テレビ番組『SMAP×SMAP』や『お願い!ランキング』などで数々のヒット企画を手がけてきた、放送作家の鈴木おさむさん。放送作家歴25年分の「ウケる企画」のつくり方を公開した『新企画 渾身の企画と発想の手の内すべて見せます』(幻冬舎)には、テレビの世界に限らず、どの業界でも役立つ仕事の仕方や考え方のヒントが詰まっています。企画が必要とされるのは、ビジネスシーンだけにとどまりません。友だちの結婚式を仕切るとき、飲み会を盛り上げなければいけないとき、好きな人とのデートのときなど、企画ひとつで、満足度はかなり変わってくるのですから。企画とは「種だと思っている」という鈴木さん。22におよぶ具体的な種とともに添えられている企画術は、種をつくり出す楽しさを知るきっかけとなるはず。普通の企画とヒット企画との差はなにか、3つのポイントをご紹介しましょう。■1:0.1%の可能性にリアリティをもたせる「0.1%の可能性」と聞けば、ほとんどあり得ない出来事として受け取られがちです。でも、最近の大地震や原発事故、大きな竜巻や川の氾濫による堤防の決壊事故などを見れば、なにがあってもおかしくはありません。そんな、我々の予想を超えた災害や事故が起きていることに着目した企画が『日本は今、あぶない!!』です。地盤や地形の研究者、災害の研究者、建築のプロなど、あらゆるジャンルのプロ10人ほどでチームを組み、日本のいろんな場所を訪れ、徹底的にリサーチし、あるひとつの町で、今後どんな災害や事故が起きる可能性があるのか、0.1%以上の可能性がある危険をシミュレーションするというもの。たとえば、富士山の大爆発を、都市伝説的に扱うか、池上彰さんが解説するのか? 当然、それぞれ受け手側のリアリティは変わってきますよね。たとえば福山雅治さんの結婚にショックを受けて会社を休むなどした「福山ロス」女性、周りにいませんでしたか?福山雅治と恋や結婚ができる可能性は、0.1%以下のはず。にも関わらず、その可能性を信じていたからこその衝撃だったのです。遠い出来事の話でも、身近な自分ごとに感じてもらえる企画なら、熱を生み、たくさんの人に興味をもってもらえるのです。■2:企画の成功はタイトルで9割決まる次は、『EYE PHONE ~脳にWi-Fiが埋め込まれた男』というドラマ企画。脳にWi-Fiが埋め込まれ、周りでスマホをしている人たちのLINEやメールなどがすべて見えるようになったら、幸せなのか、不幸なのか、というストーリー。お気づきと思いますが、「EYE PHONE」というネーミングは、「iPhone」と引っかけたもの。鈴木さんは「『Wi-Fi Man』でもいいけれど、それだと弱い。『EYE PHONE』がなければ、この企画はつくっていない」と語ります。森三中の大島美幸さんとの結婚生活を描いた著書『ブスの瞳に恋してる』は、シリーズ累計60万部の大ベストセラーですが、これもタイトルの勝利。夫婦ののろけ話だから、タイトルにはちょっとした破壊力が必要と感じた鈴木さんは、「ブス」というネガティブな言葉と、「瞳に恋してる」というポジティブ言葉をかけ合わせたのです。「ネガティブ×ネガティブ」では嫌な気持ちにしかならないし、「ポジティブ×ポジティブ」ではありふれた内容に。「ネガティブ×ポジティブ」で、結果としてポジティブに見えればインパクトを与えるタイトルになるのです。■3:近いものと遠いもの2つを掛け合わせる働いていれば、たくさんの名刺をもらいますよね。でも、名刺をもらった相手の名前と顔がどのくらい一致しますか?そう聞かれて、ドキッとした人も多いのでは?そんな発想から生まれたのが『ビジネスカードゲーム』。ある会社の部長の名刺入れから名刺を5枚抜き取り、そこに書かれた5人の名前を前にしたとき、部長が顔と名前を一致させられるか、というゲームです。結構ハードなゲームですよね。「あるある」と大勢が感じる経験のなかでもネガティブな「あるある」のほうが、より共感がえられやすいようです。ネガティブな「あるある」とは、名刺の相手を思い出せないこともそうですが、失恋とかピンチなどの状況のことです。そして、相手の名前や顔を思い出せない「あるある」には、もうひとつの「あるある」も隠れています。それは、思い出してもらえない名刺を渡した側の気持ちです。名前を覚えてもらえない悔しさ、それもまた誰もがもつ「あるある」ですよね。企画を考える上で大事なのは、仕事でもらった名刺を、クイズにするという発想そのもの。フランス料理店の最後にお茶漬けが出てくるなど、「近い」ものと「遠い」ものというあり得ない2つを見つけ、掛け合わせることで、新鮮な企画を生み出すことができるのです。*企画のヒントって、じつは身近にたくさん転がっているんですね。そのことに気づき、どう自分流に味つけをしていくか。柔軟な視点で身の回りを見渡してみることから、まずは始めてみましょう。(文/山本裕美) 【参考】※鈴木おさむ(2016)『新企画 渾身の企画と発想の手の内すべて見せます』幻冬舎
2016年05月25日