■孤独な子育てで、美里の心が「プツン」と切れた
結婚した年に妊娠がわかり、美里は会社を辞めて専業主婦になった。
息子のタケルが生まれ、初めての育児。タケルは夜泣き体質で、すぐに熱を出す。ミルクを吐き出してしまうことも多い。美里は寝不足にくわえ、慣れない育児で腰痛が出始めた。すべてがわからないことだらけ。実家は広島なので、
母に頼ることもできない。スマホの育児サイトとにらめっこでタケルの世話をする毎日だ。
夫の祥太は、会社で責任ある仕事を任されたので残業続き。早朝会議もあり、平日は
ほとんど家にいないため、タケルのオムツ替えも入浴も手伝う暇はない。たまの休日は疲れ果てて遮光カーテンを締め切って寝てばかりで。タケルが泣くと
「眠れないから隣の部屋行ってくれ」とうるさがる始末だ。
美里はなんとも言えぬ孤独を感じた。タケルが生まれて、理想通り若いうちにママになれた。タケルはよく熱を出すがとてもかわいい。でも、祥太はほとんど自分たちをかまってくれない。
むしろ仕事にやりがいが出てきて、結婚前よりも張りがある生活を送っているようにも見える。
そんな祥太を見て美里もまた仕事をしたくなっていた。マーケティングの基礎はわかるし、会計もできる。「保育園にタケルを預けて仕事をしたい」と言うと祥太は「いいよ、美里の好きにすれば」とものわかりのいい言葉を返した。
だが、よくよく調べると保育園は待機人数が多く、すぐに入園するのは難しいようだ。美里は、マンションの一室でタケルと2人っきりで向き合っているうち、何にも束縛されず自由に動き回り、職場で活躍する祥太がうらやましくなっていた。祥太が飲み会のあと上機嫌で帰宅したり、休日に学生時代の仲間とラグビーに出かけることが続いた時、美里の中で
「プツン」と何かが切れた。
「私、バカみたい…。
結婚前はあんなにチヤホヤしてくれたのに、今では全然、女性として見てくれない。タケルの世話も1日30分手伝ってくれればいいほう。
私、お手伝いさんみたい。それなら、きれいにメイクしたり、キラキラしたママファッションをする必要なんてないよね」
■気づけば2年間もセックスレス、しかし夫は…
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開き直ってからの美里は、
女性であることを放棄し、彼女の女子度はガラガラと崩れていった。
タケルに授乳しやすいように、いつもゆったりしたトレーナーと動きやすいジャージ。髪の毛はゴムで一括りで、もちろんブローなどしない。かろうじてシュシュをつける程度だ。
イライラを鎮めるために、甘いおやつをむさぼる毎日。
以前はとても気を遣っていた
脇毛、アンダーヘアも伸ばし放題になった。下着はもちろん締め付けないゆるい実用タイプ。
タケルの育児にはもってこいの動きやすいスタイルは、楽だった。ママタレントのブログで「育児中のママファッション」などを見ても「ふん! そんなきれいにしたって、誰にもほめられないわよ。てか、メイクしても子どもがなめたらどうするのよ」と毒づいた。
そして、タケルが2歳になった時、ふと気づいた。
「もしかして…私たち、セックスしてない…。これが、話題の
セックスレスっていうのかな」
土曜の夜、久しぶりにタケルが早く寝付いたので、祥太におそるおそる話しかけてみた。
「ねえ、私たちさ、朝晩のキスはしてるけど、
エッチしてないよね? 2年も…なんで? 祥太くん、性欲ないの?」
祥太は口ごもる。
「いや、その…。タケルが横に寝てるのに、ちょっとそれはないなあって思って…」
「じゃあ、隣の和室におふとん敷くけど」
「あ…そうだね。でも、わざわざそこまでしてすることないよ。タケルが小学校に上がって、子ども部屋を作ってからでもよくないか?」
「小学校…6歳までしないってこと?」
美里は途方に暮れた。
祥太の本心は「美里にはもうセクシャルな魅力を感じない」。パステルカラーの服を着て、天使のような笑顔で肩に持たれてくる美里はもういなかった。ちょっと太ももに触ると恥ずかしがってピクリとする可憐な美里は、もうこの家にはいない。
すっぴん、ジャージ、下腹ぽっこり。遅く帰ると必ずしかめっつらをして皮肉を飛ばす。一度、タケルを2人で風呂に入れた時に見た美里の股間は、黒い密林のようにゴワゴワヘアが生い茂っていた。正直、萎えた。あまりにも、出産前と違いすぎる。
きれいだった美里は産後、別人になってしまった。
祥太も家事や育児を手伝う時間が少なかったことを悪いとは感じているが、美里の変貌にとまどっていることも事実だった。
「ビジュアル系モンスター 産後ボーボー」のモンスターワイフとなった美里。
彼女の過ち、間違いはどこだったのでしょうか? 祥太の愛を再び取り戻し、セックスレス解消となるのでしょうか?
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