子どもの暮らしを彩るモノ・コトづくりに愛をもって携わる達人に、その舞台裏を余すところなく語っていただく本連載。3回目は、いま話題沸騰中の小学生向け雑誌『小学8年生』の編集長に、子どもの好奇心を刺激する紙面づくりのあれこれを教えていただきました。
<お話をうかがった達人さん>
齋藤 慎さん
株式会社 小学館 児童学習局 学習雑誌編集室『小学8年生』編集長。46才の2児のパパ。
<学年別学習誌(『小学〇年生』シリーズ)の歩み>
1922年の小学館創設と同時に『小学五年生』『小学六年生』創刊。その後も学年ごとに『小学〇年生』を発刊し、1925年に全学年が出そろう。その後は長い間、多くの子どもたちに支持されるも近年の少子化などの影響により、現在は『小学一年生』以外が休刊に。これを受け、2~6年生を主な対象とした『小学8年生』を創刊。
大好評を博している。
『小学8年生』
https://sho1.jp/sho8
■小学「8」年生…? インパクトあるタイトルに込められた想いとは?
小学館とともに90年以上の歴史を歩んできた学年別学習誌ですが、近年の少子化などの影響を受け、残念ながら『小学一年生』を残すのみとなってしまいました。
小学1年生 表紙(創刊年:1925年08月号)、小学館で所蔵している最古のもの。
小学館の原点でもあり社業の柱でもあった学年別学習誌を、ここで絶やしてはいけないという使命感と、今まで読んでくれていた子どもたちに何らかの形で発信し続けたいとの想いが『小学8年生』創刊につながりました。
休刊になった2~6年生の子の受け皿になる雑誌であるには、学年の枠をとっぱらう必要がありました。じゃあ、タイトルはどうする? と考えたときに、誰ともなく出てきたのが「∞(無限大)」だったんです。
子どもの可能性を示唆する意味でも「∞(無限大)」はしっくりきたんですが、読ませ方が難しい。
そこで、「∞」マークを縦にして、デジタル数字にしました。
さらに、デジタル数字は白抜きにして、子どもが自分の学年の数字に塗りつぶせるようにしています。
デジタル数字の8はどんな数字にもなるから小学生全学年に対応していますよ、という意味で『小学8(はち)年生」と読ませますが、じつはその裏には「∞(無限大)」の意味も含まれているんです。
白抜きで印刷されている雑誌タイトルのデジタル数字。3年生の子なら、「3」と塗りつぶせば自分の学年の雑誌に!
■パラパラ読みが学習につながる? 『小学8年生』の目指す「潜在学習」とは
学年別学習誌は、各学年の学習をよりわかりやすく伝え、サポートするコンテンツが主でしたが、学年の枠をとっぱらった『小学8年生』ではいわゆる学年別の勉強の域にとらわれない、授業でいえば総合学習に近い内容を中心にしています。
第1号は「学校」をテーマに、校長先生のお仕事やかけっこで早く走れるヒント、学校にある備品の値段、黒板アートまで学校にまつわることをメインに構成しました。
子どもたちが一日の大半を過ごす学校ですが、身近なだけに案外知らないことも多かったようで好評をいただきました。
なかでも「校長先生への道」は子どもたちに人気でしたね。
付録も学校にちなんで「手作りチョーク」と「黒板ノート」。
粘土のような素材でいろんな形のチョークがつくれる! 付属の黒板ノートも本格的。チョークが完成するまでの課程(乾燥するまでチョークにならない)で、「待つ力」も養えるかも?
私たちは「チャレンジ付録」と呼んでいて、完成品ではなく、必ず子どもたちが手を加えるものであることを念頭に企画しています。子どもが手先を動かす作業、完成したときの達成感、そのなかで生まれる家族との会話。
そういう、ちょっとしたことが広い意味での子どもの学習や成長につながってくれたらいいなと思っているんです。
あとは、第1号でいえばアメリカのトランプ大統領の漫画や北方領土問題といった時事的なトピックスも組み込んでいますが、それは受験対策を明らかに意識した内容というわけではなく、あくまでパラパラっと読むことで、ニュースを見たときに「あ、これ読んだことある」と子どもに思ってもらえることを狙っています。
というのも、私たちの紙面づくりでは「潜在学習」に重きを置いているからです。
潜在学習とは、平たくいうと、明確な目的意識のある行動ではなく、なんとなく行動していたことであっても経験値は積んでいて、その人の学習や成長につながる、という考え方です。
付録をつくる過程で経験したり感じたりすることも、紙面をパラパラっとめくってなんとなく見知ったことも、無意識下でストックされていきます。そして、どこかのタイミングでそのストックが花開く時がやってくるんです。
だから、「勉強になるから読まなきゃ」とか、「よりよい教育のために」読ませたいというモチベーションはまったく必要ないし、むしろ邪魔です(笑)。楽しく読んでもらえれば、それでいいのです。
いずれ、子どもたちに「あ、これ『小学8年生』にも書いてあった!」と思い出してもらえるような、無意識下のストックを増やすことが、『小学8年生』が目指すところです。そうすれば「花開く時」の数が増えますからね。
そのためには子どもたちに「面白そう!」と思ってもらえることが前提ですから、いろんなコンテンツを、いろんな切り口で提案していきたいと考えています。
■子どもが相手だからこそ「うそはつかない」紙面づくりを
生まれたときからインターネットやスマホ、SNSが当たり前のようにある現代の子は、ソフト面だけ見ると私たちが子どもの頃とは違う時代を生きているように思えますが、日常生活で意識せずとも経験を積んでストックを増やしていって、興味があることには夢中になれる。