Be inspired!がお届けする新着記事一覧 (1/30)
こんにちは、Be inspired!編集長の平山潤(ひらやま じゅん)です。実は今日で「さよならBe inspired!」なんです。3年と8ヶ月。お世話になりました!2015年1月の創刊日から学生インターンとして関わり、新卒でBe inspired!を運営するHEAPS.株式会社へ入社。そして創刊編集長のYukaさんしかいないBe inspired!編集部に“副編集長”として入り、彼女から“編集長”というバトンを渡されたのは、翌年2016年の夏。「編集とはなにか」なんてまったくわからず、学生あがりの未経験新米編集長になった23歳の夏の記憶は、昨日のことかのように鮮明に覚えています。記事の書き方、ライターの探し方、コーディングの仕方…超、超、超初歩的なことさえわからなかった編集長のぼくは、いろんな人に相談して、いろんな人に助けてもらって、なんとかやってこれました。そして、今はやっと少しだけ「編集の楽しさ」を噛みしめることができていると思います。あっという間に編集長になってから夏が2回過ぎ、今日でBe inspired!ライフも終わり。明日からは、NEUTRAL(ニュートラル)という意味を込めた「NEUT(ニュート)」という新しい屋号で心機一転、再出発します。社会問題とクリエイティブの仲介役になるBe inspired!創刊当初、取材記事はほぼゼロで、海外の(若い人の関心を引く)イケてる社会問題を解決するアイデアや、ビジネス、プロダクト、アートなどを紹介する翻訳記事/考察記事がほとんどでした。それは、日本にももっとクリエイティブでイケてる社会問題を解決するアイデアやアウトプットが増えてほしい、という思いからでした。3年経った今、Be inspired!の記事はほぼ取材記事です。それは、日本にイケてる社会起業家や社会派のクリエーター、アーティストが増えたという立派な証拠だと思います。日本では、まだ「社会問題=真面目」というイメージが拭いきれていません。言葉にすると安っぽくなってしまいますが、もっとかっこよく、おしゃれに、ポジティブに社会問題と向き合える方法を、NEUTというフィルターを通すことで、これからも発信していけたらと思っています。そして、「NEUT」という媒体が日本に存在することで、「社会問題とクリエイティブ」、「社会問題とビジネス」、「社会問題と若者」。そんなふうに、社会問題といろんなものをつなぐ仲介役となり、「社会問題=真面目」というイメージを払拭していけたらいいなと思っています。「ニュートラルでいる」という永遠の自己課題「何にも偏らないさま」を意味するニュートラルという言葉を掲げるメディアを運営するのは、自分でも挑戦的なことだと思います。でも「常に偏らない視点をもって生きたい」という個人的な思いもあり、あえて「ニュートラル」というコンセプトを選びました。現在、NEUTの創刊イベント開催資金を集めるためにクラウドファンディングをやってるんですが、神楽坂にある本屋さん「かもめブックス」の柳下さんがぼくらのプロジェクトを支援してくれたときに、最高な言葉を添えてシェアしてくれていたので、最後に紹介させてください。「リベラルであること」ですら、偏っているような気がする現代で、その概念にいちばん近い言葉は「ニュートラル」であるかもしれないなって思います。「相手を否定せず、自分を肯定する」本来はこれだけのシンプルな行動原理なはずですよね。だから、僕は「NEUT」にとてもとても期待しているんです。(引用元:柳下さんのフェイスブックの投稿)「相手を否定せず、自分を肯定する」。そんなシンプルなことをみんなができる社会を目指して。明日から頑張ります!※2018年10月1日の15時頃から、NEUT MagazineはこちらのURL(neutmagazine.com)で読むことができます。Be inspired!改めまして、NEUT magazine編集長の平山 潤よりIllustrated by mokaText by Jun HirayamaーBe inspired!
2018年09月30日こんにちは。ALL YOURSの木村昌史(きむら まさし)です。Photo by Jun HirayamaALL YOURSWebsite|Web store|Blog|Facebook|Instagram|Twitter|FlickrDEEPE’S WEARWebsite服を選ぶとき、何を基準に選んでいますか。天候や環境を考えて服を選ぼうとすると、着られる服が制限されてしまう。そんな経験ありませんか。そこで、私たちDEEPER’S WEARは考えました。服本来のあるべき姿とは、時代・ライフスタイル・天候・年齢・地理など、人ぞれぞれの環境や日常に順応することではないだろうかと。あなたの持っている服は、どれくらいあなたに順応していますか。服にしばられず、服を着ることを自由にする。人を服から“解放”し、服を人へ“開放”する。このDEEPER‘S WEARの理念を可能にするのが、日常生活(LIFE)で服に求められる機能(SPEC)を追求した日常着(WEAR)、「LIFE-SPEC WEAR」なのです。DEEPER’S WEARはALL YOURSが取り扱うブランドです。▶︎これまでのALL YOURS木村のLIFE-SPECの作り方・#018 最も権威のある日本のファッション賞を、インターネットのチカラで勝ち取ろうとする“無名ブランドのおっさん”・#017 常に「面白い!」を感じていたい男が始めた“生活にちょうどいい日用品”が大集合する新しいマーケット・#016 利便性や立地よりも「コミュニティ」や「スピリット」を中心とする“商店街の新しいカタチ”を提案する男・#015 “ポップアップストアの限界点”を感じた男が、販売を目的にしない「フラットなリアル店舗」を作る理由・#014 ファッション業界が作るトレンドって必要?「洋服に必要なもの」について考えるイベントを開催します▶︎オススメ記事・「日本は老害が多いしメディアは腐ってる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.1]・「僕らはインターネットを使って先祖返りしてる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.2]All photos by ALL YOURS unless otherwise stated.Text by Masashi KimuraーBe inspired!
2018年09月27日日本や世界の社会問題に対して、既存の方法に縛られない解決へのアクションを提案する人を紹介してきた本ウェブマガジン『Be inspired!(ビー・インスパイアード!)』が2018年9月をもって終了します。そして、10月1日から『NEUT (ニュート)』という新しい名前に変え、リニューアル創刊します。ニュートとは「何にも偏らないさま」を意味する【NEUTRAL/ニュートラル】を省略した造語です。Photo by Sayuri Murooka“Make Extreme Neutral(エクストリームをニュートラルに)”を掲げ、マスメディアでは取り上げることがタブーとされるようなセックス・政治・人種の問題や、さまざまな業界で常識を覆すような新しいアイデアを提案している人、アクティビストなどの、世間で<エクストリーム>だと思われるようなトピック・人に光を当てていきます。より多くの人に「先入観に縛られない<ニュートラル>な視点」を届けていくメディアとして活動していきます。※動画が見られない方はこちらFilmed by Takanobu Watanabe「多様性を謳う前に、ニュートラルな視点を」。NEUTに込めた意味と意義世間を見渡せばいまだに、政治家が公然と性的マイノリティを差別したり、企業が環境や人々の健康に悪い製品を生産したり、ゴミを増やすと知りながら使い捨ての容器の使用をやめなかったり、「女性はこうあるべきだ」「男性はこうあるべきだ」というような風潮が存在していたり…。僕らには正解が何かはわからないけれど、世の中をベターにしたいと本気で思っています。環境問題から、政治の問題から、アイデンティティの問題まで、向上するべき点は日本社会にまだまだたくさんあると思います。そんなことを考えていくうえでまず大切なのは、口ばかりの【多様性】や【持続可能性】を謳う前に【ニュートラルな視点】を持つことをみんなが心がけていくことなんじゃないかなって思うんです。いろんな角度から改善方法を考えていくほうがいろんな正解につながると思うから、「既存の正解」や固定観念から解放されることが不可欠な第一歩となる。そんな思いを込めて、冒頭にも書きましたがNEUTとは、「何にも偏らないさま」を意味する【NEUTRAL/ニュートラル】を省略した造語です。LOGO designed by Grilli Type媒体のイメージキャラクターはイモリです。英語でNEUTと一文字違いの【NEWT(ニュート)】は、イモリのことを意味します。尾を切っても、目が破損しても、完全に再生するくらい再生能力が高いイモリの性質と、自分たちの失敗しても立ち直るメンタリティを重ね合わせて「イモリ」という生き物をシンボルにしました。そして日本発のメディアということも表現するためにイモリのなかでも日本の固有種であるニホンイモリ(アカハライモリ)を選びました。まだ名前がないので、何かいい名前があれば教えてください笑Artwork by mokaリニューアル創刊イベントは「ボウリング場」で今後NEUTとして、ウェブマガジンだけではなく、イベント、動画、紙版(雑誌、ZINE)などといろんなカタチで「ニュートラルな視点」を発信していく予定です。そして特にやっていきたいのがイベントです。読者の方々と実際に会って話す機会をもっと増やしていけたらと思っています。なので、今までは東京でしかイベントを開催していませんでしたが、今後はもっといろんな地域に広げていきたいと考えています!そして、NEUTの創刊イベントをボーリング場「笹塚ボウル」で10月20日(土)に開催します。その名も『NEUT BOWL(ニュートボウル)』。NEUT BOWL flyer designed by Ryosuke Kataokaイベント名の“BOWL(ボウル)”にはスポーツとしての「ボウリング」という意味だけでなく、「いろんな人が混ざり合う器(ボウル)」という意味も込めています。世代、性別、セクシュアリティ、職業、人種など、あらゆる壁を取っ払い、いろんな人が“ひとつのボウル”に集まり、会話し、踊り、ピンを倒し、誰もが心地よい“ニュートラルな空間”をみんなで作りましょう!イベントは、コンセプトショートフィルムの上映、トークセッション、ライブ、DJ、グッズ&ZINEの販売で構成されます。トークセッションには、元WIRED編集長の若林 恵氏、インディペンデントマガジン『HIGH(er) magazine』(ハイアーマガジン)のharu.氏、バイリンガルZINE『B.G.U.』(ビージーユー)のYume氏&Makoto氏を招き、【これからの日本のニューメディア】をテーマに1時間ほど話します。新進気鋭のラッパー「Dos Monos(ドスモノス)」と「maco marets(マコマレッツ)」がボウリングレーンの上の特設ステージでライブパフォーマンスしてくれます。イベント中はいつでもボウリング(1ゲーム500円/シューズレンタル無料)を楽しめます。【イベント詳細】イベント名:NEUT BOWL(ニュートボウル)日程:2018/10/20(土)場所:笹塚ボウル(Google map)入場料:無料[を目標にクラウドファンディングで支援金を募ります]※ドリンク代500円はかかります※ボウリング1ゲーム500円/シューズレンタル無料※当日、支援者の方は受付で【CAMPFIREの支援画面】をお見せください。リターンを差し上げます!時間:OPEN 18:00 / CLOSE 24:00OPEN : 18:00TALK SESSION : 19:30-21:00DJ&LIVE : 21:00-23:45CLOSE : 24:00創刊イベントの参加料をタダにするためにクラウドファンディングします今回の創刊イベントに必要な資金【120万円】と、今後大阪で開催するイベントの資金を集めるために、クラウドファンディングをスタートしました!120万円以上の支援を集めることができたら、大阪や博多などの都市でのイベント開催費用や、今後のアーティスト/クリエイターとのコラボレーション費用に当てたいと思います。なので、創刊イベント以降も【10月31日まで】クラウドファンディングを開設します!目標支援額を達成できれば、創刊イベントのエントランスはフリー(ドリンク代500円はかかります)です!ぜひご支援のほどよろしくお願いします!リターンには、靴下やピンズ、バンダナなどのオリジナルグッズから、NEUT編集長とサシ飲みや、イベントポスターにロゴを入れるスポンサー枠、そしてNEUTのスペシャルサポーターとしてウェブサイトに名前を刻めるものまで。プロジェクトは10月31日までオープンしているので、ぜひこちらのクラウドファンディングページからチェックしてみてください。*本記事の文章はクラウドファンディングページの内容を抜粋して執筆したものです。Text by Be inspired!ーBe inspired!
2018年09月25日昨今、環境汚染の問題が話題となっているが、私たちができる地球環境への取り組みといえばどんなことが思いつくだろうか。CO2排出量の削減、節水、省エネなど、よく耳にするようなワードが頭に浮かんだかもしれない。でも、どのくらい電力を節電したらいいのか、そもそもCO2はどこから排出されるのか、知識として覚えておくには難しかったり、あいまいな部分が多くて、どこから始めたらいいのかわからないという人も多いはず。あるいは、日々の生活が忙しくて環境への取り組みにまで手が届かないという人もいるだろう。そこで今回は、東京で会社員として働きながら、プラスチックで作られたストローに焦点を当てた地球環境への取り組み、「No Plastic Japan(のーぷら)」を始めたノイハウス萌菜(のいはうす もな)さんに話をうかがってきた。ノイハウス萌菜さんNo Plastic Japanって?私たちの身の回りに大量に存在する使い捨てプラスチック製品は自然に分解されることはなく、最終的には埋め立てられたり、投げ捨てられたペットボトルやビニール袋は海に流れ込む。その結果、海に浮かんだプラスチックは長い年月を経てもろくなり壊れ、ほかのプラスチックと摩擦おこして小さくなっていく。海の生物はその小さくなったプラスチックを食べてしまい、その海の生物が人間の口に運ばれることによって、知らず知らずの間に私たちの身体はプラスチックによって悪影響を受けているという。また、現状のままだと近い将来には海に生息する魚の量を浮遊するプラスチックの量が超えると予測されており、世界でも大きな問題となっている。そんな現状を変えるための、きっかけづくりを身近なところから提案し、より多くの人に使い捨てプラスチックの有害性に気づいてもらうために始まったのが「No Plastic Japan(のーぷら)」である。いま現在、のーぷらが人々に広めようとしているもの、それはステンレス製のストローだ。一度使ったら捨ててしまうプラスチックのストローとは違い、洗って何度も使えるため資源を無駄に使うことなく、環境への影響も少ない。2種類の太さから選べ、カラーも3種類で展開しており、単体もしくはブラシとのセットでも購入することができる。Photo via No Plastic Japanそんな環境に配慮したグッズを提供する当ブランドを立ち上げたのがノイハウス萌菜さん(以下、萌菜さん)である。紙を作るために木を切らなきゃいけないことにショックを受けた12歳できることからはじまった「ゆるいアクティビズム」はつらつとした雰囲気で話す萌菜さんのステンレスストローを通した地球環境に対する思いを聞くなかでも、「私じゃなくてもいい」という言葉が印象に残った。その言葉からは、お金が欲しいのではなく、心から地球環境を改善していきたいという思いが伝わってくる。私が!(売りたい)とかではないんです。大きい企業が売っているステンレスストローのほうがもちろん安いので。ただ、私としては、ストローを売るだけではなく、それこそ私が時間をつくって啓発活動していることとか、メーカーから私に送られてくる段階でも一切プラスチックは使っていないことをチェックしていることとか、私がお客さんに送るときにも包装は全部プラスチックなしとか、そういう大きな企業にはないような要素もいっぱいあると思います。だから、そういうところをサポートするっていう意味を含めての値段として受け取っていただきたいです。楽な気持ちで環境について考えてみてほしい筆者自身、エコな活動はお金がかかるし、人に説明できる十分な知識が必要だと思っていたのだが、萌菜さんへのインタビューを通して、少し考えが変わった。「ひとりでやってもしょうがない」という考えを持ってしまう人もいるかもしれないが、身近なものであれば実践できることが本当に多い。気軽に始められるものなのだ。あんまりプレッシャーかけなくてもいいかなって。もういろんなところから始めたらいいと思います。ちょっとずつでいいんで。そう話す彼女のストーリーを読んで、より多くの人が環境について考える機会を持つことができたら嬉しい。これから自然とよりいい関係を続けていくために、なにか小さなことからゆるっと始めてみてはどうだろう。ノイハウス萌菜No Plastic JapanWebsite|Instagramノイハウス萌菜、25歳。普段は会社員として働きながらもプラスチックを原因とする環境問題に取り組んでいる。現在No Plastic Japanを立ち上げ、一度使っただけで捨てられるプラスチックストローに使用を減らすために、何度も使えるステンレスストローを世の中に広める活動を行っている。
2018年09月21日あなたはいつも食べている野菜の種に、二つの種類、固定種(こていしゅ)とF1種(えふわんしゅ)があることを知っているだろうか。種に関する法律の廃止や改正への動きなど、実は最近ホットな種の話について。また、小さな種から始まる、食の未来の選択肢について。家庭菜園向けのタネを専門に扱う「野口種苗研究所(のぐちしゅびょうけんきゅうじょ)」に勤務したのち、現在は「東京生まれ、無農薬育ちの野菜」を栽培する「Ome farm(青梅ファーム)」で、種のスペシャリストとして活躍する島田雅也(しまだ まさや)さんに聞いてきた。島田雅也さん固定種それぞれの土地で長期間にわたり育てられ、自家採種を繰り返すことによって、その土地の環境に適した遺伝的要素を蓄積し、安定していった品種の総称。F1種異なる性質を持った種を人工的にかけ合わせて、さまざまなニーズ(「形が均一」「特定の病気に強い」など)に応じて作られた雑種。別名「一代雑種(いちだいざっしゅ)」と呼ばれるため、二代目から採取できないという誤認も多々見受けられるが、採取は可能である。誤認の大きな理由は、異なる形質の親をかけ合わせると、一代目は両親の形質のうち優性だけが現れるが、二代目は逆に劣勢形質も現れ、そのためニーズに沿ったものが作れず、誰も好んで採取をしないから。F1種がよく批判の対象となる大きな要因は、基本的に市場のニーズに合わせて一回限りの採取を前提としているためだと考えられる。*注意点として、この“優勢”と“劣勢”の概念について。異なるものをかけ合わせた場合、先行して表出する性質を優性、後続する性質を劣性と呼称するため、これはどちらか一方がより優れた性質であるという意味ではない(これらの仕組みは遺伝学の基礎「メンデルの法則」に詳しい)。交通事故が変えた運命。元メッセンジャーが種屋見習いになったワケ今ではその豊富な知識を生かし、青梅ファームで種の管理を任されている島田さんだが、現在に至るまでの道のりは数奇なもので、そもそも、「農家にだけはなりたくなかった」というのだから驚きだ。大学卒業から十余年、思ってもいなかった農業の世界へ島田さんを種のスペシャリストに変貌させた野口種苗研究所は、その世界では全国でも屈指の信頼と実績を誇る老舗。漫画の神様と評された手塚治虫氏の代表作、「火の鳥」の初代編集担当というほかにない経歴を持つ野口勲(のぐち いさお)さんが店主を務めている。そんな環境へ運命的に潜り込んだ島田さん。あまりの急展開に、「あのときは家族に迷惑をかけたなあ」と話しつつ当時を振り返ってくれた。種屋って農家が種をまかない時期は仕事が減るので、冬はほぼ休業状態になるんです。だから普通、花や肥料も扱ったりするんですけど、野口は「種しか扱わない」が信条だったので、ぼくらスタッフは冬の間、自由に自分の時間を作ることができました。ぼくは冬の間は、主にT.Y.FARM(現 青梅ファーム)の手伝いをしていました。種を買いに来た彼らが「人手が足りない」って言うから、「じゃあ手伝うよ」って。で、そのうちチームで進める農業に魅力を感じ始めて。野口も理解してくれたので、昨年12月に野口種苗研究所を退職して、今は青梅ファームの種苗担当です。まあ相変わらず人手が少ないので、種だけでなく、農作業全般なんでもやっています。思わず育ててみたくなる。明るい種の話。今年4月に主要農作物種子法(以下、種子法)が廃止されて久しいが、その是非を巡る議論は相変わらず農業界を中心に続いている。廃止されたばかりの種子法を復活させようという動きもあるほどで、その余波はまだ収まる気配をみせない。また、種子法廃止に合わせたのか、種苗法の改正も検討され始め、島田さんのような野菜農家にとっても、種をめぐる今後の動きは気を揉む問題になりつつある。主要農作物種子法通称「種子法」。主要農作物である米、大豆、麦の種子の安定的な生産及び普及を促進するための規定を定めた法律。1952年に制定され、2018年4月1日をもって廃止された。この廃止で民間企業の参入が促され、市場の多様化が予想されるが、自由競争ゆえの弊害(供給の不安定化、価格の高騰)も懸念されている。種苗法植物の新品種開発者に付与される権利と保護の規定について定めた法律。主に品種登録を行った者が、その種を育てる権利を占有できるという趣旨が定められている。いろんな種が明日も100年後も芽吹くためには、しかめっ面だけでなく、ぽこっと咲いて出たような、明るい笑顔も必要だ。島田雅也(しまだ まさや)
2018年09月19日ソーシャルメディアを頻繁に使っている現代人にはお馴染みの「いいね!」や「タグ付け」、「フォロワー数」。それらの表示をタトゥーシールにプリントして人の顔に貼る作品を制作するアーティストがいる。台湾人アーティストJohn Yuyi(ジョン・ヨウイ)だ。作品のモチーフはそれらにとどまらないが、ソーシャルメディア特有の要素や、そこにアップロードされた写真が拡散されていく無限のループなどを表現することの少なくない彼女。近年ではGucci(グッチ)などハイブランドや、NYLON JAPAN(ナイロン ジャパン)のようなファッション誌のアートワークを手がけたことでも世界的に知られている。そんな彼女が日本に滞在していることを聞きつけ、筆者はインタビューを申し込んだ。Instagramのフォロワーが14万人以上いる彼女の、SNSとの付き合い方はどんなものなのか直接聞いてみたかったのだ。John Yoyi(ジョン・ヨウイ)友だち同士のコミュニケーションツールから仕事を得るものへ彼女とのインタビューを行ったのは、8月のとある日。まずは、1991年生まれで現在27歳の彼女のソーシャルメディア遍歴から聞いてみた。中高生のときはまだスマホがない時代で、台湾のSNSを使って友達同士でセルフィーを見せあったり、「この音楽いいよ」って教えあったり、あとは学校の人気者をフォローしたりしてた。そのあとはあんまりアクティブじゃなかったけどTumblrを使ったこともあったし、FacebookやInstagramを使うようになって、自分の作品を投稿するような使い方へと変わっていった。日常的なものを投稿して親しい友人間のコミュニケーションを楽しむツールだったものから、世界の人たちへ発信できるプラットフォームへと変化していったソーシャルメディア。いつしか名刺やポートフォリオ代わりに作品を見せたり、仕事のオファーを受ける手段となったりした、この発展の模様は、彼女のような1990年代生まれにとっては自分自身の成長とともにあったものかもしれない。ソーシャルメディアをアートワークの題材にヨウイは大学でファッションデザインを専門に学んでおり、アートワークを作り始めたのは2013年頃。不安症を抱えるなどメンタルヘルス面で悩んでいた彼女は、粘土をこねたり刻んだりすることで「癒し」を得ていたというが、いつからかそれで作品を制作するようになった。それを自身の服飾の写真プロジェクトと組み合わせたのが現在のアートワークの始まりで、その後比較的時間のかからないタトゥーシールを使った作品制作に移行した。tag meby John Yuyiseenby John Yuyi作品を作っている間は集中できるため抱えている不安(完璧でいることを自分に期待するプレッシャー)を忘れていられ、それが彼女のモチベーションにつながっていた。アートワークの題材にソーシャルメディアが多いことについては、「インスタグラマー」や「ユーチューバー」などの職業が生まれるくらい、社会的にソーシャルメディアの存在が大きいことが関係している。そして同様に、ソーシャルメディアをプラットフォームに作品を公開したり、クライアントからオファーを受けたりしていることから、彼女自身がある意味で「ソーシャルメディアの世界で生きている」という事実も理由としてある。美術館でピカソのような有名なアーティストの作品を見ていて気づいたのが、それぞれの生きた時代の様相を写し出していること。私もそのように、作品を通して自分のおかれた時代をドキュメントしてる。友人と手紙を交換していた時代が恋しく思えることがある、と彼女は口にしていたが、生まれたときからソーシャルメディアが存在している世代にとっては、「こんな投稿をしたら自慢しているように見えるかな?」「私ってソーシャルメディア上でアクティブすぎる?」などと、自分が他人からどう見られているのかを幼いうちから気にしなければならなくなっているだろう。ここでさらにヨウイは、アーティストの自分自身について、こんな興味深い発言をした。彼女のインスタグラムのアカウントを見て連絡してきた人が、彼女がアーティストではなくアーティストの被写体だと思い込む人もいるのだ。それがさらに、彼女が自身の“二面性”を強く意識せざるをえなくしているのかもしれない。私は自分のことをJohn Yuyiという名前の歌手かアーティストと契約を交わした事務所みたいに感じる。私が男性で、いつもガールフレンドを被写体に写真を撮っているのだと思っている人もいるし。彼女のソーシャルメディアとの付き合い方ソーシャルメディアの日常的な使用が、ティーンエイジャーの精神面に悪影響を与えているという研究結果が出ている。彼女にとってはどうなのか。ソーシャルメディアを使って仕事を得ているアーティストとしてソーシャルメディアを使い続けることには当然、困難もある。ソーシャルメディアの世界は圧倒的に速く、5日間何も投稿しなかっただけでまるで一ヶ月間投稿していないように思われたと彼女は話す。ソーシャルメディア自体は、私がメンタルヘルスの問題を抱えている主な理由じゃない。メンタルヘルスの問題があるから、何日か投稿していないと不安になってしまうことがあるけれど。一日中寝てしまったときのような、自分は何もしていないという感覚がすごく嫌いなんだ。私はもうソーシャルメディアに「誘拐」されたような気分でいる。「もしソーシャルメディア上で死んで、現実世界だけで生きることになったら?」「もし自分は死んでいるのに、誰かが代わりにアカウントを使い続けてソーシャルメディア上で生き続けていたら?」ソーシャルメディアの時代に生きる人々の“二面性”について話していたとき、彼女は自分自身にそう問いかけることがあると言っていた。それぞれの面が交差することがあるのはいうまでもなく、たとえばネットの次元で起こったいじめにより現実世界でも生きづらくなってしまう学校や職場でのネットいじめや、有名人がネットの次元で叩かれてアカウントが炎上することでメディアに出づらくなってしまうようなことがその例だ。複雑に絡み合うそんな二つの面から生じるリスクについて理解しておくことは、この時代にソーシャルメディアを利用することを選んだ人にとって重要なのであろう。John Yuyi(ジョン・ヨウイ)Website|Facebook|Twitter|Instagram
2018年09月14日2017年12月と2018年4月に開催され、アート好きからそうでない人まで老若男女約160名が訪れたアートイベントをご存知だろうか?「ひと粒のスプリンクル*1が別のスプリンクルと出会って、混ざって、新たに起こす化学反応」をコンセプトとする「sprinkler of(スプリンクラー・オブ)」だ。これまでパフォーマンスのメンバーとして関わってきたのは、コンテンポラリーダンサーから芸術系の大学でデザイン・油絵・写真・映像専攻者、芸術系以外の大学に通うイラストレーターや映画が好きな学生、自分で服をブランディングしている人、専門学校でメイク・ヘアメイクを学ぶ学生、DJ、ラッパー、シンガーソングライター、染物職人の若者までさまざま。(*1)お菓子のトッピングとして使用されるカラフルな砂糖菓子。日本では「カラースプレー」とも呼ばれる左から主催する杉本音音、須佐京香、チョンキソプ、補助役を務める吉田拓巳そんな面々が才能をかけあわせて一つの作品を作り、それを見に集まった多様な人々と化学反応を起こす機会を目指す同イベント。今回は、9月23日に第3回目の開催を控えた中心メンバーに話を聞いてみた。異なる分野の人とつながる場主催者はすべて1996年生まれの学生で、ヘアメイクの須佐京香(すさ きょうか)と、コンテンポラリーダンサーの杉本音音(すぎもと ねおん)、そして動画クリエイターのチョンキソプ。彼らに加えて取材の場に来てくれたのが、同イベントの準備にあたりスケジュール管理などのマネジメントを担当しているクリエイターの吉田拓巳(よしだ たくみ)。スプリンクラー・オブは、主催メンバーのチーム名でありイベント名でもある。高校の同級生でともに芸術系の大学に進学した主催メンバーたちで企画して始まったものだが、そこにあった思いの一つが「アートのジャンルに縛られてしまうのではもったいない」というもの。音音:ダンスの舞台って、現状としてダンサーしか観にこないんですよ。コンテンポラリーダンスは普段生活していてあまり触れる機会のあるものじゃないし、生活になくても別に生きていけるけど、あったらもっと楽しいかもしれないしっていうのがあって、展示と一緒にやることやヘアメイクの力を借りることでもっといろんな人に魅力を広げていけるんじゃないかなって。音音(ねおん)また「一緒に何かを作りたい」という思い以上に、そこには自分と異なる分野の人たちと交流することで見えてくる世界のおもしろさをより多くの人に味わってもらい、自然と視野を広げてもらいたいという考えもあるかもしれない。チョン:学校以外で、違う分野の人とつながる場って案外少ない気がします。だから、なにかをやっていてもいなくても、自分が普段触れないモノや人に触れる場を自分らで作りたくて始めました。チョン見に来た人からは、「自分も次はやりたい」「ダンスや発表の場ってこんなに自由なんだな」などと感想がもらえることも多く、実際にそこで交わされた会話が次回のコラボレーションへつながっている。今回のテーマは「渦」今回のスプリンクラー・オブが今までと異なるのは、参加者にテーマをもとにパフォーマンスや展示を作ってもらう試みをしているところだ。選んだテーマは「渦」。初回は「Saudade/Nostalgia(サウタージ/ノスタルジア)」*2をテーマとしていたが伏せており、今年4月にあった2回目は「Kilig(キリク)」*3をテーマに掲げていたが、それを意識的に作品と関連させることはしていなかった。京香に言わせれば「一回目と二回目は、どちらかというとキラキラしていてハッピーな感じのテーマ」だったが、今回は趣向の異なるものを選んでみたようだ。京香:今回は、他人がキラキラしてみえることがあるかもしれないけど、意外とみんな悩みも抱えていたりするし、人との出会いの渦がぐるぐると回っていて深く考えてしまったりもする、そういう暗い部分も含めて表現できる場にしたいなと思って「渦」をテーマに選びました。(*2)ともに「郷愁」や、その「切なさ」を意味する(*3)フィリピンで話されている言語の一つであるタガログ語で「お腹の中で蝶が舞う気分」を意味する京香(きょうか)大学や専門学校を卒業したあと自分はどんな道を選ぶのがいいのかと、学生なら誰でも一度は考えて悩むことだろう。したがって少し複雑で等身大の心情を表現できそうな今回のテーマだが、「渦」という一語の解釈の幅は広い。クリエイターたちはそこから、どのような発想をするのだろうか。コンテンポラリーダンスの振り付けを主に担当している音音は、「渦」から何日も同じ夢をみたり、何度も同じ人に出会うなど、輪廻転生に似たような感覚にイメージを膨らませてダンスを作ったという。当日は、どんな「渦」から化学反応が生まれるのか楽しみだ。夢を一つ実現させるために、今できることを全力で回を重ねるごとに変化し続けるイベント、スプリンクラー・オブ。メンバーたちも始めた当初は3回目まで続くとは思いもよらなかったようだが、「常に人を楽しませるようなスプリンクラー(振りまく人)でいたい」という願いから、継続的にイベントを行ってきた。見に来た人が、ただの見に来た人では終わらず、次の回では一緒に何かを作るようになるなど、そのオープンでインクルーシブなところが、これほどまでに多くの来場者を集めているのかもしれない。sprinkler of “Uzuー渦”9月23日(日)DAY 15:00〜18:00/NIGHT 19:00〜23:00@渋谷 E-Base〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町6-15 B1DOOR ¥1,500(1Drink)ADVANCE ¥1,000(1Drink)《Show time》DAY:16:30〜17:30Contemporary Dance×Hairmake×MovieNIGHT:19:00〜20:45Live Painting(大門×raszombie×YULA)21:00〜22:00Contemporary Dance×Hairmake×Movie《Member》◯Hair&MakeKyoka, Ashley, Narumi, Miyuki, Kanae, Yui◯MovieChige◯DanceNeon, Kayako, Sayaka, Kanako, Karin, Ageha◯衣装Yarimizu Tomotake◯raszombie, LAZY PIZZA DELIVERY, YULA, pino, Mayo Murakami, 大門◯sprinklerKyoka(ヘアメイク)Chige(映像)Neon(ダンス)◯Special thankyouTakumi – Ken – Kobasan!Contact:sprinklerof@gmail.com
2018年09月13日持続可能性、サステイナブル、そういう単語にハードルを感じてしまうのは筆者だけだろうか?それら単体でも高いハードルは、“未来”や“社会”なんて単語が付属することで、どうあがいても超えられなそうな壁に進化する。要するに、ささやかな日常を維持するのにヒィヒィ言いながら生きる筆者にとって、持続可能性は考えたくても考えられない贅沢品のような存在なのだ。しかし、そんな持続可能性について、安価で手軽に考えられ、なんなら実行もできてしまう、素晴らしいプロダクトがあると知り、興味を持った。そのプロダクトとは“鉛筆”だ。そんなSprout鉛筆の仕組みについて簡単に説明しよう。末端部分の水溶性の黒いカプセルに植物の種が入っている。そして、鉛筆が短くなって使えなくなった際には末端部分を土の中に埋め水をかけると、カプセルが溶け、種が土の中に露出する。その結果、植物が育つのだそう。さらに、軸の部分も、鉛を使わず、炭に熱処理を加えることで生成され、炭素のみで構成された元素鉱物グラファイトを利用しており、軸を取り囲む持ち手の部分も天然の杉でできているため環境に優しい。小さなSprout鉛筆だが、今年で創業6年目を迎える。アメリカ、カナダ、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、フランスなど欧米各国で展開し、近年では、日本の企業とも取引があるそう。そうした人気の秘密は、持続可能性に対する強い思想と、企業名や個人名を記名し、鉛筆をパーソナライズ化した商業的な戦略にある。まず、前者について解説すると、Sprout鉛筆の開発者は、身近なプロダクトを介することで、日常生活のなかで持続可能性を実行してもらいたいという思想を持ち本製品を考案した。そして、鉛筆を使う子どもたちが植物を育てる楽しさを知ることは、持続可能性だけでなく、環境について考えるきっかけを作ることにつながるのではないか、というオリジナルの発想が多くの教育者や保護者の共感を集めることに成功。▶︎これまでの「GOOD GOODS CATALOG」・p.25 アパレルだけじゃない。“食”も考える企業「パタゴニア」がムール貝の缶詰を発売した理由・p.24 「サンゴ礁を代償に、あなたの肌を守るのはもう終わり」。肌も海も守ってくれる日焼け止め・p.23 洋服やカバンにつける「ピンズ」で、小さくともパワフルに自己主張する時代▶︎オススメ記事・「ブサイクな野菜と果物」しか置かない、環境にもお財布にも優しい“未来のスーパーマーケット”・消費者の「食べたい」に合わせて農家が食品を生産する、という“間違った”構造に終止符を打つレストランAll photos via Sprout WorldText by Kotona HayashiーBe inspired!
2018年09月11日「芸術の秋」といわれる季節がやってきた。アート展といえば、アートを学んだ人にしか理解できないような見るからに難解な絵が並んでいるものというイメージを持つ人もいるかもしれない。だが昨年開催された「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(以下、企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー)、参加する作家の多様性だけでなく、あらゆる来場者が楽しめるように包括性を追求している。本記事では、9月13日より開催される企画展「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 2020 ミュージアム・オブ・トゥギャザーサーカス」(以下、ミュージアム・オブ・トゥギャザーサーカス)を前に、改めて同企画の魅力と今年の見どころを紹介したい。清水千秋「三代目 J Soul Brothers」/やまなみ工房所蔵/撮影:木奥恵三/画像提供:日本財団先入観を持たせないアート展多様性や包括性への革新的なアプローチを仕掛ける「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS(ダイバーシティ・イン・ジ・アーツ)」による「企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー」は、2017年10月に表参道のスパイラルガーデンで19日間にわたって開催された。作品数は500点におよび、展示されていた作品は無名の作家のものから、元SMAPの香取慎吾のような有名人によるものまでさまざま。もともとは障がいのあるアーティストによる作品を中心に展示する企画であった同展示で特徴的だったのが、作家の名前や障がいの有無を会場で配るハンドブックに載せることをせず、障がいのあるアーティストの作品を「障がい者アート」というカテゴリーに当てはめることもしないなど、観る人に先入観をなるべく持たせない工夫をしていた点だ。渡邊義紘「折り葉の動物たち」/撮影:木奥恵三/画像提供:日本財団あらゆる人に配慮したスペースまた「誰でも楽しく、居心地よく過ごせる環境」を目指すため、企画チームをキュレーター、建築家、デザイナー、編集者、美術館職員、障がいがある人、福祉関係者など多領域の人々で構成。双方向にコミュニケーションを重ねることで互いに学び合い、準備を行ったという。そこで取り入れられたのが、あらゆるニーズに応じて展示会やサービスの案内をする総合受付「ウェルカム・ポイント」や、鑑賞中に休憩を必要とする人が静かに過ごせる「クワイエット・ルーム」、音声を通じて作品を知ることのできる「オーディオ・ディスクリプション」、会場周辺のバリアフリー情報が得られるアプリ「Bmaps(ビーマップ)」。さらに会場となった施設の階段にスロープを設けるなど、徹底してバリアフリー化に努めており、今回の展示にも生かされている。Peter McDonald“Orange Egghug”/画像提供:日本財団トークセッション多数。今年の見どころ今年開催される「ミュージアム・オブ・トゥギャザーサーカス」の見どころは、より近くでアートに触れられること、作家による切り絵の公開制作、そして複数の切り口からゲストを招いたトークセッションの大きく三つだ。
2018年09月10日日常生活のなかで見かけたごみの写真を拾う前に撮影し、Instagramのようにユーザーの間で共有することができるアプリ「Litterati(リテラティ)」。同アプリはごみ拾いにアート性を持たせることでエンターテイメント化させ、さらにごみを拾った場所・時間・ごみの種類・拾った人のデータ化をグローバル規模で可能にした。Litteratiの創設者、ジェフ・ カーシュナー氏リテラティの創設者ジェフ・カーシュナー氏は、家族とハイキングをしているときに子どもがポイ捨てされたごみを見て、「パパ、このごみはここにあるべきじゃないものだよ」と言ったのをきっかけに、地球に悪いとは知りつつもすっかり慣れてしまっていた道端のごみの存在に意識を向けるようになる。最初は自身のInstagramのアカウントで拾ったごみの写真を投稿していただけだが、ごみの写真をアーティスティックに撮ることが楽しくしばらく続けていると、世界中の人が自然とジェフを真似してごみの写真を投稿、彼をタグづけするようになったという。これが「Litterati(リテラティ)」のアイデアの原点である。▶︎オススメ記事・「使い終わったら捨てる。それ正しい?」プラスチックごみからサングラスを作るメーカーw.r. yuma|世界のGOOD COMPANY #003・アップサイクル素材を含む1,600点が集結。最先端の素材を見て触れる「会員制マテリアルライブラリー」All photos via LitteratiText by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年09月07日8月11日、土曜日。東京生まれ、無農薬育ちの有機野菜を作る「Ome Farm(以下、青梅ファーム)」と、ほかにないデザインでファッション業界の一角に位置する「minä perhonen(以下、ミナ ペルホネン)」が共同で、親子向けに野菜をテーマにしたワークショップを開催した。イベントの会場になった、ミナ ペルホネンが提案する心地よい暮らしのアイテムを揃えた「call(コール)」のテラスに、ミナ ペルホネンを愛用する親御さんに連れられた子どもたちが、「一体ここで何が始まるんだっけ?」という面持ちで現れては席に着いていく。そんな子どもたちの前に立ったのが、青梅ファームの代表である太田太(おおた ふとし)さんと、同じく青梅ファームの種のスペシャリストである島田雅也(しまだ まさや)さん。島田雅也さん太田太さんワークショップは、種のスペシャリストである島田さんが、いつも目にする野菜はどのようにして育っているのか、米粒のような小さな種にどれほどの生命力が凝縮されているのかなど、学校では学べない特別授業を開講し、その後太田さんが、青梅ファームの野菜を使ってのサラダ作りを子どもたちにレクチャーするという流れで行われた。ちなみにこの日会場には、ミナ ペルホネンの創業者でありデザイナーを務める皆川明(みながわ あきら)さんも駆けつけた。皆川明さんさて、ファッションの分野に身を置くミナ ペルホネンが、なぜ農家である青梅ファームとタッグを組んでこのイベントを開いたのか。そのあたりの思うところも皆川さんに聞きつつ、駆け足気味ではあるが、イベントのレポートを掲載する。消えゆく自家採種と種の話青梅ファームと自身の自己紹介を終え、農業に欠かせないミツバチの働きや、野菜の種の基本要素を説明し、授業がひと段落した段階で島田さんが言った言葉に、子どもたちが「それってやったことないかも」という顔をした問いがある。それが、「皆さんは野菜の種を採取したことがありますか?」というものだ。そんな自家採種を「ぜひやってみてください!」と呼びかける島田さん。それには、絶滅の危機に瀕している固定種野菜の存続を願う気持ちと、子どもたちの未来に種の多様性を確保したいと願う一人の親としての思いが合わさっていた。「固定種がいいもので、F1種が悪いものなんて僕はまったく思いません。ただただ、子どもたちの未来に種の選択肢を残してあげたいだけなんです」。子どもたちは太田さんが教える手順を真似て、手で野菜をちぎり、水を切る特大の野菜スピナーを懸命に回し、オリーブオイルとワインビネガーで味付け、と順次工程をこなしていく。実際に食べる段になると、「酸っぱい!」や「おいしい!」など、いろんな声が聞こえてきて、机の上は賑やかなムードに包まれた。そんな明るい喧噪の隣で、ミナ ペルホネンの皆川さんに、今回のワークショップを開いた経緯と、ファッションブランドが食に携わる理由を聞いた。「生活は切り離せないし、そもそも切り離すべきではありません」今回ミナ ペルホネンが「call」で、青梅ファームとともに、野菜をテーマにワークショップを行ったのはなぜか。創業から数年とまだ間もない頃に、独自の家具のデザインや、ファッションブランドでありながらインテリアファブリックの販売を始めた。また、オリジナルファブリックから始まる服づくりの背景を伝える個展『粒子ーーparticle of minä perhonen』を開いたこともあるミナ ペルホネン。その歴史から鑑みても、分野を横断する試みの数々は、皆川さんにとっては自然な思考の先にある、自然な選択だったのだろう。周囲の皆様からは、確固たるスタイルがミナ ペルホネンにはあるとおっしゃっていただけることもありますが、まだまだ改善点があると僕たちは感じています。トライアルの隙間はいつもあるんです。だから僕たちは、こんな食材や、こんな服や、こんな素材があるよということを、分野を問わず発信していく。それをお客様にご判断いただき、選んでいただければいいかなと思っています。“100年続くブランド”を標榜するミナ ペルホネンと、“本当に安心できるものを都心近郊でつくる”ことを目標に掲げる青梅ファーム。どちらのブランドも、ものを作るという共通点があるのだが、それ以上に、「自分たちが作りたいものを作っている」というある種のプライドが見受けられる。「作り手が楽しんでいなければ、どんなに『サステイナビリティ』という言葉が世の中に普及しても、本当の循環が生まれることはないんじゃないかなあと考えています」という皆川さんの言葉は示唆に富む。分野を問わず、ものを作り提案するあらゆるブランドは、ときに自分たち本位で物作りを考えるという、一種のわがままさを持っていてもいいのかもしれない。Akira Minagawa(皆川 明)1967年東京生まれ。1995年に自身のファッションブランド「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。時の経過により色あせることのないデザインを目指し、想像を込めたオリジナルデザインの生地による服作りを進めながら、インテリアファブリックや家具、陶磁器など暮らしに寄り添うデザインへと活動を広げている。また、デンマークKvadrat、スウェーデンKLIPPANなどのテキスタイルブランドへのデザイン提供や、新聞や雑誌の挿画なども手掛ける。call(コール)Website|Instagram聞こえますか?今は世界のどこかに在るものたち海の向こうから日々の手の中から遠い記憶の中からたった今の想いから生まれてきたものたちを呼びよせてそこに息づく物語に耳を澄ませて暮らしの中で寄り添ってみる「callより」
2018年09月06日月明かりの下、静かな海辺で舞う二人の女性。彼女たちは徐々に漁網に動きを奪われ、最後は息を引き取ってしまう。©️Yusuke Oikawa / Greenpeace世界規模の環境問題に取り組む国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが8月27日に発表したアート作品『混獲 -Bycatch-』の物語である。 漁網に動きを奪われる二人の女性が象徴するのは、捕獲されるウミドリ。この作品は、ウミドリ、ウミガメ、海洋哺乳類を含む、対象とする魚種以外の生きものが一緒に捕獲されてしまう漁業の「混獲(こんかく)」への問題提起だった。 少なくとも年間16万羽のウミドリがはえ縄の釣り針についたエサを食べようとするなどして混獲の犠牲となり、何万匹ものウミガメが命を落としている。命を無意味に奪うこの「混獲」を正当化できる者はいないであろう。©️Yusuke Oikawa / Greenpeace映像演出を担当したのは、ハリーポッターのシアタープロダクション製作チーム等に参加した経験を持つタニクミコ氏。現在では環境問題に興味をもち、リサイクル可能な材料を使用してアップサイクルした衣装を制作し、イギリスやドイツで行われるファッションウィーク・サステナブル部門で発表を続ける世界的コスチュームデザイナーである。二人のダンサーが身にまとう実際の漁で使用された網を使った「漁網ドレス」のデザインも彼女が手がけた。映像ディレクターは、サザンオールスターズの『闘う戦士たちに愛を込めて』のアニメーションMVなど、インパクトの強い作風で知られる大月壮(おおつきそう)氏。そして、パフォーマンスを行ったのは、世界的に活動している日本人とイギリス人の2人のダンサー、小佐野智美(こさのともみ)氏にアシュリング・クック氏と、国際的に活躍するトップクリエーターたちの集大成が今作である。また、九十九里浜で満月の明かりの下決行された撮影のメイキング映像を手がけたのは、スケーター界を代表するフィルムメイカー田中秀典(たなかひでのり)氏。近日中の完成、公開となるこちらの映像にも期待が膨らむ。© Hidenori Tanaka / Greenpeace漁業の問題とアートと聞くと、かなりかけ離れているように思えるが、今回グリーンピース・ジャパンが問題提起の手法としてアートを選んだのは、環境団体の典型的なアプローチを見直すためだった。これまで、グリーンピースも含めてほとんどの環境団体が、伝えたい!という思いのあまり、難しい言葉や数字を詰め込んで環境問題についてコミュニケーションしてきたように思います。ですが今回はアートという入り口から、「おもしろそう」「何だろう」と思って作品に触れてもらうことで、見てくれる人にとって環境問題が身近になればと考えました。実力派のクリエーターが集まり、環境問題うんぬん以前に作品として楽しめる今作だからこそ、その裏にあるテーマに興味を持つ人は増えるかもしれない。©️Yusuke Oikawa / Greenpeace©️Yusuke Oikawa / Greenpeace今回の作品のテーマである過剰漁業はもちろん、気候変動やプラスチック汚染など私たちがいま抱えている深刻な環境問題はどれも、誰か一人の力で解決できるものではなくて、みんなが考えて動いたり、みんなの力で、影響力のある企業や政府を動かしたりしなければ解決できないものです。スーパーや魚屋に並ぶ魚を買おうとするときにその背景にある漁業について思いを巡らせることはなかなかないだろう。しかし、『混獲 -Bycatch-』というアート作品が心に残ったならば、SNSを使って混獲への反対を表明したり、グリーンピース・ジャパンに詳しく話を聞いてみて何ができるのか考えたりと、個人でも行動に移せるはず。 業界が変革するなどトップダウンで変わるのならばそれにこしたことはないが、そうもいかないのであれば個人が地道に行動していくことが重要となる。そしてその個人が増えればマスとなる。無駄に命を奪われていく生物たちの未来は、私たち一人ひとりの意識の変化で変えられるかもしれない。「混獲 -Bycatch-」※動画が見られない方はこちら国際環境NGOグリーンピース・ジャパン「混獲 -Bycatch-」Website|Youtubeさまざまなリサイクル素材を使ってドレスを生み出す、ロンドン在住の日本人コスチュームデザイナータニクミコ氏が、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンと初コラボレーション。リサイクル漁網のドレスをまとった2人のダンサーが、漁網に翻弄される海の生きものの苦しみを芸術的に表現する。
2018年09月05日媒体名の変更(10月からNEUTになります)やウェブサイトのリニューアルを控えたBe inspired!が送るシリーズイベント「NEUtalk(ニュートーク)」。業種、年齢、性別、人種といったバックグラウンドとなるすべての壁を取っ払い、いままで交わらなかった人を招き、そこで生まれる「新しい会話(ニュートーク)」をしようという試みだ。その第3回目が8月26日、国連大学で毎週末開催されている「Farmer’s Market(ファーマーズマーケット)」のコミュニティクラブ向けイベントが主に開催される「Farmer’s Market Community Lounge(ファーマーズマーケットコミュニティラウンジ)」で開催された。2010年に彼女がお店を開いた当時は、まだジビエ*1の存在があまり知られていなかったが、「もったいない、そして命に申し訳ない」という現状があることを知ってほしく、それを伝えるためにお手頃な居酒屋価格でジビエの提供を始めた。宮下さんが飲食店「米とサーカス」に込めたメッセージは、「害獣と呼ばれ、世間的にはいかにも悪者というイメージが固定されてしまっている獣たちの認識を変えたい」というもの。(*1)「狩猟された鳥獣を食肉する」という意味のフランス語。近代以前のヨーロッパの貴族を中心に現在まで発展してきた食文化。日本ではシカ、イノシシ、ウサギ、鳩、鴨、カルガモ、キジ、カラスなど、狩猟の対象となる動物はすべてジビエの範囲に規程されるここで司会が、「もしかして喧嘩をふっかけられたことがあるとか?」と清野さんにうかがうと、「いや、まあ喧嘩をふっかけてくる人はなかなかいないですね(笑)」と返答。しかし、同じビーガンでも意見の食い違いによるズレはあるようだった。たまにビーガンとして各方面へ積極的に活動されている方がいます。私はそれを否定しませんが、話が極論になりがちではあると思います。私は人間の都合を優先した畜産や養蜂にはまったく反対の立場です。ただ、動物性食品と製品を完全に拒絶して生きていけない環境もこの世界にはあるわけです。だったら多大なエネルギーを消費する食肉産業ではなく、狩猟からもたらされる鹿肉をもっと市場に流通させるとか、週に一回でも動物性の食品を摂らない日を設けるとか。そういう、一生無理なく続けられる、サステイナブルな考え方でビーガニズムをとらえてもいいんじゃないかと思うんです。当日レストラン「エイタブリッシュ」から届けられたビーガン仕様のパウンドケーキ。自然な甘さがグッド!突然ベジタリアンにならざるを得なくなったらどうしますか?サステイナブル×ビーガンを実践する一つの方法としてとして提案したいのが、フレキシタリンというスタイルだ。文字通りフレキシブルとベジタリアンをかけ合わせた言葉で、「柔軟性のあるベジタリアン」を意味する。具体的にいうと、肉を食べる日もあれば菜食を貫く日もあるという具合だ。清野:お金を出せば大抵のものが食べられるいま、そのお金をどこに使うのかという意識で、食と向き合うことが求められるのかなと。わたし個人で言えば、できる限り生態系に迷惑をかけない生き方=食べ方をしたいと思います。宮下:食の選択肢がたくさんあるいまは、知ることが大事だと思います。食料廃棄の問題を知り、食糧危機の問題を知ったうえで選択する。“いただきます”という言葉にある意味を考えながら、これからも食べていこうと思います。本稿が、あなたにとっての「食べるってなんだ」を考えるためのヒントになれば幸いである。Farmer’s Market @ UNUWebsite|Facebook|Twitter|InstagramFarmer’s Market @ UNU は農と都市生活を結びつけるプラットフォームです。私たちは以下の活動を通じて、都市に暮らす人々の生活に貢献することを目指します。– 農家と私たちの間の対話を生み出し、健康的な食べ物とその源に対する理解を促進する。– 農家と人々を直接結びつけ、相互理解によるコミュニティをつくることで、農家がより質の高い農業を継続できるよう支援する。– 生活者である私たちが“マイファーマー”と言えるほど信頼できる農家から、新鮮で健康的な食べ物を買う楽しみをつくる。– 私たち生活者も農業のプロセスに関わり、営みを理解するきっかけを提供する。Photo by Jun HirayamaReiko Kiyono(清野玲子)Instagram株式会社エイタブリッシュ代表、クリエイティブディレクター幼少よりベジタリアンとしての食生活を送る。制作会社などを経て1997年に、ビジネスパートナーの川村明子さんとともにクリエイティブカンパニー「ダブルオーエイト」設立。ビーガンカフェ「カフェエイト」を皮切りに、現在は本格的なビーガンレストランとマフィン&コーヒーショップを運営。オーガニックのさまざまなフィールドの人々とのネットワークを持ち、オーガニックフードのご意見番的存在。Restaurant 8ablishWebsite|Facebook|Twitter|InstagramMUFFINS AND COFFEE 8ablishWebsite|Facebook|Twitter|Instagram
2018年09月04日レバノンの首都ベイルートにある難民キャンプで暮らす女性たちが始めた、人気のケータリングサービスがある。その名もアラビア語でキッチンテーブルを意味する「Soufra」(ソフラ)で、キャッチコピーは「A Moving Feast」(移動するごちそう)。パレスチナ、シリア、イラク出身の彼女たちが心を込めて作る料理やお菓子は、どれも好評だ。今回のGOOD CINEMA PICKSでは、女性が就ける仕事が何もなかった同難民キャンプで、クラウドファンディングを用い、人と人とをつなぐ「食」を通じて自らの生活を向上させたソフラで働く女性たちを描いたドキュメンタリー映画『ソフラ〜夢をキッチンカーにのせて〜』を紹介したい。クラウドファンディングに挑戦自らの力で事業を始めるしか方法はなかったと説明するのが、これについては正しいだろう。マリアムは、自らがおかれた状況を改善しようと、まわりの女性たちの得意な料理を使ったケータリングサービスを思いつく。その事業には、厨房だけでなく配達するトラックが必要で、それらを購入する費用をまかなうために、現代的な資金調達の方法であるクラウドファンディングを使った。ドルマ(ブドウの葉で米、挽肉、香味野菜などを包んだ料理で、料理中央アジアから北アフリカまで広く食べられている)同ドキュメンタリーでは、ソフラで料理人を務める女性たちの調理の場面や、それぞれの郷土料理の歴史・ほかの料理との類似性ついて話す様子が映されるが、何よりも彼女たちの表情が生き生きしており、よく耳にする「食が人をつなぐ」という表現も決して大げさではないと思わされる。実際にレバノンの食卓へ味わい深い食事を提供することで、難民に対する見方に変化をもたらすこともあるかもしれない。宗教やアレルギー、思想などへの配慮は言わずもがな必要だが、衣食住の一つである「食」の力は、さまざまな違いを超えて人々をつなげるものではないだろうか。日本では現在のところ、9月7日から始まるUNHCR難民映画祭でしか同作は上映されないため、ぜひこの機会に観てほしい。東京上映のチケットの申し込みは9月4日までだ。予告編※動画が見られない方はこちら『ソフラ 〜夢をキッチンカーにのせて〜』Website|Facebook|Twitter|Instagram9月7日(金)16:00開始イタリア文化会館(東京)<満席>9月8日(土)16:00開始イタリア文化会館(東京)9月29日(土)15:30開始グローバルフェスタ2018(東京)9月29日(土)13:00開始札幌プラザ2・5(札幌)※札幌上映は『君たちを忘れない ~チョン・ウソンのイラクレポート~』を併映10月7日(日)18:00開始名古屋国際センター 別棟ホール(名古屋)UNHCR難民映画祭の映画詳細ページはこちらチケットの申し込みはこちら(※東京は9/4(火)まで)地域 :中東(レバノン)監督 :トーマス・モーガン製作国:アメリカ、レバノン製作年:2017年上映時間:73分カテゴリー:ドキュメンタリー言語:(音声)アラビア語(字幕)日本語、英語エル・グウナ映画祭(2017) Mentor Arabia 賞、 Cinema for Humanity Audience 賞日本初上映
2018年09月03日「性感染症」に対してどんなイメージを抱いているだろうか?自分には関係のない病気と考えてしまいがちかもしれないが、最近の日本では感染者数が増加の傾向にあるという。特に増えているのは梅毒*1で、クラミジア*2、淋病*3も常に蔓延している。さらには、HIV*4の感染者数も拡大しているのだ。そんな事実を知ったとしても、検査を受けるために病院へ足を運ぼうとするにも壁がある。ではそれをどう問題提起したらいいのかと、筆者が頭を悩ませていたとき、インターネット上で偶然見つけたのが、「池袋駅前ライフクリニック」というその名の通り、池袋駅西口前にあるクリニック。ここでは同クリニックを立ち上げた元AV女優の夏目ミュウ(なつめみゅう)氏と、稲垣徹訓(いながきてつのり)院長へのインタビューを通して知ることになった、実は身近にある性感染症の事情、そして同クリニックのこだわりについて届けたい。夏目ミュウ氏(*1)外陰部の粘膜などに、発疹ができたり皮膚が隆起したりする病気(*2)性別を問わず症状が出ない場合も多いが、放置しておくと子宮や卵管、尿道、精巣、陰嚢などに炎症が起こり不妊の原因となることもある(*3)淋菌に感染することでかかる病気。症状が出ない場合もあるが、膿性の分泌物が出たり出血したりすることもある(*4)ヒト免疫不全ウイルス。HIVに感染して免疫が低下して合併症を引き起こした状態がAIDS(エイズ)と呼ばれているまずAV業界や性風俗業界で働く人たちの健康をサポート2018年5月7日に開院したばかりの池袋駅前ライフクリニック。立ち上げた夏目ミュウ氏は「今思えば儲けるためだけだったら、クリニックをつくる労力が同じくらいで単価の高い美容整形外科とかにしたほうが効率がよかったのではないかと思っているんですけどね」と笑っていたが、開院に踏み切った一番の理由は、日本における性感染症感染率の増加と、それに対する知識のなさへの危機感を感じていたから。そして、まずターゲットにしたのはAV業界や性風俗業界での仕事に従事する人たち。「私のまわりだけかもしれませんが」と前置きしながら、給与が足りず性産業に従事する人たちが身近に多くいたことも立ち上げに関係していると彼女は話してくれた。夏目:セカンドの仕事としてなんか未来もみえずに、うっかりなんかの理由で風俗で働いたり、お金がほしくて流されて嫌だけどAVやってたりとか。彼女たちのなかには身内の借金などがあって一発逆点してお金を貯めようって思ってきてたり、人によっては誇れた理由ではないかもしれないけど、頑張って従事しようとしても、これだけ病気が蔓延しているために道を絶たれるっていうこともあって。自分一人が気をつけてもまわりの人の意識や知識がないことによってまた再発したり。Photo via Ikebukuro Life Clinic日本のAV業界でも2016年にようやく、仕事を受けるにあたって性感染症の検査表の提出が義務付けられるようになったが、性風俗業界では統一された基準はなく店舗に任されており、多数の人との性的接触*5をするため必然とリスクが高くなる。だが病院で検査しようとしても、性病科は男性専用としているところが多く、性感染症専門のクリニックは数が少ないため混みすぎていて時間をかけて相談ができないという状況だった。また、現実的な話をすると性感染症の検査で「陽性」が出てしまうとしばらく仕事ができないため、ゆるい検査を行っていて「陰性」が出やすいクリニックの需要があることがさらに根深い問題だ。そんななか彼女は、とにかく病気の早期発見のために検査における精度の高さを最重視している。(*5)性感染症への感染は基本的に性交渉を通じておこるが、確率が非常に低いもののプールや温泉、岩盤浴場などで感染することもある稲垣:やはり性感染症のこと以前に性教育に関して早い時期からもう少し、オープンにしていただきたいっていうところはありますね。小学校の高学年に対して学校の先生が教育するのには難しいところもあると思うので、医師とか保健所の看護師などの専門家が赴いてとか、そういう形での授業を絶対するべきだと思います。ですが実施しようとしても、自治体なり、学校が拒んでしまうという現状がありますよね。「これ以上は話さないでくれ」とかね。日本では性産業の規模が大きいのにもかかわらず、家庭や学校などで性的な話をしてはいけないという空気感が少なからずある。ホルモンバランスを整えられ、月経前症候群の緩和をはじめとする利点のある低容量ピルに関する事情をみてもそうだ。一般の人々の知識がないために、当たり前にあるべき身体にとって有用なものへアクセスが妨げられているのが現状。「時間はかかるにせよ、正しい知識を身につけられる性教育を地道に行っていくことが、将来的な予防政策の一環になる」と、稲垣医院長は話していた。また性教育の質の確保のみならず、政府が性感染症の検査への助成金を出したり、学校や企業での健康診断に組み込んだりするなどの制度化が実施されれば、日本の性感染症事情は大きく改善されると考えられる。膣内検査を行うための検査台検査はスタッフによって丁寧に行われ、時間はほぼかからない同クリニックが厳選した検査キット検体を取り終えたら、スタッフが検査薬で反応をみる性感染症に対して偏見のないクリニック夏目氏そして稲垣医院長の話から浮かび上がってきたのはやはり、普段触れられることの少ない日本の問題だった。その問題の根深さや、一般の人にとって性感染症の検査を受けるまでに何重もの壁があることを受け止めながらも、信念を強く持ってクリニックを運営しているのが今回のインタビューを快諾してくれた夏目ミュウ氏だ。「私みたいなのを面に立たせてくれる稀有な病院だと思いますよ」と口に出していたが、AV業界にいたからこそ患者に寄り添えるという面もある。夏目:来てくださる方はやはり性産業の方が多いので、AV女優だった私はそこに対して別に偏見もないですし、一般の方にももっと来ていただきたいですね。本当に偏見なく診てくださる先生とかスタッフばかりですし、私もまあいろんなことが人生であったので相談乗れます。来院のしやすさへのこだわりは強く、「性感染症クリニック」「性病科」などを名称に入れていないだけでなく、カフェのような空間を想起させる青色で統一された明るい院内にも表れている。そのほかの特徴としては、保険診療を行っていない病院だからこそできる、時間をかけた、性感染症や自分の身体に関する悩みの相談だ。稲垣:そこまで忙しい病院ではないので、そういう意味では、ほかの病院よりはゆっくりお話はできると思います。性感染症に関して相談があればいくらでも時間はとるので。さて、いざ興味を持っても心配なのは検査を受ける頻度や検査にかかる料金かもしれない。頻度に関しては、性風俗産業に従事している方やそこに通われてる方なら月一、またはパートナーが変わったタイミングで検査を受けることを勧めている。料金については、最も低価格の検査が6,000円のライトセット(クラミジア・淋菌の検査)で、現状では性風俗で働く人の割引を行っているという。さらに来院者が増えたら、ペア割引も始めたいそうだ。池袋駅前ライフクリニックの存在意義夏目氏から聞いた話だが、通信販売で購入できる性感染症検査キットがベストセラーになっているらしい。それらの精度については一概にいえないが、医師が介入した検査のほうが検出率が高いため、数回に一度だけでも医師による検査を勧めたい。クリニックに足を運ぶことで、人々の間に知識が広まっていない性感染症に関して、医師に気軽な相談をする機会が作れるということも非常に重要ではないだろうか。風邪にかかっていることを隠す必要がないように、性感染症にかかっていたとしても恥じる必要はないし、何かあれば医師と相談しながら治療を進められる。性感染症の検査を受けるのに抵抗がある人たちにも、性感染症をほかの病気と同様に扱い、自分のこととして考えるようになるまで時間がかかりそうだが、性感染症に対するスティグマを崩していくのにも同クリニックの存在は大きい。Myu Natsume(夏目ミュウ)Twitter2001年より17年間AV業界に在籍。モデルを経て、4年後、監督、プロダクション経営に携わり業界を引退。SOD匿名社員。2018年5月7日に性感染症(STD)検査専門の池袋駅前ライフクリニックを立ち上げる。Ikebukuro Life Clinic(池袋駅前ライフクリニック)Website性感染症(STD)専門クリニック外来〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-16-1 新東第一ビル6F ※池袋駅西口8番出口目の前Tel:03-5904-8775(お気軽にお電話ください!)休診日:水曜日、日曜日、祝日池袋駅前ライフクリニックは、あなたと誠実に向き合って性感染症の最適な検査を行っております。
2018年08月31日世界中の人々にアメリカンカジュアルを提供してきたファッションブランドGap。そんな当ブランドは2018年秋、新しいキャンペーンを発表する。それが「Good Creates Good(Goodは拡がる)」だ。環境的、社会的に“Good”なことを広めていくこのキャンペーンは12人の環境活動家、ミュージシャン、アートキュレーターなどを迎えて動き出す。※動画が見られない方はこちらGood Creates GoodGapが発表する当キャンペーンは、2017年から、歌姫Cher(シェール)とヒップホップアーティストFuture(フューチャー)を迎えて始まった「Meet Me in the Gap(ミート ミー インザ ギャップ)」キャンペーンのなかで展開されていくようだ。「Good Creates Good」というメッセージのもと、“Good”なアイデアを発信する。「Good Creates Good」というメッセージをGapはこう説明してくれていた。“Good”は拡がる。ちょっとした良いことが誰かをインスパイアして、次から次へと拡がっていく日々の生活のなかで何気なく着ることのできる洋服を展開するGapにはピッタリなメッセージではないだろうか。そして、そんな”Good”を拡めていくうえで、さらに社会をいいものにしようと日々活動するユニークな12人の活動家たちが、今回のメッセージをより色濃いものにしてくれている。カイル:フィールグッド・ラッパー(*1)(左)マダム・ガンディー:ミュージシャン & 女性権利活動家(右)“Good”なキャストミュージシャンとして政治的なメッセージを歌うマダム・ガンディーや、アートキュレーター兼反人種差別活動家のキンバリー・ドリュー、ジャーナリスト兼文化活動家のノア・タゴウリなど、今回参加しているキャストはみんな、社会に変革をもたらそうと行動している人たちだ。人の多様性や、地球環境、動物愛護など、主張する意見はさまざまな分野におよんでいる。(*1)社会の体制や、自身の闇について歌っているラップが多いが、文字通りフィール・グッド(feel good)と、ポジティブな意味合いが込められたラップを歌うアーティストのことケヴィン・デイヴィス:ボディポジティブ ファッションブロガー(左)キンバリー・ドリュー:アートキュレーター & 反人種主義活動家(右)・KELVIN DAVIS(ケヴィン・デイヴィス):ボディポジティブ ファッションブロガー・KING PRINCESS(キング・プリンセス):ミュージシャン & LGBTQ活動家・NOOR TAGOURI(ノア・タゴウリ):リポーター & 政治活動家・CHELLA MAN(チェラ・マン):アーティスト&トランスジェンダー活動家・A.CHAL(Aチャル):ラッパー & 活動家・XIUHTEZCATL MARTINEZ(シューテズカトル・マルティネス):環境活動家& ラッパー・CARLOTTA KOHL(カーロッタ・コール):アーティスト & フェミニスト・EZINMA(エズィーマ):ヴァイオリニスト & 活動家・KIMBERLEY DREW(キンバリー・ドリュー):アートキュレーター & 反人種主義活動家・KYLE(カイル):フィールグッド・ラッパー・MADAME GANDHI(マダム・ガンディー):ミュージシャン & 女性権利活動家・TOPHER BROPHY(トファー・ブロフィー):インフルエンサー & 動物愛護家エズィーマ:ヴァイオリニスト & 活動家(左)カーロッタ・コール:アーティスト&フェミニスト(右)環境にも人にもいいプロダクトとはまた、Gapは先ほど紹介した新たなコンセプトにとどまることなく、環境や人に優しい取り組みを実践している。称して“Gap for Good”というらしい。当ブランドのアイコンともいえるデニムの加工過程では、地球環境に配慮して水の使用量を20%抑え、なおかつ、柔らかく体に合わせてフィットする心地よい生地に仕上げる洗い加工技術「Washwell(ウォッシュウェル)」を導入している。さらにベター・コットン(*2)という、人の健康や地球環境、生産者の労働環境に配慮した生産方法で作られたコットンを使っていく動きがあるなど、地球環境や、消費者、生産者の健康面においてより持続可能性の高い製品づくりに向けて当ブランドは動いている。2021年までにはGapのプロダクトすべてに使われるコットンをベター・コットンにする目標を掲げているなど、持続可能性を追い続ける動きは止まらない。(*2)ベター・コットン・イニシアティブ(BCI)という、人の健康や地球環境、生産者の労働環境を配慮してコットンの生産をしていくことを推進しているプログラムのもと、一定の基準を満たしたコットンのことチェラ・マン:アーティスト&トランスジェンダー活動家“Good”の連鎖世界的カジュアルファッションブランドGapがこのような動きを見せているのは、ファッション産業だけではなく、その枠を超えて、人々がさまざまな分野において倫理的な考え方や持続可能性に対する意識をもつことを大きく広げるきっかけになるのではないだろうか。Gapのオプティミスティック(*3)な世界観も、地球規模で考えた“いいこと”への動きがあってこそより色濃いものに感じられるのだろう。飲み水をとることさえもままらない人、自身が持つ性別への観念が人々に当然のように認めてもらえない人など、いまだに生きているなかで享受できて当たり前に思える行為や権利から離れた人が数多く存在する現状がある。ぜひ、身近なところから“いいこと”に挑戦していってほしい。最後には“Good”があなたのもとに還ってくるはずだから。情けは人のためならず、は本当かもしれない。今秋はそんなポジティブマインドを備えたGapの「Good Creates Good」な一着をどうだろうか。(*3)物事を明るく、いい方向に考えるような考え方を表すGap(ギャップ)Website|Facebook|Twitter|Instagram1969年にサンフランシスコで生まれたGap。世界で最もアイコニックなアメリカンカジュアルスタイルブランドである。ベーシックなアイテムを基盤にトレンドを落とし込んだデザインが施されているのが特徴。現在、世界中でおよそ1600以上のストアでカスタマーと関わり続けている。Gap FALL2018 グローバルキャンペーン「Good Creates Good」Good Creates Good – Goodは拡がる。 Goodなプロダクト。Goodなフィット。地球にもGood。 使用する水量を抑え、持続可能な素材を用いることで生まれる好循環。 そのGoodは、また戻ってくる。 今シーズン、Gapでは、さまざまな分野で活躍する活動家をフィーチャーし、Goodなフィットで環境にもGoodな商品をお届けします。
2018年08月30日こんにちは、車椅子ジャーナリストの徳永 啓太(とくなが けいた)です。ここでは私が車椅子を使用しているマイノリティの一人として、自分の体験談や価値観を踏まえた切り口から“多様性”について考えていこうと思っています。今回は、私の価値観と取材対象者さまの価値観を“掛け合わせる”、対談方式の連載「kakeru」の第4弾です。様々な身体や環境から独自の価値観を持ち人生を歩んできた方を取材し、Be inspired!で「日本の多様性」を受け入れるため何が必要で、何を認めないといけないかを探ります。今回は「みせる」です。2018年1月からこれまでに7回、カワイイモンスターカフェで開催された“生き様ナイト”と題したバーレスクショー。そこで小人バーレスクとしてパフォーマンスをするちびもえこさん。前例のない小人バーレスクとして、人前で“見せる”そして“魅せる”ことをなぜやろうと思ったのか。これまでの経験や考えを本人にうかがいながら、彼女の魅力について紹介したいと思います。スタイリストを目指して上京ちびもえこ:中学の頃からスタイリストになりたいと思っていて、高校はファッションコースのある学校を選びました。おしゃれに興味を持ち始めた頃、自分の丈に合った服がなかったり着たい服が着られないという現実を痛感し、この悔しさをどうやって昇華しようか考えたときに、世の中にある素敵な服や自分が着たいと思う服を自分以外の人に着せようと思ったのがきっかけです。そして18歳でバンタンデザイン研究所のスタイリスト科に入学しました。徳永:専門学校に進むことを選んだのはやはり、ファッションが好きだったからですか?ちびもえこ:好きでもあったけど中学のときに痛感した現実に対して見返したいという気持ちが強いかもしれません。ファッションも好きですが反発精神の方が強かったので職業にしたいと思いました。本当に好きなものに関しては受け身でいたいタイプですね。徳永:そうでしたか。スタイリストは裏方のお仕事ですよね。今みたいに人前へ出るようになったのはいつ頃からですか?ちびもえこ:2016年の夏ごろには本格的にスタイリストを目指していたけど、もしなることができなかったらどうしようと考えていました。 そのころ、今まで知ろうとしなかった、私と同じ境遇の方はどういうお仕事に就いているのだろうと想像を巡らすようになったんです。ネットで検索するとモデルやイラストレーターとして活躍されている後藤仁美さんのお名前が上がってきて、彼女が色々情報を発信していらしたので、そこで初めて同じ境遇の方について知りました。そこからNHKのバリコレ(バリアフリーコレクション)という身体障がい者をモデルとしたファッションショーがあることを知り、とりあえずやってみようと思い応募しました。それにモデルとして受かって表に出たのが一番最初です。その経験から小人をモデルとしたファッションショーをやっている海外のデザイナーさんからオファーがきたりしましたが、特に専門学校在学中はそれ以上表に立つことはなかったですね。徳永:なるほど、小人モデルという要素だけではなく、自分の身体と向き合ってできたパフォーマンスとが合わさって魅せれるようになったから今のもえこさんがあるということですね。レスリー・キーさんの撮影がなかったら今のもえこさんはなかったということですか?ちびもえこ:そうですね。バーレスクは考えたことなかったですね。今を思えば自分の身体と向き合ったきっかけでもあります。これまで向き合ってこなかったので。バーレスクのイベントは私が出演する前からカワイイモンスターカフェであって、「そこに出ないか」とお誘いを受けて2018年1月から出演しています。オファーを受けたときはさすがに全部脱がないだろうと思っていましたが、結果脱ぎましたね(笑)「小人バーレスク」という新たな表現徳永:8月10日に行われた「生き様ナイト」で、7回目のバーレスクショーになりましたね。僕は最初に見させてもらったときにとても衝撃を受けました。小人バーレスクを見たことがなかったのもありますが、もえこさんの脱ぎっぷり、バーレスクらしい妖艶な雰囲気を醸し出していたことがとても新鮮に見えました。ご自身としてはいかがですか?ちびもえこ:初めの頃はとにかく勉強でした。バーレスクの存在は知っていたけれど、これまで見たことがなく右も左もわからなかったし共演させていただくKUMI(くみ)さんとIG(あいじ)さんはプロのポールダンサーの方なので緊張もしました。KUMIさんから振り付けを一から教えていただいたり、衣装なども全てコスチュームデザイナーの方にお借りしたり、メイクも教えてもらったり、本当に周りの方のお力をお借りして立たせていただきました。また小人バーレスクを見にきてくださるお客さまの反応もわからなかったので、本番は教わったことを全力でやりきるのに徹していたんです。そうやって初回から3回目まではいわゆるバーレスクの王道の衣装だったり演出をやらせてもらいましたが、お客さまの反応も少しずつわかってきたところで私なりの表現ってなんだろうと考えるようになりました。その頃、もともと単独イベントではなかったこのイベントが単独イベントとして開催させていただけるようになり「生き様ナイト」として始まったのです。私の生き様とは、と考えるようにもなりましたし、そのタイミングで共演者のIGさんが「海外のテレビでバーレスクは少しの笑いが必要と言っていた」とおっしゃっていたんです。さらにその言葉を踏まえた上で、その頃バーレスク界の大先輩の方が定期的に開催しているイベントに呼んでもらって初めて自分の身内がいない空間でパフォーマンスする機会をいただき、リアルなお客さんの反応も感じました。そしてその時初めて生でプロのバーレスクダンサーさんのパフォーマンスを見させていただいたんです。本当に感動しました。何よりもお客さんが楽しそうでみんなが笑顔の空間でした。そんな様々な出来事が重なり価値観が変わり、自分のパフォーマンスでも取り入れようと思って、自分の身体を見て皆さんに笑ってもらえるような演出をしたこともありました。徳永:表舞台に立つことで誰かに影響を与えることが増えてきたと思います。今だからこそ聞きたいのですが、世間や同じ境遇の方に伝えたいことはありますか?ちびもえこ:小人に対する固定観念を覆したいですね。この身体で生まれたことをかわいそうと思われがちだと普段から感じています。私がバーレスクとして脱ぐことでこの身体を見て欲しいというよりは、この身体でしかできない表現があると思っていて。“かわいそう”ではなく“羨ましい”と感じてくれたらおもしろい世の中になりそうですよね。なので同じ境遇の方だけじゃなくて世間一般に向けて発信したいと思っています。徳永:今回私の意見だけでなく、パフォーマンスを見ていた観客や関係者の方にもえこさんについてコメントをいただきましたのでご紹介いたします。もえこさんの固定観念を覆したい気持ちが伝わっているようです。・もえちゃんの素晴らしいところは小人で生まれてきたことですね。それと彼女はすごくポジティブでいつもパワーをもらっています。・ショーに登場しただけで他にはないものをもうお持ちです。私はいわゆる一般の体型をしているから身体一つで魅せれるかと言われればできないので、もえちゃんの存在はずるいなと、もちろんいい意味で武器だなと思いますね。・回数を重ねていくことに色気が出てきて素敵です。友達を連れてきたことがあるのですが、もえちゃんの方がよっぽどバーレスクだと言っていました。もえちゃんの良さは初めてバーレスクを見る方でも楽しめると思います。・もえちゃんは「なんでこの身体なんだろう」じゃなくて「むしろこの身体を選んで生まれてきたのよ!」って気持ちで踊ってます。見た目は最初だけであとは中身なので今後ともよろしくね!Keita Tokunaga(徳永 啓太)Blog|Instagram脳性麻痺により電動アシスト車椅子を使用。主に日本のファッションブランドについて執筆。2017年にダイバーシティという言葉をきっかけに日本の多様性について実態はどのようになっているのか、多様な価値観とは何なのか自分の経験をふまえ執筆活動を開始。
2018年08月29日「服をただ着るのではなく、マニフェスト(宣言)として着よう」。そんなモットーを持つBe inspired!の編集部がセレクトしたブランドの詰まった「人や環境、社会に優しく主張のあるWARDROBE(衣装箪笥)」を作り上げる連載、『GOOD WARDROBE』。ーNot From Concertrateではどんなものを売っているの?すべての商品がビンテージの服をもとに作ったものだよ。大量に集めたビンテージの洋服に、どうやって新しい命を吹き込むのか相談して、アップサイクルしてる。ー洋服をカスタムして新しい服を作るうえで「リメイク」ではなくて「アップサイクル」と呼ぶのはなんで?洋服においてアップサイクルってどういう意味?ファッション業界とサステイナブル業界で認知されている言葉がアップサイクル。生産された服は人間の生態システムの一部であり、常に進化していくもの。アップサイクルは、服が着られたあとの段階(aka ゴミ箱行き)にたどり着く前に、もともと作られたときよりもいいものにすることを目的としてる。リメイクはそのプロセスのこと。「アップサイクルするために、リメイクする」って感じで。ー服がアップサイクルされるプロセスについてもう少し詳しく教えて。たった今もしているところなんだけど、生地を切るところから裁縫まで私たちが全部手でやってるよ。さくらんぼ柄のジャンプスーツとリバーシブルのレインコートもそうだけど、私が服に絵を描くこともよくある。バナナジーンズはカイ。カイはミシンを使うのがすごくうまいの。手作業の工程がたくさんあるんだ。でも、今後はビンテージの生地を使ってプロに頼んで生産を拡大していこうって話にもなってる。ーブランドのスタイルへのインスピレーションはどこからくるの?見た目の面では、滑稽でカラフルであることがすごく大事。私たちが作りたいのは、ハッピーで楽しくて、同時に実用的で着やすいもの。ーどうして「ファストファッションの値段」であることが重要だと思う?「安いものを買う」=「ファストファッションみたいに倫理的じゃない」ってイメージを変えたいの。でも、全部手作りだからすっごい大変。今後他のところとコラボレーションとかして生産を拡大させたら、値段設定は高めにしないといけなくなるのが正直なところ。やっぱりそう考えると、値段があれだけ安いファストファッションってどうやってるんだろうね。こわいよ、実際。ージッパーとかファーを、POC(ピーポー・オブ・カラー=非白人)の女性が経営しているビジネスからだけ買うのはなぜ?ファッション業界の生態系を考えると、すべての段階において“ヘルシー”であることが私たちの責任だと感じているから。ファッションってこれまではエリート階級の白人が、大きなビジネスレベルでやるものだったでしょ。社会的に立場が弱い人や経済的に恵まれていない人たちにも参加してもらって、そのシステムを壊そうとしてる。ー刑務所でファッションのワークショップを行っているのもその一部?繰り返しになるけど、忘れられがちなファッションのすごいところ(自己表現、アイデンティティの形成、楽しい色彩)を、服従を強制されて、可能性が制限されているような場所で広めるのが私たちのミッションだから。刑務所って全然クリエイティブさがない場所でしょ。▶︎これまでの『GOOD WARDROBE』・#011 “意識が高い”ことはクールなこと。ファストファッションの代替案を目指すカナダのフェアトレードブランド・#010 「ソーシャルメディアは精神面によくない」。現代人のSNSの使い方を皮肉ったファッションブランドとは・#009 「マス受けは望まない」。消費者と環境と“ワタシ”のために服を作る英国ファッションブランド▶︎オススメ記事・「今の時代、性別は一人ひとり違っていいはず」。アートやファッションで「多様な性のあり方」を発信する18歳・#018 日系アメリカ人家族の心の傷を漫画化。マイノリティの歴史を記録に残すことの大切さを訴えるアーティスト|GOOD ART GALLERYAll photos via Not From ConcentrateText by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年08月27日中東・レバノンの首都ベイルートである日起きた二人の男の些細な口論。それをきっかけに悪化していく衝突のなかでこぼれ出た、「許されざる侮辱の言葉」と暴力。このいざこざが裁判へと持ち込まれ、国中を巻き込む騒乱へと発展していく物語を描いた映画が『判決、ふたつの希望』である。第90回アカデミー賞ではレバノン史上初めて外国語映画賞にノミネートされ、主演男優の一人であるパレスチナ人の俳優カメル・エル=バシャは第74回ベネチア国際映画祭でパレスチナ人として初めて最優秀男優賞を受賞した。8月31日に日本での公開を控え、同作の監督ジアド・ドゥエイリ氏が来日。今回Be inspired!は憲法学者の木村草太氏を迎え、この法廷劇に込められた思いについて監督にうかがった。ジアド・ドゥエイリ氏(左)と木村草太氏(右)許されざる侮辱の言葉きっかけは些細なことだった。レバノンの首都ベイルートの住宅街で違法建築の補修作業を行なっていたパレスチナ人の現場監督ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)はあるアパートのバルコニーから水漏れしていることに気がつく。流れ落ちてくる水が従業員の作業の邪魔となるため、彼は補修作業の許可を取りにそのバルコニーの持ち主の部屋を訪れた。しかし、そこに妊娠中の妻と住んでいるレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・カラム)は横暴な態度で修理を拒否。そこで外から勝手にバルコニーを修理すると、トニーは激怒し直したばかりのパイプを壊し、それを目撃して不快に感じたヤーセルは「クズ野郎」と罵声をトニーに浴びせてしまう。トニー(左)とヤーセル(右)トニーはヤーセルの上司であるタラール所長に謝罪を求めて猛抗議をしたため、タラールがヤーセルを説得し、ヤーセルは渋々と謝罪をするためにトニーのもとを訪れる。しかし、そこでも口論が勃発。トニーは「許されざる侮辱の言葉」をヤーセルに浴びせ、それを受け我慢しきれなくなったヤーセルはトニーを殴り肋骨を骨折させてしまう。この暴力が決定打となり、些細なことから始まった二人の男の衝突は舞台を裁判所に移し、それを聞きつけたメディアが大々的に報じたことから、この裁判の行方は国中を巻き込む暴動へと発展していく…。自分と逆の立場の人物を描く主人公の二人はまっすぐで正直という点では似ているが、言うなれば正反対の存在。トニーは、マロン派のキリスト教徒(レバノン国内のカトリック系キリスト教徒)のレバノン人で、ヤーセルはスンニー派ムスリム(イスラム教徒の人口の約90パーセントを占める多数派の宗派)のパレスチナ人。レバノンの歴史において対立関係をもつ属性を持った二人だったのである。些細なことで始まったこのいざこざは、二人の属性の衝突だったというのが正しいであろう。というのも、レバノンでは1975年から1990年まで内戦が続き、この内戦において右翼的なマロン派のキリスト教と左翼的なムスリムは政治的にも宗教的にも対立していた。さらに、1970年以降、ヨルダンによるパレスチナ解放機構(PLO)追放を理由に、増加したレバノンへのパレスチナ難民に対しても両者は対極的な意見を持っていた。「パレスチナ難民がレバノンに問題を持ってくる」というのがマロン派のキリスト教のなかでは主流の見方だった。トニーがヤーセルに浴びせる「許されざる侮辱の言葉」にも、この歴史がからんでくる。ドゥエイリ監督と元妻ジョエル・トゥーマ氏によって書かれたこのトニー(マロン派のキリスト教徒)とヤーセル(パレスチナ難民)というキャラクターの抱える、レバノンの歴史を体現するような対立関係には、二人の生い立ちが反映されている。ドゥエイリ監督の両親は、監督が幼い頃から熱心にパレスチナ難民の権利のために闘ってきた左翼的なムスリムで、トゥーマ氏の両親は極右のキリスト教徒だった。ドゥエイリ監督:この物語を書き始めた当初は、自分の過去と向き合い直す必要がありました。私は左翼的で武闘派の家族のなかで育ちました。1975年当時のレバノンではキリスト教徒たちがマジョリティで、右翼的でした。要は左翼的な両親にとってはキリスト教徒たちが最大の敵。従兄弟3人は闘いのなかでキリスト教徒に殺されました。内戦が始まったとき私は12歳。人間性が形成される時期です。だから教会に行ってものを壊したり、盗みを犯したりしました。近所の人が敵側のスパイかと思い密告をしたこともあります。戦争とはそういうものでした。それとは対照的に、極右の両親によって育てられたトゥーマ氏はパレスチナ人を「敵」だと教わって育った。しかし、興味深いのは、ドゥエイリ監督とトゥーマ氏は、自身と似た立場の登場人物ではなく、「自分たちと逆の立場の人物を描くことにした」そうだ。つまり、ドゥエイリ監督はトニーや、トニーを弁護する右翼的な弁護士を描き、トゥーマ氏はパレスチナ難民であるヤーセル、そして彼を弁護する左翼的なレバノン人の人権派弁護士を描いた。ジアド・ドゥエイリ氏この映画の脚本は、書き手が現実の世界で憎悪の対象である、本来敵である人の立場に立って書かれた。それぞれの人物を形成するのには、過去の敵を理解することが不可欠となる。ドゥエイリ監督とトゥーマ氏が自身の過去を乗り越えてそれを行ったからこそ、この映画の終焉には題名通り、「ふたつの希望」がみられるのかもしれない。レバノンの強き女性たちの肖像木村氏:映画を観ていると男性陣が自分の善意に素直になれないさまが描かれていたと思います。人にいいことをすると弱くみられるのではないか、そんな不安を感じて、思った通りに行動できず、話がこじれてしまう。それに対して女性は非常に素直という対比がありました。木村草太氏そう木村氏が指摘する通り、強い女性たちの姿もこの映画の見所である。ドゥエイリ監督の母親は弁護士で、法廷のシーンを監修したそうだ。さらに、思想的な面でも彼女は彼に大きな影響を与えてきた。ドゥエイリ監督:外交的に物事を収めようとすると父とは対象的に、私の母はラディカルでいつも闘っていた。彼女は弁護士で、女性の権利のために今日まで活動を続けています。私はそんな母に強く影響を受けました。だから作品に出てくる女性たちは登場人物の男性たちとは対象的に人に対する理解があるなど人間味があって、物語にとっても重要な役割を果たしていました。ジアド・ドゥエイリ氏(左)と木村草太氏(右)憎しみの歴史をどう乗り越えるのか。あまりにもその歴史が悲惨だった場合、果たして乗り越えることはできるのか。複雑な歴史を持つ中東のレバノンを舞台に、普遍的な問いを投げかける今作。しかし、希望のみえない現実にも、人々が人間らしさを忘れなければ解決策はあるかもしれない、そんな希望を与えてくれるのが『判決、ふたつの希望』である。予告編※動画が見られない方はこちら『判決、ふたつの希望』Website8/31(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開© 2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS提供:バップ、アスミック・エース、ロングライド配給:ロングライド監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ脚本:ジョエル・トゥーマ出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャ2017年/レバノン・フランス/アラビア語/113分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/英題:The Insult/日本語字幕:寺尾次郎/字幕監修:佐野光子
2018年08月24日日本には400万社以上の企業が存在する。そこには、さまざまな思いを抱えながら日々働いている何千万人もの人がいる。そんな莫大な数の企業のなかから、「社会にいい影響を与える企業」に焦点を当て、個人のストーリーを通して、その企業のありかたに迫る新シリーズ『手前味噌ではございますが』。このシリーズでは、そこで働く人が思わず「手前味噌ではございますが…」と、心の底から情熱を持って話せるような企業のみを紹介していく。一個人として社会にどう貢献できるのか、どう消費をするべきなのか(どんな企業をサポートするのか)、どう働くか、そしてどう生きるか。もしかしたらそんな普遍的な質問への答えのヒントとなるかもしれない。第一回目は、カラフルさと華やかな香りで知られているUK発の化粧品・バス用品メーカー『LUSH(ラッシュ)』の日本法人、株式会社ラッシュジャパンで働く山下夏子(やました なつこ)氏に話をうかがった。夏子さんのストーリーを通して、LUSHという企業を知る。山下夏子さん掲げた理念を体現する人たちが集まる場所大学時代から「社会をもっといい場所にしたい」という思いを抱いていたという夏子さんは、法学部で国際政治や国際法を学んでいた。しかし、政治や法律の世界は対立した相手を否定することを避けられない。「片方がマイノリティとなり、マジョリティだけがハッピーな社会になってしまう」、勉強していくなかでそう感じ始めモヤモヤしていた。そんな思いを抱えたまま留学したアメリカで、持続可能なビジネスモデルを実現できる「サステイナブルなビジネス」という概念に彼女は出会う。気候変動、水資源の問題、森林伐採、生物多様性の減少など、人類が抱える課題にビジネスを通して挑戦していくことに興味を持ち始めたのも、この頃だった。私は社会を変えるような革命的なことを起こすタイプではないかもしれないけれど、「このままでいいのかな」って、何に対しても疑問は持っていました。アメリカから帰国後、就職活動の時期も近づいてきたある日、ショッピングをしているときに出会ったのがLUSHのノットラップ(風呂敷)だった。可愛いデザインに惹かれて購入したが、そのときもらったLUSHの小冊子「Lush Times」*1には、LUSHは資源を再生しながら原材料を調達していると何気なく書いてあるのが目に止まる。「日本にもこういう会社があるんだ」、アメリカ留学時代に触れたサステイナブルなビジネスを体現していた企業を日本で見つけ、それ以降、積極的にLUSHの開催する製造工場の見学や店舗で行われるトークイベントに参加するようになったという。そんなLUSHでの夏子さんの仕事は、メディアスタジオというチームで商品の裏側にある社会問題や声なき人々の声を伝えること。要はLUSHの編集部である。本国イギリスに続き、2017年にLUSH独自のメディアを立ち上げた日本チーム。LUSH(LUSH公式チャンネル)、Lush Kitchen(コスメの舞台裏)、 Lush Times(社会問題に焦点を当てたジャーナリズム) Soapbox(声なき声の発信), Gorilla Arthouse(カルチャーとアート)、 Lush Life(生活に関わるライフスタイルとカルチャー)の6つのチャンネルを設けている。夏子さんはそのなかでも主にLush TimesやLush Life、Gorilla Arthouseで執筆を担当し、「語られることを必要としている物語」を世の中に発信し続けてきた。これまで山口県・上関原子力発電所を取材で訪れ地元の人の声を記事にし、全国の店舗で建設中止を求める署名活動を先導したり、青森県のレインボーパレードに参加し、LGBTQ+コミュニティの声を発信、LUSHとしての彼らへのサポートを示したりしてきた。「仕事何してるの?」って聞かれて、特に大手に勤めていると会社名で答える人って私の世代に多い気がするんです。でもそれって本当に仕事なんだろうかって、それって会社の名前じゃんって思ってて。私はラッシュで働いていますが、自分の仕事はライターであり、それに誇りを持っています。”会社がそうだから”ではなくて、世の中に伝わるべきだけれど伝わってないことを、自分が届けたいと心から思って日々チャレンジを続けています。シンプルだけど大切な、LUSHの軸となるもの化粧品が大好きだからって他のブランドに入っていたら、もしかしたらそこは動物実験をしているかもしれない。正しくないと思っても、仕事だからしょうがないってやらなきゃいけないかもしれない。でもLUSHでは自分が嫌な思いをすること、信じていないことをやらなきゃいけないって状況には絶対にならないんです。「社会に出たら…」「現実的に考えれば…」などの、よく耳にする“大人の決まり文句”。社会人になると、まるでそれまでとは違う生き方を期待されているかのように感じた人もいるかもしれない。だが、「小学校で習った道徳を忘れない」といった非常にシンプルな軸を持って成功しているLUSHの存在が、ビジネスのありかたを、そして個人としてのありかたを考え直させてくれる。LUSH(ラッシュ)Website|Facebook|Youtube|Instagram
2018年08月23日アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。筆者も昨年ナイロビを訪問した時に彼のレストランを何度か訪れました。もともとはナイロビで出会ったフォトグラファーの同級生ということでレスを紹介してもらったこともあり、彼の料理に対する思いや、おすすめメニューについて直接話を聞くことができました。ナイロビでも食の選択肢が増えてきてはいるものの、ローカルフードとなるとカジュアルなものが多かったり、少しおしゃれな空間のレストランとなると欧米風になりすぎていたりと、ローカルとグローバルの2つの要素をバランスよく組み合わせて提案している場所は、まだ多くありません。そういった提案をしながらシェフとしてのキャリアを積んでいるレスは、パイオニア的存在の一人です。彼がなぜナイロビ、ケニア、アフリカの食にこだわるのか。モダンなアフリカ料理という新しいフィールドを切り開こうとする彼の、これまでの軌跡や価値観は、日本でも新しい挑戦をしたいと考える人にとってのインスピレーションになるのではないでしょうか。シェフは天職。6歳のときにはすでに料理に惚れ込んでいたマキ:素敵だね。最初に出会ったシェフ以外にもロールモデルはいたのかな。レス:キャリアのいくつかのステップにおいて、ロールモデルがいたよ。シェフを真剣に志し始めてからいろんな師匠に出会ったけれど、その中でも特に僕にとって重要な人物は、当時ケニアでフェアモントホテルグループ(カナダに本社があるラグジュアリーホテルグループ)のレストランの総料理長を務めていたシェフ、カラン・スリ氏。マキ:ケニアの外食産業は、まだまだ成長期にあると思うけれど、著名なシェフたちも増えているのかな。レス:ケニアにも卓越したシェフたちはいる。ただ、グローバルには知られていないというのが現状。つまり、グローバルレベルで、影響力がある「インフルエンサー」の域にはいない。「単に欧米のやり方を追随することはしない」他のシェフとは違う道をマキ:若くして料理長を務めるシェフという意味で、ナイロビにおけるレスの活躍はパイオニア的にも思えるけど、自分ではどう思っているの。レス:自分のことはパイオニアだとは思ってないよ。どちらかというと、業界におけるキープレーヤーだと思っている。自分がケニアやアフリカの食における革命を起こしているという意味において。他のシェフたちがやっているみたいに、いわゆる主流のフレンチとかイタリアンとかの欧米のジャンルを追いかけることはしない。マキ:グローバル化した市場において、人々が自らのカルチャーではなく他のものに惹かれるというのは、稀な現象ではないとは思う。ただ、過去に話したケニアのファッションブランドの起業家たちも言っていたけれど、ケニアにおいては、ケニアブランドやローカルのものよりも外国のものの方がいいとする傾向がまだ強いみたいだね。でもレスが手がける「Nyama Mama」のメニューは、ローカルの人々にも受け入れられ始めているよね。レストランの代表的なメニューについて、説明してもらえるかな。レス:ウガリ・フライというメニューは典型的なフュージョン。(ウガリとは、トウモロコシの粉とお湯で茹でて、マッシュポテト状にしたもので、東アフリカや南アフリカの主食として親しまれている。日本食における白米のような位置づけ)つまり西洋料理の影響とローカルな素材を組み合わせて、誰もが親近感を持てるような料理にした。一方で、ケニアの伝統素材を使っているとはいえ、現地の人にとってもユニークな提案になってると思う。ウガリは、そのままウガリとして食べるのが普通で加工されたことはなかったからね。ピューレ状にして、チーズを混ぜて、揚げるといったように、ウガリをまったく違うものにして提案するということが、新しい。Instagramより他にも、ケニアで伝統的に食されているフラットブレッド「チャパティ」をトルティーヤの代わりに使って、南アメリカのラップやケサディア風にした料理もある。Instagramよりマキ:結果としては単純なことかもしれないけれど、今までになかったものを作るというのは挑戦であり、エキサイティングなことだね。最後に、ケニア料理をもっと世界に広めていくには、どうしたらいいと思う?レス:まずはケニアを訪問してもらうこと。そして地元の人たちが食べているものを見てもらうことかな。そして「Nyama Mama」のようなレストランに来てもらって、地元の料理を、新しい形に変えて、もっと親しみが持てて、面白い、楽しい料理として提案しているというやり方を見てもらいたいな。マキノマド・ライターMaki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。
2018年08月22日豊満な肉体をもつ裸のキャラクターが互いにからまり合い、キャンパスいっぱいに描かれている。トロント在住のNess Lee(ネス・リー)の描く絵画には、見るものを惹きつける強さを感じる。カナダ人であるネスのルーツは客家人(中国の漢民族)にある。客家人という自身のルーツを追い求める彼女のアートは多民族国家であるカナダやアメリカで高く評価され、トロントのクイーン・アンド・ショー通りとチャーチ・アンド・ダンダス通りに描かれた壁画はNetflixの人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』と提携し制作したそう。また、ネスの作品のなかで、相撲や寿司など、日本的な要素を取り入れた作品も多く見られる。新進気鋭のアーティストである彼女は一体どんな思いで作品を作っているのか、そして日本をどう見ているのだろうか?溢れ出す疑問を彼女にぶつけてみた。ー以前のインタビューで、ネスは客家(漢民族の一支流で独自の言語や文化を持つ)系カナダ人として強いアイデンティティを持って作品を作っていると語っていましたよね。そうした民族意識は作品にどのような影響を与えているのでしょうか?大人へと成長する過程で民族意識が育たなかったからこそ、客家人のアイデンティティが私の作品に大きな影響を与えたのだと思います。文化的、性的、身体的に客家人としての自覚を持ったり、自信を持てたことがなかったんです。創作活動を行うなかで、私は客家人としての自分自身に触れ、そのための空間を心の中に作りました。客家人のアイデンティティを表現することで、私は客家人としての自分を取り戻し、自分の価値を見いだすことができたのです。ー以前、日本文化に影響を受けていると語っていましたが、日本文化のどのようなところに惹かれたのですか?鑑賞する側として、日本のエロチカアートである春画が大好きです。線画の時代から、スケッチ、絵画まで、美しい流れがあって素晴らしい。以前、相撲にまつわる絵を書いていたことも、こうした日本文化への関心が影響しています。日本には何度か行ったことがあって、そこで過ごした時間もとても愛しく感じています。意識的に、自分の民族意識やジェンダーを決めるのではなく、様々な表現技法でありのままの自分を描くなかで、表象される自分を探求する、という彼女の作品は、強烈なイメージを持ちながらも、自然で、心にしっくりと馴染む。それは、彼女自身が、様々な型にはまっていないからなのかもしれない。Ness Lee(ネス・リー)Website|Instagram
2018年08月21日こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。▶︎山脇 耀平インタビュー記事はこちら今回紹介したいのは、矢部 亨(やべ とおる)さん。宮城県塩竈市(しおがまし)で、日本茶や急須の魅力を伝えながら販売している「矢部園茶舗(やべえんちゃほ)」を3代目として営んでいます。情熱を持って仕事に取り組む彼に、日本茶の奥深さや塩竈のことを伺いました。矢部 亨さん日本茶を語る上で欠かせない急須「良い急須は立つんです」。インタビューが始まって早々、矢部さんはそう口にした。急須の取っ手部分を地面と垂直に立たせた時、倒れずに立つのが良い急須の証拠であるという。作り手の個性によって一つひとつ形が違うとされる急須は、矢部さん曰く「日本茶を語る上で欠かせない存在」である。日本茶をいれる道具である急須は、ヨーロッパのどんな有名な陶芸家にも作れないと言われている。それはなぜか。ヒントは網の部分にあります。急須の作り方は簡単に言うと、粘土を形づくり、素焼きし、表面を塗装する工程からなるのですが、急須の内側にある、茶葉をこす網部分は、素焼き前の粘土に穴を開けることで作るんです。実はこの穴が、素焼きによって2割ほど縮んでしまう。なので、あらかじめ縮みを計算した上で穴を開ける必要がある。この技術は実に難しく、熟練した職人でないと作れないと言われている所以です。「手が覚えている」という言葉にあるように、1gも違わずに想定の分量だけ粘土を持ち上げられる職人の手。彼らの技能を駆使して作られる急須にはさらに、日本茶を美味しくする上での化学的な裏付けもあるという。急須の色といえばよく黒を想像すると思うのですが、実は焼く前の色は赤。黒くなっているのは、”還元焼き”という酸素を締め出した状態で焼いているからなんです。この焼き方は、釜を痛める代わりに急須の粘土を酸化鉄にしてくれる。酸化鉄は日本茶に含まれるタンニンと化学反応することで、まろやかな味わいにしてくれるという効果があり、すなわち黒い急須というのは非常に理にかなった姿なんですね。誇りを持って一流に認められることインタビュー中、お店にあるさまざまな種類の日本茶をいれてくれた矢部さん。なぜ美味しいのか説明とともにいただくお茶は本当に絶品だった。2月4日の立春から数えて88日目、5月2日が「八十八夜」。その前後から茶葉の収穫をはじめます。茶の樹の新芽が萌芽してから一定の期間で新芽を見極め、1芯2葉(新芽の茎の先端部分に2枚の葉がついている状態)を手摘みするのが一番美味しい葉の摘み方。茶の新芽は摘んだ瞬間から酸化(発酵)がはじまるので、丁寧に取り扱うのが鉄則です。摘んだ後は、生葉を速やかに高温のスチームで蒸して発酵を止めます。そして形を整えながら段階的に乾燥をさせていき、旨みと香りを引き出していく。このように、茶農家が渾身の栽培をほどこした珠玉の茶葉を紡いで、最上の状態に仕上げていくことが、僕ら茶匠として茶農家への恩義なんです。お茶の面白さや奥深さを軽やかに話し続ける彼のルーツは、祖父が茶農家を始めた静岡。矢部園の創業は、矢部さんの祖父の代にあたる。静岡の相良(さがら)という町の畑でお茶づくりをしていた彼は、訳あって宮城県塩竈にたどり着いた。そこで6畳間の軒下を借り、自分が作ったお茶の行商をスタートさせたのが矢部園の始まり。昭和9年の創業から現在まで85年間、親子3代にわたって美味しいお茶づくりと、そのお茶を人々の元に届け続けてきた。僕も学生時代はアルバイトとして家業を手伝っていたものの、正直その頃は「日本茶なんてどれも同じじゃない?」なんて思っていた。でもやっぱり、農家だった爺さんの背中はずっと見てたんだろうな。結局継ぐことになって、しかも爺さんがよく口にしていた言葉をいつしか自分も話してるんです。大学卒業後一度は就職したものの、家業とともに祖父や父の想いを継いでいくことになった矢部さん。日本茶の魅力を届けるという仕事について、関わる人たちのことも自分ごととして考えている。僕はお客さんにお茶をおいれするときに、農家さんの背中が見えるくらい言葉を使って説明する。なぜこのお茶が美味しいのか。どんな工夫がされていて、誰が作っているのか。 それをきちっと伝えた上で、お客さんに喜んでもらって、喜んでもらえたということを、農家さんにも伝えに行く。生産者と消費者どちらか片方でなく、両方が満足できるように。 生産者が疲弊してしまって、作り手がいなくなってもだめ。消費者が日本茶にこだわらなくなって、良いお茶が求められなくなってもだめ。両方、大切なんです。矢部園のお茶は、JR東日本の寝台列車「トランスイート四季島」に採用されている。様々な旅程の中でシーン別に振る舞われるお茶として矢部園のお茶が飲めるのだ。四季島といえば、超一流シェフが腕を振るう高級列車。味覚に優れた日本人が誇りを持って提供する食事とともに矢部園のお茶が振舞われているという事実は、生産者の人たちにとっても同じく誇れることだろう。そういうふうに、日本茶の美味しさ・魅力を伝え、一流に認められる努力をすること。それが自分の仕事だと、矢部さんは語ってくれた。生産農家の目標になる夢をつくるのが僕の仕事。四季島での採用が決まった時は、正直涙が止まりませんでした。そしてすぐ生産者さんに電話したんです。「俺たちの努力が認められたぞ」って。美味しいお茶をつくるだけじゃなくて、ナンバーワンのところに認められないといけない。矢部さんからはそんな気概が感じられる。生産農家の確かな技術を持って、地方にいながらにして挑戦を続けている彼の目標は、四季島で矢部園のお茶を飲んでくれたお客さんが「来てよかった」と思い、塩竈のお店にも足を運んでもらうこと。「お茶しよ」ってコーヒー飲んでない?日本茶の美味しさをきちんと伝えるためには、お茶そのものにとどまらず、いれ方や出し方も大切にする必要があるという矢部さん。塩竈にある矢部園というお店が何よりのメディアとなって、矢部さんの暖かい人柄とともに、日本茶を魅力的に発信している。そんな矢部さんが考える日本茶の課題とこれからの展望とは何なのだろう。みんながお茶に期待をしていない。それがまず悲しいことです。「お茶で良いや」とか「とりあえずお茶」とか、お茶に対して使われるのはそういった言葉がほとんど。飲食店や休憩所にいけば無料で飲めますし、とにかく、みんながお茶をそんなもんだと考えている。生産農家さんが人生を賭けてお茶を作っていることを、僕は知っている。そのお茶の新鮮で希少な部位のみを使い、最も美味しくお茶が摘まれていることを、僕は知っている。そして何より僕自身が誰よりも誇りを持ってお茶を届けている。「ぜひお茶をお願いしたい」って言ってもらえるように、「ちょっとお茶しよ」って言ってコーヒーが飲まれないように、ただお茶を売るんじゃなくて、魅力を伝える。そんな生き方を僕はこれからもしていきたいです。正直な話、日本茶の生産量も消費量も減っている。インタビューの中で出た話は、決して明るいものだけではなかった。矢部園がある宮城県塩竈市は、東日本大震災で被害を受けた地域でもある。しんみりした話を聞く中で、泣きそうになりながら、それでも最後に笑えたのは、紛れもなく矢部さんの人柄があったからだ。明るくエンタテイナーで、お茶を飲む人を楽しませようとするその姿勢に、僕と同じく誰もが惹かれているのだろう。間違いなく一番前を向いていたのは矢部さんだった。グリーンて、Peace(ピース、平和)の色だよね文字起こしなんて必要なく、心に突き刺さっていたこの言葉。日本茶を愛することを通じて人を愛する。確かな覚悟を持った矢部さんの生き様は、今の僕にとって学ぶことが多すぎた。矢部 亨 / Toru Yabe株式会社矢部園茶舗代表取締役社長。1968年生まれ。塩釜市立第三小学校卒業。その後、東北学院中・高を経て東北学院大学経済学部へ進学。大学卒業後はイトーヨーカドーに就職。95年より株式会社矢部園茶舗に入社。現在は同社代表に就任し、美味しいお茶とその文化を地域に伝えている。お茶に関する資格試験「茶匠」取得。キャンピングカーで巡る47都道府県の旅のスケジュール第5回:2018年9月7日(金)〜9月12日(水)行き先:青森・岩手・秋田現地でのイベント情報は随時更新していきます!詳しくはTwitterをご覧ください。▶︎これまでのEVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」・#004 「何よりこれが一番自然な選択だった」。東京からUターン、宮崎で藍染師への道を歩む男の目指す場所・#003 「暮らしの延長に存在する仕事」を生み出す。“グルテンフリーの麺”で地域に貢献する29歳の男の思想・#002 「次世代に温泉を残すため」。1000ヶ所以上の温泉を巡った28歳の若女将が、“業界の問題”と闘う理由・#001 大阪生まれ、ヒップホップ育ち。ジモコロ編集長が「自分のため」に“誰かの地元”を愛情持って全国に届ける理由▶︎オススメ記事・「ホンモノの日本茶を飲んでほしい」。日本で世界へ向け「オーガニック日本茶の魅力」をクリエイティブに届ける若者。・日本人が知らない「お茶に潜む毒」の真実All photos by Eru AkazawaText by Yohei YamawakiーBe inspired!
2018年08月20日難民を支援している人の数は、どれほどいるのだろう。もし「難民のおかれた環境について知ること」を支援の一つに数えるなら、その数はあなたが想像するより多いかもしれない。2006年に始まった、日本で唯一「難民」を題材にした作品を集めた映画祭「UNHCR 難民映画祭」には昨年、一万人を超える人々*1が参加。今年は東京、札幌、名古屋の三都市で開催されるが、同様の人数の参加が見込まれるという。(*1)UNHCR難民映画祭で上映する作品の上映イベントを学校が主催者となって開催する「学校パートナーズ」という取り組みを通して鑑賞した人々を含む©UNHCRテーマは「観る、という支援。」昨年は「観なかったことにできない映画祭。」が主題であった同映画祭だが、今年は「観る、という支援。」をテーマに掲げている。上映される作品数は絞られたものの、ラインナップの特徴は、鑑賞者に難民の現状を身近に感じてもらえる作品を厳選していることだ。上映される作品全6本のうち、4本が日本初上映作で、2本が昨年以前のUNHCR 難民映画祭のアンコール上映作。ここでは、そのなかから3作品をピックアップして紹介したい。『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』(原題:Soufra)<日本初上映>© Lisa Madisonレバノンの難民キャンプで育ったパレスチナ難民のマリアムが、難民で職のない女性たちとケータリングビジネスを始めようとクラウドファンディングに挑戦するドキュメンタリー映画。食欲のそそられるパレスチナ、シリア、イラクの郷土料理の数々、そして何よりも彼女たちが現代的な手段を使って自らの生活を向上させていく姿が印象的な作品だ。『パパが戦場に行った日』 (原題:The Day My Father Became a Bush)<日本初上映>©Gregg Telussaパン屋を営みながら平穏な日々を送っていた親子の生活が、突然始まった紛争により一変するという、今年上映される作品のなかで唯一のフィクション作。父親は兵士として戦地へ向かい、娘は避難しようと一人で母親を訪ねることとなるが、日本の観客も「もし紛争が勃発したら、どうなってしまうのか?」と難民のおかれた現状を自らに置き換えて考えさせられるだろう。『異国に生きる ― 日本の中のビルマ人』(原題:Life on Foreign Land: Burmese in Japan)<アンコール上映>※名古屋での上映のみ©Masaya NODA1991年に軍事政権の弾圧から逃れるために、ビルマ*2から日本に渡ってきた青年の14年間を追ったドキュメンタリー作。日本で暮らすようになって20年経ち、念願のレストランを開業して生活を安定させた彼だが、祖国の民主化運動を諦めることはなった。祖国に戻って家族と暮らしたいと願う一方、民主化運動をやめるわけにはいかないという彼が何を考えたのか、日本に暮らすとあるビルマ人の現実を知ることのできる作品だ。(*2)日本ではミャンマーと呼ばれることが多い。ミャンマーは1989年に軍事政権がビルマから変更した呼称で、民主化運動に携わる人など軍事政権の正当性を認めていない人々には使われていない学校や企業、団体とパートナーに同映画祭は難民問題に対する理解をより多くの人にしてもらうべく、主催者となって上映イベントを開催する学校を募集する「学校パートナーズ」という取り組みを2015年に始めた。今年からは学校だけでなく企業や団体にもパートナーズの枠を広げており、できる限り直接的に、映画祭に来られなかった人にも難民問題を考えてもらえるきっかけを作っていこうと働きかけている。©Innerspeak Media知ることが、まず第一歩今年のUNHCR 難民映画祭のパンフレットには、こんな言葉が書かれていた。どうぞ、難民映画祭に足を運んでいただき、まずは観ることから、難民支援の輪に加わってください。「『観る』ということが、果たして支援になるのだろうか」と疑問に思う人もいるかもしれない。だが映像を通して当事者の置かれた状況を知るだけでも、少なくとも難民とならざるを得なかった人々に対する「支援の輪」へ加わることができるのだ。そう考えると、あなたが今年のUNHCR 難民映画祭で作品を鑑賞することも、支援への重要な一歩となる。UNHCR 難民映画祭 2018Website|Facebook|Twitter|Instagramパートナーズ募集についてはこちら<スケジュール>東京:2018年9月7日(金)8日(土)9日(日)@イタリア文化会館2018年9月29日(土)@グローバルフェスタJAPAN2018札幌:2018年9月29日(土)30日(日)@札幌プラザ2.5名古屋:2018年10月6日(土)7日(日)@名古屋国際センター※お申し込み、ご入場についてはこちら<主催>国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所、特定非営利活動法人 国連UNHCR協会<パートナー>独立行政法人 国際協力機構(JICA)
2018年08月17日BBQや宅飲みのテーブルにいつもと違う小洒落た彩りが欲しいという人に朗報がある。アウトドアシーンで活躍する製品を扱うPatagonia(パタゴニア)からオリーブオイル漬けされたムール貝の缶詰が発表された。…パタゴニアからムール貝?…と思った人もいるかもしれない。パタゴニアはアパレルを主に展開しているが、実はPatagonia Provisions(パタゴニア プロビジョンズ)という食品事業も存在しており、食品、飲料も提供している。そして同ブランドの考え方には、「最高の製品を作りながら、環境に与える悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを通して環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というものがあるが、このムール貝の缶詰にも環境改善に対する意識が強く反映されている。それは何なのだろうか。新製品「ムール貝オリーブオイル漬け」Photo by Amy Kumlerなぜムール貝を新商品として選んだのかパタゴニア プロビジョンズから、3種のムール貝の缶詰が発売された。価格は各993円(税込)、3種パック2,851円(税込)だ。この缶詰を発売した “パタゴニア プロビジョンズ”には、 パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードの「新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、一日三度の食事をする。我々が本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」という言葉が強く影響しているが、それはこの缶詰からも感じられる。ムール貝を養殖する際は、人間が餌を与える必要は全くない。貝自体で生命活動を維持できるからだ。このように人間の介入をほとんど必要としないため、ムール貝の生産においては、温暖化などの原因となり地球環境に悪影響を与えるような、生産活動にかかる二酸化炭素の排出を限りなく少ない状態を保つことが可能である。さらに、水を自身の身体を通してろ過することで水中にいるプランクトンなどを食べて成長し、海の栄養過多の状態を整えてくれるため、養殖する数が多いほど水質改善にも大きな役割を果たす。つまり、ムール貝は環境を汚染することなく、私たちにとって栄養素の高い食材(タンパク質、鉄分、ビタミンB12が豊富)になってくれるサステイナブルな海の生き物なのである。海中のムール貝Photo by Amy Kumler食材の生産と二酸化炭素排出の関係ここまでムール貝の話をしたが、普段食材がどのように作られて、何を使って、どのような影響を地球に与えて私たちの口に運ばれてくるのかを考えたことはあるだろうか。たとえば、牛肉や豚肉。育てるためには、十分な広さの土地が必要だし、餌の育成・調達や小屋の掃除、加工のプロセス、運搬などで水や電気、土壌、燃料などの資源を必要とする。また、牛の呼気、フンからは大量の強力な温室効果ガスや二酸化炭素の放出が見られる。この時点で、ロープに付着した貝たちをただ海の中で放置しておけばいいムール貝の養殖とのカーボンフットプリント*1の量の違いは明らかだろう。牛や豚よりもムール貝と生息環境の近いサーモンでさえも、餌を人間からもらう必要があるし、その餌を作るため、採るための資源コストの消費が大きい。牛肉1kgあたりを作るためには27kgあたりのCO2が排出され、豚肉は1kgあたり12kgほどのCO2を排出する。サーモンでは1kgあたり、12kgのCO2の排出が確認されている。(参照元:BUSINESS INSIDER)(*1)商品の原材料調達から廃棄、リサイクルまで全体を通して排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算して、数値化したものPhoto by Andrew BurrPhoto by Amy kumler食べ残しだけが食料問題ではないさまざまな食材の作られる裏側にはそれぞれに地球環境にまつわるストーリーがあることを、覚えておいてほしい。食材が作られて、人々の口に入るまでに輸送のために使われる燃料など、さまざまな資源が使われている。だからこそ食べる先にある環境への影響や、食べている食材のルーツなどにもっと興味を持ち、自身もその食物連鎖の循環のなかにいることを意識してもらいたい。環境全体として見たときに、食物を作るための資源の調達には、持続可能性を踏まえて行うことができるものと、できないものがあるのだから。少なくとも、このパタゴニア プロビジョンズの商品は食を通した持続可能性についてのヒントやきっかけを私たち人間に残してくれそうである。パタゴニア プロビジョンズWebsite|Instagram
2018年08月16日今日で終戦を迎えてから73年。忘れてはならない記憶が数え切れないほどある。今回GOOD ART GALLEYで紹介するのは、日系アメリカ人のアーティスト、Rosie Yasukochi(ロージー・ヤスコチ)。祖父母を含める日系の彼女の家族は、第二次世界大戦中、アリゾナ州のポストン戦争強制収容センターに収容されていた。当時アメリカにとって敵国だった日本。アメリカに住む日本人や日系アメリカ人は、当人たちのアイデンティティや思想は一切関係なく、アメリカ各地の収容所に強制収容されていたのである。ロージーの祖父母はその収容所のトラウマを彼女に伝えることはないまま亡くなった。アメリカの一般教育で行われる歴史の授業で淡々と事実として述べられる日系人の強制収容について、今も根強く残るアメリカの非白人に対する人種差別、自分のアイデンティティとは何か、自分自身を模索するためにロージーは収容所について家族にインタビューを行い、それを漫画にした。あまり語られることのない、戦中に“敵国”であるアメリカに生きた日本人や日系アメリカ人の歴史、現代まで続く人種差別について、彼女の作品や言葉から考えたい。ロージー・ヤスコチー自己紹介をお願いします。ロージー・ヤスコチです。アメリカのLAが拠点で、イラストレーター、ソーシャル・プラクティス*1アーティストとして活動してるよ。アーカイブ(保存記録)を非白人のコミュニティや他の社会的に無視されている人々のための「再生の手段」として提案してる。(*1)場所や社会的システム、人々と協同的に、社会的インタラクションを含むアートーいつ頃からアートを始めたの?小さい頃からユダヤ人のおじいちゃんと一緒にアートを作っていた。そういえば、おじいちゃんはすごく日本の水彩画が好きだったんだ。食卓のテーブルの上に電話帳を置いて、その上に私を座らせて水彩画を描かせてくれたのを覚えてる。私のアート活動に一番最初に影響を与えたのがおじいちゃんで、道具もだいたいおじいちゃんのを使わせてもらってた。私にとっては両親二人もアーティスト。本人たちは否定すると思うけどね。お父さんは木工細工に関心があって、いつもYoutubeでいろんな技を学んでいた。お母さんは若い頃にアートをやっていて、今でも家に作品が飾ってある。小さい頃、お母さんが電話で話しながら新聞に何気なく複雑な模様を描いていたのもよく覚えてる。お父さんのクラフトに対する態度と一緒で、お母さんは料理に対してもクリエイティブで、常に新しい技術や素材を試すタイプ。ー家族に日系人の強制収容についてインタビューしてそれを漫画にしていくなかで、強制収容所について一番ショックだったことはなんだった?ショッキングなことはあんまりなかったかな。っていうのも、腹立たしかったっていう方が正確な気がするし、正直失望したって気持ちの方が強いかもしれない。収容所について家族が話したがらないことはわかっていた。でも実際に収容所に対する家族が抱える疑問とか心情を聞いてみて、みんなが沈黙のなかで苦しんでいたと知ることは辛かった。ー自分の家族の歴史を学ぶことがロージー自身にどんな影響を与えたと思う?世間知らずだったかもしれないけど、自分と家族のトラウマについて学ぶことが自分の気持ちを楽にしてくれると思ってた。カタルシス*2を探していたんだと思う。何時間も収容所についての資料を読んだり、オーディオインタビューを聞いて自分のおじいちゃんやおばあちゃんがどんな体験をしたのかを学ぶことは簡単じゃない。とても重かった。普段は夢は覚えてないほうなんだけど、このときは核兵器の世紀末に自分がいるっていう悪夢をみて、汗びしょびしょで目覚めることも少なくなかった。そういう日は負のループに陥る。広島、長崎、北朝鮮、収容所、黄禍論*3、大統領令、ドナルド・トランプ…。でも、漫画を作ったり、大学の卒論でこのことについて研究したのは結局気持ちのはけ口になった。私は視覚的に考えるタイプだから、トラウマとか自分の感情や考えを視覚的なものにアウトププットできたのは一種の癒しになったんだと思う。(*2)モヤモヤから解放されること。「精神の浄化」ともいわれる。(*3)黄色人種脅威論ーどうして家族や親戚のトラウマについて学ぶことが重要だったの?他の非白人のコミュニティと同じで、日本人や日系アメリカ人にとって、メンタルヘルスについて話すのは難しいことなの。「しょうがない」ってやつでまとめられちゃうから。もう終わったことなのに話す必要ある?ってね。でもこういうことは話さない時間が長ければ長いほど、辛くなってその人に悪影響を及ぼす。不安症を抱える一個人としても、おじいちゃんおばあちゃんのメンタルヘルスについて学ぶのは、どうして今の自分が’こうなのかを理解する手助けになった。ーどうして歴史を学ぶのは大事なのだと思う?アメリカの学校の授業では、過去の失敗を繰り返さないように歴史を学ぶんだと教わる。繰り返さないなんて無理だと私は思ってるんだけどね。だから個人的に歴史は、人々がお互いを理解できるようになるために学ぶべきだと思う。私たち自身は気づいていないかもしれないけど、今の自分を形成するのに、世代を超えて影響しているものってたくさんある。特に、社会がどう自分(人種やジェンダーや階級など社会的に位置付けられた自分)をカテゴライズしているかとか。とっても単純なことなんだけど、人と良好な関係を築きたいなら、その人(そしてその人の社会的要素)の歴史を紐解くことって重要だと思うの。自分だけじゃなくて、他人のもね。もちろん、自分の歴史を知ることから始めるのはいいスタートだと思うけど。ーどうしてあなたの歴史をみんなと共有することが大切だったの?アーカイブ(保存記録)って聞くと、白人のおじさんかおばさんが図書館とかで資料を漁ってるイメージが私にはある。その資料っていうのは社会的に“記録しておく価値がある”、白人の歴史。でも私にとって、非白人コミュニティの人たちが家族の歴史を記録しておくことは、それが口頭伝承であれ、書き物であれ、伝統的な芸術であれ、すごくラディカルなことだと思うの。記憶を記録することって、特にトラウマの場合、自分の体験がちゃんと認識されているって感じれるし、癒しになる。だから私の場合は、日系人の強制収容について記録を作ることが同じようなトラウマを抱える他の日系人や、それ以外の人にとっての教育という意味でとても大切だったの。以下、ロージーの作品収容所について学びたいと思ったときにはおじいちゃんとおばあちゃんは、病気で話せる状態じゃないか、すでに亡くなっていた。ミックスとして、自分が想像する「自分がどう他人に見えているか」と、実際他人が自分をどう見ているかがマッチしたことはなかった。だって私の見た目から日本人と思われることはなかなかないから。子どもの頃から、自分のアイデンティティをいろんな方法で表現しようとしていた…仏教徒になった。日本語を学ぼうとした。もっとアジア人みたいな目に見えるようにメイクを工夫した。髪型も変えた。日本の芸術や音楽についてたくさん学んだ。とにかく日本人らしくなりたかった。でも今になってやっと、まずは自分のルーツについて、家族の歴史について学ばなきゃって気づいたんだ。そこから始まった…そこにはマカロニはないことも知っていた。そこにはプライバシーがないことも知っていた…▶︎これまでの「GOOD ART GALLERY」・#17 北朝鮮の本当の姿とは?英紙ガーディアンの記者・写真家が捉えた北朝鮮の“現実的な生活”・#16 持っている服を体にぐるぐる巻き。「自分の選択した服」が持つ意味を視覚的に考えさせる写真家・#15 「肌荒れって美しい」。ニキビに美を見出した女性フォトグラファーが、世の中の“美の基準”を再定義する▶︎オススメ記事・「多様性」と「差別」が混在する矛盾だらけのアメリカで生まれた「有色人種」というプライド。|アメリカで“日本人“として生きることとは。VOL.1・「日本人男性は生真面目で草食」。自分の性格に関係なく、アメリカで決めつけられてしまう日本人の姿。|アメリカで“日本人“として生きることとは。VOL.2All images and photos via Rosie YasukochiText by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年08月15日ベジタリアン(菜食主義)の一種、ビーガン(完全菜食主義)食を専門に提供する飲食店を経営する、株式会社エイタブリッシュの共同代表の清野玲子(きよの れいこ)さんは、あけすけに「人の生き方を否定するのってダサいですよね」と筆者に言った。超一流レストランからファストフード店まで撮影して回りましたが、日々飲食店を巡っていると、その裏側までよく見えてくるんですね。例えばある食品メーカーの方が言っていたんですが、「この粉末をハンバーグに混ぜるとこのぐらいコストカットできるんですよ」とか。そういう業務用食品の得体の知れなさを見聞きしまったから、一時期、一切外食ができなかったんです。仕事の付き合いなんかで飲食店に行くときは、野菜は下手な加工ができないだろうと思って、サラダしか食べないなんて、そんな毎日でした。その後いくつかの転職を経て、1997年にデザイナーとして独立&当時から現在までタッグを組むビジネスパートナーと共同で起業。独立当初はデザイン関連の仕事を中心に活動していたものの、もともと料理好きという質も手伝ってか、「いつか飲食店をやるのもいいなあ」と考えていたという。前例のなかった“ビーガンカフェ”というコンセプト加えてもう一つ、清野さんが飲食店事業に関わるうえで大きな影響を与えたのが、「私ってたぶん、遺伝子レベルからのベジタリアンなんですよね」という自身の体質にあった。ちなみに開店当時の2000年前後はまだ、“菜食”というワードから宗教的なニュアンスを感じ取る人が多かったようで、誤解を招かないようにするためにも、ビーガンカフェという看板を表には出さず、普通のカフェとして営業していた。味そのものも受け入れられるか不安だったというがしかし、その予想に反して客入りは好調。このとき、「美味しいものを作れば思想は関係ないんだ」と実感し、以後ビーガンが世の中に定着していくことを確信したという。周囲の飲食業関係者から懸念されていた、野菜の仕入れ価格やコンディションの不安定さというリスクについては、毎日の仕入れ具合によってメニューを柔軟に変化させて対応。「絶対にうまくいかないよ」という声を実績ではねのけてみせた。その理由を問うと、「ベジタリアンでもそうでなくても、みんな体が欲するものを食べればいいじゃないですか」とシンプルな答え。なおも続けて、「でも、ビーガン食専門というこだわりには何かメッセージがあるのでは?」と聞くと、以下のような答えが返ってきた。まあ、食を考えるきっかけを持ってもらえたらいいですね。食品を生み出すためのエネルギーの持続可能性とか。結局、私にとっての食のテーマは、生態系にどれだけ迷惑をかけないか。だからビーガンやベジタリアンというくくりはどうでもいいんです。たとえばいつか食糧危機がきたとして、そんなときに「私は肉を食べません」は通用しません。それに、エスキモー*1に「野菜を食べなさい」と強制するのも無理な話で。それぞれにいろんな状況があるわけだから、肉食も魚食もあって然るべきですよね。(*1)北極圏のツンドラ地帯の一部に住む先住民。生肉を中心の食生活で知られる。「進化するベジタリアン」という哲学俯瞰して食を考え、固定観念に縛られない。清野さんはこうした姿勢を、「進化するベジタリアン(菜食主義)」と表現する。レストランエイタブリッシュの裏コンセプトでもあるこの言葉は、柔軟な思考を持って食をとらえる彼女の生き方そのものだ。つい最近、昆虫食に挑戦したことについては、「ビジュアルだけで判断したらダメだと心のなかで唱えながら食べました。味ですか?…まあまあです」と若干言葉を濁したものの、偏見は全くないという。むしろ新しい可能性に興味津々といった具合だ。Restaurant 8ablishWebsite|Facebook|Twitter|Instagram〒107-0062東京都港区南青山5-10-17 2FTel 03-6805-0597MUFFINS AND COFFEE 8ablishWebsite|Facebook|Twitter|Instagram〒152-0004 目黒区鷹番1-7-11-104Tel 03-6753-3316▶︎これまでのNeutalkイベントレポート・「日本は老害が多いしメディアは腐ってる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.1]・「僕らはインターネットを使って先祖返りしてる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.2]▶︎オススメ記事・元証券マンが愛犬と一緒に過ごしたくてオープンさせた、動物愛護もミートフリーも押し付けないベジタリアンカフェ・14店目:「ジャンク・オーガニック」がコンセプト。フードロスを活かした、食べ過ぎても“罪のない”お菓子屋さん、BROWN SUGAR 1ST. | フーディーなBi編集部オススメ『TOKYO GOOD FOOD』All photos by Jun Hirayama unless otherwise stated. Text by Yuuki HondaーBe inspired!
2018年08月14日「アメリカのレーベルと契約」「去年はサマソニ、今年はフランスの音楽フェスに出演」など話題の尽きない音楽ユニット、Dos Monos(ドスモノス)。特に今年5月に日本人として初めてアメリカ・LAのレーベル「Deathbomb Arc」(デスボム・アーク)と契約したことでメディア露出は広がり、音楽メディアやファッションメディアを中心に彼らを取り上げる媒体が多くみられる。今回のインタビューでは「“バグ”として日本のコミュニティに違和を生じさせたい」と話す、彼らの思想に迫ってみた。左からTAITAN MAN、没、荘子itヒップホップにこだわってはいない荘子it(ソウシット)、TAITAN MAN(タイタン マン)、没(ボツ)からなるDos Monos。共に中高一貫の進学校に通っていた三人は同じ感度で笑い合える気が置けない仲間で、2015年に同ユニットを結成。異彩を放つヒップホップユニットとして語られる彼らだが、ヒップホップという音楽はあくまでも現時点の彼らの表現方法として最適な手段だったにすぎない。「むしろ、ラッパーになったのは、Dos Monosをやるため(厳密には自分のトラックを世に出すため)」だったと、荘子itは語っている。彼らが現在ラッパーをしているのは、三人から生まれるアウトプットが活かせる音楽がたまたまヒップホップであったからで、結果的にそうなった。それを超す表現が見つかったのなら、すぐにそちらへ移りかねないと言ってのけるほどヒップホップ自体にこだわってはいないのだ。Dos Monos以外にも、荘子itは他のアーティストのプロデュースや映像・広告音楽の制作、TAITAN MANは他のアーティストの作詞、広告のプランニング、没は音のコラージュなどとメンバーの活動は多岐に渡る。このようにやりたいことを一つに絞らない選択は、もはや特別でない。なかでも企業で広告プランナーを務めるTAITAN MANは、音楽と広告業のどちらもやりたかったと強調する。売り方以外を見ても、日本のヒップホップ界には閉鎖的な面がある。日本のラッパーはファッションブランドと組んで活動するタイプ、メインストリームに出てタレント化していくタイプ、ギャングスタ・スタイル*1、生活密着型*2、自意識/サブカル系*3などさまざまに分類されるが、Dos Monosはいずれの文脈にも「入れないし、違和感を覚える」という。そこで、アメリカのレーベルと契約した彼らが目指すのは、日本のヒップホップやカルチャーの文脈を内側から壊していくことだ。これが彼らがメディアで言及している、“バグ”となること。この“バグ”という言葉に込められているのは、パソコンというハード自体を壊すのではなく、内部ソフトのプログラムを微妙に書き換えるコンピュータバグのように、既存の文脈に混乱を起こしたいという遊び心だ。これに関しても意図はなく、自らの表現を追求していたら、そんな存在になっていたと説明するのが正しい。だからこそ「シーンの真ん中にいるみたいだけど、どう考えてもこいつらおかしいよねみたいなことを俺らは目指したいですね」とTAITAN MANは言う。(*1)暴力や犯罪をテーマとするギャングスタラップと呼ばれるジャンルのラッパー(*2)日常生活の何気ないことをラップにするラッパー(*3)オタク・ニコニコ動画文化を含む、アングラ文化出身のラッパー常に自分を驚かせていたいし、ずれていないとおもしろくないDos Monosの活動において通底していることの一つが、「常に自分を驚かせていたい」という価値観。驚きは彼らのインスピレーション源であり、日々の活動への動機だ。ゆえに活動するうえで大切にしているのが、三人から生まれる「ずれ」。それをあえてまとめ上げずに、残すスタイルでいる。結果が予想外に転がっていかないと、自らが楽しめないからだ。そんな彼らだが、文字通り三者三様に「ずらすこと」に対するスタンスが異なる。荘子it:人一倍つまらない人生への恐怖感が常にあって。ここで思考停止していたらつまらなくなるぞっていう、すごい恐怖があるんですよね、僕には。すごく自由に制作を楽しんでいるというよりは、つまらない人生を送りたくないっていうところに突き動かされているっていうのはある。自覚的に物事の規範から「ずらすこと」を制作の始点に置くのが荘子it。それには能率主義的なサラリーマンの父親が繰り返してきた、必ず決まった時間に同じものを食べるような「つまらない」日常を送ることへの恐怖心がどこか関係しているという。「驚けないことに対して何も興奮できない」と語り、自らが刹那的に行動してみて、その結果偶然生まれる「ずれ」を楽しむのがTAITAN MANだ。中学三年のときに家族の事業が破産して家庭が借金地獄に陥ったが、のちに別の事業で成功したことで、世の中は「何でもあり」だと体感した。また没に限っては、生まれ持った感性により無意識的に「ずれ」を生じさせている部分が大きいようだ。荘子it:あまり意識的にそういった態度を明確化し過ぎると、それがまたある種の類型に収まってしまうので、どちらかというと、ナンセンスなずれやギャグを志向した表現のほうがDos Monosとしては多いです。具体的/直接的な言葉より、活動全体を通して可能性を否定しようとする人の「思考の凝り」を否定する姿勢を示していこうとする彼ら。同調圧力がはびこる世の中や、結果の予想できるありふれた展開、没個性的なものに対する批判を暗示する歌詞も少なくない。インタビュー中に荘子itが発した「自分にとってのDos Monosは音楽を使った一つのギャグ、あるいはささやかな反抗」という言葉が言い表わしているように、それには言葉遊びから主張が込められたものまであるようだ。社会に“違和”を生じさせる若者たちヒップホップの文脈に限らず、「既存の型」にはまることを重視していると、そこから多様な物事のあり方は生まれていかないだろう。そんなところに、彼らのいう“バグ”として、新たなものが存在しうる余地を意図せずとも作り出そうとしているのがDos Monosだ。そんな「これが正解だ」というものにとらわれない、業界・コミュニティをある意味で混乱させるような小さな動きが重なれば、凝り固まった思考しかできない人々の視野も少しずつ広がっていくのかもしれない。Dos MonosTwitter荘子it(Trackmaker/Rapper)・TAITAN MAN(Rapper)・没(Rapper/Sampler)からなる、3人組HipHopユニット。荘子itの手がける、フリージャズやプログレッシブ ・ロックのエッセンスを現代の感覚で盛り込んだビートの数々と、3MCのズレを強調したグルーヴで、東京の音楽シーンのオルタナティブを担う。結成後の2017年には初の海外ライブをソウルのHenz Club(ヘンツ・クラブ)で成功させ、その後は、SUMMER SONICなどに出演。2018年には、アメリカのレーベルDeathbomb Arc(デスボム・アーク)との契約・フランスのフェスLa Magnifique Society(ラ・マニフィック・ソサエティ)への出演を果たすなど、シームレスに活動を展開している。今秋、満を持して初の音源となる1stアルバムをリリース。
2018年08月10日「北朝鮮にいってきた人がいる」そう聞いた途端、たくさんの疑問が湧き上がってきた。「なんで?」「どうやって?」「どんな国なの?」「旅行で?」「食べ物は美味しかった?」、エトセトラ。ニュースやSNSを通して毎日のように北朝鮮の話題を目にする。けれど、私たちの多くはそこにどんな人が住んでいて、どんな生活を送っていて、どんな気持ちを抱えて日々過ごしているのかを知らない。一番よく耳にするのに、一番よく知らない。情報量と認識の歪さが筆者をこう思わせる。「なんか怖い」「暗い」「しめっぽい」「本当に人が住んでいるのかな」。それはもはや異国というよりは異世界の感覚で、要するに筆者は北朝鮮がわからないのだ。知らない、わからない、はたいていの場合、知りたい、という好奇心に帰着するわけだけど、北朝鮮の事に限って言えば、知る術さえないというのが正直なところだった。だから、北朝鮮に行って、北朝鮮の建築の写真を撮ったフォトグラファーがいるということを知ったとき、迷わず彼の話を聞いてみたいと思った。 その人の名前はOliver Wainwright (オリバー・ウィンライト)。ロンドン在住のライターでフォトグラファーだ。北朝鮮への旅で彼が撮影した建築物の写真は『INSIDE NORTH KOREA』という書籍にまとめられている。彼は一体どうして北朝鮮に行って、そこで何を感じたのだろうか。-建築の仕事に携わるなかで、なぜ北朝鮮に行こうと思ったんですか?北朝鮮に行こうと思い立ったのは、2014年のことです。私は、ヴェネツィア建築ビエンナーレ*1で北朝鮮の建築家が描いた絵を見ました。その絵からは、孤立した彼らの母国で、 “観光の未来”がどのように描いているのかが見て取れました。 そこには宇宙間を移動する軍用の輸送船や、崖の上にピッタリ密着するように建っている円錐状の鏡面ガラス貼りのホテルが描かれていたんです。そうした未来予想図は、明らかに一昔前のものでした。宇宙家族ジェットソン(1960年代からアメリカで人気を博したアニメ)や、ダン・デアコミック(1950年代のイギリスのSFコミック)に描かれていそうなものだったんです。さらに、キュレーターを務めていたNick Bonner(ニック・ボナー)氏が、この絵のなかに描かれているような建築物は、実際に北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)で建設されているものとそう遠くないのだと教えてくれました。 そのとき、彼が冗談を言ってるのかとも思いましたが、それが冗談なのか本当なのか答えを知る方法は一つしかないと思いました。その翌年に彼が平壌の建築物を回るツアーを企画していたので、私は迷いなく参加を決めました。(*1)イタリア・ヴェネツィアで2年に一度開催される、国際展覧会「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の建築部門-この旅において、最も興味深かった建築物は何ですか?平壌では、1989年に第13回世界青年学生祭典(共産主義圏におけるオリンピックのようなもの)が開催されました。この期間に向けて、国家プロジェクトとして建てられた多くの建築物は、この国の建築において興味深いものばかりです。また、超巨大な綾羅島メーデー・スタジアムは、今なお、世界最大のスタジアムとして知られており、大きく開いた花びらのような形をしています。 他にも、コンクリート製のティピー(アメリカインディアンの移動式住居。テントのような形状をしている)のような形に設計された国際アイススケートリンクがあります。Chongchun Sports Street(忠誠スポーツストリート)には、大きなコンクリートアリーナがいくつかあり、それぞれがそこで行われる競技を表現したような設計です。たとえば、ウェイトリフティングのアリーナは大きなダンベルの形をしていて、バドミントンアリーナの屋根はバドミントンのシャトルのような形をしています。-日本に住む多くの人は北朝鮮の人々の生活を知りません。だからこそ、この本から学ぶものは大きいと思います。最後に、まだ北朝鮮に行ったことのない人々にメッセージをお願いします。 私がこの本を書いた理由の一つに、実際に北朝鮮に訪問して、自分自身の目で北朝鮮を見る人が増えて欲しいという思いがありました。北京には北朝鮮ツアーを企画しているいくつかの企業があり、北朝鮮に行くこと自体はそんなに難しいことではありません。実際に行ってみて、北朝鮮の人々は本当に友好的で好奇心に満ち溢れ、外国の人々に会ってみたいと感じているようだと思わされました。また地元のガイドの人は、皆さんが考えるような機械的に書かれた原稿を棒読みをする警備員のようなものではなく、人情に溢れた普通の人です。北朝鮮という国において人々は依然として貧困に苦しんでいます。けれど、現在バブルの渦中にあり、スマートフォンや車、 お店やレストランにアクセスできる平壌では、私たちが普段送っているものに近い“現実的な生活”を送れる可能性が示唆されています。ファッションは日々変化していて、人々は西洋式の服を着て、カフェに行ったりしています。 実際に入ってみると想像以上に親しみやすい国だった北朝鮮(少なくとも私がいった平壌)には外から見る以上に多くの側面があります。▶︎これまでの「GOOD ART GALLERY」・#16 持っている服を体にぐるぐる巻き。「自分の選択した服」が持つ意味を視覚的に考えさせる写真家・#15 「肌荒れって美しい」。ニキビに美を見出した女性フォトグラファーが、世の中の“美の基準”を再定義する・#14 現代社会で軽視されがちな“感情”の大切さをアートを通じて思い出させてくれる「ビジュアル哲学者」▶︎オススメ記事・12作目: メディアが報道しない、北朝鮮の“普通の暮らし”とは。撮影監督が韓国籍を放棄して挑んだドキュメンタリー『ワンダーランド北朝鮮』|GOOD CINEMA PICKS・#005 「アーティストは稼げない職業だとは思わない」。アフリカにフィルム写真を広める21歳の写真家の夢|ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』All photos via Oliver WainwrightText by Kotona HayashiーBe inspired!
2018年08月09日日本のメディアではよく「世界一幸せな国」と紹介されるブータン。ヒマラヤに残るこの最後の仏教王国は長年鎖国をしていたため「神秘の国」としても知られていたが、1991年に国連に加盟して以来急速な近代化が進んでいる。日ごとに変容を遂げるそんなブータンに生きる、ある家族の物語を描いたドキュメンタリー映画が『ゲンボとタシの夢見るブータン』である。今回Be inspired!は日本での公開を8月18日に控え来日した同作の監督、アルム・バッタライ氏とドロッチャ・ズルボー氏にインタビューを行った。アルム・バッタライ氏(左)とドロッチャ・ズルボー氏(右)小さな小さな物語に光を当てる『ゲンボとタシの夢見るブータン』で焦点が当てられるのは、ブータンのなかでも伝統が色濃く残る地域ブムタンに住む、代々寺院を受け継いできた一家。寺院を息子に継がせたい父親テンジン、近代化の波に乗り遅れないようにと子どもたちの英語教育を重視する母親ププ・ラモ、父親の望みと自身の気持ちの狭間で将来について悩む長男ゲンボ、女の子の体に生まれてきたが心は男の子のタシ、そしておてんばな末っ子のトブデン。映画の軸となるのは長男ゲンボ(撮影当時15歳)の進路とタシ(撮影当時14歳)のジェンダーについてであるが、ゲンボとタシの兄弟愛、親として子どもの将来を心配する両親の姿、そして親と子どもの間に生じる時代を反映した価値観の隔たりなど、国や歴史、文化を超えて普遍的な物語が語られる。ゲンボとタシPhoto via Sunny Film舞う父テンジンPhoto via Sunny Film同作の監督を務めたブータン出身のバッタライ氏とハンガリー出身のズルボー氏は、各国の事情から資金調達の方法まであらゆる方面からドキュメンタリー制作について学ぶポルトガル、ハンガリー、ベルギーの三大学共同・国際修士コース「ドッグ・ノマッズ」で机を並べた仲である。卒業と同時にブータンについての映画を共に作ると決めていたという二人には、映画制作に対する共通した信念があった。それは「小さな小さな物語に光を当てる」こと。ズルボー:私たちは日常生活や人々の細かい心情など些細なことを捉えたいと思っています。人と人の関係や、その場の雰囲気、そして状況など、問題や意見には焦点を当てすぎず、観客が他者の視点に立てるように。だから“マイクロシチュエーション”を常に探しています。観客に考える余白をとっているような映画が好きなんです。事実、作中で描かれるのは激動の変化を遂げるブータンの情勢ではなく、近代化によって生じる家族の小さなすれ違いである。しかし淡々と映し出される登場人物の繊細な心の動きにこそ近代化がもたらす、人々の価値観の変容を強く感じさせられるだろう。近代化とは、親の世代とは違う夢を持つこと近代化とは「若者が親の世代とはまったく違う夢や価値観を持っていること」だと話すのは、バッタライ氏。バッタライ:親の世代には“ニーズ”が多くありませんでした。“家庭”を超えて何かをすることが少なかったのです。農家として働くことに満足し、素朴な食事に、シンプルな服。それで幸せでした。でも新しい世代は新しい夢を持っている。ブータンは近代化したといっても他国と比べれば産業も小さいし、都市の規模も小さいけれど、ブータンのなかでは人々の意識に変化が起こっていて、それは近代化の結果だと思います。近代化が人々にもたらすもの、家族の愛、ささやかな人間同士の衝突、将来への不安、ジェンダーをめぐる葛藤などが国や文化を超えて普遍的だということにこの映画を観るとすぐに気づかされる。監督たちがいうように、この小さな小さな物語を私たちの人生に反映させて自らのことを考えるヒントにすることは、難しいことではない。予告編※動画が見られない方はこちら『ゲンボとタシの夢見るブータン』Website8/18(土)よりポレポレ東中野ほか全国劇場ロードショー監督アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー2017|ブータン、ハンガリー映画|ドキュメンタリー|ゾンカ語|74分|英題 The Next Guardian後援:ブータン王国名誉総領事館/ブータン政府観光局/駐日ハンガリー大使館協力:Tokyo Docs/日本ブータン友好協会/日本ブータン研究所/京都大学ブータン友好プログラム字幕:吉川美奈子|字幕協力:磯真理子|字幕監修:熊谷誠慈配給:サニーフィルム
2018年08月08日