連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記

児童養護施設で暮らす子どもたちの夢【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第30話】


「社会的養護を必要とする子どもの顔は見えにくい」という問題は、一方では子ども達のプライバシーを守るために必要なバリアでもあって、必要な「見えにくさ」でもある。けれど、このスピーチコンテストで子ども達から語られた夢の中に、将来は児童養護施設の職員になりたいと語った子が複数いたことからも、少なくとも目の前の彼らはきっと、こうなりたいと自分の未来を重ねることのできる、信頼できる大人に出会えたのだろうと思えた。

施設に移って以来、2年間も会っていないという母親に「産んでくれてありがとう」と壇上から告げる子。自分を虐待していた母親も、そうでないときは優しく、大好きだったと語る子。親を亡くし、後ろ盾もないが、夢があって大学に進学したい、経済的な不安があるが頑張っていくと強い口調で決意を示す子。

彼らが家庭で負った傷を少しずつ癒やしながら将来を見据えている姿は本当に立派で、素晴らしかったけれど、同時に、ここまでの寛容さ、強さを子どもに強いてしまう私たち大人の不甲斐なさを思うととにかく申し訳なく、頑張ってね、とエールを送るのだって無責任なような気がして、後ろめたさが拭えなかった。

こういう複雑な思いはつい、産みの親を単純に悪者にし、同時に自分を善人にすることで消化しようとしてしまいそうになるけれど、じゃあそれで子どもが救われるのかというと当然ながらそんなことはなくて。大人にだって、家庭の外にはさまざまな生きづらさがあって、ふとしたきっかけで、そのしわ寄せが非力で無抵抗な子ども達に降りていく。
だから、子ども達が家庭の中で抱える問題の多くは、社会にいる大人達の問題でもある。

子ども達が、産まれてから最初に身を置く、「家庭」という小さな世界の中で、まずは肉体的、精神的に傷つかないこと。そして、残念ながらそういうことが起きてしまったとしても、いち早く外からそれに気づけること。安心して暮らせる別の場所があること。その先に“それでも”産んでくれてよかった、生きていてよかった、と言ってもらえるような、可能性を感じられる社会があること。そういった環境を用意するのはやっぱり私達大人の責任で、同時にそうやって用意された環境というのは大人にとっても生きやすいものになるのだろうと思う。

* * *

ところで、過去7年間に渡って続いてきた「カナエール」は、今年をもって奨学生募集を終了するとのこと。理由は、この数年で返済不要の奨学金が自治体を中心に増え、今年度より文部科学省が給付型奨学金を設置するなど、大学進学への道は、子ども達にとって以前よりも選びやすいものになってきているからだそうだ。


とはいえ、運営母体であるNPO法人ブリッジフォースマイルは引き続き活動を継続されているので、もっと良く知りたいと思った方はNPO法人ブリッジフォースマイルにアクセスしてみてください。

困難な状況に最初の一石を投じ、継続的な活動で状況を大きく改善させてこられた「カナエール」運営の皆さん、本当にお疲れ様でした。

児童養護施設で暮らす子どもたちの夢【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第30話】
イラスト:片岡泉

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