保育所不足、待機児童問題、少子化問題の解決をめざすために2015年4月からスタートしている『子ども・子育て支援新制度』ですが、この制度によって具体的には何がどう変わったのでしょうか?
保育料や認定区分、認定こども園などの施設、制度の問題点などについて、改めて詳しく解説します。
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そもそも『子ども・子育て支援新制度』って何?
『子ども・子育て支援新制度』とは、「『量』と『質』の両面から子育てを社会全体で支え」るためにつくられた制度です(内閣府『子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK』より引用)。
2012年に成立した「子ども・子育て支援法」「認定こども園法の一部改正」「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」という子ども・子育て関連3法をベースとして、2015年4月から施行されました。
基本的に、実施する主体は市町村です。国は財政面でそれをサポートしています。そのため、自治体によって支援や事業の内容はことなります。
また、2016年度からは子育て支援をする企業へのサポート(企業内保育施設への補助金など)もプラスされました。
2014年度から8%に引き上げられた消費税の増収分が、この制度の財源にあてられています。
「社会全体で支える」というのはそういうわけです。
新制度のポイント1:1号~3号認定とは?
ここからは、より身近な視点から新制度のポイントを解説します。ママたちにとってどんな影響があり、何がどう変わったのでしょうか?
まずは新制度でスタートした「認定区分」について。お子さんが通える施設や保育料・保育時間にも関わるので、しっかり理解しておきましょう。
新制度では、幼稚園や保育所などを利用したい場合、お住まいの市町村から「利用認定」を受ける必要があります。
認定は、お子さんの年齢と保護者の状況によって以下のように「1号・2号・3号」に分けられています。
・1号(教育標準時間認定):保育を必要とする事由のない、3~5歳の子ども
・2号(保育認定):保育を必要とする事由のある、3~5歳の子ども
・3号(保育認定):保育を必要とする事由のある、0~2歳の子ども
このうち、「保育を必要とする事由」とは、保護者自身の就労・求職活動・就学・疾病、妊娠・出産(産前産後2ヶ月)、同居親族の介護などのことです。
新制度のポイント2:保育時間について
「保育認定」である2号と3号は、保護者の状況によって保育時間が2つに区分されます。
基本的には、両親ともにフルタイム勤務の場合「保育標準時間」認定となり、1日最長11時間まで追加料金なしで利用できます。
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両親もしくはどちらかがパートタイム勤務の場合は「保育短時間」認定となり、1日最長8時間までの利用となります。
ただし、たとえば11時間の範囲内であっても、利用する保育所が設定している「通常保育時間」(施設によりますが、7時30分~18時くらいが一般的)の範囲を超える場合は、別途「延長保育料」を支払う必要があるので注意してください。
詳しくはそれぞれの施設や市町村に確認しましょう。
新制度のポイント3:認定こども園と地域型保育
お子さんを預ける施設については、新制度の目玉として「認定こども園制度の改善」と「地域型保育の新設」の2つが挙げられます。
■認定こども園とは?
認定こども園とは、保育所と幼稚園を一体化した施設です。
2006年からスタートしていましたが、幼稚園と保育所で管轄省庁や財源がバラバラであるなど制度面で問題が多く、当初期待されたほど普及しませんでした。
そこで今回の新制度では、認可・指導を一本化するなど制度面を改善しました。
保護者にとっても、たとえば「保育認定」を受けたお子さんについては園ごとの個別申し込みではなく、認可保育所と同じように市町村を通じ一括で申し込めるなど、仕組みがわかりやすくなっています。
■地域型保育とは?
「地域型保育」とは、0~2歳のお子さんを対象とした、保育所よりも小規模(20人未満)の施設のことです。
こうした施設はこれまで認可外扱いでしたが、新制度では認可施設となりました。
具体的には、「保育ママ(家庭的保育)」「小規模保育」「事業所内保育」「居宅訪問型保育」の4タイプがあります。
新制度のポイント4:認定区分と利用できる施設の関係は?
新制度では、ポイント1の認定区分によって、利用できる施設が決まっています。
・1号認定:幼稚園または認定こども園(1日4時間程度)
・2号認定:保育所または認定こども園(夕方までの保育のほか、園によっては延長保育も)
・3号認定:保育所または認定こども園または地域型保育(夕方までの保育のほか、園によっては延長保育も)
ただし、共働き世帯でも幼稚園に通わせたい場合は1号認定を受けることができます。
また、新制度に移行しない私立幼稚園やプレスクールなどは認定を受ける必要がありません。
新制度のポイント5:保育料はどう変わった?
新制度導入後耳にしたのが「保育料が上がった」という不満の声です。実際のところ、保育料は上がったのでしょうか?
結論からいうと、ほとんどの場合、大きな値上がりにはなっていません。それではなぜ「上がった感」があったのかというと、これには保育料の計算方法が変わったことが関係しています。
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新制度では、世帯の所得額に応じて国が定めた上限金額の範囲内で、市町村が保育料を定めています。
2014年度までは世帯の「前年の所得税額」を基準に算定していましたが、2015年度からは「住民税の所得割課税額」が基準になりました。
住民税は前年の所得をベースとしてその年の6月に確定するので、新制度が導入された2015年度は9月に保育料の切り替えがありました。
4月~8月までは2013年の所得を基準とし、9月以降は2014年度の所得を基準にした保育料となったわけです。
そのため、新制度開始から8月までの間は「保育料が高い!」と感じた方が多かったのかもしれません。
新制度では低所得(年収360万円未満相当)の世帯やひとり親世帯、多子世帯への負担軽減もあります。
たとえば2号・3号認定なら、第1子が未就学児の場合は所得額に関係なく第2子の保育料が半額、第3子以降は無料になります。
低所得のひとり親世帯は、第1子の保育料が半額、第2子以降は無料です。
また、幼稚園については、これまでは園ごとに一律の保育料を支払ったあとで「就園奨励費」という所得に応じた給付がおこなわれる仕組みでした。
これが新制度に移行した園では、保育料そのものが市町村ごとに定める所得に応じた負担額に変更されています。
子ども・子育て支援新制度の問題点とは?
施行から2年が経った『子ども・子育て支援新制度』ですが、いくつか問題点もあります。
最大の問題点は、新制度下でも待機児童問題がいまだに深刻なことでしょう。2016年には『新語・流行語大賞』の候補に「保育園落ちた日本死ね」がノミネートされ話題になりました。
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待機児童問題の原因としては、慢性的な保育所不足にくわえて、新制度での解決策として期待されていた認定こども園や地域型保育が、当初の想定ほど増えていないことなどが挙げられます。
さらに前提として、保育士不足という問題があります。施設を増やしたところで、保育士が足りないのです。
新制度でも「職員の賃金改善」として3~4%の上乗せが実施されましたが、まだまだ十分とはいえません。
2017年4月からは政府がさらに2%の賃金上乗せを実施するなど、ようやく「保育士の待遇改善」に本腰が入れられるようになってきたのが現状です。
東京都では、2017年4月からさらに月額21,000円の賃金の上乗せを実施するなど、対策を進めています。
まずは子育て世代が新制度をしっかり理解して
『子ども・子育て支援新制度』にはこのように課題があるものの、行政が子育て支援政策に力を入れつつあることは事実です。
新制度は市町村が主導するため、地域差が出やすいという問題点がありますが、市町村は私たちの声を反映しやすい身近な存在でもあります。
まずは私たち子育て世代がこうした制度や取り組みをしっかり理解して、意思表示をしていくことが大切でしょう。
【参照サイト】
制度の概要|内閣府
子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版)|内閣府
認定こども園に関するQ&A|内閣府