毎日疲れることばかり、何かと否定的、悲観的に考えてしまう日々において、少しでも前向きな考え、発想を持つことはできないものでしょうか。心身医学専門医で心療内科医の野崎京子先生にお話を伺いました。■人間は悪い出来事の方を多く記憶する習性がある物事を否定的にとらえる思考の傾向について、野崎先生はこう説明します。「『人間の感情記憶とは、自分にとって良い出来事より、悪い事象の方を多く記憶してしまうものだ』と複数の医師、学者、芸術家たちが言っています。人間は幼いころから、誰かに見下された、悪態をつかれた、いじめられたなどマイナスイメージが記憶に残りやすい習性があると言えます」思いあたります。「そのつらい思いが膨らんだり、マイナスの記憶に支配されたりすると、職場や家族、親しい人との人間関係にまで影を落とすことも多いでしょう。それを乗り越えて少しでも生きている充実感を高めるには、あらかじめ、『人は誰しもマイナス面を多く記憶してしまう習性がある』ことを知っておき、かつ、思考を前向きに持って行くように意識をすることから始めましょう」と、野崎先生は、その方法について次のように続けます。「医療現場で心理療法として実践されている思考法を一つ紹介しましょう。まずは、自分が幼いころ、親や身近な人に『してもらったこと』を思い出してみてください。誰しも、人に育てられたから今があります。たとえ親や誰かからひどい仕打ちを受けた記憶があるとしても、思い起こせば、与えられてきた衣食住教育を始め、何かしら『誰かにしてもらったこと』はあるはずです」(野崎先生)■「自分がして返したこと」を思い出す「してもらったことがどうも思い浮かばない」、「悪いことも連想してしまう」という場合はどう考えればいいでしょうか。野崎先生は、「『してもらった』人に対し、『自分がして返したこと』を思い出してください。例えば母親であれば、母の日にプレゼントをしたなど、相手が喜んでいたことを考えます。始めは、面倒だったりつらい作業だったりするかもしれませんが、3分も考えていたら、続けて考えることができるでしょう」(野崎先生)実践すると、「してもらったこと」より、「して返したこと」の方が圧倒的に少ないことに気付きました。野崎先生は、こう話します。「たいていはそうなんです。あらためて考えると、よくしてもらった人に対して、『自分がして返したこと』はあまりありません。これも人間の習性であること、また、自分の負の意識の思い込みに自ら気付いたとき、人への感謝の気持ちが生まれます。そのとき、自らの内にある憎しみやうらみを、少しずつプラス発想に変える機会を得たといえるでしょう」さらに、「職場の人間関係などでも同様に考えましょう」と野崎先生。「上司や同僚にしかられて傷ついた、家族や恋人、パートナーともめごとが絶えないなど、身近な人と感情的なトラブルを抱えているとき、その人に『してもらったこと』と、『して返したこと』を思い起こします。紙に書き出すと、よりわだかまりの解消につながりますが、通勤時間やバスタイムなど、ちょっとした時間に少し考えてみるだけでもかまいません。習慣化すると、何かマイナスの出来事があったとき、条件反射的にプラス思考ができるようになっていきます。何事にも否定的にとらえてしまうときは、自分を見失い、ささやかでも幸せを感じるような感性を持てないでいるでしょう。『してもらったこと』を自分の中で人生の輝く出来事としてクローズアップし、人の良い面、人から受けた恩に注目する練習を積みましょう。やがて、プラス思考につながるでしょう」つらいことがあれば、誰かにしてもらったこと、愛されたこと、それに対して自分がして返したことを思い起こす――。すぐに取り組みたい思考法です。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1,365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年08月11日梅雨時になると、頭が重い、ズッキーンと痛むことはありませんか。二日酔いではズキズキ、急に運動をすると酸欠かのようにガンガンと痛むこともあります。これらの症状はなぜ起きるのでしょうか。また、自分でケアする方法はあるのでしょうか。心身医学・ペインクリニック専門医で心療内科医の野崎京子先生に詳しいお話を伺いました。■血管の拡張や神経・筋の緊張で痛む頭痛のさまざまな症状について、野崎先生は、「多くの人が一時的に痛みを覚え、これが慢性に続く頭痛を『慢性頭痛』と言います。これには、原因別に大きく分けて3種類があります。一般的に、頻度が高い順にお伝えしましょう」と、次のように分類して説明します。1.緊張型頭痛――筋肉収縮性頭痛・こめかみ、後頭部など、全体的に頭が重い感覚がします・頭、首、肩にかけて、筋肉が緊張して血流が悪くなること、また、ストレスによる神経的な緊張が原因だと考えられます。・肩こり、腰痛、眼精疲労、めまいなどの症状を引き起こす、あるいはこれらが原因で頭痛になる場合があります。長時間のデスクワークなど、同じ姿勢を続けることも原因の一つです。・首や肩のこりの部分を温める、温泉に漬かる、マッサージをするなどして、血流を促すことが大事です。・一番多いのはこのタイプで、誰しも経験があるのではないでしょうか。2.片(へん)頭痛――血管性の頭痛・頭の片側や、どこかがズキンズキンと脈打つように痛む(拍動性頭痛)。吐き気、下痢などを伴うこともあります。・脳の血管が急激に拡張し、血管の周囲の神経を刺激するためと考えられます。・飲酒、睡眠不足、空腹時の血糖(血液中の糖分の濃度)の低下、睡眠不足、睡眠過剰、騒音などの刺激、ストレス、ホルモンの影響などによって起こります。・痛む部分を冷やし、血管を収縮させることで症状が緩和することがあります。また規則正しい食事、早寝早起きなど、生活習慣を整えることも大事です。・20歳~50歳の女性に多い症状です。3. 群発頭痛――片方の目の奥の激しい痛み・主に睡眠中に、片方の目の奥に、「キリでえぐられるような」、「金づちでなぐられるような」激しい痛みが走ります。1年から3年に数回、1カ月から3カ月にわたって毎日同じ時間帯に起こることから、群発頭痛と呼ばれます。自然に治ることもありますが、数年後に再発することがあります。・目の後ろの血管が拡張し、炎症を起こすことが痛みの原因と言われます。飛行機や高い山では起こりやすくなります。・痛むほうの目が充血し、涙が出る、鼻水が出る、まぶたの下垂などの症状があります。・飲酒、喫煙、気圧の変化などが原因になると考えられます。発症時は飲酒、喫煙は避けましょう。治まると、飲酒の再開は可能です。・窓を開けるなど換気をよくして、深呼吸をします。・20歳~30歳の男性に多い症状です。野崎先生は頭痛の対策について、アドバイスをします。「頭痛の原因はまだ未解明の部分がありますが、原因や症状を把握しておくと、自分の頭痛がどれにあたるかは見当がつきやすいでしょう。また、ストレス、プチうつ、不安や緊張感が強い人は、頭痛も悪化しやすい傾向にあります。2週間以上頻繁に起こる、市販薬を飲んでもどうもすっきりしないなど、少しおかしいな、しつこいな、と思った場合は、痛みを放っておかないで、早めにかかりつけ医に相談しましょう。さらに、経験したことがないようは激しい頭痛の場合は、脳血管障害などが考えられます。すぐに病院へ行ってください」それぞれに原因が分かると、対応もしやすくなります。これまでは、頭が痛い、重い、と思っても放置してきましたが、今後はできるだけ、事前に頭痛が起こらないようにケアしていこうと思います。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841品川緑/ユンブル)
2012年07月10日目が覚めているのに、体が何かに押さえつけられているようにまったく動かない……。そんな怖い思いをしたことはありませんか。いわゆる「金縛り」の状態ですが、なぜこんなことが起こるのでしょうか。また、対応策はあるのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック院長の野崎京子先生に詳しいお話を伺いました。■睡眠の障害の一つ金縛りの状態について、野崎先生はこう説明します。「金縛りは、睡眠障害の症状の一つで、『睡眠麻痺(まひ)』と言われることもあります。睡眠時に、全身の脱力で体は動かないけれど、意識は目覚めている状態です。とは言っても、脳がしっかりとは目覚めていないため、誰かに全身を押さえ込まれているような感覚を覚える場合があります。短時間ですが、息苦しさを伴うこともあります。その間、実際に呼吸が止まっていることもあるでしょう。それで、誰かに口を封じられているような夢を見ることもあるようです」幽霊のしわざなど、霊的な経験を疑う人もいます。実際にはどうなのでしょうか。「患者さんから、『海外旅行中の飛行機で金縛りにあった』、『スピリチュアルスポットと言われるところへ旅に出て、泊まったホテルで金縛りにあった……。場所柄もあって、霊では!?と怖くなってすぐに帰ったのですが』という体験談を聞いたことがあります。就寝中の出来事で、夢が鮮明な物語性を帯びているとなおさら、『何かにとりつかれたのでは!?』と思うこともあるかもしれませんが、それは違います。よく話を聞くと、『海外を転々としてかなり疲れて時差もあった』とか、『旅先の宿の布団が綿の重いタイプだった』、『疲労が蓄積している』、『いつもと睡眠の環境が違った』など、体は疲労していても脳が興奮して熟睡できない状況にあったことが分かりました。無意識のうちに、睡眠が損なわれていたわけです」と野崎先生は、明快に話します。■疲労蓄積に気付くきっかけとする原因はやはり、疲労でしょうか。「そうです。急に激しいスポーツ、ランニングや水泳などをして肉体疲労がある、スポーツ選手なので毎日激しいトレーニングがある、仕事が過酷で気が休まるときがない、精神的ストレスがたまっている、病気で入院をしている、時差ボケなど、心身ともに疲れているときに多いものです」と野崎先生。実際に金縛りにあったとき、対処する方法について、野崎先生は次のことを勧めます。「意識はあるが体は寝ている、という状態から脱するようにします。『早く目覚めよう』と自ら試みてください。そのために、『目を左右に動かそうとするといい』、『声を発しようとするといい』、とも言われています。目覚めたら、霊的な体験だと思わずに、『疲れているんだな。今日はゆっくり寝よう』と考えてください。金縛りの経験を、心身のケアをするきっかけと思うことが大切です」金縛りが癖になることはあるのでしょうか。「健康な場合は、そうあることではありません。もし1週間に2回以上起こるようなら、ほかの病気が隠れていることも考えられます。かかりつけの医師か、内科、心療内科を受診して相談してください」あの不可解な感覚が、自分の疲労から来る睡眠中の症状だということが分かって安心しました。それなら対応も考えられます。疲労を感じたら、金縛りにあう前に心身を休ませることを意識したいものです。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年07月06日子どものときから内向的で、社会人になった今も人見知りをしてしまう性格だ、という人はけっこういます。なんとか改善したいのですが、いい方法はあるのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話を伺いました。■名刺配りが苦手でプチうつになる新入社員も「『人見知り』とは、本来は乳幼児が知らない人を見て、嫌がったり怖がったりすることを指します。本能的に危険を避けようとしているわけですが、現在は大人についてもよく使い、コミュニケーションが苦手という場合にも言うようになりました。私もどちらかと言うと、人見知りな方です。同業者の集まりなど社交的な場所で、積極的に名刺を配ってにこやかに雑談をする、などということは苦手です」と、だからこそ人見知りの人の気持ちが分かる、と言う野崎先生は、その克服についてこう続けます。「積極的に名刺を配る人にあこがれて、仕事上、あんなふうに動きたいと思うことがあるかもしれません。新入社員のころは特に、それができないから仕事で差し支えるといって、五月病やプチうつになる人もいます。でも、そういう体験をしたのなら、むしろ、『早くに自分の弱点が分かってよかった』と考えるようにしましょう。すると、仕事でもプライベートでも、毎日が建設的に動き出すようになります」さらに深く自分の弱点を見極めるために、野崎先生はこうアドバイスします。「人見知りだから営業的にはダメだ~と思い込まないで、自分のいい部分、例えば、『おとなしいけれど人の話をじっくり聞くタイプだ』、『温厚で人とのトラブルが少ない』、『内気だけど自分のこだわりを生かして技術的な仕事に就きたい』などと発想を転換し、落ち込む時間を自分の個性を生かすための時間に使うようにしましょう。気持ちも楽になるでしょう」■いい格好をしようとして緊張する「『近々、会社でプレゼンをするので、緊張しない薬はないか』、と心療内科を訪れる人もいます」と言う野崎先生は、緊張することについて、次のように分析します。「多かれ少なかれ誰しも経験はあるでしょうが、緊張とは、相手に対する警戒心とか、自分をよく見せよう、いい格好をしようと背伸びする意識から起こります。よく緊張する、人見知りするという人は、大人になっても危険を回避したい、また、自分をよく見せたい、褒(ほ)められたいという気持ちが強い傾向にあります」では、「ありのままの自分で評価してもらえればいい」と思うと、緊張感や人が怖いと言った気持ちからは開放されるのでしょうか。「そうです。自分の利益、自分そのものを守る気持ちより、ほかの人が心地よくなることを考えて行動すると、人見知りは改善されていくでしょう」(野崎先生)具体的な改善方法として、「うつ病になると、あいさつもできなくなることがあります。逆もしかり、です。ですから、まずは自分からあいさつをする習慣を身に付けましょう。相手があいさつをしてこないから自分もしない、ではなく、自分から思い切ってあいさつをする。すると、相手はさわやかな気分になり、次からはあいさつをしあうようになります。コミュニケーションが成立すると、あいさつの楽しさが分かってきます。出世しなきゃ、上司に気に入られるように立ち回らなきゃ、と画策する前に、行うべきはあいさつです」と野崎先生は、「受け身ではない自ら行うあいさつ」を勧めます。最後に、こうも付け加えます。「社交辞令が得意に見える人でも、よく聞けば、自分が言いたいことを言っているだけ、売りたいものを売っているだけ、ということもあります。不器用でも、誠実に仕事をこなして粘り強く相手の要求に応えていこうとする姿勢であれば、必ず正当な評価を得るときがくるでしょう。自分の性格や個性を悲観したり、マイナスに思ったりすることは何もありません」何だか気が軽くなりました。あいさつひとつとっても、相手の出方をうかがってしまうことがあります。自分も相手もさわやかな気持ちになれるよう、小さなアクションを積み重ねることが人見知り克服への道だと言えそうです。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年07月02日「この憂うつな気分……、これってうつ病?」と思うことはありませんか。憂うつとうつ病はどう違うのでしょうか。ボーダーラインはあるのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話を伺いました。■憂うつが10日以上続くかどうか――憂うつとうつ病の違いを教えてください。野崎先生憂うつな気分というのは、誰しも経験があるものです。何か心配なことがあるとき、会社で人間関係がうまくいかないとき、自分のミスで誰かに迷惑をかけたときなど、当然、気分は落ち込みます。このごろ、うつ病の情報がはんらんしていることもあり、憂うつになるとすぐに「私はうつ病かも?」と心配される人もいますが、そうとは言えません。憂うつになる原因を自覚し、何とか自分で対処しようとする、事態を好転させるように努める、また、友人と飲みながら無駄話をする、趣味に興じる、睡眠をとるなどで時間とともに憂うつな気持ちは晴れて行き、普段通りの自分に戻れるのであればうつ病ではありません。ただし、憂うつ気分が2週間以上ずっと続き、また次のような症状があれば、うつ病を疑う必要があります。・憂うつな上にさびしい、悲しい、焦燥感が強い・不安やイライラが続く・関心があった趣味もする気が起こらない・友人や家族と話したくない・どんなことにも集中できない・自信がなくて不安感が強い・罪悪感が強い・食欲がない、または過食・眠れない、寝つきが悪い、すぐに目が覚める、または過眠・自殺願望があるこれらが思い当たる場合は、早めに精神科か心療内科を受診してください。かかりつけの内科でも相談に乗ってくれるでしょう。ただし、個人によって症状はいろいろですから、うつ病だと自己診断するのは早計です。医師に相談しましょう。――例えば、仕事で上司に注意を受けたとき、憂うつとうつ病では感じ方は違いますか。野崎先生うつ病の場合は落ち込んだ気分の継続期間が長く、業務についての善処が容易ではなく、気分転換をする気にはならないでしょう。憂うつな気分が長く続くと辛いので、自分を責めずに病気だと認識して病院に行くことが大事です。■憂うつ気分におぼれずに、行動に移す――憂うつな気分から早く脱却する方法はありますか。野崎先生自分にとって何かマイナスの出来事があったとき、「落ち込む」、「憂うつになる」、「自分に言い訳をする」ことにおぼれたり埋没してしまうのではなく、その出来事に具体的に対処する方法を考えるようにしましょう。業務上のことであれば、誰かに電話をする、メールで報告をする、謝罪に行くなどするべきことがあるはずです。それを書き出して整理し、素早く実行に移したほうが、憂うつ気分が晴れるのは早いでしょう。何もすることが見つからないときは、とにかく寝る、掃除をする、洋服の整理をする、あるいは憂うつの原因をノートに書くなど、生活上のするべきことをするのも一つの方法でしょう。何より憂うつをひきずらないためには、日ごろから自分なりのテンションを上げる方法を持って実践しておくことが大事です。趣味がある、なじみの立ち飲み屋やカフェがある、お互いに話を聞きあう友人がいる、など、複数の方法を持っておきましょう。――ありがとうございました。目の前のするべきことをする、日ごろからストレス解消法を見つけておく、相談する相手がいる。落ち込み気分に浸っているよりも、具体的な行動を起こした方が憂うつからは早く脱却できる、というアドバイスをいただきました。実践あるのみです。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年05月28日ゴールデンウィークにゆっくり休んだのに、会社に行くのが急にブルーに……。そんな気分的な落ち込みを「五月病」と呼びますが、これを乗り越えるにはどうすればいいのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話を伺いました。■連休中に、新しい環境に適応できないという思いが増幅医療現場での診断について、野崎先生はこう説明します。「五月病という医学用語はなくて、診断書に『五月病』と書かれることはありません。五月病とは、ゴールデンウィークが終わって『さあ、出社だ』というときに、気力がわかない、妙に不安だ、会社に行きたくないなど、一時的にうつ病のような症状になることを言います。重くなれば、『適応障害』と診断されるでしょう。新入生や新入社員に起きた場合をいいますが、ここ数年は春に新しい環境になった一般の社会人にも増えています」――なぜゴールデンウィーク明けにそのようになるのでしょうか。「春先から意気揚々と新生活に取り組もうとしていたのに、現実は『期待していた様相と違う』、『会社に幻滅しそう』と思ったところで長い休みがやってきます。休み中に、理想と現実のギャップについていけない、会社のシステムや人間関係に適応できないという思いが増幅していく、精神的な疲労が出ると考えられます」(野崎先生)■周囲のアドバイスで急成長できる人も――どのように乗り越えればいいのでしょうか。「気分がふさいでいても、出社して業務をこなせるようならあまり心配はないでしょう。5月に会社を辞めてしまう人もいますが、新入社員の場合、5月はまだ多くの会社では試用期間であり、配属も決まっていない状況だと思います。この時期に自分の期待どおりにことが運ばないのは当然で、自尊心が満たされないことで焦ったり、ましてや退職を考えたりするべきではないでしょう。釈然としない思いがあったり、気持ちが晴れなかったりするなら、連休中に気の置けない友人や学生時代の先輩に相談する、あるいは趣味に興じるなどして、気分転換をはかるようにしましょう。あらかじめ、『自分はまだ尊重されるはずがない』と謙虚な気持ちでいることも大事です。少なくとも夏ごろまでは自分の感情を見守るようにしてください」と、野崎先生は「5月に抱く感情で結論を急がない」ことを勧めます。続けて、周囲の人の対応についてもこうアドバイスをします。「周囲の人も、『この子はまだ、少し待つといろいろな状況が変わってくることに気付いていない』と認識し、うまく手を貸してあげてください。特に若い社員は、『自分は認められていない』という焦りやイライラを、『この会社にはなじめない』、『ついていけない』という意識にすり替えていることもあるでしょう。誰かからいい助言を得て、夏あたりには急成長する人も多く見てきました」と野崎先生。――五月病の症状は自然に治まるのでしょうか。病院に行ったほうがいいということはありますか。「多くの人は、2~3カ月で自然に乗り越えています。お盆休みのころにはすっかり忘れている人もいます。ですが、6月になってもまだ抑うつ気分が続く、10日間以上不眠が続いている、食欲がなくて体重が減ってきた、涙が止まらないなどの症状がある人は、うつ病の可能性もあります。早めに精神科か心療内科を受診してください」(野崎先生)気分転換や周囲の人への相談などでゴールデンウイークを有意義に過ごすこと。それが五月病を乗り越える、また予防することになると教えていただきました。ありがとうございました。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年05月05日仕事での決断はおろか、洋服や靴の買い物に数時間かかる、ランチはハンバーグかパスタか迷う、家を選ぶのがおっくうで引っ越しもできない、結婚相手などとても選べない……。優柔不断なる人生、この先どうなるのでしょうか。自信を持って決断する人間になる方法はあるのでしょうか。心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話を伺いました。■目の前のものが、「必要かどうか」を考える――優柔不断の原因、理由は何でしょう。野崎先生育った環境が大きいでしょう。自分で物事を決めなくていい環境だった、つまり、「親がすべてを決めて行動するタイプで、自分はおとなしい性格」という場合、幼少期から思春期にかけて親の意見に従うことが多いでしょう。受動的な性格が育成され、社会に出たときにその延長で、「優柔不断だ」と自覚することになります。――優柔不断な人の、性質の傾向はありますか。野崎先生「間違うのが嫌」、「失敗して怒られるのが嫌」、「人からいい評価を得ることを目的に行動する」、「後悔することが多い」などの特徴があるようです。だから、何かを決断するにあたってちゅうちょしてしまうのでしょう。――優柔不断を直す方法はありますか。野崎先生考え方と行動を変えれば可能でしょう。例えば、何を買うか迷ったら、まずは、「これは私にとって必要なものかどうか」を考えましょう。必要だと思えば、そう迷わずに買うでしょう。でも、「ただ欲しいだけ」という欲望で買ったものについては、後悔することもあるはずです。また、仕事でてきぱき判断する人の思考、行動の源は、「これが顧客にとって、会社にとって必要性があるかどうか」という点でしょう。■日ごろから直観力を磨く――必要性を瞬時に判断するには、どうすればいいでしょうか。野崎先生常日ごろから、「こういうときにはこう判断する」と考えておく、選択肢を準備しておく、仕事のことなら、判断するための要素を集めておく、知識、情報を増やしておくようにしましょう。例えば、引っ越しなら不動産屋、転職なら、その会社に対して知識を積み重ねておくと、自信を持って決断することができるようになります。日ごろからウインドウショッピングをして、「あ、これは自分に似合うかな」と考えていると、瞬時に判断するための直感が働くようになります。――情報がたくさんあり過ぎて迷う場合はどうしましょうか?野崎先生まずは、情報(選択肢)を明確にしましょう。例えば、「ノートに書き出す」という作業をすると、心の整理がしやすくなります。最初は思いつきでいいのでとにかく書いてみて、不要なものを削除しつつ、選択肢をしぼっていきましょう。――就職、転職、結婚、引っ越しなど大きな決断に迫られるとき、どう選べばいいでしょうか。野崎先生これも、ノートに書き出して、今後どうしたいかといったことを具体化すると、効率的に考えることができます。また、誰かに遠慮して行動に移せないなら、その遠慮は本当に必要なのかを考え、勇気を持ちましょう。さらに、仕事において言うと、完ぺきに100点をねらって実行しようとするとついに何もできなかった、ということになりかねません。70~80点を目指し、多くの要素と折り合いをつけようと考えると決断しやすいこともあるでしょう。――ありがとうございました。物事を決めるにあたり、「必要かどうか」と考え、日ごろから直観力を磨き、選択肢をしぼる。そこに勇気を出して行動に移す。これを機に、買い物などから一つずつ行動に移してみようと思います。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年03月12日便秘や下痢のときになってしまう痔(じ)……。事前に防ぎたいけれど、なかなか人には相談しにくいものです。そこで、内科医で大阪府内科医会副会長・泉岡医院院長の泉岡利於(いずおか・としお)先生に、痔(じ)の原因と予防法についてお尋ねしました。■便秘や下痢は肛門に大きな負担がかかる――便秘や下痢のときに痔(じ)になりやすいのは、どうしてでしょうか。泉岡先生痔(じ)は、一言で言うと血流障害、血管のトラブルです。便秘や下痢になると肛門の血流、血管に大きな負担がかかり、痔(じ)になる確率も高くなります。例えば、便秘などで便が硬くなると、排便のときに肛門に圧力がかかり、出口が切れて「きれ痔(じ)(裂肛)」になります。下痢の場合は粘膜に便がたまっている状態なので、普段より肛門が刺激されて細菌感染を起こしやすくなります。また、肛門付近にある静脈叢(じょうみゃくそう)と呼ばれる毛細血管が集まった部分がうっ血してはれ上がり、「いぼ痔(痔核)」になることもあります。■アルコールや香辛料は痔(じ)の大敵――痔(じ)の予防法を教えてください。泉岡先生痔(じ)の症状が出るかどうかは、普段の生活習慣が大きくかかわります。薬や手術で治ったとしても、生活習慣を見直さなければ同じ症状を繰り返してしまいます。薬を使うことも大切ですが、何より「生活習慣を改善すること」が基本となります。また、アルコールや辛い食べ物をとりすぎると下痢や腸の炎症悪化につながることがあります。痔(じ)が気になる人は、過度の飲酒や香辛料の強い食べ物を控えるようにしましょう。ほかに、立ちっぱなし、座りっぱなしなど長時間同じ姿勢でいると肛門に圧力がかかり、血行不良を招くことから痔(じ)になりやすいと言えます。同じ姿勢を避け、血流をよくするために軽い運動やストレッチなどを心がけるようにしましょう。予防の方法を整理すると、次の6つです。痔(じ)予防のための6か条1.便秘や下痢にならないようにする2.適度な運動をする3.大量の飲酒は控える4.辛いものを頻繁にとらない5.立ちっぱなし、座りっぱなしなどの同じ姿勢を続けない6.規則正しい生活をする■痔(じ)と大腸がんでは、血の色が違う――痔(じ)と間違えやすい病気はありますか。泉岡先生痔(じ)というと、「痛い」、「血が出る」といったイメージを浮かべる方も多いのですが、実は出血もなく、痛みもない痔(じ)というものもあります。「ご本人に痛みなどの自覚症状がなく、排便時に突然、大量の血が出た。何か重大な病気かと思いあわてて来院されたが、検査の結果、体の内側にできるいぼ痔(内痔核)だった」というケースもありました。ただ、出血、腫れ、痛みなど、痔(じ)と思うような症状のなかには、大腸のトラブルが原因となって起こっている場合もあります。例えば、肛門からの出血は、「いぼ痔(じ)」や「きれ痔(じ)」のときに多い症状ですが、大腸ポリープや大腸がんの可能性もあります。それらの病気でも肛門からの出血や血便が見られることから、痔(じ)と間違いやすい疾患です。見分ける目安として、血の色があります。痔(じ)は肛門近くで出血するために採血をしたときのような鮮血になります。大腸がんなどのケースは内臓での出血のために暗い赤色になります。――ありがとうございました。痔(じ)を肛門の問題と考えるのではなく、自分の生活の根本的な生活の問題としてとらえることが、完治への近道と言えそうです。監修:泉岡利於氏。医学博士。内科医、大阪府内科医会副会長。医療法人宏久会泉岡医院院長。泉岡医院:大阪市都島区東野田町5-5-8JR/京阪電鉄京橋駅中央出口から徒歩7分TEL:06-6922-0890岩田なつき/ユンブル)【関連リンク】【コラム】ドキドキ、汗、便秘、頭痛……ストレスと疾患の境目は?【コラム】漢方医が教える。便秘プラス「ほかの何か」を治す方法【コラム】からし、ワサビ、ショウガ、ネギ。薬味には「腹やせ」効果が!
2011年12月31日満員の通勤電車、デスクワーク中、本屋で立ち読みしているとき、デートで食事をした後など、なんでここで、というときにおならが「ぷぅ」……ということはありませんか。最近、おならを気にして心療内科を訪れる若い女子が多いともいいます。そこで、おならの原因とは、おならのにおいのモトなど心療内科の専門医で野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話をうかがいました。■おならの7割は飲食といっしょに飲み込む空気――「おなら」がたまる原因を教えてください。野崎先生食べたものを消化する過程では、ガスが発生します。そのガスが腸にたまると、体に吸収する必要がない成分のガスは外へ排出され、おならになります。ガスが腸にたまる理由の一つは、「飲食といっしょに口から飲み込んだ空気が7割」、「食べ物や飲み物が分解したガスが3割」と言われています。このうち、分かりやすい原因が、『炭酸飲料』です。ガスを含んだドリンクなので、もろにガスを体に入れることになるでしょう。げっぷも出やすくなりますね。あとは、暴飲暴食も原因になります。食べ物とともに、大量の空気を体内へ運び込むからです。また、気になるのは、腸の働きが不調でガスが発生しやすくなることです。一つは便秘です。おならは排便とともに体外へ出されますが、便秘だとそれがかなわないわけですから、ガスはたまりやすくなりますね。もう一つ、睡眠不足やストレスが原因ということがあります。腸の働きは自律神経の副交感神経によって左右されるので、疲労や緊張、不安、ストレスがあると腸のぜん動が弱まり、腸内にガスがたまりやすくなります。■動物性タンパク質や揚げ物がにおいのモトに――おならのにおいはどこから来るのですか。野崎先生腸内で発生するガスの質によって、においが変わります。炭水化物や脂肪を分解するときは発酵するのですが、タンパク質を分解するときには、腐敗させるとイメージしてください。このときに発生するガスの主成分はスカトール、アンモニア、インドール、硫化水素などで、においのもとになります。――つまり、タンパク質である肉や魚を食べると、腸内で腐敗ガスが出て、おならになると臭いが強くなるということでしょうか。野崎先生そうです。動物性のタンパク質や、油っこいもの、またニンニクやタマネギなど硫黄分が多い食べ物を多くとるとそれらのガスが発生するので、においが強くなります。野菜など繊維質や炭水化物を食べた場合、消化するために町内ガスの量は増えますが、刺激臭はありません。肉食動物より草食動物のほうが便がにおわないのはそういう理由です。■明日はデート。ガスを抑える方法は?――明日はデートだ、合コンだ、というとき、ガスを抑えるためにできることはありますか。野崎先生寛容な彼女、彼を見つけましょう(笑)という冗談はさておき、これまでお話しした原因をなるべく遠ざけることでしょう。1.炭酸飲料をとらない。2.肉、魚、揚げもの、ニンニクなどを食べない。3.早食いやガツガツ食いをしない。30回かんでから飲み込む。4.便秘をしないようにする。5.日ごろからストレスをためないで腸を健康に保つ。3の「早食い」や「ガツガツ食い」は、空気もたくさん飲み込むことになるので、おならに直結します。昔からよく言われる「30回以上よくかんで食べなさい」という教えは、唾液(だえき)腺を刺激して消化がよくなること、食べ物の間にある空気を排出するという意味があります。これだけでもずいぶんと不要なおならを避けることができるでしょう。――がまんしたらどうなりますか。野崎先生ガスを気にして来院される患者さんは、過去に、「誰かにクサイと言われた」、「おならを否定する家族がいる」など心因性の原因が多いのですが、神経質にがまんすることで胃腸を壊しています。極度の便秘と下痢を繰り返す人もいます。体に吸収すべきではないガスをがまんすると、体内に悪いガスがたまって腸の働きを妨げるので、頻繁にがまんするのは避けてください。先にお話しした方法のほか、朝、ゆっくりトイレに行く時間をつくるなど、上手にトイレに行くことを心がけましょう。そして、デリケートなことながら、体の自然反応の一つです。エチケットやマナー違反ではない限り、お互いさま、という考え方が大事でしょう。――はい、よく分かりました。ありがとうございました。野崎先生のアドバイスで明日のデートや合コンは乗り切るとして、それにしても、「消化のよい食べ物をゆっくりかんで食べる。朝は早めに起きてトイレへ」ということを心がけると体全体が快適になりそうなお話でした。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841藤井空/ユンブル)【関連リンク】【コラム】肥満は腸内細菌によって決まる!?【コラム】管理栄養士が教える。飲みすぎはデブのもと!【コラム】今人気のしょうが紅茶。1日1杯では効果がないの?
2011年12月11日食べても食べても太らない、やせの大食い、……そんな体質の人がいます。なぜそのような体形でいられるのでしょうか。また、大食いと過食症はどう違うのでしょうか。心療内科の専門医で野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話をうかがいました。■やせの大食いになることはできるのか?やせの大食いの人の体質について、野崎先生はこう説明します。「ヒトの体質は千差万別でさまざまな要素がありますが、基礎代謝量が違う、胃が大きい、胃の伸び縮み具合が大きい、胃下垂である、食べたものが胃から腸にストンと移りやすくて栄養吸収がされにくい、体外へ排出されるまでの時間が短い、血糖値が上がりにくい、それに、満腹感を覚えていないなどの特性が考えられます」――満腹感を覚えないとはどういうことでしょうか。「食事をするとだんだんおなかが大きくなって、『これ以上は食べられない』という限界を脳が感じとるのですが、その感覚が薄いということです。脳が『満腹だ、もういい』という指令を出さないので、どんどん食べることができるわけです。その間、胃は膨張しながら食べ物を受け入れていると考えられますが、この場合は、精神不安など何らかの病気だという可能性もあります」――やせの大食いに年齢は関係しますか?「大きく関係します。やせの大食いは若い人に見られる特性です。栄養吸収がよい、余分なものを排出する力が高い、代謝能力が高いので脂肪が筋肉に変わりやすいなど、まさに若さの特権ですね。家族や身内に、おなかがぽってり出ている中年以上の人がいらしたら、昔の体形や体重について尋ねてみてください。きっと、『昔はやせていた。何を食べても太らなかったのに』と言う人が多いと思います。人間はおおよそ、年齢とともに代謝の量が落ちて行き、徐々に脂肪がつきはじめます。それは自然なことなんです」(野崎先生)――努力をしたら、やせの大食いのような体質に変われるのでしょうか。「ほとんど無理です。まだ若いし可能だろうと思い、水を飲んで胃を大きくしようとする人がいますが、胃は中身がなくなるとまた元の形に縮みます。仮に胃を大きくしたとしても、やせの大食いにならずに大食漢になって、代謝不良で肥満になるか、栄養吸収の面でバランスを崩して病気になるかのどちらか、あるいは両方でしょう」(野崎先生)■おう吐や精神的不安を伴う場合は過食症また、野崎先生は、過食症と大食いの違いについて、次のように説明します。「過食症は、神経性大食症という病気です。この場合、食べ過ぎたあとに自分で嘔吐(おうと)する、下剤を飲んで出すなど、食べ過ぎたことを打ち消す行動を伴います。同時に、ひどく後悔するなどの精神的不安もあります。体重は正常範囲です。基本はやせたい願望の反動にあたる行動で、拒食症も合併して拒食と過食を繰り返す摂食障害の場合もあります。また、むちゃ食い障害という、打ち消しの行為をとらない病気もあります。過食症同様に強い自己嫌悪を感じます。大食いの場合は、打ち消す行動や、不安を伴ったり悔やむことなどはありません。食べることに充実感を覚えながら、太っていくのが普通です」――つまり、食べ過ぎたことを打ち消す行動をとる、自己嫌悪に陥るときは過食症ということですね。どう対策をすればいいのでしょうか。「『自分は自分に甘い大食いだ』などとひとりで悩まずに、早いうちに精神科か心療内科の医師に相談してください。過食症では?と自覚することなど、適切な治療が必要です」(野崎先生)――過食症になると、体にはどう影響するのでしょうか。「拒食のときはダイエットに成功している気分になって精神的には元気な様子になりますが、反動で過食になると、うつの症状が出ることが多いんです。食べ方を人に見せたくない、食後に吐く行為を見られたくないなどで家族とも一緒に食事をしないようになり、人付き合いや仕事でも弊害が出てきます。この病気が重くなると、歩けないほど弱ってくる、生死の境をさまようこともあります。軽く考えないこと、また、隠したり自己解決したりしないことが大事です」(野崎先生)――健康的なやせの大食いとはあり得ないのでしょうか。「ダイエットをしてがんばっている人たちは大勢いますが、中年以降になっても大食漢なのにやせているというのは自然ではありません。何らかの病気の可能性があるかもしれません」(野崎先生)やはり、適度な量の食事を、味わいながら食べるのが一番の健康のモトなのだといまさらながら確認しました。監修:野崎京子氏心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841藤井空/ユンブル)【関連リンク】【コラム】ロイヤルホストのパンケーキ食べ放題大食い記録に挑戦!【コラム】壮絶!高さ30cmのハンバーガーを食らう【コラム】独身男のやめられぬ食習慣!コンビーフのおいしい食べ方大研究!
2011年12月01日仕事でミスをしてしまい、顧客と会社に迷惑をかけた、どう考えても自分のミスだ……。納得できない不意の人事異動があった……。仕事に対して、また自分に対して自信をなくしたり落ち込みが激しかったりするとき、どのように考えるべきでしょうか。心療内科医で野崎クリニック院長の野崎京子先生にお話をうかがいました。■誰かにかわいがってもらった体験を思い出そう「まず、仕事のミスで落ち込むというのは誰しもあることで、自然なことです」という野崎先生は、「失敗しない人などこの世にはいません。もし『自分はミスをしない』と思っている人がいるとすれば、自信過剰なだけでしょう。ミスをした場合は、『落ち込みかた』が問題です。一番いいのは、すぐに気持ちを切り替えて、ミスの原因を追及して対処する。そのミスを機会に仕事の質を向上させる、ということです」と話し始めます。続けて、「つまり、『失敗は成功のモト』ととらえて新たな気持ちで仕事に取り組めるかどうかです。でも、『分かってはいるけれど、そうすぐには切り替えができないからしんどい』ということもあるでしょう」と言います。確かに、気持ちを切り替えるまでの期間や考え方は個人によって千差万別で、その人の性格が反映されそうです。短期間で前向きな考えに転換するには、どうすればいいのでしょうか。野崎先生は、こう話します。「誰しもかつては、家族や学校、友人らとの間で、ミスをしたりそれをかばいあったりして生きてきたはずです。『子どものころ、自分は誰かにかわいがってもらった』ということを思い出してください。それは、大切な子であったことの証しです。そのことに思いをはせてください」■思い詰める前に、体を動かそうまた、ミスが気になってそればかりを考えてしまう状況を打破するには、「気の合う友人と話をする、ジョギングなどの好きなスポーツをする、映画を見る、読書をする、好きな音楽を聞く、美術館に出掛けるなど、仕事以外の行動を起こしてください。落ち込みの原因に向かって考え込むよりも、体を動かしたほうが気持ちを切り替えるまでの時間が早くなります。体を動かすと、自分のミスの本質的な原因や、実は何も見えていなかったことにハタと気づくことがあります。そうなればもう回復していると言えるでしょう」と野崎先生。体を動かすことで、心身の代謝をアップさせようというわけです。■プライベートを充実させる一方で、他人のミスの責任を押し付けられたなど、不本意な理由でつらい立場に置かれた場合、心のコントロールが難しいことがあります。野崎先生は、こう話します。「ある役所に勤務していた男性の例ですが、本人にとっては不本意な人事異動をきっかけに、不眠、食欲不振、体重の急減などの症状が出て、軽いうつになってしまいました。ルックスがよく、これまでは順風満帆で出世コースに乗る予定だったのが、会社の都合で、一瞬にして、『できるビジネスマンでいたい』という志をへし折られてしまったのです。こういう場合は、すぐに会社を辞めるとは考えないで休暇制度などを利用しつつ、これを機に時間ができるわけですから、まずはプライベートな時間を充実させることを強くおすすめします」■ブログやノートに何かを書く充実したプライベートを過ごすために、具体的にはどうすればいいのでしょうか。「彼の場合は自転車が好きということだったので、同じ趣味を持つ仲間をつくって交流することを提案しました。仕事以外の時間が充足すると、人生がまた違う風景に見えてくるようになります。人との交流が苦手だという女性には、読書が大好きということだったので、感想をブログに書くことをすすめました。それも、ただ書き散らすだけではなく、見知らぬ人に読んでもらうことを意識して推こうを重ねた文章を載せるようにしましょう、と。やがてそのブログに読者がついて、交流する仲間も増えて、『読書がさらに楽しくなった』と話していました。ブログではなくても、ノートに何かを書くという作業は心を落ち着かせるのにとても有効です」(野崎先生)また、「特に趣味もない」という人について、野崎先生はこう話します。「無趣味だというのは思い込みで、みな何かしらに興味があるはずです。仕事が忙しくてそれを封印していた、あるいは、落ち込んでいてそれに気づかないだけかもしれません。友人と話をするうちに趣味に気づくこともあるでしょう」最後に野崎先生は、こうアドバイスします。「理不尽なことに遭遇したときは、その人の真価が問われるときでもあります。人生には何度かそういう局面があると思います。そんなときに自分を救ってくれるのは、自分を大切にする心、自尊心です。その心を育てるためには、怒られたからといってすぐにあきらめる、仕事を辞めてしまうのではなく、まずは耐える、もう一度やってみる。悲しい、悔しいという思いを向上心に変えようという気持ちを持ってください。日ごろから仕事や趣味について勉強をして行動を起こしていると、自分の人生に自信と責任が持てるようになります」自信を失ったり気分が落ち込んだりしたときは、かつて誰かにかわいがってもらったことを思い出す。また、思い悩むよりも、体を動かして趣味の時間をつくり、書きものを試みるのもいい――。常日ごろから、「何かあったときの自分」のためにこれらの方法で精神力を養っておくことが、早期に自信を回復することにつながりそうです。監修:野崎京子氏。北野病院(大阪市)、国立京都病院、大阪赤十字病院、住友病院(大阪市)をへて、現在、大阪府豊中市の心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック(TEL:06-6872-1841院長。(阪河朝美/ユンブル)【関連リンク】【コラム】意識していない男性からの告白で付き合う女性は半数以上【コラム】今の仕事に自信がない僕が「東京しごとセンター」に行った【コラム】心療内科医に聞く。否定されたときの心の持ちよう
2011年08月28日上司、取引先、同僚などから「おまえはダメだ」などと自分を否定されたように感じたとき、どう考え、どう立ち直り、どう心の健康をキープすればいいものでしょうか。「ダメだ」ということばは、さまざまなとらえ方ができそうです。そこで、心療内科医で野崎クリニック(大阪府豊中市)院長の野崎京子先生に、お話をうかがいました。■冷静に、否定された理由の分析をするそもそも心の強さや弱さは人によって違うものでは?野崎先生は、こう説明します。「今の時代は、たとえば職場でトラブルがあった場合、誰かと話し合って解決するのではなく、帰宅後にインターネットの世界に依存して傷をなめあう仲間をつくることもできます。そういうことを続けていると、心の耐性は弱くなります」野崎先生は、まずは「そういった解決法ではない方法を考えましょう」と言い、否定されたときの対処法について、次のように話します。「否定された内容について、その理由を考えてみます。『なぜこの人はこう言うのか』と。正当な理由なのか、不当な理由なのかを判断するようにしてください。仕事の内容を否定しているのか、考え方なのか、性格的なことなのかなど、何に対して否定をされたのかを、冷静に考えてみましょう。否定する裏には、『相手にも理由がある』ととらえてみます。それを探るためにも、すぐに心を閉ざしてしまうのではなく、まずは相手の話を聞いてみるようにしましょう」■コミュニティ力と自分の力を磨こう他人から否定的なことばを言われたときは、冷静な判断ができず、それが正論なのかを認識するのは難しいものではないでしょうか。どう判断すればよいのでしょうか。「一人で判断するとどうしても自分の思考力の範囲で物事をとらえがちです。何が正しいのか分からなくなってしまう。思い込みで判断しかねないわけです。そうならないために、必要なことは二つ、『日ごろから知的なコミュニティと付き合う』、『何らかの自分の力を磨いて自信を持つ』ということです」(野崎先生)ここで、それら二つについて、具体的にレクチャーしていただきましょう。・知的なコミュニティと付き合う「同じ考え方を持つ人、共感しあえる人、共通の趣味など面白いコミュニティを築くことは、生きていくうえで大切なことです。ネット上での集まりではなく、顔を合わせて情報や意見を交換するリアルな付き合いをしましょう。合コンもいいですが、映画を見る、テニスをする、音楽を演奏する、など共通の趣味を持つ人たちと、テーマを持った集まりをもってみてください。実際に顔を合わせてお互いに良い刺激を与える相手との関係をつくることで、気付けば知的なつながりができます。他人から否定されて不当だと感じたときに、同じ価値観の相手に相談をすることで、情報交換をするだけでなく、冷静なアドバイスを受け取ることもできるでしょう。また、第三者の意見を聞くことで、活路を広げることができるはずです」(野崎先生)・自分の力を磨いて自信を持つ「多くの情報源に触れて、職場と家庭だけではない別の世界を広げることをおすすめします。たとえば本を買う場合はインターネットの情報だけに偏らず、書店に行って実際に手にとって自分のフィーリングに合うものを探すという行動を積み重ねることです。そうすることで知力が養われ、否定された内容が正当なのかどうかを見極める力をつけることができます。正当な理由であると思えば反省し、誠意を持って対応することで、一歩成長することができるでしょう」(野崎先生)■八つ当たりは個人攻撃ではないと心得るでは、取引先の相手に、自分の意見をうまく伝えることができない人から否定されたときは、どのようにとらえればよいのでしょうか。野崎先生は、「会社や上司に適切に報告をしましょう。こういった場合は、会社というシステムをうまく利用することです。納得ができないことに対して主張することは、当然の権利です」と言います。では、通勤途中に「肩があたった」などと因縁をつけられた、ショッピング中に店員から邪けんに扱われたなど、見ず知らずの相手から八つ当たりを受けたときは、どう考えればよいのでしょうか。「存在そのものを否定された気持ちになりがちですが、八つ当たりをする人というのは、相手は誰でもよいわけです。『自分が個人攻撃を受けたのではない』と自分自身に言い聞かせましょう」と野崎先生。最後に、野崎先生からのアドバイスを伝えます。「何よりも『お前はだめだ』と言われたときに、すべてを否定されたと思わないことです。完ぺきな人は世の中にはいません。誰しもコンプレックスや自信の無さを胸に抱いて生きています。自分自身にひそかに自尊心と自信を持てるよう努力していくことが、他人から否定されて落ち込む辛さを救ってくれると思います」誰かから否定されるような言葉を投げられたとき、ただ落ち込むだけではなく、相手の発言の意味を考えてみる――。野崎先生の、「自分の存在のすべてを否定されたと思わないこと」という言葉には勇気をいただきました。少しでも、人の言動の理由や動機を判断する力、見極める力を身につけるように努めたいと思います。監修:野崎京子氏。北野病院、国立京都病院、大阪赤十字病院、住友病院をへて、現在、大阪府豊中市の心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック(院長。(岩田なつき/ユンブル)【関連リンク】【コラム】男性必見!女性に相談を受けたときの、100点の回答方法とは?【コラム】少しでも安く買いたい!お店で値切るコツはこれだ!【コラム】女子500人にアンケート!メールの返信から読む女子の心理
2011年07月14日「仕事がうまくいかない」、「上司や部下との人間関係」、「彼氏や彼女との摩擦」、さらには「不況や災害による社会不安」と、20代、30代を取り巻く環境にはストレスが付きまといます。「キレた」、「ムカついた!」、「イラっときた」、「不機嫌がおさまらない……」。感情のマイナス面が表へ出てしまいそうなとき、少しでも怒りをコントロールする方法を知っておくことは、いまや生きる知恵でもあります。ここ数年、本や雑誌、テレビ番組からビジネスの講演会まで、「怒り」をテーマにした内容が好評だと言います。これは、怒りについて四苦八苦している人が多いからだと考えられます。そこで、心療内科医で野崎クリニック(大阪府豊中市)院長の野崎京子先生に「怒りのメカニズム」と「怒りをコントロールする方法」についてお話をうかがいました。■「怒りのホルモン」といわれるノルアドレナリンが働く野崎先生は、「怒りという感情」についてこう説明します。「怒りを覚える要因は、ホルモンによるものと、加齢現象によるものの二つが考えられます。ホルモンの場合、怒りを感じると、脳がノルアドレナリンというホルモンの分泌を命じます。ノルアドレナリンは、通称『怒りのホルモン』といわれる神経伝達物質です。自律神経の一つである交感神経に働いて、覚醒、意識、意欲、不安を引き起こします。敵から身を守るべき場面やストレスを受けることがあると、このホルモンが出て血管が収縮、心拍数が上がって攻撃的な状態をつくるわけです」ムカッと来た瞬間には、無意識のうちに体内でこういうホルモン分泌が起こっているのだといいます。野崎先生は、「そのことを知っておき、『あ、怒りのホルモンが出ているんだな』と自覚するだけでも少しはコントロールが効くようになります」と言います。さらに、野崎先生はこう続けます。「もうひとつ重要な神経伝達物質に、セロトニンがあります。精神を安定させるホルモンですが、セロトニンの分泌には、日光や呼吸、歩行などの運動が影響します。引きこもって太陽にあたらない、昼夜逆転の生活、運動をしないなどだと、キレやすく、また、うつにもなりやすいのです」イライラするときは、日の光のもとで深呼吸や散歩をすれば、セロトニンが分泌されて怒りをコントロールしやすくなるというわけです。■怒りやすい=ストレス耐性が低いと自覚する怒りやすくなるときについて、野崎先生は次のように説明します。「皆さんも覚えがあるかと思いますが、体調が悪いときや、おなかがすいているとき、眠いときなどは自律神経がバランスをくずしやすいので怒りやすくなります。『今日はどうもイライラするな』と思ったら、まずは自分の体調がどうなのかを考えましょう。『朝食を抜いておなかが減っている』とか、『風邪気味だな』、『睡眠不足だ』と認識すれば、怒りの感情を理性にスイッチさせることができて、コントロールしやすくなります」では、「元々、怒りっぽい性格」の人の場合は、どう対処すればいいのでしょうか。「怒りやすい性格の場合、うつの場合も同様ですが、『自分はストレスに対する耐性が低い』のだと自覚することです。コントロールとは、認識・自覚からはじまります。すると、『自分の怒りは正当なのか、感情過多なのか』と考えることができます。また、次に『相手はどう思っているのか?』と想像してみることです。相手の立場に思いをいたらせることができれば、コントロールができていると考えてください。そして、繰り返しこの段階を意識して、思考の練習を行います。ムカッと来た瞬間にそこまで想像できるようになると、正当な理由なく怒る気持ちは薄れていくでしょう」と野崎先生。■怒りそうな会合には大切な人を同行する瞬間湯沸かし器のようにカッとなって、瞬時にはそう思えない場合はどうすればいいのでしょうか。「怒りを覚える対象に、『一拍置く』という対応をするようにします。日ごろからそう意識をしておくことです。すぐに相手に怒りを投げかけないために、『怒りそうならその場を去る。何かを判断するには、ひと晩以上置く』というルールを徹底するようにしてください。あるいは、いったん睡眠をとると、翌日には体調もよくなって考えが変わっていることがよくあるでしょう。精神性にも回復する力があることを信じてください。また、『上司やクライアントに腹が立っている。トラブルになりそう』などという予感がある場合、その勘は当たります。仕事の成果が得られないということにもなりかねません。そういうときに、打ち合わせや商談など対面しなければならない場合は、自分ひとりでは出向かずに、第三者を連れて行きましょう。できるだけ仲が良い人、信頼できる人がいいですね。人間は、大切な人がそばにいると感情のコントロールが可能になります。自律神経のバランスがよくなるのでしょう。私もかつて、重要な会合で怒りをぶちまけてしまいそうな予感があったときに、娘と息子を連れて出席しました。娘たちにもめごとを見せたくないという理性が働いて、難なきを得たことがあります」■怒りが高じて依存症に陥らないようまた、怒りが高じてコントロールができなくなった場合について、野崎先生はこうアドバイスをします。「怒りにまかせて、お金をむやみに使う、ギャンブルにはまりすぎる、お酒を飲んで悪態をつく。これらには気をつけないとなりません。こうなると、自分の行為そのものが脳に刺激を与えてさらにノルアドレナリンを分泌させ、怒りが怒りを呼び、非常に攻撃的な状態に陥る、その結果、依存症になるということがあります。こういった場合は、日ごろから自分の意見として言うべきことをこまめに言うことが大切です。ストレスのはけ口をまとめて、買い物、ギャンブル、お酒に向かわせると、いずれは人間関係を壊し、体調面にも悪影響を及ぼします」野崎先生は、最後にこう証言します。「依存症になってから心療内科を訪れる人は多いけれど、イライラがひどいからといって、カウンセリングを受けたり、心療内科を訪れたりする人はあまりいません。一人で悩んでいるよりも、早めに医師に相談したほうが解決の道は近いですよ」。怒りによって人間関係を壊す、仕事に破たんを来す前に、これらのアドバイスに耳を傾け、少しでもコントロールすることを心がけたいものです。監修:野崎京子氏。北野病院、国立京都病院、大阪赤十字病院、住友病院をへて、現在、大阪府豊中市の心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック(院長。(阪河朝美/ユンブル)【関連リンク】【コラム】怒りを収める7つの法則【コラム】タイピングが激しくうるさい! ……直す方法ってあるの?【コラム】ピラティス式。プチパニックを癒やすための5つの方法
2011年05月06日精神的にも肉体的にもストレスが強くかかると、睡眠を妨げられることがあります。夜中に何度も目が覚める、眠りにつくのに数時間かかる、早朝に目が覚めてしまう、悪夢を見る……もしかして、「不眠症」では、と心配してはまた眠れなくなるということもしばしばです。そこで、心療内科医で野崎クリニック(大阪府豊中市)院長の野崎京子先生に、不眠症とは何か、またその対策について、お話をうかがいました。■不眠が1カ月以上続くと心身の活力が低下――「不眠症」とは、どういう症状を言うのでしょうか。野崎先生「眠りにつきにくい、睡眠中に何度も目が覚める、熟睡感がない、朝早く目が覚めてしまうなどの症状が週2回以上あり、かつ1カ月間以上継続しているとき、そのことで苦痛を感じて仕事や日常生活に差し支えがある」という場合を不眠症と診断しています。――不眠症の原因はどういうものがあるのでしょうか。野崎先生数パターンが考えられます。加齢などによる生理的原因、痛み・かゆみ・発熱・ぜんそく発作やそのほかの身体的原因は別として、「過度の緊張」、「精神的不安・ストレス」、「薬やカフェイン、お酒」、「環境の変化」、「うつなどの精神・神経の疾患」によるものがあります。――東日本大震災が起こってから、不安で眠れない夜が続きます。野崎先生震災の後、2週間ぐらいまでの不眠は普通のことであり、正常です。一睡もできない日もあったかと思いますが、それは、「強い余震が起こったら逃げなくてはならない」と、脳も体も危険に備えてのこと。むしろ自然な状態であり、あまり心配する必要はありません。問題は、目安として2週間以上たっても不眠が続く場合です。放っておくと不安感が強くなる、震災の映像のフラッシュバックなど悪夢を見る、昼間の集中力がかなり低下している、ひどいけん怠感に襲われる、体調を壊すという症状が現れます。つらいと思ったら、ひとりで悩まずに医師に相談をしてください。周囲の人も診断を促してあげてください。――その場合、どういう治療法になるのでしょうか。野崎先生症状によりますが、適切な睡眠導入剤や精神安定剤を処方することになるでしょう。まずは3日間ほど服用して、睡眠と体調の様子を見ます。不眠が1カ月以上も続くと思考に柔軟性がなくなりますし、心身の活力が低下して苦しいばかりです。こうなるとまずは何をおいても寝ることが大事ですから、特に有事には薬の力を借りて治療することも必要です。■緊急時は憂いを断つために備えをする――自分でできる不眠対策を教えてください。野崎先生次に紹介する10の方法のうち、自分の環境に合うものを選んで実践してください。震災に関する緊急度が高いのは1です。1不安の原因に対して備える地震への不安が強くて不眠が続く人は、まず、「不眠の原因がはっきりしている」ということを自覚することです。そのうえで、自分の生活に直接的にかかわることへの備えをしてください。たとえば、自宅から避難場所までや職場から自宅までの経路を確認する、食料や水などの非常用物品の備蓄をするなど、「備えあれば憂いなし」という言葉通り、憂いを断つために備えをするようにして、昼間に動いておくのです。不安感が強いと行動力が鈍ります。余計に何もできなくなって、夜になると怖いという感覚に襲われます。小さな備えでも、たとえカバンに携帯用の懐中電灯を入れておくだけでも、「自分で何か動くことができた」という安心感が夜の恐怖感を取り除くことがあります。2友人や知人など、同じ不安感を持つ人と話をする一人で考え込むことが一番よくありません。同じ境遇の人たちと話をすることでストレスを発散し、不安を解消することにもつながることがあります。3睡眠日誌をつける「眠る前の日中の状態」、「睡眠時間」、「入眠までのおおよその時間」、「途中で目覚めた回数」、「目覚めの良さ」、「寝る2時間前に飲酒やタバコ、コーヒーなどカフェインを摂取したか」などをまずは2週間~1カ月ほど記録します。記録をしていくうちに、「不眠だと思い込んでいただけ」と気づく場合があります。また、医師に相談する場合に持参するという点でも役に立ちます。4毎日、同じ時刻に起床する就寝も同じ時刻にするほうがいいのですが、そう規則正しくばかりは難しいでしょう。ですので、「起床時刻だけは毎日同じ時刻にする」と心がけてください。「2時間遅く寝たから2時間遅く起きる」では睡眠リズムが乱れて、改善が望めません。眠りにつけなかった翌朝も、休日も、いつもと同じ時刻に起床しましょう。5 就寝前の入眠儀式をつくる毎晩、寝る前に決まった行動を習慣づけると睡眠が誘発されることが分かっています。歯磨き、洗顔、着替え、軽いストレッチ、トイレに行くなど、単純作業をすることで脳に「眠りに入るよ」と働きかけることができます。これは意外に効果があります。6 手足を温める特に冷え性の人は、手足が冷たいと血行が悪いのですから脳も体も休まらず、眠りにくくなります。就寝前に足湯や手湯をする、腹巻きや靴下、手袋をするなど工夫してください。7 寝室は別にするほうがよい可能な限り、テレビやパソコン、食べ物があるなど覚醒時に活動している部屋と寝室は分けてください。寝室に入ると、全身が睡眠に向かうことになります。ワンルームマンションなどでそうもいかない場合は、カーテンなどを使い、寝るスペースを区切るなど、ちょっとした工夫をして寝るための環境をつくってください。8 寝酒、寝タバコ、カフェインは厳禁寝る前の大量のお酒、コーヒー・紅茶などのカフェイン、タバコなど刺激物は心地よい眠りの大敵です。お酒はたまに少量(ワインをグラスで2杯までなど)を飲むのであれば入眠を促しますが、大量に飲むと夜中や明け方に目が覚め、睡眠障害を起こしやすくなります。9 就寝前1~2時間はリラックスをする軽いストレッチ、ヨガ、ピラティスなどをする、ハーブティを飲む、消化吸収がよいホットミルクを飲む、足湯・手湯をする、アロマなど香りを試す、お気に入りの音楽を聴く、読書をするなどリラックスをする時間を設けましょう。ただし、寝る直前までネットサーフィンやテレビ、ビデオなどを見ていると光の刺激で脳が休まらず、入眠の妨げになるので避けてください。10昼にウォーキングをするウォーキングを習慣にすると、自然な入眠を促すことがあります。歩数や、いつどのぐらい歩けばいいのかなどは気にせずに、通勤や通学の時間を利用するなどして、日光のもと、1日20分以上を歩くことをお勧めします。■市販薬とのつきあい方――市販の睡眠改善薬は効果があるでしょうか?野崎先生以上の対策をとって1カ月しても効果がない場合は、市販薬を試してみるといいでしょう。注意事項をよく読んで、用法、用量を守ってください。特に、お酒といっしょに飲んではいけません。アルコールは睡眠薬の代謝を抑えてしまい、吸収されなくなったアルコールが元で、呼吸困難や感情の抑制が利かなくなるなどの奇異反応が起こることがあります。3日間服用して、様子を見てください。効果がなければ睡眠日誌を持ってかかりつけ医などに相談しましょう。効果がありそうであれば3週間から1カ月ほど服用するとよいでしょう。ただし、睡眠薬は頼るときには頼り、必要がなくなったら取り除くものです。不眠が改善すれば、服用を徐々にやめていきます。やめる方法は二種類あります。一つは「毎日服用しながら徐々に量を減らしていく方法」。作用時間が短い薬の場合はこの方法でやめていきます。もう一つは「服用の間隔を徐々にあけていく方法」で、長めの作用時間の薬を使っている場合です。睡眠時間や質は人によって差があります。「日中の生活や仕事の妨げにならなければよい」と考えて、できるだけ毎日の気分をリラックスさせることが大事です。不安があると、その対処法は頭のなかで堂々巡りになりがちです。昼の間に心配ごとに備えて動き、少しでも精神的安心感を得るようにして夜のリラックスにつなげたいものです。監修:野崎京子氏。北野病院、国立京都病院、大阪赤十字病院、住友病院をへて、現在、大阪府豊中市の心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。阪河朝美/ユンブル)【関連リンク】【コラム】「偉人は睡眠時間が短い」というのは本当か?【ランキング男性編】快適な睡眠には欠かせないものランキング【コラム】よい仕事につなげるCOBS流熟睡テクニック
2011年04月14日