意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本版ライドシェア」です。移動手段の不足。地域ごとに事情が異なることに留意。海外ではUberのように、一般車が有料で人を乗せるライドシェアリングサービスが広まっていますが、日本ではタクシー業界を守るため、「白タク」行為は禁じられています。ところが、最近ライドシェアを解禁しようという動きが出ています。この背景は、都市部と地方では少し事情が異なります。まず、観光都市や大都市では、今タクシーの台数が不足しています。コロナ禍でドライバーもタクシーの台数も減り、さらにタクシー配車アプリの普及により、流しのタクシーも減少。急速にインバウンドが戻ってきているのに、観光客の足回りが枯渇している状況なんですね。一方、地方においては、そもそもタクシーのニーズが少ないところにコロナ禍でさらに台数が減り、日常生活での人々の移動手段がなくなってしまいました。そこで、必要な時に空いている自家用車を使い送迎ができるように、ライドシェアを解禁したらどうかといわれています。すでにライドシェアの実験が始まっている地域もあります。福島県浪江町では駅前に大きなタッチパネルを設置し、道の駅や病院など行き先を指定すると、近くを走る乗り合いバスが迎えに来てくれるんですね。過疎高齢化が進む地域でライドシェアを導入し、住民の暮らしを守ろうとする取り組みは大歓迎です。ただ、都市部の参入には賛否両論あります。あるタクシー業界の方は、ライドシェアを解禁するにしても、安全に人を乗せる技量を持つ第二種免許を取得している人に限定してもらえないかと話していました。鎌倉や湘南など、車の渋滞に悩まされ、市民の移動に支障が出てくるような観光都市もあります。市街地は自家用車の乗り入れを禁止し、バスで移動してもらうパーク&ライド方式をとり、解消しようという意見もあります。行政と民間と市民社会が、自分たちの地域をどういう交通社会にしたいのかを考えることが求められます。大事なのは何をゴールに定めるかです。一度緩和した規制を元に戻すのは難しいので、タクシーの供給が足りないからライドシェアを解禁すればいいと安易に捉えない方がいいでしょう。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。※『anan』2023年12月27日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年12月25日「地域交通の担い手不足を解消するために方向性を示すーー」岸田文雄首相(65)は23日の所信表明で、“ライドシェア”解禁に向けて、そう意欲を見せた。ライドシェアとは、客を乗せて運ぶために必要な“第二種運転免許”を持たない一般のドライバーが、自家用車で営利目的のために客を運ぶこと。日本では“白タク”と呼ばれ、原則禁じられてきた。アメリカでは、一部の州で米配車サービス大手のUber社などが参入し、ライドシェアが進んでいる。しかし、ドイツやフランス、イギリスなど欧州では、どこも禁止。安易に導入すると、性犯罪等が多発しかねないと懸念されているからのだ。なぜ岸田首相は、ここに来てにわかに導入に舵を切ったのかーー。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは、「この背景には、大物政治家やアメリカの影がチラついている」として、こう分析する。「以前からライドシェア導入を強く押していたのは、菅義偉前首相です。本来、岸田派(宏池会)は、規制緩和を積極的に行うような政治姿勢ではないのですが、ポリシーがない岸田首相は、ライドシェアを進めることで菅氏を味方に付けて、来年の総裁選で再選を狙いたいという思惑があるのでしょう」さらに、「バイデン大統領のご機嫌取り」という目的もあるという。「岸田首相はこれまで、防衛政策でも経済政策にしても、バイデン政権の言いなりに動いてきました。この間、アメリカからはずっと規制緩和しろという圧力をかけられていますから、ライドシェアを解禁することで外資に参入の道を開き、バイデン政権のご機嫌を取りたいという思惑もあるのでは」つまり、ライドシェア解禁は、すべて“岸田政権延命のため”なのだ。■ライドシェア解禁の影にちらつく竹中平蔵氏さらに気がかりなのは、菅氏の背後には、前パソナグループの取締役会長、竹中平蔵氏の影もチラついていることだ。鮫島さんは、ふたりの関係性を、こう解説する。「小泉政権下では、郵政民営化や派遣法の改正などが行われましたが、こうした規制緩和を主導したのが当時大臣だった竹中平蔵氏。菅氏も、同じく小泉内閣で頭角を現し、竹中氏の後任で総務大臣になっています。つまり菅氏は、“小泉・竹中”が進めてきた規制緩和政策の継承者なんです。今回のライドシェアも、タクシー業界が担ってきた運輸部分の規制を緩和して、民間に参入させようということですから、小泉・竹中改革の流れを汲んでいます。竹中氏はいわば規制緩和派のドンです。ライドシェアが導入されれば、Uber社など米国資本に加え、規制緩和で急成長したパソナなど国内の人材派遣業界が参入する可能性は十分にあります」実際に竹中氏は、2019年に開かれた政府の「未来投資会議」に出席。「ライドシェア産業は近年最も成長した産業。日本では既得権益者の猛烈な反対で、この成長機会を逃してきた」などと発言し、ライドシェアを強力に後押ししているのだ。竹中氏のほかにも、菅氏と近い河野太郎デジタル行財政改革担当相や、小泉進次郎元環境相も追随。さらに大阪維新の吉村文洋大阪府知事も、今や開催が危ぶまれている大阪万博での導入を目指していた。「管氏と維新は蜜月関係にあります。というのも、菅氏は長年、麻生太郎氏と犬猿の仲で、麻生氏はこうした規制緩和の流れに反対してきました。管・竹中だけでは自民党の中で勝ち抜けないので、規制緩和路線の補完部隊として起ち上げたのが維新なんです」■タクシーが庶民には手の届かない高級な乗り物に郵政民営化や派遣法の改正など、これまで行われた規制緩和を見る限り、とても国民生活が豊かになったとは思えない。実際に、“ライドシェア”が導入されたら、どうなるのか……。心配なのは、治安の悪化だ。Uber社が22年6月に発表した安全報告書によると、アメリカ国内でコロナ禍の利用控えがあった2020年において、レイプ被害が141件、性的暴行被害が998件と報告されている。利用者数全体から見れば、わずかな割合だとしても看過はできない。「価格競争が激化し、既存のタクシー会社が淘汰されるようなことになれば、タクシー自体が庶民には手の届かない高級な乗り物になってしまいます。そうなると、庶民はリスク覚悟でライドシェアを利用せねばならない、というおそろしい事態になりかねません」岸田首相には、自分の延命のためではなく、真に国民の安全を考えて検討してもらいたい。
2023年10月27日22日、河野太郎デジタル相が一般ドライバーが乗客を運ぶ「ライドシェア」の解禁に向けた議論に着手する方針を表明した。運転手の高齢化に加え、外国人観光客が戻ってきた今、日本では全国的にタクシー不足。安全性に疑問の声は上がっているものの、神奈川県をはじめ積極的な自治体も多く、解禁の流れが一気に加速しそうだ。遅まきながら日本でライドシェアの議論が進み出した一方、アメリカでは“その先”のタクシーがすでに解禁されている。それが、運転席に誰も乗っていない無人のロボットタクシー。8月10日、米カリフォルニア州当局がサンフランシスコ市内での24時間営業を認めたのだ。サンフランシスコで利用できる無人タクシーは、GM傘下のクルーズとグーグル傘下のウェイモ。どちらもすべてスマホで操作を行う。ライドシェアと違ってドライバーとのトラブルや飲酒運転の懸念はなく、安心して利用できるように思えるがーーー。米『Forbes』誌によると、「8月14日深夜にサウス・オブ・マーケット地区の事故現場に急行した救急隊員らは、車にはねられ大量に出血している人を発見した。サンフランシスコ消防局(SFFD)の記録によると、2台のクルーズのロボタクシーが救急車の走行を妨害し、医療処置が遅れたという。患者は近くの病院に運ばれてから20~30分後に死亡した」と緊急車両を妨害する事件が発生した模様。また、「(クルーズ社が)『当社の車両の1台が青信号で交差点に進入し、現場に向かう途中とみられる緊急車両に衝突された』とX(旧ツイッター)に投稿した。事故はテンダーロイン地区で現地時間午後10時過ぎに発生したという。同社は『車両には乗客1人が乗っており、現場で手当を受け救急車で搬送された。重傷ではないとみられる』としている」と緊急車両との接触事故があったことを『Bloomberg』が報じた。さらに、Xには無人タクシーが引き起こした渋滞を嘆く投稿が多数アップされている。これらの事態を受け、クルーズ社は運行台数を半減することに同意したとのこと。さらに問題は安全性だけではない。解禁翌日の地元紙『The San Francisco Standard』には無人タクシー内で性行為を楽しむカップルへのインタビュー記事まで出る始末。「どんな人が運転しているかわからないライドシェアは怖い」という声は多いが、無人タクシーだからと言って安心できるわけではなさそうだ。
2023年09月23日