象が中国国外にも広がったことで、日本人が利用する機会も増えていくだろう。北斗が出す信号はGPSやGLONASSなどとは互換性がなく、専用のチップを積まないと利用ができないため、今現在日本で売られているカーナビや携帯電話などは、そのままでは北斗を使うことはできない。もっとも、これはGPS専用端末ではGLONASSが利用できないとの同じで、北斗だけに限った問題ではない。ただ、北斗の信号を受信するための技術仕様は公開されているため、例えば中国製、韓国製の携帯電話などを手始めに、北斗に対応した機器が日本に入ってくることはあるだろう。ただ、現在すでにGPSとGLONASS、地上の基準局などの組み合わせで、地図案内などには十分な精度が出せており、いずれ「みちびき」システムが完成すれば、補正が入ることでより正確になる。また欧州も「ガリレオ」航法システムの構築を進めており、いずれはガリレオに対応したカーナビや携帯電話などが売り出されることになるだろう。中国や中国と関係が深い国以外で、北斗の信号が受信できる機器がどこまで普及するかは未知数だ。(次回は5月1日に掲載予定です)
2015年04月30日2015年3月30日、中華人民共和国の四川省にある西昌衛星発射センターから、「長征三号乙」ロケットが打ち上げられた。ロケットの先端には、中国の全地球衛星航法システム「北斗」を構成する人工衛星が搭載されていた。北斗は米国のGPSなどに対抗する中国独自の衛星航法システムで、現在はまだ中国周辺のアジア・太平洋地域でしか利用できないが、2020年ごろにはGPSと同じく、地球上のどこでも測位ができるようになる予定で、今回打ち上げられた衛星は、まさにその嚆矢となるものであった。この打ち上げではまた、北斗などの人工衛星を目的の軌道まで送り届ける、「遠征一号」と呼ばれる上段が初めて使用された。今回は北斗と遠征一号について、全3回に分けて紹介する。○中国版GPSこと「北斗」カーナビや携帯電話の道案内機能や、デジカメで撮影した写真の位置情報など、人工衛星を使った航法・測位システムは、すでに私たちの生活にとって必要不可欠なものになっている。現在この衛星航法システムは、米国が運用している「GPS」を筆頭に、ソヴィエト・ロシアのGLONASSがある。また欧州では「ガリレオ」の構築に向けて衛星の打ち上げが進んでおり、インドでも同国の周辺のみを対象にした「IRNSS」の打ち上げが行われている。そして日本も、米国のGPSを補完する目的で「みちびき」の構築を目指している。そして中国もまた、GPSなどと対抗する、独自の全地球衛星航法システムの構築を進めている。それが「北斗」だ。北斗とは有名な星座「北斗七星」のことで、中国では古代から、北斗七星を天帝の乗り物と見立てるなど深く親しまれている。また天測航法、つまり天体を観測することで自分の位置を測っていた船乗りたちにとっては、北斗七星は北極星(ポラリス)を見つける手がかりとなる星座としても有名で、衛星航法システムにとってはまさにうってつけの名前だ。また、中国国外へのサーヴィス展開を意識してか、「COMPASS」(コンパス)という英語の名称も付けられている。中国が衛星航法システムに目をつけたのは意外に早く、1960年代のことであったとされる。衛星航法システムの原理自体は当時すでに確立されていたが、60年代というと、GPSを構築した当の米国ですらまだ研究の段階にあり、GPS衛星の開発や打ち上げが始まったのは70年代になってからのことだ。当然、人工衛星も満足に打ち上げていない当時の中国にとっては到底手が出る技術ではなく、基礎研究のみで終わったとされる。1980年代に入り、中国は静止軌道に人工衛星を打ち上げられる「長征三号」ロケットの開発に成功したことで、衛星航法システムの構築がようやく実現可能となった。1983年、2機の静止衛星を使った実証実験を行うことが提案され、1988年に打ち上げられた通信衛星「東方紅二号A」の2号機と3号機で実現。これにより、衛星を使った航法システムの構築が実際に可能であることが実証できたとされる。この成果を下敷きに、中国政府は1994年、「北斗衛星航法実験システム」を構築する決定を下した。「北斗」という名前はこのときに付けられている。このシステムは「双星定位」と呼ばれ、前述の実証実験と同じく、衛星2機で航法を行うというものだった。衛星の製造に当たっては、中国が開発に成功した静止衛星バス「東方紅三号」が用いられた。そして2000年に1号機と2号機が打ち上げられ、2003年には予備機として3号機が打ち上げられた。2007年には4号機も打ち上げられたが、打ち上げ直後に故障したとされる。ただ、後に問題は解決され、予定通りの軌道に入ったとされるが、打ち上げから2年ほどで運用を終えている。この北斗実験衛星の衛星はすべて静止軌道に投入され、まず1号機と2号機の2機の衛星から出される信号を地上で受信し、その位置を割り出す実験が行われた。その後試験的に、また中国国内限定ではあるものの、航法サーヴィスが開始された。しかし、衛星航法で数m単位の正確な位置を出すためには、最低でも4機の衛星を、それぞれ異なる軌道に配置することが必要である。この時点では2機の衛星が、緯度が違うだけの静止軌道から信号を出していただけであり、測位の精度は100mほどと、とても使い物になるものではなかった。その後、3号機と4号機が追加されたが、それでも最高で20mほどだったという。もっとも、この精度の問題は、衛星を数さえ打ち上げれば解決する話であり、4機で打ち止めにしたということは、中国にとってはサーヴィス開始はついでのことであり、本当のところはあくまで「実験機止まり」という位置付けだったのだろう。実際、このあと中国は本格的な衛星航法システムの構築を目指し、続々と新型機の打ち上げを始めた。○北斗二号本格的な衛星航法システムを構成する新型の北斗衛星は、2007年から打ち上げが始まった。この新型機は、公式には「北斗」とか「北斗衛星」としか呼ばれていない。したがって新型機の1号機は「北斗航法衛星1号機」という、まるでそれ以前に北斗という衛星がなかったかのような名前になっている。もちろんこの衛星からが本番であるから間違いというわけではないのだが、これでは非常に紛らわしいことから、非公式ながら実験機シリーズを「北斗一号」、そしてこの本番機シリーズを「北斗二号」と呼ぶのが通例となっている。まず軌道上実証機となる1号機が2007年4月14日に打ち上げられたのを皮切りに、2012年10月25日までに全16機が打ち上げられた。打ち上げそのものはすべて成功したが、北斗衛星2号機はロケットから分離された後に故障し、予定していた静止軌道への到達ができなかったと伝えられている。その他の15機に関しては問題なく稼動しているようだ。衛星が投入された軌道は、静止軌道、傾斜対地同期軌道、そして中軌道の、大きく3種類に分かれている。静止軌道は通信衛星などでもおなじみの、地球の赤道上約3万5800kmにある軌道だ。傾斜対地同期軌道は、その静止軌道を赤道上から55度傾けた軌道で、別名「準天頂軌道」とも呼ばれる。中軌道は高度2万1500km、赤道からの傾きが56度の軌道で、地球の周囲を120度ずつ、3つの軌道面に分けて、それぞれに10機程度が投入される。北斗二号の全16機のうち、静止軌道には6機、傾斜対地同期軌道に5機、そして中軌道に5機が打ち上げられている。北斗二号の開発では、実験衛星と同じく東方紅三号バスが用いられた。ただ、造られた衛星には大きく2種類があるとされる。まず傾斜対地同期軌道と中軌道に打ち上げられた衛星は、打ち上げに使われたロケットが同じであるため、基本的に同型機だと推察される。一方、静止軌道への打ち上げには、より強力な打ち上げ能力を持つロケットが使用されたことから、傾斜対地同期軌道や中軌道に打ち上げられた衛星よりも、1.5倍ほど大型であると推察される。2012年10月25日に16号機が打ち上げられ、軌道上での試験を経て運用に就いた後、中国は同年12月27日をもって、アジア・太平洋地域を対象にした航法サーヴィスの開始を宣言した。測位の精度は実験衛星よりも大きく向上し、民間向けで10m、軍向けには10cmの精度が出せるという。ただ後者は、もしくは前者も、おそらく地上に置かれた基準点など使って補正した際の値だと思われる。このアジア・太平洋地域を対象にしたサーヴィス開始の後、北斗の打ち上げはしばらく行われなかった。だが2015年3月30日、全地球規模でのサーヴィス展開に向け、第3世代機にあたる「北斗三号」の1号機、正式名称「北斗衛星17号」が打ち上げられた。(次回は4月30日に掲載予定です)
2015年04月28日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月23日、磁気圏観測衛星「あけぼの」の運用を終了したと発表した。「あけぼの」は1989年2月22日に、M-3SIIロケット4号機で打ち上げられた国内で3番目の磁気圏観測衛星。目標寿命は1年とされていたが、それを大幅に超えた約26年という長期間にわたり運用を継続し、オーロラの観測、地球をドーナッツ状に取り巻く放射線帯であるヴァン・アレン帯の観測などで成果を挙げてきた。しかし、観測機器の多くが放射線劣化によって観測を停止していること、衛星の電源系機器の劣化や高度の低下のため、科学的成果を得られる観測データの取得ができなくなったことから、運用を終了することとなった。
2015年04月24日アメリカ航空宇宙局(NASA)は3月12日、木星の衛星ガニメデの地下に地球の海よりも多く水を有する海が存在すると発表した。ガニメデは太陽系で最も大きい衛星で、独自の磁場を持つため、オーロラが発生する。研究グループは今回、ガニメデのオーロラの"ゆらぎ"をハッブル宇宙望遠鏡を用いて観測し、地下海の存在を突き止めた。研究グループは「オーロラは磁場にコントロールされているため、オーロラを観測すれば磁場について知ることができる。磁場について知ることができれば、ガニメデの内部がどうなっているのわかると考えた」と説明した。推定によるとガニメデの地下海は深さ100km(地球の海のおよそ10倍の深さ)で、厚さ150kmの氷に覆われているという。研究グループは「今回の成果は地球以外に生命が存在する可能性をさらに広げるものだ」とコメントした。
2015年03月13日キーサイト・テクノロジーは3月11日、人工衛星からの無線信号をモニタリングし、その無線信号の有効性(シグナルインテグリティ)を検証する衛星信号モニタリングリファレンスソリューションを発表した。同ソリューションは、ステップFFTスペクトラム機能を備えたパフォーマンスベクトルシグナルアナライザ「M9393A PXIe」1台と業界標準であるソフトウェア「89600 VSA」をベースとしたコンパクトなシステムとなっている。M9393A PXIeはデジタルイメージ除去と雑音補正の機能を有し、10kHz分解能帯域幅で最大27GHzまで、1秒以内でのスペクトラムモニタが可能となっている。また、160MHz帯域幅内で複数のキャリア信号の正確なデジタル変調解析機能を有するほか、オプションSSAによるスペクトラムモニタとデジタル変調の同時解析機能を備える。特に、89600 VSAオプションSSAを使用することにより、高速な信号解析機能が拡張されるため、複数キャリア信号のパワースペクトラムと同時に変調解析が可能になる。これにより、リアルタイム性を欠くことなく衛星信号の有効性を効率よく検証できる。さらに、今までは複数台必要だったスペクトラムアナライザをPXIeモジュール型のシグナルアナライザ1台に置き換えることができ、省スペースかつ低テストコストを実現できる。
2015年03月12日東京大学(東大)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は3月12日、土星の衛星であるエンセラダスに原始的な微生物が発生し得る環境が存在すると発表した。同成果は東大大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の関根康人 准教授らの研究グループと、米コロラド大学のSean Hsu 博士を中心とする研究グループによるもので、3月12日付けの科学誌「Nature」に掲載された。エンセラダスは直径500km程度の天体で、地表の割れ目から地下の海水が間欠泉のように宇宙に噴出していることで知られ、生命存在の期待も高まっていた。NASAの探査機カッシーニはこれまで、海水に塩分や二酸化炭素、アンモニアなどのガス成分、有機物が含まれていることを明らかにしてきたが、地下海に生命が利用できるようなエネルギーが存在するかどうかはわかっていなかった。今回、関根准教授らは、エンセラダスの間欠泉に含まれていたナノサイズメートルのナノシリカ粒子に注目した。研究を進めたところ、エンセラダス内部の反応でナノシリカ粒子が生成されるためには、90℃以上という熱水環境が必要であること、熱水のphが8k~10のアルカリ性であることが判明した。また、ナノシリカ粒子は数年以内に大きな粒子に成長してしまうことから、こうした粒子が長くても数年で宇宙に噴出していることが分かった。地球上の生命は太陽からの光エネルギーや地球からの熱エネルギーに依存して生命活動を送っている。太陽光の届かない深海の海底熱水噴出孔では、地球の熱エネルギーを使って生きる原始的な微生物が存在しており、初期の地球において生命が誕生した場所の有力候補とされる。今回の結果は、エンセラダスでは地球の海底熱水噴出孔に似た熱水環境が広範囲に存在し、現在でも活発に活動していることを示すもので、同研究グループは「今回の成果は『生きた地球外生命の発見』という自然科学における究極のゴールに迫る大きな飛躍である。これまで火星に集中していた太陽系生命探査は、エンセラダスという新たな候補天体を得て、今後大きな広がりを見せることが期待される」とコメントしている。
2015年03月12日○KSLV-IからKSLV-IIへ2020年に韓国の月周回探査機と月探査ローヴァーを打ち上げることになっているのは「KSLV-II」というロケットだ。しかし、現在KSLV-IIはまだ開発中で、実機は存在していない。KSLV-IIは、韓国航空宇宙研究院(KARI)が2011年から開発を行っているロケットで、名前は「Korea Space Launch Vehicle」(韓国の宇宙ロケット)の頭文字からとられている。KSLV-IIは、2009年から2013年にかけて打ち上げた「KSLV-I」(愛称「羅老号」)の後継機にあたる。また羅老号は第1段にロシア製の機体やロケットエンジンを用いていたが、KSLV-IIはすべて韓国で開発、製造されるという。韓国のロケット開発への取り組みは、1989年10月にKARIが設立されたところから始まる。KARIではまず、KSR-Iと名付けられた固体燃料を用いた小型観測ロケットを開発し、1993年に2機が打ち上げられた。続いて、KSR-Iを2機上下につなげたようなKSR-IIが開発され、1997年と1998年に1機ずつが打ち上げられた。そして1997年、KARIはKSR-IIIの開発に着手した。KSR-IIIはそれまでのI、IIとは違い、液体燃料を使うロケットであった。推進剤に液体酸素とケロシンを使い、ガス押し方式のエンジンサイクルを採用、推力は13トンであった。KSR-IIIの開発は難航し、また性能も低いものであった。結局2002年に1機が打ち上げられたのみで引退している。当初韓国は、このKSR-IIIを発展させ、人工衛星を打ち上げられるようにした「KSLV-I」ロケットを開発するつもりだった。しかし海外から技術を導入するという形に大きく転換され、2004年にロシアのGKNPTsフルーニチェフ社との間で契約が交わされた。その結果KSLV-Iは、同社ロシアが開発、製造する第1段と、韓国が開発、製造する第2段とフェアリングを持つ形状へと変化した。ロシアから提供されることになった第1段機体は、ロシアの最新型ロケットである「アンガラー」の第1段をそのまま流用したものだった。ところが当時、アンガラーはまだ開発段階で、ロケットエンジンの燃焼試験が行われている程度であり、実機は影も形もなかった。実際にアンガラーが初打ち上げを迎えたのは2014年のことであった。当初、KSLV-Iの打ち上げ予定は2007年とされたが、アンガラーの開発が遅れたことで、当然ながらKSLV-Iの打ち上げも遅れることになった。KSLV-Iは羅老号と名付けられ、2009年8月25日に1号機が打ち上げられた。しかし衛星フェアリングの片方が分離できず打ち上げ失敗、2010年6月10日には2号機が打ち上げられたが、今度は第1段ロケットが爆発し、再び打ち上げは失敗した。この2号機の打ち上げ失敗の原因が韓国側とロシア側のどちらにあるかを巡り、両社は揉めることになる。なぜなら、当初の契約ではロシアからのケットの提供は2機まで、ただしロシア側の原因で打ち上げが失敗した場合にのみ、無償で3機目が提供されることになっていたためだ。爆発という突発的に起きる事象に対して、ロケットに搭載されていたセンサーやカメラから分かることは限られており、数少ない手がかりや憶測から、韓国とロシアの両者は責任のなすり付け合いを始めた。例えば韓国側は分離用に使われていたロシア製の爆発ボルトが原因ではないかとし、ロシア側はロケットが飛行経路を外れた際に自壊処理をさせるために搭載されている韓国製の指令破壊装置が原因ではないかと主張していた。2011年になり、ロシアは結局3機目の機体の提供に同意し、2013年1月30日に打ち上げられた。ロケットは順調に飛行し、搭載していた人工衛星STSAT-2Cを軌道に投入、打ち上げは成功した。ロシアから技術を導入することが決定された当時、韓国はKSLV-Iを発展させ、打ち上げ能力を強化したKSLV-IIやIIIを開発することを考えていたようだ。また韓国は、アンガラーの技術を手に入れることを目論んでいたともされる。しかしロシアは、単にロケットの完成品を売り込むことを考えており、組み立てや整備といった作業に韓国側が立ち会うことはできなかったとされる。ロシア側から技術が得られないことが明確になったため、2009年ごろにKSLV-IIを独自開発に切り替える決定が下されている。これが現在開発中のKSLV-IIである。○KSLV-IIKSLV-IIの全長は47.5mで、直径は第1段が3.3m、第2段が2.9m、第3段が2.6mと、徐々に細くなっている。打ち上げ能力は高度700kmの太陽同期軌道に1,500kgほど、また月への打ち上げ能力は550kgほどになるとされる。太陽同期軌道というのは地球の観測に適した軌道のひとつで、多くの地球観測衛星や偵察衛星がこの軌道に打ち上げられており、韓国の「アリラン3号」、「アリアン5号」などもこの軌道に乗っている。アリラン3号は日本のロケットで、アリアン5号もロシアのロケットで打ち上げられているが、両機と同じ1,500kg未満の衛星であれば、KSLV-IIが完成すれば、自力で打ち上げることがができるようになる。総開発費は1兆9,572億ウォンが予定されている。ロケットは3段式で、全段に液体燃料を用いる。第1段には75トン級のロケットエンジンを4基装備し、第2段には第1段と同じ75トン級エンジンを1基のみ装備、そして第3段には7トン級ロケットエンジンを装備する。75トン級エンジンは推進剤に液体酸素とケロシンを使用し、エンジンサイクルはガス発生器サイクルであるという。またノズルの壁面にケロシンを流して冷却し、さらにその後燃焼室に送り込んで燃焼にも使用する、再生冷却方式を採用しているとされる。なお、第2段に装着されるエンジンは、高真空環境に合わせて、ノズルの開口比が第1段用よりも大きくなっている。韓国は羅老号の開発時に、この75トン級と同じ推進剤、同じエンジンサイクルの30トン級エンジンの開発を行っていた。これはウクライナのユージュノエ社からの技術供与があったとされる。この30トン級エンジンは、将来的に羅老号の第2段に搭載し、打ち上げ能力を増したロケットを造ろうという計画があった。もし実現していれば、これがKSLV-IIと呼ばれるロケットになっていただろう。しかし計画は中止され、30トン級エンジンの開発も打ち切られ、この75トン級エンジンへ引き継がれることになった。75トン級エンジンは2009年ごろから開発が始まっており、2017年までの完成を目指すという。現在までに部品単位での試験や、燃焼器のみでの燃焼試験が実施されている。また2015年6月には新しいロケットエンジンを試験設備が完成することから、エンジン全体の燃焼試験も開始される見込みとされる。開発完了は2017年6月に予定されている。一方の第3段用7トン級ロケットエンジンは、推進剤に第1段、第2段と共通の液体酸素とケロシンを使用し、エンジンサイクルはガス押し式を採用している。すでに2014年3月に燃焼器のみでの燃焼試験を実施しており、今年6月にはエンジン全体の燃焼試験を実施するという。(次回は3月12日に掲載予定です)
2015年03月10日アメリカ航空宇宙局(NASA)は3月2日、2007年に打ち上げられた探査機「Dawn」が3月6日に準惑星ケレスの周回軌道に入ると発表した。ケレスは1801年にイタリアの天文学者が発見した、平均直径が950kmの準惑星で、火星と木星の間にある小惑星帯に位置している。全体質量の25%が水で構成されていると推定されており、ケレスのような天体によって地球に水がもたらされた可能性もある。「Dawn」は2014年12月にケレスへの最終アプローチを開始し、1月25日から同准惑星を撮影した画像を地球へ届けている。NASAの研究者は「Dawnから送られてくるデータは、太陽系がどのように形成されたかを理解する上で非常に役立つだろう」とのコメントを発表した。
2015年03月03日●17年越しで打ち上げられたDSCOVR米国のスペースX社は2月10日、地球・宇宙天気観測衛星「DSCOVR」を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。この打ち上げは2つの点で大きな注目を集めた。ひとつは、DSCOVRがかつてアル・ゴア元米副大統領の肝いりで開発が始まったものの、打ち上げ中止などの紆余曲折の末に、実に17年越しで打ち上げられた衛星であったこと。そしてもうひとつは、ファルコン9の第1段機体が海上への着水に成功したことだ。○17年越しで打ち上げられた「ゴアサット」DSCOVRは米航空宇宙局(NASA)と米海洋大気庁(NOAA)が開発した衛星で、太陽から放出される荷電粒子や、磁気嵐の状況といった「宇宙天気」を観測すること、また地球の昼側(太陽光が当たる側)を常時観測することを目的としている。DSCOVRは「Deep Space Climate Observatory」の略で、直訳すると「深宇宙の気象観測所」といった意味になる。またDSCOVRという略語は、「発見する」という意味の「Discover」に掛けられている。打ち上げ時の質量は570kgで、設計寿命は約2年が予定されている。軌道は、太陽・地球系のラグランジュ第1点と呼ばれる場所に投入される。下図にあるように、この場所は常に太陽と地球の間に存在しているので、太陽と地球の間の環境や、お互いがお互いに与える作用を観測したり、また地球の昼側を観測し続けるのに適している。DSCOVRには、大きく3種類の観測機器が搭載されている。まず「PlasMag」は、太陽から地球に向かって飛んでくる荷電粒子や電子、そして磁場などを観測する。「NISTAR」は地球のエネルギー収支を観測する。そして「EPIC」は、地球表面からのエネルギーの放射量やエアロゾル、オゾン、雲の動きなどを観測することを目的としている。DSCOVRは実に17年越しに打ち上げられた衛星だ。DSCOVRの開発は、もともと1998年に開発がはじまったトリアーナ(Triana)計画をその源流に持つ。トリアーナという名前は、1492年にコロンブスの艦隊がアメリカ大陸に訪れた際、最初に船から大陸を発見した乗組員の名前にちなんでいる。そしてトリアーナにはもうひとつ、「ザ・ブルー・マーブル」のような青く輝く地球の写真を、ほぼリアルタイムで世界中に配信するというミッションも課せられてた。「ザ・ブルー・マーブル」というのは、1972年にアポロ17の宇宙飛行士たちが撮影した、太陽の光を全面に受けて、宇宙に浮かぶビー玉のように輝く地球の写真のことだ。トリアーナを使い、現代の、そして常に最新のブルー・マーブルの映像を世界中に配信することで、環境問題や世界平和への意識を高めることが期待されていた。これは当時のアル・ゴア米副大統領の肝いりで進められたもので、後の証言によると、トリアーナはそもそも、このゴア副大統領の提案が発端となって計画が立ち上がり、他の科学機器はその後に徐々に付け加えられていったのだという。また、ゴア副大統領は太陽・地球系のラグランジュ第1点の持つ価値や、衛星からの観測で分かることなどについて、深い知識を持っていたという。しかし周囲からの評判は芳しくなく、「高価なスクリーンセーバーに過ぎない」と非難されたり、必要性を強固に訴えるゴア氏の名前を取り「ゴアサット」などと揶揄される始末だった。また、他の機器による科学ミッションについても「すでにある気象観測衛星からのデータで十分」という批判が集まるようになり、すでに衛星はほとんど完成していたにもかかわらず、2001年に計画は中止されることになった。トリアーナはスペースシャトルで打ち上げることが予定されていたが、国際宇宙ステーションの建設や、ハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションの方が優先順位が高かったために中止され、打ち上げ手段がなくなったのだ。ちなみに、打ち上げが中止される直前の時点で、トリアーナは、2003年2月1日に空中分解事故によって悲劇的な結末となった、STS-107コロンビアで打ち上げられることが計画されていた。また、この中止の背景には政治的な事情があったといわれることもある。ゴア氏は2000年の米大統領選挙に民主党候補として出馬し、激しい選挙戦の末、共和党候補のジョージ・W・ブッシュに破れている。トリアーナが中止されたのは、まさにブッシュ政権が誕生したのと同じ2001年のことであり、当時のことについて触れられた記事などでは「ブッシュ大統領はゴアサットを見せしめとして潰したのだ」などと書かれることもある。だが、スペースシャトルの運行予定が詰まっていたことは事実であり、かといって別のロケットで打ち上げるには追加予算が必要になること、さらに衛星の必要性が疑問視されていたことから、たとえゴア氏の息のかかった衛星でなかったとしても、打ち上げは中止されていたと見るのが自然だろう。トリアーナは打ち上げ中止となったが、しかし解体されることにはならなかった。NASAは、ゴダード宇宙飛行センターの窒素が充填された箱の中でトリアーナを保管し、いつか打ち上げの機会が巡ってくるときを待ち続けた。2003年には、トリアーナからDSCOVRへと名称が変更された。そして2009年、トリアーナ改めDSCOVRに、NOAAが救いの手を差し伸べた。当時NOAAは、NASAが打ち上げたACE(Advanced Composition Explorer)という太陽風の観測衛星に観測機器を提供し、宇宙天気の研究や、大規模な太陽嵐が発生する可能性があるときには警報を出すといったミッションを行っていた。しかしACEは1997年に打ち上げられた衛星であり、老朽化が進んでいたことから、NOAAでは後継機を欲していた。そこで目をつけたのが、ほぼ完成した状態で保管されていたDSCOVRだったのだ。NOAAの資金提供によって、約8年ぶりに保管庫から出されたDSCOVRは、まず各機器が正常に動くかが確かめられた。また搭載する観測機器はトリアーナ時代と変わらないが、NOAAの要求に合わせて再調整が行われた。こうしてDSCOVRは、姿かたちこそ変わらないものの、ミッションの主役はNASAからNOAAへ移り、新たに宇宙天気の観測を目的とした衛星として生まれ変わった。また、DSCOVRには米空軍も資金を提供している。これには2つの狙いがあった。まず1つ目は、宇宙天気の情報は米空軍の活動、特に弾道ミサイルの発射などを探知するための早期警戒衛星の運用にとって重要であること。そして2つ目は、新興企業のスペースX社が開発した新型のファルコン9ロケットに、1回でも多くの打ち上げの機会を提供することで、「育てる」という狙いがあった。ロケットに打ち上げ機会を提供するために衛星を新しく造るのはお金がかかるし、かといって単なる重りを打ち上げたり、あるいは空荷で打ち上げるのはもったいない。そこで、ある程度製造が終わっていたDSCOVRに資金提供が行われ、DSCOVRの復活を後押しした。米空軍が提供した分の金額は、ほぼすべて打ち上げ費用に充てられた。こうした紆余曲折を経て、DSCOVRは米東部標準時2015年2月11日18時3分(日本時間2015年2月12日8時3分)、米国フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-40から旅立った。ロケットは順調に飛行し、約35分後に予定通りの軌道にDSCOVRを投入した。DSCOVRは現在、太陽・地球系のラグランジュ第1点に向けて飛行を続けている。2月24日にはその道程の半分を通過している。観測が始まれば、宇宙に浮かぶ、青く輝く地球の画像が、毎日のように送られてくる。それはきっと息を呑むほど美しいものに違いない。DSCOVRの打ち上げに立ち会ったゴア氏は、自身のblogの中で次のように語っている。「DSCOVRは、地球に関する私たちの理解を深め、市民や科学者たちに異常気象の現実を教え、その解決策を考えるためのミッションへ旅立った。そしてDSCOVRはまた、この地球の美しさと、そして脆さを映し出し、このたったひとつの地球を守る義務を思い起こさせてくれる、すばらしい機会を与えてもくれるだろう」。●ファルコン9ロケットは着水に成功○ファルコン9の第1段は精度10mで着水今回の打ち上げにおける世間の注目は、どちらかというと積み荷のDSCOVRよりも、それを打ち上げるファルコン9ロケットの第1段機体の回収試験に集まっていた。スペースX社は、ロケットを再使用することで、打ち上げにかかわる費用を大きく引き下げることを目指しており、その最初のステップとして、打ち上げを終えて地球に戻ってきたロケットの第1段機体を、広い甲板を持つ船で回収する、という試験を進めている。同社はこれまで、垂直離着陸実験機による試験飛行や、打ち上げ後に第1段を海上に降ろす着水試験を行い、今年1月10日には船の上に着地する試験に初挑戦した。ロケットは巧みに制御されつつ船の真上まで舞い戻りはしたものの、甲板に激しく衝突するように着地し、残念ながら完璧な成功には至らなかった。その詳細については、拙稿『隼は舞い降りられるか? - 再使用ロケットに賭けるスペースXの野望と挑戦』を参照していただければと思う。今回のDSCOVRの打ち上げでは、1月の試験と同じく、太平洋上に用意した回収船の上にロケットの第1段機体を着地させることを目指していた。しかし、打ち上げ当日に着地予定海域を嵐が襲い、船が出せなくなってしまった。また船自体も、エンジンの1つに問題を抱えていたという。あくまで主目的はDSCOVRを打ち上げることにあったので、回収船が出せないからといって打ち上げが延期されることはなかった。しかし、スペースX社は転んでもただでは起きなかった。船こそないものの、本番さならがらに、海のある一点を目指して着水させることを試みた。その結果、約10mの精度で垂直に安定して降下することに成功したという。同社のイーロン・マスクCEOは「天気が安定していれば、船の上に降り立つことは可能だろう」とTwitterで述べている。もちろん今回がうまくいったからといって、次の試験で成功するとは限らないが、それでも可能性は高くなったと言ってよいだろう。ファルコン9の次の打ち上げは3月1日以降に予定されているが、この打ち上げと、さらにその次の打ち上げでは、ロケットの持つ能力を最大限に使う必要があり、着地に使うための追加の推進剤や着陸脚を積む余裕がなく、回収試験は実施されない見通しだ。次に回収試験が実施されるのは、今年4月に予定されているドラゴン補給船運用6号機の打ち上げの際となる予定なので、今しばらく待たねばならない。なお、同社は1月27日に、「ファルコン・ヘヴィ」ロケットの打ち上げを描いたCGアニメを公開した。ファルコン・ヘヴィは、ファルコン9の第1段を3基束ねて、より重い人工衛星を打ち上げられるようにしたもので、現時点で今年中に初の打ち上げが行われる予定だ。ファルコン・ヘヴィも機体の再使用することが考えられており(再使用しなければもっと重いものを打ち上げることができる)、このアニメでも、3基の第1段機体が打ち上げた場所にきれいに舞い戻ってくるという、にわかには信じられないような光景が描かれている。次の回収試験に向けて、期待は高まるばかりだ。参考・ ・ ・ ・ ・
2015年02月27日イラン・イスラム共和国は2015年2月2日、人工衛星「ファジル」を搭載した「サフィール」ロケットの打ち上げに成功した。イランにとってこの打ち上げは前回から約3年ぶりの衛星打ち上げ成功となり、またファジルはイランが自力で開発した衛星としては4機目となった。○サフィール・ロケット、衛星ファジルを打ち上げファジルを搭載したサフィールは、イラン標準時2015年2月2日14時20分ごろ(日本時間2015年2月2日17時50分ごろ)、イラン北部のセムナーン州にある、ルーホッラー・ホメイニー宇宙センターから打ち上げられたとされる。イランは打ち上げ時刻については明らかにしていないため、この時刻は衛星が乗っている軌道の情報からの推定である。打ち上げ後、米戦略軍の統合宇宙運用センター(JSpOC)が運用する宇宙監視ネットワークによって、軌道上に2つの物体が乗ったことが検知されている。宇宙監視ネットワークとは、米国の本土をはじめとする世界のあちこちに設置された、数十基からなる望遠鏡やレーダーを使い、地球周辺の軌道を回る物体を検知、追跡するシステムで、軌道上にある物体を管理、監視し、人工衛星や宇宙ステーションに、他の衛星やデブリなどが衝突する可能性がある場合に警告を出したりといった役目を担っている。宇宙監視ネットワークの観測データによれば、物体のうち1つは、地球の地表に最も近い点(近地点高度)が224km、最も遠い点(遠地点)が470km、赤道からの傾き(軌道傾斜角)が55.53度の軌道に、もう1つは近地点高度224km、遠地点高度460km、軌道傾斜角55.54度の軌道に乗っているという。現在、暫定的に前者には2015-006A、後者には前者には2015-006Bという名前が与えられており、どちらかがファジルで、もう一方がロケットの最終段だと考えられる。イランにとってこの打ち上げは前回から約3年ぶりの衛星打ち上げ成功となり、またファジルはイランが自力で開発した衛星としては4機目となった。○衛星ファジル「ファジル(Fajr)」はイラン・エレクトロニクス・インダストリーズ社が開発した衛星で、「夜明け」、もしくは「オーロラ」といった意味だという。打ち上げ時の質量は52kgで、設計寿命は1年半ほどとされる。衛星にはカメラが搭載されており、地球を観測することが可能だという。またGPS機器も搭載しているとされるが、もちろんGPS衛星というわけではなく、位置の把握などに使われると考えられる。また「コールド・ガス・スラスター」を持ち、軌道を変えることができるともいわれる。コールド・ガス・スラスターとは、窒素ガスなどをあらかじめ掛けておいた圧力だけで噴射するエンジンで、その仕組み上、推力は弱いが、構造が簡単という利点がある。打ち上げから1週間が経った2月9日現在、軌道を変えた形跡は見られないが、今後の動きに注目される。ファジルはおそらく、カメラやスラスターなどの技術試験と、少しばかりの偵察を目的としていると思われる。現在の軌道では、地球上のある点を一定の周期で観測することはできないため、本格的な偵察衛星として使うことは難しいが、まったく役に立たないというわけでもない。○サフィール・ロケット「サフィール(Safir)」は2段式の液体燃料ロケットで、全長22m、直径1.25mの、比較的小型の機体だ。打ち上げ能力も、地球低軌道に50kgほどと小さい。サフィールとはペルシア語で「使者」という意味を持つ。ロケットの第1段には準中距離弾道ミサイル(MRBM)のシャハーブ3を改造したものを使用しているとされる。どの程度の改造が施されているか詳細は不明だが、少なくとも外見からは機体の全長が伸びており、推進剤の搭載量が増えていることがわかる。また第2段には2基のロケットエンジンを持っていることが、イランが公開している写真で確認されている。サフィールはこれまでに、知られているだけで5機、憶測も含めると7機が打ち上げられているが、その過程で改良が行われているらしく、例えば初期に打ち上げられた機体と今回の打ち上げに使われた機体とでは、推進剤が変更されるなどし、打ち上げ能力が大きく向上しているとされる。推進剤については、組み合わせは不明だが、初期のサフィールにはTM-185(ケロシン20%とガソリン80%)とAK-27と呼ばれる赤煙硝酸(27%の四酸化二窒素(N2O4)と73%の硝酸(HNO3)を、現在運用されているサフィールには非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)とAK-27を使用しているという説がある。また外見も白い塗装が施されていたり、材料の地色がそのまま出ていたりといった違いがあるが、いかなる理由で塗装するか否かを決めているかは不明だ。考えられる理由として、打ち上げ能力の都合で、余力のあるときは見栄えを重視して塗装し、そうではないときは塗装を削って軽量化を図っているのではないかということが挙げられる。また、白い塗装はタンク内の推進剤の温度をある程度保つ役割があり、特にイランは大陸性気候で、なおかつセムナーン衛星発射センターは砂漠地帯にあることから寒暖の差が大きいため、打ち上げる季節や気候によって塗装の有無を変えているということも考えられる。その他にも、アリッジ・モーターにも細かな改良が加えられている様子が、公開されている写真から見て取れる。アリッジ・モーターというのは、第1段と第2段の確実な分離のためと、第2段の推進剤をタンクの底に押し付け、確実にエンジンへ供給できるようにするための、小さなロケット・モーターのことだ。サフィールの開発にあたっては、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)や中国からの技術供与があったと言われており、シャハーブ3は北朝鮮のミサイル「ノドン」のイラン版とも見なされている。さらにその源流には、ソヴィエト連邦で開発されたR-17、いわゆる「スカッド」ミサイルがある。結果的にはイランが北朝鮮よりも先に人工衛星を打ち上げることに成功したが、現在でもイランは、北朝鮮の銀河2(テポドン2)のような、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に匹敵するロケットは開発できていないため、現代でもロケット技術に関しては北朝鮮に一日の長があると見て良いだろう。ただ、イランは現在、「シームルグ」(Simorgh)と呼ばれる、より大型のロケットの開発を進めている。サフィールと比べると、第1段機体が格段に太くなっており、ロケットエンジンは4基を束ねる形で装着されている。このエンジンはおそらくノドンやサフィールで使われているのと同じもの思われ、こうして既存のエンジンを4基を束ねることで大きな推力を得る構成は、北朝鮮の銀河2号でも見られる。打ち上げ能力などの性能は不明だが、地球低軌道に100から150kgほどの衛星を打ち上げられるものと思われる。100kg級の衛星であれば、地球観測や通信を行うのに、ほぼ十分な性能をもたせることが可能となる。現時点で、シームルグの開発がどの程度まで進んでいるのかは不明だが、2015年3月から2016年3月(これはイラン暦でその年の年始から年末にあたる)までの間に初打ち上げが実施されると報じられている。(次回は2月19日に掲載予定です)参考・・・・・
2015年02月18日東京大学大学院総合文化研究科の土井靖生 助教らの研究グループはこのほど、赤外線天文衛星「あかり」の観測データから、全天の遠赤外線画像データを作成し、インターネット上で公開した。同成果は東京大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所、筑波大学、東北大学、英ラザフォード・アップルトン・ラボラトリー、英国立オープンユニバーシティの各研究者によるもの。これまで利用されてきた遠赤外線の全天画像は、1983年に打ち上げられた「IRAS」という衛星による観測データで、今回はそれを約20年ぶりに刷新するものとなる。「IRAS」のデータに比べ、画像の解像度が4~5倍に向上し、データの波長が160μmまで伸びたため(「IRAS」は最長100μm)、より詳細な解析が可能となる。この画像データは、星間物質の温度や分布を正確に測定したり、星間物質から星が作られ始める様子を詳しく調べること、星間物質の背後に埋もれた宇宙背景放射の強さの分布を正確に測定するなど、天文学のさまざまな分野への利用が期待される。
2015年01月16日損害保険ジャパン日本興亜(以下損保ジャパン日本興亜)と一般財団法人リモート・センシング技術センター(以下RESTEC(人工衛星等を利用して、地球の現状を探査するリモートセンシングに関する総合的研究開発、サービス提供を行う一般財団法人))はこのたび、ミャンマーの農家を対象にした『天候インデックス保険』を共同開発した。今後、ミャンマーの保険会社を通じ、2015年度からの販売開始を目指すと発表した。天候インデックス保険とは、天候指標(降水量、気温など)が、あらかじめ定めた条件を満たした場合に、契約上定められた保険金を支払う保険のこと。「アジア最後のフロンティア」として、世界的な注目を浴びているミャンマーは、GDPの約4割を農業が占めているが、近年の気候変動によって、干ばつや洪水などの自然災害が多発しており、農家に多大な被害をもたらしているという。損保ジャパン日本興亜は、気候変動に対する適応策として、ミャンマーの隣国であるタイの稲作農家向けに『天候インデックス保険』を2010年から提供。ミャンマーにおいては、2014年9月に両国大臣が出席する「日緬農林水産業・食品協力対話ハイレベル会合」で、同社『天候インデックス保険』が同国の農業分野に対して貢献できることを紹介し評価を得るなど、これまでミャンマー政府と連携しながら同商品の開発を進めてきたという。しかし、ミャンマーは気象観測のためのインフラと過去からの気象データが十分ではなく、『天候インデックス保険』の開発に大きな障害となっていた。そこで、損保ジャパン日本興亜は、衛星リモートセンシング技術(人工衛星に搭載した観測機器(センサ)を使い、離れた位置から地球表面等を観測する技術)について豊富な知見を有するRESTECとともに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が提供する衛星全球降水マップ(GSMaP)(JAXAが提供する全球降水マップの名称。日米欧などの人工衛星データから1時間ごとに作成)等の人工衛星データを活用することで、ミャンマーにおいても、『天候インデックス保険』を共同開発することに至った。人工衛星から推定された雨量を活用した『天候インデックス保険』の開発は、日本初だという。○『天候インデックス保険』の概要保険対象者(被保険者):対象地域の農家対象作物:米、ゴマ対象地域:マグェ管区、ザガイン管区を含むミャンマーの中央乾燥地帯対象リスク:干ばつ(雨季の少雨リスク)補償内容:人工衛星から推定された雨量が事前に定めた値を下回った場合に、事前に定めた金額を保険金として支払う損保ジャパン日本興亜とRESTECは、このたびの対象リスクとなっている干ばつ以外にも、サイクロンや多雨のリスクを対象にした『天候インデックス保険』の開発に着手しており、今後もミャンマーにおける気候変動に適応する商品やサービスの開発を強化していくとしている。
2015年01月06日KDDIは12月25日、航空機向け衛星通信サービス「インマルサットSB(スウィフトブロードバンド)」の提供開始を発表した。従来の約7倍となる上下最大432Kbpsを実現しており、これまで利用できなかった音声通話とデータ通信の同時利用も可能となった。この衛星通信サービスは、インマルサット第4世代衛星を利用しており、これまでのインマルサットエアロ(Swift64)の最大64Kbpsから飛躍的に通信速度が向上した。また、インマルサット第4世代衛星は3基が展開されており、ほぼ全世界をカバーしているという。同社はこれまでにも船舶向けの衛星通信サービス「KDDI Optima Marine」を提供しており、こちらも世界の多くの地域をカバーしている(16日に同サービスを活用した飛鳥IIのWi-Fiサービス提供も発表されている)。ほかに、5日に発表した衛星モバイルルーター「イリジウム GO!」の取り扱いなど、様々な状況下での衛星通信サービスを通して、携帯電話が繋がらない環境でも通信が利用できるようサポートを行うとしている。使用契約料は1契約ごとに12万2900円(税別)となり、月額基本料は0円。音声通話は固定電話・携帯電話宛が1分480円、インマルサット衛星端末向けは1分688円。データ通信では、ISDN通信(64Kbps)が1分3197円、ベストエフォート型のスタンダードIPが1MBあたり1503円、帯域保証型のストリーミングIPが32Kbpsの保証で1分1373円、64Kbpsで1分2923円などとなっている。SMSの送受信は1通あたり173円(基本料と通信料はいずれも免税)だ。
2014年12月25日Broadcomは12月8日、欧州連合が開発しているグローバル衛星システム「ガリレオ」をサポートするGNSS(全地球衛星測位システム)ロケーションハブ「Broadcom BCM4774」のサンプル出荷を開始したと発表した。同製品は、ガリレオ、GPS、GLONASS、SBAS、QZSS、BeiDouといった衛星システムを同時にサポートする。新システムに対応したスマートフォンは従来以上の精度を有し、高速で初期位置を算出するため、正確な位置情報を得ることができる。さらに、ロケーションハブのアーキテクチャにより、スマートフォンのメインアプリケーションプロセッサ(AP)はデータ演算を「BCM4774」にオフロードすることで演算負荷を軽減し、長時間にわたりスリープモードを維持できる。加えて、独自のハードウェア設計とメモリの増設により、モードによっては、従来のアーキテクチャと比較して消費電力を最大95%削減でき、モバイルデバイスのバッテリ寿命を大幅に延ばすことが可能である。そして、さまざまな状態を認識することで、モバイルデバイスから収集するデータの価値を高める。例えば、ユーザーが歩いているのか、走っているのか、サイクリングしているのかを認識し、特定された状態に適した位置情報に更新して提供することにより、データ結果の精度を向上できるという。この他、開発者およびOEM側で情報の分析やコンシューマへの提供方法を決定できる。
2014年12月10日KDDIは12月4日、国内通信事業者として初めて、イリジウム衛星を利用したモバイルルーター「イリジウム GO!」の取り扱いを行うと発表した。5日より提供を開始する。「イリジウム GO!」は、全世界をカバーするイリジウム衛星を利用して、どこでも音声通話やデータ通信ができる衛星端末。手持ちのスマートフォン、タブレットとWi-Fiで接続可能となる。サイズが119.8mmx81.7mmx33.4mmとパスポートサイズのコンパクトな設計に加え、災害時利用を想定して、防水・防塵性、米国国防総省が制定した軍事規格「MIL-STD-810F」に準拠する耐久性を備えている。重量は305g。海上や非常災害時でも、使い慣れたスマートフォンやタブレットを使って、アドレス帳を活用した音声通話やショートメッセージのほか、GPS位置情報や緊急メッセージの送信ができる。また、従来の電話やショートメッセージだけでなく、新たにTwitterなどのSNS利用も可能となり、災害時の様々な情報通信ニーズに対応する。使用契約料は、1契約につき1万円。月額料金はイリジウム音声サービス「5000円プラン」が利用でき、無料通信料1000円を含む。通信料は固定電話/携帯電話宛が20秒63円で、データ通信料も同額の秒数課金となる。端末の連続通信時間は5時間30分で、待受時間は15時間30分。通信速度は最大2.4Kbpsで、スマートフォンとの接続には専用アプリを事前にApp StoreかGoogle Playからダウンロードする必要がある。
2014年12月05日日本ユニシスは11月28日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星データの利用拡大に向けたビジネス・インキュベーション施策「衛星データを活用した新たなビジネスソリューション構築のためのパイロットプロジェクト」において「EMS(Energy Management System)サービスへの衛星データ活用」を提案し、「新規に開拓する利用分野」のエネルギー分野において採択されたと発表した。同プロジェクトでは、地球観測衛星センサーと地上センサーから取得したビッグデータを解析し、外部環境による再生可能エネルギーの電力変動に対応した高精度な発電量の予測を行うシステムの開発を目指す。さらに、同社のEMSサービスに適用することで、より付加価値の高いサービスの実現につなげていく。複数の地球観測衛星から得られる大量のデータを解析し、リアルタイムな電力管理を行うEMSへ適用する国内初の取り組みとなる。なお、再生可能エネルギー発電予測モデルの開発およびフィールド検証は、研究機関や発電所を持つ事業会社などと協業するとのこと。今後日本ユニシスは最長で3年間、JAXAから衛星データや技術アドバイスの提供を受け、JAXAと連携しながら協業企業との実証実験を通し、ビジネスモデル・技術の構築を図っていくことになる。また、同プロジェクトを通して、分散電源の効果的かつ安定的な運用にも取り組んでいく。
2014年11月28日NTTデータとNTT空間情報は、2014年10月20日より、31cmの解像度で画像撮影が可能な米国DigitalGlobeの「WorldView-3」衛星画像の提供を開始すると発表した。「WorldView-3」は、2014年8月に打ち上げられた地球観測衛星で、商用世界最高クラスの地上分解能31cmの「パンクロマチック画像センサー」、商用世界初の16波長帯の「マルチスペクトル画像センサー」と薄雲などの影響を軽減し鮮明な画質を可能にする「大気補正センサー」を搭載している。同衛星は、航空写真と同等の細かさで撮影可能なだけでなく、赤外線波長等を利用した地表面の種類や状態の詳細な分析が可能。これにより、地図作成、自然災害への対応、森林や農地の管理、環境評価の分野などへの利用展開が期待されるという。両社は、「『WorldView-3』衛星画像を通じた高精度な地理空間情報の提供、および複数の衛星を活用して撮像能力を強化することで、より質の高い衛星画像提供サービスを行い、地理空間情報の一層の利用拡大、市場創出に取り組んでいく」とコメントしており、同衛星画像提供サービスについて、2016年度までの累計で50億円の売り上げを目指すという。
2014年10月20日フランスのアリアンスペースは2014年8月22日、ロシアから輸入したソユーズST-Bロケットを使い、欧州版GPSこと「ガリレオ」を構成する衛星2機を、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから打ち上げた。ロケットは順調に飛行したかに見え、アリアンスペースは「打ち上げ成功」と発表した。しかしその後、ガリレオが計画から大きく外れた軌道に投入されていることが判明し、アリアンスペースは「打ち上げで問題が発生した」と発表を修正。欧州宇宙機関(ESA)と欧州委員会と共同で独立調査委員会を立ち上げ、またロシア側とも共同で原因の究明に当たるとした。その結果が10月8日に発表された。それは「フレガートの設計ミス」というものであった。○フレガート上段まず最初に注意しなければならないのは、今回打ち上げに失敗したロケットの名前は「ソユーズST-B」と呼ばれているが、「ソユーズ・ロケット」が失敗したわけではないということだ。今回打ち上げられたロケットの名前を正確に記すと「ソユーズST-B/フレガートMT」であり、問題を起こしたのはフレガートMTのほうだ。ソユーズST-BとフレガートMTの両者は単に結合されて飛行するだけで、システム的にはそれぞれ独立している。また製造をしているのも、ソユーズ2.1bはRKTsプラグリェースで、フレガートMTはNPOラーヴォチキンであり、それぞれ別会社である。フレガートはソユーズやゼニート・ロケット向けび開発された上段だ。上段(Upper Stage)とは、ロケットと衛星の間に搭載されて、ロケットからの分離後にその衛星を最終的な目的地である軌道へ送り届ける役目を持つ。ロケットの最終段(もしくは最上段)とも見なせるが、多くの場合ロケットから独立したシステムを持っており、それ単体がひとつの別な宇宙機と見なせる造りになっている。また、エンジンの再点火が可能で、例えば複数の衛星を、複数の異なる軌道へ投入したり、何度も軌道変更を必要とするような複雑な軌道への投入が可能であったりといった特長を持つものが多い。フレガートは6個の球体を円状に並べた、ポン・デ・リングのような外見をしており、このうち4個に推進剤が、残りの2個に電子機器が収められている。推進剤には非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素が使われている。カタログスペックでは、最大3日間の軌道滞在と、20回以上ものエンジンの再着火が可能とされている。また推進剤タンクの容量などによっていくつかの種類があり、ソユーズST-Bに使われているのはフレガートMTと呼ばれ、球形の推進剤タンクに、さらに小さなタンクを外付けすることで推進剤の搭載量を増やしたものだ。フレガートはこれまでに47機が打ち上げられ、今回以外に2度の失敗を起こしている。最初は2009年5月21日、ロシアの軍用通信衛星「メリディアーン2」を打ち上げた際に起き、第2回の燃焼が計画より早く停止するという問題が発生し、予定していた軌道に投入できなかった。ただし衛星側のスラスターで挽回は可能であるとされ、打ち上げは成功と発表された。原因は飛行プログラムのパラメーターの入力ミスで、第1回と第2回の燃焼の間に、推進剤を計画より多く使ってしまったためであると結論付けられている。2回目の失敗は2011年11月8日の火星探査機「フォボス・グルント」と「蛍火一号」の打ち上げにおいて起き、ゼニート・ロケットからの分離後、フレガートのエンジンが点火せず、軌道を脱出して火星に向かう軌道に乗り移ることができなかった。ただしこの時使われたフレガートは、フォボス・グルントと一体となった構造をしており、また推進剤の搭載量を増やした「特注品」であり、さらにトラブルの原因も探査機内のコンピュータにあったと推定されているため、フレガートそのものの失敗とは言いがたい。なお公式には発表されていないが、2006年と2007年には、飛行中において、バルブの故障によって推進剤タンクを十分に加圧できない状態になったとされる。ただし予定の軌道にたどり着くことはできたため、双方とも打ち上げ自体は成功している。○原因は設計時のミスそれでは、今回のガリレオの打ち上げ失敗はどのようにして起きたのだろうか。今回のミッションでは、ロケットの離昇から約9分後に、ソユーズの第3段から、フレガートMTと衛星とが結合した状態で分離される。その後、フレガートMTは1回目の燃焼を開始し、約13分後に燃焼を停止する。そして約3時間にわたって慣性飛行を行い、再びフレガートMTのエンジンを点火、そして約5分後に燃焼を停止し、衛星を分離する、という流れになるはずだった。発表文によれば、その約3時間の慣性飛行中に、姿勢制御スラスターにつながるヒドラジンの配管が凍って詰まり、姿勢制御スラスターのうち2基が動かなくなってしまったという。それにより、フレガートMT自身が認識している姿勢の状態と、実際の姿勢とに狂いが生じ、その状態で第2回の燃焼を始めたために、誤った方向に向かって飛行することになった。その結果、予定していた軌道に衛星を送り込むことができなかったとされる。そして調査によって、ヒドラジンの配管が、加圧用の極低温ヘリウムの配管と、アルミニウム製の支持構造物(クランプ)を介してつながってしまっており、熱伝導によってヒドラジンの配管が冷やされてしまったためであるとのことだ。そして、このようなことが起きた原因は、設計図の表現が曖昧で、本来あってはならない組み立てが可能であるように書かれていたためであるとされている。宇宙専門誌『SpaceNews』が報じたところによれば、欧州とロシアの調査団がラーヴォチキンの工場を訪れた際、すでに生産されていた複数のフレガートのうち、4機に1機の割合で、今回同様の誤った組み立て方をされたものが見つかったという。またロシア側独自の調査によれば、15機中3機に起きていたとされる。つまり正しく組み立てられたものと、そうではないものが、1/4から1/5ほどの確率でランダムに生産されていたということになる。『SpaceNews』はまた、欧州側の高官の話として「おそらく過去10年にわたり、1/4の確率で今回のような間違った組み立てをされたフレガートが飛行していたはずだが、慣性飛行の時間が今回ほど長くはなく、ヒドラジンの配管が凍る前にミッションが終わったりといった理由で、今までの打ち上げに影響が出ることはなかったと考えられる」という見方を伝えている。つまりアリアンスペースは今回、運悪く「ハズレ」を引き当ててしまったうえに、さらに運の悪いことに慣性飛行の時間が長いミッションで使ったことで、ついに事故に至ったということだ。またアリアンスペースの発表文によれば、すでにラーヴォチキンではフレガートの熱設計の修正と、設計図の修正、また製造、組み立て、検査における手順書などの文書の修正などといった対応が始まっているという。アリアンスペースの代表取締役会長兼CEOのステファン・イズラエル氏は発表文の中で「早ければ2014年12月にも、ギアナ宇宙センターからのソユーズの打ち上げを再開したい」と述べている。ただ、『SpaceNews』などによれば、この12月の打ち上げでは、ガリレオではなく、別の衛星が搭載されるだろうとしている。○今後の影響今回の事故は、以前から多くの専門家によってなされてきた「ロシアの宇宙技術力は低下している」という指摘を裏付ける一例となった。独立調査委員会の見解によれば、今回の事故はあくまで設計時のミスであり、昨今のプロトン・ロケットの失敗の折に指摘されているような、技術力や品質管理能力の低下とは異なる問題であり、マニュアルなどの修正のみで十分としている。また、報告書には「ソユーズ・ロケットの故障ではない」と強調して書かれてあり、今回の失敗はあくまでフレガートMTのみ、またラーヴォチキンのみに原因があるとしている。だが、それでもロシアの宇宙開発全体の信頼性やブランドに影響を与えることになったのは間違いない。また、フレガートは今まで比較的失敗が少なかったことから、ロシア全体としての宇宙開発の技術力、やはり衰退しているということも示唆している。これからフレガートには、信頼の回復に向け、長い道のりが待っている。前述のように、ギアナ宇宙センターからのフレガートを積んだソユーズの打ち上げ再開は今年12月に、またロシアからのフレガートの打ち上げは11月に予定されている。まずはこれらの打ち上げが成功するか、そして今後も打ち上げ成功を続けることができるかが鍵となる。一方の欧州にとっても、今回の事故はいくつかの変化を呼び起こすかもしれない。例えばガリレオは、ソユーズと、欧州製のアリアン5 ESロケットの両方を使って打ち上げられることになっているが、今後アリアン5 ESのみを使うという方向に傾く可能性はある。またソユーズは、フランスの偵察衛星などの打ち上げでも使われているが、安全保障に関する衛星をロシア製ロケットに依存するのは好ましくないという声がかねてよりあった。今回の事故を受けて、その声はより強くなるだろう。現在、欧州ではアリアン5の後継機としてアリアン6の検討が進められているが、最新の検討状況によれば、固体ロケットブースターの本数によって、重量型と軽量型の2つのバリエーションを持つ機体になるとされる。将来的には、この軽量型がソユーズの代替となる可能性もある。参考・・・・・年10月20日追記:記事掲載当初、「今後の影響」の項の内容に誤りがございましたので訂正させていただきました。
2014年10月16日アメリカ航空宇宙局(NASA)は10月9日(現地時間)、アメリカ、日本、ブラジルの共同で運用されている観測衛星「Aqua」が撮影した台風19号の写真を公開した。大気の様子を可視化する「MODIS」という装置で撮られた写真では、台風の目をはっきりと見ることができる。専門家によればこれは強力な台風の典型的な特長だという。また、大気温度/湿度、地表面温度などを測定する「AIRS」によって取得された画像では、中心付近で強い雷雨が起こっていることがわかった(紫色で表示されている部分)。台風19号は中心気圧920hPa、最大瞬間風速70mという非常に強い勢力を保っており、およそ時速15kmのスピードでフィリピン沖を北上している。10日から13日にかけて日本列島に上陸する恐れがあるとして、気象庁は各地に大雨・暴風・高波などへの注意を呼びかけている。
2014年10月10日アメリカ航空宇宙局(NASA)はこのほど、2000年から2014年の間に撮影した、中央アジアにあるアラル海の衛星画像を公開し、ほぼ消滅状態にあると発表した。アラル海はカザフスタンとウズベキスタンにまたがる湖で、かつては世界第4位の面積を誇っていたが、1960年代の旧ソ連が農業用水確保のために主要な川の流れを変更したことなどにより年々小さくなっていった。2005年から2009年にかけて大幅に水量を減らした後、この数年は一進一退を繰り返していたが、2014年の干ばつによって湖の南西部が完全に干上がってしまった。湖が干上がったことにより、漁業に依存していた地元の経済が崩壊、湖の底から吹きあがる砂や埃に含まれる農薬が周辺住民に健康被害をもたらすなど、深刻な問題となっている。
2014年10月02日宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月30日、2014年5月に打ち上げた陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」により、9月27日に噴火した御嶽山の緊急観測を行い、噴火により発生した窪みや降灰堆積の様子を捉えることに成功したと発表した。同観測は、JAXAと防災関連機関との間の、災害に関する衛星情報提供協力の枠組みにより、火山噴火予知連絡会および内閣府からの要請により行ったもの。今回の観測では、「だいち2号」に搭載されたLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)を用いた噴火前後の山頂付近の比較から、長さ210m、幅70mほどのくぼみが新たに発生していることを確認。これが新たに形成された噴出口(火孔)であると考えられるとする。また、噴火前後の御嶽山山頂部を同じ軌道から観測した画像の変化を比較したところ、衛星画像においても御嶽山山頂の火口の周辺に降灰堆積が多く分布することが推察される結果を得たという。なおJAXAでは引き続き防災関連機関と連携しながら、御嶽山の観測を継続する計画だとしている。
2014年10月01日NECは7月2日、府中事業場(東京都府中市)に建設していた「衛星インテグレーションセンター」の稼働開始を発表、同センターをプレスに公開した。これまで、同社は大型衛星に対応した環境試験設備を持っていなかったが、新工場の完成により、大型衛星の自社一貫生産が可能な体制が整うことになる。全面稼働は2015年春の予定。2013年3月に起工し、2014年6月に竣工した衛星インテグレーションセンターは、高さ50m、フロア面積9,900平方mという巨大な建屋。天井までの高さが20mもある衛星組立室が2フロアあり、1階には大型スペースチャンバーや振動試験装置なども備える。衛星本体の組み立てから環境試験までを担う施設で、大型の商用衛星にも対応することが可能だ。衛星コンポーネントはこれまで通り、府中事業場内の別の建屋で製造する。従来は、作った衛星コンポーネントを相模原事業場(神奈川県相模原市)に運び、衛星を組み立てていたが、同じ敷地内で完結するようになり、生産性が向上する。新工場の稼働により、同社は最大8機の衛星を同時に組み立てることが可能になった(従来は最大4機)。設備の"目玉"と言えるのは、内径8m、奥行き12mという巨大なスペースチャンバーだろう。スペースチャンバーは、内部に衛星を入れて、熱真空試験を行う装置である。宇宙は、日向側では100℃以上、日陰側では逆にマイナス100℃以下にもなる過酷な環境。真空で空気の対流が起きないため、温度のコントロールが非常に難しい。しかし過酷な環境だからこそ、衛星が実際に宇宙に行ってから正常に機能するのか、打ち上げる前にしっかり確認する必要がある。これが熱真空試験だ。スペースチャンバーは宇宙環境を再現するための装置で、壁面に通した液体窒素や窒素ガスにより、マイナス173℃から90℃まで温度を調整することが可能だという。このほか新工場には、最大8tまでの衛星を搭載し、打ち上げ時の振動を再現できる振動試験設備や、フェアリング内の大音量を再現できる音響試験設備なども用意される。従来は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の試験設備を借りていたため、衛星を移動させる手間がかかっていたが、一貫して自社で行えるようになる。建屋と設備への投資額は約96億円(経済産業省のイノベーション拠点立地推進事業「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」の採択事業となっているため、同社の実質的な投資は約76億円)。同社の宇宙関連事業の売り上げは年間500億円程度だったが、海外の衛星需要を取り込み、2020年度には1,000億円まで規模を拡大させることを目指す。同社宇宙システム事業部長の安達昌紀氏は「設備は5~10年の話ではなく、15~20年と使い続けていくもの。そうした設備を建てるということは、NECが宇宙事業を継続していくということのメッセージでもある」と述べる。スマートフォン事業からは撤退したNECだが、宇宙事業は成長分野として期待していることが分かる。日本の衛星メーカーでは、すでに三菱電機も設備投資を行っており、生産能力を倍増させた。日本の大手2社が揃って設備を強化した背景には、国の姿勢が変わったことがある。2008年に宇宙基本法が成立し、2009年に宇宙基本計画が策定。これにより、日本の宇宙開発はそれまでの「研究開発主導」から「利用ニーズ主導」へと、大きく戦略を転換した。宇宙産業を維持していくために、国際競争力の強化も図られることになった。同社執行役員の近藤邦夫氏は「衛星を売り込む時、商用の通信衛星などでは会社vs会社の形になるが、観測衛星では国vs国。コンペでも国がバックに出てくることが多いが、宇宙基本法の成立以来、国による力強いバックアップを得られるようになった」と、環境の変化を実感する。とはいえ、世界の衛星市場では欧米メーカーが圧倒的なシェアを持っており、設備を強化したからといって、すぐに受注が増えるというわけではない。近藤氏も「欧米のメジャーと比べるとまだ距離感がある。彼らは年間10数機のオーダーで衛星を作っている。まだまだ我々の規模は小さい」とその差を認める。特に大型衛星では欧米メーカーが強いため、同社がまず期待するのは小型衛星市場だ。同社は標準衛星バス「NEXTAR」を開発し、そのプロトタイプとも言える惑星分光観測衛星「ひさき」がすでに打ち上げられた。NEXTAR採用1号機となる地球観測衛星「ASNARO」も今年度の打ち上げを予定しており、海外からの受注に弾みを付けたいところだ。ただ、NEXTARは小型の「NX-300L」だけではなく、中型衛星向けの「NX-1500L」や大型衛星向けの「NX-G」も用意している。当然ながら、中型・大型衛星の受注も狙っていく。「今はJAXA中心の一品生産モノが多いが、それだと利益には限界があるし、開発リスクもそれなりに発生する。安定的な事業にしていくためには、繰り返し同じ衛星を生産するところに食い込んでいく必要がある。気象衛星やGPS衛星のように、一旦インフラになれば、必ず更新需要が出てくる。なんとかそこに持ち込みたい」(安達氏)。
2014年07月03日