夫婦ではじめたネット上の小さなお店余白の美しい洗練されたウェブサイトと、そこで取り扱う家庭に溶け込むおしゃれなデザインの商品の数々。いい意味で、これまでの「療育」のイメージとは一線を画すような療育グッズを取り扱う通販サイト「tobiraco(トビラコ)」が2016年12月にオープンしました。元子育て雑誌の編集者だった平野佳代子さんが夫婦で立ち上げたサービスです。Upload By 発達ナビニュース道具で発達を応援tobiraco(トビラコ)人の話を最後まで聴けない、自分だけしゃべり続ける、自分の気持ちをうまく表現できないといった課題のあるお子さんが、遊びながらコミュニケーションを学べる「きいて・はなしてはなして・きいてトーキングゲーム」という商品や、手先が不器用で服が上手くたためないお子さんのための「たたみ方れんしゅうボード」など、生活の中で使える療育グッズを取り扱っています。Upload By 発達ナビニュースきいて・はなしてはなして・きいてトーキングゲームUpload By 発達ナビニュースたたみ方れんしゅうボードこれらのアイテムは、発達に課題のある子どものために学校や塾、そして療育の先生が考案したものを、デザインを洗練して開発したもの。店主の平野さんが前職の子育て雑誌の編集時代に出会った教材たちを、もっと広く世に伝えていきたいという想いから生まれました。これらの道具にはそれぞれにストーリーがあり、開発に至った過程や具体的な使用方法がサイト上で丁寧に説明されています。Upload By 発達ナビニュース今回発達ナビ編集部は、2016年12月に産声をあげたばかりのトビラコを運営している平野さんにお話をお伺いしてきました。トビラコ平野さんにインタビュー―12月末にトビラコをオープンしたとのことですが、どういった反響がありましたか。とあるブロガーさんがトビラコを見つけ紹介してくれたおかげで、結構な数の注文につながりました。大変有難いです。また知り合いや知り合いの知り合いの方々から、暖かいサイトだね、とか、居心地のよい部屋にいる感じがするサイトだね、などといったお言葉を頂いています。―現在はどういった商品が特に売れていますか。一番売れているのは「きいて・はなしてはなして・きいてトーキングゲーム」ですね。その次に売れているのが『「すわりかた」と「もちかた」お手本マット』です。実際にサイトオープンをしてみて想定していた以上に注文があったのは「見る目をかえる自分をはげますかえるカード(専用ウォールポケット付)」でした。かえるカードは専用ウォールポケットにこだわって特注で作ったため、値段設定が高めなのですがよく売れています。 筑波大学附属大塚特別支援学校の安部先生と一緒に開発した自己肯定感をテーマにした商品なのですが、非常にニーズがあることが分かりました。きいて・はなしてはなして・きいてトーキングゲーム「すわりかた」と「もちかた」お手本マット見る目をかえる自分をはげますかえるカード(専用ウォールポケット付)―商品開発はどのようにして行われているのですか。旦那と2人で商品開発を行っています。さまざまな先生より原案は頂いており、ずっと付き合いがありトビラコのサイトデザインもお願いしたデザイナーさんに商品のデザインをお願いしています。これまで私は教育雑誌の編集の仕事をしていたため、このような商品開発は初めてでした。パッケージ化から配送の段取り、実用新案の登録など、商品を考えてからお客様の元に届けるまでは意外と大変で、また編集の仕事とは全然違う脳の筋肉を使うため、やってから分かることも多かったです。教育雑誌の編集をしていた頃からこのような商品化の構想はありました。実際に学校や現場で使用し、お子さんにとって効果があったという数々の素晴らしい教材と出会ってきましたが、どのアイテムもデザイン面はそこまで考慮されていませんでした。そこでトビラコでは、デザインやパッケージにこだわり、買う時や使う時にわくわくし、かわいい、おしゃれと感じられるような商品づくりを目指しています。Upload By 発達ナビニュース―トビラコの商品販売の場をウェブサイトとしたことには何か理由がありますか。ウェブでトビラコを始めようと思った理由のひとつに、読み物ページを充実させたいと思ったことがあります。以前編集に携わった雑誌で発達障害に関する増刊号を出した時に、たいへん大きな反響があったんですね。ああいった情報を提供出来るように、そして誰でも自由にアクセス出来るように、トビラコの店舗はウェブショップにしました。現在は商品開発と販売に注力していますが、落ち着いたら記事ももっと充実させていきたいと思っています。また商品の紹介に関しても、情報を充実させるようにしています。原案の先生たちも道具を作るに至るいろんな思いがあったり、実際に子供が使う現場を見て言いたいことがあったりするんですね。つくった人の思いを伝えていきたいと思っています。―では今後どういった情報発信をしていきたいとお考えですか。お母さんたちのかゆいところに手が届くような、そんな情報発信をしていきたいですね。不安を煽るのではなく、見通しが立ち安心出来るような情報を発信していきたいです。専門家の先生がよくおっしゃるのは、「大変な時期はあるから悩めばいい、最終的にはなんとかなるから」ということなんですね。行政や先輩ママ、専門家の先生などのお話をもとに、具体的な情報を発信していくつもりです。―トビラコというサービス名にはどういった意味が込められているのですか。「扉を開ける子供」というイメージを込めています。音の響きがいいこともありますし、自分で扉を開けて新しい世界に行ける子になれるように、という願いを込めていますね。―今後はどういった展開をしていく予定ですか。商品に関しては、まだ点数が少ないので開発を進めていきたいです。今年もいくつか新商品の発売を企画しています。そして、今後は商品販売だけでなく、読み物ページの充実や、少人数で集まってあたたかい気持ちになれるような、そんなイベントの開催もしていきたいですね。またトビラコの活動だけでなく、書籍の編集・構成も行っています。1月18日発売の書籍『使ってみたら「できる」が増えた発達障害の子のためのすごい道具』では、筑波大学附属大塚特別支援学校の安部先生に本を書いて頂きました。「できない」は道具を使うことで解決する、というコンセプトの元、支援グッズをカタログ形式で紹介しています。トビラコの商品や、またトビラコ以外の商品も多数掲載しています。支援グッズに携わっていると、道具が役立ったことから逆に困り感の存在に気づかされることもあります。例えば龍角散の商品で「らくらく服薬ゼリー」という商品があるのですが、味覚過敏があってお薬を飲むのが苦手なお子さんはこの服薬ゼリーでお薬が飲みやすくなるんですね。そのお話を龍角散の方にしたところ、初めて聞いたとのことでした。道具を知ってもらうことで、いろんな人に困り感に気付いてもらう、社会に対してアピールするチャンスになると思っています。発達障害の子は見た目で分からない分、理解されづらい部分も大きく苦しんでいるかと思います。支援グッズを作り、多くの人に知ってもらうことで、その子たちの困り感を解消していきたい、そして理解を広げることに繋がっていけばいいなと考えています。少しでも困り感が軽減されれば…店主平野さんの想いいかがでしたでしょうか。ひとつひとつのアイテムにストーリーがあり、慈しむように愛されてうまれたトビラコの商品の数々。生活の中で使え家庭に溶け込むおしゃれなデザインの療育グッズの中から、お子さんの困り感を軽減しお気に入りになるものがあれば何よりです。その他サイトには先輩ママのコラムなども掲載されていますので、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。道具で発達を応援tobiraco(トビラコ)発達障害の子のための「すごい道具」: 使ってみたら、「できる」が増えたUpload By 発達ナビニュース
2017年01月18日この子に一体何が起きているの?出典 : 子どもの発達が気になったとき、そして「もしかして何か障害があるのではないか」と疑い始めたとき、みなさんはどんな心境だったでしょうか?我が子に障害があると考えたくないという保護者の方もいると思いますが、私は「必要なら早く子どもをサポートしてもらえる場所に繋がりたい…」という気持ちでいっぱいでした。私の住んでいる地域では、3歳にならないと発達障害の診断は出ないということでしたが、1歳半健診を受けた際に紹介された「療育センター」で相談に乗ってもらうことにしました。療育センターと聞いても、知識のなかった当時の私には、何をする所か全くわかっていませんでした。とにかく子どもの今の状態が知りたい一心だった私。うちの子は発達に問題があるの?他の子と何か違うの?そんな気持ちが渦巻きながら、療育センターの予約日までの数ヶ月を過ごしていました。待ち遠しかった療育センターでの相談。最初に面談したのはソーシャルワーカーさんだった出典 : 初めて療育センターを訪れた日、息子は2歳になっていました。最初に話を聞いてくれたのは、ソーシャルワーカーと呼ばれる人でした。「 医師と私たちを結ぶ、『何でも屋』と思って頂きたい。」そう言われたのを覚えています。あらかじめ書いてきて下さいと貰っていた問診票や生活記録表を渡しながら、私たち親子(夫、私、息子)とワーカーさんとの4人で和やかな4者面談を行いました。生活記録表には、生まれてからの成育歴を記しました。また、問診票には睡眠が乱れていることや、偏食、衝動性でどれほど苦労しているかなど、母親目線での育てにくさを記入しました。面談では問診票の確認のほか、夫から見た息子の様子も聞かれました。そのあいだ息子は、用意されていたオモチャや私が用意していたお気に入りグッズでその場を過ごしました。面談が終わると、ワーカーさんから「それでは医師の診察になりますね」と言われました。いよいよ始まった息子の診察。医師の分析、視点の違いに驚き!出典 : その後、医師の待つ別室へと息子と入室しました。部屋に入ると医師が1人、他にもう1人女性の保健師さんがいました。医師は初めに主人と私に笑顔で挨拶をした後に、「お子さんの様子を少し拝見しますね。簡単なテストのようなものもします。」と言い、1歳半健診でやるような型はめや絵本、クレヨンでお絵かきなどをしました。検査に使う道具や絵本、絵の描いてあるカードなどは、医師が指示を出すタイミングまで、白い布に覆われた棚の中に隠してありました。整理された環境…それはまさに、子どもが落ち着いて目の前のことに集中できるよう工夫された部屋でした。こうして、検査段階から既に療育への第一歩が始まっていたのです。その後、一通り息子の課題や検査が終わり、先生が言いました。「実はドアを開けた瞬間から息子さんがどこに注目するのかを見ていました。息子さんの場合は、真っ先に物に注目していましたね。通常というと語弊があるかもしれませんが、このくらいのお子さんであれば、入る時点で周囲を警戒する子がまぁ、一般的には多いんですよ。息子さんはそうですね…人ですね。人への関心が少ないお子さんではありますね」私は、先生のこの言葉に衝撃を受けました。なぜなら、これまでの子育ての中で私が気になっていたことは、落ち着きがないとか、偏食・不眠という「目に見えて気になるところ」だけだったからです。発達の遅れというのは行動だけではなく、目に見えないこと(感受性)にも注目するのですね。やっと子育ての相談ができる…身構える私。そして下された診断名は出典 : いよいよ、医師と私たち夫婦との面談です。特に私は身構えていました。「やっとこの子に起きていることがわかる…!」この日が来るまで、何度眠れない夜を過ごし、何度涙を流したか…。医師から告げられたのは、以下でした。●注意関心の向け方に偏りがある・人より物に関心がある●発達に凸凹がある・目で見て理解する力はある(視覚優位)・意図、意味、気持ちや状況、ルールや人との距離など、見えないものをイメージする力が弱い●コミュニケーションの困難さ・相手の意図を理解してコミュニケーションする力が弱い「この、3つの観点から総称して『自閉症スペクトラム障害』と言えます。そこに交わるカタチで、様々な障害が関わってきていたりもするのですが、お子さんの場合はADHDの傾向が既にあります。ただし、未就学児に対する診断は下せないことになっていますから、ADHD(仮)と思ってください。」医師は時おり穏やかに、でも強くきっぱりと言いました。「この子にはきっと何かある…」わかってはいた。でも現実を突き付けられたショックは大きくて出典 : うちの子は自閉症スペクトラム障害なんだ…。障害と名のつく診断を貰ってしまった…。その直後、しばらく呆然としたのを覚えています。そして、気付いた時に私は泣いていました。声もなく、ポロポロ涙が止まりませんでした。主人も冷静を装いながら、私の背中を一生懸命さすってくれていました。医師は更に続けました。「診断名というのは、あくまで名前です。総称のようなもの。これから先、診断名としては一生取れることはないかもしれないけれど、息子さんはまだ小さい。これからの関わり方次第で、とても伸びるお子さんだと思いますよ。賢いのね、彼。とても賢いわ。将来が楽しみ。だから、一緒に向き合っていくお力になれればと思います。」そう締めくくりました。支えになった夫の存在。そして始まったのは新しい未来だった出典 : 「診断名としては一生取れることはないかもしれないけれど」医師のこの言葉は、悪意からではなく「大丈夫。我々もサポートします。未来をみよう!」という気持ちからだったのだと思いますが、この時の私は、この言葉だけがずっと頭から離れませんでした。主人は、滅多に動じない人ですが、流石に悲しそうな表情でした。私が感情のまま泣いてしまったことで、それをどうにかしてあげなきゃ。家族を支えなきゃ。という気持ちでいっぱいだったようです。こうして私たち家族の、療育と向き合う日々が始まるのでした。その様子は次の記事で書きたいと思いますので、宜しければお付き合いください。
2016年11月14日やりたい放題の娘に不安を募らせる日々…この子に何ができるのだろう?出典 : 子どもが自由に遊び回る様子を見て「子どもらしい」と思う方もいるのかもしれません。しかし娘のその行動は、とても安心しながら見守れるものではありませんでした。当時2歳だった娘は、絵本は自分勝手にめくる、おもちゃは触ったとたんにすぐ飽きる、辺りを走り回るなど…やりたい放題。こちらの言うこともほとんど理解できない娘を前に、どのように接していいかのかが分からず、 途方に暮れていました。その頃でした。娘が自閉症と診断され、「療育は、子どもの成長を助ける」とわかった私は早速、娘に合う療育方法には何があるのだろう?と模索を始めました。見学に行った親の会。そこで見た、衝撃的な光景出典 : 当時、「積み木の会」という親の会に所属していた私。そこで過ごす子どもたちを見て、最初は戸惑いを隠せませんでした。なぜなら、どの子も落ち着いて遊んでいるからです。この子たち全員に、本当に障害の診断が出ているのか?と疑うほどの衝撃でした。娘のように、あちこち動き回って好き勝手する子は、そこにはいませんでした。そのことをスタッフに伝えると「療育は幼い頃から始めるほど効果を実感できます」「娘さんは必ず変わります」と言われました。また、療育の様子もイメージとは違いました。定型発達の子かと見間違うほどの子どもたち、さぞかし厳しい躾け方なのだろう、と私は思っていました。しかしそこでは、声を荒げる大人も、癇癪で泣き出す子もいません。そこではただ、大人も子どもも、みんなとても楽しそうに遊んでいるだけに見えました。自宅で療育をする、と決心!指示の理解が弱い娘に最初に試した「模倣」出典 : 積み木の会で見た光景は、当時信じられず、猜疑心も強かった私。しかし、娘のことをなんとかしたい一心だった私は、積み木の会でアドバイスをもらいながら、療育を始めてみようと決心しました。最初に取り組んだことは模倣でした。これは「見て真似る」仕草のことです。それまで、「コップとって」などの簡単な指示なら理解できた娘。それでも、言葉の理解はまだまだ弱かったので、見て指示を理解する模倣なら、娘にもできるのでは?と思いました。当時私には腰痛があり、病院で腰痛体操を教わっていたので、たまたま側で見ていた娘に「こうしてごらん」と体操をやって見せました。すると、私と一緒に同じ動きをする娘。「しめた、模倣ができるじゃないか!」と私は嬉しくなりました。本格的に始めた模倣の練習。その方法とコツ出典 : 娘に模倣ができるとわかり、さっそく先生から教えてもらったことを家で実践することにしました。方法はこうです。①「真似して」と言って(親が)何らかの動作をやって見せる②子どもが真似をする③すかさず、「真似できたね!、すごい上手!」などと言って褒める(お子さんに合った方法は、専門の先生のアドバイスに従ってください)私は、褒める必要性も知らなかったのですが、先生によると、褒めて親が嬉しくなると、子どもも嬉しくなり、さらにその行動が増えるのだそうです。同じ方法で、「手を挙げる」「膝をたたく」「積み木を積む」など、いろいろやってみました。模倣と言っても、手を叩くだけの簡単なものから、2工程以上(手を叩いた後に頭を触る、など)の記憶力を必要とするものまで、様々あります。最初からできないものもありましたが、毎日少しずつ根気よく続けていると、2、3ケ月でできるようになってきました。子どもが集中して取り組める工夫で、難しい取り組みにもチャレンジ出典 : しかし、単純な動作を繰り返す模倣は、味気なくて面白くないですね。療育の1つに遊びを取り入れる方法があります。遊びを取り入れる理由としては、単純に子どもが興味を持てるから。また、その子が1番楽しく取り組める遊びなら、合間に難しい模倣を取り入れても苦手意識を持ちにくい、という利点もあります。そこで、我が家でも遊びを取り入れることにしました。娘の好きな粘土遊びで「これできる?」といろいろな形を作らせてみたり、画用紙を半分に折り片方を親が簡単な絵を描いて、もう片方に同じ絵を描かせたり、ぽぽちゃん人形の洗濯セットで模擬洗濯したり…。こうして難しかった2工程の模倣も、遊びが加わったことで、時間はかかりましたができるようになりました。模倣から広がる、様々なスキルの獲得。さらなる自立を目指して出典 : 現在娘は小6、おじいちゃんから習字を教わっています。その他にも、1人で水泳やスキー、スケートができるようになりました。でも、初めからそうだったわけではありません。そもそも、ここまでいろいろなことができるようになるなんて、当時は想像もできませんでした。模倣は、教えるコツさえつかめば、いろいろな場面で応用が利くようになります。例えばスポーツ。家族で初めてスキーに行った時、模倣の要領で簡単に教えることができました。その他のスポーツも同様です。また、掃除、洗濯物をたたむ、食事の準備など、自立に役立つスキルを身につけてほしいときも、「見て真似る」スキルが身についていれば、スムーズに教えることができます。模倣ができるようになることで、子どもの成長も家族の生活の質も、向上していくのではないでしょうか。
2016年09月28日知的障害とは?出典 : 知的障害とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。単に物事を理解し考えるといった知的機能(IQ)の低下だけではなく、社会生活に関わる適応機能にも障害があることで、自立して生活していくことに困難が生じる状態です。知的障害は発達期の間に発症すると定義され、発達期以降に後天的な事故や認知症などの病気で知能が低下した場合は含みません。この発達期とはおおむね18歳までを指しますが、知的障害は障害の状態を指すため、障害が現れる道筋は人によってさまざまで、具体的な発現時期も人により異なります。知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルで表わされる)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる。(AAMR,2002)。(栗田広・渡辺勧持/訳『知的障害定義、分類および支援体系』2004年,日本知的障害福祉連盟/刊p17より引用)知的障害の原因は?出典 : 知的障害の原因は一つではありません。脳障害を引き起こす疾患や要因すべてが、知的障害の原因となりうると考えられています。また、知的障害を発症する道筋も一つではありません。原因不明の知的障害の人も多いとされていましたが、最近になって少しずつ原因解明の研究が進んでいます。2014年にも脳内タンパク質の遺伝子変異が知的障害の原因の一つとなるという研究が発表されました。知的障害の原因は十分には解明されていない状況ですが、主な要因は病理的要因・生理的要因・環境要因の3つの面から分類できると考えられています。病理的要因とは、病気や外傷など脳障害をきたす疾患のことで、これらの合併症として知的障害が一緒に起きることがあります。この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。一方、特に疾病などがなくたまたま知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合、生理的要因と呼ばれます。環境要因は、直接の原因となるわけではありませんが、脳が発達する時期に不適切な環境であることで知的障害の症状が悪化したり、脳の発達が遅れる原因になったりすると言われています。中日新聞 「脳内タンパク質の遺伝子変異、知的障害の原因に」 2014年知的障害を引き起こす病理的要因としては、主に以下のような病気・けがが挙げられます。・感染症によるもの(胎児期の風疹や梅毒、生後の脳炎や高熱の後遺症など)・中毒症によるもの(胎児期の水銀中毒や生後の一酸化炭素中毒など)・外傷によるもの(事故や出産時の酸素不足など)・染色体異常によるもの(ダウン症候群など)・成長や栄養障害によるもの(代謝異常や栄養不良など)・その他(早産、未熟児、仮死など)病理的要因を考え、もしその要因が治療可能であれば、知的障害の程度を最小限に抑えることができるかもしれません。また、その要因が及ぼす影響を予防したり、支援の方向性を検討したりできます。出典 : 知的障害の原因はどのように発現するのでしょうか?出生前・周産期・出生後の3つの時期ごとにご説明します。この中には、まだ詳しい原因やメカニズムがわからないものもあれば、医学の進歩で一部原因が解明されたり、発症を防げるようになったものもあります。■胎児期胎児期に発現する遺伝子変異や染色体異常といった先天的な原因が知的障害を引き起こす場合があります。また、まれに知的障害の素因となる遺伝子が親から子へ伝わることもあります。フェニールケトン尿症などの先天性代謝異常やダウン症、脆弱X症候群(FXS)などが胎児期に発現する知的障害の素因としてよく知られています。ダウン症などの染色体異常が原因の場合、出生前検査などでその可能性がわかる場合もあります。また胎児期はお母さんのおなかの中で身体や脳などの器官がつくられる大切な時期です。この頃にお母さんを通じて感染症や薬物、アルコールなどの外的要因が胎児に影響したり、お母さんの代謝異常などで栄養不足になったりして脳の発育が妨げられ、知的障害を引き起こす原因となる可能性もあります。■周産期出産前後の事故などによって脳に障害が現れることがあります。母体の循環障害、へその緒がねじれるなどで赤ちゃんの脳に酸素がいかなかったり、出産時に頭蓋内出血が起こったりして脳に障害が残る場合があります。また低体重や早産などにより、脳が未発達のうちに生まれることも原因の一つとなる可能性があります。これらの出産前後のトラブルは周産期医療の進歩や充実によって少なくなってきています。■出生後脳が未発達なうちはけがや病気の影響を受けやく、乳幼児期の感染症や頭部の外傷などが原因になることがあります。日本脳炎や結核性髄膜炎、ポリオ、麻疹、百日咳などに感染し重篤化して脳炎になると知的障害を引き起こす場合がありますが、予防接種により感染の危険を減らすことができます。また乳幼児期に栄養不足だったり、不適切な養育環境に置かれることで脳の発達が遅れることもあります。フェニールケトン尿症は出生後すぐの新生児マススクリーニング検査の対象疾患となっており、そこで自動的に検査されます。疾患が見つかったらすぐに食事療法によって血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで、発症を予防することができます。参考:宮本信也・武田一則/編著『障害理解のための医学・生理学』(明石書店/2010年刊)浜渦辰二「ケア䛾臨床哲学 ー障がいとそ䛾ケアー (8)知的障害」 2013年知的障害って治療できるの?出典 : フェニールケトン尿症など一部の病理的要因は、食事療法や薬物投与といった治療法で発症を防げる場合があります。その他の知的障害については、今現在医学的治療法は確立されていません。障害を完治させることはできませんが、対応法を工夫したりすることによって、困難さを軽減し、子どものよい部分を伸ばしていくことは可能です。また、学齢期においては特別支援教育をはじめとする支援をうけることで、その子に合った学びの環境を整えることができます。成人後は就職支援なども受けることができます。知的障害のある方でも、このようにサポートの活用により職場を見つけ働いている方は大勢います。知的障害の治療・療育の判断基準は?いつから始めるべきなの?出典 : 知的障害の症状として、言葉を覚えるのが遅い・会話ができないなどの言語能力の遅れ、首すわりが遅い・洋服の着脱が異常に遅いなどの運動能力の遅れ、友達ができない・1人で遊ぶことが多いなどの社会性の発達の遅れなどが特徴的な要素として挙げられます。また、出産直後に身体的異常などが見受けられ、知的障害を発症するリスクが高いと診断されるケースもあり得ます。身体的異常であれば出生時に分かることも多いですが、ほとんどの場合は保育園や幼稚園、小学校に通い始めてから知的障害と気づくケースです。多くの方は言語能力の遅れに違和感を覚え、児童相談所や医療機関などへの相談・受診知的障害と診断されています。上記のような症状が見られる場合はまずは児童相談所などで相談してみることをおすすめします。知的障害はダウン症や自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害など様々な障害の合併症状として現れる場合も少なくありません。原因によって障害がわかるタイミングもかなり差があります。そのため、治療や療育を始める年齢や症状も、それぞれのケースで異なります。したがって、何歳からという基準はありませんが、症状や困りごとが見られた場合は専門機関に相談し、できるだけ早期に治療や療育を開始するのが望ましいと言えます。上でも述べましたが、知的障害を根本的に治す治療法はありません。そのため、治療を終える判断基準はありません。療育などについてはできる限り早い年齢で始めることで言語能力や運動能力、社会性が向上し、子どもがよりよい生活を送れる可能性が増えます。知的障害の治療法・療育法は?出典 : 療育とは、言語能力や身体能力の発達に遅れが見られる子どもに対し、自立して生活できるよう、専門的な教育支援プログラムに則って教育やトレーニングを行うものです。では知的障害に対してはどのような療育方法が効果的なのでしょうか?療育方法は施設や障害の程度によって異なりますが、遊びを通して他の子たちと交流し、言語や運動、社会性の発達を促すプログラムが一般的です。食事やトイレ、洋服の着脱などのトレーニングや、一人ひとりに合わせた教育も行なわれます。また、診療所を併設している施設も多く、症状によって診療を行なったり、検査を行なうことができます。知的障害に関する相談も行なっており、保護者が家庭内でどうすればいいのか学ぶペアレント・トレーニングやアドバイスを受けられる場合もあります。軽度の知的障害のある子どもの場合「他の子に比べてなぜ自分はできないのだろう」と自信を失い、精神的に不安定になる場合もあると思います。また保護者も子育てに不安を抱える方が多いです。療育やペアレント・トレーニングを受けることによって、対処法を身につけたり、同じ悩みを抱える親と交流できたりして、療育の時間が落ち着く・楽しいといった感想を持つ方もいらっしゃいます。そのため、早期療育は子どもにとっても親にとっても心の面で大切と言えるでしょう。知的障害の原因であるダウン症候群などに対して、現在様々な研究が進められている段階です。2013年、2014年にダウン症による知的能力を改善する初の治療薬を使った臨床試験が日本で開始されました。効能が認められるまでに時間がかかりますが、認められれば知的能力が改善できる可能性があると期待されています。しかしながら、知的障害の原因は様々で、解明されていないことが多い状態です。今現在、知的障害を根本的に治す薬はありません。【中外製薬】ダウン症候群治療薬、国内で治験開始|薬事日報中外製薬HPエーザイ、ダウン症治療で国内初の治験|日本経済新聞(2013/6/29)知的障害のある人が、周囲から適切なサポートを受けられなかった場合、知的障害の主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような合併症状や状態を、一般的には「二次障害」と言います。例えば、知的障害のある子どもの場合、話の内容や指示を理解したり、自分で判断して行動することが苦手です。そのため、周りに馴染めず、友達ができなかったり、いじめにあってしまう場合もあります。そこから引きこもりや不登校、うつ病や不安障害になってしまう場合があります。また、理解できないことを隠そうと反抗的な態度を取り、非行に走ってしまうケースもあります。このような症状や状態が現れた場合には、それらに対する治療を行うことが必要となります。また、このような症状を引き起こさないためにも、知的障害の早期発見と、早期からの支援が重要です。うつ病に対しては抗うつ薬などの治療方法がありますが、まずは周りの人が知的障害であることを気づき、障害への理解と適切なサポートが大切です。接し方で大きく変わる!知的障害の子どもへの接し方のポイント出典 : 知的障害のある子どもは話や言葉を理解するのに時間がかかったり、記憶するのが苦手ですぐに忘れてしまう子どももいます。絵や文字を紙に書いて伝えることで理解しやすくなることがあります。また、ルールを書いた紙を目に付くところに貼ることで常に意識できるような状態を作ると効果的な場合があります。まねをするのが得意な子どもも多いので、その場合、実際にやって見せるとよいでしょう。これを、「モデリング」と言います。自分で判断して動くことも苦手な場合があるため、できるだけ曖昧な表現は避けて具体的な指示をすることも大切です。どういう手順にすると良いのか、どんなことが悪いかなど、わかりやすい言葉で簡潔にはっきりと伝えるようにしましょう。その際の伝え方は上記のように、手順を絵や文字にしたり、図表で説明します。悪いことは悪いと伝えるだけでなく、よいことはよいと褒めることも大切です。知的障害のある子どもはできないことが多いために叱られることも多くなってしまいます。ちょっとしたことでもよい面を見つけて褒めるようにし、子どもの長所を伸ばすよう心がけてみてください。できることをお願いして「ありがとう」とお礼を言うのもおすすめです。自分は何でできないんだろうと自信をなくす子どもも多くいます。自信をなくすと、うつ病や不登校などのいわゆる二次障害にも繋がってしまいます。好きなものはなにか、何が得意分野なのかを見つけたり、できることを増やすことで、子どもに自信をつけさせることも大切です。不安や心配でストレスを抱え、心に余裕がなくなる保護者の方もいらっしゃるかと思います。心に余裕がないと、子どもに接する時にもイライラしてしまって八つ当たりしてしまうこともあります。家族に協力してもらったり、周りに相談することで少しでもストレスを解消することも大切です。まずは「知的障害」をよく理解することから始めましょう出典 : 知的障害の原因は不明なことも多く、根本的な治療方法もありません。しかしながら、知的障害であることに気づき、子どもへの接し方を変えることで、うつ病やひきこもりなどの二次障害を予防することは可能です。うちの子は他の子に比べて言葉の発達が遅いな、周りと上手く遊ぶことができていないなと感じたら、まずは保健センターや子育て支援センターなどの専門機関に相談してみてください。早期発見・早期療育は子どもにとっても保護者にとっても心のケアに繋がります。同じ悩みを抱える親同士で相談したり、子どもが友達を作れる環境を整えることも大切です。子どもがよりよい生活ができるよう、知的障害と向き合っていきましょう。参考書籍:日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院/刊参考書籍:栗田広・渡辺勧持/訳『知的障害定義、分類および支援体系』2004年,日本知的障害福祉連盟/刊参考書籍:有馬正高/監修『知的障害のことがよくわかる本』講談社/刊
2016年09月04日