内気でプレーでもチャレンジするように見えない息子に愚痴を言ってしまう。あまり言わない方が良いのは分かっているし、試合も見なければいいのに成長過程が見たくて毎週行ってしまう。親としてどうしたらいいのか。と悩むお父さんからのご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、3つのアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<借金して息子のサッカー支える妻に夫から離婚話が......サッカークラブお金かかる問題<サッカーママからの相談>息子は中1で「ジュニア」ではないのですが、相談させてください。現在クラブチームに所属しています。父親の私自身は野球をしてきました。少年野球→中学野球部→高校部活→大学野球→社会人野球とすべて野球で進路を決めてきました。息子は内気で、プレーを見ているとチャレンジしようとしないことや頭を使わずプレーしているようにしか見えなくて、少し愚痴を言ってしまいます。息子のサッカー人生なので極力言わないようにと心掛けてはいるのですが......。あまり言わないほうがいいのはわかりますが言ってしまうことがあります。見なければ楽なのですが、息子の成長過程をみたい親心で毎週見に行きます。こんな私に何かアドバイス頂ければ幸いです。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。父子の状況が、お父さんからからいただいた短いメール文でしか想像できないので、そのあたりはご理解くださいね。さて、「少し愚痴を言ってしまう」と書かれていますが、その程度であれば私にメールするまでは悩まないのではないかなと思いました。この表現を超えた文句や厳しい言葉を時折言ってしまうのかなと想像します。■自分のダメな部分を嘆きつつ、目の前の我が子と向き合うことが現代の子育てわかっているのにできないことってありますよね。お父さんも「あまり言わないほうがいいのはわかりますが言ってしまう」と書かれています。そうやって行きつ、戻りつする。この状態は、私も同じ悩みを抱えながら子育てを修正してきたので想像できます。とはいえ、そうやって己のダメさ加減を嘆きつつ、目の前の子どもと向き合う。それこそが現代の子育てだと思います。なぜ「現代の」と加えたかと言うと、今の親世代の多くは、親や教師、スポーツ現場のコーチからひっぱたいたり怒鳴りつけられたりして育っています。よって自分もそうしてしまう。自分では気づかないうちに、育てられたように育ててしまうのです。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!■アドバイス①子育ての新しい情報を取り入れることひとつめ。新しい子育て観、子育てで本当は何が大事かといった価値観を、自分の中に取り込みましょう。そのためには新しい情報を入れることが必要です。いまこうやって私の記事を読んでいる。これも新たな情報ですね。そのうえで、子育てに役立つ本を手にとってみましょう。一番お勧めしたいのは『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』です。これはサカイクでも連載をお持ちの池上正さんの最初の書籍です。私がブックコーディネーターとして、企画構成を担当しました。例えば、1章のタイトルは「肯定する」「だからダメなんだよ!」抽象的な言葉で叱ってばかりいませんか?と、副題がついています。2章は「上達する」「悔しくないのか!」負け始めると怒っていませんか?例えば、8章の「余裕を持たせる」「勝ちたいという気持ちが足らなかった」敗戦を精神論で片付けていませんか?いかがでしょうか?お父さんと「少し」似ていませんか?他の章も「楽しませる」「気づかせる」「考えさせる」「自立させる」「問いかける」と、お父さんの子育てに足りない要素がたくさん出てきます。ぜひ手にとって読んでください。この本は、指導や子育て本としては類を見ないヒット書籍で目下8万部超。2008年刊行なのに今でも市場で動いている優等生です。ある通販サイトにあった本の感想には、こう書かれていました。「小学生の母です。試合を見ては我が子のプレイに、イライラしたり胃が痛くなったりする事が多く、親がしんどい気持ちで過ごしていました。極端な話し、やめさせた方が楽かも...とまで思っていました。この本を読んで違った方向からみれそうな気がします。まだ、怒ってしまいそうですが、何度も何度も読み返して改めたいと思っております」このお母さんが書いておられるように「何度も何度も読み返す」のが重要です。ほかにも「子どもとの接し方が変わる内容でした」というのもありました。また、お父さんは野球をやっていらしたということですが、スポーツジャーナリストである私の目から見ると野球は小中高の育成年代での指導のまずさもあって、競技人口を減らしていると感じています。お父さんにわかりやすいよう、上述した『サッカーで子どもを......』と似たような内容で野球を舞台にしたものをと思いましたが、保護者向けの良書はありませんでした。もちろんまだ出会えていないだけかもしれませんが。したがって、まずは池上さんのこの本を何度も読んでみてください。これは宣伝したいわけではありません。本当にお父さんを救うと思うからです。この本を出してすぐに少年野球のお父さんコーチの方から連絡をもらいました。電話で話したいというので差し上げると、泣きながら感謝の意を述べられたのです。お父さんは「この本が無かったら、確実に息子は野球をやめていました。僕は毎日のように息子に文句を言ってたので。この本で勉強し直します」とおっしゃいました。■アドバイス②指摘するほど子どもは意欲をなくすふたつめ。「いわないほうがいいのはなぜか」という理由をお父さんが腹落ちしなくては、ずっと言い続けてしまいます。息子さんが内気で「プレーを見ているとチャレンジしようとしない」「頭を使わずプレーしているようにしか見えない」と書かれています。しかし、それをお父さんが指摘すればするほど、息子さんは意欲をなくします。意欲がなければ絶対上手くなりません。人の意欲にかかわってくるのは、左右の大脳半球の下側にある「線条体」という神経核です。ところがこの線条体、誰かに否定されたり、怒られると動きが鈍くなります。つまり、お父さんが圧迫すればするほど、息子さんはやる気が出ません。脳が意欲的にならないからです。それとは逆に、褒めたり、認めたり、ミスを励ましたりすることで線条体は活発に動き出すことがわかっています。それなのに、多くの大人たちは子どもを発奮させようと「渇を入れる」と言ってガツンと怒ったりしますね。お父さんもやられたでしょう。ご自分はなにくそと思って頑張ったのでしょうが、そんな指導が合わずに伸びなかった子どもはたくさんいた。でも、「ダメな子だ」「根性がない」「内気だから」と否定され、伸びなかった子どものせいにされたのではないでしょうか。そこを理解してください。■アドバイス③あなた自身が変わる方法(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめ。変わるための積極策は、すごく簡単です。息子さんのお母さん、つまりパートナーがいらっしゃるのであれば、彼女に自分はこれからこうありたいから、違うと持ったら注意してくれと頼みましょう。彼女が同じ教育観で、お父さんと同じようにきつくあたるようならば、そこは一緒に学びを入れてください。加えて、パートナー以上にお父さんのやり方を知っているのは、当の息子さんです。息子さんに、これまでの子育てをまずは謝りましょう。そこからが新たなスタートです。池上さんの本にも「親は安全基地になって」とあります。理不尽でただ怖いお父さんよりも、心的安全性を与えられるあなたが息子さんに必要です。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2023年12月20日