ジャーナリスト。主に日本の週刊誌・月刊誌に海外事情を寄稿。テレビでは報道に携わる。取材等での渡航国数は約60カ国。取材テーマは比較文化、および社会・政治。ロンドンでの生活を経て現在パリ在住。 『地球の歩き方』フランス/パリ特派員ブログ
フランス留学するには何が必要か? 前回は 短期留学 についてまとめてみました。今度は長期滞在ビザの申請が必要な90日以上の滞在です。1年間留学すると仮定して、プランを考えてみましょう。 どんなビザを取ればいいのか? 日本のパスポートを持っている場合、90日を超えるフランス滞在には長期滞在ビザの申請が必要です。そして同ビザを携帯してフランスへ入国した後、現地で滞在許可証を取得します。詳しい必要書類は、まずフランス大使館に問い合わせましょう。 留学を目的として取得する長期滞在ビザは学生ビザです。またはビジタービザでも可能です。学生ビザで入国し現地の滞在許可証を取得した場合、年間964時間の労働が許されるため、学びながら仕事もできます。ビジターは労働が一切許可されません。今は移民に対する政策が厳しいため、申請しても内容次第(通う学校が信用のおける機関か、入国目的が労働ではないか等々)で、学生ビザの申請が通らないこともあります。 学生、ビジターどちらの身分で申請するにせよ、もっとも重要視されるのは、お金です。今フランスは不景気で失業率も高いため、労働目的の外国人に対してはとても厳しい環境にあります。フランスに滞在する1年間、きちんと暮らしていけるだけの経済証明がとても大切になります。 学生ビザの場合は、学校への登録と1ヶ月あたり最低615ユーロの留学資金を持っていることの証明がいります。ビジタービザの場合は労働が許可されていないため、1年間であれば仏SMIC(全産業一律スライド式制最低賃金)の年額相当である1万7344.60ユーロ(現時点の日本円換算で約201万円)の滞在資金があるという証明が必要です。家族が同行する場合は、その人数に応じて増額します。 時期はいつがいいか フランスの学校は9月が新年度です。語学学校などは年中、入学できますが、専門学校や大学の場合は、9月から1年が始まります。そのため9月の入学に合わせるのが現実的です。大学や一部専門学校は、入学に際してフランス語力を証明しなければいけません。試験(DELF/DALF:仏国民教育省認定の公式フランス語資格)を前もって受験し、これも用意しておきます。 また子どもがいる場合、現地の学校に通わせるにしても、やはり9月入学であれば、溶け込みやすいでしょう。 現地についたらすべきこと まずは滞在許可証の申請、銀行口座の開設、電力会社との契約、携帯電話の取得など。これらがないと、すべての作業が進みません。 ビザとは入国許可であり滞在許可ではないため、ビザで入国したら滞在許可証を申請します。フランスはカード社会であり、小切手も頻繁に使われます。そのため現地での口座開設は必須。あわせてデビットカード機能(またはクレジットカード機能)付きキャッシュカードを発行してもらいます。電力会社(またはガス会社など)が発行する料金の領収書は、自分が現在住んでいる住所を証明するものとなります。この公共料金の明細書は、どのような手続きをするにしても、毎回必ず提出を求められる大変重要なものです。 テーマ別に細かなことを説明したら、それこそ本一冊くらいの量になってしまいますが、とにかくもっとも大切なことは、フランスはすべてが日本のようにスムーズに運ばないということ。日本では数日で済んでしまうことでも、フランスだと1ヶ月以上かかることは多いのです。加えて語学の壁もあり、準備は早過ぎるかなと思うくらいで、結果的にちょうど良くなります。 8月はバカンス時期で、フランス社会ではすべての作業がストップします。そのため9月の留学を目指すなら、6月末を目処に、また何か遅れてしまっても7月前半くらいまでに収まるよう、スケジュールを組みましょう。
2017年01月17日一度は海外で暮らしてみたいと思いつつも、まだ小さな子どもがいるし、しばらくはあきらめないといけないかな、と思っているママもいるかもしれません。家族のことを気にせず1人で留学するなんて非現実的だし、子連れで留学ともなれば想像できませんよね? やはり、ママが海外に留学するのは難しいのでしょうか。そこでフランスの場合を例にシミュレーションしてみました。 何をするため、どれくらい滞在したいのか まず「現地で何をするため、どのくらいの期間住みたいのか」その目的を、はっきりさせる必要があります。それにより滞在手続きが大きく変わってくるのです。 例えばフランスの場合、90日以内の滞在(現地で就業する場合などは除く)であれば、日本のパスポートを所持している人はビザの手続きはいりません。一方でそれを超える場合は、ビザを申請して現地で滞在許可証を得る必要があります。 もし配偶者がいる場合、渡仏している間は別々に暮らすのか、子どもはどちらで預かるのか、または配偶者と一緒に渡仏するのか、自分の仕事をどうするのか、配偶者に仕事がある場合、その仕事をどうするのか、ということをクリアにしないといけません。 考えれば考えるほど、なかなか決断できませんが……、例えば、転職をきっかけとした離職期間を子どもの夏休みに合わせ、母と子どもだけ1ヶ月ほど渡仏する、というのが一般的には現実的な選択肢かもしれません。 1ヶ月程度では、なかなか現地の深いところまで見ることができないものの、その1ヶ月で自分なりに感触が良ければ、上記のさまざまな問題の解決策を考えつつ、次回はもう少し長期の滞在を視野に入れることができます。 住む場所の確保はどうする? 滞在費用をできるだけ安くしたいという人に最適なのが、キッチン付きホテルまたは家具付き賃貸物件。自炊で食費を抑えられます。スーパーマーケットやマルシェで買い物し、より実際の暮らしに近い生活も体験できます。 またフランスの場合、夏は多くの人が長期のバカンスに出かけます。その間、普段住んでいる部屋を誰かに貸している人たちもいます。こういった物件はAirbnbなどでも探せますし、もし現地に知人がいるようなら、その知人の周囲にそういう人がいないか、もしくは知人が、その期間バカンスに出ていて部屋を借りられないか、聞いてみるのも手です。 現地に住む人を通じて部屋の情報を得た場合、長期賃貸する際の1ヶ月分の家賃と近い額で借りられることも多いため、滞在費も抑えられます。これらは在仏者向けの日本語の情報サイトなどでも募集しているケースもあるので、こまめにチェックするのがおすすめです。 自分と子どもの学校探し 現地で生活していく上でフランス語の習得は必須です。英語が通じるケースはあるものの、仮に英語で意思疎通ができたとしても、その国のより深い部分は知ることができません。また役所関連の手続きは、フランス語ができないと、まったく行えません。 語学、料理、フラワーアレンジメントなど、人によって滞在目的はさまざまですが、それらの学校を選ぶことにあわせて、子どもにもどのような体験をさせたいのか、また子どもがどのようなことを望んでいるのか、希望に合わせてアレンジしましょう。子どもを何かのスクールに入れるなら、その送り迎えの時間にきちんと対応できる時間割を自分が通う学校で組めるのか、といったことも大切です。 外国人が多い学校は、英語の学校案内や手続きを英語で進められることがあります。ただしフランス語のみのところも多く、初めは何もかもが手探りで、途方にくれてしまうこともあるでしょう。一方でやり始めてみると、案外自分でこなせることは多いとも気づきます。留学業者などを使わず自ら手続きを行えば、滞在にかかるすべての費用を節約することができるでしょう。 どれだけ準備をしたかで滞在の充実度が決まる 渡仏前はやることが多過ぎて、ついつい「現地に行けば何とかなるよね」と考えがちです。しかし、日本でやれることはすべてやっていった方が、滞在期間を有効に使えます。限られた期間を現地でしかできないことに集中させることで、滞在の充実度はさらに増していきます。フランス語の勉強もその1つです。 もし日本で少しでも基礎を固めておけるなら、現地での伸びも違ってきます。加えて大人の場合、語学は現地で暮らしていれば誰でも習得できるものではなく、それなりに継続して努力しない限り、いくら現地にいても、ものにはできません。 言葉が違う海外は何に関してもハードルが高めです。無理だと何度も思うかもしれませんが、一つひとつこなしていけば、思っているより夢は簡単に実現します。そしてそれら苦労した経験が、自分の中でかけがえのない糧になり、将来へ繋がっていきます。
2017年01月16日私たちが常識と思っていることでも国や文化が変わると、その「当たり前」が一変することがあります。教育もそのひとつ。日本では子どもを叱るときに「言い訳しない」と怒ることが多いですよね。しかし、フランスでは「理由を述べる」ことを大切にします。フランスを訪れた日本人は、これを「言い訳」と感じ違和感を覚えます。でもそこには国による教育方法の違いがあったのです。 ■暗記の日本 VS 論述のフランス 学力の基準として、日本の学校では「いかにたくさん覚えられるか」が大切にされがち。いっぽう、フランスでは「いかに自分の意見を伝えられるか」が重要です(もちろん自分の意見を筋道たてて伝えるためには、一定以上の知識を覚えることも必要)。フランスの中等教育修了を証明する国家試験「バカロレア」の哲学の試験を例にみてみましょう。 2016年フランスではこんな問題が出題されました。 ・「より少なく働くことは、より良く生きることか?」(理系学生対象) ・「私たちはいつも自分が望むことを知っているのか?」経済・社会学系学生対象) ・「私たちの道徳信条は経験にもとづいているのか?」(人文学系学生対象) これを数時間かけて論述するのです。 日本では「自分で考えて行動できない人」がしばしば問題視されますが、そんなことフランスではどこ吹く風。他人の考えがどうであれ、「自分の意見を述べる」ことで自分の主張(正当性)を展開しようと考えます。この点では、ブレがありません。 ■「私のせいじゃない!」は実は万能な言葉だった!? フランスのこの特徴を端的に表す場面に遭遇したときのことです。空港の出国管理ゲートに長蛇の列ができているのに、窓口はひとつ。だれかが査証に詰まると列が動かなくなり、フライトの時間がすぐそこに迫った人々はイライラした状態に…。 がまんできなくなった女性が、順番を抜かして窓口に走ったことで、うしろの人は皆ブーイング。列の整理担当の係員が制止しますが、その女性は「(もし乗り遅れたら)あなたは私の飛行機代を払ってくれるの!?」と、自分の理論をまくしたて始めました。女性のあまりの剣幕にその場は一瞬静かに。いっぽうで客の視線は、横入りを許してしまった列の整理係員にも向けられます。その係員がまず発した言葉が「私のせいじゃありません」。 こうした行為に対する評価はいろいろあると思いますが、フランス人の多くは、はじめに非難されそうな自分の立場への理由づけを考えることから始めます。 正直、日本人の私にとってはこの状況は素直に受け入れにくいものがあります。でも文化とは、見方によってプラスにも、マイナスにも働くもの。異なる環境で育てば、相容れないことも多く出てくることでしょう。でもその多様性をさまざまな角度から捉えることにこそ異文化の面白さがあるのかもしれませんね。
2016年10月12日もうすぐ子どもたちが待ちに待った夏休みがやってきます。しかし、共働き家庭の場合は、子どもに合わせて会社を休むわけにはいかず、常に子どもの面倒を見られるわけではありません。これを機会に、子どもだけ先に祖父母の家に遊びに行かせたり、サマースクールに参加させるのもありかな、と考える親もいるかもしれません。海外赴任中の家庭は、夏休みに子どもだけ先に日本に帰らせる場合もあるでしょう。 目的地が遠い場合、問題なのが子ども一人でのフライト。大人でも慣れないのに子ども一人で大丈夫だろうか。国際線となれば、なおさら不安……。実は航空各社、そんな親の心配をサポートするプログラムを用意しています。 ■日系キャリアの国内線のサポート内容はほぼ同じ 国内線では、日本航空(JAL)が「キッズおでかけサポート」、全日空(ANA)は「ANAジュニアパイロット」という名前で、子ども一人でのフライトをサポートするサービスを行っています。 両社によれば、どちらも子どもが一人で飛行機に乗れる年齢は6歳から。少なくとも7歳までは、子どもが一人で搭乗する際に同サービスの利用が必要です。8歳から11歳までは希望により利用できます。JAL、ANAともに利用は無料です。 JAL、ANAで申し込み方法は少しずつ異なるものの、空港での流れはほぼ同じです。専用カウンターで申込書と同意書を提出。搭乗手続きを済ませた後、係員と一緒に搭乗口へ。1人に限り搭乗口まで子どもの見送りも可能です。行き先の空港に到着後は、係員の誘導のもと出迎えの集合場所まで連れて行ってくれます。 ■航空会社によって大きく変わる国際線 言葉が通じる国内はまだ良いとして、海外はどうでしょうか。国際線は対象年齢が少し変わります。 JAL、ANAどちらとも、5歳から11歳までの子どもが一人で搭乗する時は、サービス利用が必須になります。どちらも料金は無料です。 海外の航空会社は、会社ごとに内容が変わります。フランスの航空会社エールフランスも同じようなサービス「キッズ・ソロ」を行っています。ただし日系航空会社と対象年齢と内容が異なります。同社によれば、フランス国内線の必須対象年齢は4歳から11歳まで。1区間ごとに25ユーロ(約2800円)かかります。一方で国際線は5歳から14歳までが対象。料金は1区間あたり50ユーロ~80ユーロ(約5600~9000円)、乗り継ぎする場合は1区間あたり75ユーロ~100ユーロ(約8400~1万1000円)です。 ドイツのルフトハンザは対象年齢が5歳から11歳までです。同社によれば、ドイツ国内線またはヨーロッパ路線は1区間60ユーロ(約6700円)、長距離路線は100ユーロ(約1万1000円)かかります。つまりドイツ国内で乗り継いで羽田まで行くとすると、片道160ユーロ(約1万8000円)になります。 英ブリティッシュ・エアウェイズは、同様のサービス「スカイフライヤー・ソロ」を2017年1月末にて終了予定。新規の予約受付は行っていません。 米国系はどうでしょう。アメリカン航空によると、5歳から14歳までの子どもの一人での搭乗は、サポートサービスの申し込みが必要です(ただし5歳から7歳までは乗り継ぎなしの直行便利用のみ可)。料金は1人片道150ドル(約1万5000円)です。エールフランスやルフトハンザなど異なり、料金は1区間ではなく片道での計算になります。つまり乗り継ぎがあっても一律の値段です。 日系航空会社の内容はほぼ同じですが、国際線はその国の航空会社によって、年齢や料金など大きく変わるケースがあります。同じ路線で様々な航空会社が飛んでいるようなら、子どものサポートサービス比較は、ぜひしたいですね。 (加藤亨延) 注:各社料金は2016年7月現在
2016年07月14日学校生活に欠かせない給食。毎日給食を楽しみにしている子、食べるのが遅かったり、苦手なものまで食べないといけなくて嫌だなと感じている子、さまざまだと思います。当たり前のように日本の学校生活に溶け込んでいる給食ですが、ところ変わると制度も変わります。フランスの様子を見てみましょう。 ■給食費は親の収入によって変わる 日本の給食費は、都道府県によって差はあるものの、月に支払う金額はどの生徒も原則一律です。文部科学省が2年ごとに出している学校給食実施状況等調査によれば、2014年度の公立校における給食費の全国平均額は、小学校低学年が4251円、中学年が4271円、高学年が4277円でした。 一方で、フランスの公立幼稚園や小学校は、親の収入により給食費が変わります。2015〜2016年のパリ市の場合、給食費は10段階に分かれています。例えば世帯収入が月234ユーロ(約2万9000円)以下のもっとも低いカテゴリーの家庭は、1食の支払いが0.13ユーロ(約16円)です。そして月収の多さに比例して1食の値段は高くなり、収入が月5000ユーロ(約62万円)を超える最も高いカテゴリーになると、1食7ユーロ(約860円)になります。フランスは親の収入によって、かなりの差がつけられていることが分かります。 ■みんなが給食を食べられるわけじゃない 日本の場合、生徒はみんなで一緒に給食を食べますが、フランスは家に戻ってご飯を食べる子どももいます。アレルギーを持つ生徒は、その内容を学校に提出し、弁当を持参できます。フランスでは家でお昼を食べられるという選択があると知った時、学校給食が好きではなかった私はとても羨ましく感じたのですが、一方でこんな実情もあります。 フランスでは自治体によって、食堂の容量が需要に追いつかず、求める生徒すべてが学校の食堂に入れないことがあります。そのため共働き家庭の子どもを優先させています。親が仕事をせずに家にいる場合は、共働き家庭と比べて家で昼食を用意できる時間があるという考え方からです。 一見すると合理的に見えますが、経済が好調でないフランスは、望んで仕事をしない親ばかりではありません。本当は仕事をしたいのに失業してしまったり、求職中の人もたくさんいます。そのような家庭の子どもが給食にありつけなくなるケースが、近年フランス社会で問題視されています。また仏フィガロ紙によれば、フランスでは5人中1人の割合の子どもが、貧困で暮しているといいます。 決められたルールに従い税金を払っているのに、公共サービスを平等に受けられないことは公平さに欠けますし、求職中は仕事をしている人と同様に、就職活動に時間を割かねばなりません。そのため共働き家庭を優先させることに異議を唱える人もいます。一方で、不況下の限られた税収と予算の中で、自治体が今以上の設備、人員を簡単に増やせないという事情もあります。 給食制度1つ取っても、それぞれの国が抱える社会の縮図が現れています。
2016年05月21日結婚した後も仕事で旧姓を使い続ける女性は多いもの。もともと名乗っていた姓とはいえ、旧姓は現在の姓ではないため、時には不都合も出てきます。日本では結婚する際に、配偶者のどちらかの姓に変える必要がありますが、海外は夫婦別姓を選べる国も。実際どのような状況になっているのでしょうか? フランスには3つの選択肢がある フランスの場合、姓は「同姓」「別姓」「複合姓」という3つの選択肢があります。 ・同姓…どちらかの姓に変える ・別姓…結婚しても、それぞれの姓を維持する ・複合性…配偶者の姓を自分の姓と併記する 複合性の場合、どちらの姓を先に持ってくるかは自由です。 複合性同士が結婚したらどうなる? 仏調査会社BVAが出した2011年の統計によれば、結婚後も結婚前の姓を維持したいと答えたフランス人女性は20%。また複合姓を望む女性は34%でした。つまり合わせて54%のフランス人女性が、何らかの形で結婚後も元の姓を残したいと考えています。 フランス人男性はもっと割合が高く、76%が結婚後もそのままの姓でいたいと答えています。複合姓の希望者も20%いました。一方で、結婚後に配偶者の姓に変えたいと願う人は4%しかいません。 ちなみに複合姓同士が結婚し、新たな複合姓を作りたい時は、それぞれから姓を1つずつ選び、複合姓とします。 子どもの姓はどうしているのか フランスでは子どもが生まれた場合、父親の姓を継ぐことがほとんどです。仏国立統計経済研究所(INSEE)が調べた2014年統計によると、結婚しているカップルの95%は父親の姓を子どもにつけています。婚姻関係のない事実婚のカップルでも、子どもは75%が父親の姓です。そして11%が母親の姓、11%が父・母の順の複合姓を選択しています。 母親が外国人の国際結婚の場合はどうでしょうか? 例えば日仏カップルの76%は父親の姓を子どもに付けていますが、スペインまたはポルトガルとフランスのカップルは、それぞれ34%、35%と低目の結果に。 その代わり、スペインとフランスのカップルの57%は父・母の順の複合姓を選び、ポルトガルとフランスのカップルは46%が母・父の順の複合姓を希望しています。子どもの姓の選択にも、パートナーのお国柄が反映されているようです。 このようにフランスは姓の選択に幅があるのに加え、離婚・再婚する人も多く、前のパートナーとの子どもや新しいパートナーとの子ども含め、家族の中にさまざまな姓が並ぶことがよくあります。現代フランスを象徴する光景の1つと言えるでしょう。 (加藤亨延)
2016年04月12日今や慢性的な課題となっている保育所の待機児童問題。共働き世帯が増えて保育所の需要が増加した結果、少子化が進んでいるにもかかわらず、保育所に入れない子どもたちが多くいます。 厚生労働省によれば、2015年4月1日時点で、認可保育所などに入れない待機児童は、2万人を超えているそうです。2015年度から始まった子ども・子育て支援新制度によって保育施設の対象が広がり、受け皿は大きくなりましたが、まだ世間のニーズを満たすまでには、なっていません。 待機児童がもっとも多い都道府県は東京で、次いで沖縄、千葉と続きます。一方で待機児童ゼロを実現している自治体も11県あります。年齢別では1、2歳児における要望が高く、育児休暇が終わり仕事に戻る時期に重なります。 最近は意識も変わってきましたが、育児休暇の取得や幼い子どもを預けて働く女性に対して、日本の社会は寛容かというと、まだまだです。子育ては女性の仕事という傾向が強くあります。一方で、女性が家の外で働くことが習慣として根付いた国々では、どのような子育てをしているのでしょうか。 フランスの場合、生後すぐの赤ん坊を預けて、職場復帰する母親は多くいます。そのため保育園は希望者が多く、需要と供給が合っているというわけではありません。ただし保育園の他に、一時託児所や「ヌヌ」と呼ばれる一定時間の研修を受けた保育ママの制度があり、そこで面倒を見てもらうことが浸透しています。子どもが少し大きくなれば、学生などをベビーシッターとして雇う人もいます。育児休暇は母親だけではなく、父親も取ります。 かつてはフランスも、女性は家にいて男は外で働く、という考え方でした。しかし第二次大戦後、特に1970年代前後から「女性の解放」が叫ばれるようになりました。女性の地位確立が高まっていったのです。外で仕事をする女性も増えました。現在では、多くの女性が男性同様に仕事をしています。 ただし、日本のイメージでは「フランスは男女の社会進出が等しく進んでいる」と思われがちですが、(もちろん日本よりは進んでいるものの)職場では、まだ男性優位は残ります。 子どもを幼いころから他人に預け、両親共に仕事に出るということに対して、それぞれ意見はあるでしょう。フランスでもヌヌや学生ベビーシッターはさまざまな人がおり、すべてに問題がないというわけではありません。 しかし、各家庭でどのように仕事と育児に向き合うか、多様な選択肢が用意されることは、決して悪くはないはず。柔軟に対応できる環境が待機児童数を減らしていく第一歩かもしれません。 (加藤亨延)
2016年03月28日バカンス好きのフランス人。思い通りに休みが取りづらい日本の職場環境から考えると、「うらやましい!」と感じる人も多いはず。でも子持ちのフランス人にとって、バカンスは単に休めることばかりではありません。 休暇はどこかに行かないといけない フランスの学校は、およそ2ヶ月に1回、バカンスがやってきます。12月から1月にかけてのクリスマス休暇の次は、2月のスキー(冬季)休暇、4月は復活祭の休暇、7月から8月は夏休み、そして10月から11月の万聖節の休暇と続きます。その休みごとに、親は子どもをどこかに連れて行かねばなりません。そのため金銭的にもバカンス疲れするフランス人が多いのです。 日本人からすれば、「毎回、遠出せずとも家の近くで遊ばせていればいいのに…」と思いますが、休暇が終わって学校が始まると、子どもたちの間では「バカンスどこ行った?」という話題で持ちきりに。その時に「どこにも行っていない」となると、その子の家は「バカンスに行けないくらいお金がない…」と周囲から見られてしまうのです。 フランスのすべての家庭が裕福なわけではありません。彼らはどうやって、子どもたちをバカンスに連れて行っているのでしょうか? ホテルに泊まるわけじゃない 「バカンス」という言葉から、どこかリゾート地のホテルなどに滞在するイメージを持つ人も多いと思いでしょう。しかしフランス人のバカンスは、ホテルなどに泊まる滞在ばかりではありません。例えば「地方に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんの家にパリから泊まりで行く」というのも立派なバカンスです。 子どもの友達も一緒に連れて行き、数人の家庭でバカンスごとの担当を回す、といったこともあります。例えば「夏休みは、私たちが借りたロッジに一緒に連れて行くから、次のバカンスはお願い」といった感じに。輪番にすれば、バカンスごとに子どものためにどこかへ出かけなくても済みますし、親も自分の時間を作れます。また、子供だけサマースクールなどに参加させることもあります。 加えてバカンスは、「旅先で何かをする」というより「そこでゆっくり過ごす」ことが主な目的です。そのため、滞在中に色々なアクティビティをぎっしり詰め込んで、そのための出費が大幅にかさむ、という滞在スタイルではありません。 職場で休みはどうやって取るのか フランスでは年間5週間の有給休暇の取得が法律で定められています。フランス人はそれら権利を存分に使います。同じ期間に一斉に休んでは、当然仕事に支障が出るため、子どもがいる人は学校の休みに合わせて、一方で子どもがいない人はそこを外して取るなど、お互い調整しながら順番に休暇期間を回すことが多いです。 日本では、周囲に配慮して休みを取りづらいという職場も多いです。しかし休暇は法律で定められ、就労前に労使間で合意しサインした契約書に記された項目の1つですから、フランス人にとってはそれを使わないことの方が不思議がられます。 こうやってフランス人は子どものために休暇を取りつつ、(日本人の感覚からすれば、すぐやって来るそれらバカンスとともに)1年が過ぎていきます。
2016年03月13日日本で子育てをしていると、PTAとの関わりは必ずと言っていいほど経験するもの。PTA(Parent-Teacher Association)とは父母と教師の会のことで、教育効果の向上、子どもの健やかな育成を目的として、1897年アメリカで結成。日本では第二次大戦後に設立されました。活動を通して学校と父母、地域を繋ぐ役割を果たしています。 PTAへの参加は「任意」とされていますが、実際は「全員参加」を強いられることがほとんど。また、かつて日本の家庭は、男性が働き女性が家を守る、という形が主流だったため、母親の役割とされてきたPTA活動は、参加者が主婦であるという前提で行われてきました。 ところが現在では共働きの家庭が増え、家族の形も多様化。そのような状況でも、PTA活動の仕組みは以前からそれほど変わっておらず、共働きの場合、PTAの役員仕事のために時間を割くということが困難になっています。ひとり親も同様です。 子育てと仕事を両立しようとする親にとって、保育園までは、なんとかできていたものの、子どもが小学校に上がった途端、そこにPTA活動が加わり、大きな負担としてのしかかることがあります。これが世に言われる「小1の壁」の原因の一つです。 では海外にはPTAのような組織はあるのでしょうか? 例えば男性同様に働く女性が多いフランスでは、どのようにそれらの活動と関わっているのでしょうか? フランスには、日本のPTAとまったく同じような組織ではありませんが、学校に子どもを通わせる親により組織された父母団体は存在します。 それらは右派、左派など考え方によって分かれており、主にPEEP、FCPE、UNAAPEという3つの団体があります。どの団体に参加するか、またはどの団体にも参加しないか、すべては任意です。 関わらなくても、学校に子どもを通わせる親として等しく与えられた権利が制限される、ということはありません。ただし参加すれば、教育現場の情報をより得られやすくなります。選挙も行われ、親はどれかの団体に投票し、勝った団体の代表者が、要望や改善など学校側との交渉を担当します。 食事など親睦会も開かれます。それらは仕事をしている人でも参加できるように、出勤前の8時から9時、または仕事後の18時から、といった時間に設定されることが多いです。これも参加は任意。そのため、日本で言う「小1の壁」もありません。 PTA活動は、同じ学校に子どもを通わせる親同士が仲良くなるきっかけになりますし、学校以外に地域とも繋がる機会を提供してくれます。そのため一概に悪い面ばかりではありませんが、本当に必要な活動のみ行うなど、時代に合わせて柔軟に変えていくことも必要かもしれません。 (加藤亨延)
2016年03月01日日本の国交省は2014年に、電車やバスではベビーカーをたたまなくても良いとする「ベビーカーマーク」を作りました。みなさんは交通機関でのベビーカーの利用、どうしていますか? 子育てをしていると誰もが一度はぶち当たるこの問題。混雑している電車やバスの中。ベビーカーをたたんだほうがよいと分かってはいるものの、オムツや着替えなどたくさんのベビーグッズと子どもを抱いたままの状態でベビーカーをたたみ、それ持ち抱え乗車するのはなかなか困難です。 ちなみに海外はどうなのでしょうか? 例えばパリの場合、列車やバスの乗車時に、ベビーカーをたたんでいる人はほとんどいません。もしバスであれば、ベビーカーや車イス用のスペースが車両の真ん中にあるため、ベビーカーをたたまずに置くことができます。 地下鉄はそのような場所はないものの、みんなそのまま乗り込み、乗客も積極的にベビーカーの場所を作ります。 ヨーロッパの電車は、日本のものより大きいというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、パリの地下鉄は日本と比べて狭く、ベビーカーを乗せると、かなりのスペースを取られてしまいます。 しかし、車両にスペースがなくなった場合は、後から来た乗客は次の便を待ちます。朝の通勤時なども同様です。電車の時間が遅れることなく、遅刻に厳しい日本とは文化も異なるため、このような光景が当たり前なのかもしれません。 一方で、フランスは日本ほどバリアフリーが進んでおらず、ベビーカーでの移動がかなりの苦労となることは事実です。がゆえに、ベビーカーに限らず、スーツケースなど大きな荷物を抱えていると一緒に荷物を運んでくれるのはよく目にする光景です。 フランンスでは、たまたま居合わせた初対面の人とあまり壁を作らず、気軽に話が盛り上がるということが、日本と比べてよくあります。ラテンの気質なのでしょうか。良くも悪くも「世話焼き」の人が多く、そういう面でベビーカーや荷物運びを助けてくれる機会が多いのです。 ベビーカーへの考え方は人それぞれ。考え方や基準は、人や時代とともに代わり、絶対的なものは存在しません。しかし、素直に考えて「思いやりをもってゆずり合う社会」の方が、住み心地が良くなるはずです。 もちろん、乗客がベビーカーに寛容になることと同時に、ベビーカーを押す人も他の乗客に対して、配慮を持つ必要があります。ベビーカーを押しながら電車に駆け込んだり、携帯に夢中になってベビーカーで他の人の足を踏んでしまうようなことをしないように注意しなければなりません。 あらためてベビーカーへの思いやりについて考えることで、より子育てがしやすい社会にしたいですね。 (加藤亨延)
2016年02月26日