1981年、大阪府生まれ。コラムニスト、イラストエッセイスト。ユーモア溢れる独自の視点が高く評価され、雑誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(瀧波ユカリとの共著 筑摩書房)、『私、子ども欲しいかもしれない。』『アドバイスかと思ったら呪いだった』など。2017年に長女を出産。児童虐待をなくすための活動 #こどものいのちはこどものもの ボランティアチアームのメンバー。ウーマンエキサイトが展開する「令和ママはOPEN子育て主義」プロジェクトにも賛同コメントを寄せている。https://woman.excite.co.jp/reiwamama/
人気コラムニスト犬山紙子の『私、子ども欲しいかもしれない。』から選りすぐりのコラムをお届けします。(全19話 連載)
「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) もしかすると私の中に、「私があなたの面倒を見るから、子よ、お前も私の老後の面倒を見てください」って気持ちがあったのかもしれない。 そもそも私が母の介護をしたのは、「自分がしたかった」からであり、強制されたものではない。 母が病院を退院する前に先生から「本当に大変ですよ」と言われたけど、その場で姉弟3人とも自宅介護をすることを決めた。そのくらい「自分たちでお母さんを介護したい」という気持ちが強かった。 なのに、介護をしていくうちに、ストレスやフラストレーションが溜まって、「自分で決めてやっている」ことを忘れ、「介護をしなければいけない」「私もこれだけやったんだ、もし私に子どもができたら同じくらいやってくれるだろう」なんて思うようになっていた気がする。 あんなに「年長者が自分の理論を押し付けるのは言語道断」とか、いろんな本に書いてたくせに……。私にもそういうところがあった……。 だからMちゃんの「1人の人間としてサポートしようと思った」という言葉が、本当に本当に私にしっくりときた。 大げさじゃなくこの言葉を聞いて、目の前の霧がさっと晴れた感じがした。そして また一つ、子どもを産むことへの怖さが少なくなった。 いまは生まれてくるのが本当に楽しみ 「世の中にはDVに耐えてるお母さんがいるけど、子どものために別れないとか、子どものために逃げられないのって絶対良くないって思う。 友人に言われて一番心に残ってるのが、『一番大事なのはお母さんの笑顔だよ、笑顔でいられる環境にしな』っ てこと。いまは子どもが生まれてくるのが本当に楽しみだし、周りのみんなも楽しみにしてくれてるのがすごく嬉しい」 Mちゃん、無事に元気な女の子を出産した。 彼女から嬉しそうなメールがくるたびに、私もすごく嬉しい気持ちになる。温かい友人に囲まれて、家族も応援してくれていて、すごく幸せそうなのがメールの文章から伝わってきた。 Mちゃんが友人の言葉で勇気が出たように、Mちゃんの経験はまた誰かを勇気づけるだろう。実際私も大事なことに気がついて、強くなれたような気がする。 おわり 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月10日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) Mちゃんは勇気を出して2人の友人に相談した。2人とも「別れたほうがいい、そいつおかしいよ」と言ってくれ、それで自分の判断が正しいと信じられたという。 別れ話は数日に渡ったが、「私が本気だってことが分かったら、『それなら、もう金輪際連絡しない!』って急変。そこから連絡は一切なくなったの。向こうは子どもは堕ろしたと思ってるから、もう関わってこないと思うけど、いまでもあいつがストーカーみたいになったらどうしようとか、実はすごく怖い」と話す。 別れられて本当に良かった。でも彼は、Mちゃんがどうして別れたかったのか、その理由には絶対に気づいていないだろうな。そしていまでもMちゃんに後遺症を残していることが、腹立たしくてならない。 「別れ話の最後の方は頭がパニックになってた。堕ろすのは本当に嫌だったけど、とにかく何もなかったことにしたくて、この子がいなければ、あいつのこともなかったことにできるし、私は元の生活に戻れる。 それで中絶しようって、実際に病院の予約もしたの。でもその日の夜、いままででありえないぐらい、寝られないぐらい骨盤が痛くなって……。その時に初めて、この子は生きたがってるんだなって思ったの。 昔から子どもは好きだったけど、結婚して産んで育てるのは、人の人生を背負うって考えちゃってなんか怖かったんだよ。 でもできちゃって、その子どもの生きたいって意思を感じたら、自分が育ててあげるなんて、おこがましいなって思った。自分の分身とかそんなんじゃなくて、1人の人間として、私はこの子のサポートをしていきたいって思ったの」 Mちゃんの出した結論に私はハッとした。 そうだった。赤ちゃんというのはお母さんの分身とか、お母さんの所有物とかじゃなくて、違う人間なのだ。 母親と子どもの人生はセットじゃない。当たり前のことにびっくりしてしまった。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月09日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 「最初からすごく嫉妬深かった。付き合って数か月で遠距離恋愛になったんだけど、そのタイミングで妊娠が分かってからは、さらに束縛が異常になってきたの。 起きてすぐ、出勤前、昼も夜も全部FaceTimeを長時間……。寝てる時も見えるようにFaceTimeにしておかないといけない。はっきりいって監視だったと思う。でもね、最初はまだ付き合いたての時期だし、遠距離恋愛したてだからしょうがないなと思ってたの。 それがどんどんエスカレートして、妊娠初期は体調が悪くなるから横を向くのも辛くてFaceTimeに付き合えないと、『冷たくなったね、変わったね』と言われるようになってきて」 妊娠した身体や心をケアするどころか、自分の寂しい、かまってほしいという欲求を通そうとする。そして、その自分のわがままな願いが叶わないと分かると、いたわるべき相手を罵る。 辛い妊娠初期をそんな相手に束縛されたMちゃんを思うと、やるせない気持ちになる。 この頃から、私はMちゃんと連絡が取りにくくなってきた。後から聞くと、Mちゃんの趣味だったホームパーティーや、女友達とのちょっとしたランチでさえ、彼から咎められていたという。 いま思えば、Mちゃんは少し洗脳されてしまっていたのかもしれない。どんなに理不尽なことだって、「こういうことをすると彼に怒られる」という嫌な体験が繰り返されれば、それを避けるように動いてしまうだろう。 「そのうち、体調が悪くて朝の電話に出られないだけで怒られるようになってきて。 それでやっと彼は、私の身体を気遣ってるんじゃなくて、本当に、私を自分だけのものにしたいのだというのが分かってきたの」 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月08日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■Mちゃん(37歳・4か月の女の子)の場合 私の友人にMちゃんという女性がいる。動物好きでアクティブ。辛いことがあっても人前では笑い飛ばして話す強さを持っていて、彼女に話を聞いてもらったらスッとできそうだな、そんなふうに思わせてくれる女性だ。 そんな彼女からある日、「パートナーと別れ、シングルマザーになる決心をした」というメールがきた。実はMちゃん、パートナーから精神的DVを受けていたという。 もし妊娠中に、パートナーがひどい人間だと分かったら……。 別れたほうがいい、絶対いい。客観的にはそう思う。でも、自分がその立場だったら、私が想像してる何十倍、何百倍もの迷いと悩みが襲うんじゃないだろうか。 そんなMちゃんの話を聞いたら、私の中で子どもに対する気持ちや考え方が大きく変わったので、書かせてもらいたい。 最初はすごく優しくて、すぐに結婚しようと思った 「相手は5つ年下で、最初の頃は、すごく優しかった。食事でもなんでも、女には支払いはさせちゃいけないみたいなタイプ。結婚願望も強いんだけど、『結婚してもご飯は外食で構わない。朝もお弁当なんて作らなくてゆっくり寝てていい。洗濯も炊事も僕がやるよ』とか言ってくれて。 子どもも最初の頃から欲しいって言ってて。釣りを教えたいとか、キャンプに行きたいとか、いろいろ話してくれたの」 付き合いだして「結婚したい」「子どもが欲しい」という意思が同じだと分かった時というのは、急に未来が開けたような気持ちになる。 2人で並んで「将来、子ども とこんなふうに遊ぼう、こんな家庭にしよう」と話をする時間は、すごく甘くて愛おしい時間だろう。 私も夫に「50歳、60歳になっても、私たちの友達がうちに来てくれて、みんなでお酒を吞んだりゲームをいっぱいやりたい。柴犬もいたらいいね」という将来の夢を話す時、幸せのなんとかホルモンがドッバドバ出ている。 でもMちゃんの幸せは、あんまり長くは続かなかった。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月07日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) でもそんなCさんたちにも悩みはある。それが、2人目問題。 「保育園でも、2人目産みますっていう人がけっこう多いの。私がひとりっ子だから、もう1人いてもいいかなって漠然と考えたりもする。でもやっと社会生活に復帰していろいろ戻りだすと、もう一度最初から子育てってちょっと大変だなとか思っちゃう のが本音……。 夫とも2人目については話したことあるけど、なんというか……、やっぱりもうセックスレスなんだよね。子どもがいると、そういう感覚がどんどんなくなっちゃう。夫も子どもといることをエンジョイしすぎて、私と2人で何かってのはそもそももうあんまりないんだ。 でも、これはどこの家にも共通する悩みな気がする。2人目を産むってことは奥さんの身体を長い間拘束しちゃうから、夫からもおいそれとは言えないみたいで。 だかららこそ2人目のきっかけって奥さんから『そろそろ2人目』って言うことが多いみたい。私たち夫婦の感情は、たぶん結婚前とあんまり変わってない気がするけど、もうロマンチックにはならない。しいていえば旅行の時かな! だから旅行に行くってのもあるのかも」 やっぱり、セックスレスは、どの家庭でも見られるポピュラーな問題なんだなあ。それに2人目どうするかってことも。 いままでは1人産んだら「子ども欲しいけど、どうしよう」という悩みから解放されると思っていた。けれど、私は年齢もあるし、もし2人目が欲しいとしたらすぐに 考えないといけない。 どうしよう。いまから1人産むのと、2人目どうするのかということと、同じ熱量で悩み始めてしまった。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月06日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) さらにCさんの旦那さんは海外出張が多く、Cさんたちも便乗して、子連れで海外に旅することも多いらしい。ううう、羨ましい……! 「息子との最初の旅行は、出産後5〜6か月で行ったシンガポール。飛行機代って座席を取らなければ2歳までは無料なの。ちょうど育休中だから、その時期に海外旅行する人たちって実はすごく多いんだよね。だからCAさんたちも扱いに慣れてて、すごく楽だった。航空会社でいうと日系より外資系のほうが優しい感じがするな」 仕事の関係でアジア圏が多いそうだが、子連れのアジア旅行は「すっごく、おすすめ」らしい! 「なんせ国内旅行よりぜんぜん気楽。どの国も子どもにすごく優しいし、お店に入る時もだめって言われたことはないし、みんなニコニコしてる。 とくにシンガポールはおすすめで、中華圏の人は子どもが大好きだし、街が綺麗に整備されてて行けるところが多い。ナイトサファリとか子どもが飽きない場所も充実。 都市部からリゾートに行くこともあるけど、街がコンパクトで移動も楽だし、海とホテルが近くて歩いて回れる。あとは国内旅行より、ぜんぜん安いしね(笑)」 国内旅行よりも気楽なんだ! 子どもに対して優しいってのもいいなあ。子どもが 泣いたり騒いだりするのを温かい目で見守ってくれる土壌があるのかな。 日本だと公共機関やお店を利用する時、母親が「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝っているのを見かけるけど、不必要に謝らなくていい空気があるなんて最高だ。 うう〜ん、Cさん一家、めっちゃいい! なんといっても旦那さんの愚痴が一つも出てこない。旦那さんと仲良しのまま、ずっといることは可能なんだ! けっこう難しいことだと思っていたから、夫婦で仲良しというだけですごいことのように思える。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月05日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■Cさん(38歳・外資系会社勤務・3歳の男の子)の場合 復職して2年目のワーキングマザーCさんは、旦那さんといい感じで子育てを分担している。 働きながら子育てをすると、夫との関係ってどうなるのだろう。 「産後クライシス」という言葉もよく目にするし、実際「その期間は夫が大っ嫌いになった」という話もよく聞いている。廊下ですれ違う時に身体が触れるのも嫌で、横歩きをしていたという夫嫌い過激派の人もいたっけ……(そして、その前情報を受けてつるちゃんは怯えている)。 でもCさん夫婦は、そんなことはなさそう。お互いに協力し合って、結婚前とあまり変わらない生活を送っているみたい。う、羨ましい。その秘訣が知りたい! そして、1人産んだ後って2人目を産むかはどう考えるんだろう。セックス自体ハ ードルが高そうだと思うのだけど……。そのへんの本音を、Cさんに聞かせてもらった。 旦那とは予定を共有してる 「子どもが生まれてもライフスタイルを変えたくなかった。だから旦那とは予定を共有していて、どちらかに飲み会や遊びの予定が入ったら、どちらかが家で息子と過ごすようにしてる。 子どもがいても、飲み屋でもご飯屋さんでも、入れる店なら一緒に連れてもいくよ。最近は子ども連れてくる人、多い気がする。区の保健センターの健診で集まる時も、お店の情報交換してるしね(笑)」 母親が吞みに行っても怒らない、お互い外出したい時には協力し合う。これって当たり前であるべきなんだけど、まだまだ女と男で役割が分かれている日本では、父親のほうが優先されている気がする。 夫の予定ばかりが尊重されたら、「私は我慢しているのに……」なんて不満を感じて、どんどん愛が薄れそう。Cさんの家庭は、お互いのプライベートな時間を大事にしてるんだろうな。 ちなみに、どんなお店が子連れに適しているか教えてもらった。 「適度にほうっておいてくれて、子どもがいても過剰なサービスをしないお店は居心地がいいかな。パッと食べて出られるような、近所の居酒屋とか焼き鳥屋とかがけっこう多い。焼き肉は座敷があるのがいいんだよね。街の中華屋さんも、おすすめ。 あと重要なのは時間帯で、オープンすぐとか、20時前までに帰るとか。平日は混んでても週末は家族連れが多くて使いやすかったりもするんだよね。もちろんバーや完全に大人向けの店には最初から行かないけど。 ……本当は家で食べるほうが疲れないけど、それだと私が一緒に食べられない。それを旦那さんはあんまり好きじゃないみたいで、土日はちょっと外に出ようかってことになるの」 私も甥っ子や姪っ子と一緒に外食することがあるのだけど、子連れの外食は周りに気を使うし、出かける支度も疲れる。でも、献立を考えて買い物をして料理をして食べさせて……という流れを考えると、かなリフレッシュになるはず。 それに、家だと他の家事もあるし、なかなか夫婦でゆっくり会話するっていうのも難しそうだし。Cさんの家みたいに夫から誘ってくれるのもいいな。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月04日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 最後に一つ、疑問が生まれた。 これだけのサービスをいろいろ使いながら、職場にフル復帰して、2歳の男の子を育てるというのは、「忙しくて死ぬ……」なのか、「けっこう余裕ある!」なのか、どっちなんだろう。 「自分の時間はけっこう作れるんですが、実は仕事が、暇すぎて死ぬ……なんです。会社が古い体質で、自分たちの上司も奥さんが専業主婦という人が多いから、結婚や妊娠を報告すると、まずは『仕事、どうするの?』みたいな感じで。 独身時代は仕事が好きで働くことにやりがいを感じて、毎日23時くらいまで働いてました。これからって時に思いがけず妊娠しちゃったんですが、それでも仕事が形になっていたので、復帰しても戻る場所があるとは思ってたんです……。 でも、結局、同じ部署に戻ってみたら、仕事が何もなくなって……。それが一番辛いです。なんの担当も振られなくて……。そうなるとだんだん働くことへの意欲もなくなってきそうで。ここでどう踏みとどまるかって、本当に悩みます」 そんな……、そんな落とし穴があったのか。仕事にやりがいを持てないって、Kさんのように働きたい女性にとって一番辛いことだと思う。 私もまったく興味のないバイトをしていた時は、どれだけ楽でも時間が永遠に続くように感じられて地獄のようだった。逆にやりたかった編集者の仕事の時は、ぜんぜん睡眠が取れなくても、給料が安くても、毎日がすごく楽しかった。 「もちろん職場を追われるってことはなくて、『子どもが小さいうちは家庭を優先して、また成長したらバリバリやれる時期がくるんだから』って言われるんですけど。そのバリバリ働きたい時期っていうのが、私にとってはまさにいまなんです。それが急に初期化されたというか、いきなり新入社員になったみたいな感じで、本当にもがいています」 もし私に子どもができたとして、やりたい仕事ができなかったり、相手が遠慮して仕事を振ってくれなくなったらと思うと、悔しくて辛くて発狂しそうだ。 「くう〜私がやりたかったあの仕事、子どもを産んだことによって、あの子がやってるっ!」なんて嫉妬に狂うかもしれない。子育てしながら働くというのは、予想以上に険しい道なのかもしれない。 でもKさんが、いろいろなサービスを効率よく使えば、「自分の時間は持てる」と言ってくれたのは大きな勇気になった。 私が予想していたよりもたくさんの子育て・家事のサービスが充実して進化していた。子どもを育てているからといって、自分の人生を生きてはいけないわけじゃない。 自分がどうしても辛くなったり、日々悶々として過ごすくらいなら、私はこれらのサービスをどんどん頼みたいし、広めていきたい。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月03日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) まずは「ファミリーサポート」について。 これは、「子育てを経験してる近所のおばちゃんとかが、子どものお迎えに行ったり預かってくれたりする有償ボランティアみたいなもので、1時間800〜900円です。いまは週1でお願いしています」と言う。 初めて聞くサービスだけど、使いやすい値段! でも担当の方との相性もあるだろうし、もし家庭の事情に踏み込まれたら、私はけっこう嫌だなあ……。 「それが、遠くの親戚より近くの他人って感じで、かなり分かってくれるんです。区のサービスなので研修がしっかりしてたりと安心もできますね。忙しい時は、保育園の延長保育をマックス19時15分まで使って、おばちゃんに保育園にお迎えに行ってもらって、ご飯は彼女の家で手料理を食べさせてもらって、私が20時15分にお迎えに行きます。ちなみに食事代は300円の実費です」 食事代300円とはありがたい……! でもでも仕事が遅くなったり、たまには飲み会だったり、その時間にも帰れないこともありそう。そんな時に活用するのが、「ベビーシッター」さんだと言う。 「もっと遅くなる時は、シッターさんにファミサポのおばちゃんの家まで迎えに行ってもらって、シャワーと寝かしつけをお願いしています。非常時に備えて、鍵は常に保育園の鞄に入れてあるんです」 Kさんが登録しているシッター会社は、 『キッズライン』 と 『スマートシッター』 の2社。金額は1時間1500円程度だそうで、Webを見て自分でどのシッターさんにお願いするのか選べるらしい。 「シッターサービスには、女子学生さんや保育士を辞めた方が登録しています。登録してる人のプロフィール画面には、顔写真や評価も載っていて、住んでる場所や時間など条件に当てはまる人を選べます。私は医学部の学生さんにお願いすることが多いです」 実際にサイトを見てみたら、「明日来られる!」、「保育士などの資格あり」という条件で選べたり、自己紹介の動画があったり、値段も1500円以下の人もいた。 想像より、自分にとってどういう人がいいのかを選びやすいし、顔が見られるからすご く安心だと思った。 「シッターさんには基本は23時ぐらいまでいてもらうのですが、遅くなりそうな時は終電までお願いしたり、終電をすぎたらタクシー代を負担してもっと遅くまでお願いすることもあります」 ということは、 時間ご飯を食べに行くのに、シッター料金が4500円。自分のご飯代が5000円とすると、結局1万円になるのか……。 「そう! だから子どもを産む前と大きく変わったのが、お金を使ってでも会いたい人とか行きたい場所。職場の流れで吞みに行くことは、もうなくなりました」 そりゃ、そうだよなあ。いま、私が自由に人と好きな時に遊べているのって、とても贅沢なことなんだと実感。子どもができたら、自分の時間を作るためには、お金を使う必要があるんだ。 「あとは 『タスカジ』 っていう家事代行サービスも使っています。週に1度、3時間来てもらって、1回6000円もしてないかな。 私がお願いしてるのは、仕事に行ってる間に、掃除洗濯と料理の作りおき。19時に帰ってきて、ご飯作って、お風呂に入れて、寝かしつけまで私にはできないんですよ! その作りおきの料理を小分けに冷凍して、毎日食べてます(笑)」 ええっ、このサービスも知らなかった。なんて便利なんだろう。いますぐにでも使いたいよ! 週1でそれだけやってもらえたら、生活はぐっと楽になるだろうし、気持ちも楽になるだろうな。 シッターさんや家事代行は、夫の理解が得られなかったり、家に知らない人が来るのが嫌で躊躇する人も多いと思うけど、いざという時にはきっと助かるから、頭の片隅に入れておいてもらいたいなあ。もちろん、私は赤字が出ても絶対使いますけど! つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月02日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■Kさん(29歳・大手企業勤務・2歳の男の子)の場合 私は、子どもができたとしても、仕事はしたいし、生きるためにしなければならない。でも、親は東京にいないし、夫以外でパッと頼れる人もいない。その夫と協力するにしても、彼にも仕事がある……。 それに無事に保育園が決まったとしても、子どもを保育園に預けている間にフルで働いて、そのまま子どもを迎えに行って、家事と子育てもして。う〜ん、自分が休める時間がほぼなさそうなんだけど……。 使っているのは、保育園、ファミリーサポート、ベビーシッター、家事代行 Kさんは2013年の冬に出産し、2015年4月に職場復帰した。2歳年上の旦那さんは結婚して数か月後に海外へ単身赴任、そのため妊娠中からずっと一人暮らし。 双方のご両親も地方在住のため、子育ては自分だけでなんとかしないといけないという、私だったらとても一人じゃ抱えられなさそうな状況だ。 それなのに現在は時短勤務もせずに、様々なサービスを駆使して、フルタイムで働いているという。しかもKさんの肌は、疲れ知らずのピチピチである(それはKさんの遺伝子のせいかもしれないけど)。 「子どもが11月生まれなので、1歳半になってから次の4月に区立園に入りました。 認可園ですが区が運営しているので、ややお役所的で設備も古め。でもうちは夫婦共 働きっていう基礎点だけだったので、人気の少ない区立園でも入れるかどうか難しかったんです」 エーッ! 夫が海外に単身赴任って加算されないの! これは制度としておかしいんじゃなかろうか。男女共に協力して子育てする方向に進んでる世の中で、夫が離れ ていることが考慮されないなんて......。 ちなみに区立園の保育料は夫婦の年収で決まるそうだが、Kさんの場合は夫婦共に 若いので、月に2〜3万ほどですむという。認可外保育園の半分以下だ。やはり、認可なのか認可外かで、負担は相当違ってくるんだな。 そんなKさんを支えるのが、保育園のほかに利用している複数のサービスだ。でもそれって、高すぎない? 予約は取れるの? 安心して任せられる? ぶっちゃけた本音を聞かせてもらった。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年06月01日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■産後うつで、とてつもない反抗期がやってきた 「産後は母親が田舎から2か月くらい来てくれた。でも中学の頃以上の反抗期がやってきて、すごいけんかしたんだよね(笑)。それこそ取り戻せないぐらい酷いことも言っちゃって。たぶん産後うつみたいな感じになっていたんだと思う」 出産後の身体って、大怪我をしたのと同じような状態だと思う。その身体で、これ までとガラッと変わった生活を送らないといけないというのは、想像するだけで身震いしてしまう。 「でも、やっぱり産後うつにならないためには、人に手伝ってもらうのが、すごく大事だと思う。私はもともと誰かが家に来るのがすごく苦手だったけど、一人の友達がしょっちゅう遊びに来てくれて、その間ずっと子どもを抱っこしてくれたの。その子は子どもを二人育てているから、本当に任せられて、気分もリフレッシュできて。お昼ごはんも買ってきてくれるから、それがすごく助かった。やっぱ人に頼らないとダメなんだなって、甘えられるようになった」 人に頼るのって、本当に大切。私も生きていく上で痛感していることだ。でも、やっぱり一番頼りにしたいのは夫だと思うんだけど、夫にはどういうふうに接してもらうのがいいのだろう。 「イエスマンになれ! 夫も頑張ってるのは分かるんだけど、この時期はとにかく『ありがとう』の気持ちで接してほしいかなあ。でも夫とは、妊娠中がいままでで一番仲良かったな。すっごく優しくなって(笑)。出産したら行けなくなるからって、高級 なお店に食べに行ったり。でも産んだらケンカばっか!」 これも他の人から聞いたことがある。出産後、とにかく夫にイラつくと。 私も、「もし妊娠・出産したらそうなるかも」ということをつるちゃんに伝えたら、だいぶおびえていたな……。それでなくても怖い私が更に怖くなるって、彼にとったら恐怖だろう。 「でもいまはもう元通り。ケンカも少なくなって普通に戻ったんだよね。というか、とにかく子どもがかわいくてしゃーないから、子どもを通じて会話が生まれるんだよ」 最終的にFさん、めっちゃニコニコしていた。私が尊敬していたFさんは、相変わらず尊敬できる人で、さらに強くなった感じがした。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月31日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■お金の不安はきりがない問題 Fさんの家庭は、Fさんの収入の占める割合も大きいと思う。お金の不安はなかったのだろうか。 「実は不安はなかったんだよね。貯金もぜんぜんしてなかったし、使いたい時に使ってきた人生だったけど、なんとかなるって思ってて。もちろんいまは子どものために必死で貯金してるよ。でもお金のこと言って先延ばしにしてたら、2年後、3年後、4年後って、どんどん妊娠しにくくなるし、お金の心配はずっとつきまとうんだよね。いまより重要な仕事についてたらもっと悩むし、結局きりがない問題だと思うよ」 犬山、このFさんの言葉で、不安ですくんでいた足がすっと伸びた感じがした。いつまでたっても仕事やお金の不安はつきものなんだよね。 Fさんみたいにキャリアを積んでいる人だって、仕事がなくなる恐怖を感じていた。 子どもを欲しいと思っているのに、もうちょっと仕事ができるようになってから……、 なんて理由でその場に踏みとどまるのは、私の場合、とりあえず現実から逃げる行為だったのか……。 いままで子どものことになると、不安だ不安だとネガティブなことしか考えてこなかった私にとって、Fさんの話は「当たり前だけどポジティブな面がたくさんあるんだ!」と思わせてくれた。 ■保育園、どうでした? 続いて、私が子どものいる人に会うと必ず聞いている「保育園、どうでした?」を聞いてみた。この、「どうでした?」は、「入った保育園、どんな感じ?」ではなく、「ど うやって入った? 入れなかった?」の意味である。 都内で保育園に入る難易度について聞くと、皆青ざめた顔で口を揃えて「大変だった」と言い、私は「出産の痛みやばすぎ死ねる」と同じレベルで恐れおののいている。 「保育園は、まだ結果待ち。11月に申し込みがあるんだけど(区によって違う)、フリーはすごく不利なの。うちは旦那もフリーだから、もう一番ダメなパターン(笑)。点数が超低いわけ。この点数ってのが、本当に奥深くて。 点数を稼ぐために、すでに子どもを無認可やシッターさんに預けて復職してるんですっていう証拠が必要で。正直まだ預けたくなかったけど、とりあえず1か月無認可に預けて復職の証拠書類を揃えたよ。ちなみにフルで預けたら月に15万円ちょっと……。だったら仕事しないで子どもといるわ! ってくらいの金額」 15万って、都内のOLさんの月収手取りからと考えるとほんと働くのがアホらしくなる金額……。認可に受からなかったら……年間180万以上か……、あっ、死にたくなってきた……。 「ちなみに私がこれだけ必死なのは、0歳児のうちに預けないと、1歳児では認可保育園にまず預けられないからなんだよね、東京は。 歳児で一つの園に対して10人くらいしか枠がないのに、1歳児の枠も11〜12人。そのうち10人は0歳児が進級するから、実際の枠は一つ二つくらいしかなくなる」 東京に住む限り0歳のうちは預けないで一緒にいるという選択すら難しいのか……。 妊娠したら、待機児童の少ない区に引越しをするという話もよく聞く。想像はしていたけど、現実はもっと厳しそうだ。 そして保育園問題と同じように気になるのが、産後うつのことだ。 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月30日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■Fさん(39歳・フリー編集者・0歳の女の子)の場合 子どもを産むことで不安なのは、出産後の仕事復帰、仕事と子育ての両立について。 フリーの私は産休をとると収入がゼロになるから、貯金を切り崩す日々が待っている……。それで、仕事に復帰できたとして、私の居場所はあるのだろうか。 うーん、不安……。子どもがいなくたって、不安なのに……! そんなぶっちゃけた質問を、抜群のセンスで数々の書籍のヒットを飛ばしてきた、フリーランスの編集者Fさんにぶつけてみた。私は大学生の頃から彼女に憧れていてずっと尊敬している。Fさんは2016年6月に女の子を出産、SNSを見ていると仕事に復帰しているようだけど、どんな感じなのだろう。 妊娠してることで仕事を減らしたくない 「フリーだと急に『ここから休みます』ができないんだよね。だから徐々に仕事を減らしてた。復帰のことを考えるといろいろ怖くて、本当に近い人以外にはギリギリまで言えなかった。それに私は年齢も上になってきて、若い子たちとチェンジする時期でもあったの。だから、すごい不安だった。『子どもいるみたいだから』って遠慮されるのが本当に嫌で、取材も妊娠していることが分からないように、ダボダボした服で行ってた(笑)」 以前、他の女性からも妊娠を言い出せなかったという話を聞いたことがある。みんな、ものすごく不安なんだ。私だけじゃないんだ。 「妊娠中は頭がぼーっとしてきて、集中力がなくなってぜんぜん書けなくなった。アイデアとか求められてもなんにも浮かばなくて……。バリバリやってる人が周りにいるから、すごく焦ってドキドキしてくるし、あの時は孤独だったな……。 身体が完全に戻ってきたなって感じがしたのは、子どもを産んで半年くらいたってからかな。いまは昼間は子どもを預けて、事務所を借りて仕事を再開したの。0歳児がそばにいると、横で寝てるだけで気になるし、電話もままならないし、相手にも気を使うし、集中力が切れるから、私は預けないと仕事は絶対に無理」 うーーーん、妊娠中も出産後も仕事はかなり制限されるのだろう。仕事の内容や人によって違うと思うけど、これって精神的に辛くはないのかな。 「ただね、出産したら育児が本当に楽しい。楽しすぎて仕事したくないもん(笑)。こんなにかわいい時期に、仕事にすぐ戻るのもなあって思ったぐらい!」 私は復帰のことを考えると不安に頭が支配されすぎていて、子どもといる時間の幸せや楽しさをまったく想像できていなかった。仕事だけが楽しいんじゃないんだ。いろんな楽しさがあるんだ。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月29日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■「当たり前のように子どもが欲しい」Cちゃん(独身・38歳)の場合 出版社勤務のCちゃんは、激務に追われながらも、ふんわりと人を包み込む優しさを持つ。友人思いで、私のこともよく気にかけては励ましてくれたり、会うたびに手土産を渡してくれたり、その気遣いにいつも癒されている。 そんな彼女は「理由なんて考えたことないくらい当たり前のように子どもが欲しい」 と言う、かなり“子どもが欲しい”派。 私は昔から、「子どもが自然と欲しかった」という人に出会うたび、その気持ちが分からなくて、自分には母性みたいなものが欠如しているのだろうかとずっと悩んでいた。人と話していて、「子ども欲しいよね?」前提で話が進むたびに戸惑ったっけ。 人間いろんな考え方があって当たり前だよなーと、むやみに悩まなくなったのは最近のことだ。 「生命の最大の神秘、命を授かって産む、という体験をしてみたいのかもしれない。 好きな人の遺伝子も残したいし、子育てもしたい。子どもがいないと参加できない人生のイベントにも参加したいし、家族を増やしたい。好きな人ができると自然とその人の子どもが欲しいって思うよ」と、Cちゃんは言う。 うーん、やはり私とは違うんだな。私は「子どもの面倒を見ることが苦手」だから、子育てには正直「辛そう」というイメージばかり。でも彼女は「子育てをしてみたい」と、かなりポジティブな感じ。 その理由の一つが、「自分のための欲望みたいなものが年々少なくなってきてるから、 この先は誰かのために頑張りたい」からだと言う。 誰かのために何かをしてあげたいなんて、私のような自分大好き、自分優先人間には、想像ができない。 なぜこんなに、趣味や仕事の優先順位が一番になってしまったのか考えると、それはやっぱり、母の介護を20歳からずっとやっていることに繫がっていると思う。 あの頃は、自分の時間がまったくない強烈な辛さがあった。いまはそのリバウンド中だから、好きな時にだらけて、遊んで、思いっきり仕事したいと思ってしまう。 子育てにネガティブなイメージがあるのも、まだヘルパーさんがそんなに来なかった時代のかなり重労働な介護を思い出すからなのかもしれない(何度も腰を痛める、 夜中に何度も起きなければいけない、ちょっとでも遊んだら罪悪感が生まれるなどなど書ききれないほど)。 もともと自己中という性格(昔から人によく言われる)なのも、 もちろん関係しているとは思うが……。 Cちゃんにも、子どもを持つ友人のことをどう思うか聞いてみたら、「5年前なら『大変そ〜』と思っていただろうことも、いまはただただ、全てが羨ましく感じる」と言う。 これがけっこうぐさりと刺さった。 Cちゃんの5年前といえば33歳、ほぼいまの私の年齢だ。いま、私は子どもを持つ友人を見ると、「きっと幸せなんだろうな……。でも私に、あんな大変なことできるのかな〜」と、当時のCちゃんのような心境になる。 でも、このまま5年たったら、 今度はその風景を羨ましく思うかもしれない。 私はいま、子どもを欲しいという方向に心が傾いている。その理由の一つに、子どもを作らなかったらすごく後悔するんじゃないかという怖さがある。 Cちゃんは、「私の場合は本当に子どもを諦めたら、初めて産まない人生の楽しみが見えてくるのかもしれないなあ。産んでも産まなくても、パートナーと一緒に決めたことなら、これが私たちの生き方、と思えるんだろうな」と言う。 きっと人生どんな選択をしても、後悔や、人を羨ましく思う気持ちはずっとあるはずだ。でもどんな選択をしても、考えて悩んで決めて行動していけば、ちゃんと肯定できるようになると思うし、思いたい。 母の介護に悩み苦しみながらも、ちゃんと介護をしたと胸を張って言えるいま、あの時代を素直に受け入れられているのと同じように。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月28日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) ■「子どもは欲しいと思わない」Bちゃん(既婚・35歳)の場合 ヘアメイクのBちゃんは、「子どもは欲しいと思わない。でも、絶対いらない! と キッパリ言える感じでもない」と言う。 いつも攻めたファッションをしていて、年に6回は海外旅行に行ってるBちゃん。 趣味に生きていて、その姿が非常に魅力的な女性だ。 そんな彼女が子どもを欲しくないと思う理由は、「そもそも子どもがそんなに好きではないし、自分の生活レベルやリズムが狂うのが嫌。経済的、体力的にも自信がない」だそう。 「もし、子どもを産んでも働くと思う。きっと自分の時間が欲しくなるし、経済的にも働かなくてはいけない。『産んだらなんとかなるさ〜』って言ってる友人もいるけど、 彼女たちの子どもってまだそんなにお金のかからない小学生くらいだから、鵜吞みにできないしね」 ああ、これ、これです。私も、子どもにかかる費用が3000万とかよく聞いて、 めちゃめちゃ不安に思ってる! 自分1人が生きるだけでも精一杯なのに。 じゃあ「子どもを産んだ友人を見てどう思う?」と聞くと、「大人だけの時間がなかなか持てなくなるのか……って思ってしまう。自分が本当に行きたいところや食べたいものではなく、子どもの好きそうなほうを選ぶようになるのが、私の場合ストレスになりそう。ただ、みんな子どもはかわいいと言ってるので、産んだら変わるのかも、とも思うけど、試しに産んでみよっかな、とはできない」。 ううーん、このBちゃんの気持ちは、かなり私にリンクするものがある。趣味が大事で、子どもがそもそもそんなに好じゃなくて、お金に不安があって……。 でも自分の子どもはやっぱりかわいいんだよね? 子どもを産んだ友人は大変そうだけど、 すごく幸せそうに見えるしなあ、と気になっている感じ。 私はいま、大好きな趣味があって、趣味に浸かっているその時間が最高に幸せ。 子育てに追われたら、この時間がなくなるかもと思うと、「やっぱり産まない人生の方が、自分には合っているのでは?」と思ってしまう。 でも、子どもと趣味を両立させることだってできるかもしれない。子育てしながら、自分の趣味があってもいいんだもんね。どうしたら時間をうまく振り分けられるのか、自分の時間が作れるのか、その方法も考える意味がありそうだ。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月27日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 「そういえば、私の友達で子どもがいる人って少ないなあ」。子どもを欲しいかもと思ってから、ふとそんなことに気づいた。 ええと……ここ5年間で仲良くしている女性が30人くらいいて、そのほとんどが子どものいない人(子どもがいる人は3人ぐらい)。飲み会や仕事で集まった時に、何度か子どもについて話したことはあるけど、そういえばお互いに本音はなかなか話せ なかった。彼女たちは、本当はどう思っているんだろう。 思い切って、「子どもについて考えていることを良かったら聞かせてほしい。めちゃくちゃプライベートなことを聞くので、もちろん答えなくてもいいからね」と何人かにメールしてみた。 ■「子どもが欲しい」Aちゃん(独身・30歳)の場合 フリーのスタイリストのAちゃんは、「子どもが欲しい」と言う。Aちゃんは海外に渡り、超厳しい有名スタイリストの弟子を6年間やって、日本に戻ってから活躍しまくっている。 そんな彼女は「子どもが好きで、家族が欲しい。友人が子どもを産んだ姿を見ると素直に羨ましいし、母親の顔になって子どものために人生を送るって素敵なことと思う」と、はっきりしている。 私は自分の仕事に自信がないから、「子どもが生まれたら仕事をセーブしないといけないし、もしかしたらなくなるかもしれない」なんて思ってしまうけど、彼女は何年もかけて自分の仕事を確立させている。 その自信が、「仕事がなくなる」という不安を吹き飛ばすのかもしれない。だから、こんなにはっきりと「子どもが欲しい」と言えるのかな。 子どもができても働きたい? と聞くと、「もちろん」とのこと。 うーん。Aちゃんのおかげで、自分がいかに仕事に不安があるのか浮き彫りになったな。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月26日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 私が自分の未来について心配性になってしまうのには、理由があります。 私の母親は40代で病に倒れ、私は20歳からずっと介護し続けてきました。母の家系は脳の病気が多く、母に一番似ている自分も急に難病にかかってしまうかもしれないと、半分くらい思っています。 母が脳出血になった時に家族で唯一隣にいて、泣きながら救急車を呼んだ経験もきっとこの不安に深く繫がっているかもしれません。 人生もいまがピークだと思ってて、良い未来があるかもしれないけどなんか想像の範囲内で、これから起こるかもしれない不調や嫌なことのほうがリアリティがあって、 身体が元気なうちに死んだほうが性格的にあってるなーなんて、バカな考えをすることもあったり。 そんな私にとって姉の言葉は、かなりの衝撃でした。私の想像している未来はどんどん暗くなっていくイメージだったから、「え? 大好きな子どもといるために長生きしたい、それが幸せ、そんな未来があるの?」って。 それは私が想像していた自分 の未来と真逆で。生きていることの1秒1秒が大切で、愛おしくて、過ぎ去るのが切なくなるなんて。 いまの私にはありえない。子どもって、そこまでなのか。そこまでの存在と暮らすのって、どんな感じなんだろう。 ……子ども、欲しいかもしれない.……。 姉の発言を聞いて、初めて自分から子どもを欲しいと思ったのでした。まだ「かもしれない」という漠然な気持ちではあるけど、この気持ちとちゃんと向き合うことにしました。 そうと決めたら、いろんな人の話を聞いてみたい。悩んでいる人、専業主婦の人、仕事をしながら子どもを育てている人、シングルマザーの人、子どもを持たない選択をした人.……。 人生に正解なんかないと思うから、いろんな人の話を聞いて聞いて聞きまくって、 いま抱えてる不安をちょっとでも肯定できたらいいな。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月25日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 犬山紙子、 34歳。2014年8月32歳の時に同世代の夫・つるちゃんと結婚した。それからずーーーっと悩んでいることがある。 いまは、非常に楽しい。私は小学生の頃から、「一生働きたいな。私が働いて、旦那さんが家事をやってくれるのがいいな」と夢見ていて、ラッキーなことにつるちゃんは、家事をするのを楽しいと、なんでもやってくれている。 うん。この生活には心の底から満足しているんです。でもずっと、「子どもを持つかどうか」ってことをめちゃくちゃ悩んでいる。周りから「子どもはどうするの」なんて言われることも増えてきて、焦りもある。 でも、自分の本当の気持ちが分からない。だって私、「うおーーー子どもが欲しい 」って思った瞬間が……、一度もないんです。 いままでの人生、「漫画読みたい」「彼氏が欲しい」「美味しいご飯が食べたい」「お金が欲しい」「ちやほやされたい」みたいな欲求があって、そのために行動してきた。 もともとニートだった私が、4年前、ブログをきっかけに『負け美女』という本を出すことになって、ありがたいことに執筆のお仕事も増えて、いまではテレビのコメンテーターもやらせてもらっている。なんとかいままで、自分のことは、辛くて逃げ出したいこともあるけど、とにかく必死に向かい合ってきました。 けど、子どもに関してはそういう感じじゃない。 「あれ? 年も年だし産むのならもう産んだほうがいいんじゃないの?」 「いま、仕事もプライベートもめっちゃ楽しいから変わりたくない、いまのままでいたい」 「でも、健康で仕事が充実してるいまが楽しいのは当たり前で、人生ずっとこのままという保障はない」 「フリーだから、産休で仕事を休むとダイレクトに収入がなくなりそう、不安」 「友達からは保育園に入れるのもすごく大変って言われる……」 「でも、将来子ども産んどきゃ良かったって後悔するのも怖い」 「でもでも、子ども産んだら自分の時間、なくなるんでしょ?」 「でもでもでも、自分が将来、病気になっても、子どもがいてくれたらどれだけ心強いだろう」 「でもでもでもでも、子どもが面倒見てくれるって考え方って、どうなの?」 楽しいことよりも、ネガティブな考えがフワフワと現れてはどこかへ行っての繰り返し。目を閉じて老後を想像しても、孫に囲まれてニコニコしている自分は想像つかない。 むしろじーさんばーさんで集まって、茶を飲みながら、めっちゃモンハンやってる場面ばっかり思い浮かぶ(これは老後の夢の一つ)。 将来のことを考えるのは、実は、ものすごく不安です。だから、分かりもしない未来を想像して、自分勝手な意見で逃げてるだけなのかもしれない。 適当な御託並べて、逃げて、逃げて、逃げて、酒吞んで、寝て、忘れて。そんなふうに毎日を過ごしていたある日、地元に帰った時に二人の子どもを持つ姉がこんなことをボソッと言った。 「もっと早く産めば良かったなあ。そしたらこの子と一緒に過ごせる時間がもっと長 かったのになあ。自分が死ぬまでしかおられへんねんで。短すぎる」 もしかしたらこの姉のセリフは、ドラマや小説なんかで言われていたりして、皆さんは聞いたことがある言葉かもしれない。でも、私にはすごく響いたのです。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月24日「子ども欲しいけど、実際どうなの?」人気コラムニスト 犬山紙子 が育児体験者の話を聞いて考える「出産・育児」のリアル。 保活、育児分担、二人目問題…母親の本音炸裂! 『私、子ども欲しいかもしれない。』より(全19話 連載) 私は33歳の時に「子ども欲しいかもしれない、でもやっぱり子どもいな くてもいいかもしれない、どうしよう」と思い悩みはじめ、 歳で妊娠して「妊娠しながら仕事大変、どうしよう」とまた思い悩み、 35歳で子どもを産み「子ども産んだけど、どうしよう」とまだまだ思い悩みながら、たくさんの方にお話を聞きまくったり、アンケートをとったりしました。 いろんな人の人生の話を聞いてそのことについて考えるのって、結局自分の人生に ついて考えることにつながって、自分の気づいてなかった感情や気持ちがどんどん整理されてゆくんですね。 最初は参考になるといいな、偏りたくないなと思いながら聞いていたけど、自分のこれまでの人生や、いまの自分の気持ちと深く深く向き合うことになりました。 だからといって、「子どもは産んだほうがいいよ!」とか、そういう答えがあるわけではありません。 まあ、当たり前ですよね、子どもを持つか持たないかなんて人それぞれです。良い悪いなんてないものです。 私自身、「ああ、この人の話を聞いたから子どもを産むぞ!」とはなっていないです。 子どもができるまでは「やっぱり子ども欲しくないかもしれない、だってお金も不安定だし、自分の時間が本当に大切だもの」って思ったり、「いや、でも子どもがかわいいってどれくらいかわいいのか知りたい」って思ったり、いったりきたりしていました。 でも、たくさんの人のお話が「どうしよう」って立ち止まって悩んでいる気持ち を優しくほぐし、人生を一歩踏み出すのに必要な勇気をくれたのです。そして私は、「私は子どもを産むべきか、産まないべきか?」では なく、もっともっと大切なことが分かったのです。 それは当たり前のようなことでいて、確信に変わった時に人生がパッと明るくなる ようなこと。なのでいまとってもホクホクしています。良ければ皆さんもぜひ最後までご覧ください。その大切なことは、どんな立場の人にも優しく平等に寄り添って、勇気をくれるものですから。 つづく 私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』 犬山紙子著(平凡社)
2019年05月23日