裏切り裏切られ…男は単純【彼氏の顔が覚えられません 第37話】


これぐらい怒鳴られれば、タナカ先輩を恨む気持ちはさっぱりわいてこなかった。そうだ、サイテーなのは俺だ。最愛の人を、騙すような真似をしてしまうなんて。

1月、シノザキに言われたセリフが蘇った。「一回、イズミに全力で嫌われてみたらいいのに」

あのとき、「なんで嫌われなきゃならないんだ」なんて返しながら、その結果がこれとは…。

そしてこのとき、俺の部屋にイズミからもらう予定だったチョコはない。代わりにあるのは、マナミからの「義理チョコ」だ。

リボンをほどき、包みを開く。
中から出てきたブラウニーは手作り。どこからどう見ても本命だ。

なんで受け取ってしまったのか。そして俺は、これを今からどうしようとしているのか。

バレンタイン当日、渋谷のスタジオでギターの練習をしながら、シノザキは俺に言った。

「ぜんぜん気づかなかったかもしれないけど、私、タニムラくんのことスキだったんだよ。高校のころから…でも、デブってどころじゃなかったし、牛乳瓶みたいなメガネしてたし…引っ込み事案だったし」

…高校時代の話だよな? まさか今の俺に告白だなんて、そんなことないよな――。

「イズミみたいなカワイイ子と一緒にいるとこずっと見てて、嫉妬してた…私がどんなにカワイくなったって、イズミには敵わない。
だけどね、こないだ二人見てて、思った。すごくギクシャクしてる。あ、これひょっとしてタニムラくん、無理してるなって、すごくわかった」

そうして、渡されたチョコレート。

「いいの。義理だと思っていい。受け取ってよ。でも、もしそれ食べて、私の方がいいなって…いや、そんなおこがましいこと言わない。ラクだな、気軽に付き合えるかもな、って思ってくれたら…もう一回、もう一回だけ、デートしてくれるかな…」

俺の腕を両手でつかんで。
――そして、あらぬことか、自分の胸元まで引き寄せて。腕に、やつの胸の柔らかい感触が少しだけ伝わった。あざとい、あざとすぎる! けれど、そんな単純な手に引っかかるほど愚かなのが、男なのだ。

実家の俺の部屋。ラジオからは、ゲスの極み乙女。の「餅ガール」が流れている。その曲を聞きながら、サビのメロディーが脳内にこびりついて離れなくなりながら…。

シノザキからもらったブラウニーを、食べた。


(つづく)

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