連載記事:食で心を育む
ふるさとの味から思う、自然の恵みを味わうことの大切さ(食で心を育む Vol.18)
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■あなたのふるさとの味は何ですか?
私のふるさと、福井県では、春のこれからの時期、「ほうば飯(めし)」が食べられます。
熱々のごはんに、甘く味付けたきな粉をまぶし、朴葉(ほうば。ホオノキの葉っぱ)で包んで、重しをしたもの。きなこおはぎに近い味わいですが、もち米ではなく、あくまで普通のごはんを使います。 隣の岐阜県などでは、押し寿司のように、しめ鯖や錦糸卵などを彩りよくのせて朴葉で包んだ「朴葉寿司」が食べられるそうですが、福井のそれはいたってシンプルに、ごはんときな粉だけ。ですが、きな粉の香ばしさに朴葉の香りもほんのり移って、なんとも素朴でやさしい味わいなのです。
古くは、田植えが終わった後のお祝いに食べたものだそう。甘いきな粉はごちそうでもあり、また、黄金色に実る稲穂を思わせることから、豊作への願いも込められていたと言われます。
朴葉には殺菌作用もあるとされ、昔の人の知恵がつまった郷土料理のひとつです。
私も子どもの頃、「ほうば飯」を食べるのがとっても楽しみでした。2枚の葉っぱを十文字に重ねて、真ん中にきな粉とごはんを置いて包む…。作るのをお手伝いするのも楽しかったし、大きな葉っぱを広げて甘いきな粉ごはんをほおばるのも、なんともワクワクする瞬間でした。
我が家では毎年、お隣のおじいちゃんが山に入って採ってきてくれる朴葉で、ほうば飯を作っていました。が、今は山に入る人もなく…、もう何年も、ほうば飯を食べていません。
同じように、わらびやぜんまい、ふきのとうなど、様々な山菜が、春のこの時期は食卓に並んだものです。どれも、私の祖父や親戚やご近所のおじいちゃんなど、誰かが山に入って摘んできてくれたものでした。
■自然の恵みを食卓に取り入れることの大切さ
昔はそんなふうに、身近にある自然の恵みを食卓にとりいれることが、どの家でもごく普通のことだったのではないでしょうか。