音楽と動く隊列で作られる“8分間の総合芸術”――それがマーチングだ。高校生の姫川美月は、母から強いられる勉強だけの毎日に倦み、思いあまって秋田の叔母の家へ。そこで偶然目にした光景に魅せられ、入部。美月がトランペットやマーチングに、部の仲間たちと共に情熱を注いでいくさまが描かれる『みかづきマーチ』は、胸を震わせる青春マンガだ。マーチングバンドに青春を懸ける高校生たちのまぶしく切ない日々。その著者が山田はまちさん。実は山田さんもマーチング経験者だ。「私とマーチングとの出合いも高校でした。美月のように、入部して1か月で大会に出たんです。楽譜以外にも覚えることがたくさんあって大変でしたが、みんなとひとつのものを作り上げるのはなんて気持ちがいいんだろうと。その分、達成感もすごいんです。マーチングバンドの強豪校に取材したり、ドキュメンタリーも参考にしていますが、基本的には自分自身や仲間が感じていたリアルな感情を軸に、熱い思いを伝えていきたいと思っています」士気の高い部員たちゆえ、和気あいあいとしているだけではない。3巻では、野球部応援や県大会などのハレの場で、誰がトランペットのソロパートを演奏するかのオーディションが行われ、それぞれが葛藤と向き合うことに。「3年生にとって最後の年なのだからという年功序列も、いちばん上手い人に任せるという実力主義も、どちらも正しいから悩ましいですよね。ただ部活も仕事も、勝ち続けられるものではないので、うまくいかないときにみなどうやって乗り越えていくのかも描きたいですね」デビュー前からマーチングのマンガが描きたかったという山田さん。「競技の面白さを描きたいけれど、どうしたら表現できるのか、キャラクターも含めなかなかうまくいかなくて。考える時間だけで2年くらいはあったので(笑)、美月たちに何が起きるか、吹奏楽のどんなイベントがあるかなどを一通り年表にして、それを参考に、展開を決めています」マーチングは一種の団体競技だという山田さん。「楽器も多いし、フラッグ(旗)を扱うカラーガードというパートもある。いろんな人のドラマがあるわけで、いわゆるモブみたいな人たちにも少しでもスポットが当たるような群像劇にしていきたい。読んだ人が元気になれる作品にしたいです」『みかづきマーチ』3生まれて初めて熱中するものを見つけた美月。1月28日発売の3巻では、トランペットのソロパートをオーディションで選ぶことになり部内がざわめく。双葉社620円©山田はまち/双葉社やまだ・はまち秋田県出身。会社員を経て、上京。独学でマンガ制作を始める。アシスタントの傍ら描き続け、2017 年に読み切り作品でデビュー。※『anan』2021年2月3日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月02日元吹奏楽っ子(担当:Euphonium)の音楽好きharakoが、大人になってから、改めて音楽の楽しみ方を見つける連載です。第2回目は、マーチングの世界大会(DCI)で優勝経験のあるトランペット奏者・指導者の梅澤伸之さんに、マーチングの魅力と上達のポイントを教えていただきました!魅力①洗練された統一感【大人の音楽LOVER♪】vol. 2harakoマーチングならではの動きって、すごいですよね! 私は今まで、座奏経験しかないのですが、どんな感覚なんでしょうか?梅澤さんおそらく吹奏楽やオーケストラのように、座って演奏するスタイルで味わえないのが “究極の一体感” だと思います。テーマに合わせて動きをつけていくんですが、その統一感と団結感は、まさに芸術的な要素が強いですよね。見て楽しむパフォーマンスと演奏が重なり合うのが魅力的。その代わり、同じ曲でも座って演奏するより、何倍も体力的に大変ですけどね……(笑)あとは、日本の吹奏楽の大会の多くは “人数制限”があるので、 どうしてもメンバーを決めるために、オーディションをすることがありますよね。しかし、日本のマーチング大会の多くは人数制限はないので、例えば200人部員がいても、全員参加することが可能。メンバーになれずに、残念!ということが少なく、仲間の絆が生まれたり、自分が与えられたポジションをこなしたりしながら、承認欲求や存在意義を深く感じることができると思います。魅力②圧倒的な音圧harakoなるほどー! あとは、マーチングの基本編成って吹奏楽やオーケストラとは異なりますよね。梅澤さんそうですね、吹奏楽に比べて大きく違うのは、音圧かもしれません。マーチングは木管楽器もあるけど、主に金管楽器が花形。僕が世界大会で演奏したチームは、全てフロントベルの金管楽器だったんですが、正面から聴くと、ものすごい音の重圧感でしたよ。正直、実際に演奏している側からは感じにくいけれど、マーチングのショーを聴く側だったら、何重にも重なるハーモニーを、ぜひ感じて欲しいですね。打楽器の演奏スタイルも、吹奏楽とは大きく違います。パーカッションたちの粒の揃った演奏は、ため息が出るほど爽快感があると思いますよ。魅力③進化する動きharakoマーチングの動き方って、どうやって考えていくんですか?隠された意味が、あるのでしょうか?梅澤さん実は、毎回テーマがあるんです。例えば、“空” と言うテーマがあったら、そこからイメージできる動きをどんどん加えていく。“空” って言ったら、何を思い浮かべますか?そう、雲や風、青、太陽などが出てくると思います。ショーでの動きは、決して初めから全て完成されているわけではなく、少しずつ加えたり削ったりとブラッシュアップしていくもの。最後まで、どんな動きになるのかわからないのが、おもしろいところでもありますね。harakoてっきり初めから形が決まっていて、その通りに練習していくのかと思っていたんですが、実際はどんどん変化させていくのが醍醐味なんですね。一番初めに決めた動きは、最後には全く違うものになっているということは、どのタイミングでショーを見るかで別世界に見えそうですね!上達ポイントは「急がば回れ」harakoマーチング指導をする時に意識していることや、よく失敗しがちなバンドの練習方法を発見することはありますか?梅澤さんマーチングは、通常の演奏に加えて、動きや自分のポジションが常に変動するため、複数同時にいろんな作業をしないといけないんです。だから、かなり頭を使うと思います。マーチングの指導に行くと、全て一気に完成させたい!と言う気持ちが先行してしまって、同時にアレコレと練習するグループをよく見かけるんですが、それは逆効果……。“急がば回れ” なんて表現することもありますが、とにかくひとつひとつを丁寧に分解して、クリアにさせてから積み重ねて行くことが必要。時間がかかるけど、最終的には一番近道になるのは、どれだけ個々の作業を分解しているかが重要なんです。よく音楽指導をする時に、感覚で表現する場合がありますが、梅澤さんのお話を聞いていると、とにかく理系脳を感じました。音楽は感覚ではなく、ちゃんとプロセスを踏むことで、ちゃんと機能していくということです。マーチングの裏側を知ることで、楽しみ方が何倍にも変化しそうですね!“魅せる演奏、マーチング” で、座奏にはない魅力を感じることができました……♡今回の音楽LOVERは……♪梅澤 伸之さんトランペット奏者・指導者、マーチング指導者♪音楽を、ひと言で表すと?「唯一やめなかったこと」小学生でトランペットを始め、高校に入学後はマーチングの世界に出会う。そして、部室で見つけたマーチング世界大会(DCI)のビデオを観たことをきっかけに、単身でアメリカへ渡り、憧れの団体「Blue Devils」所属。その年の優勝を飾ると同時に、Blue Devilsのメンバーと共に、全米各地でショーをやりながらアメリカを横断し、ディズニーワールドにて演奏するなど、貴重な経験をする。日本に帰国後は、本場のマーチングを学んだ知識や経験を生かして、指導や演奏活動をしている。(C) sshepard/Gettyimages(C) froydiga/Gettyimages(C) hanibaram/Gettyimages
2017年08月16日