『プロフェッショナル・ミーティング』(長田英知著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は元政治家で、現在は大手外資系コンサルティングファームのシニアマネジャー兼新規事業部門副責任者として事業開発に携わっているという人物。国内最大手の生命保険会社を筆頭とする、さまざまなキャリアの持ち主でもあります。つまり本書ではそんな実績を軸として、「成果を挙げるミーティングを行うための考え方と手法」について解説しているわけです。■業務時間の15.4%は会議だという現実NTTデータ経営研究所が2012年10月に行った「会議の革新とワークスタイル」に関する調査によると、会社で開催される会議の全体業務に占める割合は平均して15.4%になるのだそうです。業種別でもっとも会議の割合が高かったのは通信・メディア業で、会議が業務の約2割を占めていたのだといいます。つまり週5日勤務の社員は、毎週1日をまるまる会議に費やしている計算になります。また、同じ調査で「会社で開催される会議等は価値創造(仕事の生産性向上、イノベーションの創出等)に貢献していると思いますか」と尋ねたところ、「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」と答えた人の割合は66.9%。実に3人に2人は、会社の会議が生産性向上やイノベーションといった価値の創造に貢献していないと答えたわけです。■外資系企業では会議の業務専有割合が高いなお外資系企業では会議の業務専有割合が20.1%と、日本企業の平均よりも約5%高い数値を示していのだとか。一方、会議が価値創造に貢献していないと答えた外資系企業は56.2%で、日本企業の平均よりも10%低い数値となっているのだそうです。また、さまざまなタイプの会議を、ビジネスプロセスのさまざまな場面に合う形で組み合わせているのが外資系企業の特徴。そうすることによって、「強いチーム」と「確実な目標達成」の実現を図っているというわけです。著者はこれまで政府・自治体の政策立案、企業における新規事業戦略や実行計画の策定、不採算事業の改革やオペレーション改善といったプロジェクトに携わってきたのだそうです。そんななかで意識していたのは、「どんなに優れた戦略や実行計画を立案しても、実際に実行されなくては意味がない」ということだったといいます。■PDCAで真のイノベーションを促進する先に触れたとおり、著者は政治家からコンサルタントに転身したという異例のプロセスの持ち主ですが、いかに「実行される」戦略や計画を立案するかについて悩んでいたときに思い当たったことがあるのだと記しています。それは、自分が勤めている外資系企業が、複数のタイプの会議を使い分けることによってビジネスを推進する仕組みを採用しているということ。そこで、以来、ビジネス戦略・計画の実行を管理する仕組みであるPDCAに対し、PDCAの各場面で適切と思われるタイプのミーティング手法を適宜組み合わせるようにしたのだとか。そうすることによって、業種、製品、サービス、社風、計画の中身にかかわらず、ビジネスを自然な形で望む方向へと動かし、真のイノベーションを促進できるようになったというのです。■そもそもミーティングはPDCAを回す動力源「Plan」「Do」「Check」「Act」からなるPDCAは、もともと工場現場で製造工程を管理し、製品の品質を改善する手法として考案されたもの。当然のことながら、そんなPDCAをビジネス管理の手段として活用する場合には、より長い時間軸で活動管理を行い、外部影響を考慮した計画調整を頻繁に行うことが必要になってきます。そしてミーティングは、常に変化していくビジネスの状況を把握し、目的達成の落とし穴がないかを探り、他者との競争のなかで自社を差別化するための対策を適切なタイミングで実行し、PDCAの各フェーズを円滑に回す歯車としての役割を果たしているもの。つまりミーティングは、PDCAを回す動力源だという考え方なのです。■ミーティングを有効に活用するためには本来であれば、社内ミーティングはビジネスを推進させるために行われているはず。しかし多くの人は、ビジネスの現場で会議を行うことに価値を見出せなくなっていると著者は指摘しています。そこで本書では、ビジネスリーダーを目指す人が、ビジネスミーティングを有効に活用できるプロフェッショナルとなるための基本的な考え方と実践的なコツを明かしているわけです。*一向に進まず、有効なアイデアも生まれない会議の経験は誰にでもあるもの。しかし、ミーティングの設計をきちんと行っておけば、コンスタントに成果を上げ、ビジネスを前に進めていけると著者はいいます。効率的な会議を実現するために、ぜひ読んでおきたい一冊です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※長田英知(2016)『プロフェッショナル・ミーティング』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年10月20日『脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング』(工藤千秋著、サンマーク出版)は、著者の言葉を借りるなら「あらゆる不調を招く『老化した神経』を若返らせて、病気にならない体をつくる本」。そして著者は、神経とは、命をつなぐ生命線であり、「若い神経には、すべての不調を遠ざける力が備わっている」と考えているのだそうです。つまり、神経が体のなかではいちばん大事で、その神経が若返ればすべての不調は吹き飛んでいくということ。■替えのきかない神経はクリーニングするしかないそのような考え方をもとに、神経を若返らせる方法として著者が考えたのが「神経クリーニング」。なぜなら神経は体のなかで唯一替えがきかない部分であり、簡単には新しくつくれないから。心臓や肝臓などの臓器や血管ですら移植は可能なのに、現代の医術をもってしても、神経の移植はとても難しいのだそうです。また、細胞や血液は毎日新しいものがつくられて入れ替わりますが、神経は新調することが不可能。だとすれば、神経を若返らせたいのなら、クリーニングをしていまある神経を磨くしか方法はないということ。■人間は20以上もの感覚を神経から脳に伝えているそもそも著者は常日頃から、「人間は神経でできている」と考えているのだそうです。その証拠に、「五感を研ぎ澄ます」どころか、人にはもっとたくさんの感覚があるのだといいます。私たちはバランスや痛み、温度、のどの渇きなど、20以上もの感覚を認知できるといわれているそう。こうした感覚をもとに、まわりでどんなことが起きているのかを感じ取ることができるということです。視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚をはじめとするこうした感覚は、神経の働きに大きく依存しているもの。いわゆる五感も、神経を通さなくては脳に伝わらないわけです。よって、「五感を研ぎ澄ます」ということは、「神経を研ぎ澄ます」ことと同じだという考え方です。たとえば本を読んでいるとしたら、その間にも神経はフル活動し、さまざまな感覚を脳に伝えてくれているといいます。文字を読むためには視覚から得た情報が欠かせませんし、本のページをめくるときにも指先から伝わってくる感覚が必要。また、開いた本がぐらつかないように固定できているのも、バランス感覚をつかさどる神経が働いているから。こうしたさまざまな感覚が電気信号となって神経を流れ、瞬時に脳へと届けられているからこそ、本を読むことができるというのです。何気なく行っているように思えても、実はとても複雑なことだということ。■健康の維持には中枢神経より末梢神経のほうが大切ところで、人間の体じゅうに張り巡らされた神経の長さは、72キロメートルにもなるといわれているのだそうです。しかも、そのなかを走る電気信号は、時速400キロもの超高速スピードで行き来しているのだというのですから驚き。まさに人間の神経は、スーパーコンピュータを凌ぐほど精巧で、複雑な構造になっているということ。地球上の生き物で、これほどまでに神経が発達しているのは人間だけ。知能が高いチンパンジーですら、人間にくらべたら神経のつくりはずっと単純なのだそうです。そして医学的に厳密に分けると、神経は次の2つに分類されるといいます。(1)中枢神経:脳と脊髄のこと。指令を出す役割。(2)末梢神経:脳や脊髄と体をつなぐ神経。指令や情報を伝える役割。末梢神経のなかでも、呼吸や心臓の鼓動、食べものの消化や汗をかくことなど、自分の意思とは無関係に体の機能を調節している自律した神経のことを「自律神経」と呼ぶのだそうです。このように医学の世界では、中枢神経と末梢神経の2つをひとくくりにして「神経」と呼んでいるわけですが、著者はこの2つのなかでも末梢神経のほうが大切だと考えているのだとか。なぜなら、末梢神経を若く健全な状態にすることこそが、真の健康につながるから。*こうした考え方を軸として、本書の以後の章では神経クリーニングの方法をわかりやすく解説しています。神経クリーニングをするだけで、血圧が正常値に戻ったり、体脂肪が減ったり、近くが見えはじめたり、記憶力が戻ったり、ひざが曲がるようになったりするなど、全身に多くの効果が表れるのだとか。病気になりにくい体をつくるために、読んでおくといいのではないでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※工藤千秋(2016)『脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング』サンマーク出版
2016年10月19日『やる気に左右されず結果を出す あらゆる目標を達成するすごいシート』(佐藤耕一著、日本実業出版社)は、日本で数少ない目標達成の専門家である著者が、誰でも目標をクリアできるようになるノウハウを明かした書籍。コピーして使える折り込み式の目標達成シートを使用して、モチベーションが下がったり、行動に迷ったりしたときに乗り越える方法を伝授しているわけです。しかし、その方法を試すよりも先に、「なぜ、目標が達成できないのか」を確認しておくべきではないでしょうか?そこできょうは、第1章「その目標、達成できなくて当然です」に注目してみたいと思います。■意外に多い目標とどう向き合うべきか具体的な目標はもちろんのこと、「こうなったらいいなあ」というような夢なども含めれば、目標は意外なほど日常のなかに多くあるもの。また、数年後に実現させたい夢もあれば、1カ月先までにやらなければいけないこともあるはずです。しかし残念ながら、その目標をしっかり達成しているということは、それほど多くないはず。目標は、いま現在、“その状態になっていない状況”からはじめるものなので、達成するためにはなにかしらの「行動」をしなければならないわけです。しかも「チャレンジ」と呼ばれるような、新しく、しかも高い目標だと、行動そのものをかなり変えていく必要があるでしょう。■行動を変えられる人は100人に3人つまり「目標を設定し、行動を変えて、達成する」という“当たり前”の方法は、極端にいえば一部の天才か、もともとそういう資質がある天才型予備軍、あるいは目的意識の高い人が集まっている一部の企業でなければできないだろうと著者は考えているのだそうです。それどころか、さまざまな組織で目標達成のコンサルティングをしてきた実感として、一般のビジネスパーソンのなかで、きちんと目標を設定して行動を変えられるような人は「100人に3人いるかいないか」だとすらいうのです。そういう人は、いまは一般社員だったとしても、将来は経営幹部になっていく可能性があるので、結局は天才型。だとすれば、もし天才型でないのなら、そもそも目標を設定し、それに向かっていこうという通常の目標達成の方法自体が間違っているということになるはず。だから、目標をクリアできなかったとしても当然だというのです。■目標を達成できない人は3分でわかる「目標に向かって取り組んでいきそうな人か」「達成しそうかどうか」は、3分ほど目標や達成の方法について話してもらっただけで、ある程度わかると著者はいいます。また、明らかに達成しない人もすぐにわかるのだそうです。そして、目標を達成できない人は面談のなかでの発言に、次のような特徴があるのだとか。・直接的な否定が多い例:~できません。~ないです。・間接的な否定が多い例:~は難しいです。~は厳しいです。・周囲の環境を言い訳にあげる例:~の地域の市場はA社が強くて~。為替の影響で~。・いい切りや断定をしない表現が多い例:~と思います。~するつもりです。~の努力をしようと考えています。・根拠のないお気楽な言葉を言う例:できます、やります、がんばります、だけの繰り返し。・他人ごとで自分の目標として捉えていない例:~に与えられた~。上から降ってきた~。上からいわれた~。このような発言をよく見てみると、これらの言葉を使っている人は、最初から目標を達成するつもりがないことがわかると著者は指摘しています。「どうせ無理です」「やろうとは思うけど、たぶんやりません」「あまり自分には関係ありません」と宣言しているようなものだというのです。■変化を嫌うのが人間の普通の心理状態ただし、このような発言が悪いということでもないのだそうです。むしろ普通の人にとっては、これが当たり前なのだとか。誰しも、「目標を達成したくない」などとは思っていないはず。しかし、よほどのことがない限り、人はいまの状態を変えたくないと思っているというのです。なぜなら、変化を嫌うのが人間の普通の心理だから。しかし、いまの状態を変えないのであれば、行動も変わりませんから、目標の達成は困難になります。つまり、「目標を設定して達成する」ということは、普通の人にとっては、どちらかといえば苦手なこと。だからこそ、「目標を設定しても達成できない」ということになってしまうわけです。*こうした考え方を素直に受け入れたうえで先に進み、ぜひ目標達成シートによるメソッドも実践してみてください。いつの間にか、目標達成のコツをつかめるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※佐藤耕一(2016)『やる気に左右されず結果を出す あらゆる目標を達成するすごいシート』日本実業出版社
2016年10月13日『「運」を育てる 麻雀界の異端児 土田浩翔の流儀』(土田浩翔著、KADOKAWA)の著者は、プロデビュー30周年を迎えるというプロ雀士。本書では長い実績に基づいて、「運」を引き寄せるためのメソッドを公開しているわけです。つまり、ここに書かれていることを実践すれば麻雀が強くなるということ。ただし、必ずしも麻雀だけに限った話ではなく、人生における「運」の重要性と、その活用の仕方を学べる内容でもあります。■時刻表を買ってもらうほど数字の虜だった著者は幼少時代、数字の虜だったのだそうです。たとえば5歳のころは電車が大好きだったといいますが、そこで母親に頼んで買ってもらったのは電車のおもちゃ……ではなく時刻表だったというのです。当然、母親には不思議がられたそうですが、「電車を乗り継いだらどこに行けるんだろう?」ということに興味を持っていたということ。最初のページをめくると地図があり、さらにめくると時刻表には数字の羅列。吸い込まれるような感覚のなか、夢中になって数字を辿っていったのだといいます。そんな姿を見ていた両親は、「数字が好きな子なんだな」と思い、家でやっていた麻雀を見せてくれるようになったのだそうです。その結果、今度は短期間のうちにキレイな図柄の牌(パイ)の世界に引き込まれていったのだとか。いうまでもなく牌も数字なので、両親に教わるまでもなく、自然に数牌を覚えていったのだといいます。■麻雀は数字至上主義では太刀打ちできないそして7歳の冬休みに父親から麻雀を教えてもらい、以後、小中高を通じてメキメキと実力をつけていき、大学2年の春方麻雀業界入り。大学卒業間近に『第3回日刊スポーツアマ最高位戦』に出場して優勝し、1986年には『日本プロ麻雀連盟』のプロテストにも合格し、27歳でプロ入りしたのだそうです。しかしプロの世界へ足を踏み入れてみると、“数字至上主義”では太刀打ちできないものがあることを知らされたのだといいます。それは「運」。麻雀は運がすべてで、運をつかんだ者が勝つ世界。そこで、その運について知りたいと強く思雨ようになり、そこから大きく可能性を伸ばしたというのです。では、運とはなんなのでしょうか?■そもそも運は大きく分けて3つの形がある大辞林によると、運とは「1.人知でははかり知れない身の上の成り行き。めぐり合わせ。幸運」。そして著者は「運気」「運勢」をバイオリズムに置き換え、強く意識するようになったといいます。そのバイオリズムをつかみ、自分に向けるためには、「運を肌で感じられる=気づける」かどうかが肝。そう考え、運を次の3つに大別したのだそうです。(1)そもそも備わっている運(2)日によって変わっていく運(3)自分で育てていく運“天運”ともいわれる<そもそも備わっている運>は、生まれながらにして天から与えられた運命。自分の力ではどうにもならないわけです。しかし残りふたつの運は、意識の持ち方次第で、「感じられる=気づける」ようになっていくといいます。<日によって変わっていく運>は、朝、起きたときからはじまるもの。運の高低に気づかなければ、わからないままその日を過ごし、結果として「きょうは運が悪かった」と嘆いてしまうわけです。しかしそれでは反省にもならず、ただの感想で終わるだけ。■運気を自覚しながら行動するとうまくいく運気の高低に早く気づくためには、基準となる判断材料が必要になるとか。しかも、少しでも早く、より多いほうが根拠が強まるので、著者は起床直後の行動を大切にしていったそうです。起きてすぐ、まわりの風景に対して、人の動きに対して、どう感じるのか。その感じ方が、日常生活における運気の高低の判断基準になるというのです。いうまでもなく、風景や人の動気を違和感なく自然に受け入れられたら運気が高い日。リズムが崩れるような違和感がある場合は、運気が低い日だというわけです。起きてからの行動を習慣にしていくと、運気の高低を測るための情報を、早く多く感じられるようになっていくそうです。そうなれば予測を立てられるので、あらゆる行動に備えていけるということまた、とくに運気が低いと感じる日は、やりたいこともあえてやらないのが得策だとか。麻雀ならリーチをかけたいと思ってもかけない。日常生活なら、新たなチャレンジをしたくてもしない。そのように、運気が低いことを自覚しながら自制していくということです。何事も、予測できるに越したことはないもの。朝、起きた時点で<日によって変わっていく運>の高低に気づくことができれば、いろいろな事態に備えていけるというわけです。*このように、麻雀が好きな人も、まったく興味がない人も、ともに納得できる内容になっています。運をさらに育てたいという方は、読んでみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※土田浩翔(2016)『「運」を育てる 麻雀界の異端児 土田浩翔の流儀』KADOKAWA
2016年09月27日『100歳の精神科医が見つけた こころの匙加減』(髙橋幸枝著、飛鳥新社)は、数えで100歳になるという精神科医が語る人生訓。といっても、単に「100歳だから」という数字の問題だけではありません。高等女学校卒業後に海軍省のタイピストとして勤務したのち、中国・北京で日本人牧師の秘書として勤務。そうした経緯を経て医学部受験を決意し、勤務医としての経験を積んだあと、1966年に「秦野病院」を開院し、院長に就任したという人物なのです。そのぶん、私たちに学べることが多々あるということ。そしてタイトルにもあるように、人生について考えるうえで著者が重視しているのは「匙(さじ)加減」です。■人生は匙加減を見極めることが大事どんなことにも適度な塩梅、つまり「匙加減」というものが存在すると著者はいいます。それは人生にも当てはめることができるもので、つまりそれらをひとつずつ見極め、把握していくことこそが、「生きる」という営みだというのです。そもそも匙加減とは繊細なもので、そこには難しさがつきまとうことになるそうです。そればかりか、人それぞれ微妙に異なってもくるため、二重に複雑になるということ。だから「匙加減をうまく見極めようと思ってもお手本などはないだけに、誰かを真似ることはできない。けれども、自分の軸が1本しっかり貫かれていたなら、言動も一貫してくるものだ」と著者は主張します。■昔のがん告知はかなり苦労があったところで近年は、日本人の2人に1人が、がんで逝く時代となっています。そうであるだけに、ますます大切になっているのは、がん患者さんへの心のケアです。ましてや著者が若かったころは、治療法がまだ少なかったこともあり、「がん=死」というイメージが強かったといいます。そのためか、「がん告知」はいまよりデリケートな問題だったのだそうです。著者が医師の仲間に聞いた話によれば、昔は「患者さんご本人に、がん告知をしない」のが常識だったというのです。そこで医師は患者さんのご家族と綿密に打ち合わせをして、「いかに本人にがんであることを悟らせないか」、心を砕いていたのだそうです。もちろんいまでは、患者さんご本人にきちんとがんの種類などについて説明し、治療方針を決めることが常識になっています。とはいえそれは、がんの治療法が進歩したことの裏返し。昔とくらべれば「ありがたい」というだけのことです。ただし、いくら「時代が変わって医療が進歩した」と説得されたとしても、「がん」と診断されれば、不安や恐怖を伴う大きなストレスになったとしてもそれは当然のこと。そこで著者が引き合いに出しているのは、知人についてのエピソードです。■がんと仲よく生きれば気持ちも楽!その人は「がんの治療を10年続けてきたけど、大きくもならず、特別変わりないので、薬も治療もやめた」と話してくれたというのです。著者は「私はがん治療が専門ではありませんが」と前置きしたうえで、その知人の気持ちは勇気ある素晴らしいものだと感じたのだそうです。がんに無闇に抗わないことで、がんが静かになるかもしれないということ。事実、その知人は、まさにそんな状態なのでしょう。がんと仲よく生きることも大切ですし、そうすることで患者さんの気持ちも楽になるということです。著者の専門分野である精神科の治療においては、「苦しみをよく聞いてあげること」がなにより大切なのだといいます。たしかにそれは、医学的には正しい態度なのでしょう。しかし、そのことを認めたうえで、著者は実際には「苦しみをよく聞いてあげる」だけでは足りないと指摘してもいます。なぜなら、ひとつひとつ異なる問題すべてを「こういう場合はこうしましょう」というようなマニュアルで解決できるはずがないから。■心の匙加減は百人百様なので難しいそこで、「匙加減」を意識することが大切だというわけです。ご存知の方も多いと思いますが、「匙加減」とは、もともと薬の「分量」を測るときに用いた言葉が転じて、あらゆる場面で使われるようになったもの。細かな配慮や集中力などが求められるということで、だから「心の匙加減ほど、難しいものはない」もの。100歳を超えるいまも、「心は百人百様である」と痛感しているのだそうです。*柔らかな言葉で綴られているものの、そこに深みを感じずにはいられないのは、根底に100歳の人生の重みがあるからなのでしょう。人生に迷ったとき、ふとページを開いてみるといいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※髙橋幸枝(2016)『100歳の精神科医が見つけた こころの匙加減』飛鳥新社
2016年09月26日『稼ぎたければ、捨てなさい。―起業3年目までに絶対知っておきたい秘密の裏ルール』(船ヶ山哲著、きずな出版)の著者については、その名を聞いたことがあるという人もいらっしゃるかと思います。心理を活用したマーケティング手法により「人脈なし、コネなし、実績なし」の状態から急成長を遂げた起業家。起業後3年にして、上場企業から町の小さな商店まで300社以上のクライアントを獲得したのだといいます。つまり、そんな実績をベースとして、「永続的にビジネスを成功させるための秘密」を明かしたのが本書だということ。■価値にフォーカスすれば失敗しないビジネスとは、「価値と価値の交換」で成り立っているもの。著者は本書で改めて、その点を確認しています。商品という価値をお客様に届け、お金という価値を対価として受け取る。それこそが、ビジネスの本質だということ。だから、もし手元に資産や貯金がないのだとしたら、それはこれまで価値を届けてこなかった証拠だというのです。そして、その価値にさえフォーカスしておけば、大きな間違いを犯すことはないともいいます。なぜなら、「商品=価値=お金」だから。いいかえれば、価値が商品とお金を生み出してくれるということです。■価値の量が最終的な価格に比例するお金儲けが下手な人は、一生懸命やることと、売り上げは比例すると信じているもの。しかし、それが勘違いなのだと著者は指摘します。ビジネスがお客様に価値を届けるものである以上、それは自分のエゴを満たすことではないはず。だからビジネスを行う際には、お客様の価値にフォーカスしなければいけないというのです。そして、そのお客様が期待する結果の大きさや価値の量が、最終的な価格に比例する。すなわち、大きな売り上げを目指すのであれば、労働に頼らない仕組みや考え方を取り入れていく必要があるのだそうです。なお、それを叶えてくれるもののひとつが、著者のいう「秘密」に隠されているのだとか。■話していいor話すべきでないことその真実とは、「『what to(なにをやるか)』は話してもいいが、『how to(どうやってやるか)』は話してはいけない」といことだといいます。さらに、もうひとつ気をつけなければならないポイントがあるといいます。それは、「what toを聞くと、知った気になってしまう」ということ。そうなってしまった人は、自分の能力を過信してしまうというのです。でも、それは仕方がないと。「平均以上効果」という心理が働いてしまうため、自分の能力を過信してしまうのが人間だから。多くの人はなにかを行う際、「自分は最低でも平均以下になることはない」と信じているもの。そして、そのような“錯覚する行為”が自分を過信させ、失敗に導いてしまうというのです。しかし、それはあくまで幻想でしかなく、本当の答えなどそこにはないと著者は指摘します。なぜなら大切なのは手段ではなく、本質だから。しかし多くの人は、そのことに気づいていないというのです。■どうやってやるかを説明しない理由では、販売者はなぜ「how to(どうやってやるか)」をいわないのでしょうか?それは、「目的の違い」なのだそうです。販売者の最終目的は、商品を売ること(how to)です。しかし購入者の目的は、お客様を増やすこと。だとすれば、商品の先にある結果がそもそも違うのですから、成果が出なくても当然。だからこそ、本気で成功を望むのであれば、その目的の違いに気づき、これらの手法を知ることが大切だと著者はいうのです。ビジネスですから、目的の違いがあるのは仕方がないこと。たとえば、デパ地下で試食を延々と続ける人はいないでしょう。試食はあくまでお試しであって、信用を得るための手段にすぎないからです。大切なのは、目の前に来た情報をチャンスと捉えるのではなく、お互いの目的の違いに気づくことだといいます。なぜなら現代のビジネスは昔と違い、「仕組み」が成否を分けるから。■仕組みの裏側に潜む本質を知るべしいい商品さえつくれば売れるという過去の時代とは違い、現代では「いわれたことしかできない人=使えない」ということになります。いわれたことだけをきちんとやっていても、勝てる時代ではないということ。逆にいえば、いまは個人であっても、気軽に仕組みを構築できてしまう時代であるわけです。そこで、目先のものだけにフォーカスするのではなく、裏側に潜む本質を知ることが重要。それを知ることで、販売者の真意や本当の目的を知ることができるのだと著者は主張します。*著者の言葉はときにシリアスですが、だからこそ訴えかけるものがあるのも事実。稼ぎたいという思いを持っているのなら、その糸口をつかむためにも読んでみて損はないかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※船ヶ山哲(2016)『稼ぎたければ、捨てなさい。―起業3年目までに絶対知っておきたい秘密の裏ルール』きずな出版
2016年09月24日『「不思議な会社」に不思議なんてない』(荒木恭司著、あさ出版)の著者は、島根県松江市に本社を構える島根電工株式会社の代表取締役社長。営業エリアである山陰は、は所得・人口ともに最下位。しかも業種は、不況型産業の建設業。にもかかわらず同社は躍進を続けており、業界活性化を目的としてフランチャイズを全国展開しているのだそうです。根底にあるのは、徹底した社員教育。その結果、ひたすら「お客さまのために」と自発的に考えて行動(考動)する社員と、彼らの姿勢に共感するお客さまとの間でコミュニケーションが好循環しているのだといいます。つまり本書は、パナソニック、東芝などナショナルカンパニーからも注目されている同社の姿勢を明らかにしたもの。■コンセント1個から小口の工事を受注島根電工グループは2001年から、一般向けに「住まいのおたすけ隊」という取り組みを展開しているそうです。コンセント1個から、小口の工事を引き受けるというサービス。2006年からは島根県と鳥取県の一部限定でテレビCMを流しはじめ、その認知度が高まったことから、受注は年々うなぎのぼりなのだとか。注目すべきは、驚くべきその実績です。■7割が5万円以下なのに年間70億円小口工事件数の7割が5万円以下の受注であるにもかかわらず、現在では小口工事と、お客さまにとってプラスになる「ご提案工事」だけで年間70億円を超え、グループ全体の総売上155億円の45%を占めるまでになっているというのです。多くは個人宅の工事であるわけですから、一般家庭からのニーズがいかに多いかがわかるはず。つまり同社は、なかなか注目されにくいそのニーズをキャッチしたからこそ成功できたのでしょう。一般家庭から請け負う工事であれば、中間業者が入らないため、確実に利益が上がることになります。しかも、最初はコンセント1個の小口工事で訪問したとしても、結果的に「ついでにこれもお願いしよう」「今度リフォームするときはお宅に頼むわね」「よくしていただいたから、お客さんを紹介するわ」というように、派生的に仕事が増えていくメリットもあるといいます。■スタッフは常に最高の顧客満足を追求ただし、そうなるためには、お客様から「次も頼もう」と思ってもらえるサービスを提供しなければなりません。そこで「住まいのおたすけ隊」のスタッフは、常に最高の顧客満足を追求しているのだとか。「お客さまのために、お客さまが幸せになってもらうために、お客さまが本当に欲しがるものを、お客さまが気づく前に提案する。そこに感動が生まれる」そう考えることが、「おたすけ隊」のアイデンティティなのだといいます。■高品質なサービスでリピート率90%「おたすけ隊」はリピート率90%を誇っているのだそうです。一度依頼をしたお客さまは、90%の確率でまた仕事を依頼するということなのですから、これは驚くべき数値だといえます。なぜ、そんなに高いリピート率が維持できるのかといえば、前述したとおり、お客さまの期待を超えるサービスを提供しているから。お客さまが困っていたら、すぐさま飛んでいって対応。ときにはお題を受け取らないこともあるといいますが、そうした親身の対応に感動してもらえることがリピートにつながっているわけです。■些細なマナーでお客様の信用が変わるそして、高いリピート率を支えるもうひとつの要因が、社員に対するマナー研修の徹底。お客さまと直接接するのは現場の社員だからこそ、その印象で島根電工に対するイメージも大きく変わることになります。そして一般家庭向けの仕事では、そうしたことがとても大切だというのです。それは、靴の脱ぎ方と揃え方だったり、座布団を出されたときの座り方だったり、さまざま。しかし、そんな些細なことでも、お客さまの信用はまったく違ってしまうというのです。■社員みんな相手の目を見て明るく挨拶同じく、あいさつの仕方も重要。具体的にいうと、島根電工グループでは「まいどー、こんちは!」ではなく、相手の目を見て、「こんにちは」「おはようございます」といってから頭を下げるように教育しているのだそうです。そうすればお客さまは、「若いのになかなかしっかりしている」「真面目そうだ」「これなら工事をしっかりやってくれそうだ」などと感じるわけです。照明器具をちゃんとつけたり、コンセントをまっすぐに取りつけたりすることは、どの工事業者でもできること。でも、さわやかに挨拶できる、お行儀のいい若者が来たら、そちらに頼みたくなるのは当然だということです。*こうしたエピソードからは、驚異的な実績を裏づけているものは「人の力」だということがわかるはず。山陰が叩き出した小さな会社の大きな数字には、企業経営についての大きなヒントが隠されているといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※荒木恭司(2016)『「不思議な会社」に不思議なんてない』あさ出版
2016年09月22日『小さな野心を燃料にして、人生を最高傑作にする方法』(はあちゅう&村上萌著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、日本最大規模のオンラインサロン『ちゅうもえサロン』を主宰するブロガー・作家のはあちゅうさん、NEXTWEEKEND代表・ライフスタイルプロデューサーの村上萌さんによる共著。いうまでもなく両者ともまったく違う仕事をしているわけですが、そんななか、ひとつだけ共通していることがあるのだそうです。それは、「一度夢をあきらめている」ということ。つまりここでは、そのような共通点とそれぞれの視点に基づき、自分らしい人生の創り方、仕事、恋愛、暮らしへの考え方、小さな野心を叶え続けるための方法などについての考え方を記しているわけです。きょうはPART 4「小さな野心を叶え続ける私たちのマイルール」のなかから、時間についての考え方を引き出してみましょう。■1週間の最初に予定を見なおすはあちゅうさんが運営しているサイト『ちゅうもえサロン』では、毎週自分の「来週の予定」を投稿するようにしているのだそうです。最初にするのは、毎週日曜日に翌日からの1週間の予定を見て「今週はこんな週だな」「こういう予定があるな」ということを頭のなかで把握すること。そのうえでしっかり時間配分をし、効率的に動くことや、バランスよく予定を入れることを心がけるというのです。そして週末には、「今週はインプットが多い週だったな」「人前に出ることが多かったな」など、どんな週だったかを振り返っているのだといいます。■朝の時間を自分のものにする!萌さんはもともと、朝起きるのがとても苦手だったのだとか。そこで以前は、翌朝のために食べたいものを用意し、おいしいもので自分を釣って起きる作戦をとっていたのだといいます。しかしいまでは、朝の時間、朝ごはんをとても大切にしているのだとか。そんな著者は、「一年の計は元旦にあり」という以前に、「1日の計は朝にある」と考えているそうです。なぜなら、朝のプチリセットの時間をどう過ごせるかによって、「きょうも頑張ろう」と思えるかどうかが変わってくるから。■一石二鳥のながら時間を増やす「同じ時間を何倍にも濃く使いたい」という思いから、はあちゅうさんは“一石二鳥のながら時間”をたくさんつくるようにしているといいます。たとえばドライヤーで髪の毛を乾かしながらアマゾンビデオで映画を見たり、お掃除をしながら音楽を聴いたり。また、そのように趣味の時間にあてるだけではなく、「インプットの時間が少ない」と感じるときは、ポッドキャストやラジオなどメディアをフル活用し、移動時間や家事をしているとき、メイク中に情報収集をするのだとか。■どんなに短い時間でも集中する萌さんは旦那さんの仕事が特殊で、朝ごはんを食べて見送ったら、13時には帰ってきて昼ごはんを食べ、18時半くらいには夜ごはん、23時には消灯というスケジュールで動いているのだそうです。そのため、時間の密度を濃くし、深く集中することが重要になってくるのだといいます。そこでまず、「朝のうちにやらなければいけないこと」と、「やれたらやりたいこと」をすべて付箋に書き出し、パソコンに貼るのだとか。それらを次々と片づけていき、「やれたらやりたいこと」が終わらなかったら翌日に繰り越すというのです。ちなみに好きなのは、やることが終了した付箋を毎回捨てず、机の上にためて行って一気に捨てることだとか。些細なことではありますが、たしかにストレス解消にはなりそうです。■1日の予定にメリハリをつけるはあちゅうさんは、打ち合わせやプレゼンなどの「人に会う予定」は、できるだけ同じ日に集約させ、「喋る」モードの自分で挑むのだといいます。そして逆にデスクワークがメインの日は、1日中作業に集中できるようにする。つまり、意識的に予定にメリハリをつけるようにしているということ。「人と会う」と決めた日は朝から人としゃべる予定をどんどん入れておくと、舌や脳が「しゃべる」モードになり、その日1日なめらかに話せるような気がするというのです。また自身の1か月を俯瞰してみても、人にたくさん会う「開いてる」モードのときと、少し自宅作業の多い「閉じてる」モードのときが自然に交互になっているのだといいます。自分のリズムを保つために、このメリハリが自分に必要なのだと実感するそうです。*決して難しいことが書かれているわけではなく、両社がそれぞれのスタンスから、思うこと、してきたことを紹介するという体裁。だから肩の力を抜き、リラックスしながら読むことができるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※はあちゅう&村上萌(2016)『小さな野心を燃料にして、人生を最高傑作にする方法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年09月22日人間は24時間、絶えずなんらかの仕事をしていて、なにもしていないときでさえ「なにもしていない」という作業をしているもの。だからこそ、脳と身体に備わっているスケジュールを知り、そこに自分のスケジュールを噛みあわせることが大切。そうすれば仕事でもプライベートでも、やりたいことにしっかりと力を注ぐことができるようになる。そう主張するのは、『脳にいい24時間の使い方』(菅原洋平著、フォレスト出版)の著者です。「作業療法士」と呼ばれるリハビリテーションの専門家として、脳と体の力を最大限に引き出し、ひとつひとつの作業を充実して行えるようにサポートしているのだそうです。また、クリニックでの臨床や、全国規模の企業研修も行っているのだとか。■人間が持つ「2つの基本的な原理」で治療そんな著者は、患者さんの能力を引き出すために、人間が持つ「2つの基本的な原理」に従って治療をするのだといいます。ひとつ目は、人間は同じ作業でも、より能力が発揮される時間帯に行ったほうが上達が早いということ。2つ目は、すべての作業を行う際に、脳と体にとって最適な時間帯があるということ。なお、この科学的根拠をもとにして、ビジネスパーソンが生産性の高い仕事をするためにやることはいたってシンプル。まず、脳には「この時間帯に、この仕事をすれば、質もスピードも上がる」という時間の使い方があるということを知ったうえで、仕事のスケジュールを組む。そのために、脳と体が正常にリズムを刻むための「コンディションを整える習慣」を生活のなかに持つ。それが大切だというのです。つまり本書では、“無理”“ムダ”“根性論”なしでこれらを実践できる方法を紹介しているのです。■脳は「1日に2回」働かない時間帯がある生体リズムには「睡眠—覚醒」リズムがあり、私たちの脳は1日に2回働かなくなる時間帯があるのだそうです。それは、起床から8時間後と22時間後。最初の「起床8時間後」は、午後の時間帯にあたります。昼食後は眠くなるものですが、生体リズムの研究では、たとえ昼食を摂っていなくても、あるいは少量の食事を2時間おきに摂り続けるという条件でも、起床8時間後には眠くなることが明らかになっているというのです。そして2回目の眠気は、普段の起床時間の2時間前であり、多くの人にとって明け方にあたる時間。どうしても眠れなくても、明け方にはウトウト眠っていたという体験をしたことがある人も多いはずですが、それはこういう理由があるからだというのです。■「深部体温」もパフォーマンスに影響するさらに、内臓の温度である「深部体温」の影響も。人間は深部体温が上がるほど元気にハイパフォーマンスになり、下がるほど眠くなるといいます。なお深部体温が最高になるのは、起床から11時間前後。6時に起床していたら夕方の17時がいちばん体が元気に働く時間帯であり、この時間帯には眠気が起こらないということ。これらの組み合わせにより、私たちは「午前」に冴えて「午後」に眠くなり、「夕方」に元気になって、「眠る前」に眠くなるというリズムになるわけです。■「4・6・11の法則」で脳は鍛えられるつまり人間の理想的なリズムは、午前に頭を使い、午後に短い睡眠をとり、夕方に体を使うと、夜には質の高い睡眠が取れるということ。著者はこれを、起床から4時間以内に光を見て、6時間後に目を閉じ、11時間後に姿勢をよくする「4・6・11睡眠の法則」として、さまざまな現場での安全な業務と生産性の向上に活用しているのだそうです。生体リズムには、ひとつのリズムが整うと、それが基準となって他のリズムが同調する仕組みがあるのだといいます。ですから、4・6・11の時間、すべてのことを実行する必要はないのだとか。■もっともやりやすいことだけを実行すべしそこで、どれかひとつ、もっともやりやすいことだけを実行してみることを著者は勧めています。たとえば夕方に運動したり、帰りの電車で一駅前で降りて歩いたり、体温を上げることをすると、自然に朝、目覚めやすくなるというのです。また、朝は目覚めたら窓から1メートル以内に入るようにすれば、昼間はいつも眠かったとしても、やがて理想的な就寝時間に眠くなるようになっていくそうです。たったひとつのリズムが基準となって、他のリズムが同調していくということ。なお、生体リズムを整えるときには、まず4日続けてみることが大切だと著者はいいます。*医療現場や企業研修で実証されたことだということもあり、強い説得力が本書にはあります。仕事のパフォーマンスを向上させたい人は、読んでみるといいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※菅原洋平(2016)『脳にいい24時間の使い方』フォレスト出版
2016年09月22日『新版小さな会社★儲けのルール』(竹田陽一・栢野克己著、フォレスト出版)は、2002年以来のロングセラーを30ページ以上増補し、内容当時の成功事例を最新版にしたリニューアル版。おもに中小企業を対象としたものではありますが、将来的に独立起業する人などにも適しており、活用範囲の広い内容だといえます。基盤となっているのは、「ランチェスター法則」。「戦略」と「戦術」の違いを知ったうえで商品・客層・エリアを絞り、小さい部分で1位をつくり、シェアを徐々に拡大していくという考え方です。それは、中小・零細企業が生き残るために重要なメソッドだといいます。別な表現を用いるならばそれは、「大企業に競合しない戦略・戦術を打ち立てることで、顧客に忘れられないような戦術を行っていくという『勝つための法則』だということにもなります。事実、現在までに5,000社以上が実践しており、そのなかには創業期のソフトバンクやセブンイレブン、旅行業者のH.I.Sなども含まれるのだそうです。そんな本書のなかから、スタート時点で知っておきたい基本的な考え方を確認してみましょう。■日本にいる大人の14人に1人は社長大企業に就職し、部長や支店長、取締役などになるのは、たしかに楽なことではありません。実力に加え、派閥や上司に対する処世術なども必要になるため、長く辛抱する必要があるからです。しかし現実的に、「社長」になるのは簡単なこと。その証拠に日本には法人企業が200万社近くあり、個人事業主も同程度いるそうです。つまり企業と個人商店を合わせると、約400万人の社長が存在するのです。日本の労働人口は約5,400万人なので、大人の14人に1人は社長だということになります。■独立後10年続くのはたった2割だけしかし問題は、「続ける」ことの難しさ。2011年の「中小企業白書」によると、独立して1年で約4割が廃業し、10年間同じ会社を経営している人は2割弱しかいないのだとか。つまり、独立した人の大半は失敗しているということです。また別のデータによれば、3年以内に取扱商品や業種が8割以上変わっているのだそうです。コピー機の販売をしていた会社の扱い商品が、2年後には健康食品に変わっていたりすることは、決して珍しくないわけです。いってみればそれほど、独立・開業は思うようにいかないということ。■倒産は「富の再循環」システムである著者は東京商工リサーチという企業調査会社に16年間勤め、約3,500社を実際に取材、調査してきた実績を持っているといいます。また、それとは別に約1,600社の「倒産した企業」も取材してきたのだとか。倒産取材を1,600件も行うことは精神的にもつらいでしょうが、その過程において、ある意味では倒産・廃業も当たり前なのだと気づいたのだそうです。人と同じように、法人もいつかは死ぬということ。もちろんそれは、当事者にとっては大事件。しかし、会社の倒産後に従業員型の企業へ転職し、お客様も他の会社へ流れていくと考えると、それは単なる「富の再循環」であるというのです。■成功も失敗もその理由の90%は同じまた著者はおよそ1000社から個別の経営相談を受けているそうですが、そのなかでわかったことがあるといいます。成功も失敗も、その理由の約90%は共通しているということ。いまも昔も、経営の3分の2は江戸時代から変わらないルールに基づいたもの。3分の1は時代とともに変わるものの、根本の経営原則あるいは経営戦略は変わらないというのです。だから、「この基本さえ知っていれば倒産することもなかったのに」「この原則さえ守れば、もっと成功したのに」と、失敗事例を目の当たりにするにつけ、著者自身も悔しさを感じるのだそうです。しかし、だとすれば、その原則を先に学んでおくことによって、不必要な倒産を避けることは可能だということにもなるはず。そこで本書では、そのメソッドを開設しているのです。■情報の9割はビジネスに適用できない大学生は3年生くらいから就職活動をはじめますが、こんな時代であっても、依然として変わらないのが「大企業志向」。優秀な大学になればなるほど、いまだに「どれだけ大企業・上場会社に就職したか」が競われるわけです。そもそも、多くの人の価値観に影響を与えるマスコミ自体が大企業。その情報やCMを集める記者や営業マンも、大企業志向で入社した人たち。そして大企業のCMが集まらないと、マスコミ自体が成り立たないような仕組みができあがってしまっている。そのため大企業のマスコミからは、中小企業にとって本当に価値のある情報は流れてこないわけです。いってみれば世の中で紹介されている情報の9割は大企業のためのもの。大企業経営者でない人は、それを自身のビジネスに活用しようとしてもムダ。そこで、自分に役立つ情報は、自分で集めなくてはならないということです。当たり前のことじゃないかと思われるかもしれませんが、実のところこれはとても大切なポイントではないでしょうか?*このような、「大切なのに、なかなか気づきにくいこと」を再確認したうえで、本書では「小さな会社の成功法」が緻密に解説されていきます。成功事例も豊富に収録されているため、その要点を無理なく理解できるでしょう。中小企業経営者や起業を目指す人、ひいては未来を見据えて経営を真剣に考えている人、あるいは「社会で会社が成り立っていく仕組み」を理解したい人にとっても、必読の書といえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※竹田陽一・栢野克己(2016)『新版小さな会社★儲けのルール』フォレスト出版
2016年09月22日「覆面調査員(ミステリーショッパー)」とは、お店のサービスを総合的に評価する役割の人。一般客を装ってお店を利用し、数多くのチェックリストにもとづいてお店の清潔度、接客態度、商品やサービスの質、雰囲気などを評価し、最終的な結果を各店舗にフィードバックするわけです。そしてタイトルからもわかるとおり、『日本一の覆面調査員(ミステリーショッパー)が明かす100点接客術』(本多正克著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は覆面調査の第一人者。飲食店、小売店、サービス会社などから幅広く依頼を受けており、「調査したことのない業界はない」といえるほどだといいます。つまり本書ではそうした実績を軸として、「感じがいい」といわれる接客術を紹介しているのです。■評価は働いている年数に比例しない著者は本書で、あるスーパーで覆面調査を行ったときのことを明かしています。そのお店で働いている人は、正社員はもちろん、アルバイト歴数十年の方、はじめたばかりの高校生までさまざま。しかし何度か調査を行っているうち、おもしろいことに気づいたというのです。それは、お客様からの評価が、働いている年数に比例しないということ。経験が浅くても評価の高い人もいれば、長年やっていても評価の低い人もいたということです。■たった15度のおじぎで差が出る!もちろん仕事についていえば、長年やっている人のほうが高いレベルのことができるでしょう。とはいえお客様の満足度は、長年やっているからといって必ずしも高いとは限りません。たとえばお客様は、働きはじめてまだ5カ月の高校生アルバイトに高い評価を与え、7年もやっているベテランに低い評価を与えたそうなのです。なぜ、そのようなことになったのでしょうか?著者によれば、それは「たった15度のおじぎの差」。アルバイト5カ月目のスタッフは、レジでひとりひとりのお客様に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といいながら、ていねいにあいさつとおじぎをしていたのだといいます。まだ5カ月目で、自分は未熟な点が多いと自覚していたために、一生懸命だったのだろうと著者は分析しています。一方、経験の長いスタッフは、お客様と目を合わせることなく、あいさつも頭だけペコリと下げる程度だったのだとか。■お客様は頭の下げ方にも敏感であるお客様のなかには、だらだらと作業されるのを嫌う方もいらっしゃるもの。しかし、単にスピードが速ければいいということでもないはず。あいさつもなく、商品を乱暴に入れられたのでは、やはりいい気持ちはしないからです。つまり、頭だけペコリと下げる人と、ていねいに頭を下げる人なら、後者のほうがよい印象を与えるのは明らか。お客様は、頭の下げ方をも敏感に感じ取っているもの。だからこそ、たった15度のおじぎの差は、想像以上に大きいということです。■もう15度だけおじぎを深くすべしそこで著者は読者に対し、「自分の仕事を振り返ってみて、なんとなくあいさつをしていませんか?」と問いかけています。いうまでもなく、もし「とりあえずのあいさつ」になっていたり、あるいは頭を下げずに声だけであいさつをしたり、逆に、頭だけをペコリと下げるだけだったりするのであれば、とても損をしているということになります。だからもう15度だけ、おじぎを深くしてみることが大切だというのです。なお別の側面から見てみても、あいさつというのは、「自分ではやっているつもり」というケースがよく見られるのだそうです。たとえばあるレストランで著者が接客教育を行っていたとき、ひとりの若い男性スタッフが、ほとんどおじぎをしていないことに気づいたのだそうです。ところが、そのことを指摘しても、本人にはまったく自覚がなかったというのです。そこで仕事の様子をビデオで撮影し、本人に見てもらったところ、自分ではおじぎをしているつもりだった彼は、自分の仕事の様子を見てとても驚いていたとか。そして自分の姿を客観的に見ることで、ようやく自分のおじぎの仕方がよくなかったことを自覚し、「もう15度深く頭を下げるように」という言葉の意味を理解してくれたのだといいます。■おじぎをセルフチェックしてみようそんな経験があるからこそ、普段の仕事の様子を客観的に見てみることが重要だと著者は主張します。方法は簡単。スマートフォンなどで動画を撮ってもらい、それをチェックすれば、普段どのようなおじぎをしているかを客観的に見ることができるわけです。「たった15度の差」だと思うかもしれませんが、その差が満足度の大きな差として表れてくるもの。著者はそう断言します。ちょっとしたおじぎの違いでそこまで印象が変わってしまうのですから、意識して取り組むべきかもしれません。*ミステリーショッパーとしての自身の経験をベースとしているだけに、本書での著者の接客に対する考え方には強い説得力があります。人と接する仕事についている人は、目を通してみるべきだと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※本多正克(2016)『日本一の覆面調査員(ミステリーショッパー)が明かす100点接客術』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年09月19日『あなたの魅力を爆発させる方法』(文響社)の著者・山田マキ氏のなかには以前から、「魅力がほしい」「人に愛されたい」「幸せを手に入れたい」という思いが強くあったのだそうです。そこで30代になったとき、服装、メイク、ネイル、仕草、資格や習いごとなど、さまざまなものに手を出して努力をしたものの、状況はまったく変わらなかったのだとか。それもそのはずで、つまりは「間違った自分磨き」ばかりしていて、むしろ自分の本当の魅力を失わせていたということ。そこで自分や友人たちの失敗体験を振り返り、負の連鎖から見事に脱出できた人たちの事例などをもとに、「本当の魅力」を手にいれる方法をまとめたのが本書だということ。第4章「イイ女は年齢を隠さない30歳を超えたら変えるべきこと」から、いくつかの要点を引き出してみましょう。■自分の年齢はオープンにする独身女性は、加齢とともに生きづらさを感じることが増えると著者は指摘しています。合コンやお見合いにおいても年齢で明確に線を引かれるようになるため、存在自体も認めてもらえていないような、自分のすべてを否定されたような思いをすることもあるというのです。そして、そんな経験が一度でもあると、とたんに自分の年齢が重くのしかかってきて、後ろめたい気持ちになってくるのだとか。そのため自分を守ろうとするものの、反応は過剰なものになりがち。だから結果的に、まわりに余計な気を使わせることがあるというのです。事実、著者の周囲にも、30代になってから年齢を気にしてしまい、過剰に守りに入る友人がたくさんいるそうです。■隠さなければ相手も楽になるしかしその一方には、なんの抵抗もなく自分をオープンにできる人がいるものです。たとえば、初めて会った人に対しても自分から「婚活しているから、誰か紹介して!」「本当は40歳だけど、まだ若く見えるかな?」と、積極的にオープンにしていくようなタイプ。そのようなアプローチをされると、相手も遠慮することなく打ち解けることができ、すぐに仲を深めていけるものです。著者にも、そういう人を見ていて安心できた経験があるといいます。後ろめたいことは、隠そうとすればするほど、それが本当にいけないことのように見えてしまうもの。そこで、まわりに気を使わせないためには、・聞かれたくないことこそ、気にかけていないそぶりで堂々と答える・事実をいいたくないときは、あからさまな嘘で茶化す・「気にしていない」態度で、先に後ろめたい情報を伝えることが大切だといいます。まわりの人に気を使わせていると。誰も近づかなくなってしまうもの。年齢を重ねることは罪でもなんでもないのですから、意地になって隠す必要はないということです。■女子力と人間力は「3:7」に世の中の多くの女性が、女子力を高めるために自分を磨いています。ところが、大人になると女子力だけではどうにもならないことも出てくるもので、たとえばそのひとつが恋愛。たしかに女子力が高ければ、それなりにおつきあいはできるでしょう。しかし、ずっと一緒にいるとなると話は別。重要なのはお互いの人間性なので、いくら女子力が高くても、人間力が低ければ「長く一緒にいたい」とは思わないものだと著者はいうのです。ちなみに人間力とは、具体的に次のようなものだそうです。・誠実さがあらわれる言動を取っている・いつも心穏やかにしている・表裏なく、誰に対しても思いやりがある・人の批判をしない・自分を磨く努力をしている大人になればなるほど、表面的なかわいさや美しさだけではなく、こうしたことができるかどうかのほうが重要になってくるというのです。そして女性の心を動かすことができると、「女性からも好かれる人間力が高い人」だと見られるのだともいいます。それなら、女子力も人間力も高いとみなされるわけです。そこで、人として大切にされるために、女子力と人間力の割合は「3:7」くらい、つまり「人間力多め」を目指すといいのだとか。*自分自身の失敗を基にしているからこそ、著者の語り口には不思議な説得力を感じさせます。自分自身の魅力を最大限に活用するために、目を通して見るのもいいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山田マキ(2016)『あなたの魅力を爆発させる方法』文響社
2016年09月19日『めんどくさくて、「なんだかやる気が出ない」がなくなる本』(西多昌規著、SBクリエイティブ)は、数々のベストセラーを生み出してきた精神科医・医学博士による最新刊。今回のテーマは、ずばり「めんどくさい」。人間なら誰しもが持っている「めんどくさい」「やる気が出ない」という気持ちに焦点を当て、やる気を取り戻すための方法を指南しているわけです。きょうはそのなかから、「100%を目指そうとするからいけない」という考え方をご紹介しましょう。■強迫的だとまじめさに疲れることも人間は、とても些細なことにも、妙にこだわってしまうところがあるもの。日本人は特に几帳面ですが、それはよいクセでもあり、悪いクセでもあると著者は指摘しています。そして、そのような、あまりに「きっちり」「まじめすぎる」性格のことを「強迫的」と呼ぶのだそうです。料理のレシピは1グラム単位で正確に量ってつくりたいとか、あるいは仕事でもミスなく完璧に仕上げなければならないと思い込み、完全主義を貫いているような人がこのタイプだとか。強迫的な正確も、ほどほどであれば「きちんと仕事をする人」というプラスの評価を受けることになります。しかし完全主義がオーバーになったり、不完全に陥ることを恐れて後ろ向きになったりするなど、度がすぎると自分の「まじめさ」に疲れてしまうことになります。たとえば複数の仕事を同時に抱えるビジネスパーソンが、そんな心理状態で仕事に取り組めば、どんどん自分を追い込んでいくことになるわけです。失敗を恐れるあまり、あるいは承認欲求が満たされないあまり、不安や抑うつ、自分へのいらだちが高まっていくということ。そしてワーキングメモリが一気にパンクし、ヤル気を失ってしまう状態に陥ることに。無理が続けばやる気を失うだけではなく、うつ病の発症、果ては自殺へとつながっていく可能性もあるのだそうです。■失敗を恐れず思い切ることも必要!しかし大事なのは、まず失敗を恐れないことだと著者はいいます。「不完全を認めるスタンスを持つ」ということが、過度の完全主義から脱出するポイントだというのです。完全なクオリティを求めることだけがゴールではないわけです。だから、完全に仕上げなければ周囲から認められないという誤解にも、できるだけ早く気づくべきだといいます。とはいっても、融通の利かない強迫的な考えを変えるのは決して簡単なことではないでしょう。そこで意識したいのは、目標をゆるめて、失敗を恐れない態度を持つこと。仕事にしても完全だけを求めるのではなく、ある程度のところで「エイヤッ」と提出してしまう、そんな思い切りも必要だということ。何故なら100%を求めてイライラしていても、結果はあまり変わらないものだから。■悩みや不安を脇に置く効果的な方法では、具体的にどうすればいいのでしょうか?この問いに対して著者は、「悩みや不安があっても、いったんそれは脇において、ほんの少しの間でも別のことを考えてみてはいかがでしょうか」と提案しています。仕事のことしか考えられないような人だったとすれば、無理やりにでも温泉旅行の計画でも考えてみようということ。仕事の悩みや不安以外のテーマで頭を使う時間を、少しずつ長くしていくという発想です。往々にして、強迫的な人ほど型にはまることを得意とするため、悩みや不安以外のテーマを考える時間をパターン化するのは簡単だといいます。悩みや不安を「脇に置く」ためのもっとも効果的な方法は、考えることも行動も、やりすぎないように80%で抑える訓練をすること。常に100%を目指すのではなく、「80%できれば上々」だという思い込みを持つべきだというのです。■80%主義はパレートの法則と同じ「パレートの法則」をご存知でしょうか?全体の20%のなかに重要なものが80%あるという経済理論。たとえば最新型のパソコンの機能のうち20%を使いこなせれば、本来の目的の80%は達成したと考えられ、他の80%の機能は知らなくてもいいという考え方。それと同じことで、たった20%をマスターして、目的の80%が達成されたと考えるのなら、さほど難しくないわけです。だからこそ、こうした考え方を知るだけでも、過去の強迫的な行動のなかに「やりすぎ」だったものがあると気づくはず。そして、こうしたスタンスを持つことができれば、パンクしていたワーキングメモリも少しずつ回復し、徐々にやる気も戻ってくるだろうと著者は結論づけています。*著者の表現は今回も柔らかく、親しみやすいもの。押しつけがましさがないからこそ、無理なく心に入り込んできます。「やる気が出ない」ときに目を通せば、気持ちをうまく切り替えられるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※西多昌規(2016)『めんどくさくて、「なんだかやる気が出ない」がなくなる本』SBクリエイティブ
2016年09月17日『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』(ダイヤモンド社)の著者・杉野幹人氏は、米シリコンバレーで、そして外資系のコンサルタントとして、グローバルビジネスの第一線の人たちと仕事をしてきたという人物。世界最高峰のビジネススクールとして知られるINSEADのMBAプログラムでは、世界60カ国から集まった次世代のリーダー達と一緒に学んだそうです。そんななかで「伝えること」が傑出してうまい人たちと出会ったといいますが、彼らには共通することがあったのだとか。それは、「箇条書きが抜群にうまい」ということ。■忙しくて時間がないときこそ箇条書き事実、外資系コンサルのプレゼン資料の最初のページに図やグラフはなく、十中八九、箇条書きなのだといいます。理由は簡単。クライアントの多くは企業の経営者なので忙しい、そして時間がない。だから図やグラフによる分析や背景を聞くよりも、要点をすぐ理解したい。そのためコンサルタントは、伝えなくてはいけない要点を、短く、魅力的に伝える必要がある。そこで、その手段として、箇条書きが選ばれているというわけです。■同じ内容でべた書きと箇条書きを比較では、箇条書きにはどのような機能があるのでしょうか? それを知るために、ベタ書きと箇条書きを比較してみましょう。【ベタ書き】チェーンの牛丼はとても安くて、多くの人にとって買い求めやすいものだ。このため、お金のない学生であっても気軽にお店に入ることができる。そして、チェーンの牛丼はとても速くつくられて、速く提供される。だから、ビジネスパーソンにとっては、あまり時間がなくても、次に予定があっても気兼ねなく食事ができる。また、小さい子ども連れのファミリーにとってもありがたいだろう。待ちきれない子どももいるからだ。そして、チェーンの牛丼はとてもうまい。何度食べても飽きがこない。だから、朝に食べたとしても、夜にも食べることができる。【箇条書き】チェーンの牛丼のすばらしさは3つ。(1)安い(2)速い(3)うまいベタ書きは情報量が多く説明もていねいですが、なかなか頭に入ってきません。しかし箇条書きはシンプルで、すぐ理解することが可能であるわけです。■箇条書きで「10倍速く」伝わる理由いわば箇条書きは、ベタ書きにくらべて文章量が少ないことが特徴。すなわち、情報量が少ないわけです。つまり相手に届けることのできる情報量だけで考えれば、ベタ書きのほうが箇条書きよりも優れていることになります。しかしベタ書きは情報量が多いだけに、相手がそれを処理しきれなくなる、すなわち読み切ってくれない可能性があるわけです。あるいは中途半端に処理され、「情報は届くが、意味は伝わらない」ということも起こりうるということ。一方で箇条書きは、本来なら相手がすべき情報処理を、送り手が代わりに「短く」まとめています。ですから相手は情報処理が楽になるため、送り手の伝えたいことがより正確に伝わることになるのです。箇条書きの機能を理解すると、「箇条書きを使うのに向く状況」と「そうではない状況」がわかるようになるそうです。箇条書きが向くのは、相手に情報処理の手間をかけさせたくないとき。相手が忙しい場合などがそれにあたり、たとえば目上の人への報告などがその典型。また売り込みのプレゼンテーションなど、相手がこちらに対してあまり関心を持っていないときにも効果的なのだとか。■要点を「3つにまとめること」が大切ところで経営コンサルタントは「なんでも要点を3つにまとめる」とよくいわれるのだそうです。ただし重要なポイントは「3つ」ではなく、2つでも4つでもよいのだとか。いってみれば大事なのは「まとめること」、短く、箇条書きにすることだというわけです。経営コンサルタントが向き合うのは、時間に制約がある忙しい人たち。そのため、情報処理の負担を減らすことができる箇条書きで伝わることが求められるということ。■相手が勉強家だと箇条書きが向かないしかし、逆に箇条書きが向かないときもあるといいます。相手が情報処理の負担をいとわない場合は、箇条書きよりもベタ書きのほうが適しているわけです。相手は勉強家で、時間もあり、熱心に読んだり聞いたりしてくれるときには、情報量の多いベタ書きのほうが伝わるということ。また学んで実行に移そうとしてくれる相手には、あえて箇条書きにまとめず、じっくり時間をかけて説明することもあるでしょう。箇条書きとベタ書きは対立するものではなく、場面や相手に応じて使い分けるものだということです。*実際に目にしてきた多くの実例がベースになっているだけあり、著者の主張には強い説得力があります。本書を参考にしながら箇条書きを取り入れてみれば、ビジネスがよりスムーズになるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※杉野幹人(2016)『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』ダイヤモンド社
2016年09月17日「もっと仕事のパフォーマンスを上げたいのに、気分が乗らず、はかどらない」こう考えるのは、向上心のある、真面目な人。そう指摘しているのは、『気力より体力 一流のコンディションを手に入れる』(KADOKAWA)の著者・吉越浩一郎氏です。仕事に一生懸命で、「もっと仕事ができるようになりたい」と考える人ほど、「気力をもう少し出せれば、もっと成果を上げられるのに……」と悩んでしまうということ。しかし“もっと気力が欲しいビジネスパーソン”に欠けているものは、気力でも仕事の能力でもないというのです。なぜなら、そこには大前提=土台となるものが欠けているから。それはなにかといえば、ずばり体力。自身のビジネス経験、そして成果を出しているビジネスパーソンの共通点を探った結果、そのような結論に至ったのだそうです。つまり仕事に必要な体力がわかないのだとすれば、「とりあえずやる気を出そう」などという無謀な試みをするのではなく、仕事に必要な「体力」を整えればいいだけだというのです。だとすれば気になるのは「体力をどうつけるか」ですが、このことについてのキーワードは「8時間睡眠」「赤身肉」「1万歩」なのだそうです。■1:悩むヒマがあったら「8時間寝る」体をリセットする究極の方法は、毎日の睡眠。つまり誰にも毎晩、自分をリセットするチャンスが訪れるということです。そして睡眠の基本は「十分な時間」をとること。枕を変えたり睡眠に関する本を読んだりするよりも、とにかくまず「8時間眠ること」が大切だというのです。では、なぜ8時間なのでしょうか? 著者によれば、それは「自分に最適な睡眠時間」を知るため。もっと短い時間で十分な睡眠が取れる人もいるでしょうが、まず8時間眠ってみることで、その時間が自分に合うか否かがわかるというわけです。それを続けてみて、もし辛ければ、少し短くすればいいという考え方。そこで著者は、「早速今夜から8時間寝ることを自分に課してください」と勧めています。そしてそれだけで、疲労感が激減するというのです。8時間寝るためのコツはなく、大切なのは夜、早くベッドに入ること。もしもそのせいで朝早く目が覚めたら、ゆっくり二度寝を楽しめばいいのだとか。ちなみに著者は、トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長を務めていた人物。「いいリーダーの条件は『よく寝ること』」を持論とし、現役時代から8時間睡眠を自らに課していたといいます。時間に追われる企業のトップにとって、8時間睡眠をキープすることは現実的になかなか難しかったはず。しかしその意義を理解していたからこそ、続けることができたのでしょう。■2:赤身の肉を食べる日本人の肉の消費量は少しずつ増えているといいますが、それでもまだまだ少ないと著者は考えているそうです。そして、日本人が欧米人にくらべて体力がないといわれるのも、肉不足が大きく影響しているのではないかと推測しています。「肉は太る」「体に負担をかける」などという人もいますが、それは牛肉でいえば、脂たっぷりの霜降り肉をイメージしているから。しかし、探せば本当においしい赤身があるので、そういった脂の少ない部位を食べれば問題はないといいます。また、そもそも肉に一部は含まれる「脂」も、一概に悪いとはいい切れないもの。牛肉や豚肉の脂肪に含まれるアラキドン酸の一部は脳の内部でアナンダマイド遠いう物質に変わるそうですが、このアナンダマイドには「至福物質」という別名があるのだといいます。つまり、肉の油は幸せな気持ちをもたらすともいえるわけです。肉を食べたいと思うのは、「幸せになりたい」という思いの表れともいえるかもしれないと著者。だとしたら、それを禁じる必要などあるはずがないわけです。もちろん食べすぎるとまた別の問題が出てくる可能性はありますが、消費量がまだまだ少ない日本人は、むしろ積極的に食べたほうがいいといいます。ただし、脂を油で調理するトンカツや唐揚げよりは、ステーキや焼き肉など、余計な油はあまり使わず、脂を落とす料理法を選んだほうがいいそうです。■3:毎日1万歩歩く著者は会社をリタイアしてからジムに通っているそうですが、そんな時間が取れなかった現役時代は、普段の生活の延長で体のメンテナンスを行っていたのだといいます。そのうちのひとつが、歩くこと。代謝がよくなり、運動習慣も身につくので「1日1万歩歩こう」とよくいわれますが、それを実行したというわけです。でも、1万歩歩くためには、大人ならざっと1時間40分=100分、100歩には1分、1,000歩には10分が必要。「自由に使える時間が1日に5時間しかないのに、100分間も歩くなんて無理だ」と思われるかもしれません。しかし国民健康・栄養調査によると、日本人(成人)の平均歩数は男性で7,043歩、女性で6,015歩だというのです。つまり毎日すでに平均分は歩いているわけですから、あと3,000~4,000歩プラスして歩けば、1万歩を実現できるわけです。時間になおすと、30~40分余計に歩けば、目標を楽々クリアできることがわかります。しかもウェアを着て腕を振ってのウォーキングである必要はなく、ただただ歩けばいいのだそうです。この40分は、通勤時間のなかでも捻出することが可能。エスカレーターを使うのをやめて階段を使ったり、目的地の一駅前で電車を降りて歩いたりすれば、無理なく実現することができるわけです。*「体力をつける」というと難しいこと脳ようにも思えますが、このように、ちょっとした工夫で大きな効果を生み出せるもの。本書を参考にして、体力をつけてみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※吉越浩一郎(2016)『気力より体力 一流のコンディションを手に入れる』KADOKAWA
2016年09月17日「やる気があるのにダラダラしてしまうのは、自分が悪いからではない」と断言するのは、『ダラダラ気分を一瞬で変える 小さな習慣』(大平信孝、大平朝子著、サンクチュアリ出版)の著者。ダラダラしてしまうのには理由があり、それは「コントロールできないものをコントロールしようとする」からだというのです。だから結果的に、気疲れしたり、心が折れたりしてしまい、仕事がはかどらないということ。そこで本書は、脳科学や心理学に基づいた「ルーティン」と呼ばれる簡単な習慣により、「ダラダラ気分を一瞬で変え、いつでも仕事モードに入る方法を明かしているわけです。「ルーティン」と聞いてピンとこない人でも、ラグビーの五郎丸選手がキックの前にする一連のアクションや、イチロー選手が打席に入る前にするアクションはご存知のはず。つまりは、あれがルーティン。一流アスリートたちが集中するために行っているそれら一連のアクション(=ルーティン)を、ビジネスパーソンも取り入れるべきだと著者は考えているのです。でも、具体的にどうすればいいのでしょうか? その点を確認するため、「時間」に関連するルーティンを引き出してみましょう。■朝は「10秒ベッドメイキング」する朝は自分にとって意味を持つ「マイ・オープニングテーマ」を聴きながら、ベッドメイキングをするルーティンをするといいのだとか。忙しくてバタバタしがちな朝に、あえてベッドメイキングをして環境を整えることによって、落ち着き、清々しい気持ちで1日をスタートすることができるという考え方です。しかも朝にベッドメイキングをしておくと、夜に疲れて帰宅しても、ホッと一息つけて、くつろぎやすくなるもの。朝のわずかなアクションが、夜の眠りにも好影響を及ぼすということ。ちなみに著者はこれを「未来貯金」と呼んでいるそうです(当然ながら、逆の状態は「未来借金」)。■通勤電車では「1分何かの勉強」する毎日の通勤時間が手持ち無沙汰だという人も少なくないでしょう。そんなとき、ツイッターやフェイスブック、LINEを開いてみるのもひとつの選択肢ではあります。しかし通勤中は、電車に乗ってさえいれば、なにをしようと自由な時間。だからこそこのスキマ時間を、受け身ではなく、「自分のため」に活用しましょうと著者は提案しています。ちなみに電車の時間を有効活用できるかどうかは、「乗った直後」がポイントだとか。うまく活用できる人は、電車でなにをするか「あらかじめ決めている」というのです。逆にいえば、なにをするか事前に決めていないと、「なんとなく」「手持ち無沙汰だから」と、無意識のうちにスマホや携帯を開くことになってしまうわけです。そこで著者が勧めているのは、電車に乗ったら“最初の1分間だけ”「○○の勉強をする」と決めてしまうこと。勉強というと堅苦しく感じられるかもしれませんが、たとえば「Yahoo!ニュース」の英語版を読むだけでも、十分に英語の勉強になるわけです。■仕事は「2つの締め切り」を決める!企画書や報告書の作成、中長期にわたるプロジェクトなど、時間も手間もかかる仕事は、ついつい後回しにしてしまいがち。その結果、締め切り直前にようやく手をつけたら、「明らかに時間不足だった」という事態になることも珍しくありません。そんなことを避けるために大切なのは、仕事をしっかり「スケジュールに入れる」ためのルーティンを行うことだといいます。具体的には、「いつ手をつけるか」と「いつまでに仕上げるか」と“2つの締め切り”を決め、すぐにスケジュールに書き込むといいのだそうです。タイムリミットをつくることによって、集中して仕事をすることができるという考え方です。■余裕ゼロの時は「1分間目を閉じる」人に集中力が続く時間は、私たちが思っている以上に短いもの。そして私たちは機械ではないため、長時間のプレッシャーには強くありません。たとえ訓練したとしても、人が高度な集中力を何時間も持続させることは難しいのです。だから有効なのが、仕事が立て込んでいて追い込まれているときや、食事する時間すら惜しい時でも、短時間で回復できるルーティン。といっても簡単なことで、とにかく1分間、目を閉じればいいというのです。なお1人になれる場所であれば、トイレの個室でも、屋上や非常階段、あるいはベランダでも、どこでもOK。席を外せないのであれば、自分のデスクでもかまわないそうです。もちろん昼寝が許されるのであれば、10分でも15分でもソファに横になるのが効果的。しかし現実的に、オフィスには昼寝をする場所がなかったり、昼寝をできる雰囲気でもなかったり、ということのほうが多いはず。しかし1分間目を閉じて「寝たふりをする」ルーティンであれば、誰にでも簡単にできるわけです。*著者が紹介しているルーティンは決して難解なものではなく、このようにシンプルで簡単なものばかり。そのぶん日常に、無理なく取り入れることができそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大平信孝、大平朝子(2016)『ダラダラ気分を一瞬で変える 小さな習慣』サンクチュアリ出版
2016年09月15日知っておきたいという気持ちはあっても、意外に知る機会が限られているのが政治についてのいろいろなこと。けれど人にも聞きづらく、結果的には疑問を疑問のまま放置しているという方も決して少なくないはずです。そこでおすすめしたいのが、『“知ってるつもり”から抜け出す! 「政治のしくみ」がイチからわかる本』(坂東太郎著、日本実業出版社)。日本ニュース時事能力検定協会委員でもあるニュース会社者の著者が、政治に関する基礎知識をわかりやすく解説した書籍です。ところでニュースを聞いていると、「予算」についての話題が登場することがよくあります。しかしそうでありながら、その基礎的な部分は置き去りにされがち。そこできょうは、その基本的な部分について取り上げてみましょう。■毎年1月の通常国会で予算案を提出!国会は、法律だけでなく、国のお金の使い方を決める場でもあります。そして通常、単に「予算」という場合は、年度(当年4月1日から翌年3月31日まで)に入ってくるお金と、その使い道を示した「一般会計予算」をさします(「当初予算」といわれることも)。なにをするにもお金が必要で、それは国のサービスも同じ。そこで毎年1月、必ず開かなければならないことになっている「通常国会」で、新春から3月末までのうちに国が見込んだ収入(歳入)と使い道(歳出)の見積もりを、憲法の規定によって内閣が「作成して、国会に提出」(86条)します。すなわち、これが「予算案」。まず前年8月ごろまでに「省」や「内閣府」など、国の機関が翌年の見積もりをつくります。これが「概算要求」。ところがこれは、各省庁が欲しいぶんだけ要求しがちなので、「盛った」数値もあるのだとか。そこで財務大臣が年末近くに審査をし、「予算原案」にするのです。ところが、ここで概算から削られたり、なくなったりする要望も出てくることになります。そこでもう一回、原案との突き合わせ・微調整を行うことに。そしてそこまでを根回ししたあとに、首相をリーダーとする内閣の決定(閣議決定)に至り、それが翌年早々、国会に提出されるというわけです。■国会の演説や質問は「いいっぱなし」予算案の場合は、1月からはじまる通常国会の冒頭にある首相の施政方針演説で年間の方針が語られたあと、国の財布を預かる財務省トップの財務大臣が、「財政演説」というかたちで示します。そしてそののち、与野党各会派の代表による質問が行われるのです。とはいっても、ここまでの演説や質問は「いいっぱなし」。具体的な問答が行われるのは、次に開かれる予算委員会となるのだそうです。なお法律案は原則として衆議院・参議院どちらに出してもかまわないといいますが、予算案は衆議院が先(先議権)と決まっているそうです。最近の当初予算の歳入面では、本来それでまかなうべき「税収」だけでは歳出には足りず、国債(国の借金)頼り。そして歳出のトップは年金や医療などの「社会保障」で、次いで「国債費」(借金返済)が続きます。なお予算には、当初予算以外に「補正予算」「暫定予算」があります。補正予算は、年度の途中に、自然災害の被害や不景気などで追加のお金が必要だと内閣が判断した場合に計上されるもの。暫定予算は、年度内に次の年度の当初予算が決まらなかった場合、公務員の給与など当面の間必要な支出だけを計上するもの。■予算委員会は結果的になんでもあり!予算委員会(予算委)は衆議院で50人。会派の大きさに合わせて割り当てられ、委員長が委員のなかから選ぶそうです。通常国会の前半最大の課題は予算で、質疑のスタートが衆議院予算委員会なので必然的に注目が集まることになります。予算案はあらゆる国家機関の見積もりであり、内閣の責任で出されるので、答弁に立つべき国務大臣も原則的には全員出席。すると予算委以外の委員会に大臣が出席できないため、結果的に予算委優先、予算委のみ開催となるそうです。なお、予算は提出者も執行者も内閣なので、首相や国務大臣がどういう姿勢で1年間を過ごすかまでが話題になります。スキャンダルの話題なども出ますし、結果的に「なんでもあり」になってしまうというのです。■予算を人質に揺さぶられることもある衆議院の委員会で採決して可決し、本会議も通ると、予算案は参議院に送られます。その結果が秘訣や修正となったとしても、「衆議院の優越」規定があるため、最終的に衆議院の議決で決まることになります。つまり予算そのものについてあれこれいっても、多くの場合は上手にかわされて終わり。そこで攻める側の野党は、「こんな内閣のつくった予算案を信用できるのか」とスキャンダルを追求したり、「態度がなっていない」などと理事に文句をつけて引き伸ばしをはかるなどして「成果」を得ようとしたりするわけです。内閣にとって、予算の3月末までの成立は至上命題で、それができないと非力な内閣とみなされるため、野党から痛いところを握られたりしている場合は、問題大臣のクビと引き換えに審議促進を非公式に伝えるといった手段に出ることも。「予算を人質に揺さぶる」という行為です。このように予算委員会は華々しい割に、(1)どのみち衆議院で多数を取っている与党が選んだ首相による内閣提出だから、原案どおりに可決する(2)「可決する」とわかっている野党は、仕方なくスキャンダル攻撃などでがんばっているふりをするという2点があらかじめほぼ決まっているので、「出来レース」との声も浴びせられるといいます。*基礎的なことがコンパクトにまとめられているため、知りたいことを確実に理解できるはず。困ったときのため、手元に置いておくといいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※坂東太郎(2016)『“知ってるつもり”から抜け出す! 「政治のしくみ」がイチからわかる本』日本実業出版社
2016年09月15日『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』(カーラ・ハリス著、堀内久美子訳、CCCメディアハウス)は、モルガン・スタンレー資産管理部門のバイスチェアマンであり、キャリアアドバイザーによる著作。自分のコンテンツ(=売りとなるもの)の見つけ方、成果貯金(=信用・評判・強み)を使ったさらなる成果の出し方、そして人間関係貯金(=昇進するために必要な人間関係)の貯め方と効果的な使い方を解説しています。そして著者は、本書を通じて多くのビジネスパーソンが、景気や社内政治の状況に振り回されることなく、成功の高みへと登っていくために必要な対策と手段を見つけられることを願っているのだとか。今日はステップアップについて書かれた第1部のなかから、「成果貯金」という考え方をご紹介したいと思います。■成果をあげて得た信用が成果貯金に成果貯金とは聞きなれない言葉ですが、著者によればそれは、職務をきちんとこなし、個々の仕事ですぐれた成果をあげることで生じる信用や評判、強みのこと。「予想より早く仕事を終えた」「求められている以上の分析や考察を加えた」「創造的で明快、建設的な方法で情報を提示した」など、常に期待される以上の結果を出すと、「成果という貨幣」の貯金ができるという考え方です。つまり、成果貯金=(知性+経験+効果的な実行)×頻度となるわけです。ウェブスターの辞書では、「貨幣」は「交換の媒介物として流通しているもの」と定義されているそうです。つまり評判がよく、すぐれた成果を上げたという実績があれば、それと「交換」できるものを持っているということになるのです。それは、誰もが就きたがる社内のポスト、昇給、上級幹部への紹介、意思決定会議で尊重される発言権、大きな取引で担当チームに加わること、顧客の前でプレゼンテーションする機会、ミスをしたときの埋め合わせをするチャンスなど。■成果貯金がなければ前進できない!著者によれば成果貯金はきわめて有益で、なににも代えられないもの。組織内で政治力がなく、特に際立った地位でもない場合には、特に重要になるといいます。なぜなら駆け出しのころは、どんな組織にいたとしても、その種の力は持っていないものだから。そこで新しい組織に入ったら、早いうちに点数を稼ぎ、成果貯金を手に入れることが大切。具体的には、与えられた仕事をきちんと実行し、その仕事ぶりを上司とまわりの人に認めてもらう必要があるわけです。成果貯金がなくては、昇進もなければ、組織内での認知度を上げるような任務に抜擢されることもないからです。そして成果を出したことは、上司か、もしくは組織内で信用と権限を持つ人物に承認してもらうことが必要。そうして初めて、成果貯金に価値が生まれるからです。いくら自分で素晴らしい仕事をしたと思ったとしても、誰もそれに気づいてくれなかったり、組織が努力や仕事を評価してくれなかったりしたら、昇進や昇給、異動のチャンスのきっかけとはなりません。上司が成果を認める機会や方法はさまざまですが、重要なのは、自分が組織に対してしたことが、組織内の人から評価され、期待どおりかそれ以上の成果を出したといわれること。■新環境で成果貯金を手に入れる方法組織に新人が入ると、その人の品定めがはじまるのは人の世の常。そして「新しい環境に馴染むのに苦労している」とか、「よそよそしい」と思われたりしたら、成果貯金をはじめる前から成果という貨幣価値が下がることになるのです。また、はじめにあまりミスをしすぎると、期待以下の人間だと決めつけられ、場合によっては「組織にふさわしくない」という烙印を押されることも。人はすぐに思い込みや決めつけをするものなので、一度誤解を受けると自分の貨幣価値が傷つき、貯金が難しくなりかねないということ。そこで新しい仕事をはじめたり、新しい環境に入ったりするときは、必ず最初の24時間から48時間で手早く点数を稼げる方法を見つけたほうがいいと著者はいいます。そして同時に、「約束は小さく、成果は大きく」の考え方を実践することも重要。つまり、どんな仕事であっても、求められたことより大きな成果を出すよう努力すべきだということ。たとえば上司から「午後2時までに仕事を上げるように」といわれたら、午前11時までに仕上げるようがんばってみる。ある企業に関する調査報告を作成するようにいわれたら、その企業の最大の競合企業についても調べ、簡単に2社の比較分析をしてみる。そうした努力をするのです。まったくなじみのない環境や業界に入った場合、簡単に成果貯金をはじめるには、自分の仕事について知的で鋭い質問を同僚に投げかけてみることだといいます。一緒に働く人に、そうした“考えさせるような質問”をすれば、自分が仕事についてよく検討し、どうすれば成功するかを考えていることが伝わるから。つまり、「きちんと仕事をする人なのだろう」という認識と期待が生まれるわけです、*このように、著者の主張は力強く、そして明快。そのすべての方法論が日本の企業でのビジネスに応用できるとは限らないかもしれませんが、それでも役立つ部分は多いはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※カーラ・ハリス(2016)『モルガン・スタンレー 最強のキャリア戦略』CCCメディアハウス
2016年09月13日これまでに何度かご紹介した「『やるじゃん。』ブックス」は、社会人なら知っておきたい基本を身につけることを目的とした“フレッシュパーソンのためのあたらしい教科書”。『世界一わかりやすい ビジネス最重要ワード100』(ディスカヴァークリエイティブ著、ディスカヴァークリエイティブ)はその最新刊で、今回はビジネスに欠かせない重要ワードがテーマになっています。きょうはCHAPTER 5「金融経済基本ワード」のなかから、いくつかのキーワードを引き出してみましょう。■1:景気「景気」とは、経済活動の活発さを示す言葉。つまり、「市場全体で、どれだけお金が回っているか」ということです。ものがよく売り買いされ、活発にお金のやりとりが行われていれば「好景気」で、行われていなければ「不景気」ということになるわけです。だから、ひとつの会社だけが儲かっていたとしても、他が停滞していれば「景気がよい」ことにはならないということ。好景気のときは、市場にお金がある状態。お金があると自然にものが売れるため、値段が上昇。すると人は「時間が経つと値段が上がりそうだ」と判断するので、さらにものを買うようになります。逆に不景気のときは、あまりお金がない状態。人は「少しでも安いものを買おう」と判断するので、価格の低いものがよく売れるようになるわけです。つまり企業としては、好景気のときには価格の高い商品、不景気のときには価格の安い商品を販売したほうが、より売上を伸ばせるのです。なお景気は一定ではなく、常に変化するもの。そんななか、好景気であるか不景気であるかは、企業の設備投資の動向や求人状況、物価やGDP(国民総生産)の変化、家計の収入と消費の割合などを調査して判断することが可能。■2:インフレ・デフレ「インフレ」と「デフレ」は、どちらも物価の変動を表した言葉。インフレは「インフレーション(Inflation)の略で、物価が持続的に上昇していくこと。デフレは「デフレーション(Deflation)の略で、物価が持続的に下落していく状態。どちらもネガティブな意味で使われがちですが、どちらにもメリットとデメリットがあるといいます。まずインフレになると、ものの値段が上がるので、商品が売れれば企業の売り上げも伸びていきます。すると社員の給料も増え、市場に流れるお金も増え、経済か都度いうが活発になるわけです。しかし急激にインフレが進むと、市場にお金が流れる前に、ものの値段が上がりすぎてしまいます。こうなると消費者はものが買えなくなり、企業にもお金が入らなくなって、経済活動に歯止めがかかることになるのです。一方、デフレの状態ではものが安く買えるため、物価が高いときよりも多く売れるようになります。企業の売り上げが伸び、社員の給料が増えるので、経済活動が活発になります。しかしデフレが続くと、消費者はより安いものを求めるようになります。企業は値下げを続けなければ他社との競争に勝てなくなるため、どんどん物価を下げるようになります。すると売り上げは落ち込んでいき、経済活動が停滞します。つまりインフレもデフレも「適度なら経済活動を活発にするけれど、急激に進んだり、長く続いたりすると、経済活動を停滞させてしまう」という意味で、同じメリットとデメリットを持っているということ。だからこそ、どちらかに偏りすぎないようにすることが重要であるわけです。■3:円高・円安日本を含むほとんどの先進国は、市場の需要によって通貨の交換レートを変更する「変動為替相場制」を取り入れています。そのため、1ドルを何円で交換できるかは、交換するタイミングによって異なるわけです。そして、それまでにくらべ、1ドルの交換にかかる円が少ないときが「円高」で、1ドルの交換にかかる円が多いときが「円安」。1ドル=80円の円高になると、輸出においては1,000円のバッグを800円で売ることになりますから、200円の損。一方、輸入の場合は1,000円のバッグを800円で買うことになるので200円の得。1ドル=120円の円安になると、輸入では1,000円のバッグを1,200円で売ることになるので200円の得。輸入の場合は1,000円のバッグを1,200円で買うことになるため200円の損。基本的に、商品を輸入するときは円高のほうが得で、輸出するときは円安のほうが得になります。また円高のときには、国内の海外製品の値段が下がります。すると国内製品も値下げせざるを得なくなるため、全体として物価が下がり、経済はデフレ化していきます。円安の場合はその逆で、インフレ化していくということ。つまりは円とドルの交換レートが変動すると、国内経済にもかなりの影響が出るのです。*新人であろうとベテランであろうと、「あの言葉の意味を知りたいけど、人に聞くのは恥ずかしいなぁ」と思ってしまうことはあるもの。しかし、これさえあればそんな悩みを解消できるはず。そういう意味では、年齢やキャリアに関係なく読める内容だといえます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※ディスカヴァークリエイティブ(2016)『世界一わかりやすい ビジネス最重要ワード100』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年09月12日呼吸とは、単に「息を吸う・吐く」ということだけではなく、筋肉や関節、内臓や免疫、循環、体と心のすべてに対する根本的な用途として関わってくるもの。『なにもしていないのに調子がいい ふだんの「呼吸」を意識して回復力を高める』(森田敦史著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、そう主張します。13歳でクローン病という腸の難病(特定疾患)を患い、チック症、自損、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・腰椎椎間板ヘルニア、両股関節骨折、関節の炎症や変形など、数々の病気を経験してきたという人物。壮絶というしかありませんが、そんななか、ある呼吸の仕方で苦痛が和らぐことに気づいたのだとか。そして呼吸を整えて過ごすと、ひどかった症状は1年も経たないうちにほとんどなくなってしまったというのです。しかもそれ以来、15年以上、症状が出ることはなく、仕事のパフォーマンスも上がったのだというのですから驚きです。そんな経験があるからこそ、著者は「息を吸って、吐く」ことの意義を強調します。ただそれだけの呼吸に、体調や体質、仕事のパフォーマンスに関わる多くの情報が隠れていると断言するのです。そして重要なのが、自分の呼吸の幅をつかむこと。そのために大きな意味を持つという、「5つのステップ」をご紹介しましょう。■1:自分の呼吸のエリアを知るやり方は簡単。まず、息をはなから吸えるだけ吸ってみてください。しかも胸式・腹式といった意識はなくし、自然呼吸法で自然に吸うというのです。そして、「もう吸えない」というところまで吸ったら、今度は口から「スーッ」と、もうこれ以上吐けないというところまで空気を吐く。この作業でわかるのは、これ以上吸えないという「最大吸気点」と、これ以上吐けないという「最大呼気点」。この呼吸幅が、自分の呼吸のエリアだというわけです。■2:呼吸による「脹らむ力」と「しぼる力」をつかむ次にもう一度、同じように息を鼻から吸ってみましょう。吸えば吸うほどに体の内側から外側に張るような力、つまり「脹らむ力」を感じるはず。吸いきったところは、その脹らむ力のピークです。そして今度は、ゆっくりと口から「スーッ」と吐いていく。すると体が脹らむ力の分だけ、息が自然に出ていくわけです。少しずつ吐いていくと、脹らむ力が弱くなっていき、やがて自然に息が履けなくなります。そして、一定以上吐いていくと、下腹部がへこみ、体がしぼむような力を感じるといいます。吐けば吐くほど、しぼむ力は強くなり、吐ききったところがその力のピーク。感じたのは、呼吸による「脹らむ力」と「しぼむ力」、そしてその強弱。この力をいかに繊細に感じ取れるかが、自分の体を知る上で重要だといいます。■3:脹らむ力としぼむ力の切り替わり、中心をつかむ息を最大吸気点まで吸い、吸いきったところからゆっくり吐いていきます。吐いていくに従い、脹らむ力は弱くなり、どこかの時点で脹らむ力を感じなくなり、自然に息が出て行かなくなり、それ以上吐くとしぼむ力が働きはじめるのだとか。その切り替わりポイントが「中心」なのだそうです。■4:呼吸エリアを4分割する次は呼吸エリアを、1~4までに4分割するステップ。息を吸いきったところと、息が自然に出ていき、脹らむ力を感じなくなったところの中間が上半分の中心。感覚としては、胸や肩に張る力を強く感じるところ(エリア1)、脹らむ力は感じるが胸や肩に張る力をそれほど感じないところ(エリア2)の境あたり。そして、自然に出ていく息がなくなったところから、ほんの少し吐いてみます。すると、しぼむ力が少しだけ働き、肩や胸、背中の力がふっと抜ける感覚が来るそうです。そこがエリア3。そこからさらに吐いていくと、下腹部がへこむような力が働きはじめ、そこから履けば履くほどに息を吸いたくなる欲求が強くなるといいます。そこがエリア4。この「下腹部がへこむような、しぼられるような力が働きはじめるところが、呼吸の下半分。すなわちエリア3とエリア4の境だというわけです。■5:呼吸エリア3の上限と下限をつかむところで私たちはふだん、どの呼吸エリアで吸ったり吐いたりしているのでしょうか?体調や体質に大きな影響を与えるため、これは極めて重要なポイントだと著者は強調します、そして答えから先にいうと、人間にとって、もっとも体に負担をかけない呼吸エリアは「エリア3」なのだそうです。息を吸って、脹らむ力を感じ、そこから自然に吐けている最終地点が上限。これ以上履こうとすると、意図的に履かなければならないところだそうです。別な表現を用いるなら、体が脹らむ力を感じなくなったところ。そして、吐いていく息でお腹がへこむような、しぼられるような力が生まれる手前が下限。この下限と上限の間の呼吸エリア3が「呼吸のニュートラル」。これは体に負荷を与えずに、適度な体の緩みが実現できるところ。精神にも落ち着きをもたらす、自然治癒力がもっとも働きやすい呼吸状態の場所だとか。だからこそ、「日常のなかでこの上限と下限のエリアを起点として呼吸できているか?」ということが重要になってくるのだそうです。*呼吸エリア3を意識することは、日々のコンデイションを整えるために重要。そこで、この5ステップを実践し、感覚をつかんでみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※森田敦史(2016)『なにもしていないのに調子がいい ふだんの「呼吸」を意識して回復力を高める』クロスメディア・パブリッシング
2016年09月11日『人生が劇的に変わる脳の使い方』(加藤俊徳著、PHP研究所)の著者は、脳の専門家として活躍する医学博士。これまでにも、『アタマがみるみるシャープになる! 脳の強化書』(あさ出版)など多くのベストセラーを生み出しています。そんな著者は現在50代。30年以上にわたる脳研究の結果、「すべては『脳の使い方』で決まる」という結論に達したのだそうです。そしてそれが、本書のテーマにもなっています。ほんの小さな変化の積み重ねが自分の行動を変え、やがて自分の脳を変えていくというのです。そればかりか、いずれは他人の行動をも変えていくことになるのだとか。そして著者は、脳の成長にとって重要なのは「勉強」ではなく「経験」だとも主張しています。小さな気づきが、“経験=日常のすべて”を脳の成長に変えるという考え方。「脳の使い方」とは、「他人につけられるスコアではなく、自分で自分にスコアをつけて脳をデザインする」こと。いいかえれば、「学校脳」から「社会脳」への転換を図ることが大切だというのです。学校を卒業して自由なはずなのに、学歴や他人の評価ばかりを気にして、自分らしい生き方をできていない……。そういう現実が、多くの人々を苦しめる脳のクセだということ。そのために必要なメソッドを、ひとつご紹介しましょう。■「未来から来た人になる」思考をすべし成長を続けるためにもっとも大切なことは、「未来から来た人になる」思考をすることだと著者はいいます。すなわち、自分が設定したゴールから、すべての行動を完全に逆算して考えていくということ。なぜなら目標が具体的でないと、脳はいつまでも取りかかる準備をはじめないから。そのため、締め切り間際になってようやく取りかかり、「あと1週間あればなんとかなったのに……」と、いつも後悔してしまうわけです。別な表現をするなら、脳は漠然と考えているだけでは、いつまでたっても行動に移そうとはしないということ。「最近体力が落ちてきたから、体を動かさないとな」「やっぱり英語くらいは話せるようにしておかないとな」などと、あいまいに「そのうち」「いつか」で考えているだけでは、脳は働かないのです。大切なのは、1年後(あるいは10年後)の自分が「マラソンを完走する体力をつけている」「TOEIC(R)で800点をとっている」などの具体的なゴールを設定すること。そして、目標を達成している“未来の自分”が、“いまの自分”になにをやってもらいたいのかを考える。それが、「未来から来た人になる」という発想。■数値化すればいまの状況が正確にわかる具体的にいえば、自分の置かれた状況を必ず「数値」に置き換えて、できる限り正確につかむということ。著者の場合は、目標までの日数と月数を正確に数え、「きょうは345日目で12カ月前だ」とか、「あと408日で14カ月を切った」というように管理しているそうです。上記のTOEIC(R)の例について「TOEIC(R)で800点をとる」という目標を設定したとしましょう。目標を達成するための問題集を買い、試験日から逆算して○月○日までに計3回演習しようと計画を立てたなら、「1日あたり○ページ」という数値が出ます。そして、これを遂行するにあたっては、・現在、目標達成率は何%か・予定スケジュールから何%遅れて(進んで)いるか・遅れを取り戻すにはどうすればよいかというようなことを定期的にチェックすることが大切だというのです。■最低でも週1で目標数値はふり返るべしまた、それらの具体化した数値を手帳に書き込むなどして、できれば毎日、少なくとも週に一度は振り返るようにすることが大切。そうすることで、新しい気づきが生まれるからです。さらに残りの日数もつけると、1日のモチベーションを保つことができるので、できるだけ細かい進捗状況を記録していくと効果的だそうです。いわば定期的に目標達成率をふり返り、少し遅れがあるならペースを上げるなど対処することによって、締め切り間際に焦るというようなことがないように自分を律していくということです。なお、「いますべきことが見当たらない」のであれば、「夏季休暇でスウェーデン旅行へ行くために12カ月(1年)で50万円貯める」などの目標でもかまわないそうです。趣味であっても、数値で客観的に把握する習慣が身につけば、仕事においても「やる気が出ない」「追い込まれてテンパッてしまう」という事態を回避できるようになるわけです。*全体的に「学校脳」の人と「社会脳」の人を対比しながら話が進められるので、とても理解しやすい内容。脳を使いこなすために、ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※加藤俊徳(2016)『人生が劇的に変わる脳の使い方』PHP研究所
2016年09月11日『なぜ、あなたは変われないのか?』(古川武士著、かんき出版)のテーマは、「ビリーフ」。聞きなれない言葉ですが、著者によればそれは、私たちの行動や感情を突き動かす思考習慣。幼少期からずっと、私たちの無意識下で行動・感情を操ってきた、「心のずっと奥にある根深い思い込み」なのだそうです。つまりは過去の失敗体験や嫌な記憶が悪循環のスパイラルを生み、自分自身を苦しい人生へと導いてしまうということ。ビリーフを変えることができなければ、いつまでもずっと同じパターンを繰り返すことになるというのです。しかし、だとすれば、もしビリーフ(根深い思考習慣)を上手に扱うことができれば、何十年と繰り返してきたイライラや自己嫌悪・不安・徒労感から解放されるということになるはず。本書も、そこに焦点を当てているわけです。著者は、「習慣化コンサルタント」として活躍している人物。10年前までは「“こうなりたい!”という理想がありながらも実現できない」状態だったそうですが、ビリーフを扱えるようになった現在は、状況が一変したのだといいます。たとえば本を書いたり、国内外で講演を行ったり、多くの人とプロジェクト型で仕事をしているものの、イライラすることはほぼ皆無だというのです。なぜなら、イラッとすることはあっても思考でコントロールすることができるから。それが、ビリーフの力。なんでも「完璧にしなくてはいけない」という強迫観念が消え去り、力の入れどころと抜きどころがはっきりし、その結果として仕事ではメリハリがつくようになったからこそ、疲れることはないのだということ。ビリーフのこうした効力を前提としたうえで、本書のなかから興味深いエピソードを抜き出してみましょう。■30件アポ電すれば1回は反応がある著者は新人時代、情報システムの営業部に配属され、新規顧客開拓担当になったことがあるそうです。会ったことすらない企業に電話をかけるところから仕事がスタートするわけで、当然のことながら、電話をかけてもそっけない態度で断られることの連続だったといいます。だから「こんなことをやっていても、会ってくれる会社はないよ」という気持ちを抱えながら電話をしていたそうですが、15社目の担当者が「じゃあ、一度話だけ聞きましょうか?」といってくれたというのです。そして、以後も毎日アポ電話をかけ続けた結果、わかってきたことがあったのだといいます。それは、「30件に1回はアポが取れる」という確率。そのように考えれば、29回そっけなく断られることのダメージが少なくなるということ。なお大量に電話をかけ続けた結果、2期連続でトップの営業成績になったというのですから、そこには強い説得力があります。■1冊目は33の出版社に企画書を郵送著者は13冊もの本を書いてきた人物で、いまでも多くの執筆依頼を受けるそうですが、6年前に初めての本を出したとき、出版業界に知り合いはひとりもいなかったのだそうです。そんなときにも、役に立ったのがビリーフ。具体的にいうと、「人生における願望は、大量行動すれば実現する」というビリーフを適用したというのです。そこで、まず考えたのは、多くの出版社に自分の本のアイデアを見てもらおうということ。自分の本棚に並ぶ、大好きな本を出版している会社をリストアップし、計33社に一気に企画書を郵送してみたのだそうです。すると、2日後に2件、面会の連絡が。さらにはその2にも4件と、次から次に連絡が来て、最終的に11社からのオファーを受けたというのです。大量行動をした結果、新人でありながら出版社を選べる立場でスタートできたということ。そんな経験があるからこそ、著者は、「大切なことは確率論で考え、大量行動する」ことの大切さを訴えているのです。■まずは量を試せば可能性が開けてくる「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということわざがありますが、著者もまた、「量を試せば可能性が開けてくる」というポジティブビリーフを持っているということなのでしょう。自分がすでに体験し、経験から信じているポジティブビリーフを、人生の要所要所で適用するという考え方が、人生によい影響をもたらすというわけです。だからこそ著者は、「まず自分の成功体験を具体的に思い出してみてください」と読者に呼びかけています。きっと、好ましいビリーフが眠っているはずだから。*このように本書では、著者やさまざまな人の成功体験を引き合いに出しながら、ビリーフの重要性を説いています。手にとってみれば、そこから新しい道が開けるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※古川武士(2016)『なぜ、あなたは変われないのか?』かんき出版
2016年09月10日『ライザップはなぜ、結果にコミットできるのか』(上坂徹著、あさ出版)は、「結果にコミットする」でおなじみライザップのビジネスモデルを明かした書籍。本書を書くにあたり、著者は2ヶ月間にわたって実際にライザップを体験したというので、文字どおりのドキュメンタリーだといえそうです。■国内会員数は前年の2倍に増加している2015年12月末時点でのライザップの累計国内会員数は、前年の同時期にくらべて2倍以上に増加。それどころか、店舗によっては1ヶ月待ち、2ヶ月待ちのところもあるのだとか。そんなこともあって現在、店舗数の拡大や採用・研修の強化を行い、少しでも早くゲスト(ライザップでは、通っている顧客のことをこう呼ぶそうです)にトレーニングを開始してもらえるようにしているのだといいます。初年度に10店舗からスタートした店舗数も、現在は全国主要都市78店舗(2016年7月現在)に増加し、出店ラッシュはいまも続いているというのですから驚くしかありません。■ライザップの事業はボディメイクであるゲストの男女比は4対6で、年齢層は30代から40代が中心。しかし著者によれば、実際にはもっと幅広い層の人たちがライザップを利用しているのだとか。そして特徴的なのは、通いはじめる人の目的の大半がダイエットではあるもの、「ダイエットをする必要があるのか?」と思えるような細身の女性までもがゲストとして通っていることだといいます。実際、女性では20代も多いそうですが、それは、痩せるためにというよりも、「メリハリのある美しいボディになりたい」という人が多く存在するから。つまりライザップが手がけているのは、ゲストに痩せてもらうことだけではなく、本人が求める健康的かつ魅力的なボディに生まれ変わらせることだというのです。細身の女性であれば、トレーニングによって筋肉をつけることで、その姿を変えていくわけです。ライザップが自分たちの仕事を「ボディメイク」と呼んでいるのは、そんな理由があるから。文字どおり、ゲストの「ボディをつくっている」わけです。■メタボ対策のために利用するシニア層もそして、もうひとつ特筆すべきことがあります。60代以上のシニアも、男女ともゲストの4%以上存在するというのです。最近はメタボリックシンドローム対策を含め、健康になるため、あるいは運動不足解消のためにライザップを使うという人が増えているというのです。実際、ゲストのなかには生活習慣病に悩まされている人も多いのだとか。これは、少しばかり意外な事実でもあるのではないでしょうか。加えてシニア層からは、「長い人生を見越して、足腰の筋肉をいまのうちにしっかり鍛えておきたい」という声も多数。つまりライザップは外見のボディメイクを実現したいというニーズのみならず、内側から健康な身体をつくっていきたいというニーズをも引きつけていることになります。■不満なら全額返金がハードル高い印象にいうまでもなく、ライザップ人気を支えているのは、一度見たら忘れられないテレビCMでもおなじみの「結果にコミット」。目指すべき目標を、確実にクリアさせるという宣言です。そして、大きなインパクトを感じさせたことがもうひとつ。もし、そのプロセスに満足できないのであれば、1ヶ月目までに申し出れば、支払った全額が返金されるという「無条件全額返金保障」がそれです。そこまで自信があるということなのでしょうが、その一方、ライザップに「厳しい」というイメージがつきまとっていることもまた事実。それが少なからず、「やってみたいけど、ちょっと……」という気持ちにつながっているであろうことも否定はできないわけです。■約7割の会員が終了後もサービスを延長ところが著者は、取材時に聞いた話に驚かされたのだといいます。ライザップでは定めた一定期間のプラン(たとえば2ヶ月など)を終えたあと、継続のプログラムや、月に数回程度の安価な延長プログラムが用意されているのだそうです。そしてゲストの実に約7割が、サービス延長を申し込むというのです。そればかりか、新しいゲストの約3割は、紹介や口コミによるものだとか。もし、最初の2ヶ月程度の期間が、噂どおり厳しくひどい状況だったとすれば、延長をしたり、人を紹介したりしようなどとは思わないはず。しかも本人は、きちんと「結果にコミット」しているのだから、目標は達成できていることになります。にもかかわらず、どうして延長するのかといえば、「もっと上の新たな目標」ができるから。ライザップで成功できた自信から、さらに新しい挑戦に踏み出したくなるわけです。それだけの自信を手に入れることのできるメソッドが、ライザップにはあるということ。*こうした事実を立証すべく、以後の章には著者自身の体験記も収録されています。事実に基づいているだけに、説得力抜群。多少なりともライザップのことが気になっている人は、まず本書を読んでみるべきかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※上坂徹(2016)『ライザップはなぜ、結果にコミットできるのか』あさ出版
2016年09月10日普通、移住しようということになったら、まずはしっかり下調べをするもの。ところが『幸福度No.1☆「沖縄移住」でワクワク楽園生活!: ツテなし・カネなし・資格なし ゼロからはじめた私の方法』(峯田勝明著、合同フォレスト)の著者は、かなり事情が異なるようです。そのタイトルから想像できるように、まったく「ゼロ」の状態で沖縄へ移住してしまったというのですから。そもそも著者は、立ち会い出産を経験し、育児の時間を確保するために会社勤めを辞めて自営業をはじめたという、その点においてもちょっとユニークな経歴の持ち主。しかし、住んでいたのが茨城県だったこともあり、東日本大震災で大打撃を受けて廃業せざるを得ない状況に。その結果、放射能汚染から家族を守るため、2012年に沖縄へ移住したというのです。つまり本書では、そんな実体験に基づき、沖縄へ移住するために必要なことを明かしているというわけです。きょうはそのなかから、なにかと気になる「お金」についての記述をご紹介したいと思います。■1:移住費用を事前に計算しておくべし当たり前ですが、沖縄への引越しが普通のそれと異なるのは、「必ず海を渡らなくてはいけない」ということ。つまり、引越し料金はとても高くつくというわけです。そこで必要になってくるのは、少しでも節約すること。そこで著者は、いらない荷物はなるべく処分することを勧めています。思い入れのあるものや特別高価なものは別としても、それ以外は現地で買ったほうが安いというのです。ほとんどのものは沖縄にも売っているそうなので、きっぱりと処分できるものは処分したほうがよさそうです。■2:自家用車で引越し料金を節約すべしまた、引越し料金は運ぶ量や距離、業者によっても違い、さらに3~4月のハイシーズンは高くなるものです。そこで予算を節約するために、自分の車に荷物を詰め込み、船で送るという方法を利用するのもいい方法。著者は5ナンバーの普通乗用車と軽自動車を送ったそうですが、どちらもワンボックスタイプの乗用車だったので、荷物を満載したのだといいます。宅配便では送れない荷物を優先的に車に詰め込み、自分たちはあとから飛行機で沖縄入りして、那覇新港へ引き取りに行ったというのです。ちなみにワンボックス車でも、貨物車の4ナンバーや1ナンバー登録では料金が高くなるといいます。気になる乗用車輸送運賃(全長4メートル以上5メートル未満)は、東京有明埠頭から那覇新港が5万9,500円~で、大阪から那覇新港が5万5,000円~。東京→沖縄、大阪→沖縄がいずれもドア to ドアで7万7,112円~だそうです。いずれにせよ、そうやって工夫をすることは、決して無視できない節約術だといえるかもしれません。■3:口座はゆうちょ銀行に集約すべし!ところでお金に関しては、意外な落とし穴があるようです。というのも沖縄には、本土の都市銀行が「みずほ銀行」しかないというのです。しかも、宝くじを発行する関係で、かろうじて1店舗あるだけ。なお、これまでは地元地銀の「沖縄銀行」「琉球銀行」「沖縄海邦銀行」と「みずほ銀行」による寡占状態が続いていたそうですが、沖縄経済の活況に目をつけた「鹿児島銀行」が、2015年9月28日、那覇市に沖縄視点を開設したのだとか。まず力を入れているのは個人ローンで、特に際立っているのは住宅ローン。貸出金利を本土並みに低く設定し、地元の3行より優位に立つ戦略をとっているのだといいます。沖縄で安心なのは、「ゆうちょ銀行」だそうです。理由はいたってシンプルで、日本全国どこにでもあり、手数料をかけることなく出し入れができるから。なにかあったときは、本土でも沖縄でも窓口に行くことができるわけです。そのため、移住の際はいったんすべてを「ゆうちょ銀行」に集約し、沖縄で生活をはじめてから他の口座を開設するのがいいと著者は提案しています。また、イオンの店舗も多いため、「イオン銀行」を利用するという選択肢も。ただし各店舗にあるのはATMで、窓口があるのはイオンモールだけ。沖縄では「イオンモール沖縄ライカム店」のみだそうですが、年中無休で営業しているのがいいところだといいます。*こうした話は、実際に移住経験のある人でないとわからないもの。しかも著者の場合は「ゼロ」からスタートしたわけですから、なおさらリアリティがあります。沖縄への移住を漠然と考えている方は、まず手はじめに本書を手に取ってみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※峯田勝明(2016)『幸福度No.1☆「沖縄移住」でワクワク楽園生活!: ツテなし・カネなし・資格なし ゼロからはじめた私の方法』合同フォレスト
2016年09月07日『できる大人の「見た目」と「話し方」』(佐藤綾子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、日本における「パフォーマンス学」の第一人者である著者が、「見た目」と「話し方」についてのエッセンスをまとめた書籍。パフォーマンス学とはあまり聞き慣れませんが、説明によればそれはパフォーマンスを日常生活における自己表現と位置づけた考え方。そして著者は35年間もの長きにわたり、自己表現を「科学」として研究してきたというのです。■人は34秒以上笑顔で快適になる話を聞いてくれている相手が微笑むと、自分が受け入れられたような気持ちになってうれしくなるもの。しかし逆に、無表情でただ話を聞いているだけだったとしたら、気詰まりで話すのをやめたくなったとしても無理はありません。このように笑顔には、相手の話を弾ませたり、あるいは止めたりする「言語調整動作(レギュレーターズ)」という役割があるわけです。では私たちは、人前でどのくらいの時間笑っているのでしょうか?このことについて著者は、二者間での対話の実験をしたことがあるそうです。相手と話していて「快適な会話」の笑顔の時間を調べた結果、1分間あたり平均34秒だったのだというのです。つまり半分以上の時間、相手が笑顔であれば快適に感じるということ。■意識的なスマイルの表情が大切!口のまわりの筋肉は、「あいうえお」という音と言葉の使い分けのため、縦に長くなったり、あるいは閉じたり、いろいろな形に動くもの。とはいえ、ただ話すためだけに口のまわりの筋肉(口輪筋)を動かすだけでは不十分。たとえば相手に「おもしろい話ですね」と楽しさや喜びの感情を伝えるためには、発声のための動きだけではなく、唇の両サイドをほんの少し上に引き上げる“意識的なスマイル”の表情が必要だという考え方です。笑うことに使う筋肉は、総称して「笑筋(しょうきん)」と呼ばれるそうです。つまり、口のまわり、目のまわり、頬の筋肉、これらが緩んでいるのがスマイルだということ。そして笑顔などの表情を意図的につくることが、「表情統制(フェイシャルコントロール)」。モデルさんが微笑んでいるポスターの写真を見てみると、口はたしかに笑っているのに、目が妙にキツかったりします。そんなところからもわかるとおり、楽しい気持ちがまるでないのに、表情筋を無理やりコントロールしてつくった笑顔には、わざとらしさを感じる場合があるわけです。■日本語のわからない人にも笑顔で「おはよう」「こんにちは」など日本語のわからない外国人に挨拶をする際には、にっこりと微笑みかけ、挨拶の気持ちを伝えることが大切だと著者はいいます。そんな場合は、笑顔が親しみの言葉や挨拶の代行をすることになるわけです。このような笑顔は、相手と親しくなりたいという親密欲求が出ているので、自然なります。先に触れたとおり、笑顔は秒数を守ることも大切。しかし本当に楽しいという気持ちや感謝、親しくなりたいという気持ちを込めて、すべての表情筋を動かすことがもっとも重要だというのです。■笑いと楽しい気持ちはワンセットさて、ここで持ち出されているのは、「笑い講」という日本の古い祭についての話題です。本当におもしろいことがあるわけではないのに、「ワッハッハ」と声を上げて笑うというもの。はじめはぎこちなくても、目の前の人の奇妙な顔を見たり、自分の顔も変だろうなと想像したりするうちに、だんだん本気で笑ってしまうというのです。「笑う」という動作は、喜びや楽しさ、滑稽さやおもしろさなどの感情が心のなかにこみ上げてくること。脳から表情筋に対して「動け」と命令が行き、引き起こされるのだそうです。しかし「笑い講」は、逆方向で成り立っているわけです。おもしろくなくても大笑いするうちに楽しくなり、連体感にまでつながってしまうということ。「笑い講」で使うのは、とびきり大きなスマイル。なぜなら相手と「ここはひとつ、一気に仲よくなろう」というときに、小さなスマイルでは不十分だから。ケラケラと笑う、あるいはおなかを押さえて笑い転げるくらいの大きなスマイルが有効だということです。笑っているうちに気持ちも楽しくなり、さらに笑いが広がるということ。いってみれば、「笑い」と「楽しい気持ち」は、いつもワンセットなのです。*他にも本書では、相手と共有関係を築くために必要なコツが数多く紹介されています。どれもすぐに試せることばかりなので、きっと役に立つはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※佐藤綾子(2016)『できる大人の「見た目」と「話し方」』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年09月07日『老活弁護士(R)が教えます! わかりやすい遺言書の書き方』(大竹夏夫著、週刊住宅新聞社)の著者は、自称「老活弁護士」。「老活」とは、「老後に備える準備活動」のこと。数年前に流行語となった「終活」とも似ていますが、終活は死んだ後のことが中心。対して老活は、自分が死ぬ前のことに焦点を当てているわけです。死んだ後よりも老後のほうが大変だからこそ老活は欠かせず、なかでもとても重要なのが「遺言書の作成」だというのです。そんな考え方は、著者が弁護士として多くの相続トラブルや訴訟に関わってきたからこそ到達したもの。つまり遺言書がないと、相続争いが起きやすくなってしまうのです。遺言書で「誰がなにを相続するのか」が示されていなかった場合、亡くなった方の財産(遺産)は、法律であらかじめ定められている相続人に対し、法律で定められている割合で引き継がれるそうです。この、法律で定められている相続人が「法定相続人」で、法律で定められている割合は「法定相続分」。■1:妻・夫と子どもがいる場合亡くなった人の妻または夫(配偶者)と子どもがいる場合、妻・夫と子どもがいる場合は、妻・夫と子どもの全員が相続人。この場合の相続分は、妻・夫が2分の1、子どもが2分の1。ちなみに子どもが2人いる場合は、子どもの相続分2分の1を2人で均等に分けるのだとか。つまり、子どもは4分の1ずつになるということ。同じように子どもが3人いる場合は6分の1ずつ(2分の1を3等分)、4人いる場合は8分の1ずつ(2分の1を4等分)になるわけです。逆にいえば、子どもが何人いても妻・夫の相続分は2分の1なのだそうです。■2:子どもが親より先に亡くなっている場合相続人になれるのは生きている人だけで、亡くなった親よりも先に亡くなっている子どもは相続人にはなれません。ただし、その子どもの子ども(亡くなった親から見ると孫)がいたら、相続人になるのはその孫。これは「代襲相続」と呼ばれています。その孫の相続分の割合は、亡くなっている子ども(孫から見れば親)の相続分をそのまま引き継ぐのだそうです。孫が2人以上いる場合は、その相続分を均等に分けるわけです。同じく、その孫が先に亡くなっている場合で、その孫に子ども(亡くなった方のひ孫)がいたら、そのひ孫が相続人になり、孫の相続分をそのまま引き継ぐことに。■3:妻・夫と親がいる場合亡くなった方に、妻または夫がいるけれど子どもがいない場合、亡くなった方の親が生きていれば、相続人になるのはその親。この場合の相続分は、妻・夫が3分の2、親が3分の1。子どもがいるときよりも、妻・夫の割合が増えるわけです。父と母の2人とも生きていれば、子どものときと同じように、親の3分の1を2人で分けることになります。■4:妻・夫と兄弟姉妹の場合亡くなった方に、妻または夫がいるけれど、子どもがいなくて両親も他界している場合、相続人になるのは妻や夫。しかしこの場合は、亡くなった方の兄弟姉妹も相続人になるのだそうです。この場合の相続分は、妻・夫が4分の3、兄弟姉妹が4分の1。兄弟姉妹が2人以上いるときは、この4分の1を均等に分けるわけです。例えば兄と妹がいる場合は2人ですから、8分の1ずつになるということ。ほとんどの財産が夫名義になっていたご夫婦の夫が亡くなったとき、そのことを知らなかった妻が路頭に迷ってしまうというケースも少なくないのだとか。■5:甥・姪の場合亡くなった方が高齢のケースでは、兄弟姉妹が先に亡くなっていることも少なくないといいます。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、相続人になるのはその子ども。亡くなった方から見れば、甥・姪だということで、これも「代襲相続」。先に亡くなった兄弟姉妹に子どもがいなければ、その兄弟姉妹はいなかったものと考え、残りの兄弟姉妹で4分の1を分けるそうです。■6:子どもだけの場合妻・夫に先立たれていて、子どもがいる場合、相続人になるのはその子どものみ。子どもが1人のときは、その子どもがすべてを相続。子どもが2人以上いる場合は、均等に分けることに。子どもが2人の場合は2分の1ずつ、子どもが3人いる場合は3分の1ずつ、4人いる場合は4分の1ずつになります。■7:親だけの場合亡くなった人に妻・夫がいない場合(もともと結婚していない、結婚したことはあるが離婚していた、妻・夫が先に亡くなっている場合)で、子どもも孫もいないとき、相続人になるのはその人の両親だけ。両親とも健在であれば、父と母が2分の1ずつ相続。どちらかが先に亡くなっている場合、相続人は1人だけになり、すべてを相続するそうです。■8:兄弟姉妹だけの場合亡くなった人に妻・夫も、子どもも孫もいなくて、両親も先に亡くなっている場合、相続人は兄弟姉妹だけ。兄弟姉妹が1人なら、その人がすべてを相続。2人以上いるときは、均等に分けるわけです。■9:相続人がいない場合亡くなった人に妻・夫も、子どもも孫もひ孫も、両親も兄弟姉妹も甥・姪もいない場合、相続人はいないことになります。この場合、亡くなった人の遺産は国庫(政府)に取られてしまうそうです。遺産のすべてが財務省に引き継がれるわけですが、政府はそもそも、相続人のいない相続財産の存在を知りません。そこで、このような場合は相続人にならない親族(叔父・叔母・いとこ)などが家庭裁判所に申請し、相続財産管理人を選んでもらうのだそうです。その管理人が名義変更等の手続きや、未払いの料金等の支払いをし、残ったら国に納めるわけです。*法律が絡む書籍には、難解にならざるを得ない部分があります。が、本書はかなりできる限り読みやすくしてあるので、抵抗なく読み進めることができるはず。将来のために、ぜひ目を通しておくべきだと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大竹夏夫(2016)『老活弁護士(R)が教えます! わかりやすい遺言書の書き方』週刊住宅新聞社
2016年09月07日『世界ナンバーワンの日本の小さな会社』(山本聖著、クロスメディア・パブリッシング)は、日本が誇る世界ナンバーワン企業の「ニッチ・トップ戦略」を徹底的に取材し、そこから「小さな会社がすべきこと」を探った書籍。世界的に注目されているジャパニーズ・ウィスキー『イチローズモルト』を生んだ埼玉県秩父市のベンチャーウイスキーや、宮内庁御用達・日本唯一の馬具メーカー・ソメスサドルなど、小さいながらも大きく成長した企業の成功例が紹介されています。しかし気になるのは、小さな会社になぜ世界ナンバーワンを目指せるのかということ。著者によれば、地元に愛され、独り立ちするブランドづくりに必要な10か条があるのだそうです。■1:ニッチ・トップ戦略ニッチ・トップ戦略とは、「比較的規模の小さい市場において圧倒的なシェアを誇る企業」のこと。ただし、どれだけニッチな市場であれ、大企業や海外企業の参入は世の常。そこで、「圧倒的なシェアは永遠に続かない」「或る日突然競合が参入してくることはあり得る」ということを前提に、ニッチ・トップ戦略に肉づけをしていくことが重要だといいます。そこで、中小企業事業者の強みを加えて3つの定義づけをしたうえで、このニッチ・トップ戦略を推奨しているのだとか。(1)【一般的定義】比較的小さい市場において圧倒的なシェアを誇る事業の創造(2)【新定義】事業者と消費者がお互いに顔の見える「圧倒的な超特定顧客」の獲得(3)【新定義】事業者の都合で成り立つ「のれん商売できる屋号」の確立■2:アイデンティティー注目が集まっているクラウドファンディングがそうであるように、「まだ商品は影も形もない」状態であっても、思い描いている情熱や夢をしっかりとプレゼンテーションできれば、応援してくれる人が現れる可能性があるということ。■3:社会貢献法政大学大学院の坂本光司氏のベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の中には、企業の社会貢献についての次のような記述があるそうです。「会社の社会的貢献とは、お客様にとって、社員にとって、そして地域にとって存在価値のある、なくてはならない会社になることです。地域社会に住んでいる方々が幸せを感じられるような存在になる使命と責任が、会社にはあるのです」地域内で愛されない企業は、地域外から愛されることはないもの。実際に愛されるための努力をしている企業こそ、地域外からも応援されるようになり、結果的にそれが会社の成長につながるということです。■4:団体戦市場展開に際しての中小企業のネックのひとつは、商品の数で勝負ができないこと。そのため生産量やマンパワーの弱点を補える可能性がある戦術が必要になるわけで、それが「団体戦」だというわけです。具体的には、特定のテーマに合わせて複数の企業を集め、統一のブランド戦略(共通の屋号)のもと、商品開発と流通を行っていくことが大切だという考え方。■5:メイドインジャパン全国で注目されているのが、地域特性を活かしたブランディング手法。かつては首都圏のマーケットに商品を合わせて売り込む一方通行のスタイルが定石でしたが、いまは地域色を出したほうが支持される時代になったということ。そして、そうだとすれば当然のことながら、「メイドインジャパン」であることが大きな力になるわけです。■6:マーケティング経営者にとっての重要な能力は、“市場を読み解く肌感覚”。そのためにも日ごろから現場に出て市場を知り、本物を体験し、時代を感じることが欠かせないと著者は主張します。そしてカルチャー&クオリティの消費マインドへのシフトは、「上質かつ普遍的な商品」の領域での競争となるため、日本全国の地域ブランド、ファクトリーブランド、中小の製造業にとって勝機がある分野だといいます。■7:ターゲティング「この商品、誰が買うんだろう」と思ってしまうような、ターゲットがぼやけた商品は、バイヤーにも消費者にも注目されることはないもの。しかし、あえてターゲットを狭く定めると売り場や売り方のイメージが湧いてくるため、逆算して商品開発をするのが理想的なものづくり。端的にいえば、ターゲットは狭くてよいわけです。■8:品質とデザイン消費者は、常に新しいものを求めているもの。だからこそ注目されやすいのは、「日本唯一の馬具メーカーが手がけるバッグ」「戦後日本で初めて認可された小規模蒸留所でつくられる個性的な国産ウイスキー」など「意味」をもたせた新しい商品。「新しいデザイン」と「新しい商品」は、複眼的・多層的なものとして注目に値するそうです。■9:シーズンディレクション「できたときが売りどき」では、なんの計画性もなし。「売りたいとき」を定め、そこに生産計画や販売計画をあらかじめ細かく想定しておく「シーズンディレクション」が重要だといいます。■10:成長戦略自社ブランドを立ち上げたら、いきなり東京に直営店を構えるようなやり方はリスクが大きすぎるもの。むしろ自社ブランドを立ち上げようとしている中小企業の方に対して著者は、「まずは工場にショールームをつくってはどうですか?」とアドバイスしているそうです。商流を整備するときは、地に足をつけた成長戦略を描くことが望ましいということ。*具体的な成功事例が豊富に盛り込まれているため、大企業主導型の従来的な手法によってではなく、「自分たちにできる範囲で」成功を望んでいる小さな会社にとっては、とても役に立つ内容。企業人のみならず、「地方から発信していきたい」という意思を持つ個人に取っても、参考になる部分が多いと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山本聖(2016)『世界ナンバーワンの日本の小さな会社』クロスメディア・パブリッシング
2016年09月05日『オラクル流 コンサルティング』(キム・ミラー著、夏井幸子訳、日本実業出版社)の著者は、オラクル社に置いて独自のコンサルティングスキル研修を開発し、さまざまなアイデアとスキルを活用しながらオラクルの販路拡大に貢献してきたという人物。本書においてはまず、オラクルという会社が持つ大きな特徴を紹介しています。オラクルでは、ITソフトウェア業界で必要な技術的スキルとソフトスキルの研究を全社員に提供していて、コンサルタントが、クライアントやパートナー企業向けのどんな研修も無料で受けられるようにしているというのです。つまりオラクルのコンサルタントが優秀だといわれるのは、競合企業も利用する教材にいち早く触れられるからだということ。社員教育に力を注ぎ、社員の意欲と満足度の向上に重きを置いているわけです。そんな社風に基づいて、オラクル独自のコンサルティング論を明かした本書から、「オラクルのコンサルタントの“30秒”の生かし方をご紹介しましょう。■エレベーターピッチを徹底的に練習せよコンサルタントなら、エレベーターピッチを徹底的に練習することが必要だと著者はいいます。ご存知の方も多いと思いますが、エレベーターピッチとは、自身のことや自社の製品、プロジェクトの方法論、テクノロジーなど、聞き手が知りたがることを簡潔にまとめたセールストークのこと。この出来不出来が、製品乗っ取り弾きや口コミにつながることもあるといいます。■エレベーターピッチは30秒間に伝えるエレベーターピッチと呼ばれる理由は、エレベーターで最上階まで上がる「30秒」ほどの間に説明を済ませられるように、いいたいことを要約するから。そのため、どんな状況にもマッチするように、エレベーターピッチは何種類も用意しておくことが大切だといいます。エレベーターピッチの目的は、役職名と仕事内容、そして会社の業務内容を聞き手に伝えること。そこで、十分な情報を盛り込み、最後にどんな用件か必ず伝えることが重要。そうすれば、聞き手も話しやすいわけです。そして車内での肩書き関わったら、エレベーターピッチの内容もその都度変えることが大切。■オラクルがどんな会社か30秒で答える仕事と製品について話を聞いた相手は、会社のことも知りたくなるもの。著者もオラクルについてよく聞かれるため、次のように答えるようにしているそうです。「オラクルは、データベース、ミドルウェア、ハードウェア、アプリケーションを扱う世界最大手企業のひとつで、社員にとっても働きがいのある職場です。オラクルの製品は、ほぼすべての業界で使われています。ここ数年、吸収合併を繰り返して事業を拡大していますが、それは、ゼロベースでつくり上げるよりコスト効率が高いからです。それで、本日のご用件はどのようなものでしょうか?」なるほどここには、オラクルという会社の将来性や企業買収に熱心な理由が凝縮されています。相手からすれば聞きづらい質問でも、こちらから先に情報を提供すれば、相手の質問をしやすくなるわけです。■事前に用意をすべきエレベーターピッチまた、自分の専門外のことについて聞かれてもあわてないように、次のようなエレベーターピッチを用意しておくことも大切だといいます。「申し訳ありませんが、その製品は私の専門外ですのでわかりかねます。我が社では専門分野のエキスパートの養成に力を入れているものですから。給与業務に関しては私でお役に立てますが、その後質問に関しては、担当のAを紹介させていただいてもよろしいでしょうか?この者からお電話を差し上げるよう手配いたしますので、お電話番号を押せていただけますか?私の名刺をお渡ししておきますね」わからないことはわからないと正直にいって構わないけれども、あとで勉強して自分の知識不足を補っておくこと必要だそうです。これらは一例にすぎませんが、つまり状況に応じたさまざまなエレベーターピッチを用意しておくことが大切だというのです。■いいエレベーターピッチは先輩から盗めいいエレベーターピッチをつくる最大のコツは、マネジャーやベテランコンサルタントからヒントをもらうこと。経験豊かなコンサルタントがクライアントと交わす話に耳を傾けていれば、会話のどこにセールストークを織り交ぜればいいのかわかるようになるといいます。自分の個性や経験談を盛り込みたい場合は、先輩たちの話をベースにし、そこに自分らしさをプラスすればOK。そして自分のスキルが上がったら、エレベーターピッチも更新することが大切。さらにいえば、なによりも大事なのは、完璧に暗記できるまで、練習に練習を重ねること。なぜなら、しどろもどろでは、相手に誠実な印象を与えることなどできないからです。*もちろんこれはほんの一例ですが、ここからもわかるとおり、本書の内容はオラクルでの時連れに基づいているだけにとても実践的。あらゆる会社の、あらゆるシチュエーションに応用できるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※キム・ミラー(2016)『オラクル流 コンサルティング』日本実業出版社
2016年09月04日『47原則―――世界で一番仕事ができる人たちはどこで差をつけているのか?』(服部周作著、ダイヤモンド社)のもとになっているのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーでさまざまなプロジェクトに従事してきた著者によるメモ。ただ書きためるだけではなく、おぼえやすいように工夫した図表をつけて記憶するという方法でつくられたもので、「ルールブック」と呼んでいるのだとか。つまり本書は、著者がルールブックに書きためて実践し、「成果が上がった」と実感した仕事の進め方や、社内外のリーダーがさりげなくこなしている効果的な手法を聞き出し、「47原則」にまとめたもの。きょうはそのなかから、「3秒」の重要性に関する記述をご紹介したいと思います。■わざと立ち止まって3秒待つべしビジネスにおいて、大きな利害が関わっている場合は、質問への回答に迷うことがあるものです。「(こう答えたら)さらに難解な質問を浴びせかけられるのではないか」と不安になってしまったり、はるか上の上司たちの視線が背中に突き刺さるのを感じたり、あるいは、「全員に印象づけなければ」と焦ってしまうこともあるでしょう。しかも、相手が経営幹部レベルの重役や、重要なクライアントである場合は特にプレッシャーが大きくなるため、「さっさと答えてしまいたい」衝動にかられもします。しかし、そんなときこそ、わざと立ち止まり、「1、2、3……」と3秒数え終わるまで待つことが大切だと著者はいいます。■答える前には間をおくといい理由著者がマッキンゼーで教わった最善のアドバイスのひとつが、「難しい質問に答える前には必ず間をおくこと」。そして間をおく理由は、おもに3つあるそうです。(1)反応し、考え、最良の回答を考えるための時間を稼ぐ(2)沈黙はあなたの回答の重みを増すので、聞き手はより高い価値を感じる(3)劣勢の場合や緊迫した状況では過剰に反応しやすいため、間をおいて気を静めるまた、質問を分類ごとに把握しておくことが、常に聞き手に先回りするコツ。たとえばプレゼン後の典型的な質疑応答の場面では、質問はだいたい次の4つに分類できるといいます。(1)事実確認・情報収集型「X社の市場占有率は何%ですか?」「稼働率が75%未満の工場はいくつありますか?」(2)発見型「いますぐとるべき行動はなんですか?その優先順位は?」「『デジタル化したほうがいい』とおっしゃるなら、当社にどんな能力が必要ですか?(3)評価・比較型「2つのベンチマークを比較する場合、成功の主要因はなんですか?」「Cに与えるインパクトをどう評価しますか?」(4)挑戦型「なぜXについて調べなかったのですか?」「なぜもっと洞察力に優れた成果を出せなかったのですか?」■100%正しく回答しなくていい事実確認のための質問から、発見型、評価型、最後の挑戦型の質問に移るにつれて、回答にかける時間を増やすよう調整するといいそうです。そうすれば、適切な見地から回答することができ、「経験豊かで信頼できる」という印象を強く抱いてもらえるから。なお回答がいちばん難しいのは、理由や正当性を求める質問。そして陥りやすい落とし穴は、防戦に回ってしまうことだといいます。また、「その場で100%正しく回答する必要のない質問もある」ということを頭に入れておくといいそうです。マッキンゼーではこれを「回答の術(art of evasion)」と呼んでいたのだとか。大切なのは、難しい挑戦的な質問に対しても、まごつかずに答えられること。いかにも難しそうですが、著者によれば、これは誰にでも習得できるスキル。ただし、忍耐力と自信が必要。■相手の本当の望みを見抜くべし!たしかに、挑戦的な質問をしてくる人は、その場で正しい解答を期待しているとは限りません。むしろ大切なのは、相手の本当の望みを見抜けるようになることで、それが成熟したリーダーとしてひと皮むけるために必要なことだといいます。質問にすぐ飛びついて中途半端な解決策を提示するよりも、先送りするほうが賢明だということ。より優れた判断と適切な言い回しを使って、できるだけ好印象を与えるように回答することが重要なのです。そして最後の大切なポイントは「自信」。なぜなら、言葉に説得力をもたらすものは、得てして自分に対する自信だから。そういう意味では、会議室に足を踏み入れた瞬間から、自信に満ちた態度を示すべき。結局のところは、それがいちばん重要なことかもしれないと、著者は記しています。*他にも「心の持ち方」「考え方」「コミュニケーション法」「思いやりの持ち方」など、「47原則」は多岐にわたっています。だからこそ、役に立つ部分が必ず見つかるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※服部周作(2016)『47原則―――世界で一番仕事ができる人たちはどこで差をつけているのか?』ダイヤモンド社
2016年09月02日『人気管理栄養士が教える 頭のいい子が育つ食事』(小山浩子著、日本実業出版社)は、育脳から認知症予防まで、あらゆる視点で食のアドバイスを行っている管理栄養士による新刊。これまでにも食に関する興味深い著作を数多く送り出してきましたが、今回は「育脳」がテーマ。「毎日のごはんが、子どもの脳をつくる」という点に着目しているのです。■脳が大きく発達するのは6歳まで「頭のいい子になってほしい」という思いは、親なら誰もが持っているもの。そこで、小さいうちから子どもの教育に熱心に取り組んでいる方も少なくありません。ちなみに脳の発達という観点からいうと、これは効果的なことなのだそうです。人間の脳はお母さんの胎内にいるときからつくられはじめ、もっとも大きく発達する時期は「生まれてから6歳まで」。つまり、頭のいい子をつくるため、赤ちゃん期、幼児期に脳に刺激を与える「育脳」はとても大切だというわけです。■脳も食べものでつくられている!ただし、かしこい脳を作るためには、学習などの外からの刺激だけではなく、脳細胞がすくすく育っていくための材料も重要。栄養を内側から与えてあげる必要があるということで、具体的には、いい脳をつくるための栄養をきちんととることが欠かせないわけです。成長期の子どもは、大人以上に栄養が大切。それは、いまさらいうまでもないことかもしれません。しかし、そこで忘れるべきでないのは、骨や筋肉だけでなく、「脳をつくっているのも食べもの」だということ。でも著者によれば、そのことを意識している人は驚くほど少ないのだそうです。■基本は3歳ごろまでにできあがる脳の成長の時期は、たいへん早く訪れるものだといいます。脳の神経がつくられはじめるのは、赤ちゃんがお母さんの胎内にいるとき、だいたい妊娠2カ月目ごろから。そして生まれてからは猛スピードでぐんぐん発達し、3歳ごろまでには大脳、小脳、脳幹という基本構造がほぼできあがるというのです。脳は、目や耳などの感覚器官から入ってくる情報を受け取って分析したり、記憶したり、思考や感情、行動を生み出したりする、とても高度で複雑なネットワークシステム。そして脳の中心となっているのが、重さの85%を占める大脳で、左右2つの脳半球に分かれています。脳半球にはそれぞれ、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの葉があり、たくさんの働きを分担しているわけです。■脳の場所ごとで大きく異なる役割額のすぐ後ろにある前頭葉は、記憶、注意といった基本的な作業の他に、計算したり意思決定をしたり、問題を解決したり、社会的行動などの作業に関わったり、その人のパーソナリティやコミュニケーションスタイルをつくっています。皮膚を通じた感覚的な情報(気温、触感な土)や、空間的情報(大きさ、距離など)の処理に関わっているのが、前頭葉の後ろにある頭頂葉。そして側頭葉には海馬や扁桃体があり、記憶をコントロールしたり、長期の記憶を保管したりするそうです。音声情報や嗅覚情報を受け取ったり、解釈したりするのもここ。このように、脳はそれぞれの場所で決まった役割を果たすようになっているため、関連する情報はそれぞれの場所へ運ぶ必要があるわけです。すなわち、それが脳の活動。そして、そうした脳活動を素早く、確実に行うためには、脳内のネットワークシステムである神経細胞がしっかりと密に張り巡らされていることが重要。■よく働く脳をつくる食事が大切!しかし、ここにとても重要なポイントがあります。脳の神経細胞がもっとも発達するのは、3歳までだというのです。そして、6歳で大人の脳の90%にまで成長し、12歳にはほぼ完成。つまり脳の成長期は、お母さんの胎内にいるときからはじまって、赤ちゃん期~幼児期がピーク、小学校卒業までにほぼ終了するということ。いってみれば、将来かしこい人になれるかどうかは、この時期の脳の発達にかかっているというわけです。だからこそ、この時期にしっかりとした、よく働く脳をつくるための食事を子どもにつくってあげることが大切だということ。それこそが、本書を通じて著者が投げかけているメッセージなのです。*こうした基本的な考え方に基づいた本書では、「乳児期・離乳期」「幼児期(1歳半〜5歳)」「小学生(6歳〜12歳)」「中学生(13歳〜15歳)」とそれぞれの時期に合わせ、その年代にとって必要な脳をつくるための食事が解説されています。レシピはもちろん、冷凍食品の活用法なども紹介されているため、基本的なことを理解できるだけでなく、とても実用的な内容だといえます。お子さんをかしこく育てるために、手にとってみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小山浩子(2016)『人気管理栄養士が教える 頭のいい子が育つ食事』日本実業出版社
2016年09月01日