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2018年夏、例年にみない猛暑を迎えている日本だが、そんな暑さにも負けないくらい熱いメッセージのこもった世界最大級の芸術祭が、農業と深い関わりをもつ街、新潟県・十日町市、津南町で開催されている。名前は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」。街全体が芸術作品を表現する美術館のようなフィールドになっており、大自然の元に成る里山と人間が作り出す作品との調和が面白い。友達と賑やかに遊んでハツラツと流れるような夏の休日を過ごすのも悪くはないが、豪雪地帯の里山のなかでアートを通じ、自然について考えに耽ってみてはどうだろうか。ペリスコープ/ライトケーブ マ・ヤンソン/MADアーキテクツPhoto by Osamu Nakamura農業を通した自然との関わりを残してきた地域である新潟県・十日町市、津南町で7月29日から、9月17日まで開催されているアートフェスティバル、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」。越後妻有(えちごつまり)というのは、十日町市(とおかまちし)と津南町(つなんまち)からなる一帯の地域の名称であり、毎年豪雪に埋もれ、河岸段丘*1の土地を伴う集落である。そこに住む人々は、厳しい自然の条件下の元でも米作りを続け、自然との関係を切り離すことなく、この芸術祭の理念でもある”人間は自然に内包される”を体現してきた。そんな体験を美術として捉えることで、人間と自然との関係をどのように見つめ直していくかという大きな命題がこの芸術祭には託されている。(*1)河川の中・下流域に流路に沿って分布する平坦面 (段丘面) と急崖 (段丘崖) から成る階段状の地形たくさんの失われた窓のために 内海昭子Photo by Kuratani TakubokuPalimpsest: 空の池 レアンドロ・エルリッヒ当芸術祭には大きく7つのコンセプトがある。1.人間は自然に内包される2.アートを道しるべに里山を巡る旅3.世代、地域、ジャンルを超えた協働4.あるものを活かし、新しい価値をつくる5.ユニークな拠点施設6.生活芸術7.グローバル/ローカルこれらからは、人間と自然の農耕を通じた関係、里山の美しさ、ボーダーレスに人をつなげる協働、廃施設の再利用、生活のなかでの営みの美術としての再定義などが表現されている。また、「大地の芸術祭の里」としての地域づくりのあり方は、「妻有方式」としても海外メディアで取り上げられるなど、新しい地域づくりのモデルとして様々な地域に影響を与える先駆け的な存在として注目されているようだ。上郷クローブ座レストラン 「北越雪譜」ちなみに開催期間中にすべての作品を鑑賞するには、作品鑑賞パスポートが必要だ。料金は当日購入が3,500円。学生なら割引もある。越後妻有オンラインショップ、各種プレイガイドで購入でき、開催期間中は越後妻有の各所でも購入することができる。広い土地での作品鑑賞に疲れたら、食を通して感じることのできる体験ブースや、泊まることの出来る施設もある。ぜひ、自身の身体と向き合いながら自然との対話を楽しんで欲しい。今週末は頭の先からつま先まで全身の五感を全て使って妻有の里山で自然とアートのつながりを存分に感じてみてはいかがだろうか。何か新しい発見があるに違いない。大地の芸術祭Website|Facebook|Twitter|Instagram棚田 イリヤ&エミリア・カバコフPhoto by Osamu Nakamura▶︎オススメ記事・“専業主婦”のアーティストが「大量のちんこが謝っている絵」を描くことで表現したかった、男女平等思想・#006「自分と世界の繋がりを取り戻すために」。楽しくハッピーに地球を守る、環境アクティビストたちの実態|「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org(最終回)Text by Tomoki KanekoーBe inspired!
2018年08月07日「3千億キロ」という数字を聞いて、一体何のことを指しているのか、あなたはピンとくるだろうか。正解は2つ。1つ目は、地球に住むすべての人間の体重の総合計で、2つ目は、1年間に世界中で生産されるプラスチックの総重量だ。前者が76億人ともいわれる、年々増え続ける人口を全部ひっくるめた数字なのに対して、後者はたった1年間のあいだ、しかもその大半がゴミとなる物質の生産量。両者が同じということに、異常さを感じないだろうか。大量廃棄されたプラスチックは、自然に分解されたり消滅することなく、やがて海へと流れ着く。このままいけば2050年には、海に漂うプラスチックゴミが、海に住む魚たちの重量を上回るという研究結果も出ている。今からたった30年後の未来だ。今回は、この現状を変えようと立ち上がったベルギーのサングラスメーカー「w.r.yuma(ウィー・アー・ユマ)」を、世界の社会派な企業を紹介していく新シリーズ「世界のGOOD COMPANY」で紹介しよう。米アリゾナ州「ユマ」市という、世界一日照量が多い地にちなみ名付けられたスタートアップが、暗雲ただよう未来にどのような明るい光を差してくれるのかに注目だ。“無駄やゴミを出さない”ポリシーの徹底は、これだけに留まらない。同社のビジネスモデルの根幹を成す、「使用済サングラスの返還システム」を紹介しよう。あなたがウィー・アー・ユマのサングラスを購入したとする。たくさん使っているうちに壊れてしまった、もしくは新しいデザインのものが欲しくなった、なんていうときは、そのサングラスを同社に「返還」すればいい。そうすれば、新しいサングラスの購入に使える割引クーポンがもらえる仕組みになっている(サングラスの使用期間が長ければ長いほど、割引額が大きくなるので、大切に使うことを後押ししている)。返還されたサングラスはというと、分解されて、また新しいサングラスへと生まれ変わるのだ。リサイクルだけでは不十分だと考える彼が提唱するのは、“循環型ビジネスモデル”だ。リサイクルというと聞こえはいいですが、それだけだと、単にゴミを捨てる時期を先延ばしにしているだけにすぎません。そうではなくて、そもそも“捨てる”という概念が存在しない、それが“循環型”ビジネスなのです使い終わったプラスチックから新しい製品を作り、それをまた別のものへと作り変える。すべてをあますことなく使い切り、形を変え、循環させる。今後の目標は、サングラスのみならず、ファッションアイテム全般へのレパートリー拡大と、ミュージックフェスなどとのコラボレーションだという。青空の下、大好きな音楽を聞きながらビールを楽しみ、飲み終わったカップでオリジナルサングラスを作る、なんてブースがあったら最高じゃないか。▶︎これまでの世界のGOOD COMPANY・#002 「都会に溢れるゴミ」から世界にひとつだけのオリジナルバッグを。LA発ブランドRAREFORM・#001 「ファーム・トゥー・テーブルの民主化」を目指すアメリカのファストフードレストラン、Dig Inn▶︎オススメ記事・今、世界が欲しがるのは“プラスチックのごみ”。プラスチックを貴重品に変えるコミュニティ「Precious Plastic」とは・「人が何よりも興味深い」。スケートボード界のレジェンドアーティストが“人を描いて”、現代人に伝えたいことAll photos via w.r.yumaText by Kana FujiiーBe inspired!
2018年08月06日スケーターでファッションが好きな青年が、ファッション業界やものづくりを行う工場、職人に対する思いが込められた「生きているTシャツ」プロジェクトを始めた。クラウドファンディングでの同プロジェクトの支援率は、開始後一ヶ月経たずして、すでに80%を越えている。今回Be inspired!は、ニューヨークでファッションマーケティングを学ぶ準備のため、現地で英語を勉強している彼にメールでインタビューを行った。社会に対する思いを込めたブランドを始動させた背景には、何があったのだろうか。Photo by Saya Nomura「遊びも勉強も振り切れていなくてダサい」彼の名は佐藤徹駿(さとう てっしゅん)、23歳。基本的にどこへでも持ち歩き、移動手段として使用しているスケボーを始めたのは高校生のときだった。現在の音楽や洋服の趣味もすべて、スケートカルチャーに影響を受けているといっても過言ではないという。そんなスケーターマインドを持つ彼だが、大学3年生までは正直なところ、あまり真面目な学生ではなくのんびり遊んでばかりだったと振り返る。このままだと俺やばいって危機感とまわりのイケてる友達やかっこいい大人たちと自分を比べて、劣等感をめちゃくちゃ感じていました。遊びも勉強も振り切れてなくてダサいなって自覚がありました。そんな温度・湿度の調整機能を持つTシャツがどこで作られているかというと、彼の父親が4代目として営む工場だ。徹駿氏の実家は100年近い歴史を持つニット工場で、「生きているTシャツ」は、そこで培われた職人の長年の経験と技術を生かした製法で編まれる。セーターを作るには、原料から糸にする行程をはじめ、染色や成型、編み機の調整とプログラミング、寸法通りに形を整えるまでの一定の工程が必要で、彼の実家の工場はそのすべてを行っているという。しかし、日本全国で紡績や染色を行っている工場は、ほんのわずかしか残っていないのが現状なのだ。23歳の自分にできる、最大の反抗自身のブランドにつけた名前は「rebel-23」*1。現在23歳の彼が、今のファッション業界やものづくりを行う工場、職人たちを取り巻く環境に対して訴えることができる最大限の思いを込めたという意味合いだ。日本のニット工場を取り巻く現状についていえば、効率よく利益を得ることを追求してきたために、人件費の安い国へ生産拠点を移し続けられた。その影響を受け、30年前には国内マーケットで販売されているセーターのうち50%以上が日本で作られていたところが、現在ではわずか0.5%しか生産されなくなっている。その事実を目の当たりにして感じた「このまま合理性ばかり求めていくと国内から技術が消えてしまう」という危機感について徹駿氏は、クラウドファンディングページにこう綴っている。10年後、20年後、私たち若い世代が「自分たちが作りたいもの」を作り続けるために、今の日本のものづくりを守り続けないといけない。(*1)rebelには反抗という意味があるパトロンとなった際に得られるリターンは「生きているTシャツ」や「工場見学ツアー参加券」だけではなく、「徹駿と一緒にスケートボードをする権利」や「徹駿と飲みに行く権利」といったユニークなものも選べる。もしかすると、どこからとなく感じられる彼のユーモアが支援する人を惹きつけているのかもしれない。それらをリターンに入れた理由について、インタビューでは以下のように答えている。強いて言えば、他のプロジェクトのリターンなどで「講演会に呼ぶ権利」みたいなやつをよく見かけるのですが、自分はそんなことができるほど、ためになるいい話は何もできないし、人前で話すのとかは苦手で、でももし何かできることがあるとしたら、新しく何かを始めたいと思っている人や私の話をききたいなっていう人に対して、自分が一番熱くなれて、楽しくなれて、そして仲良くもなりやすい環境でお話ができるリターンを作ろうと思ったのが狙いです。あと、クスってなってくれればいいかなって感じです。Tesshun Sato(佐藤徹駿)Twitter|Instagram▶︎オススメ記事・#9:「マス受けは望まない」。消費者と環境と“ワタシ”のために服を作る英国ファッションブランド|Bi編集部セレクト『GOOD WARDROBE』・アンチファストファッション。「泥」を尊敬し、「土」に還る服を作る男。All photos via Tesshun Sato unless otherwise stated. Text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年08月03日ごちゃごちゃと光り輝くネオンのなかを行き交う無数の人々。東京一のゲイの街、二丁目。昔から続く劇場にライブハウスやひっそりと佇むZINEの専門ショップ。淡々と鳴り響くいささか不気味なドラッグ規制の放送や、数え切れないほどの風俗店はちょっとアングラな雰囲気が漂うけれど、紛れもなく最先端のカルチャーを生み出し続けている東京を代表する歓楽街、新宿。今回そんな新宿の街中で、野外フィルムフェスティバルが開催されることになった。どうして「映画」なのか。今回映画にまつわるプロデュースを務めた服部進(はっとり すすむ)氏と鎌田雄介(かまた ゆうすけ)氏は、映画こそ多様性を扱うのにぴったりのメディアだと話す。映画は芸術作品のなかで、もっともたくさんの人間が関わるものだと思います。 誰でも、どの国でも作ることができます。多様性をテーマにするもっともふさわしいメディアだと思います。さて、第二回目となる明日の上映作品は『ギフテッド』。『ギフテッド』生まれて間もなく母親を亡くした7歳のメアリーと独身の叔父フランク。メアリーに天才的な特別な才能が明らかになることで、静かな日々が揺らぎ始める。「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ監督がメガホンをとったファミリードラマ。会場には充実したキッチンカーも用意されるそう。映画を楽しむだけでなく、街や野外ならではの雰囲気を楽しむことができるだろう。そしてなんとこのイベント、入場無料。いつもと違った新宿を楽しみ、多様性について考えてみれば充実した週末の幕開けとなるだろう。『新宿パークシネマフェスティバル』Website≪主なスケジュール≫7/6(金)グランド・ブタペスト・ホテル8/3(金)ギフテッド9/7(金)マリーゴールド・ホテルで会いましょう 10/4(木)リトル・ミス・サンシャイン10/5(金)(500)日のサマー 10/6(土)ファミリー・ツリー
2018年08月02日子ども以上、大人未満。親や教師が描く他人の物語から自分の物語を生きはじめる分岐点。その記憶は、眩しくキラキラ光っている人もいれば、暗く混沌と濁っている人もいるかもしれない。誰もが理想と現実の狭間で、この先の人生をどう生きるのかを考えながら過ごしていたあの頃。新進気鋭の24歳。枝優花(えだ ゆうか)監督が、人生で初めて撮った長編映画「少女邂逅(しょうじょかいこう)」は、彼女が14歳の時に受けたイジメの経験をきっかけに生まれた作品だ。この映画は、クラウドファンディングで集めた資金に合わせて、彼女が私財を投じてつくった自主制作映画でありながら、第42回香港国際映画祭、第21回上海国際映画祭と海外の大規模な映画祭で正式招待上映を果たすなど異例の快挙を成し遂げている。SNS上では、公開前から映画に関する投稿が盛り上がり、6月30日に東京の新宿武蔵野館で一般公開された後は、連日多くの感想がタイムラインに飛び交っている。その反響は10代、20代の女性を中心に、年齢、性別を越えて広がり続けている。新宿武蔵野館では、盛況を受けて8月10日まで上映期間の延長が決定。これから、関西を初めとする全国20以上の映画館で順次上映することが決まっている。そんな喧騒のなか、この映画を撮影した背景と、そこに込められた思いについて、枝監督に改めて話を聞いてみた。枝監督の取材第一弾▶︎「私達の世代で邦画の全盛期をもう一度つくりたい」。24歳の映画監督 枝優花が今、人生を賭けて撮る映画映画「少女邂逅」あらすじいじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ。自己主張もできず、周囲にSOSを発信するためのリストカットをする勇気もない。そんなミユリの唯一の友達は、山の中で拾った蚕。ミユリは蚕に「紬(ツムギ)」と名付け、こっそり大切に飼っていた。「君は、私が困っていたら助けてくれるよね、ツムギ」 この窮屈で息が詰まるような現実から、いつか誰かがやってきて救い出してくれる――とミユリはいつも 願っていた。ところがある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレ、捨てられてしまう。唯一の友達を失って絶望するミユリ。 そんな中、通う学校に「富田紬(とみたつむぎ)」という少女が転校してくる…(オフィシャルサイトより)少女というテーマに特別なこだわりはない少女邂逅の主人公は2人の17歳の少女である。枝監督は、学生時代からこれまで、『美味しく、腐る。』『さよならスピカ』といずれも少女を主人公にした映画を撮り続けて来た。去年アイドルグループSTU48のデビューシングル「暗闇」のMVの撮影も担当。また現在、「溺れるナイフ」等の作品で知られる山戸結希監督主催のオムニバス映画企画「21世紀の女の子」にも参加しており、現代の少女のリアルを描く名手として認知されていることも多いように思える。ところが、彼女に「少女」というテーマへのこだわりについて話を聞いてみたところ意外な答えが返って来た。良く誤解されがちなんですが、実は「少女」というテーマに対して特別な思い入れがあるわけではないんです。個人的には、「女の子としての幸せ」とか「女の子としてどう生きるか」みたいな話にはあまり共感出来なくて、それよりも「人としてどう生きるか」を考えることが大切なんじゃないかと思っています。 男や女、大人や子ども。私達はつい人を勝手にラベリングしてカテゴリーに分けて判断してしまいがちだが、彼女は、この時代に人を年齢や性別で勝手に線引きして考えてしまうことはナンセンスだと語る。個人的な興味関心としては、男女関係なく、14歳くらい思春期の多感な時期の人間の内面に何故か惹かれるということはあります。たまたま、私は女なので、男の子のすべては描けないなと思って、少女を主人公にした映画を撮って来ました。一方で、「少女邂逅」がInstagramやTwitterなどのSNSで話題になってからは、熱心な10代の女性ファンが急増した。彼女が時に自身の内面や葛藤も綴るInstagramでは、ある時期を境に10代の女性ファンからDM(ダイレクトメッセージ)で人生相談をされる機会が多くなったと言う。初めは映画業界に関する相談が多かったのですが、何故かだんだん、部活の悩みとか、進路の悩みとか、プライベートな相談がくるようになりました。そんな大事なこと私に相談して大丈夫?と思いながら、逆に親とか友達には相談出来なくて、勇気を出して連絡をくれたのかなと思って出来る限り返信すようにしていました。そして、よくよく思い返してみると、どの悩みも過去に自分が歩んできた道に通じているところがありました。かけがえのないものとの出会いによって人生はつくられていく今って、スマートフォンやSNSで常に誰かとつながっているので、放っておいても、勝手に他人の意見が耳に入ってくる状態じゃないですか。自分がなんとなく思っていることでも、実は気づかない内に他人の意見や世間の意見に染まっているものだったりして。そこに本当に自分の意志はあるのかなと。自由に意見が言えるようにみえて、実は本当に言いたいことは言いづらい空気があって、そんな環境で育った子達は「自分はどうしたいか」という意思が驚くほど弱いと感じることがあります。そう話す彼女も、かつてはまわりの目を気にして、言いたいことが言えない少女だった。そんな自分を変えてくれたのが、他人の目を気にせず夢中になれる映画と、自分の才能に気づかせてくれる大人達との出会いだったと言う。映画「少女邂逅」の公開前に開催された写真展では、入り口付近に展示されたパネルにこんなセリフが書かれていた。“この世界で、何らかの接点を持つ人と出会う確率は24万分の1だという。そして友人と呼べる人と出会う確率が2憶4000万の1。さらに親友と呼べる人と出会う確率は24憶分の1。思いがけない巡り会いが何度も何度もやってくる”映画のタイトルに入っている「邂逅=かいこう」とは「思いがけない巡り会い」を意味する言葉だが、この言葉にはどんな思いが込められているのだろうか。映画は一番「人を映すことが出来る」メディアだと思うから実は映画に関して自分のなかで納得できたという経験がまだ全然ないんです。作品が公開されて多くの人が観てくださって、時に褒めてもらえるのはもちろん嬉しいんですけど、それで満たされるということはまったくないです。何が正解とかもないと思うのですが、逆になかなか手ごたえを感じられないから、ずっとつくり続けてこれたのかもしれません。 写真、ドラマ、MVと様々な領域でマルチに活躍しながらも、映画に対して特別な思い入れをもつ彼女。最近友人との会話のなかで、何故自分がこんなにも映画に惹かれるのかの理由が少し分かったらしい。映画って一番「人を映すことが出来るメディア」なのかなと。私は、一言では説明できないような人間の感情とか、関係とか、曖昧なものに興味があるんですが、映画は人間のエモーショナルなところを一番削ぎ落さずに表現出来るメディアな気がしています。そんな映画のなかで、人の人生や心を撮っていくことが自分にとって楽しいのかもしれないと思いました。少女邂逅Websiteいじめをきっかけに声が出なくなった小原ミユリ(17)。そんなミユリの唯一の友達は、「紬(ツムギ)」と名付た蚕だった。ある日、いじめっ子の清水に蚕の存在がバレて、山中に捨てられてしまう。唯一の心のよりどころを失って絶望するミユリ。ところが、その次の日、ミユリの通う学校に「富田紬(とみたつむぎ)」という少女が転校してくる…若手映画監督・ミュージシャンの登龍門となっているMOOSICLAB2017観客賞受賞。主演にはミスiD2016グランプリの保紫萌香(ほしもえか)、ファッション雑誌『装苑』等でモデルとして活躍するモトーラ世理奈(せりな)。音楽には「転校生」名義で活動していたミュージシャン・水本夏絵が参加。第42回香港国際映画祭および第21回上海国際映画祭正式招待作品。6月30日から新宿武蔵野館にて一般公開がスタート。反響を受けて2度の期間延長を経て、8月10日までロングラン上映中。8月中旬からは、関西、中部、東北地方など全国で順次公開予定。▶︎オススメ記事・「私達の世代で邦画の全盛期をもう一度つくりたい」。24歳の映画監督 枝優花が今、人生を賭けて撮る映画・「今の時代、性別は一人ひとり違っていいはず」。アートやファッションで「多様な性のあり方」を発信する18歳All photos by Yuki NobuharaText by yuki kanaitsukaーBe inspired!
2018年08月01日こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。思い立ったら即行動が信条の二上さん、さっそく帰省し工房を見学させてもらうことに。そこで見たのは、糸から生地まですべて人間の手によって丁寧に作り上げられていく工程。伝統的に受け継がれてきた手紡ぎ、手織り、染めを目の当たりにし興奮が冷めやらなかった。長い経験の中で削ぎ落とされた、シンプルな所作を美しいと感じた。こんなにも人がなめらかな動きをすること、その風景を人から人へ継承しずっと残してきたこと。その事実にただ心を打たれたという。そんな工房を主宰する秋山氏とも対面。彼が見せてくれた数々の染物作品。その表現の豊かさはやはり圧倒的だった。ただそれ以上に、二上さんは秋山氏のユーモア溢れる素敵な人柄に心を奪われたという。初めて会った時僕は緊張でガチガチだったんですが、秋山さんはとにかく気さくで面白く、素人の僕に対しても丁寧に接してくださいました。ものづくりのクオリティもさることながら、彼の人柄に惹かれてしまって。そのとき直感的に「この人についてったら面白そう!」と思ったんです。大学卒業後、どのように生きていくか。モヤモヤしていたところから、一気に道が拓けた気がしました。現場の工程を一通り経験し、現在は糸や生地の藍染めを主な担当とする4年目。とにかく若手が少ないと言われるものづくりの職人世界において貴重な人材でもある彼は、業界に入ったという決断を「自然な選択」だと語った。「東京から宮崎に戻って工房で働く」と周囲に話した時は、とても驚かれましたし止められました。突発的すぎるだろうと。なんでそんな道を選ぶんだと。でも自分にとっては、何よりこれが一番自然な選択だった。秋山さんも当時72歳。彼から技術を継承するには急がなければという気持ちもありました。自分の心に問いかけ、納得する道に踏み出すこと。きっとうまくやっていけると自信を持つこと。すべて根拠のないことかもしれませんが、大きな決断をする上では大切な考えだと思っています。二上さんが働く「綾の手紬染織工房」のように、手紡ぎ、手織り、手染めなど、手仕事を生業とする工房は、生産効率だけを追求すれば機械に頼るのが正解であるいまの業界において、これからどうしていくべきなのか。どこの工房も「自分たちの基準」を設けることが必要だと考えています。特に僕たちが関わるこの和装業界では、昔からずっと人から人へと受け継がれてきた技術や技能がある。その中で、何を大切に思い、どこを残していくのか。逆に何を残さなくていいのか、それをしっかりと考えないといけない。考えるためにはいま、僕たちの何が価値として世の中に提供できているのかをもう一度見つめ直す必要がある。「人の手でつくられている」というのは、その手段でしか到達し得ないクオリティのモノを届けているからなのか、はたまた、希少性にこそ価値があるのか。二上さんは僕と同じ1992年生まれ。同世代の人間がこれほどまでに国内の手仕事と向き合い、哲学を深めていっていることに、とても大きな刺激をもらいました。大きな変化を生まなければ生き残っていけない業界の中で、それでも変わらない良さを探そうとしている。持ち前の好奇心を目いっぱい使って、自らの心のうちに、美しさとは何かを問いかけながら。「僕が秋山さんと出会い、一緒に働きたいと思ったように、僕と出会ったことで、ともに働きたいと思ってもらえる人間になりたい」。インタビューの最後でポロっとこぼした二上さんの夢。彼の願いはそう遠くない未来に叶えられるだろうと確信しています。二上 拓真Twitter|Instagram1992年生まれ。東京の大学在学中に藍染め師・秋山眞和との出会ったことから地元宮崎県の染織工房へと就職を決意する。本藍染めを軸に、養蚕から染織まで絹織物産業の担い手、伝え手として活動している。キャンピングカーで巡る47都道府県の旅のスケジュール第5回:2018年8月14日(火)〜8月21日(火)行き先:8月14日(火)徳島8月15日(水)徳島8月16日(木)高知8月17日(金)香川8月18日(土)香川8月19日(日)高知8月20日(月)愛媛8月21日(火)愛媛現地でのイベント情報は随時更新していきます!詳しくはTwitterをご覧ください。▶︎これまでのEVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」・#003 「暮らしの延長に存在する仕事」を生み出す。“グルテンフリーの麺”で地域に貢献する29歳の男の思想・#002 「次世代に温泉を残すため」。1000ヶ所以上の温泉を巡った28歳の若女将が、“業界の問題”と闘う理由・#001 大阪生まれ、ヒップホップ育ち。ジモコロ編集長が「自分のため」に“誰かの地元”を愛情持って全国に届ける理由▶︎オススメ記事・30代で東京の商社を辞めて、和紙職人になった女性の「急がば回れな人生」・目的は「他のプレイヤーよりも強く生きる」。ある若者が“絶対的な勝利条件がないボードゲーム”を作った理由All photos by Eru AkazawaText by Yohei YamawakiーBe inspired!
2018年07月31日私たち現代人は、広告とともに生きている。通勤電車の中や高層ビル、ちょっとした買い物に立ち寄る駅ビルや、毎日チェックするインスタにまで。どこに行ってもどこを向いても、目に入るのは広告だ。その膨大な数にうんざりすることもあるけれど、スタイリッシュなデザインや、季節に合う粋なキャッチフレーズにはついつい目が留まるし、いい感じのアイディアやインスピレーションをもらったりすることだってある。そんなふうにして、私たちは広告にいろんな影響を受けながら生きているわけだけれども、「お役目」を終えた広告たちがその後、どうなるかは知っているだろうか?そう。ご想像通り、「廃棄される」のだ。何のヒネリもない答えかもしれないが、街中に溢れるあのたくさんの広告が、定期的に(しかもかなり頻繁に)入れ替えられることで生じるゴミの量を考えてみてほしい。現にアメリカでは、年間30万枚もの巨大ビルボード広告が廃棄されており、これは数万キロ分のゴミに相当するという。(参照元:GREENMATTERS)今回は、そんな現状を変えるべく立ち上がったアメリカ人の兄弟と彼らのビジネスを、世界の社会派な企業を紹介していく新シリーズ「世界のGOOD COMPANY」で紹介しよう。RAREFORM創業者のアリック・アベディシアン(左)とアレック・アベディシアン(右)兄弟。使用済みの巨大広告に、新たな命を吹き込むモノづくり。アレック&アリック・アベディシアン兄弟が立ち上げた「RAREFORM(レアフォーム)」は、使い終わったビルボード広告から1点モノのオリジナルグッズを作る、LA発のブランドだ。商品ラインナップはバッグや財布、スマホケースにサーフィングッズなど多岐に渡る。起業のきっかけは南米旅行。そこで見た「広告の意外な使い方」とは「いらなくなったモノに新しい“カタチ”(FORM)を吹き込んで、ちょっと“変わった”(RARE)プロダクトをつくろう」そんな兄弟の思いから始まったレアフォーム(RAREFORM)、いったいどんなきっかけで誕生したのだろう。「兄弟2人とも仕事を辞めて、一緒に南米を旅したんだ」そう語るのはアレックだ。「すると現地の人が、ビルボード広告を雨漏り防止の屋根に使っていたのを見た。びっくりしたよ。これはすごいアイデアだと思って、アメリカに帰国後2人で起業したんだ」ハイウェイの脇や高層ビルの上に設置されるビルボード広告は、元々とても丈夫なつくりになっている。激しい風雨にも負けない防水加工は当たり前、かんかんと照りつける太陽光線にも磨耗にも耐え抜く。そのうえとても軽くて使いやすく、植物由来で環境にもやさしい。日常使いはもちろん、キャンプや海など、バケーションのお供にもぴったりというわけだ。▶︎これまでの世界のGOOD COMPANY・#001 「ファーム・トゥー・テーブルの民主化」を目指すアメリカのファストフードレストラン、Dig Inn▶︎オススメ記事・「エコ」で「クール」なだけじゃない。 スイス発バッグブランド、フライターグが提唱するこれからの社会を良くする「3つの糸口」・地球から「奪い、作り、捨てる」ビジネスモデルの終焉。“髪飾り”で環境問題について学ぶ場を作る女性All photos via RAREFORM Text by Kana FujiiーBe inspired!
2018年07月27日電車やバスの中で、スマホやゲーム機を使ってゲームをしている人を日常的に見かける。一見彼らは、誰かとコミュニケーションをとっているようには見えないが、実は画面の向こうにプレイしている対戦相手がいることが少なくない。またプレイヤーは常に制作者の予想した行動からどう外れるか・どう意図に則した行動をとればいいのかと思考しながらプレイしているため、対戦相手だけでなく作った人との間に高度なレベルのコミュニケーションが生まれているのだ。ゲームとコミュニケーション「ゲーム」と「コミュニケーション」というキーワードを肯定的に結びつけることは、あまりされてこなかった。オンラインゲームのやりすぎによる問題が起きている事実は否定できないものの、ゲームの持つコミュニケーション性を念頭において考える必要があるのではないだろうか。カードショップに集ったプレイヤーたちとの対面での「コミュニケーション」や、オンラインゲームで知らない相手と対戦する際の間接的な「コミュニケーション」、そしてアラン氏が指摘していたゲームの作り手との「コミュニケーション」などが、個人の生活にとって重要な情報のやり取りとなっていることもある。この展示は見る者にとって、決して一面的に語ることのできない「コミュニケーション」とは何かを考え直すきっかけとなるのではないだろうか。アラン(三浦阿藍)Twitter1991 鳥取に生まれる2014 成安造形大学芸術学部芸術学科卒業2015 鳥取大学大学院地域学研究科中退後パープルーム予備校2期生になる2017 ボードゲーム制作チーム 「arquetendu」を結成主な個展2018「communicatio – コムニカチオ」TAV GALLERY、東京主なグループ展2015「パープルーム大学物語」ARATANIURANO、東京2015「”KITAJIMA/KOHSUKE”#12 〜果ての二十日の81〜」カタ/コンベ、東京2016「パープルタウンにおいでよ」パープルーム予備校他、相模原2016「X会とパープルーム」もりたか屋、いわき2017「パープルームのオプティカルファサード」ギャラリーN、名古屋2017「パープルーム予備校生のゲル」エビスアートラボ、名古屋2017「恋せよ乙女!パープルーム大学と梅津庸一の構想画」ワタリウム美術館、東京2017「パープルーム大学 先端から末端のファンタジア」ギャラリー鳥たちのいえ、鳥取Image via Alan Miuraゲームポリヘドロン(関連企画)会期 : 2018年7月20日(金)– 8月12日(日)[会期中の金曜、土曜、日曜のみ開廊]会場 : 中央本線画廊(東京都杉並区上荻4-6-6)時間 : 13:00 – 21:00休廊 : 月曜 – 木曜参加作家 : アラン、今井新、海野林太郎+田中勘太郎、岡田舜、中島晴矢、明源ディレクター : アラン、cottolink、佐藤栄祐▶︎オススメ記事・「アメリカを真似しすぎる日本」に危機感を覚えた最年少ギャラリストが作る、2010年代の美術史・#002「 “遊びながらやる感覚” で環境活動にも参加したい」。映像で環境NGOをポップにするクリエーター。 |「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.orgAll photos by Shiori Kirigaya unless otherwise stated. Text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年07月27日「もし、性別という概念がなかったら」と考えたことはあるだろうか。それは、理想的な社会の一つのあり方かもしれない。人々に性別がなかったら、「男性はこうあるべき、女性はこうあるべき」という観念にとらわれず、物事の選択ができる。ジェンダーレスな(性別を感じさせない)服を着ていると不思議がられたりします。別に私は男にも女にも見られなくていいんですけど、「お前本当に女として見られない」みたいなことを言われる。あとはなんか「髪が長くないと抱けない」とか。そういう付き合いじゃないでしょって感じですけどね。「男だから奢んなきゃいけない」っていうのも私めちゃくちゃ嫌いで、絶対出しちゃいます。桜子は生物学的には「女性」に生まれているが、「女性」に見られることを望んでいるわけではない。女性だと自認している人でも、自分を構成する要素の一つでしかない性別で判断されたり、「女性だからこうあるべき」という考えを押し付けられたりすることを嫌う人は少なくないだろう。「性」を器用に使えなかった小学校の低学年のときから自身の性別に対する違和感を感じていた桜子だが、中学校二年生になった頃は、ナイーブで自分を肯定できず、自分が「女性」であることにその原因があるととらえたこともあった。最初性に対して意識するようになったのは、自分は女だからダメで、こんなめんどくさい人間になっちゃうんだとか、そんなところから始まって。しかし、高校一年生のときに思い切って髪の毛をバッサリと切り、「女っぽくいること」から一旦離れ、「自分の好きなジェンダーの感じ」で生きてみることにしたところ、それが自分らしいと思えた桜子。それは、性別に対する社会的な呪縛から抜け出て自由になれた瞬間だった。性別という概念がもしなかったら桜子にこんな質問をしてみた。「性別という概念がなかったら、社会はどう異なっていたと思いますか?」すると、男尊女卑の考えと性犯罪の関連性を例に答えてくれた。もっと世界に笑顔が溢れていたのではないか、という気がしますね。やっぱり歴史的にも男女差別があったし、そういう概念がなくなったら差別もなくて、傷つく人も減るんじゃないのかなって。あとは身体的な性のことはわからないけど、「男が強くて、女が弱いって」いう考えがあるから、性犯罪にもつながっちゃうと思うし。性別がなくなったら男尊女卑の考えに基づいた性犯罪はなくなるんじゃないかな。女も男も関係なく人間は強いって思うし、やっぱり性別はただの概念だと思うんですよ。肉体的な違いはあるかもしれないけど、もう性別なんて関係ないんじゃないかなって。金森桜子さんが参加する展示クリエイターズイベント日時:7月28日(土)、29日(日)11:00〜19:00場所:COUR_DES_CIEL埼玉県越谷市南越谷1-2876-1『まとまらないから、まとまらない イマ、今まで』(グループ展)日時:8/22(水)〜8/26(日)12:00~19:30(最終日~18:00)場所:たまごの工房東京都杉並区高円寺南3-60-6▶︎オススメ記事・#9 男の子か女の子か、どちらかじゃないとダメって誰が決めたの?21歳の「性別のない」アーティスト。|GOOD ART GALLERY・「男なら筋肉をつけるべきなの?」21歳の写真家が“男性解放”をテーマに写真展を企画した理由All photos by Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.Text by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年07月26日世界の社会派な企業を紹介していく新シリーズ「世界のGOOD COMPANY」。第一回目はアメリカで、ファーストフードならぬ“ファイン・ファーストフード”を提唱しているレストランチェーンを運営する企業「Dig Inn(ディグ・イン)」をピックアップ。ファストフードなのにファーム・トゥー・テーブルまた、ほとんどのレストランが一週間単位で農家から野菜を仕入れるのに対し、Dig Innは6週間から15週間単位で農家から野菜を購入している。こうすることで、農家には安定した収入を、そしてレストラン側はそのシーズンごとに安定した値段と質の野菜を仕入れることができるため「ウィンウィン(win-win)」だと話す。さらに、他の農家では味や質は変わらないのに捨てられてしまうような規格外野菜(形が崩れてしまった野菜)も使い、売れ残りの食料は毎日フードバンクなどに寄付しているという徹底ぶりだ。一般的にファームトゥーテーブルのレストランは比較的裕福な人向けで、経済的に余裕のない人には利用がしづらいという現実もあったのだろう、「ファームトゥーテーブルを民主化すること」が目標だという彼のビジネスモデルの背景には、環境破壊に加担しない方法で、すべての人が健康な食事にありつける社会を作りたいという思いがある。近年アメリカでは「フードアパルトヘイト」や「食の砂漠化」にみられるように、経済的に恵まれていない人々の健康的な食へのアクセスが制限されるという問題が目立っている。フードアパルトヘイト新鮮で体に良い食べ物の値段がファーストフードや加工食品より高いため、経済的に恵まれていない人は体に悪いものしか食べられない状況。(参照元:The Washington Post)食の砂漠スーパーマーケットや青果市場が少なく、新鮮な野菜や果物を手に入れるのが難しい地域を指す。(参照元:American Nutrition Association)また、ファーストフード店が比較的貧困層の多いエリアに集中すること。▶︎オススメ記事・収入によって食事の値段が変わる。「差別」で「平等」を生む革命的なレストラン。・オーストリアの若手農家が見出した、“サードウェーブコーヒーのゴミ”に潜んだビジネスチャンスAll photos via Dig Inn Text by Noemi MinamiーBe inspired!
2018年07月20日アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。マキ:自分に合っている。アーティストとして自分ならではの媒体を見つけたってことなのかな。Brikicho:デジタル写真をやっている時は、なぜか自分の作品に思い入れを持つことができなかった。でもフィルムを始めてからは、構図とか写真そのものについてももっと真剣に考えるようになった。そして自分の作品にも思い入れを持つようになった。それが自分がフィルム写真から得られた価値だと思う。フィルム写真だと、自分が頭の中で想像したものとより近いものが表現できるんだ。マキ:なるほど。普段はどういったものを撮っているの?Brikicho:人物と風景。まぁ自分では、なんでも撮っていると思うんだけど、よく知られているのは人物、特にミュージシャンと風景かな。アーティストとよく仕事していて、その中でもミュージシャンをよく撮影しているんだ。マキ:ミュージシャンを撮るときに意識していることってある?つまり、彼らはサウンドを作っているわけだけど、Brikichoは音のないスティル(静止画)で表現している。どうやってミュージシャンの雰囲気を捉えているのかな。Brikicho:彼らを撮るのはとても楽しい。僕のやり方は、ステージ上などで彼らを撮るのではなくて、自分のセットの中に呼び込むこと。彼らの雰囲気やサウンドは、写真という媒体においては、光と色に置き換えることができる。どちらも同じアート。ただ媒体が違うだけなんだ。つまり、音からビジュアルへと変換するという作業は結構スムーズにできるものなんだよ。マキ:非常におもしろい見方だね。色覚障がいをきっかけに、色を音に変換するアンテナを頭蓋骨に埋め込んで、色を聴き、さらに世の中の音をビジュアル化することで、音を色として「聴く」という体験をさせてくれるビジュアルアーティストのニール・ハービソンのアート表現と何か共通点を感じる。Brikichoの今の話、例えば具体的な写真で説明してもらえる?Brikicho:例えばこれは最近のプロジェクトで、アーティストのThe Red Acapellaを撮ったもの。Instagramより彼らの音楽は、ゆっくりで、イージーな感じで、クール。だからちょっと寒色系をベースを使ったスタイリングをしたりした。マキ:とてもクールな写真だね。風景のほうはどんなプロジェクトに取り組んでいるの?Brikicho:自分のクリエイティブ・プロジェクトとしては2つあって、一つは、自分の故郷であるキリニャガ(ナイロビの北東約100kmに位置する地区)に関するもの。自分の故郷に敬意を示すような意味をもっている。キリニャガの日常や、友人を撮っている。もう一つは、「City of Dreamers(夢見るものたちの街)」というプロジェクト。これはFits Collectiveとしてやっているんだけど、ナイロビの街や人を記録している。ケニア、そしてアフリカは自分の故郷。自分を形成してきた要素。だからこそ、このアフリカ大陸を記録し続けたい。マキ:大きな存在になれることの意義ってなんだろう。Brikicho:自分たちの挑戦は小さくない。フィルム写真をアフリカ全体に広めたいと思っているんだ。まずは、ナイロビから、ケニアから、フィルム写真を広めていきたい。一緒にやっているセレナも言っているけど、、写真がいま(ケニアで)ブームになりつつあるからこそ、写真の基礎を改めて見直したり理解したり、周囲の環境や被写体の美しさを認識する必要がある。何か(結果だけ)が即座に評価されて、そのプロセスが見落とされてしまっているような、変化の激しい世の中におかれているからこそ。あとこれはマガティが言っていることだけど、(フィルム写真は)人々と都市の対比を表現するのであれ、人物のポートレート写真であれ、すべてが瞬間瞬間の微細なところに近づくことを可能にする行程(journey)なんだ。マキ:想いを共有する3人が作るコレクティブだからこそ、大きな挑戦ができるのかもしれないね。「Brikichoは、写真で物語を紡ぐ『作家』になるんだ」Brikichoが発する、フレッシュで荒削りな言葉、素直な回答には、何かアーティストがものを生み出すことの作業の本質的な部分があるように感じました。フィルム写真という媒体を使って生み出される彼の作品そのものも素晴らしいですが、フィルム写真に向き合うことで、自分自身と向き合っている彼の生き方そのものに、わたしは心を動かされました。そして何よりも彼は仕事や人生を楽しんでいるように見えます。BrikichoとFits Collectiveの存在が、これからもっと大きくなっていくその過程を観察し続けたいです。BrikichoInstagram(Brikicho)|Instagram(Fits Collective)フィルム写真にこだわり、ナイロビを拠点に活動する若手写真家。他2名の写真家とともに、フィルムでキャプチャーしたストリート写真を展開する、Fits Collectiveのメンバーでもある。▶︎ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』・#004 「アフリカンファッション=カラフル」は時代遅れ。ケニアの若者が“白黒”のアパレルブランドを始めた理由・#003 「物理は一番アーティスティックな学問」。“理系ジュエリーデザイナー”に聞く、想像を創造に変える方法・#002 誰もが知っている「ハンバーガー」で、アフリカのネガティブなイメージを刷新する起業家姉妹・#001 「正しいことをしているという確信」。選択肢がありすぎる現代でも道に迷わない観察者、ヴェルマ・ロッサ▶︎オススメ記事・ノーメイクで自然光。「リアルな女性の写真」で女性差別に立ち向かう愛に溢れるアクティビスト・カップル。・「男なら筋肉をつけるべきなの?」21歳の写真家が“男性解放”をテーマに写真展を企画した理由All photos via Brikicho Text by MakiーBe inspired!
2018年07月20日媒体名の変更やウェブサイトのリニューアルを控えたBe inspired!が送るシリーズイベント「Neutalk(ニュートーク)」。業種、年齢、性別、人種といったバックグラウンドとなるすべての壁を取っ払い、いままで交わらなかった人を招き、そこで生まれる「新しい会話(ニュートーク)」をしようという試みだ。その第2回目が7月1日、「世田谷ものづくり学校」で行われた。トークテーマは、「いま話したい、本とインターネットのこと」。柳下恭平さん(左)木村昌史さん(右)ゲストは、校正・校閲の専門会社「鷗来堂(おうらいどう)」と、同社が運営する“新しい本との出会い”をデザインする「かもめブックス」を取りまとめる柳下恭平(やなした きょうへい)さんと、先日“第36回 毎日ファッション大賞”の大賞候補にノミネートされた、「インターネット時代のワークウェア」を作るブランド「ALL YOURS(オールユアーズ)」代表の木村昌史(きむら まさし)さん。当日開催されていたオールユアーズの3周年記念イベント、「LIFE SPEC CO-OP」に出店していたブランドを目当てに多くの人が集まり、初夏の快晴とあわせて熱気に沸いた世田谷ものづくり学校」。その一角で行われた「Neutalk」には、約50名が来場し満員御礼。この呼びかけに来場者の皆さん、さっとスマホを取り出してパシャパシャと、束の間の撮影会がスタート。撮られながら柳下さんは、「いやあ、キム兄(木村さんの愛称)はインターネット的だねえ、さすがだ」と感心した様子。その心を司会が聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。本って情報とか知識をパッケージして、ずっと残していくことが一番の美学だと僕は思うんですね。本をビリビリって破ってシェアすることはないんです。だから今の「写真撮ってシェアして」ってキム兄の言葉がショックで、すごくインターネット的だなあと。本は一人で静かに読むものだからね。本じゃ“フェス”ができないんだ。本やインターネットのほか、メディアの性質によって、情報の読み方・受け取り方に違いが出てくることは、メディアや広報に関わる人はもちろん、そうでない人も意識しておいたほうがいいだろう。このあたりの違いをしっかり把握することができれば、木村さんがこの日言ったように、「第二のオールユアーズが作れるかも」しれない。第二の「ALL YOURS」はこうつくれ! キーワードは“原始的”?ゲスト二人の長い自己紹介が終わったあと、最初のトークテーマ、「インターネットとは」に話が移っていく。ここで生き生きと話し出したのが木村さん。「インターネットは先祖返りなんだよね」の一言から、話題がどんどん膨らんでいった。木村:ようは昔々、近所の人に「僕らが作った野菜どうですか?」と言って物々交換してた時代と同じことを僕はしてるんですよ。クラウドファンディングで「僕らが作った服どうですか?」とやってるだけ。それが世界中に向けて声をかけていることと、物々交換でなく金銭で服を交換しているという違いがあるだけで、他は大差ないんです。柳下:これはどっちも“問屋”がいない世界だね。昔々は技術的な制約があって問屋という仕事が成り立たなかったから、原始的な物々交換で世界が成り立っていた。で、その後物流網が発達して問屋という仕事が生まれたけど、いまは物流網が発達しすぎて空間的な制約が限りなく薄まったから、結果的に問屋の必要性が低くなってきてる。ようはものづくりをしている人が直接ものを届けられるようになったわけだ。木村:そう。原点回帰してる。だから「この人から買いたい」とか「友達だから買いたい」という理由でモノを買いたいって感情があるじゃないですか。そういうところで商売が成り立つんですよね、今は。柳下:ブランディングも個人でできるようになったからね。木村:そうそうそうそう。木村:話は変わりますが、IT系の仕事をしている方は今日いらしてますか?(会場を見渡す) あんまいないな。僕はインターネットって“器”に例えられると思っているんです。この話は糸井重里さんの「インターネット的」という本に詳しいんですが。あ、この本を読めばオールユアーズが作れます、参考にしてみてください。木村さんが言う“器”は「ハードウェアやプラットホームとか、サービスの基盤になるもので、料理がソフトウェアやサービスのアイデア」である。その前提を共有した上で木村さんは続けた。木村:で、器の話ですが、IT系の人ってみんな器という名の“ハード”を作りたがるんですよね。大きくて綺麗な器を。でも、そのなかに盛るおいしい料理、ようは“ソフト”を作ろうとする人があまりいない。みんな器よりおいしい料理が食べたいのに。柳下:ふむ。でも料理人がいくらおいしい料理を作っても、ハードを作る側の都合でなんでもひっくり返ってしまわない?木村:まあそれもあるとは思うんですけど、逆に料理人が「このプラットホーム嫌だ」と言って使わなかったり見限るってこともある。柳下:なるほどなるほど。よし、ここいらでやめとこう。おもしろいけど今してるこの話、飲み屋で2人で話すやつだからね。柳下:読むたびに解釈が変わる本がいい本だと思いますね。解釈の幅が深い本は、それが小説であれ実用書であれ、その時々に応じて感想が変わります。そしてそういう本を探すには、まず自分と同じカテゴリーの作家が書いているものを探してみましょう。同じ性別の作家、あるいは同世代の作家の方が、より感情移入できる物語を書いている可能性が高い。もちろんそうでないパターンもたくさんあります。そういう前置きをしたうえで、自分と作家の共感値が近い本を探してみると、その人にとってのいい本が見つかりやすいかもしれませんね。続いて木村さん。「読むたびに解釈が変わる本は俺もいい本だと思います。すごくわかる」と柳下さんへの共感を示しつつ、「答えが書いていない本がいい本ですね」と明言。続けてその理由をこう話した。トークはこのパートで終了。本稿では濃すぎる1時間半を凝縮してお送りした。ちなみにお二人には段上で好きな本をそれぞれ挙げていただいたので、ここに記しておく(お二人とも“好き”の幅が広い…!)。柳下さん:ミヒャエル・エンデ(2001).鏡のなかの鏡ー迷宮 岩波書店伊藤計劃(2010).虐殺器官 早川書房木村さん:糸井重里(2001).インターネット的 PHP研究所遠藤周作(1983).死海のほとり 新潮社さて、次回の「Neutalk」は?6月と7月に連続して行われた、ゲストがジャンルの垣根を越えて“新しい会話”を生むトークイベントシリーズ「Neutalk」。次回は8月中の開催を予定。 Be inspired!のFacebookページで随時情報を更新しているためチェックしてほしい。はてさてそんなわけで、次回もお楽しみに!Kyohei Yanashita(柳下恭平)鷗来堂|かもめブックスPhoto by Jun HirayamaALL YOURSWebsite|Web store|Blog|Facebook|Instagram|Twitter|FlickrDEEPE’S WEARWebsite服を選ぶとき、何を基準に選んでいますか。天候や環境を考えて服を選ぼうとすると、着られる服が制限されてしまう。そんな経験ありませんか。そこで、私たちDEEPER’S WEARは考えました。服本来のあるべき姿とは、時代・ライフスタイル・天候・年齢・地理など、人ぞれぞれの環境や日常に順応することではないだろうかと。あなたの持っている服は、どれくらいあなたに順応していますか。服にしばられず、服を着ることを自由にする。人を服から“解放”し、服を人へ“開放”する。このDEEPER‘S WEARの理念を可能にするのが、日常生活(LIFE)で服に求められる機能(SPEC)を追求した日常着(WEAR)、「LIFE-SPEC WEAR」なのです。DEEPER’S WEARはALL YOURSが取り扱うブランドです。▶︎これまでのNeutalkイベントレポート・「日本は老害が多いしメディアは腐ってる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.1]▶︎オススメ記事・「今の日本のマスメディアは私たちをなめてる」。22歳のHIGH(er) magazine編集長haru.が「タブーの存在しない雑誌」を作った理由・「“いい服”は作りたくない」と言い放ち、服作りをする男。All photos by Yuuki Honda & Noemi Minami unless otherwise stated. Text by Yuuki Honda本記事に掲載された写真に写られている方でご自身の写真を使用されたくない方は、大変お手数をおかけいたしますが、以下のアドレスまでその旨をまでご連絡ください。info@beinspiredglobal.comーBe inspired!
2018年07月19日「職人」と聞くと、一生を職人として生きようと早いうちから決意し鍛錬している人、なんて勝手な印象があったけれど、重要無形文化財に指定されている細川紙の職人である谷野裕子(たにの ひろこ)さんは、そんなイメージとは少し違った。谷野裕子さん東京の商社から埼玉の和紙職人へ埼玉県ときがわ町に、古い給食センターをリノベーションした「手漉すき和紙たにの」の工房がある。豊かな森林と綺麗な水に恵まれたこの地域は、昔から和紙の生産地として有名だった。工房を覗いてみると、職人が和紙を作っている。その光景に、「紙って作るんだって妙なところに感動」し、その後も和紙の美しさが頭から離れなかった。そこで、今の彼女の工房からそう遠くない場所に昔から続く工房を持っていた和紙職人に「弟子はいらないか」と聞いてみたけれど、答えは「いりません」。和紙業界の斜陽化を考えれば、仕方がなかったと振り返る。そんなある日、埼玉県の広報誌を眺めていると、和紙作りの継承者を募集していた。「いらないって言ってたじゃん、募集してんじゃん」と、すぐに応募した。18歳の若者から定年後の人まで応募者は100人、200人はいたという。研修に参加できるのは15人。予想をはるかに上回る数に、当時30歳を過ぎていた彼女は「職人って若い子がやるイメージだからおばさんだと無理かしら」と思いつつも論文を書き面接を受けた。「採用したらこちらに引っ越しますというビックマウスのおかげで採用されたわけ」。彼女は面接で、住んでいた埼玉の都心を離れ研修のためにときがわ町に引っ越すと断言。結果、見事に選ばれ、言ったからには守らなきゃ、とときがわ町に移り住んでから26、7年が経つ。こうして彼女は前職を辞め、30代で職人としての道を歩み始めた。Aさんにあった紙、Bさんにあった紙を作っていくのが本来の職人の仕事だろうと思っているので、うちはそういうことに特化してやっていくことにしました。長い歴史の末に定着した「うちの和紙はこう」というのがないぶん、手漉き和紙たにのは、顧客が望むものを作ることに焦点を当てた。なんでも言われたものを作るというわけではなく、伝統工芸の技術を持って、腕のある職人として顧客が望むものを高い質で作る。これまでウェディングドレスなど、従来は和紙で作ることのなかったものも顧客の要望に答えて作ってきた。他の職人さんには「それは変な人だと思われてると思いますよ」と谷野さんは笑う。急がば回れ取材中に見せてくれたのは、明治時代の大福帳(江戸時代・明治時代に使われていた、商家で売買の勘定を記す元帳)。薬品もあまりない時代に作られたものが今も綺麗に残っている。それは手間と時間をかけて作られたものだからだと谷野さんは言う。アイドルのシンデレラストーリーみたいに、一気に駆け上がっていった人がそのまま上に登り続けることって無理でしょ。そうじゃなくてチクチクと努力を重ねていって、すごく素敵な俳優さんになる場合もあったりするけれど、それと同じ。高度成長期に日本はものすごいスピードで技術発展を遂げ、短い時間でものを作ることが可能になった。だが時間をかけて作られるはずのものが短期間で作られると、谷野さんいわく「すぐに駄目になる」。明治時代の大福帳時間をかけるということは手間もかかる。それでもセオリー通りにやれば意外とそれが近道になったり、そこに便利さによって失われていく目には見えないものがあったりする。それを考えれば、谷野さんにとっては時間や手間をかけることを惜しまない「ドシッとした生き方をした方が自分が楽だな」と話す。現在は、学校や美術館、博物館で和紙作りを教える活動も行なっている谷野さん。それは日本にとどまらず、インドネシアのバリにまで広がっている。当初インドネシアでは日本から和紙の原料を持参して技術を教えていたが、ここ数年は現地のものを使って和紙を作る方向に変えた。バリといえば海辺のリゾート地が頭に浮かぶが、谷野さんが訪れるのは貧困の問題を抱える山の中の村だ。そこの自然に目を向けた。いっぱい植物が生えているから、バリはバリの紙でいいと思ったんです。技術を教えるとしても、そこにあるものを使おうと。今までも見向きもしなかったものを紙にしてそれをお金にかえればいいでしょ?定期的に訪れ教えているため、現地の人の紙漉きの技術はぐんと伸びている。今後はビジネス化の手伝いを考えているそう。谷野さんは和紙作りを通して「自分のところだけがよくてもうまくいかない」と気づいたと言っていたけれど、現代社会を生きる私たちは便利さを求めるあまり「自分だけよければいい」となってしまってはいないだろうか。生産の背景に関心を持つことはまれで、私たちが日常的に使うものが自然の一部で、自然の循環のなかに生み出されていると考えることなどほとんどない。彼女の仕事を垣間見て、急がば回れな生き方を選んだ方が「結局は自分が楽」と言っていた意味が理解できたような気がする。長持ちし、環境に優しくて、人が必要としているものを世の中に生み出すことは、彼女の言葉を借りれば「自分がステータスを感じられて満たされるような仕事のやり方」。何も職人にならなくてもいいかもしれないが、都心に住んでいても、日常のなかで人や自然とのつながりを忘れなければ今より少し、豊かな生活ができるのかもしれない。手漉き和紙たにのWebsite
2018年07月18日スポーツの人気や知名度は、世界大会で出した結果いかんで飛躍的に向上する。先日閉幕したサッカーワールドカップが好例だ。20年前まで辺境のマイナースポーツだったサッカーが、代表選手たちのワールドカップでの活躍もあり、今や国内でも屈指のエンターテインメントに変貌した。同じように、オリンピックが与える影響は甚だしい。女子サッカー、ソフトボール、フェンシングなど、その恩恵にあずかった競技は多い。来る2020年の東京オリンピックでは、どの競技が世間の注目を集めるだろうか。本稿でピックアップするのは、東京オリンピックからの新種目、サーフィンをライフワークにしている小林直海(こばやし なおみ)さん(23歳)。今回は同じく新採用競技で、「どこか通ずるものがある」と共感を示すスケボーを片手にインタビューを受けてくれた。出場を有力視されているかいないかに関わらず、オリンピックの開催自体に反対している僕ら世代のサーファーはあまりいないと思います。どちらかというと、40~50代ぐらいの、今まで国内のシーンを支えてきた方のなかには否定的な人が多いのかな。新しい層が海に大挙してやってくるのを懸念してるって感じでしょうかまた、「日本のサーフポイント*1はオリンピックにふさわしいのか?」という世代間に共通した疑念もあるようだ。四方を海に囲まれた島国の日本だが、国際的な大会が開かれるオーストラリアなどのサーフポイントに比べると波に乏しく、世界的な大会の開催地になることは稀だ。加えて、自然が相手なだけに、競技が行われる当日にグッドウェーブが起こるという保証もない。不安が尽きないなかで準備が進んでいる。それが実情だ。(*1)サーフィンに適した波がくる場所そのため、競技性を極めたアスリートとしての存在意義を一般的なプロサーファーが担い、サーフカルチャーの発信=広告塔としての存在意義をプロフリーサーファーが担うという構造になっているのだが、小林さんは自身を日本では稀な存在だといい、その理由をこう話した。そもそもサーフィン一本で生きていけるサーファーは国内外を含めて稀なんです。日本ではプロの資格を持っていても複業という形をとっている人が大多数。個人でスポンサーと契約していくフリーはもっとシビアです。人を魅了し続けないと飽きられちゃうので。基本的には世界大会などで活躍していた人が、徐々にフェードアウトしてフリーに転向する、というルートが王道です。そういう人にはそれまでの活躍でファンがついているし、自分のブランドを立ち上げる影響力もある。フリーになってもやっていきやすいんです。だから僕みたいなフリーの若手は、特に日本にはほとんどいません。日本代表として国際大会に出場した経験もある小林さん。国内で名を上げて、ゆくゆくは世界を舞台に頂点を争う。そんな王道を行く潜在能力があった彼が、なぜ、あえてプロフリーサーファーというよりシビアな道を選んだのか。その選択の裏には、彼のサーフィンに対する譲れない価値観が隠されていた。好きなスタイルで勝負する。独自の世界観を突き詰めるという覚悟もちろん競技としてのサーフィンもおもしろいんですよ。オリンピックも一人のサーファーとしてすごく楽しみです。ただ、個人的には“魅せる”という点に、サーフィンのよさを一番感じるんです。こういう価値観を持っている人がどれだけいるかわかりませんが、特に僕よりも若い世代に、「こういう道もあるんだよ」って示せたらいいなと思っています。自分のライフスタイルやアートワークが、サーファーとしての魅力になりえるんだよって。Photo by Naomi KobayashiPhoto by Naomi Kobayashiあえて道を外れる勇気を持って、若き先駆者が作る“ニューウェーブ”オリンピックがもたらした特需に沸く業界に身を置きながら、あえて斜めな方向に舵を切り続ける小林さん。彼のアートワークやサーフスタイルを見せてもらった取材班の、「なんか本当に力が抜けてて、“チル”って言葉がすんなり馴染みますね」という言葉に、「“チルなサーファー”。まさにそうかもしれません」と笑って答えた。そんな期待と憂いを込めて飛ばした最後の質問、「10年後にはどうなっていたいですか?」に対して、小林さんは、こう一言。最も影響力のあるサーファーになっていたいですね筆者の心配は全くの杞憂のようだった。彼はもっと先を見据えていた。ニューウェーブは、案外早く到来するかもしれない。小林直海(こばやし なおみ)Website|Instagram
2018年07月16日急な予定変更、楽しめますか。こんにちは、カミーユです。今日はソウルにいるはずだった私ですが、予定変更して家でエリートヤンキー三郎を読んでいます。昨夜から体調を壊してしまい、今日のソウル行きをキャンセルしました。たっぷり朝寝したあと病院に行き、療養しながら漫画でも読もうと書店に立ち寄り『エリートヤンキー三郎』*1を手に取りました。(*1)「週刊ヤングジャンプ』に掲載され、単行本化もされた漫画。ヤンキーとして悪名高い二人の兄を持つ主人公の三郎は、二人とは異なり内気でオタクな高校生だったが、彼が自分の気持ちとは裏腹にエリートヤンキーにのし上がっていくストーリー数週間前から、今日という日はソウルでソルビン食べたりカジノでルーレットやったりしていると想定していました。それなのにまさか自宅で十数年ぶりにエリートヤンキー三郎を読むことになろうとは。玄関脇に置かれた荷造り済みのスーツケースをぼんやり眺めながら、微熱の頭で考えます。予定通りに行かなくなったときの一番良い対処法は何なのだろうかと。今回私はソウルに行けなくてとても悲しかったです。直前のキャンセルなので諸々のお金は帰ってこないし、同行者には申し訳ないし。そのまま不貞腐れて寝込むところだったのですが、本屋でうっかりエリートヤンキー三郎と再会してしまったことにより、あまりのくだらなさに失笑したり、スラムの友人やテキ屋の売っていた梅が枝餅を思い出したりしました。もし今回ソウルに行っていたら、恐らく二度とエリートヤンキー三郎を交わらなかったでしょう。そう考えると、キャンセルになった悲しみが少し癒えるような気がするのです。諦めることは、そんなに悪いことじゃないビジュアライズ(visualize)することの大切さというものを昨今よく聞きます。確かに目標や理想を具体的に想像していくことによって、達成する確率は上がります。だけどそれが想像通りに行かなかったときには、反動で失望も大きいです。カジノで一千万円勝つ自分を強く想像していても、結局家でエリートヤンキー三郎を読むことになることだってあります。じゃあ、最初から希望を持つのを止めてみるとよいのでしょうか。いや、それだとやっぱりちょっと寂しい。となるとうまく行かなかった状況の中で切り替えて、修正して、楽しむのがベストなのでしょう。熱願冷諦(ねつがんれいたい)ということばがあります。猛烈に具体的に願うのは大事だし、心を冷静に保って現実的に対応することも大事。この諦めという言葉。私、そんなに悪くないことだと思います。自分の思い通りに行かない状況で、我慢したり放り投げたりするという固いオプションの他に、諦めや受け入れという柔らかいオプションを足してあげると良いです。すると心の負荷も少なくてすむ。グッと歯に力の入りそうなときには、エリートヤンキー三郎でも読んでみてください。肩の力もすうっと抜けて、より広い感情のオプションを見えてくるかもしれません。CAMILLE AYAKA (カミーユ 綾香)Facebook|Instagram北九州市出身。在日韓国人と元残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動する一方、ネオ晴耕雨読の生活を実践している。「マイノリティの爆弾」を「マジョリティ社会」に投げつけるために2017年5月から本メディアBe inspired!で連載中。
2018年07月14日カーテンを開けると明るい太陽の光が全身に降り注ぐ。朝の柔らかい光は暖かくて優しい。その優しさに甘えるも束の間、頭の片隅では、昼前には灼熱の紫外線が私を苦しめるかも、なんて不安が頭をよぎり、いそいそと日焼け止めを取り出す。日焼け止めは皮膚の上をうすーく広く伸びていく。しかし、筆者はこの日焼け止めがどんな成分で構成され、どういう仕組みで肌を守っているかなんて考えたこともなかった。VIVE SANAと従来のオーガニック日焼け止めを決定的に分けるものが、同社は植物由来の成分を利用しているということだ。創設者であるDaniel Signorelli(ダニエル・シニョレッリ)はこう語る。「みんな化学物質に頼らないと肌を守れないと思っているけれど、自然界にも皮膚を日光から守るのに最適な有機成分がたくさんあるんだ。植物は人間より長く、太陽と付き合っているんだから」(引用元:FAST COMPANY)▶︎これまでの「GOOD GOODS CATALOG」・p.23洋服やカバンにつける「ピンズ」で、小さくともパワフルに自己主張する時代・p.22 「化粧品に性別はない」。化粧品から“性別”をなくした“ユニセックス・コスメ”がイギリスで誕生・p.21 「インド人にもカレー嫌いな人はいる」。“ウコンの力”でインドの固定概念を吹き飛ばす24歳の起業家▶︎オススメ記事・#006「自分と世界の繋がりを取り戻すために」。楽しくハッピーに地球を守る、環境アクティビストたちの実態|「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org(最終回)・牛乳よりも、環境を壊さない。製品の“不完全な部分”まで公開する、スウェーデン発の「麦ミルク」ブランドAll photos via VIVE SANAText by Kotona HayashiーBe inspired!
2018年07月13日日本で成人になるための儀礼といえば、思いつくのは「成人式」だろう。他方、南アフリカでは現在まで続く通過儀礼として、割礼(包皮切除)を10代の少年に施す慣習がある。その多くは十分な訓練を受けていない者が麻酔をかけずに施術する伝統的な方法で行われ、感染症にかかる可能性が高いだけでなく、死に至る場合も少なくない。今回紹介する映画は、伝統の名のもと続けられてきた“男”となるための通過儀礼や、そこで重要視される“男”という価値観に対する疑問の念、同性愛へのタブー視を描いた作品『傷』だ。今年で27回目の開催となる、「セクシュアル・マイノリティ」をテーマとした作品を上映する映画祭「レインボー・リール東京」で上映される同作は、南アフリカでは「内容が過激」とされ、主要映画館での上映が中止されている。社会的に“男”となることの意味男性器の意味ってなんなのさ?いいものだと思うけど、そんなに大切な道具なの?人はそれが利口だと思ってる。男性器が最も重要なものであるかのように男はそれに従っているけど、ばかげてる。そんなのとんだ見当違いだよ作中に出てくるこのクワンダの言葉から考えさせられるのは、南アフリカだけでなく日本にもある、伝統的な「男性を重んじる価値観」についてではないだろうか。都会から来たアウトサイダーである彼には、それに対する一つの客観的な見方が投影されている。伝統的な儀式をないがしろにすることはできないが、それについて話す機会を作るべきではないか、多様な考え方が混在している広い世界を見て考えてみないか。同作を観た人なら、それを自分の身近な問題に置き換えて考えるかもしれない。予告編The Wound [Inxeba] International Trailer from Urucu Media on Vimeo.※動画が見られない方はこちら『傷』Website|Rainbow Reel Tokyo 2018英題:The Wound原題:Inxeba監督:ジョン・トレンゴーヴ2017年|南アフリカ、ドイツ、オランダ、フランス|88分|コサ語日本初上映ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター後援作品在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本後援作品オランダ王国大使館後援作品▶︎これまでの『GOOD CINEMA PICKS』・13作目:ダム問題を抱えながらも、強く美しく生きる里山の人々を記録した映画『ほたるの川のまもりびと』・12作目: メディアが報道しない、北朝鮮の“普通の暮らし”とは。撮影監督が韓国籍を放棄して挑んだドキュメンタリー『ワンダーランド北朝鮮』・11作目: 「多様性を認めない社会」へのジョージ・クルーニーからの警告?笑いながらも考えさせられるコメディ映画『サバービコン 仮面を被った街』▶︎オススメ記事・なぜ「ゲイ」が題材はタブーなのか。ある若手監督が「愛の普遍性を描いた映画」で日本人に訴えたいこと。・「接し方が分からないが、傷つけたくない」。性的マイノリティを特別扱いする日本人に向けたリアルな学園映画。All photos by Urucu MediaText by Shiori KirigayaーBe inspired!
2018年07月12日こんにちは、車椅子ジャーナリストの徳永 啓太(とくなが けいた)です。ここでは私が車椅子を使用しているマイノリティの一人として、自分の体験談や価値観を踏まえた切り口から“多様性”について考えていこうと思っています。そして、私の価値観と取材対象者さまの価値観を“掛け合わせる”、対談方式の連載「kakeru」第3弾です。様々な身体や環境から独自の価値観を持ち人生を歩んできた方を取材し、Be inspired!で「日本の多様性」を受け入れるため何が必要で、何を認めないといけないかを探ります。今回のテーマは「りかい」です。インタビューをしたのは、発達に障害がある方や自閉症の方を支援している笹本智哉(ささもと ともや)氏。彼は個人活動でSOCIAL WORKEEERZ (ソーシャルワーカーズ)というダンスチームを運営し、福祉施設を訪問してパフォーマンスしたり、自閉症啓発イベントなどに参加したりしています。徳永啓太(左)笹本智哉さん(右)▶徳永啓太のインタビュー記事はこちら今回私は6月9日に東海道新幹線内で起きた殺傷事件で「犯人は発達障害」と報道されて物議を醸した件について、彼に発達障害の当事者をサポートする者としての見解をうかがいたくインタビューをお願いしました。この機会に発達障害とはどのようなものなのか、正しい知識を理解し我々がどのように付き合っていけばいいのか、そして当事者が社会とつながるにはどうすればいいかを笹本氏の専門知識を交えながら、多くの方に「りかい」してもらいたいと思います。当事者と一緒に行動し、その場でサポートする仕事笹本:今回は、発達障害や自閉症の方について読者の方に理解してもらいたいと思い取材をお受けいたしました。東海道新幹線での殺傷事件の報道からは発達障害に対するメディアの偏見がみられたので、正しい知識を持ってほしいという思いがあります。事件を起こした容疑者を擁護するものでは決してありません。また今回被害に遭われた方、そしてそのご家族の方には大変心が痛い事件となってしまったことに対し、お悔やみ申し上げます。このような事件が再び起こらないことを心より願っております。徳永:このようなトピックでのインタビューとなりましたが、お受けくださり誠にありがとうございます。それでは笹本さんのされているお仕事の内容からうかがってもよろしいでしょうか。笹本:私は児童発達支援管理責任者という資格を持っていて、未就学(小学校の就学年齢に満たない児童)の発達障害児へ向けた「療育(りょういく)」の仕事をしてます。療育というのは、発達障害のある児童が日常生活で身に付けづらいコミュニケーションや運動機能、身辺自立*1に必要なスキルや学習を身につけるための支援(セラピー)です。例えば、絵の描き方・文字の書き方、「助けて」や「トイレに行きたい」などのサインの発し方、自分が何がしたいかという要求をうまく伝えるためのスキルを身に付けるのをサポートします。児童が集団で行動できるようなスキルを身につけ、友達と遊んだりする際のコミュニケーションがとれるよう、当事者と一緒に行動しその場でサポートしたり教えたりするのも支援の一つです。また児童発達支援管理責任者は、専門医から発達障害や自閉症と診断された児童やご家族、相談支援専門員、行政と一緒に考え、それぞれにあった支援の計画をたてる。それを親御さんと共有し、ご家庭でも実施してもらうよう促すことや、行政とのやりとりに必要な書類作成や発達障害の当事者が通う施設の運営・管理などをしています。(*1)洗面、着替え、歯磨き、食事、排泄などの身の回りの基本的な動作徳永:では発達障害や自閉症の方は、具体的に困ったときにどのような行動をとってしまうのでしょうか?笹本:わかりやすい例で言うとイレギュラーなことに対応できないということでしょうか。 例えば電車に興味がある子が運行時間を何時何分まで記憶していて、それが天候などの影響で時間が変わっただけでどうすればいいかわからずパニックになってしまうケース。 周囲の人の声や音をすべて拾ってしまい環境に適応できずパニックになってしまうケース。思ったことや見えたものを何でも口に出してしまうケースもあります。またそれとは反対に自分の要求をうまく言葉にできずストレスを抱え込んでしまう方もおられます。「発達障害、自閉症=犯罪を犯す」は根本的に誤った認識徳永:彼らの行動にはそれぞれ理由があるわけですね。知っていればなぜそのような行動をとっているのか理解できますが、知らないまま当事者を見かけると「変わった人」や「異常な人」ととらえてしまう。これが認識の差だと感じます。そこで今回取り上げたいのは「東海道新幹線で起きた殺傷事件にみるメディアのあり方」です。一部メディアが「犯人は発達障害」と報道し物議を醸しました。 メディア側も軽率な行動だったと謝罪をしていますが、こういった報道が流れるということは根本的に誤った認識をしている方がいるからだと思いました。当事者と接する仕事をしていて今回の報道をどうとらえていますか? 笹本:非常に安直だと思いますし、憤りを覚えます。少なくとも私が見てきたなかで発達に障害があるからといって殺人を犯すというのはありえません。以前は児童に限らず成人の方もサポートしていましたが、考えにくいです。そもそも前提として計画的に殺人を犯すという発想は私たちもしませんよね、それに発達に障害がある方は自ら計画的に何かをする行為が苦手な傾向にあるからです。もちろん私が知らないだけでなかには犯罪に興味を持ってしまう方もいるかもしれません。そのような偏った思想を持つ人は一般と同じで少数だと考えます。なので発達に障害があるからといって犯罪を犯すというイメージに直結するのはとても偏ったとらえ方で残念に思います。社会の「人間」に対する許容範囲が狭いことが生きづらさを生み出している笹本:「同じでなければいけない」という風潮は一般社会だけでなく、ヘルパーや就労支援など発達に障害がある方を支援をする現場でも感じることがあり、とても疑問に思っています。 例えば食事中は絶対に背筋をピンと伸ばさないといけないとか、日常生活の場でシャツは絶対ズボンの中にいれなきゃいけないとか。音楽イベントに来てるのに歌ったり踊ったりしたらヘルパーに注意されるとか。作業所で休み時間でも同僚に手を振ったら怒られるとか。当事者がちょっとでも要求を人に伝えたら怒るとか相手しないとか。そういった場面を目にしたことがあります。一般の方でも細かいことをすべてやれてるわけではないですし。それを当事者へ必要以上に求めている姿を見かけるととても残念な気持ちになります。私は当事者の主体性を引き出して生活をよりよくすることが支援だと思っているのですが、当事者を厳しく指導しているのは取り巻く関係者が恥をかきたくないからだと個人的に思っています。それは本当の意味で当事者支援にはならないのではないでしょうか。今回は大変難しい問題について答えてくれた笹本氏に感謝いたします。事件が起こった後に発達に障害がある方について取り上げるというのは不本意ではありますが、今回を機に発達に障害がある方や自閉症の方の正しい知識を持ってほしいという思いでおります。そんなインタビューのなかでも“社会が求める人間の能力の高さや人間像の理想が高い”という話題、そして“スタンプの版のように同じでなければ”というワードが印象的でした。私も「健常者」や「障害者」という言葉があるように、平均的なことができない人を分けたり、少し変わった考え方を持っている人に対して偏見を持つ傾向がある気がしていたからです。これでもっと社会が寛容になって、お互い認め合う余白ができればという課題が見つかり、連載のタイトルにも入っているワード「多様性」の根本を考える機会になったと思います。また最後に笹本氏がおっしゃっていた、もっと気軽に相談してほしいという点。日本は精神的に弱い方を受け入れようとしない風潮があり、そして当事者もカウンセリングを受けることに抵抗があると感じます。社会が多様性を認めようと動いているのであれば、こういったところも変えていく必要があるのではないでしょうか。最後に東海道新幹線での殺傷事件からメディアのあり方に疑問を持ったのでこの企画を提案いたしました。メディアや偏見についての異議申し立てであり、事件の容疑者を擁護するものでは決してありませんし、彼は完全に誤った行動をとったと思っております。私からも今回被害にあわれた方、そしてご家族の方にお悔やみ申し上げます。このような事件が起こらないことを心より願っております。Tomoya Sasamoto(笹本 智哉)Photo via SOCIAL WORKEEERZKeita Tokunaga(徳永 啓太)Blog|Instagram脳性麻痺により電動アシスト車椅子を使用。主に日本のファッションブランドについて執筆。2017年にダイバーシティという言葉をきっかけに日本の多様性について実態はどのようになっているのか、多様な価値観とは何なのか自分の経験をふまえ執筆活動を開始。
2018年07月11日媒体名の変更やウェブサイトのリニューアルを控えたBe inspired!が送るシリーズイベント「Neutalk(ニュートーク)」。業種、年齢、性別、人種といったバックグラウンドとなるすべての壁を取っ払い、いままで交わらなかった人を招き、そこで「新しい会話(ニュートーク)」を生み出そうという試みだ。その記念すべき第1回目が6月30日(めちゃくちゃ余談なのだが、この日は偶然にも“一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)”といって、何かを始めるにはかなり縁起のいい日ということをあとから知る編集部一同でした)、国連大学で毎週末開催されている「Farmer’s Market」の主な活動場所である、「Farmer’s Market Community Lounge」で開催された。のっけから全開で放たれたこの言葉に会場は…意外に平静な雰囲気。来場者の年齢層が比較的若いことや、誰もが少なからず感じていたことなのだろうか。ウンウンと首を振る人もちらほら。司会に促されてharu.さんも応える。私が普段からSNSとかで言ってるフェミニズムとか政治とかのことって、海外だと当たり前だったりするんです。でも日本じゃそういうことを言ってる人が少ないから、私みたいな人が取り上げられてる。私みたいな人が普通にいる環境になって、私が取り上げられなくなればいいなと思う確かに、日本のマスメディアに対する不信感は立場を問わず増しつつあるようで、たびたび報道の自由に関して喧々諤々な議論が巻き起こっては止まず、数ヶ月前には放送法の改正が議題に挙がることもあった。haru.さんのこのストレートさに太田さんは、「『腐ってる』。いいねえ」と笑いながら、過去ニューヨークに6年、その後世界各地を放浪していた経験を元に、各国のメディアの報道性について話し始める。どの国も政治の議論が盛んなんだよね。タレントのゴシップニュースなんて専門チャンネルでしかやってないし。まあマスメディアはどうしてもスポンサーに配慮しないといけないから圧力がかかるんだけどさて、農法の話に続いて種の話題に及ぶと、太田さんの顔にすっと真剣味が。なにやら今国会で決定がなされたという事項が、農関係者を中心に絶えない議論を巻き起こしているという。僕たちは昔から日本にある在来種や固定種と呼ばれる種を使っているんですが、その種に関する種子法(主要農作物種子法)*1という法律が最近廃止されたんです。これで資金力のある一部の企業が、種の管理を独占してしまうんじゃないかと懸念されています。ほかにも今国会で農業に関わる法案が10個ぐらい通っているんですけど、違うニュースで覆いかぶされて報道されてないから皆さん多分知りませんよね…。あとはヨーロッパやアメリカでプラスチックストローを使えなくする動きが話題になったり、法案で可決したりしてますけど、こういったことも本来メディアがちゃんと取り上げるべきだよね(*1)主要農作物種子法(しゅようのうさくぶつしゅしほう)主要農作物(コメ、麦、大豆)の種子の安定的な生産と普及に際して、国が取り組む要項を整理した法律。関連した法律に、種苗法((しゅびょうほう)植物の新しい品種(花、農産物など)を創出をした者の権利(知的財産権)について整理した法律)があり、新品種を創出した人にその種苗の販売などについての独占権を与えているメディアに関わる人間としては耳の痛い話が続くが、これが現実。真摯に受け止めて歩んでいくほかない。一拍おいて、太田さんは最後にこう付け加えた。読み込んでいます…Farmer’s Market @ UNUWebsite|Facebook|Twitter|InstagramFarmer’s Market @ UNU は農と都市生活を結びつけるプラットフォームです。私たちは以下の活動を通じて、都市に暮らす人々の生活に貢献することを目指します。– 農家と私たちの間の対話を生み出し、健康的な食べ物とその源に対する理解を促進する。– 農家と人々を直接結びつけ、相互理解によるコミュニティをつくることで、農家がより質の高い農業を継続できるよう支援する。– 生活者である私たちが“マイファーマー”と言えるほど信頼できる農家から、新鮮で健康的な食べ物を買う楽しみをつくる。– 私たち生活者も農業のプロセスに関わり、営みを理解するきっかけを提供する。haru.(HIGH(er) magazine編集長)Twitter|Instagram|HIGH(er) magazine同世代のメンバー4人を中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長。「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。そのテーマに個人個人がファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込む。2019年春にはHIGH(er) magazineの5号が発行されます!
2018年07月10日こんにちは!オールユアーズの木村です。僕らの店舗がある、池尻大橋から第18回目をお送りします。今回は大変なことになりました…!今回のプロジェクトでは、大賞を決めるための審査資料を提出しなければいけないのですが、僕らの資料はクラウドファンディングを使って、みなさんからの「声援」を集めて提出しようという試みです。目標は1000人集めたいんです!ぜひこのチャレンジに協力、参加して欲しいんです!なぜ僕らがクラウドファンディングを使うのか?それはインターネットのチカラを信じているからです。インターネットがなかったら、このブランドはやれなかったと思っています。知名度がなくても、実績がなくても、見てくれている人に届けることができる。住んでる場所の周りには少数でも、共感してくれる人たちがモニターの向こう側にたくさんいる。賛否両論あるけれど、共感してくれる人たちに届けるツールとしてのインターネットが好きです。そして、一貫して考えているのが、ちょっと前と比較すると、ブランドの考え方が変わったということ。トレンドみたいな誰かが決めたトップダウンで上から降りてくるような構造は、誰にでも情報をフラットにしていくインターネットによって壊される。インターネットの時代は、カッコつけているよりも、自分たちに共感してくれるお客さん(僕らは共犯者と呼んでいる)たちに距離が近い方がいい。そう考えています。つまり、実は有名人が「いい」って言ってるものを「それは広告かもしれない…」なんて考えるより近くにいる信頼できる友達がオススメするものの方が信頼感も信用も違うんじゃないか?っということなんだけど。最近そう思いませんか?インターネットは情報に誰でもアクセスできる。そして、どんなに小さくても自分の声をあげられる。そんな世界がある。僕らは今までの権威的な誰かが恣意的にトップダウンで決められたことではなく、より民主的に投票のようなカタチが簡単にできるのが、インターネットであり、クラウドファンディング。小さな声が世の中に反映される。行政や政治では難しいことを、みんなのチカラで少しずつ変化させていく。僕はそんな未来を夢見て、クラウドファンディングにチャレンジしています。あなたはどんな未来を信じていますか?もし近いことを考えているのならば、僕らと一緒にチャレンジしてみませんか?ALL YOURS CO.,LTDライフ・スペック伝道師Masashi Kimura(木村 昌史)Instagram|Mail24ヶ月連続クラウドファンディングに挑戦中です!
2018年07月09日「環境活動=まじめ=つまらない」。そんなイメージを吹き飛ばす環境NGOが日本に存在する。それが「国際環境NGO 350.org Japan」だ。年齢、職業、性別、人種もとにかく多様。下は6歳の子どもから上は70代のおばあちゃんまで。シングルマザーや障がいをもった人、外国籍の人もメンバーにいる。そこで主体的に動いているのは主にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の若者たち。少しでも多くの人に、楽しみながら環境活動ができることを知ってもらいたい!そこで、Be inspired!では、以前本誌でも紹介した350.org Japanのフィールド・オーガナイザー イアンが活動に関わる人をインタビューする連載をお届けする。その名も『「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org』。▶︎350.org Japanイアン氏のインタビュー記事『「日本の銀行が環境破壊に加担する事実」を知らない日本人へ。25歳のアクティビストが提案する解決策とは』350のフィールド・オーガナイザー イアンこんにちは!本連載を担当してきた清水イアンです。ツバル、ビーガン、クリエイティブの力、活動するモチベーション、銀行ダイベストメント、あらゆるテーマについて紹介してきた本連載も、いよいよ今回で最終回を迎えます。盛大なラストを飾るべく、今回はボランティアのインタビューに加えて連載#002でインタビューをした大月さんに動画を製作してもらいました。年齢、ジェンダー、人種、職業、ライフスタイル、人生観、すべてにおいてダイバーシティに溢れた350ボランティアが「環境アクティビストとして、今社会に伝えたいこと」が今回のテーマです。「環境アクティビスト」と聞いてみなさんはどういうイメージを思い浮かべますか?ラディカル?カタい?遠い存在?そんな固定観念を打ち壊す動画ができました。その名も『350 Picnic』!タイトルの通り、予定が合ったメンバーでピクニックしながら撮影しました。どうぞご覧ください!世の中に様々な社会問題があるなかで、ボランティアたちはなぜ今、350と共に気候変動に取り組むのか?その理由が垣間見えたと思います。ここからは、『350 Picnic』に参加したボランティア達+自分の写真にそれぞれが「社会に伝えたいこと」を一言添えて紹介します。ピクニックに参加できなかったボランティアが多数いたのが残念です!写真はすべてボランティアのおふじが撮影しました。サンキューおふじ!おふじ(24)先人が残していった美しい地球の文化を、今を生きる私たちは守っていく責任がある。自分が満足するまで「持続可能な循環」というものを、周囲の人間を巻き込んで作り上げていきたい。それが一人ひとりにとってハッピーに生きる基盤になることまちがいないから!350の同じ志を持つ仲間と、より良い世界について考える、こんなにワクワクすることはない!長谷部裕大(18)地球温暖化問題は、避けられない現実。今から一人ひとりの意識改革、行動が未来への大きな力になると思う。地球は私たちが人生を送る為に借りている素晴らしい自然の星。この星を自然豊かなまま未来の子どもたちへ引き継ぐ責任が私達にはある。りりあん(29)世界の文明、つまりライフスタイルも食も生活も文化も地球の持ち物「資源」の恩恵と共に共存して移り変わってきたと思う。そこに、人間がどんな思いで生きているかという「人間エネルギー」によって、世界環境は大きく変わると思う。エネルギー紛争・戦争で支配されていた歴史を、その「人間のエネルギー」の「愛」で未来がかわるときだと信じている。子どもにも誰にでも何かできるChanceがある!イアン(26)自分一人にどれだけの力があるかに気づくのは難しい。でも歴史を見ても、一人ひとりの力が合わさることですごく大きい力が何度も生まれてきた。環境運動っていうのは、見方によっては、地球や世界中の人のことを考えてみること。だから、自分と世界の繋がりを取り戻すために、人生の探求の一部として、参加をオススメしたい。▶︎これまでの350の連載はこちら・#005 「推定総額5億3千万円」を動かした若者集団。彼らが“環境のために銀行を替えること”を人々に訴える理由・#004 幸せって友達よりも稼ぐことだっけ?“沈みゆく島”ツバルに行って「幸せの方程式」を知った日本の若者たち・#003『「何を食べものと決めるかは社会ではなく自分」。ビーガンに風当たりの強い日本で、私が肉を食べない理由』・#002『「 “遊びながらやる感覚” で環境活動にも参加したい」。映像で環境NGOをポップにするクリエーター』・#001『「環境活動に正解はない」。若きアクティビスト3人が語る、真面目なだけじゃない“地球の救い方”』▶︎オススメ記事・牛乳よりも、環境を壊さない。製品の“不完全な部分”まで公開する、スウェーデン発の「麦ミルク」ブランド・地球から「奪い、作り、捨てる」ビジネスモデルの終焉。“髪飾り”で環境問題について学ぶ場を作る女性All photos by FUJIGARAText by 清水イアンーBe inspired!
2018年07月06日出版・映像を中心としたコンテンツ制作・販売を行う「カドカワ」が運営するインターネットと通信制高校の制度を利用した「N高校」の代々木キャンパスで6月27日、「ネットいじめ」をテーマとする特別授業が行われた。Netflixが制作した話題のドラマ『13の理由』を教材としたり、オンラインのディスカッションボード(チャット)を用いたり、全国7キャンパスにも中継するなど、実に“ネットの高校”らしい手法がとられた。ネットリテラシーの授業を必修とする同校の新たな試みから、何が学べるのだろう。Netflixオリジナルシリーズ 「13の理由」独占配信中SNS世代の高校生が抱える悩みN高校の全国8キャンパスに所属する生徒のうち約250名が参加した特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み 〜その時あなたならどうする?〜」。パネリストとして登壇したのは、約20年前に凶悪事件の加害者だとデマを流されて中傷被害を受け続けている芸人・タレントのスマイリーキクチ氏と、いじめを経験した教育YouTuberの葉一氏。授業ではアメリカで制作されたいじめやスクールカースト(学校内の序列)、同調圧力、自殺などがテーマのドラマ『13の理由』からいくつかのシーンを流し、日本での事情やアドバイスをパネリストが話すだけでなく、生徒からの質問やコメントに答えるという形式だった。扱われた内容は大きくわけて、①写真によるネットいじめ②集団における同調圧力によるいじめ③SOSの出し方・受け止め方の3つ。スマイリーキクチ氏(左)葉一氏(右)「①写真によるネットいじめ」で最も懸念されるのは、たとえアップロードした写真や動画を削除しても、ネット上に残ってしまうことだとパネリストの二人は指摘する。それは仲間外れにされるのを恐れて悪口を書き込んでしまうなどの「②集団における同調圧力によるいじめ」の問題と関連しており、書き込みをした記録が残ることから自分が書いたことに対して負う責任は大きい。「③SOSの出し方・受け止め方」については葉一氏が、「この人になら少し話してみてもいいかも」と思う人がいたらネット上の人であっても踏み込んで話してみたらいいのではないかと、いじめられていたことを誰にも相談できなかった過去を振り返りながら答えた。またスマイリーキクチ氏は解決策の選択肢は1つだけではなく「助けを求めてきた人が選べるように3つくらい提案するのがいいのではないか」と相手の立場に立つことの重要性を強調していた。チャットを利用した、リアルなネット環境での授業同授業の大きな特徴は、日本ではあまり使用されないオンラインのディスカッションボード(チャット)を利用し、生徒が匿名で質問や思ったことを随時書き込めるようにしていたところにある。なかには数こそ少ないもの、実際のチャットにあるような、特に授業とは関係のない書き込みもあり、まさに「ネットのリアル」そのもの。『13の理由』Netflix
2018年07月05日こんにちは、伶奈です。大学院まで哲学を専攻してしまったわたしが、読者から日常の悩みや社会への疑問、憤りを募り、ぐるぐる考えたことを書き綴る連載の第8弾。一方通行ではなくみんなで協働的に考えられるようにしたいので、時に頷き、突っ込みながら読んでくださると嬉しいです。人間は考える葦であるだから大事なのは、意見を持つこととか表現することよりも、考えることや意見に至るプロセスだということになります。本当はみんな、あなたの主張よりも「あなたがなぜそう考えるのか?」を知りたいのだから。SNSの世界には、「はい論破〜」という幼稚な言葉や、意見の対立を極端に恐れた「それな〜」という安易な共感が並んでいます。夜中に覗くと、深い海に沈んだように滅入ってしまう。極端だなあ。相手を批判することや「なんでそう思うの?」と問うことは、個人攻撃でも優位に立つための手段でもないのに。もちろん、完璧な理由を持って意見を主張できるわけもないから、言葉が不十分でも仕方がないと思います。だからこそ考え、疑い、その不十分さに気が付いたなら、その意見に固執するのではなく、一回その意見から解放されて、新たな考えを見つければいいと思います。大事なのは、考えること。パスカルの『パンセ』から、この言葉を。「人間は一本の葦(あし)であり、自然のうちでもっとも弱いものにすぎない。 しかし、それは考える葦である」▶︎これまでの『REINAの哲学の部屋』・#007 「校則は厳しい必要ある?」自分で考える機会を奪う“中身のないルール”は、日本の未来をも奪う・#006 「ハラスメントはなぜ起こるの?」男の子でも女の子でも立場は関係なく、“誰でも加害者になる”可能性・#005 「愛と執着ってなにがちがうの?」この問いを哲学的に考えたら気づいた、現代人の恋愛に足りないこと・#004 「レディファーストって古くない?」でも、嬉しくない?“男性が女性を丁寧に扱う文化”を哲学的に考える・#003 「死ぬのが怖いんです」。ある高校生の普遍的な悩みに、28歳の彼女が出した答えとは▶︎オススメ記事・「アートか、わいせつか」の議論から離れ、“性表現の規制”をかいくぐって遊ぶフォトグラファー・「男なら筋肉をつけるべきなの?」21歳の写真家が“男性解放”をテーマに写真展を企画した理由All photos by Chihiro Lia OttsuText by Reina TashiroーBe inspired!
2018年07月04日自分のクローゼットやたんすの中にどれだけの服が入っているのか、すべて取り出して確認することがあるだろうか?毎日の着る服に困らない生活をしている人なら、ミニマリストではない限り、すべてを把握できていないかもしれない。社会派のアーティストを紹介する連載「GOOD ART GALLERY」で今回紹介するのは、自分が所有する服をすべて自分の体に巻きつけるというアートで、見る人にモノの社会的意味を考えさせるアーティストのリビー・オリバー。ーほかで受けているインタビューを見ていると、服選びに「社会的制約」があるってことを作品で言いたいみたいだけど、具体的にはどんな制約が存在している?私たちは社会的制約と常に向き合いながら生きている。だけどそれは、人や暮らす場所によって変わってくる。たとえば、男性はスカートではなくズボンだけを履くべきだという考えを押しつけられている(それか社会的にそれが正しいと教えられてきた)。同時に男性がどのくらいその“男性の規範”に当てはまろうとするかは、その人の人間関係や住んでいる国、年齢などによって、変わってくると思う。結局のところ私たちは社会的動物で、他人に受け入れてもらいたいから、「どんな服を選ぶか」の決断を人に情報として発しているって面もあると思う。山積みにされた服に埋もれている人たちを見ていて、所有している服が自分自身に覆いかぶさっている様子を想像してしまうのは筆者だけではないだろう。作品で視覚的に表現されているように、通りですれ違うだけで言葉を交わさない他人については特に、身にまとっている服の発するメッセージは内面から伝わってくるものよりはるかに強い。どんな服を選んで着るかによって自分の社会的な見られ方が変わるからと、それをひどく気にする必要は必ずしもないけれど。それでも、もし着る服を選ぶ自由があるなら、自分が何を着るかが社会的に何を意味しているのかを考えることは、自分のおかれている社会の構造を理解することにつながるという意味で重要ではないか。Libby Oliver(リビー・オリバー)Website|Instagram
2018年07月03日こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。奥が兄の山脇 耀平、手前が弟の島田 舜介▶︎山脇 耀平インタビュー記事はこちら今回の旅は6月7日〜12日。広島県、山口県、島根県を巡りながら、たくさんの人に出会ってきました。システムエンジニアとトマト栽培を兼業する新しい形の農家さん。オーダーメイドの家具をつくりながら、人が集う場所づくりまで手がける山口の職人さん。漁師の街で地域に愛される大漁旗を生み出しつづけてきた工房の6代目。そんなたくさんの出会いの中から今回紹介したいのは、グルテンフリーの玄米麺を通じて耕作放棄地の再生に取り組むという、地域に対して、社会に対してポジティブなインパクトを与えようとしている小倉 健太郎(おぐら けんたろう)さん。彼の原動力とビジョンについてお話を伺いました。小倉 健太郎さん様々な暮らしを巡る中で実感した食の大切さ島根県松江市の出身で、大学進学を機に上京した小倉さん。環境問題や持続可能な社会に関心を持っていたことから、在学中にソーシャル・ビジネスを行う企業で働いた。その後大学を休学し、ニュージーランドに滞在。日本とは異なる人々の暮らしを肌で体感する。2011年の東日本大震災をきっかけに帰国した後は、東北にて復興支援に携わった。ニュージーランドの生活では「命の使い方」についてじっくりと考えました。一生に一度しかない自分の人生を何に捧げるべきなのか。そんなことに思いを巡らせていたとき、日本で震災があって帰国したんです。東北で復興の支援に関わる中で、出会った人々のたくましさにとても影響を受けました。困難な状況にあっても自分の頭で考え、生きるための食糧をつくり、文字通り“自分の足で立っている人”たち。小倉さんはそんな彼らの力強さに惹かれると同時に、食べ物が地域内で持続的に生産されることの大切さを痛感した。食に関わる分野で生きていくことを決めた小倉さんは大学卒業後、新卒で京都の豆腐屋に就職。2013年に地元の島根に帰郷し、のちにパートナーとなる小倉 綾子(おぐら あやこ)さんとともに、合同会社宮内舎(みやうちや)を立ち上げることになる。宮内舎とは、島根県雲南市という中山間地域でグルテン(小麦)フリーの“玄米麺”を製造販売している小さなカンパニーです。僕らが暮らすこの大東町(だいとうちょう)という町は、年々耕作放棄地が増えています。理由は、町民の高齢化や近年の米の買取価格の低下により、農家さんが仕事を維持できなくなっているから。この状況をなんとかしようと考え始めたのがすべての始まりでした。宮内舎が玄米麺とともに展開する白米麺大東町のような中山間地域は、山から流れる新鮮な水を一番に手に入れられるという環境もあって米作りには適しているそう。そんなお米を農家さんから相場より高い価格で買取り、食品として製造販売することで地域に貢献する、というのが小倉さんの想いだった。グルテンフリーの玄米麺の着想に至ったのには、綾子さんが小麦アレルギーだったというのもある。小麦アレルギーである綾子さんも食べられるような、麺を開発して世の中に届けていきたい。そんな2人の夢は形となり、2015年6月の販売から4ヶ月で販売1万食を突破。現在では取引先を40社以上に広げている。地域の暮らしの延長を考える玄米麺を通じて届けたい“関係性”田を耕し、育て、稲を収穫する。農業を営む中で保たれる美しい景観と、暮らしの根幹である食糧をつくる農家という生き方。大東町という一つの地域の中で生産と消費の循環を維持していくこと。そんな玄米麺づくりという形で未来にチャレンジしていく小倉さん。最後に、これからの展望について伺った。僕らが玄米麺を通じて届けたいのは「人と関わり合う物事の関係性」です。この土地で人々が農業を続けてきたという歴史。農業を行う上での自然との共生。動物・植物の存在。霊への信仰。さまざまな関係性をきちんと理解した上で事業を行いたいし、その関係性の大切さ、豊かさを発信していきたいと言う想いが根幹にあります。これからこの地域を訪れる多くの人たちと、たくさんの関係性を共有したい。そして未来に向かって関係性を耕していきたい。玄米麺という形あるモノが、そんな関係性づくりのきっかけになれば嬉しいです。山脇 耀平 / Yohei YamawakiTwitter|Instagram1992年生まれ。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、生産者と消費者がともに幸せになる持続可能なものづくりの在り方を模索している。繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営。2018年4月より「Be inspired!」で連載開始。クラウドファンディングで購入したキャンピングカー「えぶり号」に乗り全国47都道府県を巡る旅を実践中。
2018年07月01日とりわけ印象に残ったのは、その豊かな暮らしだった。長崎県こうばる地区。夏にはほたるが舞い飛ぶこの里山に生きる人々の日常には「結束」という言葉がよく似合う。結束せざるを得なかったのだ。長崎県がこうばる地区に石木ダムを建設するために現場調査を始めた1962年以来、彼らは長きに渡り抗議活動を続けてきた。『ほたるの川のまもりびと』はそんな住民たちの日常を記録したドキュメンタリー映画である。作中でみられる、こうばる地区の豊かな自然を知ってもらうために始められた「ほたる祭り」を準備する住民の様子にはうらましさすら覚える。子どもも、お母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな一緒になって料理を作ったり、川で魚を捕まえたり。なんとも楽しそうである。不思議なことに、そしてこんなことをいうと不謹慎なのかもしれないが、ダムの反対運動すら楽しそうにみえてしまう。一日もかかさず建設予定地に足を運ぶ住民たちは、バリケードを作るためにゲートの前に一列に並べたアウトドアーチェアに座り、蒸したさつまいもを分け合ったり、スーパーの値引きについて話したりしている。不条理を知った以上何か伝えなければならない「不条理を知った以上何か伝えなければならない」。山田監督は作品を作った動機についてそう話していた。ダムが本当に必要であるならば、住民は故郷を諦めるつもりでいたそうである。しかし、必要がないにも関わらず大切な故郷を、豊かな自然を破壊するとなれば、それはまさに不条理にすぎない。こうばる地区のダム問題は私たちの日常には関係のない話に聞こえるかもしれない。しかし、このダムの建設には長崎県や佐世保市はもちろんのこと、少なからず国の税金も使われる。私たちが国に納めた税金が、美しい自然を、素敵な暮らしを、愛に溢れる人々のつながりを破壊することに使われるかと思うと、どうも落ち着かない。▶︎これまでの『GOOD CINEMA PICKS』・12作目: メディアが報道しない、北朝鮮の“普通の暮らし”とは。撮影監督が韓国籍を放棄して挑んだドキュメンタリー『ワンダーランド北朝鮮』・11作目: 「多様性を認めない社会」へのジョージ・クルーニーからの警告?笑いながらも考えさせられるコメディ映画『サバービコン 仮面を被った街』・10作目:“性別”の枠を超えた愛とは。二度と訪れない、二人の青年の一夏を描く『君の名前で僕を呼んで』▶︎オススメ記事・55杯目:「亀裂ではなく対話を求める」。伊勢谷友介、坂本龍一も参加する “あるダム”の必要性を問うプロジェクト。#いしきをかえよう|「丼」じゃなくて「#」で読み解く、現代社会・1作目:原発が建設される予定地の”奇跡の海”を守るため、35年間活動し続けている人々。 |GOOD CINEMA PICKSAll photos via ぶんぶんフィルムズ Text by Noemi Minami ーBe inspired!
2018年06月29日脳で深く考えるよりも、身体が撮りたいと感じるものを撮影するスタイルをとってきた写真家のタクヤワタナベタクヤ。彼は自身を「写真家」とは名乗らず、ただ「写真をやっている」と説明する。筆者がそんなタクヤ氏に取材しようとコンタクトをとったのは、今年開催された、とあるアートブックフェアで偶然彼の作品を置いているブースを訪れ、彼の作品のポスターが剥がされたという話を聞かされたからだった。デートアプリ「ティンダー」で知り合った、一夜限りの関係の男性二人のカーセックスを撮ったZINE「FOOD」のポスターには小さく男性器が写っていたようだが、なぜ撤去されなければならなかったのか。性表現の規制の話をふまえて、彼の見解を聞いてみた。性表現を規制してきた曖昧なルール日本の性表現を規制する刑法には、わいせつなものを不特定または多数の人々が認識できる状態に置くこと、無償・有償で配ることなどを刑事罰の対象にする「わいせつ物頒布等罪」がある。(参照元:横浜ロード法律事務所)これがさす「わいせつ」に何が当てはまるのかについては、幾度も議論がなされてきた。それには、取り締まりするうえでの判断基準の曖昧さが関係しているようだ。「わいせつ物」とみなされるものを流通させてはいけないというのが大まかにあって、該当するものには「18禁」をつけないといけない。何がわいせつ物なのかっていうのはグレーでタイミングによって揺らいでいく。それに加えて、製作者の知名度とかどの程度社会的に認められているか、展示されている場所や時代性によってすごく左右されている印象です。同名のZINEの表紙にもなった写真(男性二人が向かいあってキスをし、片方の男性がもう片方の男性の性器を手で握っている)のポスターが会場から撤去されたのは、フェアの最終日である4日目。作者である彼への確認はせず、ただ剥がされただけで、タクヤ氏が到着しても誰からも忠告を受けなかった。ブースにいたスタッフから経緯を知らされた彼は、そこで何を思ったのだろう。ポスターが剥がされたと聞いたとき、二つ同時に思ったことがあって、「よく最終日までもったな」というのと「そういえば性器とかって公衆の前であまりおおっぴらに出していいものじゃないんだ」ということ。対極にある考えなんですが、同じくらいのタイミングで湧いてきて。FOODのポスターとして使用されていた写真Photo by takuya watanabe takuya家族連れの多いイベントではなく、ポスターの性器が出ている面積も小さく、彼からしてみれば問題があったようには思えなかった。ここで興味深かったのが、彼は怒りもせず、むしろその反応をおもしろがっていたこと。より話を聞いていくとタクヤ氏の考えは、スケートボードやグラフィティアートなどが持つ「規制をかいくぐる感覚」に通ずるようだった。自分としてはあまり「性器の写真」というイメージがなかったけど「そういえば出ているんだった」って。反応を見るのはおもしろいですね。それに対して、じゃあ次はどうやろうって、その間を遊んでいく感覚です。ビルの前にあるでかい彫刻にスケートで突っ込んでいくとかそういう感覚で、本来とは違う用途でどう扱い遊ぶか、ルールをどう自分で解釈して遊ぶかっていうことに楽しさを感じます。それによっておもちゃが増えるというか、考えるトリガーが増える感じですね。今回のことに関しては「最終日に、ポスターのみ」という部分から、重く考えてはいなくて、ルールを守らないと怒られる立場の人間が気づいてしまったんだろうなとか、次に偉そうな人が来たらポスターの前に立っとこうかなとかその程度ですが、「これだけ多くの人が自由にさまざまな情報へアクセスできる時代に問題になるような写真か?」という疑問はあります。仕方のないことだとは思いつつも、法は常に追従する存在なのでそれを用いる人間そのものやテクノロジーの進化するスピードに離され続ける。アートと「わいせつ」の違いは何か何が「わいせつ物」にあたるのかという議論と同様に、「アートかわいせつか」の境界線がどこにあるのかの議論も度々耳にしてきた。タクヤ氏の意見を尋ねてみると、彼のなかに特に区別はなく、その二つを分けることが個人の利益になるわけではないと話す。「生きる目的は」とか「生きている理由は」っていう質問と結構似ているかなっていう気がします。各々のなかにだけ存在するし、そんなもの最初からないし。社会が勝手にそれを輪郭づけないと不都合があるから、わいせつとかアートとかに分けたいだけで、個人のなかに区別をつけなきゃいけない明確な理由もなければ、区別するメリットもないかなって思っていて。わいせつかアートかは特にないですね自分のなかでは。好きか嫌いかみたいなラインに従っていきたいです。自分の写真にヌードが多いので、“セクシャルなもの”とか“エロいもの”を多く撮っている人っていうイメージがあると言葉にされたことがあって、ああそういうものとして見えるのかっていう感覚はありました。ポルノだと思う人もいれば、それが愛とか風景写真に見える人もいて、その解答を自らの意見として示したいわけでもなければ自分以外に適応される解答を持っているわけでもない。ルールはなぜ存在するのか彼の作品のポスターはなぜ剥がされてしまったのだろう。タクヤ氏は未だに誰の意向でそうなったのか知らない。性行為などの「性的な表現」を規制しなければならないという考えのもと判断が下されたと考えられるが、果たしてそれは場に必要だったのか。ただ来場者が鑑賞できるものを制限しただけだった、という見方もできるはずだ。またアートに関心の高い層の集まるアートブックフェアにおいては比較的考えにくいが、作品で同性愛を扱ったことが一部の人には受け入れられなかったのか。世の中に存在するルールは「各々が信じる芯を見つけるための作業を簡易化するための優しさ」に近いのではないか、とタクヤ氏は話す。それらは人々が権利を侵害されず安全に、不快な気持ちになることなく生活するためのに必要なものとして存在している。だが、常にルールに従っていれば幸せかとか安全というわけでもない。ルールのもとにある基準が不明瞭なことだってある。それは人間が作ったもので、ときに時代に合わなくなっても、そのまま放置されているからだ。言うまでもなくルールは守るべきものだが、その存在を疑問視してはならないわけではない。最後に彼は、ルールというものに対する解釈についてこう言っている。公式だけを暗記して用いるようなことはしたくなくて。成り立ちを証明できないものを知っていても、理解できないと応用もきかないし何より誠実じゃない。ひとつひとつを疑い証明していく作業はハードで迷惑もかけるけど、身に染みていく。理性や脳よりも身体の可能性を信じているので、身体で理解して進みたいです。takuya watanabe takuya(タクヤワタナベタクヤ)Website|Twitter|Instagram
2018年06月29日13歳の頃、額にぽつりとした赤い突起を見つけた。気がつくと筆者の額や頬、デコルテや背中はそれに埋め尽くされていく。「あらあら、私もハタチくらいまでニキビがよくできていたの。私に似ちゃったね」と笑いながら語る母の言葉に絶望した。20歳!あと7年。小学校を出たばかりの筆者にとって、それは無期懲役を宣告されたかのように感じた。そして母の言葉通り、筆者の青春期はニキビに取り憑かれた。同級生や、近所のおばさん、そのほか多くの人にニキビを憐れまれるたびに、肌とともに心まで醜くなる感じがした。「シカトされるのも、モテないのも、成績が悪いのも、足が遅いのも、何より可愛くないのも、全部、ぜーんぶニキビのせいだ」ニキビ=美の仇。筆者は結局10年弱、この方程式に苦しめられることになった。しかし、今、揺るぎないこの等式を根底から覆そうと活動するアーティストがいる。それが、イギリス在住の女性写真家、Sophie Harris-Taylor(ソフィ・ハリス・テイラー)だ。彼女は、女性のリアルな肌質を美しく写真として切り取ることで、従来の美の認識に一石を投じている。今回は、そんな「ありのままの素肌」をテーマにした彼女の連作、「Epidermis(エピデルミス)」をピックアップし、Sophie自身に語ってもらった。ーEpidermisで、イギリスに住む様々な肌の女性20人を撮影、インタビューしたとのことですが、撮影の前と後、モデルたちに変化はありましたか?モデルたちのなかには、化粧なしで家から出たことがない、なんて人も少なくありませんでした。だからこそ、彼女たちにとって撮影に参加するのは勇気がいることだったと思います。はじめは緊張していたり、不安そうだったりした子も、撮影が終わったあとは、解放されたような気持ちになったり、自分が美しいと感じたり、力をもらったように感じたようでした。出来上がった写真にはポジティブな反応ばかりだったし、みんなとても気に入ってくれました。このプロジェクトに参加したことで、モデルたちはありのままの自分に対して前より自信がついたようでした。-あなたが思う「美しさ」とはなんですか?ありのままの自分に自信を持っている人にはとつもなく美しい何かが秘められていると思っています。私はそれができていないから、そういう人を見ると「美しさ」とはこのことだな、と感じます。-日本の読者たちに、今一番伝えたいことは何ですか?美しさはその個性によって祝福されるものであり、明らかに主観的なものでもあります。私にとって、本当の、ほんとうの「美しさ」は内側からもたらされるものです。それは、親切で、寛大で、愛情深く、気遣いができるかっていうことなんです。▶︎オススメ記事・#14 現代社会で軽視されがちな“感情”の大切さをアートを通じて思い出させてくれる「ビジュアル哲学者」・#13 ライバル化しやすい社会で「女性が助けあうことの大切さ」を謳うアーティスト、Frances Cannon・#12 「日本を責めたいわけじゃない、でも知って欲しい」。日本にまつわる“韓国の思想”をアートで体現する女性▶︎オススメ記事・「キズは醜いものじゃない」。なぜ24歳の写真家が「傷跡は人の人生を物語るロードマップだ」と断言するのか。・「美の常識」に流されない日本に住む女の子6人に聞く『わたしがわき毛を剃らない理由』All photos via Sophie Harris-TaylorText by Kotona HayashiーBe inspired!
2018年06月27日こんにちは、ALL YOURSの木村 昌史(きむら まさし)です。オールユアーズ4年目はLIFE SPEC CO-OPから始まる約一年前のこの記事で掲げた「LIFE SPEC CO-OPを新しい生活協同組合やホームセンターみたいな場所にする」という目標。もちろんこの記事に書かれているビジョンを達成するための試みの一つではあるのですが、前回のイベントは燃え尽きた…ここに全てを注ぎ込んでしまったので、この日限りになってしまったのが前回の反省点。Be inspired!とコラボトークイベントも開催しますあたらしいアイデアで作られた日用品、生活に役立つ道具たち。ナイスな発想、工夫、想いでものづくりされた商品たちが僕らの周りにだんだんそろってきました。それって、たいがいナイスな人たちが作ってるんです。世田谷から巻き起こる、小さなムーブメントLIFE SPEC CO-OPは、誰でも参加してほしいイベントだから入場料は無料。参加ブランドに興味のある人、クラウドファンディングや新しい販売の話を聞きたい人、アイデアの源や、商品開発秘話など。出店者の方々と話をたくさんしてほしい。キッズルーム完備でお子様連れでぜひお越しください!お子さんにも「楽しかった!」「また行きたい!」って言ってもらえるようなイベントにしたいと思っています。駐輪場もありますので、ご近所の方は自転車がオススメです。イベント詳細Facebookイベントページ日程6月29日(金)、6月30日(土)、7月1日(日)時間6/29 11:00~19:00(プレイベント) 6/30 11:00~19:00(飲食出店あり) 7/1 11:00~18:00(飲食出店あり)出店者【6/29~7/1出店】・ ALL YOURS CO.,LTDインターネット時代のワークウェアを作っています。・ うなぎの寝床北九州地方の地域文化商社。【6/30-7/1出店】・10YC10年経っても着たい服を作っています。・ONE NOVA世界一透明なパンツ。・Armi正しい作り方で作られたTシャツ。・RAL自転車がある生活。・RawLow Mountain Worksアンガスヤングが好きなアウトドアブランド。・アトリエブルーボトルmade by handを貫くバックパックのブランド。・ Trail Butter携行食なんだけど、めっちゃうまい!・Run boys! Run girls!悪ノリランニングショップ!・日本自転車(帽)振興会(Instagram)東京&名古屋の自転車帽ユニット!・TORAYA EQUIPMENT / 旅道具トラヤ旅道具を夫婦で作るブランド。・MINIMALIGHTミニマムをアウトドアに持ち込んだプロダクトデザイン。・Idontknow.tokyo日常の名脇役を作る。プロダクトデザインチーム。・神楽坂 かもめブックス知性を日常に置きかえる本屋さん。・AddElm(アドエルム)人間のパフォーマンスを拡張するウェアブランド。・庖丁工房タダフサ確かなワザと、今使いたくなる刃物屋さん・Good People & Good CoffeeGOOD PEOPLE AND チャリンコーヒーチャリでコーヒー淹れちゃう世田谷のコーヒーユニット!・青果ミコト屋旅する八百屋・味道楽 三代目満作 塩せんべいファンキー直焼き煎餅屋さん他、ワークショップ情報やトークイベント詳細はフェイスブックイベントページへ!ALL YOURS CO.,LTDライフ・スペック伝道師Masashi Kimura(木村 昌史)Instagram|Mail24ヶ月連続クラウドファンディングに挑戦中です!
2018年06月26日北朝鮮についての報道で目にするのは、「軍事パレード」「ミサイル発射実験」「飢餓」などのキーワード。日本のテレビニュースでも、同国で放送された番組の映像が映されることがあるが、それは北朝鮮の実際の姿に近いのだろうか。外からのアクセスが容易でない国家について、内情を詳しく知ることは難しい。今回の『GOOD CINEMA PICKS』で紹介するのは、限りなく日常の姿を撮ろうと北朝鮮に三度入国したのちに撮影された、初の北朝鮮政府公認ドキュメンタリー『ワンダーランド北朝鮮』だ。そこに映る、人々の“普通の生活”とはどんなものだろうか。©Kundschafter Filmproduktion GmbH北朝鮮国民のサステイナブルで、幸せそうな生活朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の国民の生活と聞いて思い浮かぶのは、困窮した、そして統制された生活かもしれない。本作に映る人々には、自給自足に近い暮らしをしている人も、工場や施設で働いている人もいるが、共通しているのは「素朴で穏やかな生活」を送っているように見える点だ。本作の監督はそんな様子を目の当たりにし、自身が子ども時代を過ごした1970年代の韓国を思い出したとインタビューで話している。また観客を驚かせるのは、北朝鮮の暮らしが他国と比べて非常にサステイナブルなところだろう。地熱発電、風力発電、太陽光発電など自然のエネルギーが推奨されて使われているようだ。さらに農村部の家庭では家畜などの糞から発生するメタンガスを利用して調理したり、畑で余った藁で暖をとったりするなど、使えるものを無駄なく使う循環型のライフスタイルが成立している。国が経済制裁下にあるからこそ、そのような生活をするしかないのだと推測できるが、それは地に足の着いた平和なライフスタイルとして目に映る。©Kundschafter Filmproduktion GmbH韓国籍を捨て、北朝鮮公認ドキュメンタリーを撮影した監督北朝鮮への入国には制限があるし、映像を撮るには許可が必要だ。隠し撮りをしたことや身分を偽っていたことなどが理由で、同国を取材したジャーナリストや監督が入国禁止になったり、逮捕されたりしたことが過去に幾度もある。だが本作の監督チョ・ソンヨン氏は、事前に複数回同国を訪れて取材対象者や取材場所を選び、信頼関係を構築してから撮影したという点で、ほかのドキュメンタリー製作者と異なった。さらに撮影のため、彼女が韓国籍を放棄しドイツのパスポートを取得して北朝鮮に入国したことからは、人々の想像を絶する覚悟と、計り知れない熱意が感じられる。韓国人が北朝鮮に渡航することが、韓国国家からの「裏切り行為」とみなされて処罰の対象となるという背景があるため、彼女が安全に取材へ行くのにほかの選択肢はなかったのだ。写真右がチョ・ソンヨン監督©Kundschafter Filmproduktion GmbHメディアが描くイメージは作られたものなのか監督が映したかったのは、「北朝鮮の人々の日常」。本作を見て、どのくらい北朝鮮について知ることができるのか、それはわからない。だが一般的なメディアでは見られない、自給自足に近い生活をしながら平和そうに暮らす人々の姿を見ることはできる。そのような生活をしている人ばかりだと断言はできないが、それも北朝鮮の一面ではないだろうか。物事を何か一つ疑い始めれば、本作が映している同国の日常についてのみならず、メディアの映す映像が現実なのか、それともプロパガンダなのか判断するのは決してたやすくないと思わされる。最後に、作中でも日本(大日本帝国)からの独立戦争に関して触れられていたが、朝鮮半島の分断には日本の戦争・植民地支配の歴史が大きく関係していることを私たちは忘れてはならない。予告編※動画が見られない方はこちら映画『ワンダーランド北朝鮮』Website2018年6月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー2監督:チョ・ソンヒョン配給:ユナイテッドピープル2016年/109分/ドイツ・北朝鮮/ドキュメンタリーシアター・イメージフォーラムでのトークショー(15分~20分程度)6月30日(土)11:00~上映後トーク宮西有紀さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)コリア事業担当)6月30日(土)13:15~上映後トーク礒?敦仁さん(慶應義塾大学 准教授(北朝鮮政治)「北朝鮮入門」著者)7月 1日(日)11:00~上映後トーク菱田雄介さん(写真家/最新写真集「border | korea」)7月 1日(日)13:15~上映後トーク高英起さん(北朝鮮情報サイト「デイリーNKジャパン」東京支局長)&うねこさん(先軍女子)詳細はこちら
2018年06月25日