親の介護は長男の嫁がやるもの、という考えの方がまだまだ多いようですが、中には兄弟全員で分担し、親を介護しているケースもあります。ちょっと変わっているけど、兄弟全員で介護したことによる思わぬメリットも生まれた一つの事例をご紹介しましょう。■ 母を日替わりで介護する「当番制」の提案とある主婦Nさんは、実母の介護を兄嫁だけに頼っていたところ、あまりの負担に耐えかね、とうとう兄嫁は実家に帰ってしまいました。仕事が忙しい兄はほとんど介護ができず、Nさんに相談しました。Nさんには兄のほかに三人の姉妹がいます。そこでNさんは、きょうだい全員にある提案をしました。HBS / PIXTA(ピクスタ)それは、みんなが当番で母を看るというものでした。しかも自給500円のアルバイト料を払うとのこと。その費用は母の蓄えから支払われるという驚きの提案でした。■ 大反対した三人の姉妹を兄が説得ところがこれに怒ったのが三人の姉妹でした。「実の母を介護するのに金を取るなんて酷い、親不孝もいいところ」「子が親を看るのは当たり前、お金なんていらない」など。それを救ったのは兄でした。兄は介護がどれほど大変か、介護をする奥さんを見ていて知っていたのです。だから懸命に姉妹を説得しました。マハロ / PIXTA(ピクスタ)夜から朝までは自分が介護するから、その他の時間にサポートをお願いしたいと、より具体的な提案もしました。さらに、母のお金は年金しかなく、兄が補充するとも言ってくれました。そして、なんとか姉妹を説得したのです。こうして、いよいよ「有償当番制」がスタートすることになりました。■ こんなにいいことが!当番制にしたメリット4つ当番制というのは、月曜日から日曜日まで、起床から入床までの時間を誰と過ごすか決めること。休日は担当者の家に泊まりに行くこともあります。なるべく平等になるよう、1か月間で回数を調整し、急用などで抜けても誰かがカバーできるようにしました。NOV / PIXTA(ピクスタ)まさに介護施設のシフトを思わせる連携が始まったのです。実際にやってみると、思わぬメリットがありました。それが以下の4つです。兄嫁が実家から帰ってきたこと。兄嫁の負担が軽くなり表情が明るくなったみんなに仕事意識が芽生え、不平等感がなくなったちょっとしたお小遣いができた兄弟が頻繁に顔を会わせ、話をするようになったFast&Slow / PIXTA(ピクスタ)■ できないと言う前に、まず一人ひとりができることを考える介護を分担して行うことは簡単なことではないでしょう。仕事や育児など、兄弟姉妹それぞれの事情があります。まずは、それぞれのできること、できないことを出し合い、ノートなどに書き留めていきましょう。MasayaIshimoto / PIXTA(ピクスタ)できないというのではなく、こういう条件ならできる、となるべくできることを書き出すようにします。費用については、母の貯蓄から出すことが難しい場合、みんなで一旦出資して、そこから支払うようにしてもいいでしょう。介護に参加できない場合は、費用を多めに負担するといったことも考えられます。■ お金を払うことで、介護の価値を知り、介護者を敬う意味がわかる当番制ではなくても、介護をしてくれた人に対してお金を払うことは決して悪いことではありません。Greyscale / PIXTA(ピクスタ)無償でやってもらうと何となく気が引け、やるほうも自分を抑えてやっている滅私奉公的な気持ちが強いように思います。お金を支払うというのは、その行為を必要で正当な仕事として認めた代価です。支払う人が大いに助かっていると認めている証なのです。お金を受け取ることで負い目や恩着せがましい感情は解消されるものと考えられます。これは介護に限らず、家事や育児でも言えることかもしれません。仕事としてどれくらいの価値があるのか、意識するだけでも当事者を敬うことにつながるでしょう。■ 地域でも応用できる「有償当番制の介護」Tanpopo / PIXTA(ピクスタ)こうした有償の当番制という仕組みは、少しアレンジすれば地域でも応用できる可能性があります。一人の高齢者を近所の方が手分けして介護し、家族や自治体がその報酬を支払うなど、方法はいろいろあると思われます。介護は一人でやれば辛いけれど、みんなでやれば楽しいことに変わるかもしれません。楽しいことを共有するよりも、苦しいことを分かち合うほうが、より強い絆で結ばれるのではないでしょうか。
2018年10月11日