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夫の愛が冷めてゆく…それは、妻に
モンスターワイフの影が見えるから。ということで、モンスターワイフにはさまざまな種類があります。
前回の主人公・
柚那は「最高の妻」を目指すがゆえ、周りが見えない仕切り魔と化してしまった妻でした。
今回紹介するのは、女性のおなかの奥底にドロリとたまっている
虚栄心の餌食になってしまった妻です。
芸能人でなくても注目される! イケてる私を演出できる!…昨今のSNSの急速な普及で、メンタル系モンスター
セレブ憑きは、あなたのことも狙っているかも知れません。要注意です。
■インスタ映えだけが生きがい「セレブ妻の現実」
「メンタル系モンスター セレブ憑き」代表:礼子(仮名)の場合
高級住宅地にあるマンションの一室。礼子は購入したばかりのブランドコスメの袋をソファに放り投げると、デパ地下で調達した
おひとりさまデリを、皿に移すこともなく食べ始めた。
夫の誠一は今日は残業と言っていた。
ベトナム風春巻きを指でつまんでほおばる。あごに付いたスイートチリソースを拭こうともしない。味など分からない。おなかがすいたから満たしているだけ。彼女の頭は食事以外の事象でフル回転していた。
今日が発売日だった限定コスメ、シルバーでキラキラ光るコンパクトがまるで自分のように女王さまオーラを発している。
「部屋のどこで、どのアングルから撮影したら一番キレイに見えるかしら? 一緒にアップするコメントは?」
礼子は
インスタグラムにハマりにハマっていた。
というより、彼女の生活はインスタグラムを中心に回っていたと言ったほうが正確だ。
投稿される華やかな写真の数々とは対照的に、実生活ではほとんど
出番のないコスメや服、バッグの数々が部屋には無造作に置かれている。「収納」という概念は、礼子にはない。秩序のまったくない物があふれた家。幸せとはかけ離れた雰囲気が漂っていた。
■体調を崩し専業主婦に…「家ではいつもひとり」で鬱(うつ)状態に
5つ年上の誠一と結婚した頃、礼子はITベンチャーのウェブデザイナーとして忙しく働いていた。残業が多い職場で、ついに彼女は身体を壊した。腎臓の病気と万年腰痛。
新しい上司との折り合いが悪かったこともあり、彼女は休職ではなく退職を選んだ。
誠一は外資系勤務ということもあり、収入はいい。誠一の叔父が持つ緑に囲まれた低層高級マンションを安く貸してもらっているので、生活には困らない。何より、礼子の通帳にはデザイナー時代の給与が貯まっていた。
しかし、いざ仕事を辞めてしまうと、礼子は途方に暮れた。夫は忙しく、アメリカ出張が多い。家ではいつも
ひとりぼっち…。料理を作っても、誰も食べてくれないし、評価もしてくれない。
仕事で知り合った友人ばかりだから、突然、
専業主婦になってしまった礼子とは話が合わない。
一度、元同僚とランチをした時には、ハツラツと働く彼女が自分の何百倍も輝いて見えて、帰宅後ドッと落ち込んだ。その頃から礼子は家に引きこもりがちになり、
鬱々とした毎日を過ごすようになった。かといって、在宅でデザインの仕事をするという選択はなかった。締切に追われる緊迫感は、また体調を悪くさせるに違いないと思っていたからだ。
■高級ヨガスタジオで出会った「セレブの世界」
そんな時、家の近くにヨガスタジオがあることを知る。入会金60万円。月謝も高いがとてもスタイリッシュなスタジオで、DVDを出している元モデルの先生までいる。
「ヨガは身体だけでなく、心の不調にも効果的だというし…」。礼子はこのスタジオの会員になることにした。
初レッスンの日、礼子は持ち合わせている
美意識のプライドというものがガラガラと崩れる。「元モデルの先生」のみならず、生徒たちまでとてもスラリとスレンダーな女性が多く、着ている専用のウエアも最先端のデザイン。とりあえずTシャツとジャージでやって来てしまった礼子は、穴があったら入りたい気分だ。
レッスンの休憩中、2人の女性が礼子に話しかけてきた。2人とも近所に住んでおり、このスタジオには1年以上通っているという。自分の服装を恥ずかしがる礼子に彼女たちは「いいショップを紹介する」と言ってくれた。
レッスン後、早速彼女たちの行きつけのショップに連れだって行った。
その道中のおしゃべりから分かったことは、彼女たちは礼子と同じく専業主婦で、
「亭主元気で留守がいい」を地で行く生活をしていた。彼女たちにすすめられたヨガウエアの価格に仰天しつつも、礼子の頭にはこんな考えが浮かび始めていた…。
「この人たちは私と、住んでいる地域もマンションのグレードも同レベル。なのにブランドバッグやアクセサリーを身に付けて、体型もスリムで、芸能人みたい…。時間にもお金にも、心にも余裕がある感じ…。
働いていた頃には、絶対に
見えなかった世界だわ。うちの誠一だって稼ぎがいいし、私にも10年間働いた貯金がある。
これまでずっと頑張ってきたんだもの。私だって少しくらい贅沢してもいいわよね」
『自分にご褒美』というどこかの企業のキャッチコピーが頭のなかでクルッと一回転した。