『名探偵コナン』は、毒薬によって子どもの姿になってしまった高校生探偵・工藤新一が、江戸川コナンとして難事件を解決していく推理漫画。原作の連載が20年以上も続く中、4月15日には映画最新作『劇場版 名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』が公開。
「こだま監督がテレビと映画で冒頭の台詞は違うものにしたいということで、劇場版は「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名探偵、真実はいつもひとつ!」に変えています」(諏訪) (C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
今回は、構想段階からアニメ制作に携わり、今作のチーフプロデューサーでもある諏訪道彦さんにインタビューを敢行! 原作者・青山剛昌先生をはじめスタッフたちのこだわり抜いた作品作りの裏側をお届けします。
■嘘があるからこそ引き立つ、物語のリアル感
――まずは、『名探偵コナン』誕生の経緯について教えてください。
諏訪「原作は1994年に『週刊少年サンデー』で始まりました。実は1992年に、講談社の『少年マガジン』で『金田一少年の事件簿』の爆発的な大ヒットがあって。
小学館でもミステリーものを作ろうと考えていた時に、もともと少年サンデーで『YAIBA』や『まじっく快斗』という怪盗キッドが登場する漫画を書いていた青山先生にお願いするという流れがあったと思われます。
コナンは、17歳の主人公が小学校1年生になっちゃう…最初に大嘘をついて、その後の話にはリアリティがという設定です。
これはアニメの題材にピッタリと考えて、企画始めて1年半以上かけて1996年1月にTVアニメ化が実現しました。
まずは半年やってみようということでスタートしたけれど、原作は単行本8冊程度しか出ていなかったので、いずれアニメ放送が原作に追いついてしまう。
でも僕は『YAWARA!』や『シティーハンター』でそれを経験していたので、ドラマの脚本が書ける脚本家を集めて、第6話で既に『バレンタイン殺人事件』というオリジナル作品を開発したんです」
(C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
――アニメの制作秘話などはありますか?
諏訪「僕はよく、30分のアニメを“本格推理定食”と言っていました。美味しいごはん、出汁を取った味噌汁、素材にこだわった一品料理…というように、トリックやストーリーはもちろん、それぞれ一流のものが乗っているこだわった定食のイメージにしよう、と。
そこで、まず初めに番組のフォーマットを工夫しました。しっぽまであんこの鯛焼きのように、30分の中を飽きずに楽しんでもらえるようにしたんです。
たとえばオープニング曲の前にコナンの声で、概要と『たった一つの真実見抜く 見た目は子供、頭脳は大人、その名は、名探偵コナン』という台詞を入れることにした。まずこれを聞けば、この番組の世界観や、やりたいことがわかるようにしたいと思って。
そして最後には、ドラマのように名場面を切り貼りしたような予告編を入れる。当時はこれが意外と難しくて、スケジュールがいっぱいなのに、次回の絵なんて無いよって(笑)。でもこだま兼嗣監督と話して、これだけはやろうと決めました。あとは、予告後の「Next Conan's HINT」。次回も観てもらいたいという思いを込めて、最後の5秒で役者さんたちのコミカルな掛け合いを入れています」
(C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
――声優さん同士の裏話などもあれば、教えてください。
諏訪「チームワークはすごくいいですね。コナン役の高山みなみさんを座長として、今でも収録の後は声優のみなさんで反省会をという食事会をしています。年に一度は役者も含めたスタッフ20~30人で旅行に行きますし、みなさん「ファミリー」って呼んでいますよ!
収録のことで言うと、林原めぐみさんが演じる灰原哀は、黒ずくめに命が狙われている。
本当は仲が良いのに、ジンとウォッカ役の声優さんが収録現場に来るといつもとは違う緊張感がロビーに漂います。
高山さんは、男の子役なので収録時にスカートを履かないとか、園子や小五郎役の声優さんも、プスってやられる時(コナンに眠らされる時)には、ああ今日は台詞が多いんだっていう覚悟を持って臨んでくれています」
(C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
■コナンは背伸びして観るべし!?子どもたちに覗かせてあげたい大人の窓
――物語には子どもには難しいシーンもある気がしますが、大人が楽しめることを意識しているのでしょうか?
諏訪「『名探偵コナン』は、お兄さん、お姉さんに憧れる感じで、背伸びをして観てもらいたいと思っています。僕も中学生のころ『刑事コロンボ』を観ていて、飲めもしないのに、お酒にロマンがあるんだっていうことを教えてもらいました。
コナンでもお酒のシーンはよく登場しますが、今はわからなくても、大人の世界を覗ける窓を開いてあげたいんです。子どもだましではなくて、大人が真剣に楽しめる作品にすることが、子ども達の興味に繋がるんじゃないかと思いますね」
――コナンは推理もので頭も使うし、子どもが観ても良いと考えている親御さんも多いみたいですね。
諏訪「それは嬉しいですね。アメリカやヨーロッパだと、アニメは子どものためのものって決められてる気がします。なのでミステリーは受け入れられにくい。
でも実写映像ではなんでもアリなのに、アニメは違うっていう括り方がおかしいんじゃないかなって。
アニメで深いドラマが描いてもいいですよね。『ドラえもん』のようにファンタジーな作品もあるけれど、アニメ表現の多様さバラエティさっていうのを伝えていきたい。当の子どもたちは勝手に心配しなくても勝手にセレクトしてるし、そこにおもしろさを感じているんですよね」
(C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
■親子の情を描いた作品が、シリーズの転機に
――映画は1997年から毎年上映され、今なお大人気ですね。
諏訪「1作目を作る時には、2作目があるかなんてわからなかった。だからこそ、やりたいことをすべてやることにしたんです。青山先生も、原作で使おうと思っていた(爆弾解除の)「赤か青か」という話をここで使うことにしたし、犯人役は『刑事コロンボ』の石田太郎さんに演じてもらった。今観ても、良くできた作品だと思いますね」
――そんな1作目は好評を博し、今回21作目を迎えるわけですが、転機となった作品はありますか?
諏訪「野沢尚さんが脚本を手掛けた6作目の『ベイカー街の亡霊』(2002年)ですね。
5作目までは古内一成さんが脚本を担当していたのですが、野沢さんが自分の子どもに見せたいから『コナン』を書きたいとおっしゃって。
15年も前なのに仮想体感ゲームをして100年前のロンドンに行く。これはすごくチャレンジでしたね。
野沢さんが脚本を書いたきっかけが子どもということもあって、工藤優作と新一の親子の姿を描いたんです。コナンが絶対にしないことに“涙を流す”というのがあるけれど、それに近いところで“諦めない”っていうのもあって。
でも、この作品では『もうダメだよ、父さん』と、一言言わせるんです。ラブコメではなくて、親子の情みたいなもので行くことを押し通した。コナンにとって、新たな扉を開けた作品だと思います」
『名探偵コナン 純黒の悪夢』 (C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
――20年以上続く歴史の中で、変わってきたところはありますか?
諏訪「初めはフィルムでしたが、2001年くらいからテレビアニメもデジタルになったので、映像表現は変わっています。
昔が悪いわけではなく、それはそれで味が合って良いんですけど。
あとは、物語の中では1年経っていないのに、ガラケーからスマホに変わっていたりする。けれど視聴者には、それを受け入れてもらえる“コナンの世界”っていうものがあるんだと感じています」
『名探偵コナン 迷宮の十字路』 (C)2003 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
――原作ファンの間では、物語がクライマックスに近づいているという噂もあるようですね。
諏訪「先生は、折り返し点は過ぎてるとハッキリ言っているし、結末もちゃんと決めてるそうです。昔は100巻で終わると言っていたけど、今92巻なのでまだまだ終わらないですよね(笑)。
でも、ファンは今までの伏線がどう回収されていくかを待っているし、もちろん先生も自覚されている。新しいキャラクターも出て来るけれど、それが伏線の回収だったりもするんです。
アニメでもエピローグにだけ事件と別の会話が成されたりしてますが、原作のそういう部分は削るわけにはいかないんです。
ストーリーには直接関係なくても、いつ、あの時のシーンがそこに繋がることになるかというのがわからないので、抜くことはできないんです。
今回の映画にも、オリジナルキャラクターの紅葉が出てきますが、今後、原作においても物語のどこかで彼女のキャラクターが使われていくかもしれない。でもそれは、お客さんと一緒で僕にも全然わからないんですよ(笑)」
映画のエンディングには、関連した実写映像を入れているのが特徴のひとつ。エンドロールの後には、シャレたエピローグに続き必ず次回作テーマのヒントが放映される (C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
――あくまで青山先生の頭の中にある、ということなのですね。
諏訪「そうなんです。1年でテレビアニメは40話くらい放送しますが、そのうち15話前後をオリジナルストーリーで作っています。それを開発するのがアニメチームの大きな仕事ですが、原作に出てくるキャラクターが進むようなことをしてはいけないんです。
ずいぶん前ですが、オリジナルストーリーの中で蘭の携帯を壊しちゃったけど、それが不都合を生じさせてしまって。なので、原作の設定には触れずにオリジナルを作ろう、そのおもしろさで先生に勝負しようということになったんです。
もちろん原作は原作で丁寧にアニメ化して、原作とオリジナルの両方が『名探偵コナン』として成立するよう努力しています。その最たるものが、映画じゃないかと思いますね」
――ここまで原作・アニメが二人三脚で作っている作品も珍しいのでは?
諏訪「そうかもしれないですね。オリジナルストーリーが面白くないって言われないように毎回戦ってるつもりです。アニメ制作チームもベストなチームワークを発揮してるからこそ、長年観続けてもらえているんじゃないでしょうか」
(C) 2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会