医療分野から司法分野へNHKドキュメンタリードラマ『ケーキの切れない非行少年たち』(2023年6月20日(火)放送)の原作者、精神科医の宮口幸治さんのインタビューをお届けします。――宮口先生は精神科医として、病院で小さい子どもから高齢者まで診てこられたのですよね。宮口先生:はい。実は、医学部時代、小児科医と精神科医で進む道を迷いました。子どもの発達を専門にしたい気持ちが強かったのですが、その人の長い人生を考えたときに「生まれてから亡くなられるまで」関わりたいと思い、それが叶うであろう精神科医を選びました。精神科病院ではさまざまな人を診てきましたが、病院を訪れる人は周りに支援者がいるのですよね。保護者や先生に「この子ども(大人)には、支援が必要」だと気づいてもらい、病院などの支援機関とつながることができる。一方で、支援が必要なのに周りに気づかれない子ども(大人)もいる。後者のような子どもたちのために自分に何ができるのかを考え、司法分野(矯正教育分野)に移り、医療少年院や女子少年院で法務技官を務めました。――その経験をもとに書かれたのが、『ケーキの切れない非行少年たち』ですね。宮口先生:非行少年たちに関するさまざまな本が出ていますが、ライターの方が少年院の関係者に取材をして書いているものが多いですよね。そういった場合、核心の部分、深刻な問題を伝えられないと感じることがありました。少年院で出会った非行少年たちが切ったケーキの形のいびつさに驚愕した体験から、少年院の職務を離れたあとに少しでも多くの人たちに「見過ごされがちな困っている子どもたち」の現実を伝えたいという思いで書きました。「境界知能」にあたる子どもたちの困り――IQ100を平均とした場合、約14%が該当する「境界知能」にあたる子どもに今は特に焦点を当てているのですね。宮口先生:例えば発達障害は、以前よりも認知が進み、まだまだ具体的な支援の面で課題はあるものの、学校で合理的配慮を受けやすくなっているように思います。しかし、境界知能にあたる子どもたちは、支援が必要なのにそもそも気づかれていない現状があります。そのような子どもたちが一番困っていることは何か…。私は、「勉強についていけない」ことだと思います。19歳以下の自殺の原因・動機でも学業不振や入試や進路の悩みが上位となっています。学校は、勉強するために通っていて時間割もびっしりですよね。授業の内容が分からない、周りについていけない、テストができない…そんな日々が続くのはとてもつらいことです。本人にもプライドがあるので、素直に助けを求められないことも多いでしょう。そうして困りが募り、中には非行に走ってしまう子どももいるのです。厚生労働省|令和4年中における自殺の状況付録1年齢別、原因・動機別自殺者数――ドラマ化の話を聞いたときは、どのように思われましたか?宮口先生:本当に実現できるのだろうかと思いました。完成した作品を見たときは、ドラマに関わるみなさんの「こういう困っている子どもたちがいる現実を伝えたい」という気持ちが伝わってきましたし、視聴者のみなさんの心にも届くのではないかと思いました。制作過程でもいろいろと意見交換をさせていただきましたが、尽力いただいたみなさんに心から感謝しています。おかげさまで『ケーキの切れない非行少年たち』は、書籍だけでなく、マンガ、ドラマとなり、多くの方にお届けする機会をいただくことができました。これからも伝える取り組みを続けるとともに、困っている子どもが自分の人生を生きていくために必要な学習面・社会面・身体面の土台を育めるよう支援していきたいと思います。――ありがとうございました。ドキュメンタリードラマ『ケーキの切れない非行少年たち』児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務してきた宮口幸治さんの著書『ケーキの切れない非行少年たち』初のドキュメンタリードラマが、2023年6月20日(火)よる8:00~9:39 [BS1]に放送されます。(あらすじ)都内の公立高校に通う17歳。ある出来事から妊娠し、生まれてきた赤ちゃんを…。女子少年院に勤務する精神科医が、入所してきた少女のある特徴を発見する。「ケーキを3等分できない」認知機能の弱さが引き起こす悲しみの連鎖。衝撃の事件から1年、少年院を出た彼女は小さな命と向き合おうと決意する。Upload By 発達ナビ編集部Upload By 発達ナビ編集部※クリックすると発達ナビのサイトからNHK『ケーキの切れない非行少年たち』のページに遷移します。
2023年06月17日児童精神科医として少年院に勤務、そこでの気づきとは今回は、困っている子どもたちを教育・医療・心理・福祉の観点で支援する「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で支援者向けに研修を行っている児童精神科医・宮口幸治先生のコラムをまとめてご紹介します。宮口幸治先生は、2009年より児童精神科医として少年院に勤務したご経験から、認知能力の大切さに気づき、子どもたちが遊び感覚で認知機能を鍛えられるトレーニング『コグトレ』を考案。「勉強ができない」「黒板を写せない」「漢字が苦手」…そんな子どもの困りに向き合う先生の思いや保護者の方へのメッセージをご一読ください。発達障害の認知度が高まる今、宮口先生は保護者や支援者の方に見逃さないでほしいと思うポイントを2つ挙げています。それは、「知的障害の有無」と「認知機能の弱さ」です。特に「境界知能」に当てはまる子どもたちは、適切な支援を受けられていない可能性があるといいます。児童精神科医として10年以上、少年院に勤務し多くの子どもたちに出会ってきた宮口先生。今、「困っている」子どもたちの今後の人生が少しでも生きやすくなるように、「学力以前の力」を身に付ける必要性を強く感じたと言います。そのために必要な適切なサポートとはなんでしょうか。「ワーキングメモリ」という言葉をご存じでしょうか。宮口先生は、別名「心のメモ帳」といい、短い時間に心のなかで情報を保持し、同時に処理する能力のことを指すと解説します。このワーキングメモリには「見る」「聞く」の2種類があり、人は、聞いて覚えるよりも、見て覚えるほうが得意な人が多いものであると続けます。それでは、「聞く力」を身につけるトレーニングにはどのようなものがあるのでしょうか。「認知の力」とは、どのような力を指すのでしょうか。宮口先生は、学習はもちろん、相手の表情を読んだり、人の気持ちを想像したり、次に何をしたらいいのかを考えるには、すべて「認知の力」が土台になっていると言います。だからこそ、「数える」「覚える」「写す」「見つける」「想像する」力を伸ばす必要があり、「できないこと」をひたすらやらせるのではなく遊び感覚でできるトレーニング法を提唱しています。教育相談の場を通じて子どもの知能検査などを行った際、「見る・聞く」といった認知機能の弱さが見つかれば、それが学業不信につながっている可能性を保護者の方に説明してきた宮口先生は、「認知機能に弱さがあるのは、どうしたらいいですか?」という質問をよく受けてきたと言います。なかなかいいトレーニングを紹介できずにもどかしさを感じていた宮口先生が、生みだしたのは。
2022年10月31日株式会社 PHP 研究所(京都市南区・代表取締役社長 瀬津要)は、2022年10月17日に『「立方体が描けない子」の学力を伸ばす』(宮口幸治著/税込990円)を発売します。宮口幸治氏は『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)の著者です。同書の部数は80万部を超えており、子どもの認知機能問題に対する社会の関心の高さが見てとれます。刊行から3年が経過し、その問題にも新たな変化がありました。本書は、認知機能の弱さに困っている子どもたちを支援する活動に取り組む宮口氏の最新刊です。オリジナル教材「コグトレ」を始めた非行少年たちの経緯や「その後」、学校教育機関での事例を紹介します。「立方体が描けない」とはどういうことか本文より「立方体が描けない子」とは、認知機能の弱さに気づいてもらえなかったために非行化した子どもや少年を指しています。立方体の模写は7歳から9歳までの間にクリアする課題ですが、著者が少年院で出会った非行少年の多くは、10代後半でありながら正しく模写ができませんでした。宮口氏は、非行少年の「見たり、聞いたり、見えないものを想像したりする力」の弱さを目の当たりにし、非行問題の一因が認知機能にあるのではと考え、「まちがい探し」「点つなぎ」などの認知機能強化トレーニングを矯正教育に導入し始めました。「学習の土台」を強化するトレーニング少年院での取り組みをもとに開発された、子どもたちへの支援プログラムが「コグトレ」です。社会面・学習面・身体面という3方向のアプローチがありますが、認知機能の弱さには、学習面のコグトレが効果的です。①覚える、②数える、③写す、④見つける、⑤想像する、という5つのトレーニングで構成され、頭の基礎体力の向上を目的としています。国語や算数を学ぶ以前の「学習の土台」となるため、周囲についていけなくなることによるモチベーションの低下を防ぎ、ゲーム感覚で知らず知らずの間に力を付けることができます。本書は、コグトレの具体的内容をワークシートとともに多数掲載しています。学習面コグトレの例「何が一番?」(方法)大小、軽重、遠近など比較の入った文章を聞いて、何が一番目だったかを答える(効果)文章読解力と聴覚(言語性)ワーキングメモリのトレーニング例)「キリンさんの家は、ゾウさんの家よりも大きいです。ライオンさんの家は、キリンさんの家よりも大きいです。一番小さい家に住んでいるのは誰ですか」答え(ゾウ)「記号さがし」(方法)記号がランダムに敷き詰められた表から、法則に従って特定のマークを数える(効果)集中して数えるという持続的な注意力と、ルールに従って注意を切り替える力を同時にトレーニング「くるくる星座」(方法)上の見本と同じ星座になるように、下の点を線で繋いでいく(効果)視覚認知の基礎力と、論理的判断力を身につけるトレーニング一般の学校にも広がるコグトレは、少年院だけでなく、一般の学校でも取り入れられています。本書では、学校や教育機関での導入事例と、その成果も紹介しています。●小学校6年生を担当する教員「運動会が終わってから、コグトレに取り組み始めた。1学期は話が聞けず、いつ学級崩壊が起こるかと、学校に来るのが嫌になっていたが、今、クラスが静かになって話を聞ける場面も増えた。…2学期を終えて、落ち着いて授業が受けられる時間が増えてきた」●大阪府のある小学校の教員「(コグトレ導入の理由は、)学習の基礎になる力をしっかり整えることで、学習の力を向上させてあげたいと思ったからです。以前は、離席とか教室飛び出しが頻出するような学校だったのですが、今は落ちついてじっくりと学習できる子ばかりになりました」『「立方体が描けない子」の学力を伸ばす』について著者について宮口幸治(みやぐち・こうじ)立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科教授。医学博士、児童精神科医、臨床心理士。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務ののち、神戸大学医学部医学科卒業。大阪府立精神医療センター、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長などを経て2016年より立命館大学教授。困っている子どもたちを教育・医療・心理・福祉の観点で支援する「日本COG-TR学会」を主宰。書に、80万部を超えた『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たちケーキの切れない非行少年たち2』『ドキュメント小説ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』(以上、新潮新書)のほか、『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング(三輪書店)』など。書誌情報書影タイトル:「立方体が描けない子」の学力を伸ばす著者:宮口幸治定価:990円(10%税込)発売日:2022年10月17日判型:新書判並製ページ数:240頁ISBN:978-4-569-85323-9発行:株式会社PHP研究所「立方体が描けない子」の学力を伸ばす | 宮口 幸治著 | 書籍 | PHP研究所 : 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2022年10月14日4月25日に実施された参議院の広島選挙区再選挙。野党統一候補の宮口治子氏(45)が、自民党・西田ひでのり氏(39)に約3万票の差をつけて当選した。今回の再選挙は、19年7月の参議院選挙をめぐる大規模な買収事件で有罪確定した河井案里氏(47)の当選無効に伴うもの。広島を拠点とする岸田文雄前政調会長(63)は「負けられない戦い」として勝利を狙っていたが、自民党は敗北する結果となった。そんななか、Twitterでは野田聖子幹事長代行(60)の“あるツイート”が物議を醸している。すでに削除されているが、25日深夜2時12分付で投稿されたツイート画像が拡散されている。《#参議院再選挙広島県選挙区#西田ひでのり候補の応援で、#衆議院議員小林史明議員と福山市に参りました。たくさんの方にお集まりいただき、本当にありがとうございました。皆さんの貴重な1票をぜひ西田ひでのりさんに託してください!#野田聖子》23日には、選挙前日に福山市内3カ所で応援演説を行うと告知していた野田氏。上記ツイートは足を運んでくれた人たちへの感謝を綴ったようだが、投稿日が選挙当日となっている。Twitterでは「公職選挙法に抵触する」として、批判が相次いでいるのだ。《元総務大臣なのに……》《これはアウト自民党は適切に処分すべき》《野田聖子さん、何やってんの?元総務大臣としては「うっかり」で済むレベルではないと思う。しかも河井夫妻の選挙違反が争点の選挙なのだし尚更。ツイ消しして知らん顔するのではなく謝罪も含めてきちんと対応された方が良いのでは?》総務省のサイトでは、「選挙運動期間に関する規制」として以下のように記されている。「選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかすることができません(公職選挙法第129条)」「違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)」野田氏は17年8月から18年10月にかけて、総務相に就任していた。今年3月には、総務相時代にNTTから高額接待を受けていたと『週刊文春』に報じられたばかり。だが「総務省が全く関わらないプライベートな会合」などと否定し、「見苦しい言い訳」として批判が相次いでいた。元総務相として思わぬ墓穴を掘ってしまったが、今回はどのように釈明するのだろうか。
2021年04月26日