100%LiFEがお届けする新着記事一覧 (1/6)
住宅密集地でのパッシブデザイン太陽の光や熱、風など自然エネルギーを最大限に活用し、エアコンなどの設備に頼りすぎることなく快適な暮らしを実現する“パッシブデザイン”。その設計手法を取り入れた家づくりに定評のあるオーガニック・スタジオの代表・三牧省吾さんが4年ほど前に建てた新居は、住宅密集地でのパッシブデザインの可能性を追求した実験住宅である。「この敷地は、南側と西側に3階建ての住宅が隣接しているため日当たりが悪く、しかも台形の小さな変形地のため、売れ残っていた物件でした。ただ、北東側は小さな水路と遊歩道があって開放的。ここなら悪い面を建築的に解決できるのではないかと思ったのです。もともと売れ残りには良いものが隠れていると考えていたので、まさに探していた物件でしたね」。3階までは南側からの陽射しが望めないため、屋上へ向かう階段室の窓から太陽光をたっぷり取り入れるよう工夫した。窓には断熱効果の高いペアガラスを採用し、床にはレンガを蓄熱材として使用。また、階段室の屋根には太陽熱集熱パネルを設置。1階まで貫く螺旋階段を利用して暖気を送り、暖房の補助としている。高い断熱性能を有した家は、まるで床暖房を入れているかのように足元まで暖かい。日当たりの良い家を希望していた奥さまは、この土地を最初に見たときは青ざめたという。「南側が開いていなくても、こんなに暖かくて明るいなんて目から鱗でした。家の中が一定の温度で快適です」と話す。2階ダイニングからの眺め。家の前の水路には白鷺や川鵜なども訪れるという。「ベランダに遊びに来るシジュウカラやスズメに癒されています」(奥さま)。ターミナル駅から数駅離れた静かな住宅地に建つ。「遊歩道につながるように庭を作りたかったので、家はL字型にしました」(三牧さん)。1階のビルトインガレージには、奥さまが一目惚れしたというジムニーが駐車。北海道産のナラ材を張った玄関ドアと鉄平石の壁が目を引く。左側には三牧さんの事務所がある。4階の高さにあたる屋上の庭園。周囲に遮るものはなく、さいたま新都心のビル群まで望むこともできる。右側が階段室で、屋根には太陽熱集熱パネルを設置。屋上に続く階段室。冬は太陽光を取り入れて暖房の補助に、夏は雨戸を閉めて日差しを遮り、通風の役目も。全フロアが一続きの自由な空間25坪弱の敷地に建つ三牧邸。「緑に触れる暮らしがしたくて屋上に庭を造りました」と三牧さん。20畳ほどの屋上スペースでは軽量土壌によるガーデニングを行っている。夏にはナスやピーマンなどの野菜やハーブ類など、ここで収穫した食材が食卓を彩る。また、ウッドデッキでビール&バーベキューをしたり、メダカのビオトープも楽しみのひとつという。土や水の重みに耐え、木造でありながら耐震性を確保できるのは、SE構法を採用したため。さらに、自由な空間構成を楽しめるのもSE構法の利点である。三牧邸は、1階のゲスト用トイレ以外には扉がない。2階にはLDK、3階にはバスルームと寝室があるが、扉や仕切りを設けることなく、全フロアで1つの空間を実現。風や空気が通り抜ける心地よい家となった。「ドアのないバスルームを実験的にやってみたかったのです」とは三牧さん。「トイレもシャワーブースも死角になっているため、ドアがなくても気になりません」と奥さまも不便さは全く感じないという。開放的でホテルライクなバスルームには、奥さまが勤務しているドイツの設備メーカーの商品を使用。すでに廃盤になっている貴重なものもあり、上質な空間づくりに一役買っている。「いつか使いたいと思って個人的に大切に取っておいたお気に入りの水栓たちをあちこちに使用することができて、とても嬉しいです」(奥さま)。階段から一続きの2階のLDK。塔屋へとつながる螺旋階段からの光や風も取り入れている。どっしりとして座り心地のよい革張りのソファは『KOKOROISHI』。アンティークの裁縫用テーブルとの相性も良い。1階から塔屋までを貫く螺旋階段は、自然光を各階に届ける。左側がゲスト用トイレ。2色使いの壁面がおしゃれなゲスト用トイレ。ロンドンの電車で使用していた吊り棚にトイレットペーパーを収納。屋内で扉があるのはここだけ。3階の階段室から下を見る。正面奥がバスルーム、廊下を右に行くと寝室へ。杉板を使用した造作の洗面化粧台。鏡は美容師の友人から譲り受け、フレームの色を塗り替えた。照明も自身で着色し、レトロな雰囲気に。水に強いイペ材で囲ったバスタブ。南側の窓からたっぷりの光が入る。オーバーヘッドシャワーが設置されたシャワーブースとトイレ。階段側からは死角になるよう配置されている。クラシックな印象の水栓。すでに廃盤になっている商品で、奥さまのお気に入りの1つ。3階の寝室。床は無垢のナラ材、壁はブルーグレーに塗った信州唐松を使用。壁の一面のみネイビーにペイントし、落ち着いた印象に。ベッドの左脇には、2階へとつながる通気口を設置。心地よいラスティックスタイル家を建てるにあたり奥さまが三牧さんに伝えたのは、「どのような暮らしがしたいか」ということだったという。「生活の中で、自分がしたいことや楽しみたいことを伝えました。例えば、お酒をゆっくり家で飲みたい、という具合に」。大きな作業台を設えた2列型のキッチンは、奥さまのそんな希望から生まれた。「お酒にあわせて作ったおつまみを作業台に置いて、飲みながら、つまみながら、また調理する・・・。2人で一緒に料理を作り、飲んだり、会話したりできるキッチンが理想だったんです」。また、「真新しいものではなく、素朴で荒々しさがやや残るラスティックな雰囲気もイメージとして伝えました」とも。漆喰やタイルの壁、全国各地の木材を使用した床や造作の家具など、年月が経てば経つほど味わいが増す自然素材にこだわった空間は、アンティークの家具や雑貨とも調和している。「コロナ禍で在宅勤務になり、家にいる時間が圧倒的に増えました。それだけに好きなものに囲まれた居心地の良い空間で、好きなことをすることの大切さを感じますね」と奥さま。三牧さんも「料理していても、掃除していても、何をしていても、暮らしているだけで楽しい家になったと思います」と。何気ない日常を存分に楽しまれているお2人の表情は、充足感に満ちていた。「暮らしの中心」と奥さまがいうダイニングキッチン。2人でキッチンに立つことも多いという。ダイニングテーブルは国産ナラ材の丸太から切り出した板にスチール製の脚をつけた。椅子はすべてアンティーク。手前のウィンザーチェアはイギリス製で、三牧さんのおばさまから譲り受けたもの。螺旋階段に設えた美しい曲線を描く真鍮の手すりは、特殊金属加工ができる友人が手掛けた。三牧邸の建具の金具はほとんどが真鍮製。「経年変化が楽しめ、あたたかみがあるので好きなんです」とお2人。杉板を使用した大き目の作業台とキッチンカウンター。構造上で生まれたくぼみ(奥)は調味料などを陳列。その上にある通気口は3階の寝室へとつながっている。照明はアルヴァ・アアルトの『ゴールデンベル』。名古屋モザイク工業でセレクトしたタイルと杉板のカウンターが絶妙にマッチ。キッチンの水栓はスプリング式のスプレータイプで便利。階段脇の壁一面に施した杉板の本棚。山登りが趣味というご夫妻のリュックやカメラのレンズ、アンティークグッズなど好きなものを気軽に置いているそう。エアコンは冬場はほとんど使用しないとのこと。コンパクトなオーストラリア製の薪ストーブ。「暖房器具というようりも、一生楽しめるオモチャとしておすすめです」と三牧さん。リビングの床は北海道産のシラカバ、壁は漆喰など、自然素材をふんだんに使用。三牧邸設計オーガニック・スタジオ所在地埼玉県さいたま市構造木造SE構法規模地上3階延床面積136.89㎡
2022年04月21日ホリデーライフを重視し湘南に移住夫の優樹さんがエンジニアで、妻の幸代さんが音楽家というT夫妻は5年前に都市部から湘南に越してきた。「最初は職場に近い場所で探していたのですが、普段から休みの日は散歩したり自然を楽しんだりしていたので、休日を楽しめる場所がいいねということで雰囲気が気に入った湘南を選びました」と幸代さん。しかし、湘南での住まい探しは難航したと優樹さんは話す。「最初は注文住宅を意識していなくて、建売や中古物件も視野に入れて探していました。でも私たちのこだわりが強くてなかなか決まらなくて。これだけ見て決まらないならずっと決まらないと不動産屋さんに言われることもありましたね」。こだわりの一つに、音楽家である幸代さんが仕事で使うグランドピアノの置き場所がある。レッスンやリハーサルをする際、来客が玄関からピアノのある部屋にすぐアクセスできる動線を作りたかったが条件の合う家はなかなか見つからない。そこで“作る”仕事に携わる夫婦が理想を求め選んだのが注文住宅だった。左側にある玄関から続く階段を上がると、家族が集まるようにと広く、光の集まるLDKがある。南側は玄関上に位置するはめ殺しや均等に配置された三連窓などを設け、前が公園という好立地を最大限に活かした。ウッドデッキへの床は一段高くなっており、ここで座ったり横になったりしてくつろぐこともできる。家族のつながりと開放感がある住まいを目指して良い物件が見つからず悩んでいた時に出会ったのが湘南隠れ家不動産だった。「気になる中古物件をウェブで紹介していたので見に行ったのがきっかけです。一緒に物件を探したり話しているうちに、それ程こだわりたいならと注文住宅を勧められました」と笑顔で振り返る優樹さん。施工会社と施主をつなげる湘南隠れ家不動産はT夫妻にZen建築事務所を紹介した。「お会いして、作り方もお人柄も誠実だと感じたので決めました。夫も職人のカンだと言って意見が一致して」と話す幸代さん。T夫妻が大事にしたのは、家族が集まり、お互いの顔が見えることと、開放感のある住まいにすること。「なるべく壁を少なくして、立つ所立つ所に窓があるようにするなど開放感や空間のつながりを作りました」と設計を担当したZen建築事務所の前場さん。屋根の形を三角にし、高さを演出することで開放感を与える。また上部に壁を作らないことで、天井に使われているベイスギの通直な木理を活かし上に抜けるような印象に。キッチンは“子供がぐるぐる回れるように”とアイランドキッチンに。背面やサイドにも窓を設け北向きでも採光が充分にできる。棚はZen建築事務所の造作。階段を挟んでLDKの反対側にあるワークスペース。「今は子供のスペースになっています。将来的には子供が宿題をする横で、親が作業して一緒にいられるようにと思っています」と幸代さん。光を届け開放感を与えるつくり南側が公園で視界が開けているというT邸の特徴を活かすため、南側にあるルーフバルコニーにつながる掃き出し窓や、はめ殺しを設置。家族が集まる2階のLDKに充分な採光と開放感を与えた。優樹さんもLDKが一番居心地がいいと言う。「リビングのソファに座って、外を見たり、スキップフロアで寝そべって窓からのお日様を楽しんだりします」。玄関は吹き抜けで、入って正面には2階に続く階段があり開放感を感じる。“お帰り”と“ただいま”を1階と2階で言いあえる玄関にしたいというT夫妻のこだわりの一つ。家族の帰宅だけでなく、家の中でどこにいるのか分かるようにと家族のつながりを感じる空間づくりを目指した。音楽家である幸代さんの仕事部屋である音楽室は南側の玄関横にある。窓が少なくなりがちな防音仕様の部屋だが、あえて窓を大きく取ったことで、仕事にも良い影響があるという。「ピアノに座った時に木々の緑や、パパと子供が公園で遊んでいる様子を見ることができて、閉ざされずにインスピレーションが得られる場所になっています」。ロフト。星や飛行機が見える天窓はお子さんたちもお気に入りで、毎日月の観察をしているそう。ウッドデッキは優樹さんの造作。この下に音楽室がある。元々は音楽室の前にウッドデッキをつくる予定だったがZen建築事務所の提案で上に設けた。2階にあるリビングを見た時に明るい印象にしたいという希望で作られた玄関。右側の部屋が優樹さんのワークスペース。小さくても自分のスペースが欲しかったと話す優樹さん。「2階からご飯できたよとか会話ができるように階段部分の壁を空けてもらいました」。想定外のアクセントカラーがシンプルな空間で映える湘南に移り住んでからT夫妻には大きな変化があった。お子さんが2人生まれ、4人家族に。お子さんがいることを想定して建てたと話す幸代さん。「子供はぐるぐる回るのが好きだと聞いたので、アイランドキッチンにしたり、構造を迷路っぽくしたり。子供部屋は、こもってほしくないので日当たりの悪いところにしたりして」。お子さんが加わったことで、LDKを階段で挟んだ所にあるワークスペースは、お絵かきをしたりする空間に。シンプルな作りだった階段の2階部分には転落防止用の柵を付けた。「ホワイトとウッドカラーがベースのシンプルな空間を目指していたのですが、今はカラフルな子供のオモチャや絵が部屋のアクセントカラーになっています。子供が産まれたことでコンセプトと変わったところもありますが、それも家族の物語として楽しんでいきたいです」と幸代さん。理想を求め建てたT邸だが、家族が増えたことで理想を超えるカラフルな物語が描かれ始めている。防音材と二重サッシ、換気扇も特殊なものを使用し作られた音楽室。ピアノから振り返ってパソコンを使えたり、キーボードを置いたり、レッスン時に使う造作の机がある。ここから公園の木々を楽しんだり、お子さんたちが遊んでいる様子を見ることができる。くつろぎ感のある寝室。大きくとった窓からはお隣の庭の借景が楽しめる。南向きで光があたる所に、家族が長い時間過ごすLDKと音楽室を置いた。設計Zen建築事務所有限会社所在地 神奈川県藤沢市構造 木造枠組壁工法規模 地上2階延床面積105.16㎡
2022年03月28日海外リゾートを彷彿させる鮮やかなブルー東京ディズニーリゾートからほど近い閑静な住宅街で暮らす藤瀬さんご一家。ドバイでの海外生活を経て、2年半前に奥さまの実家を建て替えた。ナチュラルで開放的なアプローチを抜け、玄関の扉を開けると、真っ白な漆喰壁を引き立てる鮮やかなブルーのアクセントウォールやタイルが目に飛び込んでくる。天井が高く、陽光が射し込むサンルームをはじめ、色彩のコントラストが効いた藤瀬邸は海外のリゾートを感じさせる心地良さがある。「夫の仕事の都合で数年間ドバイに住んでいました。その間、ヨーロッパなどへの旅行も多く、特にスペインがお気に入りでした。もともとハワイが大好きだったり、アメリカ生活が長かった両親の影響もあるかもしれません。家を建てるにあたり、好きな色や好きなものを選んでいった結果こうなったという感じですね」。ジャンルやテイストにとらわれず、ご夫妻の感性で生まれた空間といえそうだ。設計を依頼したのは、坂野由典建築設計事務所。「こだわりの強い建築家の方が多い中、坂野さんはフラットな思考の方で、私たちの意見をしっかり受け止めて形にしてくれました。海外で勉強を積み、さまざまな国の建築にも詳しい方なので信頼できましたね」(奥さま)。濃淡を効かせたブルーをアクセントカラーにした1階。キッチン壁は『平田タイル』、鮮やかな床のタイルは『サンワカンパニー』でセレクト。キッチン棚の上部に飾られた『ロイヤルコペンハーゲン』のイヤープレートは奥さまのお母様から譲り受けたもので、ブルーの壁とも相性がよい。伸長式のテーブルはイギリスのアンティーク。手前の椅子は『天童木工』のものでネットオークションで購入。大きな開口と吹き抜けが気持ちいいサンルーム。庭に面しているため、バーベキューや子どもたちのプールの時にも重宝するスペース。ハイサイド窓から東京ディズニーリゾートの花火が見えるそう。ブルーのアクセントフォールには浅めの飾り棚を設置。ドバイ時代や海外旅行で購入した雑貨や家族の写真が楽しく彩る。中央下のワゴンはご主人のお手製。角地を活かした開放的でゆったりとしたエクステリアがひと際目を引く。将来を見据え、2階スペースは最小限にとどめた。フレキシブルで合理的な家建築家の坂野さんへのリクエストは、「どこにいても人の気配のするオープンな家」、また「変化していける家」であった。「私も夫も効率主義。開け閉めで指を挟む可能性のあるドアはいらない、廊下もいらないと伝えました。ドアがあるのは2階のトイレくらいです。いまは子どもが小さいので、私が居る時間が最も長いキッチンから子どもがどこにいても見えるようにとお願いしました。また、年を重ねたら1階で生活を完結させたいと思っているので、2階スペースは最小限に。ライフステージに応じて変化できるよう壁を極力減らしてもらいました」。その合理的で実用的な考え方は、収納にも表れている。「外国ではファミリークローゼットが一般的で、家族の物を一か所に集めていてとても便利でした。今回もそれを採用し、家事動線を考えて配置。とてもラクなうえ、時短で家事がこなせます」。引っ越しが多く、ご両親の遺品整理の苦労もあったとのことで、「物を減らしたい」と強く思っていたとも。「仕舞い込むと使わず、溜め込んで、物が増える一方なので、思い切って扉はつけずにあえて“見える収納”にしました。奥行のある棚は作らず、取り出しやすいよう工夫しています」。アイランドキッチンに立つと、リビングダイニングや庭をはじめ、2階までもが見渡せる。「ドバイでの生活で、水回りの床は絶対にタイルにしようと決めていました。さっと拭けて衛生的ですから」。サンルームの引き戸を開けるとひとつながりになるキッチン。収納するものをあらかじめ考えたうえで、すべて造作した。ダイニング側には、浅めの棚を設置。「亡くなった母から受け継いだカップやグラスを並べています」。右側のハイサイド窓を通して2階の子ども部屋の様子が見える。サンルームの引き戸やアクセントウォールのブルーは何種類も作ってもらった中から選んだそう。どっしりとした革のソファはイタリア製で、新婚時代に購入した思い出の品。「ドバイで日焼けし、子どもたちに汚され、一軍を退きました(笑)」(奥さま)。リゾート感を盛り上げるアーチ型の壁。ブルーの引き戸を開けると、洗面スペース、ドアのないトイレ、バスルーム、ファミリークローゼットへと続く。タイルで彩った洗面スペースの右奥に家族全員分のクローゼットを設え、洗濯機も置いた。クローゼットの奥からキッチンへと抜けられ、回遊性もある。家事動線がスムーズで効率的。家族のつながりを生むDIY「家具は少しずつ揃えています。ジャンルやブランドにこだわらず、家の雰囲気に合わせつつも機能的なものを選んでいます」と話す奥さま。生活しながら必要になった家具は、ご主人が作製しているものも多いという。「木でできているものはだいたい作っていますね」と笑うご主人。リビングのテレビ台や子ども用の勉強机、サイドテーブル、子ども部屋のレゴルームなど目につく木製の家具はほとんどご主人が手掛けている。「ぴったり収まるようにミリ単位でお願いできるので、とてもありがたいですね」と奥さまからも大好評。「母親がなんでも作る人だったので、その影響もあって、小さいころから“ものづくり”が好きでした。作れそうなものは、まずはチャレンジしてみますね。義父もDIYが趣味でたくさんの道具があったので気に入ったものは引き継いで使わせてもらっています」。ガレージの奥は、ご主人の“ものづくり”のスペースと化している。「雨天問わず作業ができるので使い勝手がいいですね。リビングとも窓越しにつながっているのでお互いの様子もわかります。子どもたちもよく手伝ってくれますね」。オープンな間取りにより、家族が自然と触れ合える時間が増えたと話す。亡くなったご両親が大切にしていたものをさりげなく飾ったり、活かしたりと、つながりを大事にしながら自由な発想で暮らしている藤瀬さん夫妻。「模様替えを楽しみながら、いろいろな暮らし方を試していきたいですね」とお2人。今後もライフステージに合ったオリジナルのスタイルを楽しんでいかれることだろう。無垢の床は一部ヘリンボーンを採用。天井が低めでおこもり感のあるリビングからは、ご主人の作業スペースが見える。子どもたちの勉強机は集中力が高まるという杉の木を新木場で購入し、ご主人が作製。白い革のソファは『カリモク』。2階の子ども部屋。レゴに集中できるレゴルームはご主人がDIYした。左奥の引き戸を開けるとサンルームにつながるハシゴがある。登りロープやブランコを取り付けてアスレチック感覚の子ども部屋に変身。将来は、長男(7歳)、次男(5歳)それぞれの部屋に分ける計画も。サンルームと子ども部屋をつなぐハシゴ。息子さんたちにとって楽しい仕掛けがいっぱい。ガレージの奥がご主人の作業スペース。「木工と革細工はDIYします」とのこと。電動のこぎりをはじめ工具や道具がズラリ。右側の階段を上がるとLDKにつながる。「作ることが好きなので、何でも作りますよ。うちの両親や義兄家族、友人からの注文を受けて作る場合もあります。嫁の注文なら大手を振って作れますね(笑)」。庭のアクセントになっている木製のベンチは、ご両親が住んでいた頃の庭に植えてあったこぶしの木を使用し、ご主人が作製した。藤瀬邸設計FUJISE + YOSHINORI SAKANO ARCHITECTS所在地千葉県浦安市構造木造規模地上2階延床面積103.63㎡(車庫含まず)
2022年03月21日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、10周年を迎えました。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2012年のオープン以来、これまでにアップされた家のアクセス数ランキングを公開します。第10位日々、人生を楽しみつつ暮らす家一目ぼれで購入した家をさらに磨き上げて出会いは劇的と言ってもいいものだった。「家を見た瞬間に“買います”と。とにかくわれわれは一目ぼれでした」第9位シンプルで合理的心豊かに暮らすドイツ式の住まい方ドイツ人の母を持ち海外での経験も豊富な門倉多仁亜さん。「タニアのドイツ式部屋づくり」などの著書で、家へのこだわりと思いを紹介している。第8位19㎡の家に暮らす極限的にコンパクトな家での豊かで、密度の濃い生活保坂邸の延床面積は19㎡と超コンパクト。建築家である保坂さんもこの大きさのものは設計した経験がないため、設計中は不安でしょうがなかったという。第7位DIYで自分好みの空間に元倉庫を大改装自由な発想で暮らすインテリアショップかお花屋さんか。ここに住むのはグラフィックデザイナーの天野美保子さんと、内装設計の仕事に携わるその夫。第6位無駄を省いて快適にシンプルが美しいストレスフリーに暮らすコツ1歩中に入ると木の香りが漂い、ヒーリングムードに包まれる。整理収納アドバイザーの森山尚美さんが目指すシンプルでナチュラルな空間作りとは?第5位DIYで完成手を加えて造りあげるオリジナルの和み空間渋谷のカフェ「cafe croix」オーナー、福田能成さんの家は、スタイリッシュでありながら計算されすぎない雰囲気、ほっと和めるスペース。第4位家にいながらアウトドアライフをキャンプの楽しさを家でも家でくつろぐ感覚を外でも部屋で使う家具をそのままアウトドアに持ち出して使えることをコンセプトにしたショップ『INOUT』オーナーの小林卓さんの新居を訪ねた。第3位湘南のサーファーズハウス海を気持ちよく楽しめるカリフォルニアスタイルの家ハワイで挙式した時に借りたバケーションレンタルが理想の家。海岸まで歩いて5分。サーフィン好きの真崎さんにとってこの上ない家が誕生した。第2位コンパクトな平屋建て地に足をつけ農と向き合う暮らし農業を仕事にしたいと、8年前に東京杉並から群馬に移住した福田さん。農家として独立した後、一家の暮らしの場となる平屋建の住まいを建てた。第1位生活の断捨離すっきりと快適に過ごす暮らしのテクニックまるでモデルルームのように整然と美しく片づけられた室内。整理収納アドバイザー、村上直子さんの自宅は、どこを切り取っても絵になる美しさ。
2022年03月19日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、10周年を迎えました。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2012年のオープン以来、これまでにアップされた家のアクセス数ランキングを公開します。第20位リビングを中心に回遊集う人がつながるオープンな空間木立の中にふいに現われるモダン建築。結婚を機に実家の南側の敷地に建てたその家は、林の中で存在感を放ちつつ、静かに佇む。第19位カリフォルニアの風が吹く愛する海と暮らすサーファーズハウス湘南の海をこよなく愛する山崎さん。七里ケ浜の高台に、海の近くにふさわしいカリフォルニアテイストの家を完成させた。第18位雨が降ると池が出現子どもの成長を見守りながら外を感じて過ごせる家池田岳郎さん・亜希子さん夫妻のお宅の前庭には、雨水を溜めると大きな水盤が現れるシカケがある。夏はここで子ども達が存分に水遊びを楽しめる。第17位これからの変化が楽しみな家素材感にこだわった心休まる住まい大阪の家具店、『TRUCK』のソファを気に入っていて、このソファのイメージを柱にして家の設計を考えていきました。第16位海を愛する建築家の自邸海まで3分。カリフォルニアスタイルのヴィンテージハウス数々のカリフォルニアスタイルの家を手がけてきた建築家・岩切剣一郎さん。満を持しての自邸は、茅ヶ崎の築約40年の平屋のヴィンテージハウス。第15位庭と縁側と照明現代になじむ日本家屋の静謐庭と縁側に惚れ込んで築36年の日本家屋を購入したのは2年半前。クリエイター夫妻が娘とともに暮らす家はグリーンと木の質感に心和まされる。第14位海辺の暮らしを満喫海辺の古い一軒家を自分らしく再生潮騒の音が聞こえる海辺の1軒家。築40年の古いコンクリート住宅を、アメリカの匂いを感じさせる快適な住まいへと変身させた梅本さん夫妻。第13位築50年の平屋を蘇生手をかけて創り出す悦び家も暮らしも自分流に昭和40年代の平屋の日本家屋。布物作家の武井啓江さんは、手作業でリノベーションしながらノスタルジックで独創的な空間を創り上げた。第12位中心のある家正しく古いものは永遠に新しい41年の歳月が育んだ心地良さ建築家・阿部勤さんの自邸は、築41年という年月を経てもなお新しく感じる。それどころか、年月を重ねるほどにどんどん味わいが増している。第11位狭いゆえの工夫を重ねて小さい家で広く豊かに住む建築面積10坪。小さな家を建てたことのある建築家に設計を依頼し、小さいながらも快適に住める工夫が詰まった“小さなかわいい家”が実現した。
2022年03月18日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、10周年を迎えました。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2012年のオープン以来、これまでにアップされた家のアクセス数ランキングを公開します。第30位リノベーション+DIYインダストリアルな雰囲気とヨーロッパの優しさをMIX女優の野村佑香さんは、リノベーションした家をDIYでさらにアレンジし、スタイルのある暮らしを楽しんでいる。第29位家造りは自分の手で葉山への移住を決意したのは波乗りと愛犬のため葉山への引っ越しを決意したのは、毎日愛犬とビーチを散歩したい、存分にサーフィンを楽しみたい…という願いから。第28位テーマは米軍ハウス細部までこだわりぬいたアメリカンスタイルの家「米軍ハウス」に憧れていたKさん夫妻。アメリカの建築古材を活用した家づくりを手がける木堂夫妻とともに、オンリーワンの家を完成させた。第27位商店だった建物を大改装倉庫を改装したロフトのようなクールな空間にリノベーション大阪の家具店、『TRUCK』のソファを気に入っていて、このソファのイメージを柱にして家の設計を考えていきました。第26位自然と家を開放的につなげる自然環境の素晴らしさを倍加して楽しめる空間豊かな自然環境の中に建つK邸。大きな開口を取るだけでは落ち着かないため、開口の高さを1.8mと抑え、空間の重心が下に来るよう工夫した。第25位西海岸の暮らしをカスタマイズヴィンテージで彩られたカリフォルニアスタイルの家大きなヤシの木がシンボルツリー。金網フェンスの向こうに建つシダーウッドの家は、ここが東京郊外だということを忘れさせる。第24位葉山の景観に溶け込む広大な庭とともに暮らす真っ白な平屋の家葉山の景観に寄り添うように建つ白亜の平屋。小川さんは、庭の緑を育てながら、自然の中での家族との暮らしを楽しんでいる。第23位平屋の民家をリフォーム家族や自然と調和するゆるやかな生活夫婦でケータリングやレシピ開発の仕事に携わる堀出隼さん。築約50年の平屋の物件をリフォームし、住居兼アトリエを誕生させた。第22位鎌倉の平屋をリノベ築60年の味わいを楽しみながら暮らす「すべてが見渡せるのが平屋の魅力」と語る濱さんの住まいは、なんとここが3軒目の平屋だそう。緑豊かな敷地に建つ築60年の家をリノベした。第21位都心に残る平屋に暮らす先人の知恵と残したもの大切に受け継ぎ、今に接ぐ都心の住宅街で、昔ながらの佇まいを見せる平屋の日本家屋。ここに残された庭を守りながら、キュレーター石田紀佳さんは暮らしている。
2022年03月17日月を愛でる舞台装置八王子市の野猿峠突端の崖地に建つ建築家の落合俊也さんの家は、主に週末を過ごす実験住宅だ。「夕焼けの山並みと三日月が浮かぶ眺望が素晴らしいので、ここを『月舞台』と名付けました」。季節や時間に応じて大きなデッキを囲う建具を全解放し、様々な催しを楽しんでいる。崖に沿って地面をくり抜くように建てられた家は、床や壁が地面に接している安心感がある。洞窟に暮らしていた人類の太鼓の記憶が蘇るかのようだ。「地球の体温は15度あります。夏は涼しく冬は暖かい、15度という体温を活かすために崖地に住まいを作りました」落合邸でふんだんに使われている木材は、新月伐採し、葉枯らし天然乾燥させたものを使っている。「“柱を闇斬せよ”という言葉が伝えるように、冬の新月、木が眠っている時に伐採した木は狂いにくく、燃えづらく、素性のよい木となります。名器と言われるストラディバリウスのバイオリンも新月伐採の木で造られます。木のバイオリズムに叶っているのです」崖地に沿って建つ家は玄関のあるフロアが最も高い。玄関ドアを開けたらこの大空間が広がる。大きなデッキは夏の日差しを調節する機能を持つ。正面上部右側が玄関口。奥の階段は地階のベッドルームへ続く。ペンダントライトは春雨紙で作られている。キッチンも木材で作ることにより、家に関わる職人の数を減らしている。釘を使わず、一人の職人が伝統工法で作り上げた家。「大工のスターを育てたいと思いました」。木材は丁寧に面取りされていて、優しく心休まる空間となっている。玄関を入り、伝統構法の木組みの階段を降りていくと、それぞれのフロアに居場所がある。崖地の地盤に寄り添うようにスキップフロアで居室が連なる。伝統工法の木組みの階段。大地の安定した熱を利用するアースハウジング丁寧に伐採された木を使い、土間床式の地熱を利用した落合邸は、カビや新建材によるシックハウス症候群にも無縁だ。日本で2軒しか使われていないという真空断熱材を使って超高断熱高気密化し、屋根などから降りてくる暖気や冷気をしっかり断熱。窓にも結露が起きない。湿気がたまりやすい洗面やバスルームもいつもカラリとしている。「体感温度に影響するのは、床や壁が発する輻射熱です。壁や床が20度なら中の気温を20度に調整することはすぐにできますが、躯体が10度であれば、体感温度を20度にするために気温を30度にしなければなりません。温度の低い壁面の近くでは体から熱がどんどん取られます。多くの現代住宅はこうしたアンバランスな熱環境にあり、その温度差は人の健康を害し、壁内結露を生み出し、無駄な化石エネルギーの消費を生みだすという諸悪の根源ともなっています」「家の中に火を見る場所を作りたかったので、ペレットストーブを導入しました。炭や燃えカスがほとんど残らない優れものです」右側は扉の代わりに布を下げた物入れ。左側に水回り。正面は周囲の樹々を切り取ったピクチャーウィンドウ。端材を丁寧に継いだ天井は色を合わせるために柿渋を塗っている。空気の層を遮断するブラインドは断熱効果に優れる。窓は外側がアルミで劣化が少なく、内側は木製。結露を防ぐ工夫が施されている。ガラス面は紫外線で汚れを分解。地面に直に敷設したRCの床は地盤の温度が反映される。冬暖かく、夏は涼しい。炭を混ぜてグレーにしている。湿気のたまりやすい水回りも、常にカラリとしていて心地よい。「水回りは家の中の暖かい場所に作ったほうが結露しにくいです」“究極の木の家”を目指す森林の環境には人を健康にする力がある。「森林医学のエビデンスに基づき、“究極の木の家”を研究しています。均質で機械工業的な都市のストレスから開放され、生命が持つ本来のリズムを取り戻すことができます。良く眠ることができて、気持ちよく起きることができる。呼吸が深くなり、疲れを溜めにくくなり、免疫力が高まり、病気をしにくくなるのです」取材の最後に落合氏がクイズを出題。「この家は何階建てかわかりますか?」玄関〜テラス〜リビング〜ベッドルームの4層のスキップフロアだから2階建て、くらいかな??「答えは平屋です。RC+木造の平屋なのですが、確認申請がなかなか下りず、役所と戦いました(笑)」ダイニングとテラスを結ぶ横一列の大階段、設えを替えるためにはしごを登らなければ行けない和室、指を入れる穴の開いたイス……。落合邸には笑顔になってしまうしかけがそこここにある。究極の木の家、地熱利用、崖地────人生を大いに楽しむ家がここにある。木組みで造られたテーブル。木のスツールは一見重そうだが、中がくり抜かれていてとても軽い。持ち運びがしやすいよう指を入れる穴を空けている。はしごを登らなければたどり着けない和室。畳の縁が美しい。ブラインドの素材は杉。外壁はガルバリウム鋼板。内部の豊かな木の空間との対比がおもしろい。落合邸 /SILK-HUT「月舞台」設計 落合俊也(森林・環境建築研究所)規模 地階付き平屋建延床面積 133.76㎡
2022年03月14日楽しくてワクワクする家設計はある程度自由にしてほしかったので、建築家に対して具体的なリクエストはあまり出さなかったという齋藤さん。とはいえ「楽しくてワクワクするような家をつくってほしい」、さらに「光や風など自然を感じることができるような家にしてほしい」とは伝えたという。建築が好きでインテリアコーディネーターの資格ももつ齋藤さんは、設計を依頼した篠原明理さんに、学生の頃からつくってきたスクラップブックを見てもらったという。好みのインテリア写真などを貼り付けたこのスクラップブックについて篠原さんは「お話をうかがうだけでなく、齋藤さんの好きなものをある程度共有することができたので、大まかなイメージのすり合わせはできていたと思います」と話す。それはRC造の無機質でミニマルなデザインとは方向的には真逆ともいえる、内部に多様な居場所があって、かつまた、植物などがところどころに置かれているような家、といったイメージだったようだ。ロフトレベルからリビングを見下ろす。ダイニング側から見る。大きく開けた南東側の開口からは隣のお兄さんの家の庭が見える。基礎が生活の場まで立ち上がる篠原さんが最初に提出したのはRCの基礎がそのまま立ち上がって生活空間の一部となることを表す模型だった。コンセプチャルな印象も与えるこの模型を見て驚いたという齋藤さん。しかし「とてもワクワクした」という。「料理をする場所やロフトなどへ上る場所、植物が植えられる場所などがつくられていて、設計をお願いしたかいがあったなと思いました。ただ同時にどうなるんだろうという不安もあって、ワクワクと不安がちょうど半々くらいの感じではありました」篠原さんはこの模型案について「基礎からそのまま立ち上げて居場所をつくるというイメージははじめからもっていた」という。そしてその上に載る木造の部分をどうつくりこんでいくかについては、「実際の生活の場面を考えながらここにはこういう場所があったほうがいいだろう」など、齋藤夫妻と打ち合わせを重ねていったという。基礎からそのまま立ち上げたRCの階段。「象徴的なオブジェのようなものにもなっている」と齋藤さんは話す。建築家の篠原さんは左のアーチについて、装飾というよりも「ひとつの強い建築の言語として」とらえているという。打ち合わせ時にはイタリア・ルネサンス期の画家、アントネッロ・ダ・メッシーナの絵画とも関連させて説明を行ったという。洗面所のコーナー部分も基礎からそのまま立ち上げてつくられたもの。このアーチのトンネルは手前側にくぐるとすぐ目の前に吹き抜け空間が現れ、場面を切り替える役割もになっている。スタディコーナーとよばれる場所から奥に洗面所を見る。浴室はその右側につくられている。寝室のコーナー部分にもRCでつくられた場所がある。この梯子からロフトに上がることができる。右がスタディコーナー。「コンセントを上につけてもらったのでわたしはパソコンを持って行って仕事をしたりします。上の子はあそこで宿題もしますが、よくあのコンクリートの上に乗ったりしていますね」(齋藤さん)コントラストのある空間RCの基礎をそのまま生活空間にまで立ち上げるというコンセプトはこの家を大きく特徴づけるものだが、実際にこの空間を体験してみると、南東側に大きな開口が多く取られて、それとは対照的に逆の北西側に濃色の壁がつくられていることが目を引く。南東側の開口部は採光に関するリクエストに応えるほかに、隣に立つ齋藤さんのお兄さんの家の庭を借景として取り込むという役割もになうものだ。篠原さんは逆サイドの壁に濃い目の色を採用する際に、明るい南東側とのコントラストも考慮したという。さらに「木のテクスチャーを使いたいこともあって、ラワン合板にオイルステイン仕上げにすることにした」(篠原さん)とも。壁の色については「色のパターンを7、8ぐらい出していただいて、実際に現場で色見本を見ながら相談しながら決めました」と齋藤さんは話す。ロフト下のキッチンスペースのコーナーも基礎からそのまま立ち上がったRCでつくられている。左の窓ではお隣のお兄さんの家族とカウンター越しに気軽にコミュニケーションを取ることができる。階段側からロフトとリビングを見る。ふだんは大きなハンモックをかけているというロフトスペース。いずれ子ども部屋にすることも考えているという。階段前からリビング、キッチン、ロフトを見る。子どもたちも大いに満喫もう少しでこの家での生活が1年になるという齋藤さん一家。齋藤さんは「やはり家のそこここに居場所ができていますね」と話す。そしてこの「多様な居場所」を大きく享受しているのはお子さんたちだという。「下の子はあのRCの階段のところが好きでよく遊ばせたりしていますし、上の子はテレビのある窓際の台のところに座ってのんびりしたりしていることもあります。奥の部屋に行く途中のスタディルームでは2人で遊んだり本を読んだりもしていますね。あと、上の子は暖かい日にはスタディルームの真上にあるバルコニーで長い時間過ごしています」階段の踊り場は下のお子さんのお気に入りの場所だという。奥さんもRCでつくられた居場所が大いに活用されているという。「寝室の上にあるロフトからバルコニーに出られて、階段を上がったところにあるドアから室内に入ってこられるんです。回遊できるつくりになっているので上の子はぐるぐると走り回ったりもしていて、大人だけではなくて子どももけっこうワクワクしたつくりになっていて、この家を大いに満喫しているのではと思います」と話す。そしてさらに最後にこんなことも話してくれた。「子どもは新しい遊び場所を見つけるのがほんとに上手で大人が思っても見なかった遊びを勝手に開発する。その楽しそうな姿を見るのがとてもうれしいし楽しくて。こういうのも“ワクワクする”ということなんだなと思っています」寝室の上のロフトからバルコニーに出ることができる。階段を上って右側にあるドアからバルコニーに出られるので、バルコニーを介してロフトに行くこともできる。道路側につくられた階段からバルコニーを見る。奥に見えるのが階段を上がった場所にあるドア。バルコニーから道路側を見る。手前左が倉庫のドアで奥がロフトスペースへと通じるドア。「篠原さんには外観はそんなに気にしなくていいですとお伝えしました。外よりも中のほうに重きを置いてもらって、それに付随して外の形がつくられていくというかたちでいいんじゃないですかと」(齋藤さん)「長いスパンで考えると、この土地の扱い方が大きく変わるかもしれない。そのときに今とはまったく異なる様相の空間をコンクリートの部分をベースにしてまた新たに創り出すこともできるのではないかと思います」(篠原さん)齋藤邸設計篠原明理建築設計事務所/office m-sa所在地東京都昭島市構造RC造+木造規模地上1階+ロフト延床面積110.05㎡
2022年03月07日辿り着いたのは「凸凸型」の家テトリスのピースを連想させる凸型の外観が印象的なS邸。Sさん夫妻と3歳の長男、1歳の長女の4人家族が暮らすこの家が完成したのは約2年半前のこと。「以前は賃貸アパートの2LDKに住んでいました。当時はまだ子どもが生まれていませんでしたが、いずれは戸建てでのびのびと暮らしたいと考えていました」と振り返るご主人。夫婦で建売住宅を見学していくうちに徐々に新たな住まいへの要望が定まっていき、自由設計の家づくりを決意したという。S邸の設計を担当したのは設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんと吉村明さん。「IYsさんと家づくりを行っていた職場の同僚からの紹介がきっかけで依頼することになりました。家づくりについては知らないことばかりだったので、土地探しからご相談させていただきました」とご主人。S邸が建つのは、三方を道路に囲まれた半島状の変形地。周囲を住宅に囲まれていることから、いかにして外からの視線を遮り、開放感のある心地よい空間をつくるかがポイントとなった。「いくつものプランを作成して検討を重ねた結果、この凸型の形状に決まりました。台形型の敷地形状に合わせて、凸型を二重にした「凸凸型」に雁行させることで南東・南西面に空地を作り、光や風を取り込むことができます。また、周囲からの視線が対面しないように角度をずらして配置しています」(井上さん)。S邸外観。左側の道路を基準線として凸型に雁行している。南西側からのS邸外観。家全体を覆う大屋根が描く稜線が美しい。二重の凸型形状がよくわかる裏側からの眺め。それぞれ大きさの違う三方向の開口がかわいらしい印象のバルコニー。中庭から光が差し込む明るい玄関スペース。利便性のよいシューズクロークの入り口は奥さまの要望によりアーチ状に仕上げた。光と風が通り抜ける、起伏のある大空間ロフトまで続く吹き抜けによって開放的な大空間となっている1階LDK。「家族の様子がわかるように」という奥さまの要望もあり、キッチンからは1階全体を見渡すことができる。また、水回りはキッチンの裏側にまとめ、キッチンとリビングの両方向から、ぐるりと回ることができる利便性のよい生活動線を確保した。意匠面では、「木の素材感を大事にしたい」という希望を持っていたご主人。存在感のある現しの柱や梁、窓枠など随所に木を使い、温もりのある空間を実現した。「柱や梁などは完成時、明るい色合いをしていたのですが、年月を経て、濃い色に変わってきています。床のオークの色合いともマッチして、統一感が出てきました」(井上さん)。明るい光と風が通り抜ける開放感たっぷりのS邸。設計の際には、採光の面も考慮し、慎重に調整を行ったという。「この敷地は、南側の方へ段々と土地の高さが上がっていくため、日当たりがとても心配でした。そのため、敷地や近隣の住宅の模型を作成し、実際にライトを当てて、日当たりを何度も検討しましたね」と井上さんは微笑む。天井の高い開放的なLDK。床はオークの無垢フローリング材を使用。右側の小上がりの畳スペースは子どもの遊び場として活用している。リビングと階段の間に小上がりを設けているのもポイントの一つ。「大きい空間をつくるときは、間延びしないように起伏のある空間を心がけています。段差を設けることで、ベンチのように腰掛けたり、横になったり、自由な使い方ができます。また階段下にも空間ができるので、収納棚を置いたり、子どもの遊び場としても活用できます」(井上さん)。リビングからはしごを掛けてロフトへ上がる。「私は書斎として、妻はヨガを行うスペースとして活用しています。秘密基地のような空間を楽しんでいます」とご主人。ロフトからLDKを見下ろす。「開放感のあるLDKは特に気に入っていますね。寝っ転がると、天井の高さをあらためて感じます」(ご主人)2階は子ども部屋と寝室を配置。上部のロフトには集熱器を設け、暖かい空気を循環。家全体が心地よい室温に保たれる。バリエーションが生み出す空間の広がりプライバシーを確保しながらも、開放感のある心地よい家を実現したIYsの井上さんと吉村さん。「三方向から光が入るため、どこにいても明るい空間が続き、まるで公園の中にいるような不思議な感覚がありました。平面の広さに加え、凸型の形状や段差、回遊性によって内部空間にもバリエーションが生まれ、実際の空間以上の体感的な広さにつながったのではないかと思います」と完成当時を振り返る井上さん。竣工から2年半の間に起きたコロナ禍においても、快適な毎日を過ごしているというSさん一家。「以前の住まいのまま、コロナ禍になっていたら大変だっただろうね、と妻ともよく話します。子ども達が家中を走り回って遊んでいるのを見ると、この家を建てて、本当に良かったなとつくづく思います」と語るご主人。これから先、家族の成長とともに変わりゆく暮らしにも、この住まいは寄り添っていくことだろう。造作のニッチを設えた使い勝手のよいキッチン。生活動線を考慮したオープンな洗面スペース。キッチン横からアーチ状の入り口を挟んだ先に浴室があり、左奥は洗面スペースへとつながる。リビングから見えない場所にある通路には、使い勝手のよいマグネットウォールを設置。子どものもらってきたプリントなどを貼っている。洗面スペースの対面には、造作の収納棚を設置。全開口サッシによって、リビングからウッドデッキまで一続きに連なる。施工株式会社坂牧工務店意匠設計Inoue Yoshimura studio Inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社) 構造設計川田知典構造設計 所在地神奈川県横浜市 構造木造 規模地上2階建 延床面積約129㎡
2022年02月28日4兄妹が均等に土地を利用束野由佳さんが生まれ育った目白の家を建て替えし、親世帯と4兄妹の5世帯住宅を作ることになった。「父は次世代に土地を譲る際、小さく分割したくないと考えていました。そして4兄妹で平等に住んで欲しいとよく話をしていました。その願いを叶えながら建て替えを進めたのですが、4世帯で住宅ローンを作るしくみはどの銀行にもありませんでした。そこで4兄妹で法人を設立し、事業ローンを組むことにしました。このローンの話がまとまるまでに2〜3年かかりました。ハードな船出でした(笑)」設計は建築家の夫、木下昌大さん(『キノアーキテクツ』)。「たとえばコーポラティブハウスの設計の場合、ライフスタイルや予算が近しい方が集まりますが、4兄妹は家族構成、家の使い方や趣味、予算などが様々です。長兄+妻を含む3姉妹+それぞれの家族+両親、総勢10数名の希望を叶えながらひとつの形にしていくのが大変でした」4兄妹平等にというお父様の考えを尊重し、4世帯を南北の短冊状に均等に配置。2世帯が地下+1階・2階+ロフト、もう2世帯は1階・2階+ロフトにした。地下と1階をRC造にし、耐震性を確保。上階は木造に。「土地が旗竿地だったこと、南側が中学校のグラウンドに面して開けていたこと、残したいアカマツの位置などの条件から、今の形に決まりました」木下家は4世帯のうちの1戸に、一家4人が暮らす住まいと、階下に設計事務所を構えた。ここ東京オフィスと、京都ラボを行き来して仕事をしている。大きなアカマツを残して住居を設計。向かって左側が親世帯の住居。右側に子世帯が並ぶ。従姉妹どうし仲良く遊んで育つ素晴らしい環境。1階がRC、2階がガルバリウムの外観。子世帯4住戸は平等に同じ広さ。深い庇の下、濡れずにお互いの家を行き来できる。ヴォールト天井が印象的なリビングアーチ状の凹凸が連なる天井が印象的なリビング。「梁の高さに合わせて平面の天井を作ると全体が低く感じるので、アーチ状にして天井高にゆとりを持たせました」アーチの低い部分にライン状の照明器具を仕込んでいる。照明器具の直線とアーチの曲線が美しいハーモニーを奏でる。天井はシルバーにペイントされていて、天井が輝きながら外からの光を奥に届ける。床のシャビーなグリーンのリノリウムに合わせ、キッチンの扉、ダイニングテーブルのスチール脚や天板の小口もグリーンにまとめている。手前のイスはジャン・プルーヴェのスタンダードチェア、黒のパイプチェアはジャスパー・モリソン。楕円形のダイニングテーブルはオリジナルで製作。パイプチェアの脚に合わせ、テーブルの脚のパイプの太さを決めた。テラスの庇と天井の角度が連続している。屋根の傾斜に合わせて段を刻んだ天井はシルバーに塗装。南側の大きな窓から入った光を反射し、部屋の奥まで光を届ける。窓枠を本棚兼ベンチに。様々な役目をこなす楕円のオリジナルテーブル。食事はもちろん、仕事や子どもたちが宿題をする机にも。ロフトから2階リビングを見下ろす。窓の外は隣の中学校のグラウンド。天窓から光が落ちるバスルームモルタルの壁に陰影を作りながら天窓からバスタブに光が落ちる。天然石のような趣のある大判タイルの腰壁。そしてレインシャワー……。トイレはグレーをチョイスすることでインテリアの一部になっている。「スリランカのコロンボで泊まったホテルのバスルームに天窓があり、とてもドラマティックな空間でした」。その宿泊体験から生まれたバスルームだ。天窓から光が差し込むロマンチックなバスルーム。グレーの洗面ボウルはチエロ。タオルウォーマーには浴室を乾燥させる効果も。天窓からバスタブに光が落ちる。トイレはLIXILのグレーをチョイス。キッチンの奥のランドリースペース。奥はガス乾燥機の乾太くん。「分厚いバスタオルも30分でふわふわに乾きます」キッチンの天板はシーザーストーン。天然石のような美しい質感を持ちながら、熱にも水濡れにも強い。IHコンロはAEGの4口。換気扇は上につけず、下から吸い込むすっきりとしたスタイル。オーブンと食洗機はASKO。ショールームの役割も「キノアーキテクツは京都と東京に設計事務所があります。生活のベースは京都で、子どもたちは京都の学校に通っています。 この東京の家にはショールームのような役割を持たせたいという意図もありました。お客様との打ち合わせに2階リビングのテーブルを使っていただくこともあります。私たちがいない間も気兼ねなく使ってもらうために、鍵付きの収納を作りプライベートな荷物はそこにしまうようにしています」親世帯の建物に住む束野さんのお母様が事務所のスタッフに食事をふるまうこともあるそう。それぞれの家族がお互いのライフスタイルを尊重しつつ、雨に濡れずに行き来できる5世帯住宅。相続の際に土地が切り刻まれることが多い中、新しい世代に土地を受け継ぐしくみを建築の力で作ることに成功した。1階と地下がキノアーキテクツの事務所スペース。階段はRCの壁に作ることで、昇り降りの音が隣に伝わりにくくなる。コンパクトな子ども部屋はそれぞれ好みのカラーに。大好きなパープルの部屋に。星が見える天窓がお気に入り。木下邸設計キノアーキテクツ構造RC+木造 規模地下1階 地上2階延床面積 119.97㎡
2022年02月14日必要最低限の面積で建てる「最初の想定ではとりあえずの仮の住まいでした」と話すのは建築家の加藤さん。1000㎡ほどもある広い敷地は不確定な要素が多かったため、敷地のどの場所にどの程度の規模の自邸を建てるかを決めるのが難しかったという。そこで、加藤さんは必要最低限のスペースのある家を、10年間程度住むぐらいのつもりでつくってみたらどうかと考えた。「面積は約32㎡で、住宅ローンを組みたくなかったので、必要最低限の予算でキャッシュで建てました」。外構や工務店経費なども含めた総工費は約720万だったという。奥さんの実家の敷地に建てられた加藤邸。隣には祖母の家が立つ。工費を抑えるために天井はサッシと同じ高さに抑えたが、これが床と同レベルのテラスの存在と相まって外との連続性、さらには開放感を創り出している。最低寸法からつくる建てた当時は夫婦と子ども2人の4人家族。まさに必要最低限の広さといっていいが、一般的な家づくりのように、確定している面積から間取りを決めていくのではなく、空間を使うときの最低寸法からつくっていったら32㎡ほどの面積になったということらしい。「キッチンはこのように使うからこのくらいの面積でいいよねとか、ダイニングだったらこれくらいだねという具合にきめていきました。そうしてつくっていった結果、32㎡という大きさになったんです」浴室やトイレ、洗濯スペースなどもぎりぎりの寸法を割り出していった。こうしたことは一般の人にできることではないが、さらにまた建築家ならではの工夫も。「可動の収納棚はすべて奥行き60cmで設定しているんですが、これを中途半端に45cmとかにするとふつうに1段としてしか使えない。15cm延ばすことによって倍の収納量を確保しています」テラス側から見る。加藤邸はこの空間のほかに、奥に寝室と浴室、トイレなどがあるのみ。可変性のある家必要最低限の大きさを決めるほかに、設計時の基本コンセプトはさらに2つあった。ひとつは可変性で、これは基本的に決められないことは決めないでおくという方針ともなった。「建てる前に机上でぜんぶ決めないといけないのは理不尽ではないかと思っていて、むしろ住んでからわかることのほうがたくさんある。キッチンの位置とか決めないといけないことは決めるけれどもそうではないものは住みながら自然にここにほしいと思った時に付け加えたりできるようにしています」奥行き60cmの棚を使った見せる収納。右のクローゼットには今の季節に着るものだけが収まっている。それ以外の服は奥さんの祖母の家の2階に置かれている。そのためにとりあえず間仕切りの壁は必要最低限のものを設けるにとどめているが、さらにまたこれとは別種の可変性も仕込まれている。壁・天井には構造用の合板が張られているが、これが仕上げ材としても優れものなのだ。「石膏ボードとビニールクロスという一般的な組み合わせは住宅には実は向いていないのではないかと思っていいます。石膏ボードはビスがきかないし付けるとボロボロになってしまうので何かを付けたりはずしたりができないんですね。でもこの合板だとそれができるし、さらに穴が開いたり傷が付いても気にならないんです」。つまりこの合板が、生活に伴う変化にも耐えうるものにしているのだ。構造用のラーチ合板が張られた室内。木目や節がはっきりとしているため、傷などがついても目立たない。また、ある程度室内が散らかっていてもそれがストレスに感じられることはないという。モノの強度と見た目の強度穴が開いたり傷がついても気にならないのは、木目の模様や節が目立って、この合板が材料としての強度だけでなく見た目の強度も併せ持っているからだが、このあたりが加藤さんが「ダサかっこいい」と表現するもうひとつのコンセプトを可能にしている。「予算が限られていて水栓ひとつとっても高価なものは使えないので、安価なものであっても空間がかっこよくなるようにベースを整えていく」という加藤さんの考え方は、この構造用合板など素材感や色味のある仕上げを使うことで可能になっているのだ。キッチンに限らず設備類はすべて安価なものを使っているというが、この空間ではそれがチープな印象を与えずまたトータルな印象も乱すことがない。加藤さんが以前仕事スペースとして使っていた場所にはソファが置かれている。サイズに合うものを購入したという。いちばん上の棚にあるのは模型ではなく、レゴでつくったサヴォワ邸やファーンズワース邸など。玄関ドアを開けるとその先に見えるのは奥さんの祖母の家。玄関のドアを閉めた状態。洗濯スペース、左に浴室とトイレがある。寝室には長男用にロフトベッドを増設。また、寝ながら映画が見られるように天井を白く塗ってスクリーンにした。室内で竹馬をしたりもするが、そうしたことで付いた傷は生活の痕跡としてこの住宅への愛着を生むと考えている。子どもたちの成長の記録が棚の側板に刻まれているが、この空間では変に浮くこともなく逆にしっくりとおさまって見える。増築という選択肢とりあえず仮の住まいとして建築したが、「隣の敷地がまだ空いているのでそこに増築するのもいいね」という話を建てて2年ほど経ってから奥さんとするようになったという。「ローンを組んだつもりで定期を積み立てていって、満期になったタイミングでその金額の範囲内でそのとき決まったこと――子ども部屋をつくるとか仕事部屋をつくるとか――をしていくというのを5年単位くらいで繰り返したら面白いんじゃなか」と考えるようになったのだそうだ。このアイデアはこれからの時代にフィットしているのではとも考えているという。「終身雇用制が崩れてしまいまた今はコロナ禍もあったりといった状況で借金をして住む場所を固定してしまうことがリスキーだと感じている人はたくさんいると思うんです。増築を続けていくというのは都心だと難しいですが、住宅ローンを組まないでも建てられるひとつの例としてまずやっていこうかなと思っています」必要最低限の広さとはいえ、人の動きや身体感覚などを計算して空間をつくっているため、家族5人が揃っても窮屈な感じはまったく受けない。テラスの上にかかるタープは夏の強い日差しを避けるために付けたが、見た目の心地よさにも大いに貢献している。夏にはテラスの上にテントを張ってキャンプをすることも。祖母の家側から見た加藤邸。手前側に増築してもいいかなと考えている。住みはじめて3年ほど。住み心地はいいが「広いとはまったく思わないですよ。やっぱり狭いです」と加藤さん。でも「窮屈でどうしようもないとはまったく思っていない。期間限定で考えているから何かあれば増築すればいい」と話す。「設計者なのでいつでも図面は描けるので、狭さが今よりも気になったら広げればいいと思っています。フックとかを必要なったら付けるのと同じように、ほしくなったら建てればいいじゃないかという気持ちでいるんです」。この気軽ともいえる構えがこの家を「窮屈」と感じさせないひとつの秘訣にもなっているのだろう。加藤邸設計N.A.O|ナオ所在地神奈川県秦野市構造木造規模地上1階延床面積約32㎡
2022年02月07日吹き抜けから星空も楽しめる荒木敬司さんはガーデンデザイナー、幸恵さんはフラワーアーティスト。ご夫婦ともに緑に縁の深い仕事に携わっている。そして7歳の禅くんとの3人家族だ。家は「谷戸」と呼ばれる起伏のある地形の高台に建つ。家はなんと星のカタチ!俯瞰して見るとカタカナの“オ”に近い形をしている。 この星型の家には、建物と建物に挟まれた5つの三角形の庭を含む、東西南北、様々な環境の庭がある。この環境の違う庭こそ、荒木邸が星の形になったヒミツが隠されている。オーストラリア原産の植物、暖かい場所で育つディクソニアというシダの仲間、サボテンや多肉植物、保湿のためのマットと共に地植えする食虫植物などなど、庭の環境を違いを活かした植物の実験場になっている。その育成結果が敬司さんの仕事に生かされているのだ。なんといっても高台からの眺めが素晴らしい。リビングの窓の正面に緑たっぷりな公園が見える。取材に伺ったのは冬だったけれど、四季折々の緑の変化が楽しめるとのこと。高さ約5mのリビングの吹き抜けを生かしたハイサイドの窓からは、星空も楽しめるのだそう。窓の外に公園の景色が広がる。ダイニングテーブルは敬司さんが作ったもの。サペリというアフリカ産の銘木にアイアン作家の脚を組み合わせた。複雑な星のカタチの角度が豊かな奥行き感を生む。窓の内と外、遠景の公園が、三層の豊かな緑の景色を作る。テラスの外に大谷石を敷いた。ここから見える庭はアガベを中心とした植え込み。「以前は店舗を構えていたのですが、家の居心地が良すぎて、今は家でフラワーアレンジメントの制作しています。『輪(りん)』は、ワークショップやイベントを行ったり、オンラインショップで販売もしています」幸恵さんが仕事で使うドライフラワーのストックの棚も敬司さんのDIY。下の箱はキャベツボックス。約5mある吹き抜けが気持ちいい。壁に飾っているのはアガベの大きな花のドライ。ローテーブルは敬司さんのハンドメイド。庭の鉄柵は鉄の作家さんにお願いして作ってもらったもの。光あふれる明るいキッチン星型の荒木さんの住まいは、キッチンに立つと、庭をはさんでリビングが見える。リビングのテーブルにいる家族の様子を見ながら料理ができる。リビングから数段上がったところに洗面があり、その奥にバスルームがある。お風呂に入りながら庭を眺めることもできる。星型の平面図の複雑さに加え、スキップフロアの空間の変化が楽しい。正面がキッチン、左側がリビング。幅3mのステンレスの天板のゆったりとしたキッチンは、手前がキャンティレバーになっている。窓越しにリビングが見える明るいキッチン。料理道具をかけている棚板はDIYで。食器棚はオープンに。DIYで棚板を増やしている。1階と2階の間に洗面室。右側に開いた隙間からリビングが見える。玄関はガラス戸。1階の床はモルタル。サーマ・スラブ(蓄熱式暖房)で冬は優しい暖かさ。吹き抜けを囲んでひとつにまとまる家寝室や子ども部屋に扉がなく、吹き抜けを通して、ひとつの大きな空間になっている。ドアがあるのはトイレと浴室だけ。収納にもドアがなくカーテンで仕切っているので、ものの出し入れがしやすい。「設計は前田工務店にお願いしました。友人に“きっと前田工務店が好みの家を建ててくれると思う”、とご紹介いただきました」前田工務店は、建築士、そしてカメラマンという3名体制で設計を担当。「設計図ができあがるまで、念入りに打ち合わせをしました。『魔女の宅急便』の家のような、忍者屋敷のような、吹き抜けとスキップフロアのある家が希望とお伝えしました。そして様々な環境の庭で植物の生育の実験をしたい、という希望があることもお話しました。そしてできあがったのがこの星型の家です。公園を望む高台の土地も探していただきました」古材はあえて使わなかったのだそう。「住むうちに長い時間をかけて古材へと変化する楽しみを残したいと思いました」敷地は谷を見下ろす擁壁の上にある。南側は高低差があるが、北側は敷地とフラットにつながっている。外壁は「そとん壁」と呼ばれる自然素材を使っている。2階の吹き抜け下からリビングを見下ろす。2階には2箇所、1階を見下ろせる場所があり、それぞれ違った見え方を楽しめる。階段の踏み板の隙間から見える1階と2階のドア2つはトイレ。それぞれのドアにリースを飾る。階段の下を有効活用した靴入れはDIYで製作。2階は右側に寝室、左側に子ども部屋、正面にワークスペースがある。個室や収納には扉がなく、間仕切りはカーテンのみ。2階の床は杉材のフローリング。リビングの上の橋状になった場所がワークスペース。正面に薬師池公園が広がる。新緑の季節は最高の眺めになるそう。造作デスクは正面と右側にも窓がある明るい環境。
2022年01月31日理想の家を求めて、設計を依頼東京都と千葉県の境界を流れる江戸川にほど近い千葉県・市川市の閑静な住宅街。この一角に暮らしているのは、デナリやK2などの海外登山を経験している登山家であり、WEB・動画ディレクター、プロモーターとしても活動する佐々木理人さんと妻・喜久子さん、そして、1歳の娘さんの3人家族だ。「以前は賃貸マンションの3LDKに夫婦二人で暮らしていました。3年ほど前から将来設計を考えて、家づくりを検討するようになりました」という理人さん。喜久子さんの実家がある市川市にエリアを絞り土地探しからスタート。条件に合う土地を見つけた佐々木夫妻は、設計をディンプル建築設計事務所の主宰・堀泰彰さんに依頼した。「もともとは別の建築事務所に依頼していたのですが、私たちの要望があまりフィードバックされずに不満がありました。そんなときにたまたまネットで見つけて、素敵だなと思ったのが、堀さんの手がけた住宅でした。夫に話したところ、偶然にも堀さんと夫が知り合いだったため、早速堀さんに相談させていただきました」と喜久子さん。理人さんも「急遽相談することになったのですが、空間を余すことなく活用して、私たちの要望に合うようなデザインを提案していただきました」と振り返る。理人さんが特にこだわった使い勝手のよい広い玄関。土間のスペースに棚を設置したことで、土足のまま道具の出し入れができる。たっぷりと収納ができる造作棚に山道具が並ぶ。手前は理人さんのワークスペース。理人さんの仕事場でもある土間には、来客用のテーブルを設置。右手の植物には吹き抜けからの光が降り注ぐ。正面奥の小上がりの畳スペースの下にも収納用の空間を確保している。畳スペースを区切られるようにスクリーンを設置。プロジェクターから投影し、大画面の映像を観ることができる。水回りは1階にまとめて配置。洗面を二つ設置したことで、忙しい朝の時間帯も混雑することなくスムーズに。広い玄関スペースと開放的なLDK佐々木邸は1階に理人さんの仕事場を兼ねた玄関スペースと収納、水回りを配置。2階にLDK、3階に寝室と子ども部屋を設えている。娘さんが生まれる前は夫婦でもよく山登りをしていたという佐々木さん夫妻。家づくりにあたって特にこだわったのは、山道具の収納と運びやすさを重視した広々とした玄関スペースだ。「以前の住まいでは3階まで重い荷物を持って昇り降りしなければならなかったので、山道具を1階でまとめて収納し、土足でも持ち運びできるような広い土間空間にしたいということを最初のプラン作成時に堀さんにお伝えしました。また、土地が11坪と比較的小さい敷地なので、収納スペースはできるだけ確保してもらいました」(理人さん)。メインの生活空間である2階LDKには、吹き抜けとバルコニーにつながる大きな窓からたっぷりと光が差し込み、明るく開放感あふれる空間が広がる。「全体的なテイストは、堀さんが過去に手がけられた事例の雰囲気をそのまま取り入れてもらいました。家の中にいても開放感があって、とても明るいので、窮屈さを感じることはありません。窓が多いので寒くなるのかな、と少し心配もしていたのですが、気密性が高いため、冬でも快適に過ごすことができています」(喜久子さん)。白い壁や家具と木材を基調にした温かみのある2階LDK。「採光を考慮して、リビングは南東側に開けるようにしました」と堀さん。明るく開放感あふれる空間となった。夫妻ともに料理をする佐々木さん夫妻。大型の食洗機が入るシステムキッチンと動きやすい通路幅にこだわった。吹き抜けからもたっぷりの光が差し込む。娘さんがまだ小さいため、吹き抜け側には落下防止を兼ねた収納棚を設置している。難易度も追求したクライミングウォール佐々木邸の大きな特徴であり、理人さんが強く要望したのが、外壁に設えた高さ約9mのクライミングウォールだ。「南東方向に開けるように角度をつけたりして難易度にもこだわっています。単純な直角ではなく登るにつれてオーバーハングするように計画しています。外部でここまでのクライミングウォールを設置するのは珍しいのではないかと思います」と堀さん。何度も現地に足を運んで検討を重ね、プライバシー面も考慮して設計を進めた。佐々木さん一家がこの家で暮らし始めてから、もうすぐ2年が経とうしている。「コロナ禍により在宅も増えたので、家づくりのタイミングとしても良かったかもしれないですね」と夫妻は声を揃える。最後にこれからの楽しみについて伺うと、「子育てもあるので、山登りはできていないのですが、子どもが成長したら家族で山登りやキャンプもできればいいなと思っています。さらに今は使っていない子ども部屋をこれから作り込むのが楽しみです」と理人さん。家族の成長とともに、たくさんの思い出がこの家に刻まれていくことだろう。3階寝室。かわいらしい木製サッシの窓から心地よい光が差し込む。家づくりにおいて外せないポイントの一つだったというのが、この眺めのいい屋上。「子どもが大きくなったら、ここでBBQなどをやりたいなと思っています」(喜久子さん)。佐々木邸外観。洗練されたシンプルモダンなデザインが印象的。理人さん要望の約9mのクライミングウォール。「夏には何度も登りました」と理人さん。
2022年01月31日野原に建つ切妻屋根の家広大な敷地の一角に建つ、大きな切妻屋根に包まれた平屋。この家で暮らすのは、IT関係の仕事をしているご主人と建築に興味のある奥さま、新体操に夢中で元気いっぱいの娘さん(6歳)のNさん一家。都内のマンションから自然豊かなこの地に移り住み、2年半ほどが経つ。「親戚から譲り受けた農地の一部を宅地に転用して家を建てました。広く恵まれた敷地なので、平屋にしておおらかに暮らしたいと思ったのです」(ご主人)。設計を依頼したのは、奥さまが以前から心引かれていたという『imajo design』の今城敏明さんと由紀子さん。「建築物が好きで、子どもの頃から住宅関係のテレビ番組をよく観ていました。5、6年前に観た今城さん夫妻が手掛けた、丘の上に建つ家が忘れられなくて。家を建てることになり、すぐにコンタクトを取りました。オープンハウスを2軒見せていただき、陰影がきいた落ち着いた雰囲気がやはり素敵だなと思って。ほかの設計事務所は考えられなかったですね」(奥さま)。絶大なる信頼を寄せていたため、建築家へのリクエストは、「平屋」「切妻屋根」「広いリビング」「個室は3つ」くらいで、あとはお任せだったと話す。シンプルで大胆な切妻屋根の外観が目を引く。屋根はガルバリウム鋼板、外壁は杉を使用。「アンドリュー・ワイエスが描いた“オルソンハウス”をイメージしました」とは、建築家の今城敏明さん。500㎡近い広々とした敷地。もともと植えられていたモミジやツバキ、キンモクセイ、隣の敷地の植栽など緑に囲まれ、見事な景観。「どの季節も素敵ですが、特に春は、桜とミツバツツジのピンクのコントラストがきれいですよ」(奥さま)。垂木の美しい陰影に包まれる数段上がった玄関を入り、天井の高さを抑えた土間を抜けると、高く吹き抜けた広々としたLDKが現れる。最も高いところで4.8m。切妻屋根の形状をそのまま感じられる天井には、30cmピッチで垂木が並び、陰影に富んだ繊細なデザインが目に飛び込んでくる。「シンプルな外観と内部のイメージが異なるようで、皆さん驚かれますね。住み始めて2年以上経った今も新鮮で、いつも素敵だなぁと思います(笑)」と、目をきらきら輝かせて話す奥さま。大きな屋根に包み込まれるような感覚と開きすぎていない開口が、心地よい安心感と静謐な空気をもたらしている。最も高い位置で4.8mもある屋根なりの勾配天井。高い天井と垂木による優しい陰影が教会を彷彿させる。リビング側からダイニングキッチンを見る。正面奥が土間、玄関。垂木はグレーに染色した米松を使用。屋根を支える中央の鉄骨ポールが、ダイニング、キッチン、リビングをゆるやかにゾーニング。グレーに染色した米松を使用した玄関ドア。年月によって味わいが増す真鍮のドアノブとも好相性。横のFIX窓から風景が楽しめる。『カイ・クリスチャンセン』のチェアと北欧ヴィンテージの円卓を置いたダイニングスペース。キッチンの正面にあたる場所に大きめの窓を設置。ダイニングテーブルに合わせてチーク材で造作したキッチン。カウンター下のルーバー部分にはエアコンが隠れている。磨きを残したステンレスの天板が家の雰囲気にマッチ。プライベート空間へと続くドア。枠のないシンプルな造りがご夫妻のお気に入り。N邸のドアノブや取っ手などの金物は、経年変化が楽しめる真鍮で統一。「ノブやツマミが小ぶりで、いちいちかわいいんです(笑)」(奥さま)。階段を上がり、子ども部屋、寝室へと続く。「玄関から寝室へと奥に行くほど床を上げ、暗くし、落ち着く空間になるよう演出しています」と今城敏明さん。「廊下の突き当りに灯る明かりが真ん中からややずれている、この光景が好きなんです」(ご主人)。あえて景色を見る窓は付けず、トップライトを施したバスルーム。夜空の月や星を眺めながらのバスタイムは心身ともにリラックスさせてくれる。洗濯機を置いた洗面室の向かい側の家事スペースには、作業カウンターを設置。真鍮製のブランチビットランプやウォールミラーが雰囲気を盛り上げる。景色を切り取る窓「おおらかな風景やその場所の持つ空気感を暮らしに取り込むと同時に、恵まれたロケーションならではのダイレクトに受ける自然の猛威から室内を守ることも考えました」とは設計を担当した今城敏明さん。シンプルな切妻屋根は水切れが良いという利点があり、また軒を出すことで強すぎる陽射しをカットする。大きな掃き出し窓はあえて設けず、床レベルを上げて地面から距離を取ることで、砂埃や虫の侵入、湿気などを防いでいる。FIX窓や通風窓は、四季折々の美しい景色と室内の居場所とが呼応するように配置を工夫した。リビングのコーナー窓の前に鎮座したニーチェアは、景色を楽しむ特等席。「ここに座って外を眺めると、ブランコで遊ぶ娘の姿も見えるし、遠くの樹々まで見渡せて気持ちいいです」(ご主人)。テレビ台兼ベンチを造作。ヴィンテージショップのサイトで出会ったというネストテーブルは、「好きなところに持っていけて便利」と奥さま。掃き出し窓は設けず、左奥のテラスから出入りする。見る位置によって切り取る景色が変わるコーナー窓。最近購入したというニーチェアからの眺めは圧巻。FIX窓にすることで砂埃や虫などの侵入を防いでいる。寝室の一角を、コロナ禍で在宅勤務になったご主人のワークスペースとして活用。低めに設置した窓は、腰掛けるにも程よい高さ。子ども部屋に置かれたヴィンテージのキャビネット。モビールや植物で装飾した大人かわいい空間は、奥さまのセンスが光る。あおり止めを採用したレトロな木製窓。大人が座ることが多いという『IDEE』の子ども用ソファ。N邸に多く採用されている、シンプルなブラケットライトは『imajo design』のオリジナル。自然豊かな地での楽しみ方広い敷地を有するN邸。「庭を1周ウォーキングすると汗ばむくらいで。けっこういい運動になりますよ」と笑う奥さま。「引っ越してきて1年後くらいにコロナ禍になり、一時期は幼稚園も休みになりました。そんなときに娘が外でのびのび遊べるスペースがあってよかったなと思いますね」(奥さま)。暮らし始めて3年目。この土地での暮らし方がわかってきたと話す。「春から秋にかけては、4,5回トラクターで草を刈ります。最初は大変でしたが、いまでは季節ごとにどのように動けばいいかわかってきて、楽しめるようになりました」(ご主人)。庭の一部には、食卓にも登場するブルーベリーやオリーブなどが植えられ、ご主人がDIYしたブランコやバーベキューをするためのブロックも置かれている。夏にはテラスにタープを張り、プールやバーベキューを楽しんでいるという。「まずは家の前に芝生を敷いて。そのあと小さな菜園にも挑戦したいですね。いずれはヤギを飼って草を食べてもらって。家で食べる野菜や果物をまかなえるくらいになったらいいなと思っています」(奥さま)。自然と共存する暮らしの中で、Nさんたちらしい家へと育てていかれることだろう。ご主人がDIYしたブランコがお気に入りの娘さん。寝室兼ワークスペースからの眺め。奥さまのリクエストでご主人が作製したラダーラック。「木の種類や色を妻に選んでもらいました。我ながらよくできたと思います(笑)」。ゲストルームとしてリクエストした和室。土間との一体感で広く感じられる。玄関ドア脇のFIX窓の外側から障子戸が見える。「この家に和室がある?」という意外性が評判だそう。N邸設計imajo design所在地埼玉県上尾市構造木造規模地上1階延床面積113.8㎡
2022年01月24日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、10年めを迎えています。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2021年中に読まれた記事の中から、リノベーション事例のアクセス数ランキングを公開します。第10位築11年の建売りをリノベ暗くて住みづらい家から住みやすく愛すべき家に2009年に購入した建売住宅をリノベーションしようと思い立ったMさん夫妻。まずは動線の悪さや1階の暗さなどぜひとも改善したい点を伝えたうえで建築家とのやり取りが始まった。第9位インテリアスタイリストの自邸時を超えて再会したヴィンテージハウス昭和31年竣工、築65年という古民家に住むインテリアスタイリストの窪川勝哉さんと編集者の寿子さん。古いものには月日が育んだ物語がある。お二人がこの家の65年のストーリーを引き続き、さらに豊かな歴史を刻んでいる。第8位海を愛する建築家の自邸海まで3分。カリフォルニアスタイルのヴィンテージハウス数々のカリフォルニアスタイルの家を手がけてきた建築家・岩切剣一郎さん。満を持しての自邸は、茅ヶ崎の築約40年の平屋のヴィンテージハウス。第7位2世帯住宅に暮らす距離感がちょうどいい思い思いのリノベーション築20年程の3階建て鉄筋コンクリートの建物。それぞれ人気のショップを営む2世帯のご夫婦が、個性の違うリノベーションを実現した。第6位’57年築の前川國男建築を発掘ミッドセンチュリーの良さを引き出し、現代の感覚をミックスインテリアスタイリストの窪川勝哉さんが趣味の不動産探しで見つけたのが、モダニズム建築の旗手として日本の近代建築界をリードした建築家・前川國男が設計した家。昭和30年代に設計したテラスハウスのうち、唯一現存する住宅だ。第5位祖父母の家を孫がリノベーション愛着のある家を次の世代に引き継ぐ祖父母が住んでいた築58年の古民家をリノベーションに踏み切った大越さん夫妻。家のあたたかな思い出とともに、4代目へとバトンタッチ。第4位庭と縁側と照明現代になじむ日本家屋の静謐庭と縁側に惚れ込んで築36年の日本家屋を購入したのは2年半前。クリエイター夫妻が娘とともに暮らす家はグリーンと木の質感に心和まされる。第3位築浅戸建てのリノベーション自然豊かな鎌倉で自分らしい暮らしを『toolbox』で営業企画を担当する小尾絵里奈さんは、川崎市の宮前平の集合住宅をリノベーションしてわずか1年後、自然豊かな鎌倉の築浅物件をリノベーションし転居した。第2位築54年の家をリノベーションミッドセンチュリーの家具が似合う同世代の日本家屋古民家の佇まいに、フランスを中心としたミッドセンチュリーのモダンな家具。建築家の宮田一彦さんが、自宅兼アトリエとしてリノベーションした。第1位鎌倉の平屋をリノベ築60年の味わいを楽しみながら暮らす「すべてが見渡せるのが平屋の魅力」と語る濱さんの住まいは、なんとここが3軒目の平屋だそう。緑豊かな敷地に建つ築60年の家をリノベした。
2022年01月17日丘の上の家黒田邸が位置するのは鎌倉でも山と谷間の連なる起伏の激しい地域で、西側には谷をはさんだ向かい側の山に素晴らしい景色が広がる。滅多にお目にかかれないだろうこの景観を見渡せる敷地は丸2年、200件以上の土地を実見したうえで購入を決めたという。「平坦な住宅地はいっさい探さずに、傾斜があってダイナミックな景観が広がるような土地をずっと探しました。それと住宅地から少し離れた奥まったところで静かな場所ということにもこだわりました」(貴彦さん)。東側の少し離れた場所にまた別の山々を望み南側には小さな崖が迫るという変化のあるロケーションもポイントだったそうだ。家の裏(西)側は谷になっている。鎌倉は岩盤が1m程度下にあるため岩盤まで掘って基礎をつくろうと計画したが岩盤までの深さが想定していたほどはなかったため家全体が想定よりも高いレベルにつくられている。ギャラリーのような非日常的な空間設計を依頼したMDSの森さんと川村さんには家づくりのコンセプトをまとめた文章とともにインテリア雑誌の切り抜きからつくったスクラップブックを渡したという。このスクラップブックはよく整理されている上にそれぞれの写真にコメントが付けられていてお2人の目指す世界観がすごく伝わるものだったと森さんはいう。2階リビング側の開口は北側に隣家があるため空に向けて開けられている。床はネコがいるため掃除のしやすいタイルに。幸代さんが選んだものという。方形屋根の下の2階は無柱空間になっている。窓台をつくったのはネコのため。右の収納から移動できる。2階の隅部は吹き抜けになっているが人が立てない高さのため近寄れないうえ、家具が手すりの役目を果たしているので転落の危険はない。2階東側のキッチンを見る。幸代さんは開放感のある明るいキッチンをリクエストしたという。「大きなコンセプトとしては、ホテルかギャラリーのような非日常的な空間をつくってくださいと。とにかく家に帰って気分が上がるような空間をつくってくださいともお伝えしました。居心地が良くて、かつ、生活感の感じられない空間ですね。なので、水回りも全部1階中央の箱の中におさめてもらってベランダもつくりませんでした」(幸代さん)視線が空へと向かうように角度のつけられた開口。ソファの前に置かれたテーブルはアフリカのもの。現地の人がベッドとして使っていたものという。テーブルの下部に見える模様のようなものは人の顔の形に彫られたもの。実はこのお宅、竣工時に一度拝見しているのだが、その際に感じたのはまさしく「居心地が良くて、かつ、生活感の希薄な非日常的な空間」ということだった。そしてこの非日常感は、お2人が集めた骨とう品や美術品が置かれることでさらに増すことになった。建築家には、以前住んでいたマンションでは蒐集したものをディスプレイする空間がなかったためそれらが映えるような空間設計をお願いしたという。階段部分を見下ろす。ソファ側から見る。右の小上がりは今はベッドが置かれているが当初は貴彦さんが使うスペースとして想定されていた。階段途中から見る。蔵書が多いため本は階段部分と1階のライブラリースペースにわけて収めた。北西コーナーにつくられたライブラリー。幅が絞られたこの場所は読書に適した落ち着きのあるスペースになっている。発想を転換してそしてこの「骨とう品などが映えるギャラリー的空間」は2カ月前に本物のギャラリー空間へと模様替えされた。「2人とも美術品が好きで少しずつ古いものを集めていて、この家はそれらを自分たちで楽しもうということで建てた家でもあるんですが、一方で、わたしはギャラリーを経営したいとも思っていて店舗物件を探していたんです。でもタイミング的な問題もあって2年くらい過ぎてしまいどうしようかと思っていた時に、遊びに来る知人が皆さんこの家が“まるで美術館みたいだね”とおっしゃってくださるので“それなら下を開放してギャラリーにすればいい“と発想の転換をして、思い切って1階を予約制のギャラリーにしてみたんです」(幸代さん)。玄関を入ると風除室があるが、これは飼いネコの逃走防止のためのもの。メインのギャラリー側から見る。右が玄関。店名はラテン語で「Quadrivium Ostium」。「十字路の入り口」という意味という。「さまざまな時代のさまざまな場所から縁があって集まってきたものを、また次へと引き継いでいく場所」という思いを込めて名付けたもので、それぞれがもつ「ストーリー性を大切にしていきたい」という。古代のギリシャの壺や後漢の時代の犬を象った像から鎌倉時代の阿弥陀像など幅広い古美術品がしっくりと空間に収まっている。いわゆるギャラリー空間の敷居の高さを感じられないのは「非日常的」とはいえ元々が住空間としてつくられたからだろう。奥の左手の木床の部分がメインのギャラリースペース。このスペースを以前は寝室として使っていた。メインのギャラリースペースの壁にはジョルジュ・ルオーのリトグラフがかけられている。古代ギリシアで紀元前7世紀頃につくられた壺。寝室として使われていたようにはまったく見えない。メインのギャラリースペースに置かれた銅鏡や鎌倉彫の香合など。ユーモラスにも感じられるこの「加彩犬俑」は後漢時代のものという。2階からギャラリースペースを見下ろす。玄関正面のキャビネットには室町時代の獅子・狛犬が置かれ来客を迎える。奥のスペースは南西のコーナーにつくられたアトリエ。幸代さんの希望でつくられたこのスペースも適度な狭さでしっとりと落ち着く。ネコと共生できる家「ギャラリーのような非日常的な空間」とともに大きかったのが、「ネコと共生できる家」というテーマで、黒田邸では実は2匹いるネコのために考えられた仕掛けが随所につくられている。とはいえ、見てそれとすぐわかるネコ用につくられたステップや棚の類はいっさいない。しいていえば1階のトイレの壁に開けられたネコ用の出入り口くらい。幸代さんは「いかにもネコのためにつくりましたとわかるようなものはやめてほしい」と森さんと川村さんに伝えたという。しかしネコも住みやすい空間にしてほしいという、高度なリクエストだ。森さんたちによると家具の間の隙間はネコ用に開けたものだし、家具間の段差もネコのために考えたものという。言われてみてはじめてああそうなのかと気づくようなものばかりだが、これらがネコたちにとってはとっても快適につくられているようで、以前の家よりは明らかにのびのびと暮らしているし、「運動会タイム」になるとぴょんぴょんと家じゅうを走り回って遊び出すという。2階からアトリエ部分を見下ろす。1階は2.1mと天井高が押さえられているが吹き抜けがあるため圧迫感はない。2階からライブラリースペースを見下ろす。説明を受けないとわからないが家具のレベル差はネコのためのもの。右の収納の上にも左の棚からジャンプして移動できる。アトリエから見上げる。2階右隅にネコのために開けた隙間がある。2階の壁・天井も色を付ける希望があったが、白ならきれいに影が映るとの森さんの意見から白にすることに。浴室の壁は細かいタイルが幸代さんの希望で張られている。床は滑って危険なため現状のもので代替した。洗面所の奥にウォークインクローゼットがある。住み始めて2年半が過ぎて・・・「ネコのために家具の高さを変えて段状にしたほかにも、開口や吹き抜けの形の違いとかの2重3重にさまざまな要素が絡み合ったつくりこみ方がすごいなとじわじわと来ています。しかもそれがナチュラルに感じられているので違和感がない」と貴彦さん。「1階をギャラリーにして“自分たちが楽しむ”空間から“人様に楽しんでいただく”空間に切り替わったんですが、その変化にちゃんと耐えられるものだったというところも素晴らしいと感じています」メインのギャラリースペースから見る。左の箱にトイレが、右の箱に浴室・洗面所などが入っている。ともに入口上部がアーチ状になっている。美術展でのカラーリングを参考にして色を付けた壁は黒田夫妻がすべて自分たちで塗ったという。「最初はわからなかったんですが、わたしもこの2年半住んでようやくじわじわと感じはじめてきました」と幸代さん。「主人と同じような話になりますが、ディテールの細やかさ、繊細さをすごく感じるようになりました。2階の天井も光が入るとちょっとした角度の違いによってとてもきれいに見えるんです。そのあたりの美意識のようなものが森さんたちとわたしたちとちょうどマッチして実現できた家なんじゃないかなとも思っています。あと、ギャラリーに変えたように、いかようにも自由に変化できる可能性を秘めた空間、“じゃあ今回はこの部分を引き出そう”とか引き出しがたくさんある空間だなとも感じています」お2人が惚れ込んでいる内部から外へと目を転じると素晴らしい景色を見ることができるが、こちらでも貴彦さんは感嘆する。「家のなかにいても景色がピクチュアウインドウ的に切り取られていて、素敵な景色が家の随所で見られる。切り取り方の巧みさをとても感じています」1階のアトリエからも緑がよく見える。開口の格子はネコの網戸引っ掻き防止のためにつくられている。小上がり部分の開口からはダイナミックな景観が望める。この付近を撮ったカットが先月発売のMDS著『Life &Architecture』の表紙に使われている。黒田邸設計森清敏+川村奈津子/MDS所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上2階延床面積86.31㎡
2022年01月10日思いつきから始まったこだわりの詰まった家づくりマンション住まいだった鵜久森夫妻が戸建てを建てようと思い立ったのは突然だった。「賃貸で毎月お金を払うなら家を建てたほうがいいなという話になったのがきっかけです」と話す夫の将隆さん。住んでいた地域に条件の合う土地を見つけ購入し、施工会社探しが始まった。そこで出会ったのが千葉県を拠点に新築、増築、リノベーションを手掛けている木ごころだった。「施工事例が良かったのはもちろんですが、複数社行った中で木ごころさんが1番丁寧に対応してくれたので決めました。最初の提案も間取りだけでなく、3Dモデルを作ってくれたりイメージしやすかった。家づくりへの情熱もすごくて、ここなら最大限やってくれそうだなと」と将隆さんは振り返る。木と鉄を組み合わせたインダストリアルな空間づくりを目指した家づくり。一番苦労したところを尋ねると「全て」と答えるご夫妻の言葉通り、随所にこだわりが散らばっている。ピットリビングや片持ち階段、吹き抜けの効果で圧迫感のない軽やかな空間のリビング。炎がよく見えるようにと、窓が大きいホンマ製作所の薪ストーブを選んだ。手前のリビングとダイニングキッチンが緩やかにつながる。中庭から入る日差しが心地よい。出迎える開放的なピットリビングと薪ストーブ玄関を入ってすぐ目に入るのは開放感のあるピットリビングと薪ストーブ。「冬に薪ストーブを焚いて、ここで寝転ぶのが一番好き」と笑顔で話す妻の麻記子さん。当初はペレットストーブを検討していたが、調べていくうちに薪ストーブに行き着いた。「薪ストーブは炎が美しいんですよね。よく2人で炎を見ながら座っています」と将隆さん。ピットリビングの段差は座りやすいようにと30cmを要望。段差には収納棚を設け無駄がない。ピットリビングに加え、3階までの吹き抜けや片持ち階段が空間を軽く演出し、家に入った時の開放感が心地よい。片持ち階段は木ごころに無茶を言ったと振り返る将隆さん。「普通、鉄を入れるところを、木だけにしてもらいました。階段下を収納に使う事も考えましたが空間がもったいないし、オブジェにしたいと思って」。「住宅街でも気をつければ薪ストーブを使えますよ。本当におすすめです」と将隆さん。厚みのある木製の片持ち階段。数センチ出した壁に階段を埋め込んだ。同時に複数人が利用できるようにと玄関は広め。右側に収納スペースがある。玄関のアクセントになる朱色の壁はご夫婦の提案で自ら塗った。塗装工場に行き、色のサンプルをもらい、塗り方を指導してもらったという。玄関を挟んでリビングの反対側に浴室がある。全体に温かみを出すため天井を木張りに。道路境界線から2mあるセットバック部分を生かし坪庭にした。ライトアップされた楓を見ながら湯船に浸かるのがご夫妻揃ってお気に入り。夫妻で作って食べて過ごすキッチンが中心の家ご夫妻が最もこだわったのはキッチン。2人とも飲んだり食べたりするのが好きで、麻記子さんは夫の誕生日にフランス料理のフルコースを振る舞うほど。そんなご夫妻がデザインをお願いする上でテーマとなったのは“キッチンが中心の家”だった。「長い時間いるキッチンを中心にして、孤立せずつながっているようなイメージがいいとお願いしました」と麻記子さん。結果、キッチンは緩やかなゾ-イングによって、リビングとつながる食事の場というより、リビングとつながる1つの居場所として、より広い空間として認識できる場となった。造作キッチンには強いこだわりがある。一緒に料理をすることが多いため、同時に水場を使えるようシンクを2ヶ所設けた。高さも2人が作業しやすいよう何度もシミュレーションをして決めている。さらに麻記子さんの提案でキッチンスペースの床を15cm下げた。「夫が料理せずに座っている時も、料理をしている私と目線が合って会話がしやすいようにしたいなと思って」。違うことをしていても同じ空間にいる人が自然とつながる工夫がされている。床から天井まである窓は室内に陽を送るだけでなく、キッチンに立つ人に開放感を与える。「孤立しない一番気持ちの良い空間にしたかった」という麻記子さんの要望通り、陽の入る明るい空間になっている。天板は木、デコリエ、ステンレスの3素材で作られた。特に厚さ5mmあるステンレス無垢板は、将隆さんが近所の工場に出向いて制作してもらった特注品で思い入れが強い。ここで豆を挽き、ピットリビングで淹れたコーヒーを飲みながらくつろぐ。食器棚は電動式で開閉が便利。料理好きならではのこだわり。リビングとキッチンに面した中庭。年中、屋内に陽が入るよう中庭と道路を隔てる壁の高さが調整されている。“共有”を重視する閉塞感のないプライベート空間階段を上がると、吹き抜けを中心に回遊できる空間が広がる。仕事をしたり読書をしたり思い思いの時間を過ごす共有空間はご夫妻の希望だった。「多く部屋を作るよりも、共有スペースを増やしてほしいとお願いしました。壁に設置した棚も誰が何を置いてもいいという考えで。妻の本を僕が読んだりして会話が生まれたり。そういったふれあいのきっかけにもなるかなと」と話す将隆さん。各部屋の収納を少なくした分、共有スペースでの収納を多くしたのは、共有を増やす意図に加え、物が散逸しないようにという考えもある。鵜久森家は寝室を除き、窓にカーテンがない。道路に接する北と南側に窓を極力設置しない代わりに、天井のはめ殺しや中庭を設けることで、住宅街にありながら、充分な採光をしつつ閉塞感を感じさせないプライベートな空間を作り上げた。住む人、訪れる人、誰もが同じ空間を共有したいと思わせる魅力が鵜久森邸にある。天窓から室内に陽が入り、天気が良い日は、陽が落ちるまで電気をつけなくていいほど。将隆さんが立つ先に寝室があり、階段は屋根裏につながる。寝室の中心にはオーク材で作られたキングサイズ以上の造作ベッドがある。右奥には季節外れの服を収納するスペースを設けた。2階には寝室とトイレの他に、使用していない部屋があり将来どのように使うか検討中。吹き抜け側に作られた読書用の机。「こっちで読むと足をかけられて楽なんです」と笑顔で話す麻記子さん。北と南の両側に道路がある土地の特徴を活かすため玄関を西側に。「両方向から出入りができて、敷地に入ってから玄関までのアプローチを長く取りたかった」と将隆さんのアイデア。設計株式会社 木ごころ所在地 千葉県船橋市構造 木造軸組工法規模 地上2階延床面積108㎡
2021年12月27日公園の緑を借景にした北向きリビング川沿いの緑豊かな公園に面した敷地に家を構えた林さん夫妻。3歳になる娘さんの誕生を機に、手狭になったアパート暮らしから引っ越しを決意。土地探しから、一級建築士事務所のアオイデザインに依頼した。「最初はマンションのリノベーションも視野に入れ、雑誌などをチェックしていました。その中でもアオイデザインさんが手掛けた、シンプルで品があり、長く住んでも飽きの来ない住宅に惹かれ、コンタクトを取りました」(ご主人)。出会った土地は、ご主人の職場から徒歩10分の好立地。「会社から近い場所がいいとは思っていましたが、ここまで近いとはラッキーでした」と笑う。「緑を感じながら暮らしたかった」と話すのは奥さま。公園の緑を活かしつつ、生活のしやすさを考慮して、1階リビングを希望した。川沿いで開放感のある北側に大きな窓を設け、そこから広めのデッキテラスが続く。「テラスにはカブトムシやクワガタ、カエルまで現れるので、子どもが喜びます」と目を細めるご夫妻。自然に囲まれた生活を満喫している。2層分の高い吹き抜けを有したのびやかなリビング。北側の公園に向けて設けた大きな開口により、緑あふれるダイナミックな景観が楽しめる。幅を広めに設定したデッキテラスはリビングの延長として使用可能。塀を設え、プライベート空間を確保した。「デッキテラスは娘のお気に入りの場所です。おままごとしたり、おやつを食べたり。安心して遊ばせられますね」と奥さま。設計段階から探していたというセンターテーブル。「この秋やっと、これだ!と思えるものに出会えました」とご主人。東京・品川の『DEMODEMIX』で購入したアンティークで、店で脚をカットしてもらい、ちょうどよい高さに調整した。ウッド素材のアームや脚部が上質な印象をもたらすお揃いのチェアは座り心地も抜群。サイドテーブルとともにヨーロッパのアンティークで、目黒の家具屋で出会った。木製建具は建具職人の父親が作製「視界の広がる北側とは対照的に、ほかの3方は隣家と密接しています。そのため、個室や水回りは東西に、階段は南側に配し、中央のリビングには南側のハイサイド窓から光を取り込みながら、北側の公園に向けて開くプランを提案しました」とはアオイデザインさん。リビングは2層の高さをもつ大きな吹き抜け空間。吹き抜けを介して1階のリビングを見下ろすように2階のデスクスペースを設けた。南側のハイサイド窓に向けて折り上げた天井の視覚効果も手伝い、1階のリビングから南側の空までつながる開放感が心地いい。「冬場は、南側から入る光が吹き抜けを介してデッキテラスの塀まで届きます」とご主人。季節や時間による光の移ろいが楽しめる。また、経年変化が楽しめる、木をふんだんに使用した空間も林邸の特徴。米栂を使用した天井やフローリング、美しい木製の建具が印象的である。実は、随所に施された木製の建具は、建具職人の奥さまのお父様が作製したもの。リビングの框戸や2階の引き戸もすべて特注で、お父様が手掛けた。「色や材料、デザインを父と相談しながら作ってもらいました。ちょっと贅沢ですが、ありがたかったですね」と奥さま。お父様の熟練の技と心のこもった木製建具が、ぬくもりのある上質な空間づくりに一役買っている。群馬県渋川市で『佐藤建具店』を営む奥さまのお父様が作製した框戸(正面)。アンティークの家具たちとも相性が良い。開けると玄関につながる。窓側からリビングを見る。季節の植物などを飾ったディスプレイ棚も上手に活用。階段脇の扉もお父様が手掛けた。2階のデスクスペースは、奥さまがミシンがけをしたり、洗濯物を畳んだりするのにも重宝。引き戸を開け放てばワンルーム感覚で使用できる。以前の住まいから使用しているという『無印良品』の棚が、木の床や天井、建具とマッチ。2階のデスクスペースからの眺め。吹き抜け上部に設けた大胆なハイサイド窓が、まるで四角く切り取られた額縁のよう。隣家を気にせず、自然光と通風を確保した南側のハイサイド窓。たっぷりの光を1階まで届ける。1階から2階のデスクスペースを見る。蹴込部分に角度をつけた美しいフォルムの階段がリビングのアクセントにもなっている。既製品を利用してコストダウン共働きの林さん夫妻にとって、効率よく家事ができることも家づくりのテーマのひとつであった。「日中は仕事でいないため、室内干しができるサンルーム的な場所が欲しいとリクエストしました」(奥さま)。2階のバスルームの横に洗濯機を置き、その隣に室内干しスペースを確保。南側の大きな開口からたっぷりの日差しが入るようにした。隣接するデスクスペースは洗濯物を畳むときにも便利。脱ぐ洗う干す畳むの洗濯動線をコンパクトにまとめた。また、生活感の出やすいキッチンは独立型を希望。リビングから死角の位置には収納力を優先して『IKEA』のハイキャビネットを採用した。リビングから見えるシステムキッチンの扉だけを木製扉に変更。既製品を上手に利用しながらコストダウンを考えた。住み始めて9か月。「ずっと探していたリビングのセンターテーブルも入り、やっと家具が揃って落ち着いた感じです。次は、リビングの白い壁に絵や布を飾りたいと考えているところです」(ご主人)。心に響いたものだけをひとつずつ加えながら、家とともに経年変化を味わう、そんな丁寧な暮らし方を楽しんでいかれることだろう。独立型のキッチンは、カウンターによってリビングとつながりをもたせた。「1本脚のすっきりしたデザインが気に入っています」とご主人。『トクラス』のシステムキッチンを扉のみ木製扉に変更し、高級感をプラス。奥のドアを開けると気持ちの良い風が入る。ゴミ捨てなどにも便利。リビングから見えない場所には、収納力の高い『IKEA』のハイキャビネットを採用。ハイキャビネットのサイズに合わせて壁の位置を決めた。ゴミ箱もすっぽり収まる収納力。使い勝手の良さに奥さまも大満足。「花粉症もあり、室内干しスペースは必須でした」と奥さま。洗濯機からすぐに干せて便利とのこと。洗濯機の奥がバスルーム。南側に大きな開口を取り、陽光と通風を取り込んだ室内干しスペース。扉を閉めて目隠しすることも可能。玄関脇に設けたクローゼット。家族全員分をひとまとめにして収納。「アウトドアグッズも収納しているので、車に積むときなども便利です」と奥さま。奥が北側で、塀の向こう側には川沿いの公園が広がっている。2台分の駐車スペースを希望し、手前に停められるようになっている。林邸設計アオイデザイン/aoydesign所在地東京都八王子市構造木造規模地上2階延床面積105㎡
2021年12月20日最高の環境で元気に育つグリーン2階リビングの奥に、大きな窓と天窓からたっぷりと光が差し込むインナーテラスがある。スチール製のオリジナルサッシの窓を開ければ気持ちのいい風が通り、植物たちがうれしそうに葉を揺らす。「マンションに住んでいた頃から植物が好きで、家を建てたら温室のような空間を作りたいと思っていました。ニコ設計室に相談したところ、室内の一番日当たりが良い場所にインナーテラスを作る案をいただきました。同じ生活空間で植物を楽しむことができ、とても良かったです」と木元さん。室内でありながら屋外の良さも備えたインナーテラスは、床がモルタルなので、水やりや植え替え等の作業も汚れを気にせず行える。大きな窓は、植物がカーテンの代わりをしてくれる。天窓を開けると、暑い夏の熱気もすっと抜けていく。「天窓の網戸は紐で開け閉めできるように変更しました」「リーン・ロゼのソファは欲しかったもののひとつです。フラットになるまでリクライニングできます。夜はこのソファに座って映画を観るのが楽しみです」「入居当初は窓際のベンチに座ることができたのですが、今は植物に占領されています」と嬉しい悲鳴。風通しのよいリビングでハンモックに揺られながら読書。至福の時間だ。リビングの壁は一部モルタル仕上げとし、インナーテラスと連続性を持たせた。心地よい風が抜けるシカケ黒のスチールのオリジナルサッシと天窓を開ければ風が通る。インナーテラスには階下の納戸に通じる階段があり、その階段も風の通り道になっている。「植物は努力して手入れをすると、その分結果を出して、元気に育ってくれるのがうれしいですね」。挿し木で増やしたウンベラータは5鉢に増え、オーガスタやモンステラも大きく育った。「鉢を置く場所がなくなってきたので、吊るす場所を作る予定です。コウモリランを吊るして飾りたいです」インナーテラスには水やりに便利な水場を設けた。ガラスの花器を置いた棚はDIYで取付け。階段を降りると1階の納戸へ。スチール製のオリジナルサッシは、上部は大きく、下側が細かく分かれている。「こうすることで、道を歩く人が見上げても中の様子がわかりにくいようです」冷暖房の効率を上げたい時は、リビングとインナーテラスの間を引き戸で仕切ることができる。夜はロールカーテンを下ろす。三角の天井と梁の間にはガラスがはめ込まれている。工夫を凝らした造作キッチン「キッチンはリビングの様子を見ることができて、かつ使いやすいL字にしました」造作のキッチンの高さにはこだわりが。食器を洗ったり、食材を切ったりする場所は高く、火にかけた鍋の中を混ぜたりフライパンを振って炒めたりという作業があるコンロは低めに作って、なるべく楽に料理ができるようにしている。カウンターは高めにして、リビングからキッチンの中を見えにくくした。キッチンの上はロフトに。奥の小上がりからハシゴで昇る。グリーンの天井はDIYでペイント。キッチンのカウンターは古材を使用。ダイニングテーブルはトラック・ファニチャー。ステンレスの造作キッチンは作業しやすいように高さを高めに。コンロ部分は少し下げた。大きめの食洗機をビルトイン。壁はモノトーンのモザイクタイルに。アーチの向こう側はパントリー。冷蔵庫はパントリー内へ。炊飯器の上部の天板を無くして湯気を逃がす設計した食器棚。引き出しの中に皿を縦に収納。棚板を斜めにすることで皿のガタつきを抑える。素晴らしいアイディア!パントリーの横の丸穴から、隣の小上がりで遊んでいる子どもの様子を伺える。リラックスできる住まいに木元家は、ご夫婦と1年生の男のコの3人家族だ。「妻の通勤が便利な場所を考えて土地選びをしたのですが、なんと週5でリモートワークになりました。将来子ども部屋にする予定の部屋で、毎日仕事をしています(笑)」玄関を入って右手にあるガラスの壁の向こうが仕事部屋だ。「1階で仕事をして、2階に上がって植物の水やりをするのがいい息抜きになります。コロナ禍の隔離生活中も、緑に癒やされました。部屋の中に庭がある感覚を楽しめるインナーテラス、これからも楽しんで使っていきたいと思います」階段の壁面に作った書棚。「本がたっぷり収納できるので、作って良かったもののひとつです」3種類のタイルを使ったバスルームと洗面。斜めに貼ったバスルームの白いタイルの目地はグリーン! 「床はコルクです。冬でも冷たくないので気に入ってます」。洗面台は古材を使用。玄関の向かい側にある写真左の個室は、奥様の仕事部屋。「完全にテレワークになったので、この部屋があって良かったです」。ゆくゆくは子ども部屋にする予定。写真左側の廊下の壁面は、レッドシダーのザラザラした裏面を表に。玄関脇の納戸にキャンプ用品やストックを収納。「園芸用品もここに収納します。階段を昇るとインナーテラスなので、移動が楽です」大胆な壁紙でジャングル化したトイレ!階段下の空間を有効利用している。絵本に出てきそうなロマンチックな外観。「逆三角形の場所を造ることで、庭の面積が広くなりました」宅配ボックスとポスト、インターホンが一体になっている。外回りの植栽はご主人が手掛けた。「ゆっくりと楽しみながら造っている最中です」設計西久保毅人(ニコ設計室)構造木造規模地上2階延床面積95.84㎡
2021年12月13日工房と稽古場がほしい「つくりものがあるのでレーザーカッターなどの機械や道具類をちゃんと置けるような工房と稽古場のスペースがほしいというのをまずお願いしました」と話すのは翔さん。劇場などの施設計画のコンサルタントをしている翔さんは、休日にはパフォーマンス活動をしているという。工房と稽古場はそのためのものだ。奥さんの千尋さんは「前に住んでいたマンションではそういった道具類が生活スペースを侵食していたので家を建てるならきれいに片づけられる家にしたかった」という。3階。階段が天井に突き当たっている。右がキッチンで左がリビングダイニング。各階、階段の左右でフロアのレベルが異なる。階段を真ん中に土地が狭く建築面積もそう大きくは取れない敷地での設計を担当したのは千尋さんがメンバーの一員として勤務するアーキペラゴアーキテクツスタジオの畠山さんと吉野さん。この家の最大の特徴は家の中央部分につくられた階段だが、階段を端に寄せず中央に配するアイデアは敷地条件から生まれたものだった。「建てられるボリュームもだいたい決まっているなかで、パフォーマンスのための稽古場や工房がほしいというご要望を最初にいただいていたので、床を積層させてつくる必要がありました」と畠山さん。しかしそのときに縦動線である階段を上下の移動のためだけのものにしてしまうと、限られたスペースのなかにそれ以外の用途には使えない場所ができてしまってもったいない。そこで家の真ん中にゆるやかな階段を配置して、階段ではあるけれども、居場所にもなるし物を置ける家具にもなるというものにしたという。そしてまた、この階段が実はこの家ではなくてはならない重要な構造要素になっていて、中に入っている鉄骨ブレースが建物の横幅いっぱいに架け渡されている——どの階段も壁や天井に突き当たって行き止まりになっているのはそのためだ。東西両面とも長手方向いっぱいに窓が連続している。これだけの空間に壁がないのは階段の鉄骨がブレースとして効いているため。ダイニング、キッチンとも床と階段の1段の踏み面のレベルが揃えられている。北側から見る。スペースが限られているため、建て方が終わったところで段ボールを使って家具の大きさを確認した。南側からキッチンを見る。下の階段は壁に突き当たっている。模型で確認最上階のスペースは広く感じられるが、翔さんは「図面ではかなり狭く見えた」という。しかし家具も入った20分の1という大きめの模型とパースで確認した上で階段を中央にすえる案をスタートさせることに。「自分では階段を真ん中にするというのは思いつかなかった」という千尋さん。空間のなかで中心的な存在ともなるため実寸で確認したという。スケールだけでなく踏み面の幅や奥行き、蹴上げの高さを段ボールでつくった階段に実際に座ったり上り下りしてみて確認を行った。階段越しにダイニング部分を見る。この家のために製作されたオリジナル家具はすべて窓台の高さにそろえられている。特製レシピの仕上げ出来上がった階段は空間のなかで存在感を発揮しているが、それはたぶんそのスケールだけではなく、グリーン系の表面の仕上げも大きく作用しているのだろう。「この階段は構造でもあるし家具でも居場所でもあるのですが、たとえばこの階段を木でつくってしまうとキッチンや収納も木でつくる予定だったので家具としての印象が強くなってしまう。あるいはブレースとして鉄骨が中に2本入っていますが鉄骨現しの階段にすると構造として使っている印象が強くなる。このどちらにも偏らないように、仕上げには木でも鉄でもない素材を使うことにしました」(畠山さん)。緑青仕上げと呼ぶその仕上げは、事務所で開発したオリジナルのもので、木と石と金属、樹脂を混ぜ合わせたものという。北側から見る。階段の途中に置いてあるプロジェクターで奥の壁に映画などを投影して見ることができる。緑青仕上げは材料の配合がオリジナルなだけでなく、工程も特殊なため塗装は事務所で行ったという。床を極力薄く最上階は東西の両面とも長手方向いっぱいに窓が連続して光がふんだんに入るがその下階のスペースは小さな窓が3つあるのみ。しかし、暗く感じることはないという。これには建築的な工夫があって、マッシブホルツという工法を採用し45㎜の角材を1本1本つないでつくることで床を限りなく薄くしているのだという。「通常であれば床が倍以上厚くなって光がなかなか下まで届かないのですが、この工法でつくることで階段の吹抜けを通して光が下にも広がっていくのです」(吉野さん)。空間が明るくなるだけでなく上下階の遮断感も感じにくくなっているという。左右の柱は40mmの無垢の鉄骨。これだけ細くできたのは階段が柱の座屈止めの役目を果たしているため。床は45㎜の角材を1歩1本つないでつくっている。通常よりも2分の1以下の厚さのため、光が階段を通じて下階に広がる。リビングダイニングの下に水回りスペースが続く。水回りスペースの前から見る。上がキッチンで下が寝室。寝室側から見る。洗面スペースの下に本棚が置かれている。1階を見下ろす。階段が壁に突き当たっている。1階から階段を上ると壁に突き当たる。右が寝室。4カ月暮らしてみての感想をうかがった。まずは翔さん。「以前よりも生活の質がとても上がって早く家に帰りたいと思うようになりました」。千尋さんは「毎日楽しく暮らしている」と話す。「今までだと一日家に引きこもっていると気がめいるようなこともあったのですが、この家は上は開放感があるし下はちょっと落ち着いた感じで切り替えられるのでそういうことがほとんどなくなりました」最後に隣家のお話がでた。この敷地はもとはお隣りの家の庭だった土地だが、緑青仕上げを施した家が建ち上がってから隣家の方が「老後は今の家を売ってどこかのマンションに引っ越すことも考えていたけれども、この家が建ったことによってわたしは死ぬまでここに住まう」という話をされて、グリーン系の外壁に合わせてリビングのカーテンも変えたのだという。隣人にとっても素敵な風景になり庭の一部になっているということなのだろう。こうしたお話をうかがうのははじめての経験。こういうこともあるのだなと感じ入った。玄関から見る。本棚の上に洗面スペースがある。右が玄関、中央に見える扉から翔さんの稽古場兼工房に入ることができる。周囲は住宅が建て込んでいるため、頭だけ少し飛び出るようなボリュームにして開口を大きく開けた。取材時には稽古場のスペースがパフォーマンスのための大道具の製作スペースになっていた。「パーティをやったときにこの階段に料理を載せたお皿が並んでひな壇みたいになって面白かったですね」(翔さん)。河童の家設計アーキペラゴアーキテクツスタジオ所在地神奈川県川崎市構造木造規模地上2階、一部ロフト延床面積49.30㎡施工床面積73.95㎡
2021年12月06日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、10年めを迎えています。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2021年中にアップされた家のアクセス数ランキングを公開します。第10位都市に住まう建築家の選択家の中と外に、たくさんの居場所を作る建築家の西川さんが暮らす家は、阿佐ヶ谷の賑やかな通りに面して建つ。簡単に動かせて多目的に使える家具を多く使い、住みながら生活スタイルを整えることを楽しんでいる。第9位葉山の自然を楽しむ家階段の踊り場が第2のリビングウクレレや読書が楽しい子育てするなら緑が豊かな葉山に住みたいと、森戸川沿いに建つ〈森戸川ヴィレッジ〉に家を建てた奥谷将之さん、りんさん、梁吾くん一家。ゆったりと流れる葉山時間の暮らしを楽しんでいる。第8位都心の狭小地に建つ建築家の自邸人も猫も思い思いの場所で過ごす出窓に囲まれた5層の家東京都渋谷区内の駅から徒歩1分。都心の狭小地に建つ建築家の自邸は、八角形の箱を積み重ねたような外観が圧倒的な存在感を放っている。第7位職住一体の建築家の自邸ゆるやかに居場所をつなげ、仕事と生活の場をひとつに建築家の小田内晃彦さんの職住一体の自邸は、働く場所と生活する場所を分けず、家族で共有するスタイルだ。食卓でクライアントとの打ち合わせをし、書棚には建築関係の書籍と共に子供の絵本も並ぶ。第6位道路沿いの狭小敷地に建てた家小さな家ながら、光を享受し開放感を感じて暮らす関根邸は道路沿いの狭小敷地。夫妻はまず「面積が狭いので、広く見えるようにしてほしい」、さらに「なるべく段差をつくり、光が隅々にまで行きわたるようにしたい」と建築家に伝えた。第5位建築デザイナーの自邸鎌倉の緑豊かな高台に建つ 居心地の良い小さな平屋Atelier23.を主宰する建築デザイナーの井手しのぶさんの7軒目の住まいは、鎌倉の自然豊かな小高い丘の上に建つ平屋の家。リビングの大きな窓を開けると、広々とした明るい庭が広がる。第4位ライフスタイルを大きく変えて自然に囲まれた葉山の古家をリノベして住む永松・神保邸は神奈川県・葉山の築50年ほどの古家をリノベーションした家だ。10年間住んだ神宮前のマンションが取り壊しになることを機にこの「山小屋のような家」に移り住むことに。第3位築浅戸建てのリノベーション自然豊かな鎌倉で自分らしい暮らしを『toolbox』で営業企画を担当する小尾絵里奈さんは、川崎市の宮前平の集合住宅をリノベーションしてわずか1年後、自然豊かな鎌倉の築浅物件をリノベーションし転居した。第2位プロが伝授する“植物が育つ家”思い入れのある家具と花や緑に寄り添う暮らし東京・中目黒で花屋を営む渡辺礼人さんと安樹子さん夫妻。4年程前に建てたご自宅は、花や緑が生活になじみ、“植物のプロ”ならではの手法が随所にのぞく。第1位ワンルームのような一体感家族が自然と集まる大空間の三角屋根の家眺めの良い高台に建つ中川さん邸。広々とした開放的なLDKには、ご夫妻と3人のお子さんが自然と集まり、のびのびと家族団らんの時を過ごしている。
2021年11月29日工房を兼ねた理想の家づくり本業の看護師の仕事のかたわら、登山用品の製作・販売を行う佐山さんが目指したのは、奥さんと1歳のお子さんの家族3人が心地よく暮らせる住居と自身のブランド「SAYAMA works」の工房を兼ねた家。2019年末から家づくりをスタートし、今年5月八王子市に理想を叶えた住まいを実現させた。佐山さん夫妻が設計を依頼したのは、ディンプル建築設計事務所を主催する堀泰彰さんだ。「堀さんとは、2018年のお正月に登った東京都最高峰の山・雲取山の山荘で出会いました。そのときは、お互いに素性を明かさず、日本酒を飲みながらお話ししただけだったのですが、その後SNSを通じて交流をもつようになりました。HPで拝見した堀さんの手がけた事例がどれも素敵だったことに加え、 “山”という共通の趣味があったため、イメージも共有しやすいのではと思い、家づくりをお願いしました」(佐山さん)。正面外観。左側が住居、右側が工房の入り口となっており、中からは玄関土間を通じて行き来できるようになっている。東側外観。連続する2つの切妻屋根によってリッジライン(山の尾根)を表現した。白と木を基調としたシンプルなデザインの内装。1階洗面スペース。白と黒のコントラストがシンプルながらも洗練された印象を与える。1階の主寝室。窓からはたっぷりの光が差し込む。階段ホールから2階を見上げる。視線の先には、LDKとつながるテラスが見える。切妻屋根がつくる開放感のあるLDK家づくりにあたり、佐山さんと堀さんは土地探しからスタート。住居とともにSAYAMA worksの工房兼ショップを併設するため、どちらの用途でも両立できることをポイントに土地を選んだ。「災害リスクなどを考慮しながら、交通アクセスのよさも重視し、高台に立地するこの場所になりました。国道に面していますが、車の往来が激しくなく落ち着いた雰囲気だったので、住居としても、店舗としても理想的な場所でした」(佐山さん)。プラン作成において、夫妻が要望したのは、「のびやかに過ごせる生活空間」。佐山さんは「夫婦ともに身長が高いので、以前の住まいでは窮屈に感じることが多かったんです。堀さんには身長に合わせたスケール感、そして風通しのよさや開放感のある空間を要望としてお伝えしました」と語る。堀さんは夫妻の要望をもとに、1階に主寝室、浴室や洗面室などの水回り、工房を設置、2階にメインの生活空間となるLDKを設けたプランを作成。ポイントとなったのは、佐山邸を印象づける連続する二つの切妻屋根だ。「リッジラインをイメージしたこの二つの切妻屋根は45度の角度で重なっており、内部空間にもそのまま生かされています。そのため、LDKは間仕切らずにつながりのあるワンルームでありながらも、ゆるやかに分節されています。また、天井にも高さが生まれ、視線が抜けるおおらかで開放的な空間が生まれました」(堀さん)。光が通り抜ける開放感のある2階LDK。東側のキッチン方面を見る。「道路に面した東側には、視線の抜けを意識して大きな窓を設けています」と堀さん。家族の交流の中心となるリビング。「遊ぶスペースも広くなったので、子どもも楽しそうに過ごしています」と佐山さん。垂木現しが美しい天井。「なるべく自然の雰囲気が感じられるように、木の質感のある空間を目指しました」(堀さん)。将来的には子ども部屋として使用する予定の洋室。立派な現し梁が空間にアクセントを与える。念願の実店舗をオープン佐山さんがSAYAMA worksを始めたのは2016年。もともと登山が趣味だった佐山さんは、当時盛り上がりをみせていたガレージブランドの波にのり、一からミシンを覚え、サコッシュ作りから登山道具の製作をスタートしたという。「はじめは仲の良いアウトドアショップの店員さんからのオーダーだったのですが、次第に別の人からもオーダーされるようになり、オリジナルブランドの開設に至りました。2017年頃からはバッグの製作もはじめ、山岳レースとして有名なトランスジャパンアルプスレースの選手の方にも実際に使用していただいています」(佐山さん)。“山”を通じて出会った堀さんとともに、理想の住まいを実現させた佐山さん一家。この住まいでの暮らしが始まってから約半年が経つ。「家族3人のびのびと暮らすことができています。堀さんと打ち合わせを重ねながらつくりあげていった、という過程があるからこそ、この住み心地が生まれたのではないかなと思っています」(佐山さん)。また、今年11月からはSAYAMA worksの実店舗としての営業を本格的にスタートした。「これまでWEBストアを中心に展開していたSAYAMA worksの製品を直に手に取っていただける実店舗のオープンは念願だったので、とても嬉しいですね」と微笑む佐山さん。これからも「家族のやすらぎの住まい」と「SAYAMA worksを支える工房」を両立したこの家で佐山さん一家の豊かな暮らしが紡がれていくことだろう。1階に設置したSAYAMA worksの工房兼ショップ。展示会などのイベントも計画しているという。軽量で強度の高いティッシュケースや収納ポーチなど、機能性の高いアイテムが豊富なラインナップで用意されている。壁面には有孔ボードを採用。佐山さんが機能面・デザイン面を徹底的にこだわったというバックパックなどがディスプレイされている。佐山邸 設計ディンプル建築設計事務所 所在地東京都八王子市 構造木造2階建
2021年11月22日アトリエ倉庫と音楽スタジオを希望サウンドデザイナーの甘糟亮さんと美術装飾家のユリさんが昨年新築した家は、シルバーの細長い箱型の建物から三角形に突き出たテラスが印象的。そのユニークな外観に足を止める人も多く、「何屋さんですか?」と訊かれることもあるという。お2人が求めたのは、“窓のない倉庫のような家”。映像制作の現場を中心に活躍するユリさんは、大量の物を収納できるスペースが必要不可欠だったと話す。「フリーランスで仕事をしているので、例えば、“女の子の部屋”“オフィス”“病院”といったさまざまなシチュエーションで使用する基本的なアイテムは常に用意してあり、作品によってさらに加えたりアレンジしたりしています。そのため、その膨大なアイテムたちを収納できる倉庫が必要でした。また、撮影に使用する物をトンカチやドリルを使って製作したり、塗装したりすることもあります。近所の目を気にせず、深夜でもいつでも作業ができる場が欲しかったのです」。一方、音楽や効果音を作る仕事の亮さんは、ときに大きな音を出すこともあるという。そのため、音がもれない“窓のない家”を望んだ。1階はアトリエ倉庫と音楽スタジオ、そしてバスルームを配置。バスルーム以外には窓はない。玄関も設けず、大きな扉で開閉する“搬出入口”を設置。ユリさんのもうひとつのこだわりが、「搬出入口にハイエースを横付けできること」だった。「撮影用のアイテムを搬出する際、ハイエースにスムーズに詰め込めるようにしたかったんです。軒の高さをハイエースより高くしてもらい、扉を全開にして、どんどん詰め込む。スリッパのまま動けるため、とても便利で満足しています」。都内の利便性に富んだ住宅街に建つ。シルバーのガルバリウム鋼板の建物に、レッドシダーの三角形のテラスが絶妙にマッチ。カーポートを兼ねているテラスでは、ユリさんが撮影に使用するグリーンを育成中。2台分の駐車スペースを確保し、レンタルしたハイエースを駐車することも。大きな扉をスライドすると、すぐにアトリエ倉庫に。搬出入口が玄関を兼ねる。季節に合わせたディスプレイで彩られた表札。“甘糟”の文字は、設計士の息子さんの作品。柱のみのがらんどうだったアトリエ倉庫。シチュエーションごとのアイテムをそれぞれ収納したコンテナが整然と積まれている。「キャスターを付けてもらったので奥の物もスムーズに出せます」とユリさん。天井にはライティングレールを埋め込み、電動工具がどこでも使えるようにした。『TOTO』の実験用シンクの左奥がバスルーム。アトリエ倉庫の右奥が、亮さんの音楽スタジオ。防音設備も完備。PCを載せているのは組み立て・解体自在のペケ台(簡易作業台)。1階で唯一窓があるバスルーム。坪庭はプロの方たちと相談しながらDIY。「お風呂に入っていたら、ハクビシンが窓からのぞいて行ったので、ビックリ!」とユリさん。レイアウト自在の大きな箱2階に上がると、大きな開口からたっぷりの日差しが入り、1階とのギャップが楽しい。方杖を施したスギの柱が林立し、木の存在感を目いっぱい感じられる気持ちのよい空間になっている。「手を加えすぎないものが好きなので、素材もそのままで、現しにしています。シンプルな大きな箱を作ってもらい、そのときの用途やライフステージに合わせて自分たちで好きなようにレイアウトできるようになっています。“仮設みたいな家”ですね(笑)」(亮さん)。「人を招くことが好き」というお2人。ダイニングテーブルは、脚に天板を載せただけのペケ台(簡易作業台)を連ねて使用。来客人数や使用目的によって外したり、位置を替えたりと自在に変更できるため都合がよいという。また、3階は、余った角材を並べて釘で固定しているだけの空間。現在は細長い床になっているが、2mの角材を並べれば、いつでも増床可能だ。「子どもができたら床を広げて、奥を子ども部屋にすることも考えています」とユリさん。家族の成長やそのときのライフスタイルによってフレキシブルに対応できる家である。北向きの大きな開口から安定した光が入る2階のダイニングキッチン。向かい側は学校の校庭のため視界が広がる。方杖付きの柱は免震の役割がある。階段の手すりにはブルーに塗った単管パイプを使用。撮影時に持参する“マイハコウマ”は家では椅子としても重宝。3階は角材を置いただけのスペース。細長い空間のため、現在は縦に布団を敷いて寝ているそう。亮さんがDIYした本棚。現在、壁一面を本棚にする企画もあるそう。奥行を生むウォールライトは、照明デザイナー・岡安泉氏の作品。ユリさんがクロスステッチ(刺繍)で作製した、ゴッホの『星月夜』(左)。多肉植物が置かれたベンチは亮さんが作った。奥のドアからは屋根に出ることができ、屋根掃除の際に使用。DIYで仕上げた“みんなの家”「できるだけコストを抑えるために、壁や天井は石膏ボードで引き渡してもらい、自分たちで塗りました」とはユリさん。まずは人目につきにくい天井からスタートしたそう。高所恐怖症の亮さんも「そんなことを言ってられず、必死に取り組みました」と話す。今回設計を依頼したフジワラテッペイアーキテクツラボの皆さんや友人たちにも手伝ってもらい、丸1か月かけて仕上げたという。「仲の良い大道具の友人が2週間くらい通い続け、根気強く塗ってくれました。プロの意地からか、クオリティに妥協ができなくなったようで(笑)。最も目に入る部分の壁をきれいに仕上げてくれました」(ユリさん)。カーテンレールも自分たちで買って取り付け、暮らしているうちに必要になった家具は亮さんが破材で作製。バスルームから見える坪庭は設計事務所のランドスケープ担当の方や造園家の方と一緒に作り上げていった。「DIYはこの家で初めて体験しました。新鮮で、楽しかったですね。この家は自分の家というよりも“みんなの家”という感じ。管理人みたいな気持ちなんです。みんなが来るからきれいに使おうと思いますから」と笑う亮さん。料理好きのユリさんと最近料理に凝り始めたという亮さんのお2人がもてなしてくれる、通称『アマカスハウス』は、仲間が気軽に立ち寄れるサロンのような雰囲気がある。コロナ禍が落ち着いたときには、ますます賑やかになりそうだ。手前の作業台は友人と一緒に作製。キャスターを付け、移動自在にした。ガラスのショーケースに飾られているユニークな小物たちはユリさんの作品。造作の棚。調味料のこだわりから料理好きがうかがえる。カラフルなカゴたちは、造作のカウンターにぴったり収まるようサイズを測り、ユリさんが作製した。軽やかな蛍光色のカーテンが甘糟邸のアクセントに。トイレ内のくぼんだスペースにも、亮さんが余った角材で棚を作製した。ダイニングテーブルとして使用しているペケ台は、ユリさんの作業台としても重宝。知人の装飾会社で大量に収穫してきたオリーブの渋を抜くのが最近の日課。
2021年11月15日終の住み処は手入れが楽なほうがいい鎌倉の自然豊かな小高い丘の上に建つ平屋の家。リビングの大きな窓を開けると、広々とした明るい庭が広がる。この家はパパスホームを設立し、現在はAtelier23.を主宰する建築デザイナーの井手しのぶさんの7軒目の住まい。「子どもも独立し、暮らしをコンパクトにしたかったので、終の住処のつもりで小さな平屋を造りました」土地はネットで見つけた。「熱海や軽井沢もいいなと思ったのですが、家族や友人が居る鎌倉で土地を見つけることができました。傾斜地と書いてあったのですが、気になるほどではなく、却って少しの傾斜は水はけが良かったです。ただ雑草が生い茂っていたので、家を建て、庭を作るためには、かなり手を入れなければなりませんでした。犬と猫がいるのですが、クルマが往来する道路も近くにないですし、この環境ならのびのびと飼うことができると思いました」床はモルタル。愛犬が足を滑らせないよう、ところどころに大きなラグを敷いてある。ダイニングキッチンとリビングの間に段差をつけ、ゆるやかにスペースを分けている。暖房は薪ストーブが活躍。「火を見ていると落ち着きます。薪ストーブは煮炊きにも使えて重宝しています」幅3mの引き込み窓を全開にすると、庭と一体感を楽しめる大開口となる。高さのある天井には杉材を使用。センスのよいアンティークの家具が素敵に配置されている。「引っ越しのタイミングでこの家に収まる数に絞りました」「古い馬の置物は神事に使われたものだそうです」横長の窓の下に、アイアンの飾り棚を設けた。井手家の家族は、猫2匹と犬一匹。この子はトラちゃん。奥がブチャちゃん。「立て続けに2匹の猫を拾いました」自然素材の居心地の良い住まい家造りのテーマは、ローコスト、そして住まいの手入れが簡単なこと。「DIYで壁に珪藻土を塗ったのですが、計算するとプロに頼んだほうが安かったという失敗もありました(笑)。動物がいるので、床は手入れが楽なモルタルにしました。箒でさっと掃けば掃除が終わります。海辺に建てた前の家は窓掃除に苦労したので、この家は庭に面した窓以外は小さくしました」井手さんの住まいのほっこり安らげる居心地の良さは、珪藻土の壁、モルタルの床、杉材の天井と、自然素材で作られているからかもしれない。経年変化が楽しめるアイアンの飾り棚や薪ストーブ、アンティークの家具が自然素材の家にしっくりと馴染む。色数を絞り、玄関扉とモロッコタイルのブルーをアクセントカラーにしている。寝室は敢えて窓を小さくして明るすぎない部屋に。「朝までぐっすり眠れます」。アーチ状の開口の奥はクローゼット。寝室の壁面は、机を囲むように全面棚に。「机は大工さんに天板を切ってもらってなんとか収めました」玄関ドアはアイアンの支柱を中心に回転するように開く。「なぜか猫は狭いほうから出入りします(笑)」眺めの良い庭。ちょうど芙蓉が花を咲かせていた。庭の一角に作った畑ではレモンやイチジクなどの果樹や野菜を育てている。玄関の回転ドアを開けるとすぐにテーブルという自由なレイアウト。井手さんのセンスの賜物だ。キッチンの横に作った勝手口は、洗濯物を干したり、ゴミ出しする際に、家事がしやすい動線になっている。大谷石を使ったキッチンの引き出しは着物タンスを模して作った。「大谷石は自分で張りました」少しつづ暮らしを整える楽しみ今年に入って、動線の確保のため、I型のシステムキッチンから、コンロとシンクを独立させたスタイルにチェンジ。「I型のシステムキッチンはアウトレットで安かったので買ったのですが大きすぎました。買ってきた食料を冷蔵庫に仕舞うために、キッチンをグルリと周らなければいけないのが不便で。コンロとシンクのアイランドに変更したら、無駄な動線が減りました。使わなくなったI型キッチンは友人の家に嫁に出しました(笑)」キッチンの他にも、住みながら少しづつ暮らしを整えていった場所は多い。「リビングの家具の配置をちょっとづつ変えてみて、ようやく落ち着いたところです。今、庭の小屋を手直し中です。それが終わったらデッキも広げたいし、玄関タイルの張り替えも思案中です」「バスタブの上に読書灯を作ってもらいました。水をかけないでねと念を押されました」。バスルームの入り口のドアはインドで買ったアンティーク。「タイルは映画で見たバスルームを真似て自分で張りました」洗面台は宙に浮いたクローゼットの上に置かれたようなスタイル。八角形の鏡も素敵。片流れの平屋。ブルーの玄関扉が印象的だ。窓に腰を掛けて縁側のように楽しむ。「外観は予算重視でモルタルのまま仕上げました」「門扉は友人のアイアンワークのクリエイターに作ってもらいました」。愛猫は門扉をジャンプで出入り。
2021年11月08日2つのゾーンにわける家づくりに際してのいちばんのリクエストは仕事場と住むゾーンを完全にわけることだったという野中さん。「家でカウンセリングの仕事をしているので、息抜きというか、ストレスがたまらないよう気持ちの切り替え、オン/オフの切り替えが完全にできるようにしたいというのがありました」加えて、狭小地で四方を囲まれた立地のため、いかに開放感をつくるかということも設計上大きなテーマになった。仕切りを極力なくし2階の床を一部抜いて1階と連続する部分をつくったほか、大開口と中庭を設けるなどできる限りオープンなつくりにしているが、野中さんはこの中でメインのスペースとしてバスルームを考えたという。入口側から奥を見る。専用通路の幅が足りず敷地分割ができなかったことから、実家の増築というかたちとなった。また、実家が古く耐震基準を満たしていなかったことから実家の面積の2分の1以下に収める必要があり結果的に狭小増築となった。1階を全面モルタルに「『ファイトクラブ』という映画でブラッド・ピットがコンクリートの上に置いたバスタブに入っていたのを観て、ああいうのにずっとあこがれていたんです」バスルームの床をモルタルとしたことでそこと連続するダイニングキッチンなど1階のすべてのスペースの床をモルタルにすることに。設計を担当した建築家の加藤さんは「リビングバスにしたいというお話はいちばん最初の打ち合わせの時から出ていて、前庭からそのまま連続して浴室までをモルタルにして、さらに中庭と仕事場があるという構成をほとんどその場でスケッチを描きました」バスルームは野中さんの希望で他のスペースとまったく仕切っていない。奥に見えるのが中庭と仕事場として使っている離れ。玄関となっている開口部分。周囲との目隠しにつくった壁のところまでモルタルが続いているので、開放感とともに外部との連続性が生まれている。上部のエキスパンドメタルの床がさらに開放感をアップしている。汚れても大丈夫な家加藤さんには、過去の作品の、汚れても大丈夫な家、経年変化を楽しむ家という設計のコンセプトに魅かれて依頼したというが、この野中邸の設計でも生活感や汚れ、傷といった暮らしていくなかで当たり前に生じることがネガティブに働くのではなくむしろプラス方向に働くように配慮された。「この家ではラーチ合板を使っています。真っ白の空間だと汚れがついたら目立ってしまいますが、ラーチ合板は木目や節が目に付くので汚れがついたり傷がついても気になりません」(加藤さん)設計では当初IHで考えていたが奥さんの希望からガスコンロに変更。防火上の必要からコンロ周りにはモルタルを塗った。天井の梁部分もラスモルタル仕上げに。このモルタル部分がデザイン的にも効いている。上のアスレチックネットは大人が載ってもまったく問題ないという。バスとクローゼットの間から玄関方向を見る。室内にはいろんな種類のモノが数多く置かれているがそれが設計的な配慮によってまったく気にならない。床のモルタルのクラックや塗りムラなどにも同じ効果がある。さらにブレースなども隠さずに見せることで、生活にかかわるモノたちが増えてももともと目に入る要素が多いから気にならないという。ミニマル方向に振ったデザインであればモノを増やしにくいし生活感が出てくるとそれがストレスにもなりかねないが、こうしたデザイン的な仕掛けによって、無理をせずに暮らせる上に「生活したときの要素とあいまっていい空間の質になるようなところがある」(加藤さん)という。2階から階段を見下ろす。2階にはアスレチックネットを張って開放性をさらにアップ。「遊び心がほしい」というリクエストがあった2階にはアスレチックネットが張られブランコが吊り下がる。奥の上部にはロフトがつくられている。奥に見えるのが寝室。2階南側の大開口にはビル用のサッシを使っている。2階につくられたロフトは出入口が2つあるので間を仕切って子ども部屋を2つつくることもできる。2階南側大開口のもとで。エキスパンドメタルにはフラット加工が施されている。オンになる空間をつくる仕事場については「とにかく音が漏れないように防音室みたいなかたちにしてほしい。独居房みたいな感じで小窓をすごく小っちゃくしてほしい」というリクエストを出したという野中さん。この離れにつくったスペースについて、加藤さんは「上から神々しい光が下りてくるような感じがほしい」とも言われたという。そうしてつくった仕事のスペースを最近DIYで内装をやり替えたという。「1年3か月ここに住んでみて住むスペースだけじゃなくこちらでも落ち着いた感じになるとオン/オフの切り替えがうまくできないのに気が付いてこれは変えないといけないかなと」それで仕事場のほうは「緊張感がもてるというか住むゾーンとは真逆なゾーンにしてみよう」と思い、あえて下品にして差をつけることにしたという。コンセプトは“センスのいい下品”、「趣味は良くないけどセンスがいいみたいな微妙なところ」を狙ったという。2階奥にある寝室。窓から離れの仕事場が見える。中庭の奥につくられた仕事場。リクエストからあえて窓は建築基準法をぎりぎり満たす大きさのもののみに。“ダサかっこいい”の集合体この野中さんの話を聞いて加藤さんは「自分が住宅でやっていることとあまりずれていない」と話す。「僕は“ダサかっこいい”の集合体と言っているんですけど、世の中には単純にダサいのではなくてダサくてチープだからこそかっこいいというものがありますが、そういうものの集合体にしようということですね。だからラーチ合板も単体で見たら上品なものではないけれども、その使い方、見せ方、組み合わせの仕方とかでダサさかっこいいものにしようと。そのあたりちょっと似ている気がしますね」離れの仕事場。独特の雰囲気を持つこの空間は単なるオカルト趣味ではなく“センスのいい下品”をコンセプトに内装がやり直された。左の赤いフレームはキン肉マン消しゴムを数十個貼り付けてつくったもの(野中さん曰く“断捨離アート”)、その右側にいくつか取り付けられていのはメデューサの頭で、石粉粘土でつくられたもの。いずれも野中さんの自作だ。癒されつくしてカウンセリングの内容は恋愛と仕事の悩みが主で結局は人間関係という。「お客さんの悩みって真面目に生き過ぎているというのがほとんどの原因で、僕が先陣を切ってふざけてやろう、ふざけ倒してやろう」ということで仕事場の内装を自らやり直したが、一方で住居スペースのほうは「癒されつくしてストレスのことを忘れるくらい」な感じで日々の暮らしを楽しんでいるという。中でも気に入っているのがやはりこの家のメインとして考えたバススペース。「この風呂場はつくって本当に良かったなと思いますね。休日は温まってから冷たいシャワーを浴びて中庭で休むというのを何回も繰り返しています」。オン/オフのバランスもうまく取れてこの家での生活を心底満喫している、そのように見えた。法規的な制約から単体で建てることができなかったため増築のかたちをとり、奥の部分で野中さんの実家とつながっている。湿気が心配だったが、仕切りのない開放的なつくりのため梁に水滴がついて垂れることもなくまったく問題がないという。左の道を進んで右に折れると実家がある。手前の部分は簀の子にしたいとのリクエストがあったが、透過性などを考慮しエキスパンドメタルに。光量があるためいまはグリーンの「栽培コーナー」になっている。HOUSE-NN(野中邸)設計N.A.O|ナオ所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積約70㎡
2021年11月01日遊び心が刺激される大きな平屋神奈川県相模原市。周囲を山や畑に囲まれ豊かな自然が残る土地に、鮮やかなスペイン瓦が印象的な平家の洋館が建っている。この家に暮らすのは、川原さん夫妻と幼い仲良し姉妹。以前は世田谷区に住んでいたが、2020年の7月に引っ越してきた。「アメリカ人の男性が50年近く前に建て、大切に暮らしてきた家だそうです。住まい手を失っていたところを知り合いに紹介されたのですが、歳月を得た味わいに一目惚れして、すぐに購入を決めました」。奥さまの飛鳥さんは、運命的な出会いを振り返る。都心ではめったにお目にかかれない広々とした敷地と、ゆったりした間取りの大きな家。中庭、温室、屋上、地下室、ガレージ、サンルームといったオプションも豊富で、豊かな暮らしが思い描けたそうだ。「遊び心が常に刺激されて、楽しい生活になりそうだなと思いました」。深い赤色のスペイン瓦と白い壁が印象的な川原邸外観。左手のパラソルがあるところがガレージ。広大な庭の一角には、ご主人の念願だったバスケットゴールを設置。新たな息を吹きこむリノベーション重厚なつくりではあったものの、購入時の家は内装が傷み、古さが目立つ状態だった。そこでリノベーションを依頼したのが、15年来の知り合いだった木堂勝弘さん・久美子さん夫妻。アメリカの建築古材やアンティーク家具を取り入れ、味わい深いアメリカンスタイルの家づくりを担うつくり手だ。「木堂さん夫妻にお願いすれば、この家は絶対に輝くと確信していました。床も壁も全て新しくして、ドアや窓もつくり変えていただきました。お家が広いのでその分時間もかかりましたが、生まれ変わっていく姿を見るのはとても楽しい時間でした」。フローリングやタイル、壁紙やドアといった内装材、そして大きな家に合う重厚な家具は、この家に合わせて木堂さん夫妻がセレクト。本場アメリカの古い家や施設に眠っていた建築古材やアンティークがふんだんに使われている。「1960〜1970年代のものが多いそうです。年代物にしか出せない味わい深さがあって、家全体があたたかみのある空間になって、とても落ち着きます」。圧巻の広さのエントラスホール。元は応接室だったが、床を30㎝ほど掘り下げてモルタルを塗り土間にした。丸枠のドラマチックな窓と天井の黒檀色の化粧梁は既存。ブルーの大きな扉は新たに付けた。暖炉は既存。煙突が取れて使えない状態だったのを直した。暖炉上には川原さん夫妻の結婚式のバックドロップ(背景デコレーション)に使った板を貼り、アクセントに。元はティンシーリングというブリキの板だったが、飛鳥さんが壁に合わせて白く塗った。暖炉の中の年代物の薪ストーブも既存。サビをきれいに落とし、ペイントし直して使っている。玄関ホールに置かれた「SCHWESTER」の年代物グランドピアノ。ご主人と娘さんたちが一緒になって弾いているそう。広々とした空間にゆったりと家具を配したダイニングキッチン。ダイニングとキッチンを仕切っていた部分の壁は壊し、結婚式のバックドロップに使った板をアクセントとして貼った。収納たっぷりで使いやすいキッチンは、シアトルの家庭で使われていたもの。イタリアのメーカー「ベルタゾーニ」のガスオーブンと上手く組み合わせた。奥のスペースがリビングになっている。アメリカの大学のスタジアムにあったベンチの板を組み立ててつくったというテーブルは、長さ2メートル超のビッグサイズ。カーテンは、アメリカで見つけてもらった布を友人が縫ってつくってくれた。楽しげな「EAT」の文字で食欲が増しそうなダイニング。大きな開口部でエントランスホールとつながっている。手をかけて大切に住み続ける飛鳥さんの仕事はプロップスタイリスト。店舗やイベント会場、結婚式などの空間を華やかに彩ることを生業としている。このため、自宅のインテリアやデコレーションは、飛鳥さんが楽しみながらアレンジした。好きで集めているというアメリカやメキシコの小物、生命のパワーを感じるグリーンなどが、センスよくレイアウトされている。「空間が広くてドラマチックなので、ああでもないこうでもないと悩みつつも、とても楽しく自分たちが好きな世界観をつくりあげました。今後はハウススタジオとして色々な方に使っていただきたいと考えています」。(ハウススタジオに関する問い合わせは、飛鳥さんInstagramアカウント「#asuca27」まで)地下室や庭はまだ手付かずの部分が多く、これから手を入れていく予定だという。「地下はお酒を楽しめる大人の隠れ家バーのようにする計画です。お庭は広すぎてまだまだスペースがあるので、もっと植栽を充実させたいです。この家の楽しみ方は無限大なので、手をかけてずっと大切に住んでいきたいですね」。大きな花柄の壁紙が可愛い子ども部屋。長女のわこちゃん(7歳)と次女のゆうちゃん(3歳)が案内してくれた。子ども部屋のドアの前は、たっぷりの光が入るサンルームになっている。サンルームは床を掘り下げ、アメリカで見つけたデッドストックのテラコッタタイルを貼った。サンルームの環境が良いため、植物はとても元気に育ち、株分けをしてどんどん増えているそう。素朴な素焼きの鉢でグリーンを引き立てるのが飛鳥さん流。わこちゃんとゆうちゃんがお庭側からピョッコリ。絵本や外国の映画のようなシーン。新しいライフスタイルを手に入れてこの家に出会い、都会から自然の中へと、全く異なる環境での生活を始めた川原さん一家。広い庭でバーベキューやプールを楽しんだり、夏は草刈りに追われたり、ふとした空き時間に屋上に上がって空を眺めたりと、太陽や風、四季の移ろいを感じる暮らしを満喫している。飛鳥さんは「庭はもちろん、家の中にもワクワクする場所がいっぱいなので、子どもたちは次から次へと遊び方を発明しています」と話す。ご主人はピアノやギターに堪能で、絵を描いたりバスケをするのも得意だそう。娘さんたちと音楽を奏でたり外で思いっきり遊んだりと、ゆったりした時間を楽しんでいる。「世間がコロナで大変な時に引っ越してきたのですが、この家にいるとお家時間が充実していて、閉塞感を覚えずにのびのびと過ごせます。夫の仕事もちょうどリモートになって、家族の時間が増えました。この家に住み始めたことで、自然を感じながらゆったり暮らす新しいライフスタイルを手に入れました」。広い廊下も姉妹の楽しい遊び場所。大人用のチュニックをワンピース風に着こなしているのが可愛い。窓の外は中庭になっている。リビングのキャビネットの中には、ご夫婦の趣味のアメリカンなアイテムがぎっしり。スペイン瓦と和風の枯れ池という和洋折衷が面白い中庭。瓦の下のメキシカンタイルは飛鳥さんが貼った。「これからサボテンやアロエを植えようと思っています」と飛鳥さん。秘密基地のようで楽しげなガレージ内部。「両側の棚の上に造花を並べたらハッピーな空間になりました」(飛鳥さん)。にぎやかな柄のファブリックや年代物の木の家具が、温かみを感じさせてくれる寝室。仲良し姉妹のわこちゃんとゆうちゃん。「この家に引っ越して、娘たちを取り巻く環境も一変しました。とにかく元気に遊びまわっています」と飛鳥さん。
2021年10月25日解体しながら設計を進める多くの文豪を輩出し、大小の出版社が軒を連ねる東京・文京区。建築家の間田真矢さんが夫の央(あきら)さんとともに2度目の家づくりに選んだのは、古くから印刷・製本業が盛んなこの地に建つ、築33年、地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造の元印刷工場。今回は、既存の造りを活かしたリノベーションに挑戦した。「10年ほど前に新築した最初の家は、子育てをするには居住スペースが狭かったため、子どもが生まれたことを機に転居を考えました。自然豊かで子どもの教育にも適した場所を探し、出会ったのがこの物件です。最初は暗くて住みづらそうかなと思いましたが、アレンジ次第で面白いものになるのではないかと思ったのです」。仕事でリノベーションを手掛けていた経験から、解体してみなければわからない点が多いことを知っていた真矢さん。「まずは壊してから考えようと思いました」と。ラーメン構造だったため、間仕切り壁を取りはらい、天井板や壁紙などをはがし、解体を進めながら、設計を行っていったという。3階のLDKは、壁を撤去してワンルームにした明るい空間。大きな開口部(正面)の下には鏡を設置し、より広く見える仕掛けも。出窓を活かした造作のソファに合わせて、ダイニングテーブルをオーダー。天井のコンクリートを一部カットし、トップライトを設置。アンティークのハシゴを上って屋上へ。キッチンには、パーテイションの役割も兼ねたオープンな食器棚を造作。外壁のシルバーのタイルとグリーンのコントラストが美しい。「既存の左官仕上げを取ってみると、新築当初の光沢のあるタイルが現れて、これは使えると思い、磨いて使用しています」と真矢さん。主に模型づくりなど作業場として使用する1階のアトリエ。躯体現しの天井は、配管を整理した“見せる配管”がアクセント。RC階段の鉄筋を活かした“緑の階段”間田邸は、地階と1階が真矢さんと央さんが主宰する設計事務所のアトリエ、2階、3階が住居スペースとなっている。住宅密集地に建つため、向かい側の住人と視線が合わないよう、家族が集まるLDKは3階に配置。現在は、光に包まれた明るい空間に仕上がっているが、当初は、隣家が迫っているため、どこから光を取り入れるかが大きなテーマだったという。「採光のために、階段室を解体して吹き抜けを造ることが効率的と考えました。はじめは、RCの階段をすべて撤去する予定でしたが、解体している途中で階段内部の鉄筋だけが残っている状態を偶然に見たのです。こんなにきれいに残っているなら、これを活かさない手はないと思いました。緑を取り入れたかったので、もともと興味のあった遺跡をイメージして鉄筋に植物を絡ませていき、“緑の階段”を作り上げました」。偶然の遭遇と斬新な発想から生まれた“緑の階段”。光をもたらすだけでなく、オブジェのような存在感も放っている。地階から塔屋までの5層を貫く吹き抜けの上部に、新たにトップライトを設置。たっぷりの陽光が入り、空気も循環するため、植物もよく育つという。「どんどん伸びる植物を見るのは楽しいですね。家の中で季節を感じられるのがよいです」。3階のキッチン。“緑の階段”を間近で見られる特等席。塔屋の上部につけたトップライトからたっぷりの日差しが入り、とても明るい。コンクリートの躯体を現しにしたLDK。木製の窓枠や家具、グリーンが程よく温かみをプラスしている。元は階段室だった場所を取り壊し、鉄筋のみ残した。「昔の建物の痕跡を残したかったこともあります」と真矢さん。塔屋までの吹き抜けを地下1階から見上げる。上部にトップライトを設置。キッチンに置かれたアイランドカウンターは、使い勝手を考えて真矢さんが設計したもの。キャスターを付けて移動自在にしたため重宝。コンパクトですっきりとしたキッチンは『SieMatic』。洗濯機(右奥)も一緒に設置し、水回りを集中させた。2階は寝室とサニタリールーム。『DURAVIT』の洗面の奥にトイレ、バスルームを配置。上部はロフトになっていて、娘さん(6歳)の遊び場としても活用。子ども部屋から“緑の階段”を見る。窓の奥に外が広がっているような錯覚も。新設した階段を3階から見下ろす。間田邸には、ケニアや北欧などを旅した際に購入した動物のオブジェがアクセントに使われている。木製のキリンは望月勤氏の作品。ワンルームを素材でゾーニングコンクリートの躯体を現しにした天井や壁、開口が印象的な間田邸。「あえてコンクリートのギザギザしたところを残し、きれいにしすぎないようにしました」と真矢さん。現場に通いつめ、職人さんに細かく指示を出して削っていったと話す。“緑の階段”に加え、コンクリートの天井をカットして造ったトップライトからもたっぷりの光が降り注ぐ。下に置かれたエバーフレッシュの葉が青々と育ち、まるで屋外のよう。新設した階段側の壁には漆喰を塗り、床にはレンガタイルを採用して屋外の雰囲気を盛り上げている。一方、LDKや寝室が配置された側は、フローリングの床に、ヒノキ合板を使用した壁など木をふんだんに使い、ゆったりとくつろげることを意識した。床材と同素材の大きなプランターに植えたグリーンもゾーニングに一役買っている。住まいながら、光の加減を見て、隅々まで光が入るよう床を削ったり、最近では、地下のアトリエから1階に上がる階段を作製したりと、今もなお続くリノベーション。「必要なものをその都度手を加えられる自由さが楽しいですね」とリノベーションの魅力を語る真矢さん。荒々しさと繊細さが同居した家は、真矢さんの自由な発想でまだまだ進化しそうだ。階段側はレンガタイルの床、リビング側はフローリングにし、ゆるやかにゾーニング。現在は、屋上に続く階段を考え中とのこと。2階の床も素材を替えることで、室内と半屋外空間との異なる雰囲気を演出。ヒノキ合板の壁でぬくもり感を演出。各階のベランダにもグリーンを添えて。設計を中心に行う地下のアトリエ。印刷物の搬出入用の穴を利用して設置した階段は、真矢さんが研究中の“デジタルファブリケーション”技術を用いて作製した。右奥にも階段があり、1階と地階の行き来には回遊性ができ、便利になったとのこと。地階から3階まで吹き抜けでつながっているため、声がよく通り、安心感もある。1階と2階をつなぐ既設の階段は、黒いモルタルを流し込んだ。ここで靴を脱ぎ、2階、3階の住居スペースへ。間田邸設計MAMM DESIGN一級建築士事務所所在地東京都文京区構造RC造規模地上3階、地下1階延床面積143.15㎡
2021年10月18日レンガをひとつづつ敷き詰めて鎌倉の森の中を抜ける不揃いの階段を108段昇ると、庭を囲むように4軒の古民家が建つ一角が現れる。その中の1軒が山下りかさんの住まいだ。「子どもの独立を機に鎌倉や葉山への移住を考えていた時に友人が紹介してくれた家です。雨漏りしている家を自分で直して住みたいと、家族にこの家の写真を見せたら心配されました。でもチャレンジしたい気持ちのほうが大きかったです」その決断には、DIYの腕に覚えのある頼もしい友人の存在が大きかったのだとか。雨漏りしていた場所の床ははがして、古い耐火レンガを敷いた土間にした。ひとつ3.5kgのレンガ630個と25kgのセメント袋を、108段の階段の先に自力で運びあげる力仕事からセルフリノベーションが始まった。そして丁寧に水平にした床にセメントを粉のまま床に撒き、その上にレンガを並べて目地にセメントをつめ、最後に水を撒く。「セメントを水で練って左官で仕上げる方法が一般的ですが、そのスピード勝負のやり方は私の手には負えないと判断した友人が見つけてくれた手順です」愛情込めて敷かれたレンガの土間は、こうして3ヶ月かけて完成した。「アメリカに住んでいた頃旅したマルティニークの宿で、カーテンをこんなふうにサイドのフックにまとめていました。いつかやってみたいと思っていたことのひとつです」。手持ちのカーテンレールを生かすため、麻とオーガンジーの2枚のカーテンを上部で縫い合わせた。古い耐火レンガの土間と、白く柔らかなコットンオーガンジーのカーテンの組み合わせが美しい。右のビンの中は庭で採った枇杷の葉。粉のセメントの上にレンガを並べてから水を巻く方法で作った土間。ラグは30年ほど使っている愛用品。左は天井を開けたら出てきた蜂の巣!「右の摩天楼のようにも見える木の杭は、土間を平らにする時に使った思い出の品です」庭仕事を楽しむ種から育てた苗を畑に植える。「友人が山梨でビオ農法をしていて、種を譲っていただきました」朝から庭に出て草取りをする。取ったスギナやドクダミも無駄にせず、剪定した枇杷や無花果の葉とともに乾燥させてお茶にする。豊かな自然に囲まれた場所で、ゆっくりと時間が流れる。「庭に出る時は頭からストールを被って首の周りにぐるりと巻いて、その上から帽子を被ります。日焼けと、顔の周りで飛ぶ虫の防御です(笑)」古い農機具は譲り受けたものも多いのだとか。「友人に分けていただいたカボチャとオクラの種と、サフランの球根です。植え付けが楽しみです」手仕事を楽しむ毎日ライアーという竪琴の演奏や、手仕事のワークショップを開催している山下さん。庭の樹の枝や葉も大切な素材のひとつ。畑で収穫した野菜で料理をしたり、縫い物や編み物をし、手仕事を楽しんでいる。セルフリノベーションも手を動かす楽しみのひとつ。「家の中が落ち着いたら、外壁や屋根も直したいと思っています。春の庭仕事も楽しみです」リンゴケーキをふるまっていただいた。「長年作り続けている長尾智子さんのレシピです」。ダイニングテーブルはアンティークのハーベストテーブル。シンクと蛇口をネットで購入し、友人が作ってくれたキッチン。「右側にオーブンを置きたかったので天板に奥行きを出してもらったのですが、結局置かないことに……」お皿を並べる時に重宝するキッチンの前の小さなテーブルは、目盛りの入ったアンティーク。ゆったりサイズのソファで手仕事を楽しむ。「実の入っていない栗を使ってスプーンを作ります」柄は剪定したブドウの蔓。秋の手仕事を楽しむ山下さん。お花を生けたカップに花柄のお皿を敷いて。洗面所近くの引き出しの上で身だしなみを整える。奥のトイレのドアも山下さんのDIY。白いたっぷりとした奥行きの1.5人掛けのソファは、古いものを見つけて手に入れた。新しく作った玄関。「庭へのアクセスもよく、土間に直接出入りができる場所に作りました」
2021年10月11日異彩を放つ池の前の家石神井公園内の池に面して建てられたこの住宅の前を散歩をする人たちが途絶えることなく通り過ぎていく。多くの人がこの家をじっくりと眺めながら。中からその様子を見ていると、住宅ではあまりないだろうその光景にちょっと不思議な気分になる。思わず視線が向いてしまうのも無理のないほど周囲の中で異彩を放つこの住宅の1階に建築家の武田清明さんの一家が住んでいる。もとは1階にお施主さんの鶴岡さんとお母様が、2階に鶴岡さんのお姉さん一家が住む計画だったという。「実施設計が終わるという頃にお母様が亡くなられ、かつまた、鶴岡さんが長年の夢をかなえて京都に住むということになって、1階に“自分のかわりに住んでくれますか”ということになったんです」ヴォールトの形状がそのまま特徴的な外観デザインとなっている鶴岡邸。コンクリートは洗い出し仕上げで表面には細骨材が見える。経年変化で価値が下がるのでなく汚れや風化などにより時間が刻み込まれることで価値が上がるような建築を目指した。ドームからヴォールトへ設計は確認申請のできる段階まで進んでいたが、将来の生活の変化や世代交代時などにも対応できる可変性のある住宅として計画していたため、武田さん一家が住むに際しては間仕切りを取るなどをしたほかは大きな変更は行わなかったという。まずはこの家のいちばんの特徴であるヴォールト天井についてうかがってみた。「ドーム状の包まれたような空間で暮らしたいということで、ファックスで送られてきたイラストがキノコが大きくなったような形のお家でした。2世帯でかつそれぞれに部屋をいくつかつくることなどを考えていったときにそのドーム状の円い空間がネックになりました」天井をドームからヴォールトへと変えた理由のひとつに目の前に広がる池の存在があった。「人間は美しいものに視線が自然と向かうので、ヴォールトにしたのには、池へと向かう方向性をつくって手前にいても奥にいても必ず池と向き合うような天井にしたほうがいいのではないかということもありました」植栽計画は2人の植栽家に依頼。「1人の植栽家が描いた世界観が自然に植物の種類が増えていくに連れて壊れていくのではなく、どんな植物でも“入って来てOK”という環境になっていてそれがとても良かった」(武田さん)。武田さんの仕事スペースから池を見る。大中小のヴォールトが並んで天井にリズミカルな変化が感じられる。造り付けのベンチ側から見る。人間にとって原初的な空間ともいえる洞窟のようなつくりが心地よさと安心感をもたらす。家のいちばん奥側に造り付けられた木製のベンチ。自然環境から考えるさらに鶴岡さんからのまた違った要望も考慮された。「自然豊かな環境の中で人間以外の生物とともに暮らす喜びを感じながらずっと過ごしてこられた方で、“鳥が集まってくるような場所にしてほしい”とか、家の周囲の環境から考えざるをえないような要望が多かったので、家の暮らしと環境とをいかにその境界を感じさせないように結びつけるかということも大きなテーマとなりました」人間以外の生き物たちと境界なく接することができるためには、まず生き物が居場所と思えるような場所をつくらなくてはいけない。「動物や虫が居場所と思ってくれるためには土と植物がとても大事で、庭についてはまず鳥が集まるように実がなる植物を植えたり茂みをつくったり、あるいは植物の種類を豊富にしたりと建築のプランニングをするのと同じくらいの密度で考えました。2階の四周と屋上も同じ考え方で臨んだので、そういう意味ではこの家では床を積みあげるのではなく庭を積み上げてつくろうと思いました」“床を積み上げる”のではなく“庭を積み上げる”との考えからつくられた鶴岡邸。コンクリートスラブの厚さは120㎜。土の深さはいちばん薄いところで200㎜、厚いところで900㎜と大きな差がある。2階の四周につくられた庭でも植物が育っている。内外を隔てるのはガラス戸1枚のみ。土を深くするそして地上レベルだけでなく2階と屋上にも庭をつくる際にクリアしないといけない問題が“水”だった。この問題に対処するのにヴォールトが大きく関係してくる。通常の庭であれば雨が降ればそれはまた大地へと戻っていくが、建築は大地の上に建つことでその循環を断ち切ってしまう。しかし、うまく循環させるような建ち方はないかと考えたところでヴォールトを利用することになった。「雨が降ったら山から谷へと流れていくようにヴォールトのカーヴに沿って水が下へと流れていく。それをコンクリートでやってみたんです」ヴォールトの“谷”は深いところで900㎜ある。ここまでの厚みを取ったのには意味があるという。「人間にとっても動物や虫にとっても、生物が居心地がいい居場所にするためには土が深いということがとても重要です。植物であれば地被だけではなくて、低木や中木までを含めて多種多様な植物が生息できる可能性が一気にぐっとあがるんです」。屋上に上がると建物の上にいることを忘れてしまうほどに多様な植物が生い茂っていて「ぎりぎりでも大地と呼べる環境ができたらいいなと思った」という武田さんの思いは十分実現されていた。屋上には植物が生い茂り丘の上から池を望むような感覚も。多くの種類の植物が育つように土の厚みを一般的な屋上緑化の数倍取っているが、水はけが悪くならないよう下になるほど土の粒度が大きくなるような層構成としている。テーブルにシンクを備えたパーゴラは植物の屋根ができて完成となる。事務所との兼用に変更「100㎡というのはわれわれが住むには少し広すぎて、そこまでは必要ないなと。それが最初にあって事務所もまだそれほど大きくないので事務所兼用ということにしました。それとスタッフも家族もこの環境で過ごせたらいいなというのもありましたね」内部空間でのお施主さんからの要望は「壁は木にはしないでほしい」ということ以外にはなかったため、仕上げに関しては武田さんの考えた通りのものが実現した。自分たちが住むことになって変更したのは間仕切り壁を3つほど取ったのと、カーテンを付ける予定だったのをカーテンなしにしたこと程度だったという。ダイニングとキッチンを見る。キッチンの左の黒いスチールの壁の裏に雨水を地面まで落とすパイプが通っている。窓にカーテンは付けていないが、Pコンにボルトでカーテンレールを取り付ければカーテンありの生活も可能だ。キッチンから奥の事務所スペースを見るとヴォールトの谷の部分が並んで見える。その下の高さ2000㎜までの部分が間仕切りを取ったり付けたりすることで暮らしの変化に対応可能なスペース。自然にぼーっとできる場所「この池の前の家に越してきてから2カ月ほど。住む場所と働く場所が一緒なのはすごくいいなと感じています。こどもがこのテーブルでご飯を食べている横で打ち合わせをしたりもしていて、“職住一体”はやってみたらよかったですね」。続けて「間違いなく気持ちいいし、このような場所で過ごせるのは幸せ」と話す武田さんは住んでみて実感したことがあるという。「人間の暮らしや空間を考えたときに、豊かさというものをどこで感じるかいうと、それはインテリアではなくて外部にある自然環境なのではないかなと」。そしてこの住宅は「目の前の豊かな自然をふんだんに取り込める器にはなったかなと思っています」と話す。またこんなことも感じているという。「都会での生活ではぼーっとできる時間がなかなかもてませんが、ここだと自然にぼーっとしてしまう。都市の中にいると人工物に囲まれているし、かつ車や人とか動いているものの速度が速いですが、目の前に広がる池や森を見ていると動きがスローなのでそちらの時間にあってしまって自然にぼーっとした状態になる。これは意識の切り替えなどの問題ではなくて、やはり自然がないとできないのかなと」。仕事中に目を上げるだけで疲れがいくばくか癒される。環境との組みあわせによって、都会の中ではありえない、そんな建築の可能性、あり方にも気づかせてくれる住宅なのだ。手前の部分が武田さんの仕事スペースになっている。武田さんの仕事スペースの隣の300mm高くなっているスペースは現在模型製作の場となっている。客間になる予定だったこの場所はスタッフの仕事スペースとして使われている。洞窟的な空間でのバスタイムは格別だろう。この天井の下にはバス、トイレ、キッチンなどの水回り関係が配置されている。外の景色を眺めながら作業のできるキッチン。建築家仲間と飲み会をするとテーブルを囲むのではなくみな池に向かって座るという。鶴岡邸設計武田清明建築設計事務所所在地東京都練馬区構造鉄骨造規模地上2階延床面積234.82㎡
2021年10月04日シンプルなデザインと温かみのある住まい川崎市の閑静な住宅街に建つT邸。かわいらしい三角屋根の外観が目を引くこの家に暮らすのはTさん夫妻と小学5年生の長女、小学2年生の長男の4人家族。「もともと同じ地域の3LDKのマンションに家族4人で住んでいたのですが、子どもの成長とともに手狭になりはじめたことをきっかけに、家づくりを決意しました」(ご主人)。夫妻が設計を依頼したのは、IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)の井上亮さん。きっかけとなったのは、100%LIFEだったという。「家づくりを検討する前から、100%LIFEをよく見ていました。記事で紹介される家のなかでも、特にこの家好き!と感じる家の多くがIYSさんの家でした。シンプルで洗練されたデザインと温かみのある家づくりに惹かれて、依頼することにしました」(奥さん)。玄関を入るとすぐに広がる開放的な吹き抜けのホール。ブラックチェリー材を使用した1階の床は、年月とともに深みのある赤色に変化していく。2階との距離を近く感じられるように、1階の天井は低めに設定。「天井の高低差による雰囲気の変化も意識しています」と井上さん。2階の天窓からの光が、吹き抜けを介して玄関ホールにも差し込む。玄関ホールにはラワン材などの木材をふんだんに使用し、木の温かみが感じられる。階段下には、ご主人、長女、長男のそれぞれの個室を配置。屋根裏のような楽しい空間「適度な距離感を保ちつつ、家族の気配が感じられる家」をコンセプトに設計されたT邸。LDK・和室を配置したメインの居住空間である2階と、家族それぞれの個室と水まわりを設置した1階が、まるで木をくり抜いたような吹き抜けのホールによってつながっている。IYSの井上さんは「当初Tさん夫妻は家族のコミュニケーションの観点から1階をリビングとするプランを要望されていました。しかし、立地の点から採光や眺望を考慮し、2階にLDKを配置するプランとなりました」と語る。2階LDKはワンルームでありながら、中心の吹き抜けのホールによって個々の居場所がゆるやかに分かれる。家族のつながりを損なうことなく、快適な居場所感も両立した空間が特徴だ。さらに2階LDKで井上さんがこだわったのは、勾配屋根を生かした室内空間だ。「制限があるため、軒の高さを低く抑えなければなりませんでした。それをクリアするとともに居住空間である2階の広さを確保するために、勾配を高さ制限目一杯にとり、あたかも屋根裏のような楽しい空間になるように目指しました」(井上さん)。さらにダイニングからリビング、和室へと床レベルが変化することによって、立体的かつ多様性のある空間となっているのも設計のポイントの一つだ。「室内にさまざまなレベル差が生まれることで、目線の高さにもバリエーションが生まれます。ダイニングやリビング、和室などそれぞれ高さの違う場所があることで、同じひとつの空間でも雰囲気が変わります。また、高低差のある空間は、子どもにとってもワクワクする遊び場のような楽しさを感じさせます」(井上さん)。無柱の開放的な2階LDK。ダイニング横の南東に広がる窓は、奥さまの要望。「100%LIFEで見た家を参考にして取り入れてもらいました。眺めがよくて気に入っています」(奥さま)。吹き抜けのホールを中心にキッチンやダイニング、リビング、造作の本棚、スタディコーナーなどの各機能を配置し、ぐるりと動き回れる回遊性のある空間を実現。床材には黄色いオーク材を使用。スキップフロアのリビングの横には小上がりの和室を配置。また、床のレベル差を利用し、和室の下には大容量の収納スペースを設けた。リビングからダイニングを見る。右手のスタディコーナーとリビングの床の高さを揃えるなど、さまざまな高さの床レベルによって、バリエーション豊かな遊び心のある空間が広がる2階トイレ前に設置した造作の洗面スペース。天井にはLEDのライン照明を採用。柔らかな光が心地よい空間を演出する。家族4人の心地よい暮らしIYSの細部まで追求した設計により、家族の理想を実現したT邸。Tさん一家がこの家に暮らし始めてから約1年。ご家族は、コロナ禍の生活においても心地よく過ごすことができていると声を揃える。取材中も子どもたちは元気いっぱいに家中を歩きまわり、普段の楽しげな暮らしぶりが伝わってくる。最後にこれからの楽しみについて伺うと「まだ家族にしかこの家を披露できていないので、コロナ禍があけたら、私や子どもたちの友人を招きたいと思っています」と微笑む奥さま。この家は、これからも家族の成長を見守り、Tさん一家の楽しい日々を支えていくだろう。長女の部屋は薄いピンク色の壁紙を採用。長男の部屋には青色の壁紙を採用。採光を考慮して窓は高い位置に設置。三角の切妻屋根が印象的なT邸外観。T邸 施工株式会社 坂牧工務店 意匠設計Inoue Yoshimura studio Inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社) 構造設計:川田知典構造設計 所在地神奈川県川崎市 構造木造 規模地上2階建て 延床面積約100㎡
2021年09月27日