■時代背景を反映しつつも、変わらない本質
『のび太の恐竜2006』は大きなターニングポイントだと思いますが、土肥さん自身が転機になったと感じる作品はありますでしょうか?
土肥「個人的に2011年の
『新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』は、公開直後に東日本大震災があったので印象に残っています。
『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』
この作品は、大人も感動して泣ける映画でしたが、震災直後は“泣ける・感動する作品”より、“気持ちが明るくなれる作品”が好まれるようになった気がして…。
翌年の
『のび太と奇跡の島 〜アニマル アドベンチャー〜』や翌々年の
『ひみつ道具博物館(ミュージアム)』は、主題歌の曲調も明るかったですし、元気が出る作品に見えるよう、宣伝は心がけました。
『ドラえもん のび太と奇跡の島 〜アニマル アドベンチャー〜』
2014年の
『STAND BY ME ドラえもん』は、ドラえもんの良さを再認識してくれた人が多い作品になりました。ドラえもんのすばらしさに改めて気づいた人たちが、春の映画も観に行こうという流れができたことは嬉しかったですね」
『STAND BY ME ドラえもん』
――“地球を大切に”といったテーマで描かれている作品が多いように感じるのですが、今昔の映画で変化している部分はあるのでしょうか?
土肥「技術面での進歩はありますけど、根底にあるものは変わっていないと思います。たしかに
『のび太とアニマル惑星』(90年)や
『のび太と雲の王国』(92年)など、地球を大切にしてほしいというメッセージが強く込められているものもありますし、その時代時代に合ったストーリーになっているのだと思います。
でも、キャラクターの性格など根本的なところは変わっていないのではないでしょうか」
『ドラえもん のび太と雲の王国』
――変わらないということもまた、大人のファンが多い理由かもしれませんね。
土肥「もちろん、子どもが楽しんでくれることは大前提ですが、大人が観ても感動できるクオリティだと思います。今では、世の中的にアニメを大人が観ることに抵抗がなくなってきているということもありますし、子どものときにドラえもんが好きだった人が、卒業をせずにずっと観続けられるものにしていきたいっていうのはありますね。
『映画ドラえもん』は
入場者プレゼントがありますが、数量限定ではなく入場者全員、しかも子どもだけでなく大人にも配り続けています。こんな作品はなかなか無いですし、コレクションしている方もたくさんいるので、今後も手は抜けないですね」
『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』入場者全員プレゼント
■大人が観るとグッとくる…ハイセンスなポスターが話題に
今回、映画のポスターも大きな話題を呼んでいますが、子ども向け作品とは思えない大人っぽい印象を受けます。
『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』
土肥「このポスターは、もともと高橋敦史監督の中にあるイメージを、イラストレーターの丹地陽子さんとヒョーゴノスケさんが描いたイメージボードでした。
夏にティザーポスターを作る際、たくさんあるイメージボードの中から、氷山を見上げているシーンに決めたものの、残っていたイメージボードもどうにか世に出せないかとデザイナーの浜辺明弘さんとも話していて…。
そんな中で、新宿地下通路に大きな広告を出すことになったんです。イメージボードは本来、製作陣が映画のイメージを共有するためのものですが、結果としてそれをポスター用にアレンジした感じですね。
昔ドラえもんが好きだった方が、子ども時代の気持ちを思い出すような、大人が心を惹かれるポスターになっていると思います」
――たしかに、表舞台に出さずにいるのは勿体ないクオリティです。しかも、キャラクターが後ろ姿だけというのもおもしろいですよね。
『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』
土肥「ドラえもんの強みは、後ろ姿を見ただけでもわかる造形にあると思います。ありがたいことにイメージボードはものすごく反響があり、はじめは新宿と六本木ヒルズだけの予定でしたが、今後は各劇場に貼られるかもしれません」