プレイヴィル天王寺公園 アトリエゾーン
ハロー!裏方さん~子どもの笑顔をつくる達人たち~
子どもの暮らしを彩るモノ・コトづくりに愛をもって携わる達人に、その舞台裏を余すところなく語っていただく本連載。1回目は子どもの「あそび」にかかわる事業を展開する企業、ボーネルンドにおじゃましました。
<お話をうかがった達人さん>
林 耕介さん
株式会社ボーネルンド 企画部デザイン室部長。あそび場の企画・設計・デザイン、設計デザインチームのマネジメントを行う。6歳と2歳の男の子のパパ。
<ボーネルンドってどんな企業?>
1977年創業。あそび場の環境づくりからはじまり、あそび道具の輸入・開発・販売、親子の室内遊び場キドキドの開発・運営など、子どもの「あそび」を豊かにする事業を展開。これまでに手掛けた施設は35,000件以上。ショップは全国に89店舗(2017現在)。
ボーネルンド
https://www.bornelund.co.jp/
■自発的な「あそび」を通して、こころと頭、からだの成長のサポートをしたい
子どもの健やかな成長に欠かせないことはなんでしょう。
食べること、寝ること。そして「あそび」であると、私たちは考えています。
あそびにはさまざまな要素がつまっています。たとえば、砂で山をつくるとき。ある程度までは積み上げられるけど、途中で崩れてしまう。では、水を使うとどうなる? 子どもは上手に山をつくろうといろいろ試したり、工夫したりしますよね。
このように、子どもはあそびを通して、こころと頭、からだを使ってあらゆることを学んでいます。そんなあそびを、子どもたちが安心して、自由にできる環境を整えるのが私たちの仕事です。
私たちがもうひとつ、大切にしていることがあります。それが、「あそび」とは受け身ではなく、子ども自らが「やりたい!」と思えるものであること。
テレビゲームやビデオ鑑賞といったいわゆる
「娯楽」は、一時的な楽しさであり、受動的なものだと考えています。一方の
「あそび」は、子どもが普段から能動的に行い、どんどん蓄積されていくものです。
先の砂遊びの例でいえば、失敗をもとに、崩れない高さにしたり、水の量を調整したり。そうやって遊ぶごとに高度になり、経験として蓄積されていくものを「あそび」、ととらえています。
プレイヴィル天王寺公園 屋外ゾーン
現代の子どもたちは、社会環境の変化から、自由にのびのびと遊ぶことが少なくなっていると感じています。公園一つとっても、その数自体は減っていないのですが、
維持費や安全性の問題から遊具が撤去されたり、地域の繋がりが希薄になったりといった理由からあそびを楽しむための要素が失われています。
子どもが遊びたいと思っても、相手がおらず遊具もない閑散とした場所ばかりになっているのです。だからこそこころ・頭・からだを使う本物のあそびをもっと体験してほしくて、あそび場づくりに注力しています。
■北欧のすすんだ子育て環境を、日本にも
ボーネルンドというと、玩具ショップのイメージがあるかもしれませんが、じつは屋外の「あそび場」づくりからはじまっているんです。
今から40年ほど前、仕事でデンマークを訪れていた創業者は、安全性が高く、カラフルな遊具が設置されているデンマークの公園を見て、当時の日本との落差に気づきました。
デンマークでは当時から、「未来を担う子どもたちを社会全体で育てよう、そのために重要なのはあそびだ」という価値観が共有されていました。そのためあそびを研究することもすすんでいました。
例えば公園の遊具の色は子どもたちのクレヨンで減っている色、つまり子どもたちが認識しやすい色を使うなどです。
キドキド
そんな北欧のあそびの文化が日本の子どもたちにも必要だ、との想いからボーネルンドが設立され、あそび場づくりがスタートします。
2002年には福岡県・北九州市で室内のあそび場「KID-O-KID(キドキド)」をつくったのを皮切りに、屋外だけでなく屋内にもあそび場づくりのフィールドが広がり、これまで35,000件以上のあそび場づくりに携わってきました。
想いがかたちになった、福島県での取り組み
近年の取り組みのなかでとくに印象に残っているのが、2011年に福島県・郡山市につくった「ペップキッズこおりやま」です。
東日本大震災後、福島の子どもたちは原発事故の影響で外で遊べない状況が続いていました。
「遊ばないとお腹も減らず、夜も眠くなりにくい。このままでは子どもを健やかに育てるのは難しい。なんとか遊び場を作ってほしい。」
そんな現地の方々の強い要望をいただいたのです。
被災地の子どもたちの力になりたい。そんな想いでボーネルンドがもつノウハウのすべてを結集させ、
外でできるはずだった砂遊びや水遊びなども含め、あらゆるあそびが室内でできる施設をつくったんです。
福島県の施設(ペップキッズこおりやま)。
2011年12月23日にオープン。外でできるはずだったあそびのすべてを体験できるような環境づくりを行った。ふるさとへの愛着と誇りが感じられるよう、グラフィックは福島の豊かな自然をモチーフに。オープンから5年たった今では、毎日の子どもの生活に欠かせない施設として連日賑わっている。
ちょうど冬場のオープンだったので、室内でも湿った砂場に裸足で立っていると、かなり足元はひんやりするんです。そんななか、子どもたちが夢中で(長い時間)遊んでくれているのを目の当たりにしたときは、遊びたくても遊べない時間/現状を過ごしている子どもたちの声なき声を聞いたようで、こみあげるものがありました。