「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちの協力で設立された大阪市立大空小学校の初代校長。文部科学省特別選定にもなった大空小学校のドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けている。2015年に退職、現在は映画「みんなの学校」の上映会と共に、全国各地で講演活動を行う。
■前回の木村先生のお話 これまでは学校も親も「正解通りにできること」を、教育の目標に掲げてきました。「これから育てるべきは、自分の頭で考えることができる子」と話す木村先生。でもそういう子どもを育てるためにはどうしたらいいの? 「自分の頭で考えることができる子」を育てるべきと木村先生は言います。けれども、一方で、中学受験など低年齢化した「受験熱」は、親たちの間でヒートアップしている感もあり、目先の詰め込み教育に追われる日々を過ごすママも、現実には多いのかも!? 「学歴だけでは生きていけない」と頭ではわかっていても、受験の波に巻き込まれたら最後、自分を見失ってしまう…。「私の子育て、どこに向かって何を頑張ればいいんですか?」再び読者Aさんと木村さんの会話に戻りましょう。 ■子どもに正解を言うと対話が終わってしまう 木村先生 :今までの受験社会で評価されてきたこと「インプットをした『正解』を、どれだけ正確にアウトプットできるか」は、これからの社会を生きていく上では、優先順位の上位ではないと思うのです。 Aさん :では、どうしたらいいのでしょうか? 木村先生 : 「ママが「勉強させなければ!」と思うのは当然…でも勉強すれば幸せになれる?」 でお話ししたとおり、子どもを思いどおりに動かす子育てをしている保護者の方もいるでしょう。でも言うことを聞かせようとするから子どもは、そっぽを向くんです。それをやめれば、子どもは「ねえねえ」と勝手に寄ってきます。 どういうことかというと、子どもが何を言っても、一言も口をはさまず、とにかく子どもの言うことを 「聞く」「受け止める」 ことから始めるんです。大人だって、自分の言うことを聞いてくれそうだと思ったら、話をしたくなりますよね? たとえば「今日、学校でAちゃんが暴れて大変だった。何とかして!」と言ってきたら、まず「ああ、そうなんだ」と受け止める。いったん受け止めることをせず「そんなことを言っちゃダメでしょ!」などと、いきなり正解を言ってしまったら、それで対話は終わってしまいます。 ■ゲーム嫌いなママとゲームの話しかしない子どもの場合 Aさん :対話が大切なんですね。 木村先生 :はい。 「『正解通りにできる子ども』は生き抜けない…今の学校がつらい子どもにできること」 でお話しした新学習指導要領(※)のキーワードは、「主体的・対話的で深い学び」です。学校の先生であれば、このキーワードはみなさんご存知だと思います。国が、どの方向に向かって、教育を組み立てようとしているのか? それは、ママたちも知っておくと良いかもしれません。 Aさん :主体的・対話的で深い学び…難しいですね。親は、何をすれば良いのでしょう? 木村先生 :難しく考える必要はないです。たとえば、ある子どもはゲームの話だけはよくお母さんにしていたそうです。でも、ゲームが嫌いなママはゲームの話なんか聞きたくない…。口を開けば「いつまでやっているの!」「宿題は?」という小言や指示命令ばかりだったそうです。 「そうなんだ」と受け止めるという私の話を聞いたそのママは、意をけっして子どものゲームの話を(我慢して)最後まで聞いたところ、息子さんが「ねぇねぇ」と言って面白い動画をお母さんに見せに来てくれたそうです。 子どもの話を受け止めただけで、親子の関係性が変わり、対話が生まれたんです。親が受け止めると「おお、自分の話を聞いてくれた!」と、子どもは思いますからね。 ■指示命令をしてきた親子関係は急には変わらない 木村先生 :これで第1段階クリアです。ようやくスタート地点に立ちました。 Aさん :スタート地点!? 木村先生 :指示命令を続けてきた「これまでの長い親子関係」があるので、すぐに劇的な変化が訪れることは、まずありません。時間がかかるのです。でも、スタート地点に立てれば、だんだん、子どもの言うことを受け止めることができるようになっていきます。それが日常的に自然にできるようになったら、次の段階に行きましょう。 Aさん :なかなかに険しいですね…。 木村先生 :そりゃ、そうです。次の段階は、たとえばニュースを見ながら「お母さん、これがわからないんだけど、あなたはどう思う?」と質問してみます。ただし「すぐに子どもが素直に答えてくれる!」みたいな変な期待は、最初から持たないことです。 「あなたは、どう思う?」と聞いても「別に…」「知らない」「わからない」しか子どもが言わないようなら、 しつこく追いかけないのもコツ のひとつです。子どもが逃げているのですから、察知して、追いかけるのはNGです。「残念、バイバーイ!」と、あっさり引き下がりましょう。しつこくすると、せっかく築いた関係が元に戻ってしまいます。 ■子どもとの関係がマイナスのスパイラルに陥ったら Aさん :子どもは、野生動物みたいですね…。 木村先生 :大空小学校でもありました。せっかく教師が自分を変えて、子どものほうから来てくれるような関係性ができてきたのに、あるとき子どもから「うるさい、そんなん知るか!」と言われた途端、「ちょっと待て!」などと言って教師が怒ってしまった。そこまでにほんの少しできてきた関係性の絆が切れてしまうと、マイナスのスパイラルに陥ってしまうこともあります。 Aさん :そんな時は、どうしたら良いのでしょう? 木村先生 :笑いで終わらせる。しつこく追いかけない。私は学校でも、「それは残念!」などと言って軽くおどけながら子どもから離れるようにしていました。そうすると不思議なもので、「何で人がしゃべっている最中に、出ていくねん」とぶつぶつ言いながら子どもが帰ってきたりします。 軽い笑いに変えると、「あなたは悪くないよ。そういうこともあるよね」という空気になるんです。その場が軽くなるような言葉をいくつか持っておくといいですね。関西人は、ちょっと有利かな(笑)。 Aさん :本当にそうですね。 木村先生 : 今、この記事を読んでいるママたちは「現状を何か変えたい!」と思っている時なのかもしれませんね。すごいチャンスの瞬間です。現状を変えたいと思った時が、大人一人ひとりが自分で考え始めるチャンスなんです。「自分は、こう育ったから」「夫が、言うから」「ママ友が、こうだから」ではないんです。 「自分がこの子だったら、どうしてほしい?」「自分が、今、やっていることは、この子にとってどうなんだろう?」 こんなふうに大人一人ひとりが常に自分に問い続けて、自分の頭で考え始めてみることが大切なんです。 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 7.子どもに言うことを聞かせようとしない。話を受け止めることから始める 8.新学習指導要領のキーワードは、「主体的・対話的で深い学びの実現」である 9.大人一人ひとりが、自分の頭で考え始めることが大切 いかがでしたか? 子どもが自分が思ったようにならない時、つい「自分の言うことを聞かない子どもが悪い」と思ってしまいがちです。けれども木村先生のお話しを聞くと、「あれ? じつは私自身に問題があった!?」と、ハタと我に返ります。 自分の頭で考えられる子を育てるためには、まずは大人が自分の頭で考え始めることが大切…。いやぁ、本当にそうですよね! 木村先生の取材をすると、毎回、私自身(いつもよりは)深く考えます。そして木村先生と一緒に、学びを深めていきたいと思うのです。 ※文部科学省: 学習指導要領「生きる力」 学校で学んだことが、明日、そして将来につながるように、子どもの学びが進化します。新しい学習指導要領、スタート。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは? 【木村泰子(きむら やすこ)先生】 映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集める。
2022年02月03日■前回の木村先生のお話 これからの時代を生き抜くためには母親も子どもも、失敗しても立ち直れる「レジリエンス」が必要。しかし親が過保護になって必要以上に子どもに関わり続けてしまうとこの力は伸びません。そうならないためには…? つい、子どもに口うるさく行ってしまうのは、ママが不安だから。ヘリコプターペアレント(ヘリコプターのように子どものまわりを旋回し、管理・干渉し続ける保護者を意味)のような子育てをしないためには、「周囲の同調圧力に負けずに、子どもを信用するが大切」と木村先生に教えていただきました。再び読者Aさんと木村先生の会話に戻りましょう。 ■勉強しない子どもを信じることができる? 木村先生 :「勉強をしない」、「素行が良くない友だちと付き合ってる」…。こういったことを長い人生の中で経験することは、悪いことではないと私は思っています。子どもが成長する最中には、山あり谷ありであることの方が自然です。「わが子は今、回り道をしているけれども、最終的には自分らしく幸せな大人になっていく」と、信じていればいいんです。 Aさん :その状況で、子どもを信じるって、とても、とても、難しいと思います…。 木村先生 :どうして? だって、自分の子どもでしょう? ゲームばかりしていても、親に迷惑をかけていても、自分の子どもでしょう? その子は、世界にたった一人しかいない、わが子でしょう? 「自分には、最終的に帰るところがある」 と、子どもが思えていること。これが、とても大切だと私は思うのです。そのためには、「どんなことがあってもお母さんは、あなたの味方だよ」と、ママ自身が子どもを信用するしか方法はないと思うんです。 ■勉強しない子ども自身が困っている可能性もある Aさん :子どもに、「お母さんは、あなたの味方だ」ということが伝わっているのかな? というのがわからなくて…。どう伝えればいいのでしょう? 木村先生 :たとえば、子どもが「勉強したくない」と言ったとしましょうか。そんな時、親は心配だから「なんで?」と聞きます。聞かれた子どもは、自分の中に原因があると考えて、不安になったり、塞ぎこんだりしてしまうのです。 そんな時は、発想を転換する! HOWを使うんです。「どうしたら、あなたが楽しく勉強ができるようになると思う?」「どうしたら、あなたが勉強したいと思うようになるかなぁ?」と、子どもに聞いてみるのです。 Aさん :なるほど。声かけをそんなふうに変えていくことから始めればいいんですね。 木村先生 :子どもに対して「指示命令」をするのではなく、 「問いかけ」 をしてみる。そして、その問の答えを子どもから言ってもらえる。親は、そんな大人になればいいのです。 「子どもが、勉強をしない」と親が困っているとしたら、子ども自身も、本当に困っていることが多いのです。 「(本当は勉強したいと思うのに)、その方法がわからない、向き合い方がわからない」 といった感じでね。 子どもが困っている原因は、じつは本人の中ではなくて、案外、周りの環境の中にあるんです。私が校長を務めていた大空小学校(映画『みんなの学校』の舞台となった学校)には、学校に通えなくなった子どもがたくさん転校してきました。でも、大空には通えるんです。「違いは、何?」と聞くと、「空気が違う」と、子どもたちはみんな言っていました。 Aさん :空気…。子どもたちは、きっと、今の世の中や、学校の空気がつらいんですよね。 木村先生 :今の学校の空気に入ろうとしたら、自分をガチガチのスーツケースの中に閉じ込めなければならない。でも、それを風呂敷に変えたら? 風呂敷は、どんな形にも自由自在になるでしょう? だから「子どもを育てる」のではなく、「子どもが育つ」。その周りにいる自分たち自身を少しずつアップデートしていこう! 大空は、そんな大人の集まりでした。 Aさん :子どもを主語にして、自分が変わっていく…、そんな感じでしょうか。 ■10年後の社会で「生きて働く力」とは 木村先生 :そうですね。だからこそ、「勉強をしないさい」と子どもに言うときには、「勉強って、何だろう? 学びって、そもそも何だろう?」といったことを、ママたちには自分の頭で考えてみて欲しいのです。下記は、私が文部科学省から聞いた文言です。 「みんなと同じことができる」 このことが評価される時代は終わった。 他人と違うことに価値のある時代になってきた。 木村先生 :文部科学省は10年に一度行う「学習指導要領」の改訂をし、小学校では2020年度から既に新しい学習指導要領(※)での指導が始まっています。 ところで、今の学習指導要領の下で育った子どもたちが大人になる、10年後、20年後は、どんな世の中になっていると思いますか? Aさん :10年後、20年後…。そうですね、学歴があることよりも、「自分が何をやりたいか?」を追求していける子が生き抜いている気がします。 木村先生 :本当にそうですね。今の学歴社会、受験社会が、どこまで通用するのかな? と、私は、思います。 Aさん :でも中学受験など受験が低年齢化して、ママたちがヒートアップしている現象もある気がします。この歪みが、どこで調整されるのか? いつ世の中が変化していくのかが不安です。 ■「正解通りにできること」が目標? 木村先生 :Aさんが世の中の変化を感じていないのであれば、残念ながら娘さんが通っている学校は、変化をしていない可能性もありますね…。 私の肌感覚としては、「全国の学校」という日本の全体像で見れば、随分と動き始めている印象です。一方で、旧態依然のまま、まったく変化をしていない学校があるのも事実です。たとえば、オリンピックがありましたが、現状はそのキーワードだった「多様性」や「共生」が、行動に繋がっていない人が多いのと似ているイメージでしょうか…。 木村先生 :ところで、多様性ってどんなことだと思いますか? 私は、多様性とは「違う文化をリスペクトすること」だと思っています。子どもがふたりいたら、ふたりともが、それぞれ別の人間ですから違います。お互いがお互いをリスペクトできる。言い換えれば、それぞれの人が、それぞれの人をリスペクトできれば、すべての人が 「自分の人生」を生きることができる のです。 具体的に考えてみましょうか? たとえば小学校1年生になったら「廊下は、右側を歩きましょう」と、習います。右側を歩くのが「正解」で、これまでは「先生に言われなくても、自主的に右側を歩けること」が評価されてきました。学校も親も「正解通りにできること」を、教育の目標に掲げてきたのです。 けれども、「正解通りにできる子ども(右側を歩ける子ども)」を育てたところで、多様性が尊重される社会で生きていけますか? これからの世の中には、左右がわからない人が歩いているかもしれないし、「左側を歩くことが正解」という文化の外国人の方だって増えていくでしょう。 Aさん :本当に、そうですね…。 木村先生 :これから育てるべきは、「きちんと右側を歩ける子ども」ではなく、「道で人にぶつからないためには、どうすればいいか?を、自分の頭で考えられる子ども」なんです。 そのためには、「曲がり角では、立ち止まるようにしよう」など、日々生活の中で、都度、自分で考えていかなければなりません。 Aさん :そういう子を育てるためには、どうしたらいいんでしょうか? 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 4.「自分には、最終的に帰るところがある」と、子どもが思えていることが大事 5. 指示命令ではなく、「あなたはどう思う?」と、子どもに聞いてみる 6. これから育てるべきは、自分の頭で考えることができる子である 「自分の頭で考えることができる子」を育てるためには、私はどうすればいいですか? 次回も、木村先生と一緒に考えます。 ※文部科学省: 学習指導要領「生きる力」 学校で学んだことが、明日、そして将来につながるように、子どもの学びが進化します。新しい学習指導要領、スタート。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは? 【木村泰子(きむら やすこ)先生】 映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集める。
2022年02月02日子どもを産んだら、ママになる。けれども、自分がイメージするようなママになれず、落ち込んでしまうことは、ありませんか? 今回は、「子どもに、『あれしなさい』『これしなさい』とばかり言っている気がして、落ち込む」という読者のAさんと木村泰子先生の会話からスタートします。 【木村泰子(きむら やすこ)先生はこんな人】 木村先生は、映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校の初代校長です。大空小学校は、「奇跡の公立小学校」「こんな小学校にわが子を通わせたかった」と言われる大阪の公立小学校。「木村先生が子どもたちから学んだこと」をベースにした子育て論が、ママたちの支持を集めています。 ■「あれしなさい」「これしなさい」ばかり言ってしまう Aさん :私の悩みは、つい、 子どもに「あれしなさい」「これしなさい」とばかり言ってしまう ことなんです。本当は、何でも大らかに受け入れて、「大丈夫よ!」と、子どもの気持ちに寄り添いたいのに……。 木村先生 :表面上、「大丈夫」と言って子どもを落ち着かせようとするのは、「大丈夫」という言葉を、単なる道具として使おうとしているのかもしれませんね。 子どもは、それをすぐ見抜きます。子どもが暴れたりイライラをぶつけたりするのは、 親を困らせようとしているのではなく、ただ、本人が困っているだけ 、不安を抱え、困っている子どもに対して、大人は寄り添おうという気持ちが大切です。 今、こんなふうに偉そうに言っている私ですが、私の娘が孫にあれこれ言っているのを見て、「そうやって力で押さえつけても、子どもは納得しないよ」と伝えたら、娘から言われた言葉があるんです。 Aさん :娘さんは、何と? 木村先生 :「お母さんにだけは、そんなこと、言われたくない!!」と、猛反発されました。私も、母親時代は、娘と同じことをやっていましたからね。 Aさん :木村先生も、自分の娘さんに、あれこれ言ってしまう母親だったのですか? 木村先生 :そりゃそうです、当たり前です。 Aさん :木村先生でもそうだったと伺って、何だかホッとしました。学校の宿題など、「どうしてもやって欲しいこと」があると、子どもに寄り添えなくて、落ち込みます。 木村先生 : 親は、「子どもが自分の望んでいるような姿になって欲しい!」と願う生き物 です。私も、「いろいろなことができるお子さん」を見ると、「うちの娘も、ああなって欲しい!」と、いつも思っていましたよ。 Aさん :「こういう子になってほしい」という自分の気持ちを子どもに押し付けてしまう気がして…。 木村先生 :母親だったら、全員そうでしょう。親の思うように行動していない子どもに、「あなたは、大丈夫!」なんて、とても言えませんよね。仮に母親が表面上そう言っていたとしても、子どもは見抜きます。 ■勉強をしたら、幸せになれますか? Aさん :では、どうしたらいいんでしょう? 勉強をする時間になっても、子どもがダラダラと漫画を読んでいる時、どんなふうに声かけをしたら良いですか? 木村先生 :その前段階として、勉強をする目的を、ママはどう考えていらっしゃいますか? Aさん :子どもが勉強することで自立する手助けになればと。私が高齢出産なので、少しでも子どもの選択肢が広げられたらと思って…。 木村先生 :わかります。私は、一人っ子なんです。そして、小学校の参観日に母が来るのがすごく嫌でした。友だちから、「お前は、おばあちゃんが来ているのか?」と聞かれるほど、友だちの母親と比べて年配感が漂う母だったんです。でも「世界中で一番尊敬している人は誰?」と、聞かれたら、私は「母」と答えると思います。 そんな母ですが、一緒に暮らしている間、ずーっと私に、「勉強しなさい」と言っていました。その時代の自分を省みて思うのは、「勉強しなさい」と言われたところで、勉強なんてしません。勉強をしている「ふり」だけして、まったく勉強しないで大人になりました。小学校の成績は、真ん中より下だったと思います。 Aさん :そうだったんですね…。 木村先生 :でも、「勉強しなかったら、大人になった時に幸せになれないのか?」と問われたら、そんなことはないと思うんです。ママたちは、今、子育ての真っ最中で、「子どもが勉強をしていれば安心。勉強をしていないと、不安」なのは、とてもよくわかります。 私は子育てが終わっているので、「このように育てたら、こんな結果になる」ということがわかっている人間です。その人間から言わせてもらえば、「勉強して、いい学校に行けば、子どもは幸せになる」というのは幻想です。 繰り返すようですが、「わが子が勉強をしていない」という姿を目前にすれば、 母親なら誰だって、「勉強させなければ!」と思うのは当然 のことなんです。けれども、そんなママたちだって、一個人に立ち戻った時に、 「勉強すれば、幸せになれるの?」 と問われたら、もはや「そんなことは、ない」と、気がついてはいるでしょう? ■これからの母親に必要な力とは? 木村先生 :時代が大きく変わっている今、「母親として、ここだけは外さないで欲しい」と私が思う力は、 復元力 です。 イメージとしては、大波に揺られても転覆しない船です。子どもは、大海でいろいろな波に揉まれながら、進んでいくわけです。いろんな波があっても、船が沈まないのは復元力があるからです。復元力は、最近よく使われる言葉として、 「レジリエンス」 とも言い換えられます。 私は娘ふたりの母親ですが、上の子と、下の子は、同じ親から生まれ、同じ家で育ったのにまったく違う性格です。上の子は、ありとあらゆることに反抗する子どもでした。とにかく先生の言うことを、聞かない。先生が、「右に、向きなさい」と言えば、「何で、右に向かなきゃいけないの?」と聞いて、「いいから、右、向きなさい!」などと先生が言おうものなら、「じゃあ、私は左向くわ!」と言って、どこかに行ってしまうような娘でした。下の子は、そんな姉を見ながら、生徒会に入って、「学校改革をしよう!」と言うような子でした。姉が中学3年間でぶっ壊してきた中学を、妹は生徒会の会長になって復活させた。笑い話です。 Aさん :すごいですね…。 木村先生 :「勉強をしない」、「素行が良くない友だちと付き合ってる」…。こういったことを長い人生の中で経験することは、私はけっして悪いことではないと思っています。 人が成長する最中には、山あり谷ありであることの方が自然で、子どもが大きな失敗をして親の元に帰ってくることもあるでしょう。そんな時、 「お母さん、一緒に考えるよ」 と、親が言える。こんなレジリエンス(復元力)を親が持っていたのなら、子どもはいろんな曲がり角にぶつかりながらも、最終的には自分らしく幸せな大人になっていくと思うんです。 Aさん :そんなレジリエンスを持てている親、いるのでしょうか? 木村先生 :それを持てるよう、親も子どもと一緒に学ぶのです。学びについては、別の機会に、ゆっくり考えていきましょう。今回、お伝えしたいのは、子どものレジリエンスが育ちづらくなる、親の関わりについてです。 それは「ヘリコプターペアレント」と言われたりする、 過保護になってしまいがちな親の行動 です。子どもの様子を逐一把握していないと心配で、必要以上に関わり続けてしまう…。 「自分の視界」「自分の想定」の範囲に子どもがいないと不安で、結果的に子どもを縛り付けてしまう…。縛りつけておかないと、子どもがどこかに行ってしまうような気がして不安なんでしょうね。そうならないため大切なことは、 大人も周りの同調圧力 に負けない覚悟が必要です。 Aさん :覚悟…ですか? 親が覚悟を持つためには、どうしたら良いのでしょう? 木村先生 :子どもを信用するしかないですよね。 【木村先生がママたちに伝えたい9のこと】 1.これからのママに必要なのは、レジリエンス(復元力)である 2.復元力とは、子どもが失敗をした時に「一緒に考えるよ」と子どもの味方なる力 3.ヘリコプターペアレントをしている限り、いつまでも不安のままである 次回は、「子どもを信用すること」について、木村先生にお話しを伺います。 ■お話を伺った木村先生の書籍 『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』 木村泰子(著)/青春出版社(1,540円(税込)) 「見えない学力」が身につけば、結果として「見える学力」(成績)は上がる! 2万人が感動したドキュメンタリー映画『みんなの学校』(「不登校ゼロ」の公立小学校)で話題となった大阪市立大空小学校初代校長が明かす、子どもが自分で考え行動しはじめる「見えない学力」の育て方とは?
2022年02月01日子どもがちっとも言うことを聞かないと嘆く前に、子どもとの信頼関係が築けていることが大切と語るのは、カリスマ的な人気がある映画「みんなの学校」の舞台となった大空小学校の初代校長である木村泰子先生と、子育てスキルの解説に定評がある高山恵子先生。 そう言われても、そもそも「子どもに信頼してもらう大人」になるのが難しい! どうしたらいいですか? 引き続き、木村泰子先生と高山恵子先生の対談から筆者が探ります。 「子どもが言うことを聞かないのは、ママとの信頼関係に問題があった!」 の続きです。 ■大人が画一的な価値観を押しつけない ―子どもが信頼できる大人になるためには、何から始めれば良いでしょうか? 木村泰子先生 (以下、木村):自分が子どもに信頼してもらえているのか? それは、いわば、 子どもにとって自分が安全基地になれているのか? という問いです。言い換えれば、この問いは、「子どもにとって、自分が安全基地になるためには、どうしたらいいのか?」ということです。 これについて、私は何段階かに分けて考えました。いろいろと考えた結果、最終的に、子どもにとって自分が安全基地になるためには、大人が持っている『限られた画一摘な価値観』を、子どもに一方的に押しつけないということなんだと思い至りました。 高山恵子先生 (以下、高山):自分が受けてきた 過去の教育 や、 自分の親の育て方 が正しいと信じている方は多いですよね。 木村 :そう、そこが問題の「核心」とも言える点なんです。 いま、自分がやっている子育てが、自分がもっている「画一的な価値観」を押し付ける行為になっていないか? そこに対して、 ママは主体的に自分の頭で考えてみて 欲しいのです 高山 :たしかに。そこを考え始めてみることが、今、一番大切なことですね。 ■子どもにどんな人になって欲しいですか? ―主体的に自分の頭で考えてみる…。なかなか、ハードルが高いですね 木村 :この話をしていたら、ある県の教員研修会に呼ばれた時のことを思い出しました。 そのときは、大きな体育館に先生方が集まって、映画「みんなの学校」の上映後、「何かお話しをしてください」と言われていました。 高山 :どんなお話しをされたのでしょうか? 木村 :新任の先生が最前列に座っていらしたので、新任の先生方に向かって、「ご自身がどんな先生になりたいか、言えますか?」と聞いてみました。みなさん、意気揚々と「僕に当ててください!」「私が話したいです!」という顔をされていました。 そこで、私は言いました。「そんなん、どうでもいいんです。自分が、どんな先生になるかなんて、どうでもいいんですよ。では、 どんな子どもを育てたいですか? はい、どうぞ!」と、言ったんです。そうしたら、誰も手を挙げませんでした。 高山 :ああ、本当に先生と気が合います。私は講演会の最初によく、「みなさんは、子どもにどんな人になってほしいですか?」という質問から始めるんです。 ■家でも学校でも、教育の目的はたったひとつだけ ―「子どもにどんな人になってほしいか?」…ですか? 木村 :たとえば、教員になる人たちは、教員養成課程で「自分がどんな先生になりたいか?」ばかりを勉強させられています。「子ども理解ができて、授業がうまくてなんとかかんとか…」と。 そうしたら、自分がそういう教員になることが、すべての「目的」になってしまい、 子どもは目的を達成する「手段」になってしまう んです。「目的」と「手段」が逆になってしまっているんです。 高山 :家庭でも、同じことが起きています。 木村 :「どんな親でありたいか、どんな教員になりたいか」ではなく、 「自分は、どんな子どもを育てたいのか」 ということだけを考えていればいい。 もっと、言ってしまえば、「家庭や学校での教育の目的とは何か?」という話です。家庭や学校での教育の目的は、 その子がその子らしく育つ こと。それ以外にありません。 高山 :おっしゃるとおりだと思います。私は、アメリカの大学院で、教授法には「教師中心法」と「生徒中心法」があると学びました。「教師中心法」は、文字通り、教師中心の教授法で、従来の日本の一斉教育のイメージですね。 一方で、生徒中心法は、子どもありきの教授法です。この「生徒中心法」の考え方が、これからの教育で、非常に大切なのだと私も思います。 ■親が変われば子どもも変わる ―大空小学校には、保護者の方、ボランティアで来て下さる地域の方など、たくさんの大人がたくさんいました。学校に多様な大人がいて混乱はありませんでしたか? 木村 : 私たち教職員がすごく大事にしていたのは、「私らが子どもを一番見ていて、わかってへんかったら、給料返さなあかんで」ということです。 「この子にとっていい関わりか? いい関わりでないか?」。そこを判断するのは、教員の仕事です。授業中に、地域の方がその子にとってプラスにならないような関わりをするときは、やっぱりキッチリ言わないと。専門家である私たちが、「いま、ちょっと邪魔やねん」と言う。それが教員の仕事です。 高山 :「この子にとっていい関わりか? いい関わりでないか?」を判断すると思えば、親も自分の感情に流されることは減るかもしれませんね。でも、そこまでキッパリ言って、気を悪くされる方はいらっしゃいませんでしたか? 木村 :そういうこともあるでしょう。「邪魔やねん」と言われて、「そんなん言われたし、もう行かへん」と思われる方は、それ以後、自らいらっしゃることはないでしょうね。 一方で、「邪魔やねん」と言われたときに、「あ、そうか。いまの私の関わり、あかんかったな」と学んでくださる方は、それ以後、同じような関わりはされません。 高山 :なるほど。その方自身を否定するのではなく、その方の言動がNGなのですから、そこを変えればいいのですね。 木村 :自分の意思で学びつづけようとする。そういう人が増えて、そういう方が、どんどん学んでいってくだされば、家庭や学校、ひいては地域全体の「学びの場」としての空気が変わっていくわけです。ですから、大空の校門には、こんな看板をかけていました。 ●大空小学校の校門の看板 木村 :大人が 「主体的な深い学び」 を行えるようになってくれば、子どもたちも自然に「主体的な深い学び」を獲得していきます。親が変われば、必然的に子どもも変わっていくんです。 高山 :本当にそうですね。それにしても、木村先生は、行動の人ですよね。 木村 :「誰が、いつやるか?」というだけの話なんです。私の話を聞いて、「いいのはわかっているんですが、私の現実はそうではないんです」ではなく、「そうするためには、どうしたらいいですか?」なんです。 「自分自身を、まず変えようよ!」 と。自分自身を変えることからしか、何も始まらないのです。 ■今、自分自身を変えることから始めよう! いかがでしたか? 筆者は、「私の生きづらさは、どこからくるのだろう?」 そんなことをよく考えます。私が子どもだった頃、「その子がその子らしく育つこと」を最優先に考える大人に囲まれていたのなら、「私は、私であっていい」と、力みなくストンと思えたのかもしれません。 そう思うのであれば、いま、自分が、そんな大人になればいい。「その子がその子らしく育つこと」を保障できる大人に、自分がなればいい。そんなふうに、考えるようになりました。 下記の対談本は、筆者が取材・執筆を担当しました。取材を通じて、木村・高山両先生と多くの時間を過ごさせていただくなかで、実践してきた人しか持ちえない、「言葉の力」を体感しました。本書を通じて、それが少しでも読者さまに伝わるとうれしいです。 <親の意識を変えるポイント> 1)自分が持っている画一的な価値観を子どもに押しつけていないかセリフチェックを! 2)教育の目的は、その子がその子らしく育つこと。それ以外には、ない 3)大人が主体的な深い学びを獲得すれば、子どもも自然とそれに続く ■参考文献 『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』 (木村泰子・高山恵子 著/小学館刊 本体800円(税)) ●木村泰子(きむら・やすこ)先生 文部科学省特別選定にもなったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けています。木村泰子先生は、この映画の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長。2015年に退職後は、全国各地で公演活動を行っています。 》 「『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方」 ●高山恵子(たかやま・けいこ)先生 NPO法人えじそんくらぶ代表。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わっています。著書に『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』など、子育てのスキルをのわかりやすい解説に定評があります。「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が、活動の原動力。 》 「ママのためのアンガーマネジメント」
2019年11月18日毎日、子育てをしていて、何となく不安…。それは、もしかしたら「子どもを育てる土台」が整っていないからなのかもしれません。 では、子どもを育てる土台とは、何なのでしょうか? カリスマ的な人気がある元小学校校長の木村泰子先生と、子育てスキルの解説に定評がある高山恵子先生の対談から筆者が探ります。 ●木村泰子(きむら・やすこ)先生 文部科学省特別選定にもなったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けています。木村泰子先生は、この映画の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長。2015年に退職後は、全国各地で公演活動を行っています。 》 「『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方」 ●高山恵子(たかやま・けいこ)先生 NPO法人えじそんくらぶ代表。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わっています。著書に『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』など、子育てのスキルをのわかりやすい解説に定評があります。「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が、活動の原動力。 》 「ママのためのアンガーマネジメント」 ■「子どもが言うことを聞く」ために必要なこと ―子どもが全然言うことを聞きません! そんな時、どうしたらいいですか? 木村泰子先生 (以下、木村):子どもへの関わり方は、「手法」ではありません。子どもが「この目の前の大人は、自分のために言っているよな」と感じるときは、「うるせぇな」などと表面的にどれだけ悪態をついていようが、必ず自分の身体のなかに、その言葉をトンと沁み込ませています。 子どもは、目の前の大人が、 「本当に自分のために言ってくれている」 と感じたときは、必ず大人を信用します。これはすべての子どもがもっている「本能」なんです。 高山恵子先生 (以下、高山):子どもに言うことを聞いてもらうには、まず 信頼関係 が基本です。「教える」という土台には、人間同士の信頼関係が大切です。「自分のことをわかってくれている人だ」と子どもが感じられることが基本なんです。 ■子どもが信頼できる大人の条件とは? ―では、子どもと信頼関係を築くには、どうすれば良いのでしょうか? 木村 :子どもが本当に困ったとき、 「信頼できる大人の条件」 って、どんなことだと思われますか? これについて、大空小学校の校長をしているときに「そこなのね?」と、衝撃的に学んだ事実があるのです。 高山 :ぜひ、伺いたいですね。 木村 :(他人を信頼していなかった子どもが校長である木村先生だけ信頼した理由を)「だってな、校長先生は最後までずっと横にいとってくれる」と、言ったんです。それだけです。 「ただ、横にそっとおるだけや」 という話です。助けてくれるわけでも、ためになる話をするわけでもないけれど、最後の最後まで横にいる。 高山 :たしかに「寄り添う」ということ、とても大事ですね。大人は、頭では理解をしていると思うんです。ただ、じつは、「子どものかたわらに、ただいる」って、すごく難しいですよね。 子どものかたわらにただいるということが、「すごく難しいこと」になってしまっているのは、ママたちが 「この子を、自分が正しく導かなければならない!」 という使命感をもっていらっしゃるからなんだと思うんです。 ―毎日、「子どもにやらせるべきToDo」に追われています 高山 :子どもに対して、いろいろなことをやらなければいけないという思いが強くて、ママたちは、なかなか「まず寄り添う」という気持ちになれないと思います。 だからこそ、 「寄り添う」 ということを 「意識して、やっていこう」 という気持ちが、大切だと思います。そうするうちに、だんだんと子どもに自然と寄り添い、評価せずにただ話を聴くことができるようになって、信頼関係も生まれていくのだと思います。 ■子どもと信頼関係を結ぶために知っておきたいこと ―おっしゃることはわかります。でも、なかなか、そう切り替えられません。 高山 :子どもが大人の言うことを聞く、つまりは子どもがスムーズに学ぶためには、 子どもの心身が安定 していないと難しいんです。これに関して、私はよく「マズローの欲求階層図」のお話しをしています。難しい理論のように聞こえるかもしれませんが、これは大学の教育系学部では必ず学ぶ、教育のベーシックな知識なんですよ。 ●マズローの欲求階層図 高山 :アメリカの心理学者マズローは、人間には基本となる欲求が5つあり、それは階層になっていて、下から順に満たされると良いと考えました。(上記の図参照) ここでのポイントは、「欲求には優先順位があり、下から順に満たしていくことが大切」という点です。どういうことかというと、人はまず図の①から④までの欲求が満たされてから、⑤の「自分の能力を発揮して何かを成し遂げたいという気持ち(自己実現欲求)」が起こる、という考え方なんです。 つまり、ママが子どもと信頼関係を結ぶことができれば、「②(安全欲求)」「③(所属・愛情欲求)」、「④(自己承認欲求)」が満たされます。そうして初めて、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」状態になるんです。この理論が頭に入っていると、急がば回れ、子どもが言うことを聞くためには、 「親子関係の土台づくりから」 という気持ちになりませんか? いかがでしたか? ママは、溢れかえる育児情報の中で、ついつい「アレもコレも」と思ってしまいがち。けれども教育学の知識が少しあるだけで、情報を「間引き」するヒントになりそうです。 <親の意識を変えるポイント> 1)子どもは、信頼関係が築けている大人の言うことは聞く 2)子どもと信頼関係を築くには、「寄り添う」ことが大事 3)マズローの欲求階層図で、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」までの過程を理解する ■参考文献 『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』 (木村泰子・高山恵子 著/小学館刊 本体800円(税))
2019年11月17日みなさんの中で、子どもに間違ったことをしたときに、自分から 子どもに謝る ことができる人はいるでしょうか? 「誰でも絶対間違うことがある」と話すのは、子どもたちとのたったひとつの約束 「自分がされていやなことは、人にしない、言わない」 を実践し、教師はもちろん保護者とも一緒に「学ぶ」ことを実践した小学校の校長を務めた 木村泰子先生 です。 木村先生が校長を務めた大空小学校の姿がドキュメンタリー映画 『みんなの学校』 となって公開され、2年がたちました。そしていまなお自主上映会が開催され続けています。この映画の中で木村先生は、「やり直し第1号はわたし」と話しています。木村先生は、 自分が間違った と感じたとき、どうしたのでしょうか? そして、問題が起こる 学校現場 で、親はどうしていけばいいのか。親が学校の先生に意見をすると嫌な顔になったときに、 一発で効く印籠 を木村先生は授けてくれました。はたして守りに入った先生に効く印籠とは…。 ※本連載は、木村先生との「学びの会」を抜粋したものです。記事内に登場する参加者は、「学びの会」に出席した方々となります。 ■「一生懸命やっている」価値観は大人失格 木村 :私は思ったことしか言わないので、「バカやろ」「バカたれ」と、子どもたちによく怒りました。でも、「4つの力(※)」を大切にしながら関わっていれば、子どもは絶対に離れないんです。 自分の想いが相手に通じないと、「これだけ一生懸命やっているのに、何で通じないの?」と言う大人もいます。そういう人は、 大人をやめた方がいい 。そんな気持ちと態度でいたら、 「子どもの前に立つ大人」 としては 失格 です。なぜなら、「これだけ一生懸命やって、なんで通じへんの?」というのは、100%大人サイドの物の見方だからです。 子どもの立場 になってみることが、何よりも重要なんです。「自分が子どもやったら、どうかな?」。これは、 「人を大切にする力」 です。 「子どもやったら、どうかな?」と思ってみると、「大人が勝手にやってことに対して、何で言うこと聞かなあかんの?」という気持ちになるのではないでしょうか? 「本当に大人は、勝手やな」という気持ちに子どもがなるような行為を大人がしているのです。 参加者 :でも、なかなか、そんな気持ちで子どもと関わることができません。 ※ 4つのちから :「人を大切にする力」、「自分の考えを持つ力」、「自分を表現する力」、「チャレンジする力」のこと。この4つの力があれば、子どもたちは、これからの多様な国際社会で「なりたい自分になっていけるよ」と、木村先生は話します。 ■大人サイドで物事を考える教員はアウト 木村 :もちろん、そういう現実はあります。ここで、みなさんに質問させてください。子どもに対して間違えた行動をとってしまったとき、「ごめんなぁ。どうしたらよかったと思う?」と、すぐ言えますか? そんな自分を確立できていると思う人。では、そういう自分を、まだ確立できていない人は? どうもありがとうございます。確立できていない人が大半ですね。問題は、そこなんです。 教員 はお給料をいただいているから、 大人サイド で物事を考えていたら、 本来はアウト です。けれども、アウトであることを伝えれば伝えるほど、学校現場では、 守りに入る教員 が多いのが現実です。 守りに入ってしまった教員をどう変えるか。自分の4つの力を使って、その教員に対して「教師も学校も子どもから学んでほしい」と表現するんです。それは理屈じゃありません。 ■保護者が意見をして機嫌が悪くなる教師への対応は? 参加者 :私は、小学校の支援学級(通級)の教員をしています。学校現場にいる者として発言させていただくと、 教員の専門性 を、 教科指導 (国語・算数・理科・社会といった「勉強」を教えること)だと思っている教員は多いのです。 そんな教員に対して、通級指導の教員である私たちですら食い込むのが難しいのに、 保護者が食い込む のは、もっと難しいと思うのです。 木村 :保護者が意見をすると機嫌が悪くなる先生は、たくさんいます。残念なことですが、それが現実です。その現実に対しては、 水戸黄門の印籠 を出すんです。「これが目に入らぬか!」と(笑)。そのセリフを、今日はお伝えしましょう。 私は、文部科学省の上層部の方から、「教員の仕事は、 教科を教えることではない 。教員の仕事は、その子が学びたいと思う学びを、その子が 安心して学べる 、そのための 学ぶ力 をつけることです」と教えてもらってきました。 いまは、このセリフ(言葉)を知らない教員が多すぎます。ですから、これからの社会に役立つような資質を持った子が、いまの学校現場では、 排除されてしまう ことも、現実的には多いんです。いまの学校は、4つの力を使わない方が、居場所を作ることができるからです。 たとえば、自分の考えを持ちさえしなければ、先生に文句を言うことはないでしょう。自分を表現しなければ、先生に怒られることもありません。 自分の意見を言う、文句を言う、「イヤという」、こういった 自分を表現する ということは、教員側から見ると「自分の好きなように わがまま言っている 」と見えることも多いわけです。 人を大切にするといっても、 子ども本人が大切にされていない のに、どうやって人を大切にできますか? そんな環境で、どうしてチャレンジをしようなんて気持ちになれますか? でも、悲しいことに、いま、 学校現場は、そんな場所 になっているのです。 ■学校が「すべての子どもに規則を守らせる」場となる恐ろしさ 参加者 :でも、子どもに好き勝手なことをさせていたら、現実的には、困ることも多いのではないかと思うのですが…。 木村 :その発想が、最初から大人が 子どもを信用していない 発想だと思うんです。「子どもは、悪いことをする」と思っている大人がいるから、そんなふうに期待されてしまった子ども(悪いことをするだろうと思われた子ども)は、悪いことをするんです。学校が「子どもに規則を守らせる」場になってしまうのは、ありえないと思いませんか? 参加者 :だから、うちの子は悪いことするのか…(笑)。大空小では校則はなくて、「自分がされてイヤなことは、人にしない」という、たったひとつの約束があるだけ、と聞きました。それを破ったときは、みずから校長室にやり直しをしに行くと。 木村 :校長とやり直しをするのではないんです。やり直しをする場所が、校長室なだけです。これも、子どもたちが決めたことです。みなさん、「校長にざんげに行く」と思っていらっしゃるようですが、私にざんげに来られても、どうしたらいいかわかりません(笑)。 なぜなら、大空小で いちばん最初にやり直し をしたのは、私だからです。そんな人間にざんげされても、困ります。 ■「この子さえいなければ」 木村先生が、大空小で「やり直し第1号」になるシーンを、ご著書の中からご紹介します。大阪市立大空小学校は、新設の小学校として2006年4月に開校しました。その、開校初日、始業式のシーンです。 「絶対、良い学校にしよう」 始業式の朝。私はもちろん、教職員の誰もが意欲をかき立てられました。引き継ぐ伝統も何もないゼロからのスタートです。(中略) 「わーっ、ぎゃーっ」 ひとりの男の子が講堂に入ってくるなり、大声を出しながら走り始めました。転校してきたばかりの6年生でした。始業式に転校を知らされたばかりで、私たちも会ったのはこの日が初めてでした。(中略) 「良い学校をつくろうと思っているのに、なんでこんなすさまじい子が入ってくるんや」 「 この子さえいなければ 、良い学校をつくれるのに」(中略) そう思ったのです。開校当初は、とてもいやな校長として、私は子どもたちの前に立っていました。校長という立場以前に、 大人として失格 です。 出典: 『大人がいつも子どもに寄り添い、子どもに学ぶ!「みんなの学校」流 自ら学ぶ子の育て方』 (木村泰子/小学館) この彼は、その後も、教職員を振り回し続けますが、ある日、彼を追いかけて足をすべらせ尻もちをついた女性教師のそばに寄りそうようにしゃがみ込みました。そのときに彼が取った行動を木村先生は、黙って見守ったあと、全校朝会で、こう切り出します。 「彼な、逃げられたのに、戻ってきて、痛いね、痛いねって先生をさすってあげたんやで。私はそんな彼のことを ちっともわかってへんかってん 」 出典: 『大人がいつも子どもに寄り添い、子どもに学ぶ!「みんなの学校」流 自ら学ぶ子の育て方』 (木村泰子/小学館) 【『みんなの学校』流「生き抜く力」まとめ】 ●「一生懸命やっているのに、何で通じないの?」と言う大人は、 「子どもの前に立つ大人」 として失格 ●子どもに対して間違えた行動をとってしまったとき、 謝る ことができない教師はアウト ● 自分の考えを持たなければ、先生に何か意見を言うこともない。自分を表現しなければ、先生に怒られない。本人が大切にされていないのに、人を大切にできない。そんな環境でチャレンジしようという気にはならない 木村先生の言葉には迫力があって、毎回、痛快なドラマを見たときのような気持ちになります。けれども、一方で、あまりに斬新な発想(言われてみれば『本当にそうだ』と思うのですが…)に、まだ気持ちがついていかない部分もあります。 ドキュメンタリー映画『みんなの学校』を作った真鍋俊永監督は、映画のパンフレットでの中で、こんなふうに言っています。 この映画の 「みんな」 が指しているものは、「児童と教職員と地域の人」を飛び越えた 「すべての人」 の事であり、私たち一人一人にとっての学校である「社会」を、「みんなで 一緒に作り上げて いきませんか」という、そんな思いを込めた作品を作り上げたので、映画を見られる方たちも自由に何かを感じ取ってほしい 出典: 映画『みんなの学校』 (パンフレットより) この記事がひとつのキッカケとなり、社会にみんなで学び合えるような雰囲気が広がっていくことを心から願っています。 ■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書 『 不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力 』 木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)
2017年07月28日いまの学校教育が抱えた問題によって、学校に通えなくなってしまう子どもがいるという現実。そんな現実に、ごく普通の公立小学校が 「不登校0」 を実現して、世間に衝撃を与えました。その模様はドキュメンタリー映画 『みんなの学校』 で描かれ、現在でも自主上映会が全国で開催されています。 その学校の初代校長を務めた 木村泰子先生 。マニュアルを見ながら、子どもに関わろうとする大人を、子どもは信用しないといいきります。そんな中、子育て中のママの「あるある」ネタにも、木村先生は「ママが マニュアルで考えている 」と、厳しい言葉がかけられました。 ※本連載は、木村先生との「学びの会」を抜粋したものです。記事内に登場する参加者は、「学びの会」に出席した方々となります。 ■どうしてもマニュアルを探してしまう大人 木村 :「子どもに関わるとき、 『過保護や過干渉 』なのか? それとも『教育』なのか?」がわからなくなってしまったとき。それは、「自分が大人として目の前にいる子どもに、どう関われば良いのか?」を迷っているときです。そういうとき、大人は、何かしらの マニュアル を見ながら判断しようとします。 大人がマニュアルを探しながら、「どっちかな?」といった態度で関わると、子どもは信用してくれません。マニュアルを見ないで、「 目の前の子ども だけを見て関わろう」とする大人の態度は、子どもにもちゃんと伝わります。 もちろん、結果として「やっぱり、あなたに対して過保護、過干渉だった」と反省することもあるでしょう。でも、その反省は、すべて 未来につながります 。「あなたに対して過保護、過干渉だった。ごめんなさい」と、きちんと謝ることができる大人が、子どもは大好きです ■子どもの気持ちまでマニュアルで見ている 木村 :ここで大切なのは、子どもと関わるときに、「マニュアルを見ないで、目の前の子どもだけ見て関わろう」と自分で決めることです。 参加者 :子どもは「イヤだ!」としか表現できないとしても、そこにある気持ち、モヤモヤしている気持ち、そういうものを、 大人が感じてあげる ということですか? 木村 :それは、大人の嗜みですね。子どもに関わるときに、大切なのは「教えること」ではないんです。その子の心の中をわかろうと努力する。それが、大人の嗜みです。 参加者 :たとえば、お友だちと一緒のとき、うちの子がわがままを言ったとします。「わが子の心の中をわかろうとする」という行為は、そのとき、その場で、お友だちがいる前でした方が良いのでしょうか? それとも家に帰ってきてから、ゆっくりした方が良いのでしょうか? 木村 :そう考えてしまうこと自体、マニュアルを見ようとしているのかもしれませんね。 キツい言い方かもしれませんが、「みんなの中でやった方が良いのだろうか? それとも家に帰ってきてからの方が良いのだろうか?」と考えるのは、その子だけを見ていない行為です。 その場 、その場、 その子 、その子によって、状況はすべて違います。 ■大人は、成功を狙って子どもに関わろうとする 木村 :「友だちの前で注意したことを後悔した」と思うことも、絶対あるでしょう。そんなことは、誰にでも絶対にある。でも、失敗したら、 やり直せば いいんです(※)。 子どもに、「ごめんね、みんなの前で言わない方が良かったね」と言えば、子どもは「いーよ、別に」と言ってくれるかもしれない。けれども、「あなたが間違ったことをするのを、 注意してあげた んだから!」という気持ちでいたら、子どもは、心を開くことはないでしょう。「絶対、もう俺の気持ちなんて言わない」と思います。 子どもが間違ったことをしたときに、大人は、「もう二度と失敗が起こらないためにどうしたらよいか?」を、自分( 大人側の論理 )で考えて「これが上手くいく方法よ」というものを提示しようとします。 でも、本当のところを言えば、親は、「(提示した方法が)成功する可能性なんて、 100%ない 」と思っておいた方が良いくらいの話なのです。 ※ やり直し :木村先生の教育観の大きな柱のひとつ。「人が生きていれば、必ず間違いは起こる。そのときに素直に謝って、やり直せばいい」と、木村先生。 ■「大人サイドの価値観」で物事を考えないようにするには 参加者 :「100%ない」というのは、1%すらないってことですか? 木村 :そうですね(笑)。「うまくいったら、めっけもん」くらいの気持ちで、子どもと関わるということです。そう思って、関わらないと、うまくいかなかったときの落ち込みも激しくなってしまう。大人に勝手に関わられて、勝手に落ち込まれていたら、子どもは、やっていられませんよね。 親も教員も、よっぽど気をつけていないと、常に 「大人サイドの価値観」 で考えてしまうものなのです。私も相当なダメ教員でしたが、子どもたちにズタズタに鍛えてもらったことで、随分と変えてもらいました。 子どもとの関わりを、大人サイドで考えない。これを実行できるようになるには、ある一定の訓練と、失敗経験が必要だと思います。 【『みんなの学校』流「生き抜く力」まとめ】 ●大人が目の前の子どもを マニュアルで判断 しようとすると、子どもにも伝わる ● 大人も絶対間違う 。でも間違ったときに謝る大人を子どもは大好きだ ●叱って二度とトラブルが起きないという 「成功」 を狙って子どもに関わっても、100%成功しない ●大人サイドの価値観で物事を考えないためには 訓練が必要 次回は、「自分を表現すると嫌われる学校の現実。守りに入る教員をどう変える?」です。 ■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書 『 不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力 』 木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)
2017年07月27日大ヒットしたドキュメンタリー映画 『みんなの学校』 。「人を大切にする力」、「自分の考えを持つ力」、「自分を表現する力」、「チャレンジする力」の4つの力を育てることに尽力をしたのが、初代校長を務めた 木村泰子先生 です。 木村先生は、この「4つの力があれば、子どもたちは 未来を生きていける 」と言います。しかし、いまの学校現場では、見過ごせない問題が起きているとも…。 不登校 になってしまった娘を抱えるママからの話をもとに、どうして学校に通うことに苦しむ子どもが出てしまうのかを考えます。 ※本連載は、木村先生との「学びの会」を抜粋したものです。記事内に登場する参加者は、「学びの会」に出席した方々となります。 ■子どもが育つ学校現場で見過ごせないことが起こっている 木村 :大空小が地域の新しい学校として開校したのは、2006年4月1日です。 いまから約10年前に、「 10年後 って、どんな世の中になっているのかな? いまより、もっと日本には入り混じった人たちがたくさんいる。そんな世の中で生きていくために、子どもたちが身につけなければいけない力って、何だろうね?」と、考えました。 あれから10年たったいま、映画『みんなの学校』に注目してもらえるのは、10年先取りでやってきてことが、いまになって、ニーズを感じていただいているのかな? と、思っています。 いまの学校現場では、 「子どもが育つ環境」 という視点でみると、 「見過ごしてはいけない」 ということがたくさん起こっているのが現実です。でも、そんな地元の学校に行かざるを得ない子がたくさんいる。そして、学校にどうしても行けなくなってしまう。そんな苦しんでいる子、保護者は、たくさんいます。 ■「不登校」が増えている理由は? 木村 :ここ2、3年で、学校現場は「いかに子どもに 規則 を守らせるか」という方向に、急速に傾いています。その結果、どんなことが起こっているか? たとえば、ある都道府県では、ここ2,3年で 「学校に行けなくなった子」 の数が 2倍強 に増えたという報告がありました。それは、その地域に限った話ではなくて、全国的にその傾向が強まっています。 参加者 :4年生の娘が不登校です。どうして学校に行けなくなったかというと、担任の先生が「○○しなさい」「○○、しなくてはいけない」という先生なんです。過保護な母親のように、手とり足とり教えてくれることが、うちの子にとっては窮屈だったみたいで。 娘のクラスでは、娘が不登校になっただけではなく暴力的になってしまう子など、いろいろな 「症状」 が出始めています。 木村 :一教員が、急激に意識を変えるというのは、現実的には難しいかもしれませんね。もし、それで変われる資質がある先生なら、もともと、そうはなりませんからね。ある意味、その担任の先生の姿は、典型的な いまの学校の姿 です。 参加者 : 正直言って、「過保護や過干渉」と、「教育をきちんとする」の 線引き がわかりません。どうやって見極めたらよいのでしょうか? ■「過保護や過干渉」なのか? それとも「教育」なのか? 木村 :子どものある行為に対して、「これについて干渉することは『過保護や過干渉』となるのか? それとも『教育』なのか? 大人として、目の前にいる子どもに、どう関われば良いのか?」。大空小でもやまほど悩みました。 たとえば、子どもが「イヤ!」と言って、いうことを聞かない。「このイヤは、この子のわがままなのか? イヤということを認めたらいいのか? イヤというのを、やめさせないといけないのか?」。大人は、そこで選択したくなるものです。 でも、それを 決めるのは子ども です。大人は「言うことをきかせるべきか」とか、「甘えさせるべきか」と考えてしまう。けれども、その視点でモノを考えている大人は、子どもに関わる場合に、 自分の法則 で考えようとしているんです。言ってみれば、子どもを、「どうにかしなければいけない」というリーダー性を大人が持たないといけないと思っている。 ■何で、この子は「イヤ!」と言っているのか 参加者 : 「どうにかしなければいけないというリーダー性」 とは、どういうことですか? 木村 :たとえば、「これを、やりましょう!」と言って、「イヤ!」と言う子は、いくらでもいます。「イヤ!」という子に対して、大人がまず考えるのは、「どうやって、『イヤ!(NO)』を『YES』に変えようか?」ということではないでしょうか? ここで、先にお話した4つの力のうち、ひとつの大事な力が抜けています。この子が、「イヤ!」と言ったら、大人は4つの力の中の、 「人を大切にする力」 を使ってほしいのです。 大人が「この子の、『イヤ!』をやめさせよう」と思うのは、 上から目線の関わり (どうにかしなければいけないと考えるリーダー性)なんですよね。「やめさせることが、この子にとって幸せにつながる」と、思っているんでしょうけれど、それは、子どもにとっては、 おおきなお節介 です。 「これについて干渉することは『過保護や過干渉』となるのか? それとも『教育』なのか?」。 この問が自分の中に生まれたら、まず、「この話に、唯一無二の正解などない。ケースバイケースで、答えはそれぞれにまったく異なる」ということを思い出して欲しいのです。子どもの「イヤ」に対して、「過干渉なのか過保護なのか、それとも教育なのか」と考える前に、まずは目の前の子どもを 「感じてみる」 ということが大切なのだと思います。 「学校に行きたくない」という子がいたとしたら、「なんで、『学校に行きたくない』って言っているか?」を、まずは考えてみるんです。「なんで、この子はイヤと思うのだろうか?」ということを、 大人がきちんと考えてみる ということです。 【『みんなの学校』流「生き抜く力」まとめ】 ●いまの学校現場では、不登校の増加など、 見過ごせない問題 がたくさん起きている ●子どもが「イヤ」と言ったときに、「いうことをきかせる」のは大人が 上から目線 になっている ●子どもの「イヤ!」の理由は、 子どもなりの 「自分の意見」 。大人はその気持ちを大切にする力を持つ必要がある 次回は、「マニュアル子育ては見抜かれる! 大人の論理「あなたのため」は通じない」です。 ■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書 『 不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力 』 木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)
2017年07月26日大阪市にある、ごく普通の公立小学校である大空小学校は、 不登校児が0人 。それは、それぞれの子に、それぞれの居場所があるから。 ドキュメンタリー映画 『みんなの学校』 は、大空小学校の日常を丹念に描いて大ヒットし、商業映画館での上映は終わったものの、2016年度の自主上映会は全国で800回以上におよび今年も昨年以上の勢いで広がっています。 映画で輪の中心にいるのは、初代校長を務めた 木村泰子先生 。自分が受けてきた教育をベースにした「学校観」に引きずられ、子どもを「良い子」「悪い子」の枠にはめがちなママたちと、これからの子育てに必要な「生き抜く力」についての勉強会が開催されました。 ※本連載は、木村先生との「学びの会」を抜粋したものです。記事内に登場する参加者は、「学びの会」に出席した方々となります。 木村 泰子先生プロフィール 大阪市出身。大阪市立大空小学校初代校長として、「みんながつくるみんなの学校」を合い言葉に、すべての子どもを多方面から見つめながら、全教職員のチーム力で「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことに情熱を注ぐ。その取り組みを描いたドキュメンタリー映画 『みんなの学校』 が話題に。2015年に退職後、現在は、全国各地で講演活動を行っている。 木村先生については、 「『みんなの学校』流 親子関係のつくり方」 「ママのプロになる!」 もぜひご覧ください。 ■多様な国際社会で、「なりたい自分」になるには? 木村先生(以下、木村) : 最初に、「大空式」の自己紹介からお話しましょう。大空小学校(以下、大空小)では、「自己紹介をする」という人との関わりの中で、4つの力を高めることを意識しています。 <大空小で大切にしてきた4つの力> ・「人を大切にする力」 ・「自分の考えを持つ力」 ・「自分を表現する力」 ・「チャレンジする力」 この4つの力があれば、子どもたちは、これからの多様な国際社会で「 なりたい自分 になっていけるよ」と、大空小の子どもの周りにいる大人は考えました。 ■人と違うから「自分の考え」になる 木村 :1つ目の 「人を大切にする力」 が、簡単なようで難しいのは、なんとなくおわかりかと思います。 2つ目の 「自分の考えを持つ力」 。みなさんは、自分の考えを持っていますか? 「夫が、言うから」「ママ友が、言うから」「会社の上司が、言うから」と、 流されてしまう自分 が、いらっしゃるのではないでしょうか? 隣や上を見ないで、「まず自分で考えてみよう」という習慣を、大空小の子どもたちはいつも心がけています。この「自分の考え」というのは、 人と違ってあたり前 。だからこそ、「自分の考え」なんです。ひとりの子が自分の考えを持ったら、その自分の考えは、「間違いなんてないよ」というまわりの空気が必要です。 ■自分を表現できなければ置いていかれる 木村 :3つ目は、 「自分を表現する力」 。 いくら人を大切にして、自分の考えを持っていても、これからの時代は、自分を表現しなかったら、置いていかれてしまうことでしょう。「これはイヤだよ」「こうしたいよ」「こう考えているよ」ということを、自然に言えること、これも大切にしたい力です。 もちろん、表現の仕方は、いろいろあります。たとえば、緘黙(かんもく)症(※)で、自分から言葉を発したことがない子。そういう子は自分なりの表現方法、文に書いたり、顔で表現をしたりができますから、まわりはその子を見ていれば、表現を受け取ることができます。 ※緘黙(かんもく)症:発声器官の器質的障害がなく、言語の習得に問題がないのに、特定の場面でずっと声が出ない状態のこと。たとえば家では普通に話ができるのに、学校や幼稚園に行くと一日中声が出ない状態が何ヶ月、何年間も続く症状 4つ目は、 「チャレンジをする力」 。「こういうことを、やってみたい」「こういうことを、やろう」とチャレンジする気持ちは、「未来を作っていく」と思うんです。 ■「教員の仕事」は、「人間でないとできないこと」をやること 木村 : この4つの力を、小学校にきて「おはよう」を言ってから、「さようなら」を言うまで、どれだけ子どもたちが獲得できたのか? それを考えることが、私たち、子どものまわりにいる大人のやるべきことだと思って、仕事をしてきました。めちゃくちゃシンプルです。 「分数の計算の仕方を教える」。これはあと数年したら、教員がやらなくても機械がやってくれるでしょう。「では 教員の仕事 は何?」と言ったら、「 『人間』 でないとできないことをやろうね」と、大空小の教職員で話し合いをして決めました。 【『みんなの学校』流「生き抜く力」まとめ】 ●「人を大切にする力」、「自分の考えを持つ力」、「自分を表現する力」、「チャレンジする力」があれば、 未来を生きていく ことができる ●「自分の考え」は、人と違ってあたり前 ●教員の仕事は、人間でなければできないことをやること 次回は、「不登校で苦しむ子。「過保護」と「教育」の線引はどこにあるのか?」です。 ■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書 『 不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力 』 木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)
2017年07月25日