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異なる分野で活躍する識者を複数招き、それぞれがそれぞれのフィールドで培った見識をぶつけて、“新しい会話”を生み出すシリーズイベント、「Neutalk(ニュートーク)」をBe inspired!がはじめます。6月30日(土)、7月1日(日)の連日で開催する最初のNeutalk。1日目のゲストは、Ome Farmの代表太田 太(おおた ふとし)さんと「HIGH(er) magazine」編集長のharu.さん。左 太田さん 右 haru.さんトークテーマは「いま話したい、メディアと食のこと」。東京・青梅市で独自の有機農法を駆使し、日本の伝統的な野菜や西洋野菜を作っている太田さんと、既存のマスメディアに疑問を持ち、友人らとインディペンデントマガジンを立ち上げたharu.さん。食とメディアをフィールドに、既存の価値観に捉われず活躍するお二人が、お互いの業界について抱いている疑問をぶつけ合い、新しい会話をお届けします。2日目のゲストは、鴎来堂(おうらいどう)代表兼かもめブックスオーナーの柳下恭平(やなした きょうへい)さんと、ALL YOURS代表の木村 昌史(きむら まさし)さん。左 柳下さん 右 木村さん校正・校閲の専門会社鷗来堂と、同社が運営する「新しい本との出会い」をデザインしているかもめブックスを取りまとめる柳下さん。24か月連続のクラウドファンディングに挑戦し、「インターネット時代のワークウェア」を標榜するALL YOURSの木村さん。両者が、トークテーマである「いま話したい、本とインターネットのこと」に沿って、本とインターネットに対する一家言を交えて新しい会話を生み出し、静的な本と動的なインターネットの関係についてお話しします。また、今秋リニューアルするBe inspired!の今後についてもお伝えする予定です。情報過多で、どんな情報を選び取っていいのか分かり辛くなっているこの頃。だからこそ、「新たな発見」や「新たな行動」が生まれるきっかけになるイベントを目指し、そして、新しい選択肢を提示する媒体であり続けるために、来場者の皆さまとの歓談タイムも予定しています。これまで以上の熱量を持って発信していくBe inspired!の新しいイベント「Neutalk」をお楽しみに!<開催概要>Neutalk vol.12018年6月30日(土)時間:16:00~18:00会場:Farmer’s Market at UNU(東京都 渋谷区神宮前5丁目11-1)入場料:一般予約:2,000円/1人:チケット A*事前決済。ワンドリンク・軽食付きメンバー予約:1,000円/1人:チケット B*事前決済。ワンドリンク・軽食付き申込: vol.22018年7月1日(日)時間:14:00~15:00会場: IID 世田谷ものづくり学校(東京都世田谷区池尻 2-4-5)入場料:無料▶︎オススメ記事・「規格外の野菜」が棄てられる日本で、オルタナティヴな販路“青山ファーマーズマーケット”が必要な理由・#016 利便性や立地よりも「コミュニティ」や「スピリット」を中心とする“商店街の新しいカタチ”を提案する男| ALL YOURS木村のLIFE-SPECの作り方Text by Yuuki HondaーBe inspired!
2018年06月24日動物の命を大切にしたい。そう思ってベジタリアンやヴィーガンの道を選ぶ人は少なくない。だがそこに至る道は人それぞれ異なる。証券マンとして世界中を飛び回っていたフランス人のジョナサン・ベルギッグは、殺処分される予定だった愛犬との出会いから、肉を食べることを止め、仕事も辞めて、外苑前にカフェレストラン「CITRON(シトロン)」を開いた。しかし、ベジタリアンのお店であることは大々的には謳っていない。「強制することはしたくないんだ」というジョナサンに、肩肘を張らず自然体なベジタリアンライフと、お店に込めた想いを聞いた。パスタもタルトやキッシュの生地もドレッシングもすべて自家製で、毎日店舗のキッチンで作っている。保存料も使わず、冷凍保存もしないため、作るのに手間がかかり、賞味期限も長くはない。だが、オープン当初こそ生産量を調整するのが難しかったものの、今では商品が余って廃棄することもほとんどなくなったという。「売り切れって悪いことではないですよね。もちろん、買ってもらいそびれる、いわゆる機会損失はあると思いますが、それでもいっぱい作っていっぱい廃棄するよりはハッピーです!」とジョナサンは笑顔で語る。そして、お客さんたちも完食してくれる人ばかりで、残飯が残っていることもほぼないという。「できるだけオーガニックにしたい」。でも難しい日本の現状加えて、「人に何かをするべきだと言うのは、居心地が悪くて好きではありません」と語るジョナサン。特に、母国ではない場所で、“外国人”である自分がこうしたトピックについて語ることは難しいと感じている。伝えたいことがあるとしたら、とてもシンプルですが、「動物を食べる量を減らすことは、あなたの健康にとってもいいし、環境にとってもものすごくいいし、動物の幸せにとってもいい」ということです。動物のことも環境のことも、全部つながっているので。でも僕は押し付けたり強制をしたいわけではありません。一人ひとりの生き方や考え方を尊重しているので。だからベジタリアンを表立って推奨することもしないし、「ベジタリアンにならないとだめだ!」と表明することもしない。それが僕のやり方です。今秋にはビジネス街である大手町に2店舗目をオープンする予定。忙しいビジネスマンたちに合わせて、すぐに買って食べられるパッケージ化した商品を中心に販売しようと考えている。ただ、お店の数を増やすことにも執着はしていない。もちろん、店舗数が増えることで、認知度が高まることは喜ばしいが、大きな組織にすることや、売り上げを伸ばし続けることは求めていない。それぞれの店舗がきちんと利益をあげられて、サステナブルな状況になっていれば十分だという。レイモンド亡き後、左腕の内側に彼のタトゥーを彫った。いつでも「心」の近くに感じられるように…レイモンドへの愛情から生まれたCITRONには、今や「動物の命を守る」ということだけでなく、食の安全や地球環境への配慮、そして企業のあり方にまで、こだわりが広がっている。そしてそのいずれの面も、温かくて細やかな愛情が詰まっていると感じる場所だ。そんなふうにCITRONに大きな影響を与え、ジョナサンの「人生の一部」であるレイモンドだが、心臓の病気が悪化し、今年2月に7歳の若さで急逝した。それでも、レイモンドが生み出した影響、レイモンドがつないでくれた人との縁は、これからも生き続けていくだろう。そんな“息吹”を感じに訪れてみてはどうだろうか。CITRON(シトロン)Website|Facebook|InstagramAddress:〒107-0062東京都港区南青山2-27-21Tell:03-6447-2556営業時間:月~金 8:00-21:00 土 9:00~21:00 日 9:00-19:00
2018年06月22日2018年5月26日(土)、27日(日)の2日間にわたり、横浜赤レンガ地区野特設会場にて開催されたサーフカルチャー、ビーチカルチャーをルーツに持つ、音楽とアートのカルチャーフェスティバル「GREENROOM FESTIVAL‘18」。“Save The Beach Save The Ocean”のコンセプトを掲げ、急速に減少しているビーチと海の環境を守るための活動も行っている同フェスティバルに、今年は11万人が来場した。Be inspired!はこの機会に、フェスティバル会場の一角に設けられていたアートギャラリーで作品を展示していた、アーティストRuss Pope(ラス・ポープ)氏(47歳)に話を聞いた。アメリカのスケートボード界のキーパーソン、コンバースのマーケットディレクターとして知られている彼は、社会や人をどう見ているのだろうか。ーRussさんの絵には風刺画のような要素や、ダークさがあるように感じられるですが、それはご自身も意識されてますか?たくさんの人にそう言われてきたから、君がそう思うのも別に変なわけじゃないし、そう思ったっていいんだよ(笑)。絵に描いた人が不安そうな・心配そうな顔をしているとか、ちょっと落ち込んでいるように見えるとかってよく言われるんだけど、それが僕にはあんまりわからなくて。すごくハッピーな人を描いたつもりでも、「(その絵に描かれた人は)なんでそんなに落ち込んでるの?」って聞かれたりするんだよね。それで僕は「いや彼は落ち込んでいるんじゃない、ハッピーなんだよ!」って言うんだけど。僕が絵に描いた人で「ハッピーそうに見える」って言われるのは、たいてい女性を描いたときで、花とか木とかが一緒に描かれているものかな。花とかがあると、人はハッピーだって思うのかもしれない。どうしてそう思うのかわからないけど、人の頭には「女性はハッピーにちがいない」みたいな考えがあるみたい。ちょっとそれは変だと思う。僕は自分の絵に描く人を落ち込んでいるように描こうとはしてない。ーご自身のアートや作風を説明するとき、どんな言葉を使っていますか?今のスタイルに近づいたのは大学生のときかな。すごく自然にできあがったものだね。人とか場所に興味を持つようになって生まれたもので、自分のアートは「social commentary(社会論評)」って説明してる。ビジュアルダイアリーみたいに自分で見た人や場所をリポートしているようなものだからね。だからどんな場所へ行っても、自分の目か、スケッチブック、またはカメラで見たものを記録して、それを持ち帰って絵にする。それで特に気に入ったものには色を塗るんだ。それからヨーロッパで僕のアートを売ってくれているアートディーラーによると、有名なイタリアの美術批評家が僕の展示を見て「modern impressionism(現代の印象派)」だと言ってくれたらしい。辞書で定義を調べると、確かにうなずけるなと思って。印象派ではジェスチャーのように大胆な線が使われているし、僕はそれを使った現代アーティストだからね。それがだんだんしっくりきているよ。ー今回展示されているGREENROOMは、ビーチと海の環境を守るための活動を行っていますが、それはご自身の普段の活動と関連していますか?うん、関連しているね。僕はビーチシーンや海にいる鳥の作品をよく作っているし、それはどれも僕にとって意味のあるものなんだ。サーフライダー・ファウンデーションっていう、水やビーチの保全活動をしたり、使い捨てのプラスチック製品を使わないよう呼びかけたりする国際的なNGOと僕の絵のコレクションを作ったこともある。それを売った利益で団体がビーチをきれいにしたりしているんだ。僕もいつもはウォーターボトルを持ち歩いているんだけどね、今回の旅には持ってきていなくて、ペットボトルの水を買ったんだ…本当はよくないんだけど。妻にも「それは使い捨てのプラスチックじゃない」って言われたけど、洗って何度も使うよって返事したよ(汗)。GREENROOM FESTIVAL‘18Website|Facebook|Twitter|Instagram【会場】横浜赤レンガ地区野外特設会場【日程】2018年 5月26日(土)・27日(日)<終了>【時間】開場11:00/開演12:00/終演21:00【主催・企画・制作】GREENROOM FESTIVAL実行委員会【チケット】2日券:¥19,000(税込)1日券:¥11,730(税込)【後援】横浜市文化観光局、横浜港運協会、(一社)横浜港振興協会image via GREENROOM FESTIVAL‘18 ▶︎オススメ記事・#14 現代社会で軽視されがちな“感情”の大切さをアートを通じて思い出させてくれる「ビジュアル哲学者」|GOOD ART GALLERY・オーストリアの若手農家が見出した、“サードウェーブコーヒーのゴミ”に潜んだビジネスチャンスAll photos by Jun Hirayama unless otherwise stated. Text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年06月20日今「映画」と「私たち」の関係は大きく変わろうとしている。動画ストリーミングサービスを使えば、月額1000円足らずで数千タイトルの映画がスマートフォンで見放題。私達は、映画を観るのに、映画館に行く必要もレンタルビデオ屋に行く必要もなくなった。また、個性豊かな「ミニシアター」の映画館が街から姿を消して「シネマコンプレックス」と呼ばれる大型の映画館にとって変わったことで、大手映画会社が制作する漫画やドラマなどが原作のキャッチーで分かりやすい「メディアミックス作品」が人気を博している。それに伴い日本の映画を取り巻く環境も大きな転換期を迎えている。そんななか、「自分達の世代でなんとか邦画の現状を変えたい」と語る映画監督がいる。彼女の名前は、枝 優花(えだ ゆうか)。まだ24歳の新鋭だが、去年撮影した初長編監督作品「少女邂逅(しょうじょかいこう)」が、自主制作のインディーズ映画ながら、第42回香港国際映画祭で異例ともいえる正式招待上映を果たして、上映後はサイン待ちに長蛇の列が出来るなど、業界では既に国内外で注目を集める存在だ。同作品は、2018年6月30日に一般公開を控えているが、公開前から10代の女性ファンの間で「聖地巡礼」や「少女邂逅ごっこ」が流行るなど、SNSで大きな反響を呼び、ネットで販売していた前売り券は即日売り切れ状態。「こんな時代だからこそ、ミニシアターの映画館でじっくり観る映画の魅力を同世代や若い世代の人達にも伝えていきたい」と話す彼女。彼女がライフワークとしての映画にたどり着くまでには、いったいどんな物語があったのだろうか。そして、彼女が映画にこだわり続ける理由、人生を賭けて追求する「本物の映画」とは何なのか。東京・上野の路地裏にある数十年変わらぬであろう純喫茶の店内。大好物のメロンソーダを注文した彼女は、映画に賭ける思いを語りはじめた。「ターニングポイントで出会った大人達の言葉で私は形成されてきた」と語る彼女。その後、高校まで地元の高崎で過ごし、大学で上京。そこで映画サークルに入り、そのまま映画の世界に飛び込むまでの経緯をきいたところ意外な答えが返ってきた。ずっと心に秘めていた映画を撮りたいという思いを叶えるために、東京の大学に進学したので、入学直後から、将来この世界でどうやって生きていくかということばかり考えていました。でも、今の環境にたどりつけたのは、人生の分岐点で出会った才能を認めてくれる大人達の言葉に「流された」結果だと思います。幼い頃からの憧れである反面、将来の保障はなく安定とは程遠い映画の世界。その世界で生きていくという人生の大きな決断を「流されて」したとはどういうことだろうか。大学4年生のとき、このまま映画の道で生きていくか、一旦普通に就職をするか、進路にめちゃくちゃ悩んでた時期がありました。そのとき出会った、父と同じ年の照明技師さんに人生相談をしたらこんな答えが返ってきました。「流されろ。この世界は何か決めても何にも意味ないぞ。俺は流されてここまで来た」その人の生き様含めて、凄く説得力があって心に響きました。それでゆるっと流されたのがこの世界に飛び込んだきっかけです。彼女は、普段は映画館に行かない10代の若者にも、自身の映画を知ってもらえるきっかけをつくるためにSNSを活用して、積極的に情報発信を行っている。最も力を入れているInstagramは、写真家でもある彼女が撮影した鮮やかなポートレートと、思わず共感してしまう味のある文章が人気を博し、フォロワーは1万人を越えている。Instagramは若い世代に向けた発信のためにやっています。映画に関心がない人に私の存在を知ってもらって、映画に興味を持ってもらうって大変なことだと思うんですが、Instagramはそこを簡単に超えていける可能性があると思っています。どんなきっかけ、どんな動機でもいいので、「あの人の映画ちょっと観に行ってみよう」と思ってくれたらなと。どれだけ、若い人達をこっちの世界に引っ張りこめるかだと思っています。昨年、初長編監督作品の「少女邂逅」を撮影する際には、クラウドファンディングを活用して、資金を集めるかたわら、Twitterで公式アカウントを開設して定期的に撮影の様子を発信するなど、積極的にプロモーションを展開して、公開前から日本全国にファンをつくることに成功した。インディーズ映画ということに甘えずに、ちゃんとお客さんが観に来てくれる映画を提供できるようにならないとけない。わかる人だけ届けばいいみたいなやり方は物凄く傲慢だと思う。映画を観てもらうためには手段選ばない姿勢の背景には、映画をつくる人間としての徹底したプロフェッショナル意識が垣間見える。映画に関わる人は、もっとお客さんを信じていいと思う、と語る彼女。だから、本当は映画において、煽りやわかりやすさやは必ずしも必要ではないと言う。お客さんを信じて、作り手としての責任を果たし続けることが全てだと思ってます。作り手はお客さんの100倍以上、物事を考えて作っていかないと、きっとなにも届かないと思うので。だから終わりがなくて、毎日定期テストの3日前みたいな日が延々続くんですけど、それがやりがいでもあります。楽しいですよ。最近は、映画以外にも、ドラマやミュージックビデオの撮影などの仕事も手掛ける彼女。様々なバックグランドの人が集まる仕事の現場で、作り手としての意識や姿勢の違いを痛感することもあると言う。映画って簡単には出来ないんですよ。たとえば、衣裳ひとつとっても、その役の設定によって、持つアイテムやブランドは全然変わってきますよね。凄く細かいと感じるかもしれないんですけど、そういう「奥行き」をつくっていけるのも映画の魅力だと思うので、衣裳さんも美術さんも職人としてのこだわりが活きるし、役者も、その役の人生をどう生きるかということが試されていると思います。たまに、そういったこだわりを軽視して「それっぽいもの」をつくればいいみたいな意識の人と仕事で出会ったときは、こっちはこれに人生賭けてるんだぞ、なめんなよと思います(笑)映画館で映画を見る場合、お客さんは2時間、暗室の中に閉じ込められて映画と対峙することになる。その環境で観るメディアだからこそ、細部への徹底的なこだわりによって、無限に奥行きを広げて行くことも可能になる。また、奥行きがある映画は、観る人それぞれの人生というフィルターを通して、その人の心のなかに様々な化学反応を生み出すことが出来る。彼女が語る「本物の映画」が少し見えた気がした。「映画館に年に1回しか行かないような、デートの口実でしか映画を観ないような、ネットでザッピングが当たり前のような、そもそも映画に金を払う考えがないような、それが日本の8割以上なんてことはわかっているのですが、私は、映画館で観る映画は人生のスペシャルになると、信じてるので、やっているよ。やり続けるよ」(via Instagram)彼女はきっと誰よりも映画の可能性を信じている。その、したたかな情熱が、いつか、邦画の未来を切り開くかもしれない。彼女が現時点での集大成だと語る映画「少女邂逅」は、そんな、新しい世代の可能性を感じさせてくれる作品となっている。枝優花Twitter|Instagram1994年まれ。群馬県出身。小学生の時から演技を学び、大学入学後、映画監督、写真家として活動を開始。好きなのものは、映画、最近家にやって来た愛犬のボストンテリア、そして、好きな人達と一緒に食べる美味しいごはん。▶︎オススメ記事・#005 「ファンの一言で、服への意識が変わった」。昔は服をたくさん捨てていた“読モ”が、服を捨てなくなった理由|赤澤えると『記憶の一着』・「西洋の真似だと芯が弱い」。東京に和菓子カフェを開いた28歳の女性がトレンドよりも本物を追求する理由All photos by Yuki NobuharaText by yuki kanaitsukaーBe inspired!
2018年06月19日ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、グルテンフリーなど、食に対するさまざまなニーズが浮き彫りになってきたこの頃だが、残念ながら、日本には食の多様性に対する配慮がまだ当たり前ではない。世界中の料理が比較的安価に楽しめる東京でも、それは変わらない。しかし、西麻布にひっそりと軒を構える、とある割烹料理屋が、数少ない例外として注目を集めている。彼の言葉を聞いて、結局「食は文化」なんだと再認識したんです。和食を誇りに思っていた当時の僕は、「でも自分は生まれ育った三重県の食文化すらよく知らないじゃないか」と反省し、帰国後、伊勢の生産者を訪ねるなどして勉強し直しました田中さんは帰国後いったん地元の三重県に戻ったのち、「割烹 伊勢 すえよし(以下、すえよし)」を2015年に東京・西麻布で創業。店名に“伊勢”とあるように、すえよしで出される一品にはふんだんに伊勢の食材が使われている。これは帰国後、田中さんが伊勢で学びの日々を過ごすなかで出会った生産者から直接仕入れているものだ。伊勢の食材を使っているのは、伊勢が僕のベースにあるからです。帰国当初は「フュージョン料理をやるのか?」とよく聞かれたんですが、そうではなく、外から日本の食文化を見つめ直して、先ほど話に出たパルマの料理人のように、食に向き合いたいと思ったんですある日ベジタリアンの方からお問い合わせがあったんですが、当時は完全なベジタリアンフードを提供できないと判断して、予約をお断りさせていただいたんです。それ以降この件がずっと心に引っかかっていました。「懐石料理を通して世界中に和食の多様さを広めようとしているのに、お客様の多様な要望を断っちゃダメだろう?」とそんな経緯で植物性の出汁の開発から始め、今では完全なヴィーガンフードを提供できる段階にまでなった。しかしそこに至るまでには、それ相応の苦労もあったという。動物性の出汁が使えないなかでのレシピ開発には苦労しました。それに提供するときには通常のものと分けて調理をしないといけないので、普段の倍は手間がかかります。だからあまりこういうことをやる人がいないのもうなずけますね。ただ、食材へのアレルギーが体に出る人がいるように、それが心に出る人もいるんです。体に異常は出ないけど、心に異常が出る。僕はそれぞれの宗教や思想にとやかくいう立場にはありません。それぞれの方がそれぞれの思想を持ちつつ懐石を食べたいと来てくれるから、できる限りのことがしたい、応えたい。そういう気持ちなんです並行してハラールなどほかの要望にも対応するうちに、自然とその評判が広まっていったという。ユネスコの無形文化遺産になり、その存在自体が一つの観光目的になった和食であるが、日本全体でフードマイノリティへの対応が遅れており、訪日に際してあまり和食を楽しめなかったという層から支持を受けたのが、すえよしの知名度向上に一役買ったのだろう。調理だけが仕事じゃない。これからの料理人のロールモデル和食の再認識やフードマイノリティへの配慮のほかにも彼の思考は及ぶ。たとえば、生産者と消費者の関係がそれだ。「食とそれを支える生産者への感謝が薄れてきているのは気になります。これはたぶん、生産者と消費者の距離が広がっているのが原因ですね」と田中さんは切り出し、こう続けた。▶︎オススメ記事・3店目:ヴィーガンの枠を超えた「壁のない料理」が食べられる新宿の隠れ家コミュニティスペース みせるま| フーディーなBi編集部オススメ『TOKYO GOOD FOOD』・「西洋の真似だと芯が弱い」。東京に和菓子カフェを開いた28歳の女性がトレンドよりも本物を追求する理由All photos by Jun Hirayama unless otherwise statedText by Yuuki HondaーBe inspired!
2018年06月15日ギャラリーの壁一面に広がる多種多様な“落ち込んだ様子のちんこたち”の絵が「I’m sorry」と必死に謝っている。それとは対照的に別の壁の一面には、エネルギーに満ち溢れた“力強いマンコ”の絵が「I DON’T DANCE NOW I MAKE MONEY MOVES- 私はもうダンスはしない。お金を動かすの」と、嬉々と叫んでいる。2018年4月に半蔵門のギャラリーanagraで開催されたMick Johan(ミック・ヨハン)の個展「I’m Sorry」の話だ。ミック・ヨハンさん。自宅のスタジオでミック・ヨハンさんの個展「I’m Sorry」at anagraミックさんは自称「Tokyo expatwife : 東京・駐妻」。奥さんの仕事の関係で2年前に母国オランダから家族で日本に移り住み、主婦&子育てをしながら制作活動を行うアーティストだ(本人は「主夫」より「主婦」と呼ばれることを好んでいる)。anagraで披露したビジュアルアートに止まらず、これまでバンドマンとしてアルバムをリリースしたり、本を出版したりと様々な活動をしてきた。オランダの初代VICE編集長でもある。今回Be inspired!はミックさんのお家にお邪魔し、「I’m Sorry」について、そしてこの個展の基盤となった彼のフェミニズム思想について話を聞いた。飽きっぽいけど、ずっと好きなことを追求してきた時間通りにミックさんの家に着くと、ママチャリに乗ったミックさんが「すいませ〜〜ん」と家の前の坂を登ってきた。家に入るとさっとレモネードを作ってくれて、「洗濯だけしちゃうからちょっと待っててね」とテキパキと洗濯を始める。もともとオランダの美大に通っていたミックさんだが、自身が興味のあるプロジェクトばかりやっていたため、本業のグラフィックデザインの単位を落とし、退学となったそう。そんななか、チャールズ・ブコウスキー*1の「ポスト・オフィス」に感化され、文字通り郵便局員となる。そのうち、VICEがオランダに上陸することとなり、編集長を募集していたので、編集の経験は一切ないが応募。ミックさんいわく、“史上最強に変な面談”を当時のイギリスのVICE編集長とし、見事に編集長の座を獲得する。(面談ではジェイ・Zやフランスのヒップホップについて聞かれたり、女の子の足の写真を見せられたそう)数年勤めたのちVICE編集長は辞め、大学時代の友人と悪名高きアーティストデュオ「Miktor & Molf(ミクター & モルフ)」を結成。商業的なものからアートプロジェクトまで実に様々な仕事をしたそうだ。スケートパークを建設するプロジェクトに関わったり、Michというインディーバンドのドラマーとしてアルバム制作に加わったり、オランダの大手の出版会社から本を出したりと、とにかくあらゆるクリエイティブな分野で活躍してきた。(*1)チャールズ・ブコウスキーとは米国の詩人・作家。セックスや酒、競馬など破天荒な人生を詩的に綴った異端児として知られている。「こんにちは。僕の名前はミックです。男性フェミニストです」とは普段いい回らないよ(笑)フェミニズムにはマイナスなイメージもつきまとう。「過激で男嫌いな人」や、「女性の立場を男性よりも優位にしたい人」などと理解されていることも少なくない。ミックさんは普段、自分がフェミニストだとあえては主張しないと言う。「こんにちは。僕の名前はミックです。男性フェミニストです」とは普段いい回らないよ(笑)でもフェミニズムについて議論がされている場ではフェミニスト側を選ぶ。まあ、僕は「主婦」だから言わなくてもみんなわかってるけどね。まだまだ男性が家に残り、家事や子育てを担当することは珍しい。ミックさんも前述した通りママさんグループと距離を感じたり、他の人からも「主婦=何もしていない」と偏見の目でみられることがあったりすると話してくれた。日本で仕事をせず子育てをしていることに対してオランダの友達のなかには「じゃあ、何にもしてないんだね」って言ってくる人もいるんだ。これは主婦に対しての偏見だよね。興味深いよ。日本だと、言語の壁があってフェミニズムについて話す機会はそもそも少ない。でも変な人だと思われているかも。でもさ、僕、大量のちんこ描くようなやつだからどっちにしろ変なやつと思われてるかも(笑)フェミニズムは男性の問題でもあるんだ男女平等を実現するにおいて男性の意識が変わることが重要だとミックさんは指摘した。世の中には男性が優位な構図が出来上がっている。だから変革は男性側からも起きなければならない。女性たちだけに闘わせるわけにはいかないんだ。男同士のネットワークは破壊されなければならない。古びた権力は社会から取り除かないと。それでこそ大きな変革が生まれることができる。ミックさんは、男女間の不平等を男性として正面から見つめている。しかし、未来は明るいと話してくれた。現状は絶対変わるって信じている。じゃなきゃ誰も前に進むことはできないから。僕らは過渡期にいると思ってるんだ。アメリカのトランプ大統領とかさ、昔ながらの権力者たちにとって今が最後のピークなんだ。でもこの後には、明るくてカラフルな未来が待ってるよ。▶︎オススメ記事・「男なら筋肉をつけるべきなの?」21歳の写真家が“男性解放”をテーマに写真展を企画した理由・「お金ってダルいときない?」起業や大企業への就職を経てクリエイターのベーシックインカムを始めた23歳All portrait photos by Kotetsu Nakazato Text by Noemi Minami ーBe inspired!
2018年06月15日「男なんだからナヨナヨするな」「男なんだから筋肉つけろよ」など、「男ならこうしなさい」という言葉を耳にしたことは誰にでもあるだろう。なぜ性別が「男性」であるだけで、こうあるべきという特定の価値観を押し付けられなければならないのだろう?そんな社会に対する違和感や危険性を、写真で表現する21歳がいる。彼の名は、中里 虎鉄(なかざと こてつ)。ファッションスナップや自身のプロジェクトのために写真を撮っており、Be inspired!ではシンガーソングライターのマイカ・ルブテ氏やアーティストのスクリプカリウ落合安奈氏の取材でフォトグラファーを務めた。今回は、彼が「男性解放」をテーマとする展示を企画したと聞き、開催にあたっての思いを探るインタビューを行った。そのプロジェクトを通して、学年全体の生徒にセクシュアルマイノリティに対する意識調査を行って動画でまとめたり、当事者に会って話したりするなど、自分の知りたいことに対して行動した彼。生徒のなかには否定的な見方をする人はいたものの、それ以上に受け入れられる人たちが多く、プロジェクトを進めていくなかで自分自身を肯定することができたという。また、この経験を通して「なぜこうなんだ」と社会の問題に対して問いを重ねていったことが物事を受け流さず考える習慣になっていっただけでなく、自分が考えていることを何らかの形で人に伝えることの重要性を知ったのだ。(*1)一般的なコミュニティ・デザインは、地域コミュニティをどう内側から活性化するのかという課題に取り組むものだが、虎鉄さんが通っていた学校の授業は、より広い社会の問題や身近な課題に取り組むソーシャルデザインの分野に近いものだった「いいね!」がつきそうな写真を撮りたいのではない彼は2017年の10月から本格的にフォトグラファーとして活動し始めた。その頃から、自分はどんな写真を撮っていきたいのか考えるようになる。だが参考にしようと、最近活躍しているフォトグラファーの写真を見ても、「すごい」と感じるものの、何を伝えようとしているのか分析しても、よくわからなかった。自分のフォトグラファー像を固めていこうとしたときに、たぶん僕がやっていきたい写真って、ただきれいな写真とか「いいね!」がつくような写真じゃないし、人の盛れた状態の写真が撮りたいわけではないと気づいて。僕はただ、僕の考えを写真を使って表現したいだけ。だから自分は別にフォトグラファーになりたいわけではないんです。写真を使って表現しているからフォトグラファーって名乗っているけれど、写真を売りにしたいというわけではなくて、写真を通して僕の考えを伝えたい。ミュージシャンが自分の考えを歌にする、本を書く人が自分の考えを言葉にする、それと同じように僕は自分の考えを写真で表したいと思っています要素として僕は「ゲイ」っていう一部を持っていて、「男」っていう一部を持っているだけだから。もちろんゲイだから感じたこともたくさんあるし、苦しい思いもたくさんしたけど。でも、ゲイでもそんなに悩まずに過ごしてきた人ももちろんいるし、ゲイじゃなくても悩んだ人もたくさんいるし、そこにセクシュアリティは関係なく、あくまでも僕は自分の人生を生きていて、みんなもそれでいいはず。だから男性とか女性とか何かの障がいとか一人っ子とか、血液型とか星座とかは、自分を構成する要素のほんの一部でしかない。天秤座っていう枠に虎鉄がいるわけじゃないし、虎鉄のなかに天秤座という要素があるだけ、ただそれだけ彼の展示をきっかけに、人々が押し付けられてきたジェンダー観の問題に気づき、自分を「性別」などの枠組みから解放して考えられる人が少しでも増えてほしい。彼自身も考え方を変えることで自由に、「自分」として生きられるようになったという。自分の持つジェンダーもセクシュアリティも、自分を構成する要素の一つにすぎないのだから。Kotetsu Nakazato(中里虎鉄)Website|Instagram1996年生まれ。東京都出身。大学中退後、ソーシャル課題をテーマにフォトグラファー、アーティストとして活動している。ギャルみたいによく喋る人。▶︎オススメ記事・「男は泣いちゃいけないの?」“男らしさ”という古臭い常識を覆すグローバルキャンペーンとは。#isitokforguys・“男らしすぎること”が男性にとって損な理由。・「こんな時代に“大人の男になる”ってどういうこと?」。子ども以上大人未満の若者たちが世間に問いかけたいことAll portrait photos by Rina KuwaharaText by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年06月13日旅行中によったパーキングエリアで、ものすごく形の悪い獅子唐が200g、100円で売られていた。買って帰って焼く。ちょっとの醤油とカツオ節たっぷりをかけて食べると肉厚で、ほんのり甘くて、幸せな気持ちになる。多くの野菜や果物は、少しでも形が悪かったり、傷がついたりしていたりする場合、廃棄食材になってしまう。食材は、味と美しさで美味しくなる、そうかもしれないけれど、ちょっとヘコんでるくらいでゴミ箱に投げ捨てられたり、叩き売りされたりするなんて、あんまりじゃないか。そんな“死にかけ”の食材を確かな技術で蘇らせるレストランがある。それがNYにある「Graffiti Earth(グラフィティ・アース)」だ。ここでは、廃棄予定の食材を利用し、野菜を中心としたコース料理を堪能できる。グラフィティ・アースのシェフ、ジェヘンジャー・メフタ氏インドで育まれた思想と料理Graffiti Earthのシェフ、Jehangir Mehta(ジェヘンジャー・メフタ)氏は、アメリカの人気番組、The Next Iron Chef(ネクスト・アイアン・シェフ)の2009年度の優勝者で、アメリカでは名の知れた料理人だ。インドで生まれ育った彼にとって、最も大切なものは家族だという。家族の健康を促進し、次世代に向けて持続可能な社会を実現するために料理人になったそう。“次世代により良い社会を引き継ぎたい”という彼の思想は、彼が主宰する子ども向けの料理教室「Gastro Kids After School」にも反映されている。 そして、彼は食事を取りながら、地球の持続可能性を考えるきっかけを作れる場として、Graffiti Earthをオープンした。彼の作る料理はインドにインスパイアされたものが多く、野菜を中心とした構成となっている。料理も内装もゴミで作られた、一流レストランGraffiti Earthの料理は上述の通り、廃棄食材を中心に料理が作られている。しかし、アメリカのレストラン評価システム「Zagat(ザガット)」によると、30点満点のZagat独自の評価で平均28点、5点満点のGoogle Reviewでは4.7点、つまり、ほとんどの人が最高評価をつけているのだ。Graffiti Earthの料理には、妥協を許さないMehta氏の細部にわたるこだわりが反映されている。また、最小限の食材を提供してくれる仕入先のみと提携し、余った食材は他のレストランと共有し、ゴミをできる限る出さないよう心がけているという。Graffiti Earthを作るにあたり、彼は料理だけでなく、インテリアにまで再生可能な素材や廃棄予定の素材を利用したというから驚きだ。また、Graffiti Earthでは、料理だけでなく、Graffiti Earthの理念に共感する芸術家である、Shreya Mehta(シュレイヤ・メータ)氏のチームの作品を展示するアートスペースも用意している。ちなみに、Shreya氏はシェフと同じ苗字だが、特に血のつながりはないそう。火・空気・水・土の四元素にインスパイアされたみずみずしい彼女たちの作品は、Graffiti Earthの世界観にぴったりと馴染んでいる。ほとんどのマーケットにおいてゴミとして扱われる“死にかけ”の食材が、名実兼ね備えた高級料理に変身するレストラン。なんだか物語を聞いているみたいだけど、これは現実のものなんだ。大切な人と向き合いながら、美味しい食事に舌鼓を打ち、美しい絵を眺めながらも地球に“イイこと”ができる。この場所から私たちが学べることも多いだろう。▶︎オススメ記事・消費者の「食べたい」に合わせて農家が食品を生産する、という“間違った”構造に終止符を打つレストラン・オーストリアの若手農家が見出した、“サードウェーブコーヒーのゴミ”に潜んだビジネスチャンスAll photos via Graffiti EarthText by Kotona HayashiーBe inspired!
2018年06月12日日本の歴史の授業でも必ず学ぶ20世紀最大の悲劇の一つ、ホロコースト。 第二次世界大戦下のアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツによるこのユダヤ人大虐殺を正当化することなど到底不可能であろう。神保町・岩波ホールで6月16日から上映される『ゲッベルスと私』はナチスの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッべルスの秘書として1942年から1945年の間に働いていた女性ブルンヒルデ・ポムゼルが当時の記憶を語る貴重なドキュメンタリー映画である。今回、同作の公開に向けて来日していたクリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・ヴァイゲンザマー監督への単独インタビューが実現。なぜ彼らはナチスが敗退し70年以上経った今、彼女のストーリーを世界に届けたかったのか。クリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・ヴァイゲンザマー監督悲痛な歴史を背負う103歳の女性の美しき肖像『ゲッベルスと私』の製作を行ったのはオーストリア、ウィーンを拠点とする「ブラックボックス・フィルム&メディアプロダクション」。同社は現代社会におけるあらゆる問題を高いアート性を持って映像化しているドキュメンタリープロダクションである。『ゲッべルスと私』は極端にミニマリスティックな映画といえるだろう。全編モノクロ、BGMは存在しない。これには色や音などの要素を可能な限り映像から削ぎ落とし、語り手であるポムゼルと一対一で対話しているような空間を演出する狙いがあったそうだ。作中に挿入される第二次世界大戦やナチスに関するアーカイヴ映像へと意識をスムーズに移行させる効果もある。© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBHポムゼルはまだ子どもだった第一次世界大戦の終わりの頃の記憶から、政治には興味がないものの新リーダー・ヒトラーの勝利を祝った青春時代、友人よりも高収入で気分の良かったゲッベルスの秘書時代、ユダヤ人の親友エヴァについて、そして第二次世界大戦終戦までの記憶を淡々と語る。混乱と悲痛の記憶の合間合間に、狂気の歴史として人々に知られているナチス政権下の当時のドイツについて、時に大切な思い出かのように話す彼女の言葉はあまりにも正直で、詩的ですらある。だがもちろんポムゼルの上司がナチスのなかでも多大な影響力を持ったゲッベルスだったということを忘れてはいけない。メディアや娯楽を巧みに使い、“ドイツ国民”の反ユダヤ思想を煽った張本人である。写真中央に座っているのがヨーゼフ・ゲッべルス© 2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBHしかし、ポムゼルのこの正直さこそ、監督たちが彼女へのインタビューを希望した理由でもあった。「彼女は間違いを犯したことは認めているが、罪悪感はない。とても正直で、それは素晴らしいことです。無論、それでも彼女の行いは間違っていたことに変わりはありませんが」と話すのは同作のプロデューサーでもあるクレーネス監督。過去にポムゼルはナチスの秘書時代についての取材をメディアから受け、意図した言葉とは異なるように発信されたこともあり、はじめは今作への出演も乗り気ではなかったそうだ。それでも最終的に出演する決断を下した彼女の動機はなんだったのかと聞くと、この映画は決してストーリーを脚色しないと、彼女に信じてもらえたのが大きかったという。「僕たちはポムゼルを信じていました。彼女が話してくれたストーリーが彼女にとって真実のストーリーだと僕たちは心から信じているのです。歴史的な真実ではないかもしれない。人間は都合のいいことだけ覚えているものですから。彼女はそうすることでしか過去を抱えて生きていけなかったのかもしれないから」と、脚本執筆とインタビューを行ったヴァイゲンザマー監督は思い返す。ポムゼルは2017年1月27日、『ゲッベルスと私』のイタリア公開初日であり、国際ホロコースト記念日に106歳でその生涯を閉じた。「無関心」という罪ユダヤ人大虐殺を考えれば、映画のポスターに記される彼女の「なにも知らなかった 私に罪はない」というキャッチコピーに衝撃を受ける人も少なくないだろう。しかし、同作では彼女の言葉を通してヒトラー政権下の“善良なドイツ市民”の姿が浮き彫りになる。自分がやっていることはエゴイズムなのか これは悪いことなのか 自分に与えられた場で働き良かれと思ったことをする みんなのためにね でも他人に害なのは分かってる それでもやってしまう 人間はその時点では深く考えない 無関心で目先のことしか考えないものよ作中の彼女の言葉だ。自ら手を下すことはなかったにしても、加担していたユダヤ人大虐殺について、彼女が主張する通り知らなかったのか、それとも本当は知っていのか。真実は観客にはわからないが、少なくとも自身の行動を正当化する「意識的にすらみえる無関心」の思考回路は垣間見られる。「ポムゼルは僕たち全員のなかにいるってことを気づかなければならない」とヴァイゲンザマー監督は言う。この映画の目的は彼女を批判することではなく、「もし自分が彼女と同じ立場になったとき、自分なら何をしていたのかを考えてもらうこと」なのである。ヨーロッパで相次ぐポピュリストリーダーの台頭。ナチスはユダヤ人がすべてを奪うという幻想を国民に抱かせたが、現代は同じような思考回路が難民に向けられていると監督たちは危惧している。人々は恐怖心を抱き、ポピュリストリーダーはこの恐怖心を使って勢力を伸ばしていくというメカニズムにナチスと類似性があることは否定し難い。そして世界を見れば、その傾向はヨーロッパにとどまらない。トランプ政権下のアメリカはいうまでもないが、日本も例外ではない。クレーネス監督は「彼女はプレミアで映画を観たときに、多くの人が、特に若い人がこの映画を観て、彼女の経験から何かを学んで欲しいと言いました」とポムゼルの言葉を思い起こす。もしかしたら、彼女が出演を決めたのは、監督たちがこの映画の製作を決意した理由と重なるのかもしれない。それは、「右傾化する世界への警報」だった。▶︎オススメ記事・他に類をみない“フリーランスの映画配給者”。「ワクワクしながら働くこと」を追求し続ける男の野心・時代に逆らい「自分がいいと思うもの」を追求してきた“還暦の音楽狂”が、現代の日本の若者へ伝えたいことAll photos by Chihiro Lia Ottsu unless otherwise stated. Text by Noemi Minami ーBe inspired!
2018年06月11日2017年4月28日に渋谷にオープンした複合施設、「SHIBUYA CAST.」。都会のど真ん中にあるこの場所で、血縁にも地縁にもよらない「拡張家族」になることを目的に、共に暮らし、共に働く集団がいる。名前は「Cift(シフト)」。現在のメンバーは39名。半数以上が起業をしていたり、フリーランスのような形で働いている。ファシリテーター、弁護士、映画監督、美容師、デザイナー、ソーシャルヒッピー、木こり見習いなどなど、全員の肩書きを集めると100以上に。大多数のメンバーがCift以外にも、東京から地方都市、海外まで、様々な場所に拠点を持っていてその数も合わせると100以上になる。メンバーのうち約半数は既婚者で、何人かは離婚経験者。2人のメンバーはパートナーや子どもも一緒にCiftで暮らしている。そうした“家族”も含めると、年齢は0歳から50代にわたる。バックグラウンドも活動領域もライフスタイルも異なる39人が、なぜ渋谷に集い、なぜ「拡張家族」になることを目指しているのか。本連載では、CiftのメンバーでありこれまでにBe inspired!で記事の執筆もしてきたアーヤ藍が、多様なメンバーたちにインタビューを重ねながら、新しい時代の「家族」「コミュニティ」「生き方」を探っていく。アーヤ藍Photo by Jun Hirayama最終回となる第6回目は、世界的なニュースメディア「ハフポスト日本版(HUFFPOST)」ブランド・マネジャー/ニュースエディターの笹川かおりさん。2017年11月から、「家族のかたち」という特集をはじめ、その取材を進めるなかでCiftと出会い、メンバーにも加わった笹川さん。家族の形をはじめ、多様性のある社会や暮らし方について、そして、個人個人の変化と社会の変化の結びつきについて、アーヤと対談形式で語り合った。笹川かおりさんニュースメディアに移って気づいたジェンダー・ギャップアーヤ藍(以下、アーヤ):ハフポストに入る前はどんなことをしていたの? 笹川かおり(以下、笹川):高校生くらいからずっと編集者になることが夢だったんだ。カルチャー女子で映画とかがすごく好きだったから、雑誌や本をよく読んでたんだけど、編集者って会いたい人に会いにいけて、行きたいところに行って、自分が教えてもらったことを人に伝えて還元できて最高!って思ってね。 新卒で出版社に入社して、途中転職もしつつ、約9年間は出版社で働いてた。やりたかったカルチャーやエンターテインメント、ライフスタイルの本を手がけられたし、仕事はすごく楽しかったんだけど、出版業界にいて紙媒体だけで伝えることに限界を感じて、ウェブメディアに挑戦してみたいって思ったんだよね。ちょうどその頃にハフポスト(※当時の名称はハフィントンポスト)が日本に上陸することになって、良いご縁で立ち上げ初期のタイミングでジョインさせてもらったの。そこから今5年くらい経ったところかな。アーヤ:ハフポストではどんな取材に力を入れてきたの? 笹川:出版からニュースメディアの世界に来て一番びっくりしたのが、記事の主語が、男性ばかりだったこと。政治のニュースも経済のニュースも。フロントページは男性の写真ばっかりで、この国の意思決定者は男性なんだって実感した。出版社で働いていた時は、出産後に働いている人もいっぱいいたし、年齢とか性別関係なくヒットを出した編集者が評価される世界だった。だからあまりジェンダー・ギャップを意識したことがなかったんだよね。でも世の中はだいぶ違うらしいって気づいて、そのあたりからジェンダーのイシューが自分事になっていったかな。 それでジェンダーや働き方についてしばらく取材を続けていくうちに、ふっと隣をみたら、LGBTQっていう女性よりもっと生きづらそうなマイノリティの存在に気づいた。ちょうどアメリカで同性婚が認められて、渋谷区や世田谷区で同性パートナーシップ制度の議論が始まった頃だったこともあって、反響も大きくていろんな切り口から取材をしていったよ。特集の原点は「戸籍制度をロックに批判したい」という思い笹川:ハフポストは「ダイバーシティ」を掲げて、“一人ひとりが自分らしく生きること”を大切にしているのだけど、私はニュースやライフスタイルのカテゴリーを通じて、自分事として捉えられるようなイシューから広げていっている感じかな。子どもが生まれてからは子育て世代の課題に関心が強まったし、ベビーカーを押して歩くようになってからは、車椅子の人たちのことも考えるようになった。自分の人生が多様に広がると、共感できるポイントが増えるなって感じているよ。仕事と子育てでいっぱいいっぱいだったから、第3の場所に入ってみたアーヤ:Ciftは「家族のかたち」の連載を進めるなかで知ったの? 笹川:そうそう。「家族のかたち」がスタートしたのが去年の11月で、その月にBe inspired!編集長の平山 潤くんに出会ったんだけど、特集の話をしたら、「拡張家族っていうのがありますよ」ってCiftのことを教えてもらったんだ。その後同僚からも、さおたん(※神田沙織)を紹介されたりして、翌月に取材に来た感じ。だからきっかけは平山くん(笑)。 アーヤ:ウェブメディア同士で情報交換しているとは思わなかった! 笹川:ハフポストとBe inspired!、方向性が似ている発信もあるけど、ハフポストは、ユーザーとの対話も大切にしてるけど、政治とか経済とか「社会を変える」っていう立ち位置の発信もしてる。一方、平山くんは、「僕らは政治とかは簡単に変えられないので、目の前の経済や暮らしから変えていく」っていう話をしていて、その等身大な感じは大事だなって思ったんだよね。私自身ちょうど育休から復帰したところで、自分の目の前の暮らしがいっぱいいっぱいなのに「社会のために…」って発信しているのはアンバランスに思えて…。自分の足元の暮らしを見直すきっかけをもらったかな。 アーヤ:Ciftに入ろうって思った一番のポイントはどこにあったの?取材先に自分が入り込むってなかなかないでしょ? 笹川:私、結構マイペースで一人の時間も好きだから、何年か前の私だったら入っていなかったと思う。でもちょうど自分が「うまくいっていない」って感じていた時期だったんだよね。はたから見れば、子育てしながら働くことができているように見えると思うけど、インプットの時間が全然とれなくて枯渇感があったし、仕事と子育てだけでいっぱいになっている自分にモヤモヤしてた。Ciftは穏やかで安心安全を感じられる場でありながらも、ユニークな働き方、暮らし方をしている人が多いし、そのメンバーと対話をする機会も多いから、新しい世界が広がる感じがしたんだよね。Ciftコモンスペースでの夕食タイム。時に熱く、時にゆるやかに対話をしている大人たちのすぐそばで、子どもたちも遊ぶPhoto via Cift笹川:それに「家族のかたち」の連載で、「血のつながらない家族も家族だし、いろんな家族のかたちがある」って発信しているのに、自分の家族は夫と子どもの核家族。言っていることと自分のリアルが違うって思ってね。血がつながらない人たちと家族になるってどういうことなんだろうとか、ともに子育てするっていうのがどういう感じなんだろうっていうのを、肌感覚でわかってみたいって思った。 あとは、子どもがいたことが一番大きかったかな。以前保育の専門家に取材したとき、小さい子はママとか保育士さんとか、若い女性と接する時間がすごく長いけど、世の中はもっと多様だから、小さい頃からいろんな面白い人に会わせてあげることが一番って言っていたんだ。Ciftはおもしろい大人が集まっているから、みんなが遊んでくれたら、それだけで子どもにとってすごい財産になるだろうなって思った。5月19日に開催されたCift1周年イベントでは、「拡張子育て」をテーマとしたセッションで笹川さんもトークをした。Photo via Cift「知らない」から怖くて遠ざけたくなるアーヤ:暮らしを共にすると、一緒に過ごす時間の長さも頻度も違うもんね。私は独身で子どもがいないけど、時々30分とか1時間とかCiftキッズたちと一緒に過ごすのはいいリフレッシュになるし、違う視点をもらえたり、視野が広がる感じもするんだよね。だから「負担をシェアする」っていう感じではなくて、むしろエネルギーをもらっている感じがしてる。 あと自分のなかで発見だったのが、この間電車のなかで泣いている子がいた時、即座に笑いかけられたんだよね。それまで気にかかりはしても「笑いかけて泣きやまなかったらどうしよう…」って思っちゃって、行動できなかった。でもCiftで小さい子たちと過ごすなかで、「子どもって泣くのは自然なことなんだ!」って知ったからできたんだと思う。 笹川:わかる。私も子どもが生まれるまでは、友達のお子さんとか抱いて、泣いちゃうとすぐ返していたから(笑)。個人の「10分」の変化が、社会の変化に繋がるアーヤ:Ciftに入ってみての発見や感じていることはある? 笹川:長屋みたいに、一つの家の延長上に頼りになる人たちがいるっていうのは、すごい安心感があるんだなって知った。仕事と家しか居場所がないっていう人が今の社会では大半だと思うけど、それってすごく不安定なことだと思う。第3の安心できる場所があることってすごく意味があるんじゃないかな。 やっぱり自分に余裕がなかったり満たされていないと、人への優しさって生まれないと思うんだよね。不安だと自衛に走っちゃう。Ciftが大事にしていることでもあるけど、一番大切なのは「個人の意識」が変わることなんじゃないかなって思う。それに、そういう発信のほうが今求められているという感覚もあるかな。全6回にわたった、拡張家族ハウス“Cift”メンバーたちへのインタビュー。記事で取り上げたのは約40人いるメンバーのうち、たった6人だが、紹介できていないメンバーも含め、一人ひとり、Ciftに参加した経緯も、Ciftで過ごしたこれまでの日々での気づきや変化も異なる。共通しているのは、程度の差はあれども、従来の「家族」の枠を越えることを厭わず、「それまでの日々からの変化」を自ら選択したことだろう。Ciftという場は、新しい家族の形に挑戦する一つの事例であり、まだ「実験」の道半ばだ。ここがあらゆる人に共通の「正解」の場ともならないだろう。だが一人ひとりの能動的な挑戦とそれによる個々人の変化は、Ciftの枠をも越え、各々のフィールドやコミュニティで、新しい種としてまた芽吹いていくだろう。そしてその蓄積はいつか社会をも変えうるのではないだろうか。CiftWebsite|FacebookKaori Sasagawa(笹川かおり)出版社を経て、2013年からハフポスト日本版ニュースエディター。副編集長を経てブランド・マネージャー。働きかた、ジェンダー、LGBTQのほか、ライフスタイル領域の記事を執筆、イベントを企画している。特集「だからひとりが好き」「家族のかたち」「アタラシイ時間」などを担当。1児の母。鉄子。果て好き。猫好き。▶︎これまでのCiftの連載はこちら・#1 平和のための“ホーム”を渋谷につくる「建てない建築家」・#002 「人生が楽になった」。一児の母が39人の大人が住む家で子育てして気付いた“家族には正解はない”ということ・#003 “我慢と孤独”を抜け出した女性が「39人の家族」で見つけた、“ゆとり”を持ち寄ることで得られる豊かさ・#004 「子どものために用意されたものは、大人にもいいはず」24歳の鍼灸師が“他人の子ども”と暮らして気づいたこと・#005 長野と東京の2拠点生活をする男性が、「ホテルで一人暮らし」から「39人との共同生活」にシフトした理由▶︎オススメ記事・「失恋」を理由に会社で有給を取ることが、日本で当たり前になるべき理由・現代社会で軽視されがちな“感情”の大切さをアートを通じて思い出させてくれる「ビジュアル哲学者」All photos by Shiori Kirigaya unless otherwise stated. Text by Ayah AiーBe inspired!
2018年06月09日私たちを取り巻く様々な人間関係の中でも、“恋人”というのは、とりわけ特別な存在だ。その人のことを考えるだけで、ニヤニヤが止まらなくなったり。「おはよう」「おやすみ」という他愛もない言葉のやりとりに、胸がじんわりするような幸せを感じたり。欠けていたパズルのピースがぴったりはまる安心感を覚える、そんな誰かとの出会いは、私たちの日常を何よりも鮮やかに彩ってくれる。また恋人というのは、私たちの「一番やわらかく、繊細で、弱いところ」をさらけ出す相手でもある。だからこそ、パートナーとの不仲や喧嘩・別れというのは、私たちの心に大きな傷跡を残すのだろう。失恋を英語ではハート・ブレイクと表現するが、まさにその通り、心が引き裂かれるような悲しみ・辛さに襲われることもある。「今までの幸せだった日々は何だったの」と、涙枯れるまでひたすら泣き暮らす経験をした人も多いかもしれない。そんな、恋愛で受ける心の痛み。それが私たちの身体に大きな影響を及ぼしているということを、あなたは知っていただろうか?ストレス社会といわれる現代日本。私たちの心をぐさりと傷つけるのは、恋愛だけに限らない。心の健康=メンタルヘルスという言葉が聞かれるようになって久しく、心と身体の関連性は色々な所で語られているはずなのに、疲れきった目をした人々が街に溢れているのはなぜだろう。筆者自身の経験や周りの友人を見てみても、過度なストレスが原因で休職・転職せざるを得なくなったり、心身の病気を患ったりしている20代の若者がたくさんいる。これは、忌忌しき事態ではないだろうか。考えられる原因の1つ目が、「我慢」や「頑張ること」を当たり前とする日本の習慣だ。とりわけ会社組織では、「皆も頑張っているんだから」「皆こういう風にやってきたから」(=だからあなたも同じように我慢してね)というプレッシャーを感じさせる環境がまだまだ多い。また、「まだ頑張れるから」「休んだら迷惑かけるから」という真面目な日本人気質も、ここでは災いの元となっている。原因の2つ目が、心の不調やメンタルヘルスに対する無知や偏見だ。日本は世界第9位の自殺大国であり、(残念ながら)ストレス社会として世界的にも有名。しかし、精神疾患患者数は世界的に見ても少ない。(参照元:ヘルスケア100番)実はこの数字は、医療機関を受診した人の数、つまり顕在化した有病率に過ぎないのだ。ここに含まれない患者予備軍が多数存在することが想像できる。筆者が暮らすスペインでは、「最近胸の辺りの不安感がひどくて…」「今日心療クリニックで悩み相談してくる」といった会話が当たり前のように飛び交う。自分がいまどういう心の状態にあって、どこに助けを求めたらいいか分かっている人が多いのだ。一方日本では、メンタルヘルスに関する知識がまだまだ浸透していなかったり、「心の病気は弱い人がなるもの」「恥ずかしい」といった偏見があるように感じる。その結果、過度のストレス状態なのに相談も通院もせず、気づいたときには心身ともに重症、といった人々が増えているのではないだろうか。ヨガやオーガニックフードで身体ケアするなら。心もいたわり、デトックスしよう。本音をぐっと飲み込んでまで、周りのために頑張りがちな日本人。そんな私たちがもっとのびのびと、身も心も健康に生きるためには、どうしたらいいだろう。①自分のメンタルヘルスや、ストレスについて知ろう。日ごろなんとなく見過ごしている心身の不調に目を向けてみよう。例えばうつ病は、精神面に症状が表れるという印象が強いかもしれないが、アジア圏の人は身体の症状として、頭痛・腰痛・食欲不振といった形で出やすい傾向があるという。(参照元:ヘルスケア100番)他にも、疲れやすくなったり、頭のキレや寝つきが悪くなったり、自信がなくなったりと、人によって症状の出方は様々。「昔からの体質」「今ちょっと仕事忙しいから」なんて軽視せずに、自分がいまどういう心と身体の状態にあるのか、きちんと分かっていることが大切だ。②思い切って話し、気軽に助けを求めてみよう。人間がもつ最も素晴らしい能力の一つ「環境への順応力」は、一歩間違えば、私たちの感覚を麻痺させ身を切り刻む剣ともなり得る。たとえばあなたが、とあるブラック企業で働いていたとしよう。初めはそこでのルールややり方に抵抗を持っていても、日がたつにつれ、だんだん慣れてくる。上司に相談しても、「俺の時代はもっと頑張ってた」「社会人ってみんなこうだよ」と言われるだけ。確かに他の人もみんなやってるし、これが「普通」なのかも…これは「環境への順応」という名の洗脳でもあるが、なかなか自分だけではそれに気づけない。だからこそ常に、客観的な第三者の意見を取り入れるということが大切だ。最初は友達でもいい。「最近こんなことが辛くて…」「どう思う?」と、気軽に話してみよう。何かおかしいかも…と気づいたら、プロのカウンセラーに相談してみるといい。友人とは違った視点や、具体的なアドバイスをもらえるだろう。私たちは、自分のことを誰よりも分かっているようで、実はそうでないことが多い。困ったときは遠慮なく誰かの力を借りよう。③自分に合わない環境や人には、はっきりとNOを突きつけよう。メンタルヘルスを整えるということは、自分が何に快・不快を感じるのかを、とことん突き詰めることにつながる。私は本当は何をしたくて、どうありたいのか。何にストレスや喜びを感じるのか。どんな環境に、どんな人と一緒にいたいのか。本来私たちは、社会の基本的なルールを守りさえすれば、自分の快や幸せ、心身の健康をとことん追求していいはずだ。それを阻害してくる環境や人には、勇気を出してNOを突きつけ、そこから堂々と立ち去ろう。ブラックな環境に留まるのも出るのも、嫌味なあの子との関係を続けるも続けないも、結局すべては自分の選択次第なのだから。
2018年06月08日働き方改革の名の下、少しずつ変わり始めた日本の労働環境だが、給与制度を変えようという声はあまり聞かれない。現行制度に誰もが親しんでいるからか、不満の声もあまり上がっていないのだろう。この状況にあえて新しい選択肢をもたらそうとしているのが、給与即日払いサービス「Payme(ペイミー)」を運営する、株式会社ペイミーの後藤 道輝(ごとう みちてる)さん(25歳)だ。Paymeリリースのきっかけは、「いまの給与制度が時代遅れになっていると思うから」。戦中から戦後にかけて確立された現行制度の“遅れ”とは何なのか。メルカリ、CAMPFIRE、DeNAなど、ビジネスとして成功を収めている名だたるITスタートアップ企業で、いずれも戦略投資やマーケティングなど、資本に関わる事業に参画してきた彼が考える、「給料の自由化」について聞いた。「給料の自由化やってます」。50年以上変わらない制度に抱いた違和感って?Paymeは3ステップ(ログイン・申請額決定・申請)で、いつでもどこでも手軽に給料を受け取ることを可能にした、いわば給料の即日払いサービス。最短で申請したその日に給料を受け取ることができる。上限は、申請時までに稼いだ給料の7割だ。このサービスの土台には、後藤さんが学生時代に抱いたある疑問ーなぜ月に給料日は一回で、月末締め翌月払いが基本なのかーがある。学生であれば誰もが経験するような出来事が、この違和感を持つきっかけになった。お金がなくてお世話になっていた人の結婚式に出席できなかったり、サークルの合宿に行けなかったりしたことがあったのですが、このとき思ったんです。「今月働いた分のお金を受け取るのに、なんで翌月末まで待たなくちゃいけないのか」と。そういうありふれた出来事がきっかけですが、こういった経験は、比較的お金に余裕のない若者たちには身近だと思います確かに、給料日を首を長くして、あるいは胃をキリキリとさせながら待ち望んだ経験は、誰にでもあるのではないだろうか。はたまた、急な出費に慌てて親や友人にお金を借り、なんとか事なきを得た経験はないだろうか。アメリカのような先進国では、給与は当月払いがスタンダードになっています。日本のような翌月払いのスタイルは時代にマッチしていないのではないでしょうかこうした事実を知ると不思議なもので、月に一回の給料日や月末締め翌月払いという“当たり前”は、結構な不自由を被雇用者に強制している気がする。それにカードローンや消費者金融は借金をするものです。そういうことに抵抗がある人は多いのではないでしょうか。だからいらないものをフリマアプリなどで売って現金化したり、ECサイトのツケ払いなども人気になっていたりといろんな選択肢が出てきました。Paymeもその一環で、そもそも一番身近な収入である給料の受け取り方を変えてしまおう、50年以上変わらない制度を変えようと考えたんです「お金がないこと」で機会を損失する若者をなくしたいまた、後藤さんには「若者がお金がないという理由で夢を諦めざるをえない現状を変えたい」という思いもあるという。個人や企業が無料で出品できるECサイト事業を行う現地の企業が、ソフトバンクから100億円を調達したんです。ネット通販のできるプラットフォームがなかったインドネシアでは画期的でした。これを知ったときに、「開発地域の現場で何かするよりも、社会的にインパクトを与えるサービスをリリースしたほうが多くの人の助けになるんじゃないか?」と思ったんですその近道として考えたのが、起業家や投資家になることだった。すぐに行動することにした後藤さんは、国際協力の領域を離れて、あるベンチャーキャピタルにインターンとして参加する。その後、国内最大級のフリマアプリを運営する株式会社メルカリと、クラウドファンディングサービスを運営する株式会社CAMPFIREに出向という形で半年ずつ勤務したのち、多彩なサービスを展開するDeNAに入社。昨年復活し話題になったファッションメディア「MERY」にも関わって働きつつ、新規事業を起こすためにFintech(フィンテック)*1への知識を深めた。結果的にこれがPaymeの構想につながる。BtoB(法人から法人)やCtoC(消費者から消費者)のFintechではなく、BtoC(法人から消費者)のFintechにすごくワクワクして、Paymeの構想もその頃に生まれました。「一番身近な収入である給料の仕組みを変えたら面白いんじゃないか?」と。それで昨年7月に起業し、9月にPaymeをローンチしました(*1)「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語、「Finance Technology」の略語。明確な定義は存在しないが、主に既存の金融組織が提供していない革新的な金融サービスをさすリリースからたった半年で導入企業が100社を超えた理由Paymeは今年5月までに導入企業が100社を超え、利用者数は15,000人を突破した。この急速な拡大の要因を、企業と従業員の双方に相応のメリットを提供できているからだと後藤さんは言う。企業側のメリットは、導入と運用が無料なうえに、求人応募の増加と定着率の向上が期待できることです。各求人媒体の検索ワードの上位には必ず「日払い」が挙がるそうで、同じ労働条件でも「日払い」が可能かそうでないかで、求人応募の数に3倍以上の開きが出るという調査結果があります。またPaymeが導入されていると、働いた分の給与がこまめに入金される状態を作ることができます。そうすると小さなモチベーションで仕事が続けやすく、結果定着率も上がるんです先に書いたように、Paymeは始まりにすぎない。「東京マラソンの抽選に当たって、本番のための準備をしている感じですかね」と後藤さん。確かに、日本は金融業に対する規制や原則が事細かに決められており、そう簡単には開業できない。事業を行うのに必要な資格を取得するだけでも数年はかかる。しかし、現在までのキャリアでも既存のルールにとらわれないやり方で、多くの成果を出してきた後藤さんである。水面下で着々と進んでいるであろう新サービスがお披露目されるのも、そう遠い日ではないかもしれない。後藤道輝(Michiteru Goto)Twitter|Facebook▶︎オススメ記事・「選択格差がない日本社会」を目指し、ある企業がはじめた“中・高卒のヤンキー”と企業をつなげる制度・「お金ってダルいときない?」起業や大企業への就職を経てクリエイターのベーシックインカムを始めた23歳All photos by Shiori KirigayaText by Yuuki HondaーBe inspired!
2018年06月08日世界中の社会派なアーティストを紹介するBe inspired!のシリーズ「GOOD ART GALLERY」。今回編集部は、とあるビジュアル哲学者に東京・神保町のカフェで落ち合った。彼女の名はBUCKLEY(バックリー)。ニューヨークとLAを拠点に活動するビジュアルアーティストである。“to hold with one’s whole self is to behold being held in wholeness” 2018. FOR JAPAN & AARONーまず改めて、東京はどうでしたか?長年の夢が叶って東京に来られました。想像以上でした。もう東京を離れたけれど、今でも「和」、「秩序」、「尊敬の心」、そして「静けさ」を私のなかに感じています。東京に触れて、私は深く変わりました。大都市でも平静を保ち、個人の責任を重んじ、集団のバランスへ献身的でいられるという素晴らしい例が東京だと思います。この街で生み出されたアニミズム*1、優美、そして詩的な考慮。東京を尋ねるとは、まるで一流のアーティストに出会うようなものです。私はこれからも常にこの経験を人生に反映させるでしょうし、東京から学んだことを崇め続けるでしょう。(*1)アニミズムとは、あらゆる事物や現象に固有の霊が宿るという世界観ー「保持方法」について聞きたいと思います。どうして日本語をタイトルに使ったのですか?最初は出来上がった作品が私バージョンの「春画」だと思ったので、日本語のタイトルをつけることにしました。春画は、センセーショナルなアートであると同時に美しいビジュアルと、それだけでなく教育的で知的好奇心を満たす側面があります。そんな側面に長年興味があって、日本のエロス芸術にはとても感化されてきました。だからこの作品と一緒に日本を旅行するのが自然だと思いました。ところが東京に着いたら、日本の人との会話のなかから秩序を守ることへの責任感や自己責任というアイデアがどれだけ彼らのプレッシャーになっているのかも学びました。それで「保持方法」はどのようにして「力を抜くか」について議論することのシンボルともなりました。日本人の子に見せると、説明書みたいなタイトルだと驚くから面白いんです。英語だと”How to Hold”と書き、それにはニュートラルな響きがあります。「保持方法」と名付けたあとに、それがどれだけ日本人にとってフォーマルな響きなのかを教わりました。フォーマルでシリアスな響きなのは嬉しかったです。だって人間はとっても感情的な存在にも関わらず、まるで感情がないかのように生きなければならないことへの矛盾を強調できていると思ったからです。ー少し話が変わりますが、どうして自分のことを「ビジュアル哲学者」と呼ぶのですか?今まで聞いたことない言葉だったのですが、何を意味しているのですか?考え方によっては、「ビジュアル哲学者」はアーティストをほかの言い方にしただけとも言えます。アーティストとは、他者のなかに共鳴を呼び、人生や、人間としての経験に対して新しい考え方を呼び起こせるようなイメージを与えることのできる、そして鋭い観察ができる人のことです。7年以上アーティストと自覚を持って活動していますが、さまざまなモチーフを持ったほかのアーティストに出会ったことで、自分のアートを確立させる必要性を感じました。それは科学者が自分の発見を主張するのと同じようことです。私の作品は、知恵への愛と、ものごとをセオリー化すること、そして人生のなかで起きるできごとに対する反応を洗練させていくことへの熱意から生まれてきます。私は常に自分の視野を伝え、広げていく必要があると感じていました。その度にある質問が浮かぶのです。「全人類で共有できる普遍的な真実とは何か?」。これは文字にしたり話すだけでは表しきれません。それを表すためにはモダンでインパクトのある、マスに届けられるような“乗り物”が必要だと感じました。文字は言葉の壁が邪魔してしまうし、私が作った音楽ではジャンルの既存のイメージなどが邪魔して成し遂げられない。でもビジュアルアートは、この時点では、どんな状況にいる人にもあらゆる壁を超えて共鳴を呼ぶ方法だと気づいたのです。なので、「ビジュアル哲学者」と自分を呼ぶことは、私が作るビジュアルアートが私のセオリーを共有したり、広げたりするのに効果的であるだけでなく、その時々に興味のあるコンセプトを能動的に形にできるという私自身への確認なのです。静かにゆっくりと話すバックリーと会話すると、時間の流れまで穏やかになるような気持ちにさせられた。「美しいものの力」を認識し、それを社会をよくするために作り続ける彼女。「アートは実用的ではなく、ラグジュアリーである」という意見を耳にすることもあるが、彼女の話を聞いて改めて社会におけるアートの可能性や必需性を感じた。BUCKLEYWebsite|Facebook|Instagram
2018年06月07日「服をただ着るのではなく、マニフェスト(宣言)として着よう」。そんなモットーを持つBe inspired!の編集部がセレクトしたブランドの詰まった「人や環境、社会に優しく主張のあるWARDROBE(衣装箪笥)」を作り上げる連載、『GOOD WARDROBE』。ーフェアトレードをどうやって実現しているの? 現在はWFTO(世界フェアトレード機関)と一緒にやってる。私たちが特に関心があるのは、男女平等、公正な報酬、安全な労働環境。こういった基準の他にも、フェアトレードって世界規模で地域の伝統工芸を復興させ、サステイナブルな雇用を生むことができるという側面がある。私たちはブランドとして、女性が職業トレーニングを受けられる団体*1と協力している。公平な雇用だけではなくて、医療や教育プログラム、ビジネストレーニングを提供している団体を選んでるの。どの団体も素晴らしいものばかりで、本当に存在していてくれて嬉しいし、一緒に働けるなんて光栄だと思ってる:)(*1)彼女たちが提携する団体の一つにはインドの西海岸に面する都市ムンバイに位置するCreative Handicrafts(クリエイティブ・ハンディクラフツ)という縫製工場。Creative Handicraftsは1984年に創設されて以来エシカルなハンドクラフトの工場として知られており、1994年に団体として独立、2005年にフェアトレードネットワークに登録された。工場で働く女性たちの多くはスラム街出身で、貧困やDVの被害者である。有給のトレーニングを受けたうえで、裁縫の技術を学び、正社員としてCreative Handicraftsで雇われる。ーブランドを立ち上げてから1年半ぐらいたったと思うけど、今の心境は?最高だよ!ここ数年でいろいろな業界の問題に挑戦しているポジティブな姿勢を持った人にたくさん出会えた。ブランドを立ち上げるのって楽なことばかりじゃない。辛いこともあるし、ものすごい努力が必要。でもやっぱり自分たちのしていることが大好きだし、楽しい!これからの数年間もすごく楽しみなの。新しいプロジェクトもあるし、それをみんなに発表するのが今は待ちきれない。ー「CONSCIOUS IS COOL=意識が高いのはクールなことだよ」っていうスローガンにはどういう意味を込めたか教えてくれる?「意識の高い生き方」を“クールな選択”にしたい!それが実は誰もが望むようなライフスタイルであって、楽しいものだってみんなに気づいて欲しい。 ーブランドとしての目標は何?サステイナブルな雇用を生むだけではなくて、コミュニティ内で素晴らしい職人をどんどん増やしていきたい。それは医療や教育の面を充実させてこそ実現可能だと思ってる。それと、ファストファッションの代替案になることが目標。人が信じられるブランドになること。私たちの洋服を着てくれている人が、見た目に満足するだけじゃなくて、心の底からいい気分になるように!▶︎これまでの『GOOD WARDROBE』・#10 「ソーシャルメディアは精神面によくない」。現代人のSNSの使い方を皮肉ったファッションブランドとは・#9:「マス受けは望まない」。消費者と環境と“ワタシ”のために服を作る英国ファッションブランド・#8:「話題性」や「売れたときに得られる利益」は二の次。ロンドンの社会派ストリートブランドとは▶︎オススメ記事・p.19「“ブサイク野菜”をインド料理へ」。チャツネで年間700kgもの廃棄野菜を救うファミリー。「Eat Me Chutneys」|『GOOD GOODS CATALOG』・「今着てる服に“誇り”を持ってますか?」若き女性が訴えるトレンドではなく、自分を信じる“幸せな消費”All photos via People’s ProductText by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年06月05日近年、日本では「ピンズ」と呼ばれるファッションアイテムが人気だ。デニムのジャケットにたくさん付ける人もいれば、バックパックなどにさりげなく付ける人も見かける。そんなピンズはサイズこそ小さいが、それぞれのデザインに強いメッセージを込めたなら非常にパワフルになるのではないかと考えられる。そこで今回の「GOOD GOODS CATALOG」では、あるアーティストがキュレーションするオンラインショップで扱われているユニークかつ主張の強いピンズを紹介したい。「自分自身を愛して」バイブレーターの形をしているこのピン。性的なことをポジティブにとらえていいというメッセージが垣間見られるあなたは、買い物するときどんな基準で商品を選んでいるだろうか。もしあなたの気に入っている商品を販売する企業が、不正を働いたり環境に悪影響を及ぼす事業に資金提供したりしていたらどうするだろう。企業や商品作りにおける考え方に賛同できない場合、その企業やブランドの商品を「ボイコット(不買運動)」するという方法がある。これは買い物が「投票」に例えられるように、消費者の力で信頼や賛同のできない企業の商品にお金を出すのをやめ(票を入れるのをやめ)、企業の経営を成り立たなくさせ社会をより良くする(より良い企業に投票する)というもの。そこであなたがボイコットしたいとき、またはボイコットとは関係なく単純に人や環境に良い商品が欲しいときに、参考となる商品カタログをBe inspired!が作成することを決意。その名も「GOOD GOODS CATALOG(グッド グッズ カタログ)」。マイノリティの権利や、生理をポジティブに語るピンズフェミニスト・アクティビストでアーティストのWhitney Bell(ホイットニー・ベル)がキュレーションを担当するオンラインショップ「Kidd Bell」。同ショップでは、マイノリティの権利を主張したり、自分の体に対してポジティブであることをテーマとしたりしているアイテムが揃う。「ジェンダーは流動的」自分の人生のなかで自認するジェンダーが変わっても何ら不思議でない生理についてネガティブに考えなくていい「超クィア」どんなジェンダーでもセクシュアリティでもポジティブで「黒人の命も大切だ」どんな人種でも平等な権利を享受できる世界に「PMS」PMS(月経前症候群)をネガティブに考えなくていい「女性の意見を聞いて」管理職に男性が多く、女性が意思決定に参加できない世の中を変えるべき商品の売り上げの一部を、マイノリティの権利や性の健康を守る活動を行うNGO団体に寄付しているのも同ショップの特徴だ。ピンズ以外に取り扱われているのは、ジェンダーニュートラルな服やワッペン、コンドームなど。「白人女性」のアーティストによる、オンラインショップKidd Bellのキュレーションをするアーティストのホイットニー・ベルは、知名度のあるイベントプロデューサー、そして10代向けのファッションマガジンのライターとしてマイノリティの権利を訴える活動を行っている。彼女のインスタグラムは、約4万人のフォロワーがいる公式アカウントだ。それを利用し、ジェンダーや人種の問題、セックスやメンタルヘルスに対する問題提起を常に行っている彼女のやり方は、SNSの発達した現代らしい。ホイットニー・ベル彼女がまず問題意識を抱いたのが、女性に向けられたセクハラやレイプなどに表れている、女性が男性より立場が低く見られるという社会の構造。だが女性が経験する問題にとどまらず、白人の異性愛者の女性である自分自身よりも差別の対象になりやすい、セクシャルマイノリティや人種的マイノリティの権利にも目を向けるようになった。そんな彼女がアーティストとしての審美眼を使ってキュレーションしたアイテムの売り上げの一部を、サポート団体に寄付するという活動が、Kidd Bellの事業。(参照元:Inc.)販売しているアイテム自体も、人々を勇気づけたり、連帯させたり、伝えにくい自分の意思を表明したりできるものとして意味を持っているという点が非常に重要だ。声高々に主張することだけが、主張じゃない言うまでもなく、声高々に自分の考えや思っていることを主張することだけが、主張の方法ではないだろう。自分の思想をさりげなく発信したい人には、洋服やカバンにそっとつけることのできるピンズのようなアイテムがある。このようにメッセージの込められたユニークなアイテムを持ち歩くことも、立派な主張の一つだと考えていい。Kidd BellWebsite|Instagram
2018年06月03日こんにちは。赤澤 えるです。思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』、第11回です。たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?服の価値、服の未来、ゲストのお話をヒントに考えていく連載です。本日のゲストは、人気ブランド「earth music&ecology(アース ミュージックアンドエコロジー)」をはじめ、15ブランド・900店舗を国内外で展開するストライプインターナショナルの創業者である、石川康晴さん。私がディレクターを務める「LEBECCA boutique(レベッカブティック)」も同社のブランドです。社会に多大な影響を与え、全く無名の私に人生最大の転機を与えた彼が選ぶ、「記憶の一着」とは?石川さんと赤澤える初めて作った服、最後に作った服赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。石川 康晴(以下、石川):20年前に作ったTシャツです。90年代後半、僕が27歳の時。初めてデザインしたものと最後にデザインしたものを両方持ってきました。石川さんが20年前に作ったTシャツえる:石川さん、デザイナーもしてたのですね。石川:うん。これは「e hyphen sixty-six(イーハイフン シックスティーシックス)」というブランドなんだけど、今も会社にあるブランド「E hyphen world gallery(イーハイフンワールドギャラリー)」の前身に当たるブランドです。える:もう既に会社を作って、社長業をしていましたか?石川:やってた。小さなアパレル会社を岡山で始めて4年目の時。今の規模になるなんて想像していなかった頃だね。こんなのばっかり着てたよ。この2枚には5年の差があるし今となってはブランド名も変わったけど、なんだかテイストが似ていると思わない?赤澤:そうですね。今のイーハイフンの軸に通ずるところを感じます。これを作った頃って、今の会社を代表するブランドであるearth music&ecologyはどんな感じでしたか?石川:無かった。このTシャツを見てアースだって思わないでしょ。オーガニックもナチュラルも程遠い感じだよね。20年ぶりに始めたデザインの仕事える:遊牧民族という表現がありましたが、次に水や草木があると石川さんが感じることは何ですか?石川:実は僕、20年ぶりにデザインを始めたんです。koe(コエ)というブランドでね、退職したメンズデザイナーの代打だけど2,3年くらいやってみようかなと思っています。もう一回色々見つめ直すには良いタイミング。このTシャツのようなデザインにはならないよ。20年経って、反骨精神やボディピアスがお洒落で人気者という時代じゃない。える:大きく変わったのですね。次のデザインにはどんなコンセプトがあるのですか?石川:僕がkoeでやりたいと思っているのは“新しいトラッドを作る”ということ。koeのメンズは “ドロップ&テーパード”というのが軸にあって、それを日本のスタンダード、新しいトラッドにしたいと思っています。そのコンセプトで自分たちの考え方や着方を作っていきたい。社会を作るとか社会に何か問いかけるということにおいて、服の力って凄くあると思うんです。20年前とそこは変わらない。けど、このTシャツでの思いとは全然違うね。今少し服ができてきたけどまだ50点くらいかな。でもやりたいことが半分はできている。える:やりたいことって?石川:高い値段で良いものを作るって誰でもできるけど、3,000円だとかそういう制限がある中で良いものを作るとなると能力差が出るんです。koeでは、これが3,000円で買えるのか!ってものを作りたい。すごく楽しいです。今はお金を使う先がたくさんあるので、色々なことに生きている人たちがいますよね。そういう人たちに服を提供していきたい。お客様の限られた予算の中で最高のパフォーマンスやデザインを提供していきたいと思って、koeのメンズを作っています。える:20年前とはまた違う、新しい挑戦ですね。石川:そうだね。earth music&ecologyも立ち上げ時もデザインをしていたんだけどその時ともまたテーマが違うし、僕が今まで作ったことのないものです。パンクからエコロジー、そして次はトラッド。何をやっても楽しいけど、いつも新しいカルチャーを作りたいと思っていて。日本のネオ・トラッドを世界中の人が着てくれるようになってほしいなと思って、ファッションの街である渋谷でこれを仕掛けていきたいです。える:世界中の人の“記憶の一着”になる可能性がありますね。石川:そうなったら嬉しいね。える:すごい!石川:僕たちはバーゲンでは安く売ったりするけれど、他ではブランディング維持のために安くせずに大量に廃棄する方法をとるブランドもある。ブランドイメージを下げないようにするためだけど地球には悪いことをしている、というブランドはすごく多いです。earth music&ecologyの場合はいつも安いねってイメージだけど、実は一番服を捨てていないんです。ブランド名にエコロジーと付いているけど、オーガニックコットンやヘンプを使ったり草木染めをすることだけじゃなくて、本質的に一番大切なエコロジーって“捨てないこと”でしょ。だから、これからもearth music&ecologyが一番大切にしてきた消化率100%に近づけるということは実現したいし、えるはえるで違う視点でやって行ってほしいと思う。根底にあるものは近いよね。える:私も近いと思います。石川:大量に作っていると、大量に廃棄しているだろうと決めつけられてしまうんです。それは世界中のファストファッションがやっているかもしれないことでearth music&ecologyがやっていることではないんですよね。大量に作っていても大量に捨てていないブランドがあるということは胸を張って言いたいし、社会に伝わるといいなと思っています。叩かれても“ハーフオーガニック”える:このTシャツは良い生地を使っているからこそ残ったのかもしれませんよね。答えにくいかもしれませんが、良い素材を使わないで安く作っていたらすぐボロボロになって結局捨てません?石川:その点で言うと、 “ハーフオーガニック”という裏コンセプト的なものがkoeにあるんです。これを言うと叩かれてしまうかもしれないんだけど。胸を張って“ハーフオーガニック”と言っています。コーラも飲むけどハーブティーも好き、ジャンクフードも食べるけどオーガニックの野菜も好き、僕はそれが人間な気がしていて。える:確かにそれが人間な気がする。石川:koeの服もそういう感覚でありたいんです。このナイロンブルゾンはケミカルな作り方だけど耐久性に優れているとか、オーガニックコットン100%のTシャツは製造工程は良いけど耐久性の面ではちょっと弱くて廃棄に繋がりやすいとか、このどっちもどっちな感じが良い意味で“ハーフ”。える:わかるかもしれない。石川:この“ハーフオーガニック”ってきっと10年くらいかかるんだよね。僕たちの言うオーガニックというのはオーガニックコットンを使うことだけじゃなくて。“この商品は貧困国の製造現場で働く工員のボーナスをあげるために販売する商品です“というものを作りたいんです。僕たちの中ではこれもオーガニック。ナイロンを作ってリユースし続けることもオーガニックだし、店内の1割をオーガニックコットンの製品にすることもオーガニック。まだ確定とはいかないけど、渋谷のhotel koeでは年に一度エシカルウィークを開催したいなぁなんてことも考えています。hotel koeの写真 Photo by Kenta Hasegawaえる:それは嬉しい!石川:カオスでケミカルな渋谷から、自分たちのフィロソフィーに合ったゲストを呼んでトークショーをしたり、世界中のエシカルマインドの人に来てもらって…。える:フィロソフィーって前述の“ハーフオーガニック”ですか?石川:そうだね。なんというか、全身草木染めしか着ませんというのは僕たちとはちょっと違うんです。僕たちは“ハーフオーガニック”が今一番ベストなパフォーマンスだと思っているから。大きなファストファッションブランドが“ハーフオーガニック”になったら、100%オーガニックで1億円くらいの規模のところよりもよほどソーシャルインパクトが強いと思う。僕たちは規模を選んだ会社だから、それを選んだ会社としてソーシャルインパクトを出す。これを考えた場合“ハーフオーガニック”を取り入れたいと考えています。ただ、えるのような匠の規模で徹底的に100%に向けていくというブランドもあって良いと思うんですよ。える:私たちのブランドも実際のところ今は“ハーフオーガニック”です。石川:僕は、“100%オーガニック”という50年の活動より、僕たちの“ハーフオーガニック”という数年の活動の方が地球は青くなると思っています。世界で展開するブランドが、エシカル業界の人から叩かれることを覚悟で“僕たちはハーフオーガニックです”と言うことは大きい。える:そうですね。石川さん、やっぱりいつもどこかにパンクの精神がある。20年前と同じ。石川:そうかもしれない。今は僕たちの製造ラインに関わっている人たちに喜んでもらいたいとか、そういうことを考えてやっています。毎年5%ずつくらいしか改善しないかもしれないけど、10年くらいかけて僕が57歳になった頃には“ハーフオーガニック”が店全体に散りばめられていて、“ハーフオーガニックなkoe”が世界にソーシャルインパクトを与え出す、というのが今の僕たちのイメージです。僕たちは新品も作るし、中古ビジネスもやるし、レンタルビジネスもやるし、捨てられないように仕組みを作るっていうのも大事なオーガニックかなと思っています。Eru Akazawa(赤澤 える)Twitter|InstagramLEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
2018年06月01日牛乳だけでなく、豆乳、アーモンドミルク、ココナッツミルクなど、「ミルクの選択肢」が近頃では増えてきた。だが、なぜ牛乳以外のミルクの存在感が強くなってきているのだろう?カロリーやコレステロール値を気にする人が多いからというのも一つの理由だ。しかしそれだけではなく、牛乳のような動物性のミルクが、実は思いのほか環境を壊しているという理由で、ほかのミルクに替える人たちも世界では少なくない。今回はそのように注目されている植物性のミルクの一つ、オーツ(麦)ミルクを作る透明性の極めて高いスウェーデンのブランド「Oatly」(オータリー)を紹介する。製品の「不完全な点」まで公開する先ほど書いたような「環境を考えた牛乳の代替品」であることだけでなく、高い透明性を誇っているのが、Oatlyのもう一つの大きな特徴だ。ウェブサイトでは製品一つひとつのよさ以外に、「まだ完全でない点」をも丁寧に説明している。これはほかではあまり見られないだろう。たとえば、メインの製品である「Oat Drink Chilled」なら、原材料、それぞれの原材料の生産地、栄養成分、ヴィーガンであること、グルテン含有量に関する情報以外に以下の情報が公開されている。WHAT’S AMAZING(どこが素晴らしいのか)心臓の働きにいいβグルカンが含まれているのが特徴。それだけでなくタンパク質や脂質、炭水化物など良質な栄養素がバランスよく含まれている。砂糖は不使用だが、ビタミンDやリボフラビン、ビタミンB12、そしてカリウムが添加されていてオーツだけでは摂れない栄養素を摂取できる。WHAT MIGHT BE LESS AMAZING(どこがあまり素晴らしくないのか)オーツミルクをパッケージングのために、わざわざスウェーデンからドイツまで運んでいる。理由としては、Oatly自体が小さな会社ですべての製品をパッケージングするための設備を持てないから。また、乳や大豆を一切使用しない製品を作っているため、そのような成分を混入させない安全性の高い工場を選ぶのが重要であり、まだ基準を満たす工場をスウェーデンで見つけられていないのも理由だ。詳細はこちらまた、Oatlyのオーツミルクには身体によくないとされているパームオイルが使用されているものの、使用しているものは害の少なく、使用を続ける理由もほかの情報と同様に丁寧に説明しているため、消費者の判断材料があるという点で評価していいのではないか。▶︎オススメ記事・ビールのかすを飲み物に。“価値のないもの”を、「最先端エナジードリンク」へと昇華させたスタートアップ・「フェアトレードでは救えない人々」に手を差し伸べた北欧No.1のスムージー会社、froosh。All photos by OatlyText by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年05月31日東京・青山、大通りに面しているビルに、「世界から最先端の素材が集められた会員制ライブラリー」がある。会員以外が入れる機会の少ない同ライブラリーを、今回Be inspired!は特別に見学させてもらったため、そこで目にしたものをレポートしたい。▶︎オススメ記事・先進国のゴミに「売れる価値」を吹き込む若きガールズアート収集家、Space Space。・スウェーデンで誕生。“ゴミ”しか売らない「ゼロウェイスト・ショッピングモール」All photos and text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年05月30日アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。マキ:まずは、2人の出会いやバックグラウンドについて教えてもらえるかな。クリス:ムサと僕は、もともと高校ぐらいからの親友で、いつも一緒につるんでいるような仲だったんだ。2人ともファッションが大好きだった。とはいえ、当時(10年以上前)はあまり選択肢がなかったんだけどね。それでもカッコイイアイテムが欲しかったんだ。マキ:高校卒業後は、どんな進路を歩んだのかな。ムサ:僕は、ナイロビ大学に行ってデザインを学んだ。卒業後は、グラフィックデザイナーとして3年ぐらい広告代理店で働いた後、Made with Loveというデザイン会社を立ち上げた。クリス:僕は、大学には行かなかったんだ。当時は、大学という4年間のコミットメントはちょっと違うかなと思って。なんか教室で座って講義を聴くというスタイルが自分には合わないと感じたんだ。今もその考えは変わってはいないけど、若かったし、楽観的に考えていた。進学しなかったことを後悔することもなくはないけど、自分にとっては毎日が学びであるし、いまの自分を形成してくれたまわりに感謝しているよ。キャリアとしては、コピーライターの仕事を中心にやってきた。マキ:BONGOSAWAというブランドについて教えて。ムサ:ナイロビという街を体現したブランド。ナイロビを盛り上げるブランド。自分にとってナイロビはホームであり、すべて。クリス:ナイロビという都市、スラムに至るまでの街のエネルギーや鼓動を伝えるブランド。マキ:わたしもBONGOSAWAのTシャツなどを何枚か持っているけど、基本的に黒ベースに、白のグラフィックデザインというモノトーンなストリート・スタイルが特徴的だよね。ムサ:アフリカのファッションというと「カラフル」というステレオタイプがある。でもBONGOSAWAはあえて、黒が基本。特徴的なグラフィックで、メッセージ性を大切にしている。例えば、「The Courier」というテーマのカプセル・コレクションでは、実際に「The Courier」というタイトルのオンライン雑誌を自分たちで作って、そのグラフィックやコンテンツをTシャツなどのアパレルにした。雑誌の第1号のメッセージは「解放」だった。次のコレクションでは、「ナイロビ、労働者回帰」をテーマにガテン系の労働者たちにインスピレーションを受けたストーリー展開を予定している。「ナイロビ発グローバル」という挑戦マキ:わたしは、何度かナイロビを訪問しているし、ナイロビのクリエイティブシーンが盛り上がってきているのを肌で感じている。でも、日本を含めて、世界にはまだまだ伝わりきれていないと思う。BONGOSAWAというムーブメントは、どのようにしたらもっと世界に広まっていくかな。クリス:ナイロビという地元で活動していても、グローバルな視野やマインドセットを持ち続けることは絶対に必要。ただ、それだけでは足りないんだ。世界のカルチャーシーンに対してもっとプレゼンスを発揮していかなくてはならない。そのためには、オーセンティック、つまり本物・信頼できるものであることが重要。それから、ナイロビのクリエイティブ業界がもっと持続可能なものになっていかなくてはならない。マキ:持続可能というのはどういう意味かな。クリス:個々のビジネスが育っていくだけでなくて、産業を作って行く必要がある。さっきコラボレーションという話をしたけど、クリエイティブ業界にいるみんなが協力しあって、もっと団結して、世界にアピールできるようなものを作りあげていかなくてはならない。マキ:いままでは残念ながら限られていたけれど、特に欧米の文化的な領域においてアフリカのプレゼンスは少しずつ高まってきていると、個人的には思っている。賛否両論あると思うけど、一度も植民化されずにテクノロジー先進国として発展した仮想のアフリカの国ワカンダを舞台にしたスーパーヒーロー映画で、全世界で記録的なヒットを起こした『ブラックパンサー』についてはどう思う?BONGOSAWAのムーブメントにとって追い風になるのかな。クリス:ブラックパンサーは、個人的には、必ずしも、最高に優れた表現方法だったとは思っていないけど、アフリカをテーマにして、もしくはアフリカにインスピレーションを受けた映画として、一つの大きな通過点だといえると思う。黒人プロデューサーやライター含め様々な人々が協力しあって、(アフリカ人が)待ち望んでいた、アフリカ人が主人公のアフリカが舞台になっている未来志向の物語を、世界中の観衆に対して伝えたという意味では、非常に勇気付けられるものだった。ぼくらは、あまりにも長い間、蚊帳の外に立たされてきた。アフリカには素晴らしいものがある。しかし、それがどれだけ奥深いものであったとしても、世界の関心は低く、その価値が世界に知られていないのは、もっとも悲しいことだ。マキ:ブラックパンサーは、一つのハリウッドの成功事例でしかないけれど、世界がアフリカにより注目していくという動きは、今後ますます増えていくだろうし、そう願いたいね。クリス:一人の起業家として、アフリカの成長、アフリカ人の活躍、アフリカの経済成長をリアルなものとして感じている。一方で、若者に与えられたツールやリソースは非常に限定的なんだ。若者に機会がないというのは、アフリカの機会を捨てているようなもの。多くの人々がより豊かな生活を送れるようになる機会をね。一方で、ポジティブなマインドも持ち続けている。クリエイティブ業界の様々なチャレンジはあるけれど、ぼくらはよりよい状況をつくっていけると思っている。マキノマド・ライターMaki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。
2018年05月29日前時代のルールに縛られず、新しい価値観を生み出してきたのは、いつだって若者だった。「若者の〇〇離れ」という言葉が示すのは、盛者必衰の理だ。数々の変遷を重ねてきた「お金」に対する価値観も、また変わり始めている。「何もする気がないなら家を出て行きなさい」。大学受験に失敗し、浪人生になるでもなく、就活するでもなく、家でダラダラと過ごしていた井上さんは母親にこう言われた。筆者なら気を取り直して勉強なり求人情報を漁るなりするところだが、彼は違った。もう典型的なゆとり。やりたいことはないけど、もう一度受験勉強するのも、高卒フリーターになるのも無理だった。でも家を追い出されたから、何とか生きていかないといけないと。だから「お金を借りたら生きていける」って思って、銀行に通いだしたんです。馬鹿ですよね(笑)。そのうち仲良くなった銀行員の方にいろいろ教えてもらって、事業計画書を作んなきゃお金は借りられないってことで、僕なりに案を練ってみたんですが、全然話になんなかった。だから最終手段で、6年ぶりに親父に会いに行ったんです両親の離婚を機に離れて暮らしていた父親のもとを訪ね、挨拶もそこそこに、「起業するからお金を貸してほしい」と迫った井上さん。「親不孝すぎる(笑)」と当時を振り返るが、起業家だった父親はこれを快諾。開業資金600万円と、事業に関するアドバイスを送ってくれた。そうして起業から1年半後には無事に借金を父親に返済。その直後にツテを頼って上京。SNSで親交のあった知り合いに誘われ参加したある上場企業のビジネスコンテストで優勝し、そのまま1300万円の出資を受けて、人生2度目の起業を経験することになる。でもこれがうまくいかなかった。社員はすごく優秀だったけど、僕がチームをうまく回せなかったんです。それで廃業して、そのあと出資してくれた会社に誘っていただいて入ったんですけど、ストレスで蕁麻疹が全身に出るという。やる気満々で入社して、1ヶ月で辞めちゃいました。いろんな人に頭を下げて。このとき分かったのが、自分はどうやら会社員には向いてないらしいということ。だから圧倒的ストレスフリーな居場所が僕には必要だったんです。それで作ったのがMIKKEですこの時彼は22歳。高校卒業からの4年間は怒涛の日々だった。もう一つの居場所を作るために起業。創造性を最大化するために「自分でベーシックインカムを作っちゃった」使用に当たって料金を取らないという特異なビジネスモデルの裏にあるのは、「明日食えるかどうかの心配をしながらクリエイティブになれるワケがない」という考えだ。クリエイターは寝食を二の次にして、社会に対して表現したいことを突き詰めたいって常に思ってるんですけど、でも生きていくためにはお金が必要じゃないですか。僕は明日食えるかどうかの心配をしながら本当のクリエイションが生まれるのか疑問なんですけど、そんなこと言ったって生活していくためにはお金が必要です。お金が理由で持ってるアイデアに賭けられないって人を見てきたから、それを変えたいと思ってChat Baseを作りましたそんなChat Baseの使用条件はたった一つ。物事の価値を再定義できるクリエイターであること。例えば井上さんは今、“贈り物”専用の本屋をある会社と共同で準備しているというが、彼が目をつけたのは、“贈り物”という行為に隠されていた価値だ。人からもらった本って、「自分では買わない本」だから予想外なことが知れて面白い。自分で買った本は「これ面白そうだな」っていうバイアスが無意識にかかってるから、心の底から感動することって実はあまりない。それを変えたくて。しかも贈り物を選ぶ時間って、「喜んでくれるかなー?」ってワクワクしてるから、贈る側も楽しいんですよね。こんな感じで僕は今“贈り物”を再定義してるんですけど、こういうことができる人が集まってるのがChat Baseですお金の限界が見えてきた? お金じゃ買えない価値ってなんだMIKKEWebsiteMIKKEは、全ての人を「クリエイター」と再定義し、クリエイターとともに事業を生み出すコミュニティです。機械化・合理化が進む時代だからこそ、見落とされがちな「無駄なもの」に価値を見出し、人の感情に寄り添う事業を作っています。また普段忘れてしまっている感情や文化の価値を再評価し、ネット上だけでなく現実世界での人とのつながりやあたたかさを再起するための事業プロデュース/ブランディングを行っています。
2018年05月28日多様な体型の美を発信する「ボディダイバーシティ」や自分の体への愛をオープンに表現する「ボディポジティビティ」ー SNSのパワーをかりて、それまでマスメディアでは取り上げられることの少なかった多様な美を祝福するムーブメントが欧米で始まってから久しい。オーストラリア、メルボルンを拠点とするビジュアルアーティスト、Frances Cannon(フランシス・キャノン)もそんなムーブメントの中の重要な一人。Instagramで1万6千人近くのフォロワーを有する彼女は自身のメンタルヘルスや体型への葛藤を素直にさらけ出し、一貫して「自分を愛することの大切さ」をイラストや写真を使って人々に届けている。今回Be inspired!は社会派のアーティストを紹介する『GOOD ART GALLERY』でフランシスにメールインタビュー。彼女の数多いメッセージの中でも、「女の子が助け合う精神」について話を聞いた。フランシス・キャノンーまず、少し自己紹介をお願いします。フランシス・キャノンです。オーストラリアのメルボルンを拠点にビジュアルアーティストとして活動しています。ー普段はどんなことを作品のテーマにしているの?自分の経験と自分の体についての作品が多いかな!女性として自分が経験すること、これまでの記憶、そして自分の体。ーフランシスの作品にたびたび出てくる「女の子が助け合う」っていうコンセプトが素敵。「女の子が助け合う」ことがどうして重要なんだと思う?社会は女性がお互いを比べ合っちゃうような仕組みになっている。でも想像してみて。もし比べ合う代わりに力を合わせたらすごいパワーになると思うの!「お互いをサポートしよう」「一緒になって力を合わせて/女性たち」「私たちはお互いを助け合わないといけないよ」ーどうして世の中は女性同士が比べ合うような仕組みになっちゃってるんだろう?マスメディアが、幸せになるためには「こういうふうな見た目じゃなきゃいけない」「こういうふうに振る舞わなきゃいけない」って決めつけているからだと思うけど、単純にそんなのウソ!ー「比べ合う精神」から女性が解放されるためにはどうしたらいいと思う?自分が欲しいと思うものを素直に追っかけて!自分を信じて!自分が欲しい人生を手に入れるためにがむしゃらに行動して。誰にも「あなたにはできないよ」なんて言わせちゃダメ。あなたにはできるから!ー自信を失っちゃったとき、どうしたら自分を愛することができるかな?それは毎日「自分を愛する」と意識的に“決断する”こと。「今日は、自分に愛とリスペクトを持って向き合う」って自分に伝えるのもいい第一歩かな。▶︎これまでのGOOD ART GALLERY・#12 「日本を責めたいわけじゃない、でも知って欲しい」。日本にまつわる“韓国の思想”をアートで体現する女性・#11 そのペニスは生きている?死んでいる?「見た目主義」な社会の体に対するイメージをひっくり返すアーティスト・#10 「食のために毎秒4万の命が殺される」。その事実を全身で訴え続ける、“動物”に最も近いアーティスト▶︎オススメ記事・背が高い、足が長い、細い。典型的なモデルしか使わない下着ブランド ヴィクシーに抗議したファッションショー・「そばかすメイクブーム」から得た、自分の嫌いなところを好きになるヒントAll photos and illustrations via Frances Cannon Text by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年05月25日こんにちは。赤澤 えるです。思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』、第10回です。たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?服の価値、服の未来、ゲストのお話をヒントに考えていく連載です。本日のゲストは編集者でありファッション・クリエイティブ・ディレクターの軍地彩弓さん。雑誌『ViVi』でフリーライターとして活動後、『VOGUE GIRL』の創刊・運営に携わり、現在は雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマのファッション監修、情報番組のコメンテーターまで、幅広く活躍している女性です。各方面から引っ張りだこの彼女が選ぶ、「記憶の一着」とは?赤澤 える憧れの存在だった『記憶の一着』とは赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。軍地 彩弓(以下、軍地):3年前くらいに買ったサンローランのもの。元々サンローランというブランド自体がすごく好きで憧れていました。エディ(Hedi Slimane:2012年より4年間にわたりサンローランのクリエイティヴ・ディレクターを務めた人物)が入った時は衝撃的でした。デザイナーによってブランドが変わるっていう、ありありとしたことを見た。それでサンローランの“エディが作るジャケット”が欲しくて、手に入れました。サンローランのジャケットを纏う軍地 彩弓氏える:もう一着ありますよね。こちらはどういったアイテムですか。軍地:もう一着もサンローランです。14、5年前に知人からもらった、ステファノ・ピラーティ時代のコート。この時もサンローランに憧れがあって長く着ていました。ViVi時代は若いということもあり、安くてカジュアルな服ばかり着ていたしそういうものばかり扱っていて、サンローランのようなブランドは憧れ。バッグは買えても服を買うという感覚は遠い存在で、自分がそういうものを買えるようになるとは思っていなかった。そんな中たまたまサンローランのコートを知人からプレゼントされました。知人からプレゼントされたサンローランのコートを着ている軍地 彩弓氏える:良いなぁ…私にとってももちろん憧れの存在です。軍地:ラグジュアリーブランドの服は、日常で着ているカジュアルな服とはまったくレベルが違います。袖を通しただけで伝わる素材のよさ、滑らかさ、シルエット、パターンの素晴らしさ。欲しいシルエットは毎シーズンの気分で変わるけど、このトレンチコートは繰り返し着ています。サンローランに憧れて、初めて着たコートに感動して、その後自分で買えるようになって憧れのジャケットをパリで購入しました。私が“ブランド品”に惹かれる理由える:どれくらいの時に「これが憧れだなぁ」と明確に感じたか覚えていますか?軍地:もともと映画が好きなのですが、『昼顔』にでていたカトリーヌ・ドヌーブがポンパドールのヘアスタイルに、サンローランのトレンチコートを着ていたのが最初ですね。それでブランドの名前を知りました。スダンダードな一枚のトレンチコートなのですが、女性らしさが際立って「こういう大人になりたいな」と思いました。私にとって初めて憧れたブランドなのです。オードリー・ヘップバーンは『ティファニーで朝食を』の中でジバンシイのドレスを着ているとか、その頃の雑誌で学んで。そこからブランドへの憧れが生まれたんだと思います。ファッションは女性像を作ります。洋服で女性の印象は変わりますし、スタイルという概念も雑誌や映画から学んでいました。える:ただ単にヴィトンやシャネルの財布や鞄を持つということに憧れている人はよく出会ってきましたし、じゃあどうしてそのブランドが欲しいのか?という質問に答えられない人は珍しくないと思います。軍地さんの場合は、そういう憧れとは全く違った感じですね。軍地:もちろんバッグも憧れですよね。だけどファッションは時代、時代の女性像が込められていて、毎回ショーを見るたびにワクワクしました。当時「ファッション通信」という番組があって、中学生の頃からその番組を見るのがとても好きでした。大内順子さんが伝えるパリコレやミラノコレに興奮しました。ファッションの力をテレビの前にいて感じていたんです。パリのランウェイはすごく遠かったけどいつかあの場所に座りたいという強い思いはありました。える:今の軍地さんに繋がっていそうな感情ですね。軍地:今ファッションの仕事をしているのはあの時のことがすごく影響しています。親に「早く寝なさい」って言われながらも23時に居間に出てきて、ショーの様子をテレビで観たりレポートを聴いたりしたあの時の感覚は忘れられない。ひとつひとつのブランドが全く違う世界観を見せてくれる。ベルサーチはすごく強い女だったり、シャネルはゴージャスなブルジョワだったりとか。サンローランはある種コンサバティブで、品の良いパリっぽさがある。そういうファッションを見ている時に自分が得た興奮っていうのは、根底にずっと残ってるんだなと思います。ファッションは、ただの服じゃない軍地:この対談のお話をいただいた時、自分はどれだけ繰り返し服を着ているのかなって考えてみたんです。編集者という仕事柄、毎日ものすごい数の新しい情報に触れているし、なかなか前シーズンのものって着られないんですよね。これは自分の悩みでもあるんだけどね。今までは職業柄のこともあるし性格も元々飽きっぽいのもあって新しいものに対してガツガツしていられたんです。でも最近は「前シーズンのものを着ても良いよね」って思えるようになって。そうすると私の場合、前の服で着られるものって意外と限られてるなぁと気付いたんですよね。たった半年前のものだけど今これ着るとダサいねってものも出てくる。でも、このサンローランの服は「今着てもやっぱり良いな」と思えるものなんですよ。服って廃れるものと廃れないもの、この2種類があると思っていて。える:その違いって何ですか。軍地:パリのディオール展に行った時、歴代のディオールの服を見てファッションの領域を超えた素晴らしさがあると感じました。この展示を見るために長い行列ができ、お年寄りから子供まで見に来ている。ファッションにはそれだけの力があると。える:具体的にどんなものをご覧になったのですか。軍地:1945年のニュールックと呼ばれるバードレスとか。それが当時のそのままで置いてあるんですけど、今まさに着たい!と思える。70年以上のデザインがとても新鮮に見えて、今でも着たいと思わせる廃れない美しさがある。歴代のデザイナーたちの素晴らしさに圧倒されるのですが、私が一番新鮮に感じたのは創立者であるムッシュ・ディオールが作ったそのドレスだったんです。戦後すぐに作られた70年前のドレスが今でも私を興奮させるということに衝撃を受けました。える:観てみたい…軍地:ピカソやダリやコクトーのような当時の現代アーティストのアートって、今見ても古く感じない。それと同列に並んでいるのがディオールのファッションなんです。ムッシュ・ディオールにそういうアーティストたちとの交流があって、その時代の空気から一枚の服が生み出されている。そこには情熱だったり心だったりテクニカルなことだったり、その時のお針子さんの1針1針の空気もその1枚に全部凝縮されていて、それを見ているだけで涙が出てくるの。「ファッションの仕事をしていて良かったな」って再確認できて、忙しい時期だったけど無理してパリに行って良かったなって気持ちにもなりました。感動したなぁ。える:素晴らしいですね。軍地:ファッションって“ただ今日着る”っていうだけじゃなくて、アートでもあるし、人間が作る最高峰のもの。ものすごくレベルの高いものだってこと。ただの服じゃない。廃れないものの美しさ、良さ、世界観があるんですよ。だからみんなヴィンテージを好きになるのかも。若い子の方がそれを自然と選別しているのかもしれれません。さっきも言いましたが、だからこそ作る側の人は、服に命を吹き込んで欲しい。そうして、結果“残るもの”や“残されるもの”を意識して作って欲しいのです。必ず世の中のためになるから。Eru Akazawa(赤澤 える)Twitter|InstagramLEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、新しいファッションカルチャーを発信する、世界初の服フェス『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。
2018年05月25日こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。「源泉掛け流し」「循環ろ過」。この言葉を初めて耳にするという読者もいると思う。源泉掛け流しとは、地中から湧き出た温泉をそのまま浴槽の湯として常に利用している状態のこと。循環ろ過とは、浴槽の湯を循環器によって洗浄し再利用する方式のことである。源泉掛け流しの温泉は、科学的に健康に良いとされている温泉の効能を活かせる一方で、常に新鮮な湯を使い続けるぶんコストもかかる。逆に循環ろ過方式は、一定量の温泉を繰り返し使用するので資源を有効活用できるぶんコストがカットできる。ただし、循環ろ過に使用する塩素系薬剤は、温泉本来の効能を低下させてしまう。効能だけを考えれば源泉掛け流しの方が好ましいが、資源の確保や施設経営の面を考慮すると、循環ろ過に頼らざるを得ない一面もある。そんなジレンマを抱えたまま、源泉掛け流し、循環ろ過、またはその中間など、様々な施設が混在しているのが国内温泉業界の現状である。そんな中、とにかく良質な温泉を無くさないようにと奮闘する1人の若い女性が水品沙紀(みずしなさき)さん。栃木県日光市にある施設「中三依温泉 男鹿の湯(なかみよりおんせん おじかのゆ、以下、男鹿の湯)」を経営する28歳である。「お湯はいいけれど経営が続けれられなくなっちゃった温泉をとにかく救いたいんです」と語る彼女、20代にして温泉施設を経営することにした決意はどこから来たのだろうか。水品沙紀さん1000ヶ所以上を巡って抱いた温泉経営への想い千葉県出身の水品さんは小さい頃から家族でよく日帰り入浴をしていたのがきっかけで温泉に愛着を持って育った。本格的に温泉巡りを始めたのは大学生の頃。これまでに訪れた施設は全国1000ヶ所以上にのぼる。大学卒業後、温泉施設の運営を手がける「株式会社温泉道場(以下、温泉道場)」に就職。当時新卒を採用していなかった同社だが、温泉業界の改善に取り組みたいという彼女の熱い想いが届き、初の新卒社員として入社する。水品さんはその配属先だった埼玉の温泉で施設を経営するノウハウを学んだそうだ。勤め先だった埼玉の温泉施設は、地元の人が気軽に入りに来れる良い雰囲気の場所でした。施設運営のコンサルティングや再生を手がける温泉道場で働く中で「お湯は良いけど経営がうまくいっていない施設をどうすれば立て直せるか」についてどんどん関心が湧いてきました。想いは徐々に膨らみ、「いつか自分で温泉を経営したい」という強い願いへと変わってゆく。そして温泉道場に勤めて2年半、男鹿の湯との出会いをきっかけに退職。2014年7月から経営不振により休業していた男鹿の湯を再建をすることを決意し、開業に向けてスタートを切った。男鹿の湯は、経営を引き継げさせてもらえそうな施設を調べている中で見つけました。前職で勤めていた埼玉の温泉と水質が似ていたから親近感もあってここに決めたんです。男鹿の湯が位置する栃木県日光市の中三依という地域は、北の福島県会津地方と、南の日光市街を結ぶ交通の要衝だった。栃木県日光市にありながら、気候・風土は会津のよう。はっきりした四季の移り変わりや豊かな山々に恵まれ、最寄り駅である「中三依温泉駅」は浅草から電車で一本と、アクセスもしやすい。地球が語りかけてくるような自然に溢れた温泉大学の卒業論文では「地球と人をつなぐメディアとしての『温泉』」について論じたという水品さん。現代社会において温泉が果たす役割は、人が自然の中に生きることを感じられる点にあるという。湯治(とうじ)という言葉もあるように、古くから温泉は心身のメンテナンスとして機能してきた歴史があります。私自身も毎朝仕事初めの前に必ず入浴してコンディションを高めています。ただし、今の温泉業界の現状では、「温泉」と名がつくからと言って必ずしも効能が期待できるとは限りません。 温泉の定義とは「25℃以上の地下水」と曖昧であり、源泉掛け流しという言葉も濫用され、実態は不確かな施設があることも事実だと教えてくれた水品さん。一経営者として施設を続けていく難しさを承知している彼女は、そのような状況を仕方ないと理解しつつも、自分自身は温泉の質にこだわっていくと熱く語ってくれた。私が良いと思う温泉は山奥であったりと、大体アクセスの不便な所にあって、たくさんの人に知られているとは言えません。その代わりに岩場からすぐ近くで湧いた源泉を掛け流していてお湯も新鮮だし、環境を維持するために地域で大切に守られてきた歴史もあって、とても豊かな場所ばかりです。まるで地球が「はい、できましたよ!」と語りかけてくれているような、本物の自然を味わえる温泉に入り続けること、そしてそんな温泉の存在を広めていくことが、埋もれてしまっている良質な温泉を失わないために、今の私ができる地球と人への何よりの貢献だと思っています。恥ずかしながら筆者は水品さんに出会うまで、温泉業界の現状や源泉掛け流しという言葉も知らなかった。このように新たに興味を持ち、知識を得ようとしていく人にとって、一番の壁は「何が正しい情報なのかわからない」ということだろう。特に健康と名のつく分野においては科学的に裏付いた知識や情報を正確に手に入れることが必要になってくる。しかしそのハードルはなかなか高い。そんな中、水品さんの優しく、力強い語り口は、あっという間に僕を魅了し、もっと温泉について詳しくなりたい、温泉を楽しみたいと思わせてくれた。自分のことはとても謙虚に話す。けれど温泉のこととなると止まらなくなるくらい言葉に溢れ、自信に満ちた表情で楽しい話をしてくれた水品さんを見て、彼女がこれからたくさんの良い温泉を後世に引き継いでくれるんだろうと確信した。中三依温泉 男鹿の湯公式サイト|Facebook2016年4月リニューアルした栃木県日光市の日帰り温泉。温泉をこよなく愛し全国1000件以上を巡った水品沙紀が手がける。「Reborn(生き返る)」をテーマに、温泉の他にも食堂やタイ古式セラピーを併設。EVERY DENIMWebsite|Facebook|TwitterEVERY DENIMとは2015年現役大学生兄弟が立ち上げたデニムブランド。なによりも職人さんを大切にし、瀬戸内の工場に眠る技術力を引き出しながらものづくりを行う。店舗を持たずに全国各地に自ら足を運び、ゲストハウスやコミュニティスペースを中心にデニムを販売している。
2018年05月25日池尻大橋の“新店舗”からこんにちは!ALL YOURSというお店でDEEPER’S WEARというブランドを取り扱っている、木村 昌史(きむら まさし)がお送りします。それは、キャンペーンをしてバズらせたり、インフルエンサーを使ってプロモーションしていく手法とはちょっと違います。バズやインフルエンサーは「量」を追い求めるブランディングだと思っていて。インフルエンサーを使ったプロモーションはかつてのTVCMや雑誌広告で有名タレントを器用することとほとんど変わらない。TVCM、雑誌からSNSへチャネルが移行しただけに思えてしまう。また、キャンペーンを行って集中してバズらせることも、接点をたくさん作ってだんだん知ってもらうような僕らのやり方では違和感がある。一回で終わってしまっては意味がないのだ。実際にブランドやコミュニティの中で熱量が高まるのは時間がかかるから、我慢できずにフタ開けちゃうと熱が逃げてしまう。我慢ができずに無理矢理拡散させてしまうとブランドを消費することになるし、長期的に見るとブランド毀損することになる。バズやインフルエンサーの力を使うことを否定はしないけど、僕は、それはブランドの寿命を短くするだけだと思っているし、ブランドのメッセージが刺さる“いいコミュニティ”とは、「質」であって「量」ではないと思っています。まさにバズやインフルエンサーを使うことは量を追い求めること。圧力鍋みたいに熱量を上げていってファンを作っていくことは質を求めること。僕らが目指している方向性とは真逆の手法なんです。昔ながらの商店街も、オンライン上のショッピングモールも本質は同じ。「立地」を活かして集客するのが基本的な機能。商店街なら、駅前の立ち寄りやすい場所にあったり。オンラインモールだったら、認知度の高いキュレーションメディアやウェブメディアに取り上げられたりすることが「立地の良さ」だと思う。「商店街2.0」は立地に依存しない。同じようなスタンスや思想で共感しあってつながったお店が加入して、住んでいる近くにある加盟店で会員になってもらえば、別の地域にある加盟店でもサービスが受けられたりする仕組みです。それを全国にマッピングしていってネットワークにしていきたい。もしかして商店街っていうよりも、昔の「相互リンク」に近いかもしれません。それをリアル店舗にも適用して、「あそこにいくならこの店に行ったらいいよ!」と、店舗間でお客さんに宣伝して集客や送客の仕組みにしていきたいと思っています。商店街2.0はスピリットでつながった相互集客の仕組み。または「ネオ観光MAP」なのかもしれません。②ヒトの流動性を活かす / 促進する過去と比較して、移動コストが圧倒的に下がりました。LCCや高速バスなんかを駆使すれば、格安で移動ができます。以前に比べて、旅行する機会が増えた人も多いのではないでしょうか?ヒトの流動性を活かすのが、「商店街2.0」のもう一つのテーマでもあります。この「商店街2.0」の仕組みを使ってもらえれば、その地にある間違いないお店を紹介できるはず。そして、そのローカル店主に美味しいお店や、行くべき場所なんかを尋ねれば、観光雑誌よりもリアルで親和性の高い間違いない情報を教えてくれるはず!何しろ、それぞれのローカルで、同じような趣味嗜好を持った人たちの集団なのだから。これは、僕も京都で実感しています。京都って一般的には古都で歴史的な建造物が有名だけど、実は大学も多くて、若いモラトリアムが許容されている地域でもある。「サブカル」や「ユースカルチャー」がめちゃくちゃ多い。実は芳醇なサブカルチャーの巣窟だったのだ。それってローカルの人と交流しなかったら知らなかったし、それ以来、そのカルチャーに惹きつけられて、やたら京都に出向いてしまう自分がいる。そういう経験って何事にも変えがたいし、移動コストが下がっている今こそ、ローカルの口コミを頼りに旅をする格好のチャンスです。人が動くキッカケを作る。お店は「不動産」。動けないからこそ、カルチャーが作れるってメリットはある。お店が動けないなら、動きたいヒトを作っていく。そのお店の魅力を同じ価値観でつながった人たちに届ける仕組みが「商店街2.0」なのです。③グレイトフルデッド的観光ツアーツイッターで「今治のイベントに来ませんか?」と募ったところ、福岡、大阪、東京から続々と参加表明が…!結局、違う土地から10名以上が各々のスケジュールに合わせて今治という地を楽しんでくれました。しかも、東京から訪れたフリーランスや事業をやっている人から、ローカル向けに編集やブランディングのワークショップも自主的に行ってくれて、東京で磨いてきたものをローカルに落としていくこともできました。ひとつの行政区域で言うと、いわゆる「地方vs東京」みたいな論点で語られがちだけど、もっと小さい単位の東京はとてもローカルだ。そう、東京も小さく見てみれば、ローカルの集合体。「イメージとしての東京」は知っているかもしれないけれど、池尻大橋のことは知らないでしょう?東京タワーも、スカイツリーも無い東京の小さな街。それが池尻大橋。「池尻大橋いくと結構楽しめるな」「池尻大橋、意外と近いし行ってみたいところがいくつかあるから行ってみよう」みたいに、場の魅力を伝え、盛り上げていくことを考えています。ALL YOURS新店舗情報住所:〒154-0001東京都世田谷区池尻2-15-8電話番号:03-6413-8455営業時間:(平日)15:00〜21:00 (土日祝)12:00〜20:00定休日:月曜日ALL YOURSWebsite|Web store|Blog|Facebook|Instagram|Twitter|FlickrDEEPE’S WEARWebsite服を選ぶとき、何を基準に選んでいますか。天候や環境を考えて服を選ぼうとすると、着られる服が制限されてしまう。そんな経験ありませんか。そこで、私たちDEEPER’S WEARは考えました。服本来のあるべき姿とは、時代・ライフスタイル・天候・年齢・地理など、人ぞれぞれの環境や日常に順応することではないだろうかと。あなたの持っている服は、どれくらいあなたに順応していますか。服にしばられず、服を着ることを自由にする。人を服から“解放”し、服を人へ“開放”する。このDEEPER‘S WEARの理念を可能にするのが、日常生活(LIFE)で服に求められる機能(SPEC)を追求した日常着(WEAR)、「LIFE-SPEC WEAR」なのです。DEEPER’S WEARはALL YOURSが取り扱うブランドです。▶︎これまでのALL YOURS木村のLIFE-SPECの作り方・#015 “ポップアップストアの限界点”を感じた男が、販売を目的にしない「フラットなリアル店舗」を作る理由・#014 ファッション業界が作るトレンドって必要?「洋服に必要なもの」について考えるイベントを開催します・#013 “環境にいいゴミ作り”はやめよう。オーガニックコットンを使う前に服を作る人が知るべき、もう一つの手段・#012 8ヶ月で3600万円を調達。“イカれた男”が教えるクラウドファンディング成功のための「3つのヒント」・#011「高機能の服を売っても、つまんない」。機能よりも大切な“生活にフィットする余白”を持つ服を作る男▶︎オススメ記事・「規格外の野菜」が棄てられる日本で、オルタナティヴな販路“青山ファーマーズマーケット”が必要な理由・日本中に心を満たす生産と消費を。国内生産率3%のデニムに、誰もが愛着が持てる社会を作る25歳の起業家Photo by ALL YOURSText by Masashi KimuraーBe inspired!
2018年05月24日5月26日(土)に東京・渋谷で「音楽×アート×社会をつなぐ都市型フェス」が開催される。「Make All(すべてをつくる)」というメッセージ、そして「カルチャーの集まるショッピングモール(Mall)のような場所」という意味が二重に込められたイベント名は『M/ALL(モール)』。 クラウドファンディングが目標に達成し、すでに無料開催が決定している。イベントに向け『M/ALL』の運営メンバーや参加アーティストに取材をしていく連載の第5弾として、今回Be inspired!は、韓国出身で大阪在住のラッパーMoment Joonさんにインタビューを行なった。韓国、アメリカ、そして日本という多様な文化背景を持つMomentの歌詞は、現代社会で生きる上で避けられない葛藤や心情を包み隠さず表現している。その理由を「“自分に素直であろう”という芸術をやる以上の義務」とまで言い切るMoment。彼の音楽、そして社会に対する思いとはーー。ー曲作りで心がけていること、目指していることは何ですか?芸術を使って具体的な事案について発言することは、すごく価値のあることだとは思いますが、下手うったらダサくてシュールになることが多くて、出来るだけ避けようとしています。ぐだぐだファクトや意見を並ベるだけだったら、音楽じゃなくてちゃんと論理を展開してる文章を読んだ方が良いでしょう。なので僕は曲で時事問題などについてコメントすることは極力避けてますね。その代わりに、自分が感じたことを述べています。ただニュースで流れる時事問題としてではなく、実際に影響を受けて変わっていく自分の人生と心を歌って、お客さんにそれを一緒に感じてもらえれば、自分の役割を果たせていると思います。ーラップの歌詞に盛り込んだ具体的なエピソードを教えてください。①『Dog Tag』–SoundCloud昔の曲ですが、徴兵されて韓国の軍にいた間に作った『Dog Tag』という曲があります。「Dog Tag」とは軍人たちの認識票のことですが、軍隊で経験した非人間的な待遇、自殺未遂の経験、射撃と武器の話など、日本では想像できないような軍隊の話について歌った曲です。自分にとっては辛かった時期の証明写真みたいなものですが、日本のリスナーにとっては軍のいう組織、日本での徴兵制や平和憲法などについて考えるときの一つ参考になったら嬉しいと思って作りました。②『Bathing Abe』– SoundCloud 『Bathing Abe』という曲はパロディです。SEALDsのデモの時に、自分も声を上げたかったのですが、単に真面目に批判したって面白くないしみんながやってることと変わらないと思って、こんだけ批判されてるのにそれを無視して「I don’t give a fuck」をする安倍首相ってある意味ヒップホップじゃないか?と思いついて。もし安倍首相がラッパーならこんなこと言うんじゃないかなと考えて作った曲です。彼の祖父の岸信介の話や、戦争や過去に対する彼の態度、改憲に至るまで、彼ならこんなことを喜んで自慢するだろうなと思ったことを歌詞に取り込みました。③『マジ卍』–Twitter最近作った曲で『マジ卍』という曲があります。まだ正式には配信していませんが。三浦瑠璃のスリーパーセル発言から、今の日本が本当にやばいなと感じ、その時の最適の言葉って「マジ卍」じゃないかと思って。自分で腹立ってることを色々話して、皆を挑発してみたいと思った曲です。THE M/ALLFacebook|Twitter|Instagram「音楽」「アート」「社会」をひとつに繋ぐ”カルチャーのショッピングモール”、「THE M/ALL」が渋谷で初開催! 「MAKE ALL(すべてを作る)」のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために。クラウドファンディングを通し本イベントの無料開催決定。「音楽xアートx社会を再接続する」をテーマに、ミュージシャン&DJによるライブ、アートと社会問題について各分野の若手クリエイターや専門家が語り合うトークセッション、会期前日から会場に滞在するアーティストがその場で作品を作り上げていくアーティスト・イン・レジデンスなど、さまざまな企画が4つの会場(WWW、WWWX、 WWWβ、GALLERY X BY PARCO)をまたいで同時進行します。<WWW / WWW X / WWWβ>2018年5月26日(土)OPEN 15:00 / START 16:00<GALLERY X BY PARCO>2018年5月26日(土)~5月27日(日)OPEN 15:00 / START 16:00
2018年05月23日子どもの服を選ぶ時、なぜだか、「ピンクのフリフリ」はちょっと嫌だった。筆者の子どもは、とりあえず病院では「女の子」って言われたけど、本当にそうかな?そんな思いもどこかにあってのことだった。だから必然的に子どもの服は、黒とか紺とかグレーばかりになった。しかし、そうすると、大抵男の子だと思われて、「なんだかなぁ」という気持ちになることも少なくなかった。幼い彼女/彼は発せられるものが少ないから、どうしてもアイデンティティが服に依存してしまうのだ。ピンクっぽい服なら女の子、ブルーっぽいと男の子。でも、もしそうじゃなかったら?
2018年05月22日もしペットを飼うなら、動物の譲渡会を開催する団体からもらうのではなく、「ペットショップ」や「ブリーダー」から購入するのがいいという感覚がないだろうか?モデルでZINEなどの物作りをし、最近では映像作品への出演が増えてきた咲月(さつき)も、幼い頃は同じような感覚だった。だが、「ペットショップ」でカジュアルに動物を手に入れることには、大きな問題があるという。今回Be inspired!はペットや里親について知ることのできるギャラリーイベントを企画した咲月に、イベント開催にあたっての思いをインタビューした。愛犬ぐらと戯れる咲月動物の譲渡会を開催する団体からもらうほうがフェア咲月が初めて犬を飼ったのは、小学5年生のとき。当時ペットショップに動物を見に行くことを楽しみの一つにしていた彼女だったが、母親からは「ペットショップで買うのではなく、動物の保護を行うNPOやブリーダーからもらうことを考えてみない?」と言われ、知り合いのブリーダーから一匹もらう話になっていたものの、タイミングが悪く実現しなかった。その後、飼いたいと思う犬に出会えたのは、祖母の家を訪ねた際に偶然寄ったペットショップ。彼女はそこで気に入ったチワワを買ってもらい、「ぐら」と名付け、現在も大切に飼っている。そんなわけで結局飼い犬はペットショップで購入することとなり、実際に自分で施設を見に行くこともなかったが、動物を保護する団体やブリーダーから犬をもらう話を聞いた当時の気持ちを振り返ると、想像がネガティブにしか働かず「どんな犬が来るのだろう?」と不安があったという。しかし譲渡会を開催する団体やペットショップ、ブリーダーについて調べていくうち、ペットショップから買うよりも動物愛護団体から譲渡してもらうほうが飼うにあたっての基準が厳しく試験期間を経なければ飼えないため、双方にとってフェアな関係を築きやすいことを知ったのだ。さらに、譲渡会から里親として犬を迎えることはその一匹の犬を救うだけでなく、譲渡会を開いた動物愛護団体に一匹分の枠を空け、殺処分の対象とされていた犬のなかから一匹を保護することにもなり、それだけで二匹の犬や猫などが助けられることになる。5月26日から原宿で開催されることになった彼女のイベント“Growls”*1では、動物愛護について調べたことをまとめた咲月のZINEや、古着屋と共同で動物に関するグッズが販売されるだけでなく、里親になることに興味のある方へ団体を紹介したり、動物の愛護に関する署名活動などを行ったりする。署名活動には、「動物を飼うためのライセンスを作る」という項目があり、それが実現したなら、ペットショップで目があった可愛い子犬をその場の衝動で買うということはなくなり、飼う責任を持った人でなければ飼い主になれなくなる。「犬や猫などの動物が日常生活で身近な人にもそうでない人にも、人間と一緒に住んでいるペットや、動物園・水族館などで飼育されている動物たちに対し、改めて接し方や命の大切さを考えてもらいたい」。そんな思いが咲月をイベントの企画へ向かわせた。動物の愛護について知りたい・里親制度に興味があるけれど、団体の施設を訪ねるのは勇気がいるという人も気軽に立ち寄ってみてほしい。(*1)動物がうなるという意味があり、主張したくてもできないペットたちに代わって主張したいというメッセージが込められている咲月(SATSUKI)Website|Instagram女優として本格的に活動を行うことを目指しながら、不定期にZINEや曲などを作って伊勢丹新宿などのイベントで発表している。Photo by Chihiro Lia Ottsu Directed by ChicoModel Yaz & Hamu chan, Satsuki & GuraSpecial thanks to Robert Kirsch & Tim Borchert一般社団法人ランコントレ・ミグノンWebsite東京メトロ副都心線の北参道駅が最寄りのペットサロン、動物病院、犬猫などの動物のシェルターが併用された譲渡施設。毎月第2日曜日、第4土曜日に譲渡会が開催されている。株主への配当を“救えた動物の数”にするなど経営面やオリジナルのチャリティーアイテムもユニークなもので溢れている。▶︎オススメ記事・大好きな曲は、愛犬と。音楽配信世界最大手Spotifyが始めた「子犬の里親探しプロジェクト」とは・「動物の権利よりも、人権に関心がある」。米研究者に聞いた、これからの動物と人間の“フェアな関係”All photos by Robert Kirsch unless otherwise stated. Text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年05月21日2017年4月28日に渋谷にオープンした複合施設、「SHIBUYA CAST.」。都会のど真ん中にあるこの場所で、血縁にも地縁にもよらない「拡張家族」になることを目的に、共に暮らし、共に働く集団がいる。名前は「Cift(シフト)」。現在のメンバーは39名。半数以上が起業をしていたり、フリーランスのような形で働いている。ファシリテーター、弁護士、映画監督、美容師、デザイナー、ソーシャルヒッピー、木こり見習いなどなど、全員の肩書きを集めると100以上に。大多数のメンバーがCift以外にも、東京から地方都市、海外まで、様々な場所に拠点を持っていてその数も合わせると100以上になる。メンバーのうち約半数は既婚者で、何人かは離婚経験者。2人のメンバーはパートナーや子どもも一緒にCiftで暮らしている。そうした“家族”も含めると、年齢は0歳から50代にわたる。バックグラウンドも活動領域もライフスタイルも異なる39人が、なぜ渋谷に集い、なぜ「拡張家族」になることを目指しているのか。本連載では、CiftのメンバーでありこれまでにBe inspired!で記事の執筆もしてきたアーヤ藍が、多様なメンバーたちにインタビューを重ねながら、新しい時代の「家族」「コミュニティ」「生き方」を探っていく。アーヤ藍Photo by Jun Hirayama第5回目は、長野県小布施町で行政を絡めたまちづくりの現場に、約5年間携わっている大宮 透(おおみや とおる)さん。普段は長野県北部の小布施(おぶせ)町に拠点を持ちながら、月の4分の1ほど、出張のタイミングとあわせてCiftで暮らしている。Ciftの意思決定の場である月に一度の「家族会議」の場で、多様なメンバーたちの意見を調整するファシリテーター役も担っている。大宮透さん自分を育ててくれた街が失われていく寂しさと危機感アーヤ藍(以下、アーヤ):今、長野県の小布施町に住みながら、いろいろな活動をしているけど、もともと小布施にルーツがあるわけではないんだよね? 大宮透(以下、大宮)うん。もともとは6、7歳まで、山形の蔵王にある、10世帯くらいしか住んでいない山際の集落で育ったんだ。だから山があって雪がある景色が、懐かしさを覚える場所ではあるね。 そのあと群馬県高崎市に引っ越して、高校卒業までいたんだけど、当時高崎の街は、古着屋とか本屋とかおもしろいカフェとかが結構あって、そういう場所で学校帰りに、自分よりも10〜15歳上の大人によく遊んでもらってた。自分の親は大学の教員をしていて、それ以外の職業って全然知らなかったし、自分も進学校の高校に通っていたんだけど、街で会う大人たちは、中卒、高卒の人も多くて、フリーターでバイトをしながら音楽をガシガシやってますっていう人とか、「俺は日本全国にライブハウスをつくる!」って野望を語ってくれる経営者とかもいて、生き方の多様さを教えてもらった。 東京の大学に進学してからも2週間に1回くらいは週末群馬に帰っていたんだけど、その頃から街が変わっていったんだよね。大型商業施設ができて、街中の古着屋とかセレクトショップもどんどんなくなっていって、すごく悲しかった。自分の好きな場所、自分を育ててくれた街がなくなっていくことへの寂しさと危機感は、今の仕事に至る大きな原点だと思う。2009年、大宮さんが大学3年生の時に撮影していた高崎の街並み。当時、こうした建物がどんどん壊されていっていたため、「なくなってしまうかもしれない」と思って、よくフィルムで街を撮影していたとのこと。Photo by Toru Omiyaアーヤ:でも、高崎の街おこしではなくて、小布施に…? 大宮:大学院にいた頃に、高崎の中心市街地の活性化に関わらないかっていうお誘いと、小布施の町長から、今までとはまったく違う形のまちづくりをしたいから一緒にやらないか、っていうお誘いとを同時期にもらったんだ。最初は同時並行で関わっていたんだけど、徐々に高崎のプロジェクトのほうは、面白いけれども、違和感ももつようになったんだよね。 高崎のほうはどちらかというと民間ベースで、行政に頼らずに進めていくプロジェクト。身内のような信頼できる知り合いと一緒に活動させてもらっていたし、ある種とても恵まれた環境だったんだけど、そこに自分が役割を感じられなかったのと、活動をしていくなかで、僕はやっぱり行政のことがやりたいんだ、と気づいたんだよね。 大学の卒業論文を書くとき、「まちづくり条例」っていうものについて研究していて。たとえばある街で大きな商業施設を建てる計画ができました、と。でも住民は寝耳に水だった。そういうときに今までだったら反対する手段は裁判ぐらいしかなかった。でも裁判になったら完全に対立構造になっちゃう。だからそれよりも前に、行政と住民とが、専門家も交えながら、お互いに調整をしていく…っていう仕組み。それがすごく面白かったんだよね。住民が声をあげられる手段があって、ただ単にクレーマーになってしまうのではなく、お互いがお互いに街をよりよくしていくために協働する。それこそがガバナンスだなって。 そういう行政の仕組みに興味を持つなかで、小布施のほうはまさに、「もっと行政を開いていこう」とする動きで、しかも町長自ら主導している。毎回行くたびに、行政職員のほかに、町外のコンサルの人とか、30代中盤後半の若手の商工会メンバーとか、大学生も大学教授もいて、みんなが同じテーブルについている。その多様性が難しさでもありつつ、すごく面白く感じた。だから小布施のほうにコミットすることを決めたんだ。大宮さんも制作に携わった、小布施町のまちづくりのドキュメンタリー映像『おぶせびと』。20分あたりには、大宮さんと小布施町長のツーショットシーンも。※動画が見られない方はこちら大好きなホテル暮らしを手放して飛び込んだCiftアーヤ:透くんはけんちゃん(Ciftの発起人・藤代健介)と元々知り合いだったから、けんちゃんからCiftに誘われたのだと思うけど、入ろうって決めたポイントはどこにあったの? 大宮:複合的な理由があるかな。もともと月の5分の1くらいは仕事で東京に通っていて、そのときはいつもホテルに泊まってたんだよね。お気に入りのホテルがあって、常連になって、大体いつも同じ部屋を用意してくれるようになってたりして(笑)。 当時はホテルに定期的に住まうことが自分に必要だったんだよね。小布施にいると自宅にもいつも地域内外の人が来ては、仕事に関わるような話をしていたから、常にオンモード。東京に出る時はさらに、必要なリソースをとりに行くから“狩りをしにいく”感覚。だから、誰にも干渉されることなく、一人で「自分」に戻れるような場所がほしかった。ホテルの部屋に入るともうウキウキで(笑)、すぐ風呂!そしてあがったらビール!(笑)っていう感じで過ごしてた。東京の特に若い世代…年齢ではないかもしれないけど、定住せずにぴょんぴょん移動し続けている人だと、例えば近所の年配の人から、ゴミ出しについてしつこく注意されたら、「じゃあもう出て行くよ!」ってなっちゃうと思うんだよね。自由に選べるからこそ深まっていかない。でもそうやって口うるさく言ってくるおばちゃんも、ちゃんとコミュニケーションをとっていったら、そこには何か事情だったり意味があるかもしれない。 Ciftは「暮らしを共にする」っていうことが肝だと思うんだけど、ちゃんと入り口も出口もオープンにはなっているけど、とはいえ、住まいを変えるのって大変だしさ。1年とか2年とか一定期間でもいいから、住み続けるっていう意志をもってみんな入ってきてるでしょ。定住はしてはいないけど、多拠点のうちの一つがこういう深めていくコミュニティになっているのは、すごい大事なんじゃないかなって思っているよ。 アーヤ:私も定住せずにぴょんぴょんしている身だから刺さってくるわ(笑)。「拡張家族」ならではのガバナンスのあり方アーヤ:Ciftに入って1年ほど経つけど、どう?特に、年明けから「家族会議」(Ciftで月に一度、重要事項についてメンバーで話し合ったり意思決定をしたりする機会)の運営を、透くんたちが担うようになったから、Ciftでも気を抜きにくくなっていないか心配になる時もあるけど…? 大宮:最初の半年くらいは慣れなかったというか…。東京に来るときの“狩りのモード”が抜けなくて、帰ってくると疲れきっているから「ひとりになりたい」っていう気持ちが先行して、共有スペースに行く気になれなかった。特にここはクリエイティブな人たちがいっぱいいるから、「Hey!」って元気にいかないといけないような気もしていたし。だから、自分の部屋に直行して寝ちゃうことが多かった。安らぐホテル生活から、気を遣うホテル生活に変わったみたいな感じだったね(笑)。 でも徐々に、「一人で時間を過ごすためにCiftに入ったわけじゃない!」っていう思いも強くなって、意識的に共有スペースに出るようになっていった。それに逆に役割を得たことが僕にとっては大きかったかな。自分の立ち位置とか貢献できる部分、関われる部分があることで安心できる。それって血縁の家族や他のコミュニティでも同じところがあるんじゃないかと思う。住まいも、仕事も、情報源も、恋愛も、関わるコミュニティも、かなり自由に「選択」ができるようになっている現代の日本。それはともすると、嫌なことや辛いことがあったときに、諦めたり逃げたりすることも容易にしうる。そんな時代において、「家族」という拘束感のある選択をしはじめた私たち「拡張家族」。そこには生まれながらの家族以上に、「家族になる」決意が必要になる。そしてそこでの経験が、ひるがえって、オリジナルの家族を見つめ返す視点や、他のコミュニティとの関係性を結びなおすヒントも生み出しうる。複数の”居場所”をもつことで、それぞれでの学びや反省が「循環」していけば、社会全体がより豊かな繋がりに満ちていくのではないだろうか。次回の連載もお楽しみに!CiftWebsite|FacebookToru Omiya(大宮透)政策コンサルタント、共創コーディネーター1988年山形県生まれ、群馬県出身。大学・大学院で都市計画やコミュニティデザインを学び実践したのち、2013年に長野県小布施町に拠点を移し、政策立案や官民協働を推進する仕事をはじめる。現在は、公共を担う行政組織が、民間企業や大学、市民などの多様な主体とつながり、共創的に課題解決を実現するための場づくりや仕組みづくりを主な生業に、長野をはじめ全国の自治体と協働している。▶︎これまでのCiftの連載はこちら・#1 平和のための“ホーム”を渋谷につくる「建てない建築家」・#002 「人生が楽になった」。一児の母が39人の大人が住む家で子育てして気付いた“家族には正解はない”ということ・#003 “我慢と孤独”を抜け出した女性が「39人の家族」で見つけた、“ゆとり”を持ち寄ることで得られる豊かさ・#004 「子どものために用意されたものは、大人にもいいはず」24歳の鍼灸師が“他人の子ども”と暮らして気づいたこと▶︎オススメ記事・感度の高い若者に聞いた、都会から2時間半離れた「田舎暮らし」から得られる「都心では味わえない幸せ」とは・今時「豪邸に住むこと」なんて夢見ない。消費社会でポートランドが気づいた、“本当の自由”が手に入るタイニーな暮らしAll photos by Shiori Kirigaya unless otherwise stated. Text by Ai AyahーBe inspired!
2018年05月18日友達や知り合いに知らないアーティストを勧められたときや、ライブに誘われたとき、音楽を探る前にSNSで検索したことはないだろうか?Instagramのフォロワー数のチェックや、Apple Musicのアクセス数のチェック、もしくはFacebookのイベントの「参加予定」の人数のチェック。今の若者にはSNSは必要不可欠といっても過言ではない。流行りだけでなく、何が“イケている”と見なされているのかが瞬時にわかる。しかし、これで本当にそのアーティストの良さが見えるのだろうか?今回、Be inspired!はSNS上の数字判断に流されずに活動する、そしてアジアのアーティストを西洋へと発信しているグループ「Yeti Out (イェッティーアウト)」に取材した。Yeti Outメンバーのアーサー、エリセン、トム純粋な興味と地下室でのパーティーからの始まりYeti Out (イェッティーアウト)は、イギリスと香港をバックグランドに持つ双子の兄弟Arthur Bray(アーサー・ブレイ)とTom Bray(トム・ブレイ)、そしてのイギリス出身のErisen Ali(エリセン・アリー)の3人によって2010年にロンドンで始められた。隠れたライブハウスやクラブでアンダーグラウンドのパーティーイベントの主催から、有名ブランドのAdidas、Prada、Off-Whiteのイベント、アートショーまでも行う彼ら。始まりは、アーサーとエリセンの「Yeti in the Basement (イェッティー・イン・ザ・ベイスメント)」というアーティスト、イベント、アルバムをレビューする音楽ブログだった。それぞれ音楽とナイトカルチャーに情熱を持っていたアーサーとエリセンはイギリスの大学で出会い意気投合。興味本位で始めたブログを通して彼らの音楽への情熱と感性が認められ、特集を頼まれたり、イベントに呼ばれるようになったと話す。まだ学生だった彼らは、これを通してプレスのパスをもらいあらゆるイベントにタダで行けるようにブログを活用したという。ゲストDJのミックスもブログに投稿していた2人は、パーティーを開催し、そのDJのセットを組んだりと自分たちでイベントを手がけるようにもなっていった。近所迷惑を避けるため、家具を全てどけ、サウンドシステムを入れ自分たちの地下室でイベントをしていた。この地下室のパーティーが始まりだからこそ、「アンダーグラウンド」な音楽と活動こそがイェッティーアウトだと語る。ブログの投稿をする度、文章の終わりに「イェッティーアウト」と書いていたから今の名前が生まれた。その後双子のトムも活動に加わりイェッティーアウトは発展しいった。一括りに出来ない自分だからこそ、自分のセンスを信じて生かす私達の好みはどこまでSNSに染まっているのか?しかし、彼らの拠点は中国。共産党政権がコントロールしているインターネットの元でメディア活動をするのは困難だ。FacebookやInstagramだけでなく、GoogleやYoutubeさえ規制がかかっているのが現状。イベントや音楽のプロモーションの難しさや、ファンの音楽へのアクセス、ダウンロード制限などの壁は数知れず。ショーをするときは、国外のソーシャルメディアでショーのプロモーションをし、中国国内の人にも音楽をチェックしてもらうために中国でアクセス可能のサイトで音楽をアップロードしている。中国国内で使われている音楽アプリXiami( シャミー)、QQ Music(キューキューミュージック)そしてWeChat(ウィーチャット)を使いこなしてアーティストをサポートし、発信しているのだ。大変な思いは多々あるという。それでも、トムはこの様な環境であるからこそみえてくるものがあると話した。ソーシャルメディアは人の認識に大きな影響を持つ。いまいちなアーティストであっても、インスタのフォロワーが多いこともあるし、実際には才能はあってもフォロワー数が少ないこともある。フォロワー数からくるイメージはあてにできない。中国では、ソーシャルメディアのプラットフォームがほとんど検閲されているからこそ、逆に皆が平等にアーティストをみているといえるかもしれない。いい音楽を見つけるにも、ちゃんとしっかり音楽を模索しないと誰がイケてるかわからない。だからこそ、才能がある人こそが認められる。俺たちは、プロモーターとしてアーティストの才能をソーシャルメディアに沿ってではなく、彼ら独自のイメージ通りに発信する責任と力を持っているんだ自分が見つけだしてこそ意味がある3人の音楽やナイトカルチャーへの熱意から始まったイェッティーアウト。イギリスでアジアの音が注目されていなかったときからその価値を信じ、発信し続け、アジアではSNSの基準に流されることなくいいアーティストを世に送り出している。私達は、流行りやSNSに頼りすぎて自分自身の好みを自分の基準で探れなくなってしまっているのかもしれない。イェッティーアウトの精神は、現代社会に気づきを与えてくれる。Yeti OutWebsite|Facebook|Twitter|Instagram
2018年05月18日寝ぼけ眼をこすりながら起き上がる朝の、目覚めの一曲。やわらかい陽の光の下で芝生に寝転ぶ昼下がりの、癒しの一曲。気になるあの娘との初デートの帰り道に聞く、喜びの一曲。音楽はいつだって私たちに寄り添い、人生にたくさんの彩りとスパイスを与えてくれる。だからこそ、「共通の音楽の趣味」というのは、時に年齢や国境、時代までも越えて、“あなた”と“わたし”を結びつける強力な魔法として働くことがある。映画「500日のサマー」で、主人公・トムとヒロイン・サマーの恋が「わたしもザ・スミスが好きよ」というたった一言から始まったように。そんな音楽が持つ「魔法」に注目した、ある変わったプロジェクトがドイツで始動した。Photo by Moshe Schneider「共通の音楽の趣味」を持つ犬と里親を繋げるイギリスのグラスゴー大学の研究によれば、犬にはどうやら私たち人間と同じように「音楽の好み」があるらしい。これに着目したのが、音楽のストリーミング配信サービス・世界最大手のSpotify(スポティファイ)と、ドイツの動物保護団体、Tierschutzverein München e.V.(ティアシュツファイン・ミュンヘン、以下ティアシュツファイン)だ。1億7万人のユーザーの音楽の好みを知り尽くす大企業と、行き場のない動物たちの保護・里親探しに尽力する団体。両者が共同で開始したプロジェクトが、「音楽」と「犬の里親探し」を組み合わせた「Adoptify(アドプティファイ)」(Spotify + Adopt:人・動物を引き取る)だ。公式サイトでは、施設で保護されている犬たちを、それぞれの好きな音楽と一緒に動画で紹介している。たとえば、EDMのリズムに合わせて首をフリフリするRayくんや※動画が見られない方はこちらオペラの音色に気持ちよさそうに聞き入るMoshiくん※動画が見られない方はこちらロックのビートに飛び跳ね喜ぶMillowくん※動画が見られない方はこちら気になる子犬のリンクをクリックすれば、里親になるための問い合わせができる仕組みになっている。同じ音楽の趣味をもつ人間同士が惹かれ合うのだから、きっとそれは、犬と人間の間でも同じはず。一緒に大好きな一曲を楽しむパートナー同士を結び付けようという、なんともユニークなアイデアなのだ。「Adoptify」公式ページに動画が公開された子犬たちは、早速引き取り手が決まったよう。今後順次、新たな犬たちが、それぞれのフェイバリット・ミュージックとともに登場する予定だ。プロジェクトの裏にある社会問題。ドイツでは子犬は「買わず」、「引き取る」のが当たり前。愛くるしい子犬たちが音楽に合わせて踊るビデオを見て、思わず頬を緩ませた人も多いかもしれない。しかし、一見とてもポップで可愛らしいAdoptifyプロジェクトの裏には、「行き場のない動物たちをどうするか?」という、生き物の生死に関わる深刻な問題があるということを、ここで改めて明示しておきたいと思う。Adoptifyの立案者ティアシュツファインは、ドイツ第三の都市、ミュンヘンを拠点に活動する動物愛護団体だ。彼らは「Tierheim(ティアハイム)」と呼ばれるシェルターを持っていて、そこで行き場のない動物たちの保護と、新たな飼い主探しを行っている。動物愛護先進国ドイツには、ドイツ語で「保護施設」を表すこの「ティアハイム」が全国に500以上存在する。犬や猫の生体販売を行っているペットショップがほぼないため、家庭にペットを迎え入れる際には、ティアハイムから動物を引き取るという文化が、一般に浸透しているのだ。(参照元:PETOKOTO)実際、このミュンヘンのティアハイムには、年間約8千匹の動物たちがやってくるが、その7割が1年以内に引き取り手が決まるという。ドイツ最大のベルリン・ティアハイムに至っては、年間約1万頭の保護動物のうち、その譲渡率は9割を超えるということだ。また、ドイツでは、余程正当な理由がない限り、殺処分は原則行われない。(参照元:Tierschutzverein München e.V., PEDGE)Photo by Channey日本の「ペット業界」の闇では、私たちが住む日本はどうだろうか。動物を迎え入れる際にはまずペットショップに、というのが一般的だろう。その裏で起こっているのが、殺処分の問題だ。2012年に動物愛護法が改正され、保健所が「安易な理由での動物の引き取り」(可愛くなくなったから、引っ越すから、等)の申し出を拒否できるようになった。以降、殺処分件数は大幅に減少傾向にあるが、2016年時点でも、毎年約10万匹の犬・猫たちが、保健所で命を落としている。多くの地方自治体が掲げる「殺処分ゼロ」には程遠いのが現状だ。(参照元:クローズアップ現代+, PEDGE)更にそれと平行して、深刻な問題が存在する。公営シェルターや民間の動物愛護団体が、保健所送りを免れた保護動物を抱えきれなくなった結果、伝染病のまん延・多頭飼育崩壊・経営破たんが起きるなどのケースが出てきているのだ。(参照元:クローズアップ現代+)更には、引き取り手がないペットを買取って、劣悪な環境での飼育・繁殖を強要し、子犬を転売する悪質業者も多数存在するという。(参照元:クローズアップ現代+)ショップのショーウィンドー越しにあなたを見つめるつぶらな瞳や、ネットに溢れる可愛い動物動画からは想像も付かない闇が、日本社会には存在するのだ。「里親になる」という選択肢この現状を知ったあと、もしあなたにも「救える命がある」と感じたなら。「そういえば、前からペット欲しかったんだよなぁ」と思ったなら。里親になる、という選択肢があるということを知ってほしい。各都道府県・自治体が運営する動物愛護センターに問い合わせをしてみてもいいだろうし、「ペット」「里親」等のキーワードで検索をすれば、興味深い情報がたくさんヒットする。ペットを飼育できなくなった人やペットの保護をしている人と、里親になりたい人が交流できるWEBプラットフォーム「ペットのおうち」や、動物保護施設と里親になりたい人のマッチングサービス「OMUSUBI(お結び)」がその例だ。「犬より猫派なんだよなぁ」という人は、開放型の猫カフェシェルターの運営・譲渡会の開催を行っている「NPO法人 東京キャットガーディアン」に問い合わせてみてもいいかもしれない。
2018年05月18日