栃木県小山市出身の版画家・小口一郎(こぐち・いちろう/1914-1979)の全貌を紹介する展覧会が、2023年1月21日(土)から3月26日(日)まで、宇都宮市の栃木県立美術館で開催される。小口のライフワークとなった足尾鉱毒事件を主題とした作品群の全点が一堂に会する貴重な機会だ。1946年に日本美術会の北関東支部の活動に参加し、本格的に木版画を手がけるようになった小口は、足尾鉱毒事件とその問題を追及し続けた政治家・田中正造(1841-1913)の存在を知って大きな衝撃を受け、広く世に伝える方法を模索し始めたという。足尾鉱毒事件とは、明治初期から足尾銅山の開発が急激に進められた結果、周囲の環境と住民の健康に多大な被害を及ぼした公害事件。田中正造は、明治天皇に直訴を試みるなど、生涯を鉱毒反対運動に捧げたが、当時は加害者決定には至らなかった。一方、鉱毒が流出した渡良瀬川に遊水池を造営するために強制廃村となった谷中村や流域の農民たちは、北海道開拓移民として佐呂間の原野にわたり、その地で「栃木集落」を形成することになる。展覧会タイトルの『二つの栃木』は、栃木県と北海道の栃木集落を意味する。この事件を丹念に取材した小口は、鉱毒被害に苦悩する旧谷中村の農民たちと田中正造を主題とした《野に叫ぶ人々》(1969年)、厳寒の佐呂間へ移住した人々の生活と帰郷への思いを描いた《鉱毒に追われて》(1974年)、足尾銅山の坑夫たちの労働問題を取り上げた《盤圧に耐えて》(1976年)を、3部作の連作版画としてまとめ上げた。今回の展覧会の大きな見どころは、小口の代表作となったその連作がすべて並ぶことにある。栃木集落の住民の希望者が栃木県への帰郷をはたしたのは、50年前の1972年のこと。小口自らが帰郷運動の世話役を務め、架け橋となったという。1972年はまた、栃木県立美術館の開館年でもあり、同展は開館50周年を記念して企画された。小口一郎研究会の全面的な協力を得て、油彩画や他の版画作品も合わせた約300点で、小口一郎の生涯に光を当てる意義深い展観となる。小口一郎《大樹》1948年小口一郎研究会蔵小口一郎《海の声》1976年小口一郎研究会蔵小口一郎《「鉱毒に追われて」より35.帰郷》1971-73年小口一郎研究会蔵小口一郎《「野に叫ぶ人々」より不滅の余光(その二)》1970年頃小口一郎研究会蔵小口一郎《谷中一景》1959年栃木県立美術館蔵小口一郎《坂道》1954年栃木県立美術館蔵小口一郎《ねこ》1954年栃木県立美術館蔵<開催情報>『「二つの栃木」の架け橋小口一郎展 足尾鉱毒事件を描く』会期:2023年1月21日(土)~3月26日(日)会場:栃木県立美術館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)休館日:月曜料金:一般900円、大高600円公式サイト:
2023年01月06日2016年の1月29日、日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表し、日本全土に衝撃が走りました。低金利の時代はこれまでもずっと続いていたわけですが、それどころか金利がマイナスになってしまったということです。「といわれても、理解しづらい……」という方もいらっしゃるでしょうが、それも仕方のないことです。いったい、これはなにを意味するのでしょうか?しかも、さらに実態をわかりにくくしているのは、実は世界の4分の1の国がすでにマイナス金利を導入しているという事実。そうなると、なにがどうなっているのかがますますわかりにくくなります。そこでぜひ読んでおきたいのが、『金利が上がらない時代の「金利」の教科書』(小口幸伸著、フォレスト出版)。過去40年間にわたり、投資マーケットの長期トレンドを見つめてきた元シティバンクの為替ディーラーが、マイナス金利時代の「金利」をやさしく解説した書籍です。ところで、そもそも金利の機能とはどのようなものなのでしょうか? きょうは本書から、そんな基本の部分を引き出してみたいと思います。■そもそも金利とは何なのか?金利は株価や為替レートと同様に、基本的には市場での需要と供給によって動くもの。資金需要が高まれば金利は上昇し、資金供給が高まれば金利は低下するわけです。ちなみに資金需要が高まるとは、資金を借りる(調達する)額が多くなることで、資金供給が高まるとは、資金を貸す(運用する)額が多くなること。一般的に、景気がよくなれば資金需要が高まり、金利の上昇圧力になるといいます。逆に景気が悪化すれば、資金需要は後退し、金利低下圧力になるわけです。ただ、金利が需給によって決まるといっても、為替レートや株価などとくらべると変動の程度は限られているもの。なぜなら、中央銀行の影響が強く及ぶからです。特に短期の金利にはそれがいえるそうです。それだけ金利の変動は経済の基本的な部分に大きく作用するため、中央銀行の役割と影響も大きくなっているということ。そして金利には、大別して次のような2つの機能があるといいます。■金利の2つの大きな機能とは(1) 景気調整機能景気がよくなれば資金需要が高まり、金利は上昇することになります。金利が上昇していけば資金コストは高まるので、資金需要は押さえられて好況にブレーキがかかります。つまり金利にはこうして、景気の行き過ぎを調整する働きがあるということ。ですから逆に不況では資金需要が低下し、金利は下落します。そうなると資金の借り入れをしやすくなり、資金需要の減少にも歯止めがかかり、不況にブレーキがかかるのです。もちろん、これだけで語り尽くせるほど単純な問題ではないでしょう。しかし、これがあくまでも金利の「基本」だと著者は説明しています。(2)資金分配機能資金は一般的に、低い金利よりも高い金利のほうに向かうもの。そのため、高い金利のほうに資金が集まるわけです。こうした2つの機能が働くためには、金利が資金の需給関係によって自由に動くことが前提になるといいます。自由に動く市場がないと、こうした金利の機能は働かないわけです。経済の規模が拡大して構造が複雑化するにつれ、行政による指導や帰省では経済を効率的に運営するのが困難になってくるもの。そこで、金利にその機能を発揮してもらう。そのために規制緩和や自由化が進行するというのです。実際に欧米に続き、日本でも1980年代に預金金利などの自由化が進みました。近年まで行政指導が資金配分などに強い影響力を持っていた中国でも、規制緩和や金利自由化の進行とともに金利の機能が働きはじめるようになったといいます。経済に与える金利の変動の影響が、以前よりも強くなったということです。■マイナス金利政策は正しいかところが、もっとも金利の自由化が進んだ欧米や日本など先進諸国の多くでは、金利低下が進行。ゼロ金利になっても資金需要は増えず、景気の低迷が続きました。金利の機能が働かない事態になってしまったわけです。米国はようやく利上げ可能な状態になりましたが、その他の国は政策金利の一部をさらに下げ、マイナス金利にすることに。こうしたなか、中央銀行は金利の機能を信じ、なんとか働かせようとしているというのです。つまり金利を下げて資金需要を高め、景気を浮揚させることと、市場の資金を日銀の当座預金から、より金利の高い金融商品(市場)へ向かわせるということ。短期から長期へと資金を向かわせ、イールドカーブ(利回り曲線)の水準を下げることです。この点においてはマイナス金利政策は、金利の機能の基本に沿った政策だということです。*基礎的な部分から個人投資家の心構えまで、金利についてさまざまな角度から解説した内容。読んでみれば、いろいろな疑問を解消できるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小口幸伸(2016)『金利が上がらない時代の「金利」の教科書』フォレスト出版
2016年08月08日