【前編】ハーブ研究家・ベニシアさん夫の梶山正さんが明かす「最後の日々」〈1〉有名になった妻との間にくすぶっていた“わだかまり”より続く“憧れの古民家暮らしを見たい”そんなファンが大原へたびたび訪れてくるほど人気者だったイギリス出身のハーブ研究家・ベニシア・スタンリー・スミスさん。大病を患い、放送が途絶えていた番組の新作を待ちわびる声もむなしく、彼女は6月21日に亡くなった。ベニシアさんの夫で写真家の梶山正さんは、「うちに来た人のこともすごく大切にしていました。名前も絶対覚えるしね」と在りし日の彼女を語る。ベニシアさんの晩年と、梶山さんの秘めた思いを聞いた――。(全2回の第2回)「65歳になったころからベニシアは『目が見えにくい』とこぼすようになった。白内障の疑いがあって手術も受けたけど、いっこうに症状は改善しない。あちこち眼科にかかるうち『これは目ではなく、神経や脳に問題があるのでは』と言われて、大学病院で検査を受けることになったんです」’18年9月。ベニシアさんは京都大学医学部附属病院でPCA(後部皮質萎縮症)との診断を受けた。悪化すると最後は失明することもある脳の病気で、認知機能の低下を招くケースもあるという。だが皮肉にも、この病気が2人の距離をふたたび縮めてくれることに。「ちょうどそのころ、ベニシアがいつもお願いしていた家政婦さんが辞め、否応なく、僕がベニシアと日々、向き合うことになったんです。彼女が僕を必要としているだけじゃなく、そんな彼女を僕も精神的に頼っていることが、よくわかった。こうなって初めて、僕にとってベニシアは、太陽のように僕を導いてくれる、かけがえのない存在なんだと気がつくことができた」しかし、病いは容赦なく進行した。やがてベニシアさんは、家事はおろか、あれほど心血を注いできた庭の手入れもできなくなった。「ベニシアも『私がなんとかせないかん』と動こうとはするのですが……。以前から懇意にしている造園家の友人がたまに来てくれて、剪定した庭木の話をしたりすると、うれしそうに聞いてました」それまで、寝室は2階だったが、1階の和室にベッドを移した。「トイレがひと苦労でした。ベッドの縁、椅子、それに土間に用意した手すりを伝って這うようにして、彼女は自力でトイレに行く。でもそれが、片道15分も要するように。ポータブル便器をベッドサイドに用意したけど『やっぱり、できない』と昼間は使わなかった。夜はさすがに、使ってましたけど、失敗することも増えてきて。目が見えないから仕方ないんだけど。そこ、畳に大きなシミがあるでしょ。それは失敗のあとなんです」介護生活が始まって3年、梶山さんは苦渋の決断を下す。「ケアマネジャーさんやヘルパーさんから勧められたんです。『施設でプロに任せたほうがいい』と。それを聞いて僕は介護から逃げたんやね。『施設に入りたくない』と言うベニシアに、『毎日、トイレの面倒ばかり見ていられない』なんて、ひどい言葉をぶつけて追い詰めてしまった……」コロナ禍まっ只中の’21年7月、グループホームに入居したベニシアさん。だが、およそ1年後、ベニシアさん自身がコロナに感染、肺炎を発症し緊急入院することに。その病院の医師は、梶山さんにこう告げた。「奥さんの残された時間は長くない、家に帰してあげたらどうか」ベニシアさんはコロナ禍のさなかの施設暮らしのために歩けなくなり、食事をまともに取ることもできなくなっていた。「以前は60キロあった体重が、37キロほどと、すっかり痩せちゃった彼女を見て、連れて帰ることを決めました。彼女の退院まで連日、病院に通って、おむつ交換や痰の吸引の仕方を練習しました」こうしてベニシアさんは昨年9月、1年2カ月ぶりに大好きな大原の自宅に戻ることができた。「やっぱりうれしそうでしたよ。おむつ交換のときも、病院のベッドでは緊張しているのか力いっぱい、手すりや僕の腕をつかんでいたのが、帰宅後は安心したんやろね、それもしなくなった。ただ、もう寝たきりではありました。口からの食事はゼリーを少し食べるぐらい。あとは点滴でかろうじて栄養を取っている状態でした」すでに独立していた息子・悠仁さんも、たびたび家に戻ってきた。「悠仁はよく声をかけてましたね。『ベニシア、アイラブユー』って。それを見て、『ああ、僕も言わなあかんな』と思ってたんだけど。最後まで言えなかった。なんか、急にそんなこと言うの、噓っぽい気がしてしまって。うん、最後まで言えんかった」今年6月。いよいよ、その日が迫ってきていた。「酸素マスクをつけていても呼吸は苦しそうだし、吸引してもなかなか吸えないぐらいかたい痰が絡むように。前の晩には、目の水晶体が白く濁ってしまって。悠仁がすぐに目薬を点眼していたけれど、まばたきすることもできなかった。握った彼女の手は指先が少し冷たくなっていました」そして翌朝。梶山さんと悠仁さんに見守られながら、ベニシアさんは静かに息を引き取った。「6月21日、ちょうど、夏至の日の朝でした。1年のうちで太陽がいちばん強いとき。きっとベニシアはその日が来るのを待って逝ったんやな、そう思いました」最期の瞬間を、淡々と振り返った梶山さん。だが「彼女の死を受け入れるまでには、長い時間が必要だった」とも打ち明けた。「ベニシアが死んでから、2カ月ぐらいはずっと、もっとこうしてあげたらよかった、ああしてあげればよかったということばかり、そればっかりを考え続けました」妻の不在に身を焦がす日々……、ここまで話すと、梶山さんは不意に目頭を押さえた。「ごめんなさい、いろいろと思い出してしまって。だって最後のころなんか、末梢血管に点滴の針、刺すじゃないですか。熟練の看護師さんのはずやのにうまく刺せんで針が突き抜けたりして……。ああ、痛いんやろな、可哀想やなって。こんな痛い思いさせて、生きながらえさせてもいいのかとか、いろいろ考えてしまって……。だから、ベニシアの呼吸が止まったとわかったときは、これでしんどい思いから解放されたんやな、楽になれたんやなって……」一息にここまで話すと、梶山さんはしばらくの間、下を向いた。ベニシアさんのいない家に、彼の咽び泣く声が、低く響いていた。■涙を乗り越えて――。梶山さんが ベニシアさんから教わった生き方「ベニシアさんは、梶山さんのことが本当に大好きでした。彼が浮気したときも、眠れないぐらい悩んでいたけど、それでも離婚を選ばなかったのは、やっぱり彼のことを愛していたから。晩年のベニシアさんが常々、私に話していた願望は『大原の家で死にたい』『夫に優しくしてもらいたい』、その2つだけ。だから、彼女は思い残すことはなかったと思います」前出のプロデューサー・鈴木さんは、ベニシアさんの最期についてこう話した。彼女亡き後、悲嘆に暮れる梶山さんにも、同様の言葉をかけたという。梶山さん自身は「少しずつ、前を向けるようになった」と話す。「ベニシアが以前、本に書いた言葉があって。『生と死の間には途切れ目はなくて、ずっと続いていくものなんだ』といったことを書いていた。そうだといいなと思ってる。死んだことないから、本当のところはわかりませんけど。ずっとベニシアとつながっていられるようで、生きてる自分としては、そのほうがうれしいなと思う」取材の最後に「ベニシアさんが遺したものはなんだと思いますか?」と尋ねると、少し考えた後、梶山さんはこう口を開いた。「彼女から教わったことは……、人のために一生懸命に生きる、その姿勢だと思う。こういう言い方すると、ベニシアきっと怒るやろうけど。やっぱり貴族の出身やな、と思う点でもあって。正しく前を向いて生きようとする人は、お金のためとかじゃなく、人のために生きることができるんだと。彼女の本や番組が多くの人に受け入れられたのも、ライフスタイル以上に、人を思いやる彼女の心に、みんなが反応してくれたからと違うかな。僕も、この先もベニシアが伝えたかったことを、伝えようとしたことを、少しでも引き継いでいきたいと、そう思っています」まるで太陽を探すように空を仰いだ梶山さん。その目には再び、光るものが浮かんでいた。
2023年12月03日Daiwa House presents ミュージカル『生きる』が2023年9月7日(木)から東京・新国立劇場 中劇場にて開幕する。黒澤明監督の名画を世界で初めてミュージカル化した本作は、2018年に初演され、今回で3度目の上演だ。今回、脚本と歌詞を手掛けた高橋知伽江と、演劇プロデューサーの梶山裕三による対談が実現。『生きる』の創作秘話などを聞いた。撮影:引地信彦「最初にお話をいただいたとき、実は躊躇いました」と明かす高橋。『アナと雪の女王』などのディズニー映画の訳詞を多く手掛けるほか、劇団四季ミュージカル『バケモノの子』やミュージカル『COLOR』などのオリジナル作品を次々と発表している高橋だが、オファーを受けた2016年当時は、言葉や文化的背景が違う米国人作曲家とタッグを組むことに不安を示していたという。それに対し、梶山は「一度(作曲家の)ジェイソン(・ハウランド)と会ってから考え直してほしい」と懇願。「ジェイソンは日本人的な感覚も持ち合わせていたし、何よりミュージカルを愛するふたりだから、絶対に意気投合できると思っていたんです」という梶山の思惑通り、韓国・ソウルでジェイソンと対面した高橋はオファーを受け入れた。高橋は「彼の音楽に導かれて、このミュージカルができたと思うし、彼から学んだことは本当に大きかったですね」と今、振り返る。撮影:引地信彦とはいえ、創作の道のりは容易ではなかった。なぜキャストがここで歌うのか? 主人公の渡辺勘治の死をどこで描くのか? 本当にこの曲は必要か? 作曲家のジェイソン、演出の宮本亞門も交えて、試行錯誤を繰り返し、高橋は開幕まで10回以上脚本を書き直したという。高橋は「稽古が終わって、その後に打ち合わせがあって、家で本を書き直して、寝て、朝に亞門さんから電話があって、また直し......。制作の人は台本の差し替え部分のコピーばかりしていた気がします」と笑うが、「苦しかったけど、楽しかったですよ」と微笑む。創作に伴走し続けた梶山も「知伽江さんとジェイソンと亞門さんがプロ意識を持って作品を作り上げていったと思うし、そこに市村(正親)さんや鹿賀(丈史)さんらキャストからのアイディアも加わって、本当に奇跡みたいな初日だったなと思うんです。たくさん話し合ってもうまくいくとは限りませんから、オリジナルって」と話す。そして梶山は「幕が開いてからの評判がよかった。開幕後1週間ぐらいから、もうどんどんチケットの申し込みが相次ぎ、男性の方が1人で当日券を買い求める姿もたくさん見かけました。客層が広がった気がして、純粋に嬉しかったです。また、再演時は地方公演もあったんですけど、 それもすごく喜ばれて。いつまでも上演され続けてほしいと思う作品の一つです」とも語った。撮影:引地信彦撮影:引地信彦かなり笑えて、最後は感動の涙近年、日本発のオリジナルミュージカルも増えてきた。高橋が「翻訳の場合、 私の能力が低いからかもしれませんが、絶対に訳せない文化的なものがあるんですよ。宗教や人種の問題など、『本当はこうだけども』というもどかしさを常に持っていたんです。でもこれが日本語になるとそれが全然ない。『生きる』は歌詞の中に『漬物』なんて出てきますから」と話すと、梶山は「確かに翻訳ものを観ていて、途中で『あれ?』と思っても、『あちらではウケるんだろうな』などと思いながら観ていますものね。そういう違和感はない方がいい」と返す。ミュージカル『生きる』2023年公演チラシまた、梶山は「オリジナル作品自体が珍しくなくなり、これだけの人が目指すのだから、日本から世界に行く作品が出てもおかしくないなと勇気づけられます。同時に、30年後、50年後の世界でも通じるテーマ性を探さないと。この先もまた見たいものを生み出したいとずっと思っています」と使命感に燃えていた。高橋は観客へのメッセージとして「新キャストの味を活かしつつ、亞門さんが緻密に作ってくださっています。あらすじとしては『ある男が胃癌になって死んでいく』話なので、一見悲劇なのですが、ユーモアをたくさん入れてくださって。かなり笑えて、最後は感動の涙にくれる。そんな作品になると思います」と語る。梶山も「オリジナルミュージカルはちょっと......という人もいるかもしれませんが、この『生きる』は初心者にも優しいし、とてもよくできている作品。これを観て、感情移入ができない人はあまりいないのでは? コロナ禍を経て、命との向き合い方も変わった今、どうお客様が受け取ってくださるのかが楽しみです」。東京公演は9月24日(日)まで。その後大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。取材・文・撮影(高橋知伽江・梶山裕三):五月女菜穂<公演情報>Daiwa House presentsミュージカル『生きる』原作:黒澤明監督作品『生きる』(脚本:黒澤明 橋本忍 小國英雄)作曲&編曲:ジェイソン・ハウランド脚本&歌詞:高橋知伽江演出:宮本亞門出演:市村正親・鹿賀丈史(Wキャスト)村井良大 / 平方元基・上原理生(Wキャスト)/高野菜々(音楽座ミュージカル)/ 実咲凜音 /福井晶一 / 鶴見辰吾【東京公演】2023年9月7日(木)~9月24日(日)会場:新国立劇場 中劇場【大阪公演】2023年9月29日(金)〜10月1日(日)会場:梅田芸術劇場メインホールチケット情報公式サイト旧Twitter)
2023年08月29日2018年のトニー賞で、『アナと雪の女王』や『ミーン・ガールズ』を抑えて10冠に輝いたミュージカル、『バンズ・ヴィジット迷子の警察音楽隊』が日本で上演される。製作するのは、出資者の一員としてトニー賞のトロフィーを日本に持ち帰ってきたホリプロだ。エジプトの警察音楽隊が、対峙してきた歴史を持つイスラエルのとある辺境の町に、“間違って”到着してしまったことから巻き起こる大人のヒューマンコメディ。森新太郎が演出を手がけ、風間杜夫や濱田めぐみら豪華キャストが集うことも話題の舞台について、ホリプロの堀義貴会長と梶山裕三制作部長に聞いた。幅広い作品を手がけるホリプロステージの出資第2弾――まずは、本作に出資を決められた経緯を教えてください。堀元々の動機は、そんなに純粋なものではなくて(笑)。ホリプロとして初めて出資した『ディア・エヴァン・ハンセン』(2016年ブロードウェイ初演)が当たってくれたので、いずれ利益が出るだろうという話になったんですね。儲けるためじゃなく、いつか日本でやりたいと思って出資した作品で利益が出るなら、それは“あぶく銭”のようなもの。日本に持ち帰っても仕方ないから、また別のブロードウェイ作品に出資して使い切ってしまえ!と思っていた時に(笑)、仲介してくれている会社から何作か紹介されたうちのひとつがこの『バンズ・ヴィジット』でした。その時点ではA4用紙2枚ほどの資料しかなく、僕は原作映画も観ていなかったんですが、とにかく話が面白そうだと。イスラム国の話題が世界を席巻していた時に、エジプトの警察音楽隊がイスラエルで迷子になる話をミュージカルにするなんて、アメリカ人はすごいなと思いましたよ。――出資される作品は、会長おひとりでお決めになるのですか?梶山候補を絞る段階では僕らが吟味をしますが、決められるのは会長です。多分、僕らに責任を取らせるのはかわいそうだと思ってくださってのことではないかと(笑)。堀いや、僕のところに持ってくるのは、現場で決め兼ねてるからだろうと思うんですよ。出資に限らず、オリジナル作品をやるかやらないかの判断もそう。『フィスト・オブ・ノーススター』の時もそうだったけれども、聞かれたから「やるでしょ」と言っただけなのに、僕の言葉を錦の御旗のように持って帰ろうとするところがある(笑)。梶山“ホリプロ作品”として上演する以上、会長のところにも「なぜこれをホリプロで?」というお話が行くでしょうから、決める前に一応聞いておこうと(笑)。堀でもたまに、僕が反対したのにやることもあるでしょう?梶山あ、そんなことありましたか?(笑)僕は知らなかったです。すごい会社ですね(笑)。――自由な社風と会長の決断力が、ホリプロ作品の幅広さにつながっているのですね(笑)。話を出資に戻すと、その後ホリプロは、ダイアナ元妃を描くミュージカル『Diana』(2021年11~12月ブロードウェイ)にも出資されています。堀ビギナーズ・ラックと言うんでしょうか、『ディア・エヴァン・ハンセン』と『バンズ・ヴィジット』が連続して当たったことで、また次の話がいくつか来たんです。あまり興味を惹かれるものがなかったなかで、ロイヤル・ファミリーが題材なら日本でやれる可能性があると思って選んだんですが、幕が開いたら痛快なほど酷評でね(笑)。収録されてNetflixでも公開されたから僕も観たけれども、日本でやれるような作品ではなかった。でもあんまり次々と当たっても不安になりますから、“厄落とし”ができたようで、悪い気持ちではなかったですよ(笑)。同じ時期にもう1本、『Sing Street』というミュージカルにも出資したんですが、あれはもう開いたんだっけ?梶山ブロードウェイを目指して、つい先日までボストンでトライアウト中でした。堀映画『シング・ストリート 未来へのうた』が原作の、『バンズ・ヴィジット』とはまた全然違う若者の話。今度は当たってくれたらいいなと思っています。洒落た物語と力のある音楽、そして“笑い”も魅力のシュールな作品――では、本題の『バンズ・ヴィジット』について伺います。いま目の前にトロフィーがあり、個人的にも大変興奮しているのですが、トニー賞授賞式にはおふたり揃って参加されたそうですね。梶山参加したといっても、僕はただのアテンドです(笑)。もし作品賞を受賞したら会長が舞台に上がるわけですから、その歴史的瞬間を写真に収めて会社に報告するのが僕の役目。それでも会場に入る以上はタキシード着用が必須ということで、お付き合いのある舞台衣裳屋さんから借りて行きました(笑)。会長は、ご自身のタキシードを持ってらしたと思うんですけど。堀いや、昔のタキシードは入らなかったから慌てて買いましたよ(笑)。梶山そうだったんですね。僕はニューヨークに着いてから、持ってきたカメラでは望遠が足りないかもしれないと不安になって、慌ててレンズを買いました(笑)。堀何かとお金はかかったよね。このトロフィーも、メインのプロデューサーはもっと大きいのを無料でもらえるけど、僕たちにはあとから請求書が来る(笑)。あとから請求書が届いたというトニー賞のトロフィーを持つ堀会長梶山会場に入るチケットも高かったですよね。堀打ち上げの参加費まで有料(笑)。まあでも、それだけ名誉なことですから。梶山そうですよね。これは余談ですが、この年のトニー賞は、ミュージカル部門で『バンズ・ヴィジット』が、プレイ部門では『ハリー・ポッターと呪いの子』が作品賞を獲ってるんですよ。どちらもホリプロでやることになるとは、運命的なものを感じます。――今の時点で、『バンズ・ヴィジット』という作品にどんな魅力を感じていますか?堀ほんっとに洒落た話ですよね。対立している国同士の間で、こんなことが実際にあったらいいなと思わせてくれる。登場人物それぞれにストーリーがあって、一つひとつは実に些細なんだけども、お互いに親近感を持つようになるきっかけが全部に詰まってるんです。なんとも言えないヒューマニズムがあって、静かだけどエモーショナルで、よくできた作品だなと思いますよ。梶山一切の無駄がないんですよね。そんな話に、一瞬で入り込ませてくれるのがあの音楽。ホリプロでは、同じデヴィッド・ヤズベック作曲の『ペテン師と詐欺師』も上演していますが、同じ人とは思えないくらい作風が違う。ねっとりとした、本当に力のある音楽です。堀だから僕は日本公演が決まった時から、役者よりもバンドのキャスティングばっかり気になっちゃってね(笑)。何なら中東から連れてきてもいいと思ったくらい、あのグルーヴ感をバンドが出せるかどうかがカギになると思った。梶山国内にいるその道の第一人者を揃えたので、そこは安心してください(笑)。そんな物語と音楽に加えて、“笑い”も魅力のひとつだと思います。元々シュールな面白さのある作品で、ブロードウェイ公演も笑いにあふれていましたが、日本版は森新太郎さんの演出。難解な戯曲をかみ砕いて届ける力はもちろんのこと、笑いもまた森さんの真骨頂ですから、きっとすごくいいコメディに仕上げてくださると思います。濱田めぐみ、風間杜夫、新納慎也ら魅力的なキャストが集結――キャストに期待することは?梶山濱田めぐみさんはもう、どハマリすると思いますね! 灼熱の太陽を浴びて、けだるく振舞ってる姿がもう見える(笑)。僕は普段の濱田さんも存じ上げてますが、公演中はその役になり切る方なんですよ。『カルメン』の時なんて、ずっと殺気立っていて1か月間しゃべりかけられませんでした(笑)。今回も、魅力的なイスラエル人になり切ってくれると思います。堀濱田はどんな役でもできるからね。僕としては、『リトル・ナイト・ミュージック』でご一緒した風間杜夫さんが、またミュージカルに出てくださることが嬉しい。それと、新納慎也さんが優男のトランぺッター役と聞いた時は、なるほどと思わされるものがありました。梶山僕、新納さんがブロードウェイに行かれた時に、この作品のチケットを取って差し上げたんですよ。「ありがとう最高だった。トランぺッター役は僕で決まりね!」というLINEが来て、僕も「もちろんです!」と無責任に返してたみたいなんですけど、実はすっかり忘れていて(笑)。有言実行したつもりはなかったんですが(笑)、結果的にそうなったので良かったです。堀役者さんにとって、出てみたい作品なんだろうね。派手ではないけど、ウィットに富んでてお洒落に終わっていく。だからこれだけの皆さんが集まってくださったのだと思いますよ。――とはいえやはり派手ではない分、ミュージカルファンになかなか魅力が伝わりにくい側面もあるのかなと思います。少し下世話な質問になりますが、本作が当たる“勝算”は……?梶山ホリプロステージは今までも、どこもやらないような作品を手がけてきました。そういう意味で、これはまさに“ホリプロらしい”作品だし、クオリティはもう間違いない。いきなり売り切れましたってことじゃなくていいので、開幕してから口コミで広がって最後には一杯になる、そんな作品にしたいですね。この作品を当てたいというより、こういうものが当たる演劇界を僕らが作っていきたい、という気持ちが大きいです。堀怪人も動物も出てこない、誰も死なない、じわじわと感動して力が湧いてくるような作品を当てるのは、確かにすごく難しい。『パレード』も『ビリー・エリオット』も、序盤は全然売れなかったですからね。でもどちらもだんだんとお客様の支持を得て、再演される作品までになりました。これもそうなってくれたらありがたいなあと思っています。梶山僕もそれが理想です。『ビリー』ばりのセンセーションを巻き起こしてほしいですね!取材・文:町田麻子撮影:石阪大輔ミュージカル『バンズ・ヴィジット迷子の警察音楽隊』チケット情報はこちら:
2022年10月20日『週刊少年ジャンプ』で連載中の漫画『アクタージュ act-age』の舞台化プロジェクトが始動。ヒロイン・夜凪景役をリモートオーディションで選ぶことが発表され、6月1日より募集が開始されている。『アクタージュ act-age』は、主人公・夜凪景が役者として見いだされ、芝居に奮闘する様を描く役者漫画。累計発行部数は300万部を超え、映画・演劇界からの評価も高い。今回の舞台プロジェクトは、『アクタージュ act-age』の中でも人気の高い「『銀河鉄道の夜』編」を舞台化。宮沢賢治作の「銀河鉄道の夜」を舞台上演する演出家と劇団員たち、そして主演を務める夜凪景との人間模様が描れていく。舞台『アクタージュ act-age~銀河鉄道の夜~』は『、デスノート THE MUSICAL』や『ミュージカル「生きる」』など手がけるホリプロの公演事業部が制作を担当。2010年『自慢の息子』で第55 回岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家・演出家・俳優の松井周が脚本と演出を務める。そして、舞台のヒロイン「夜凪景」を演じる女優を、全国規模にて公募し、次世代を担う女優を発掘する。グランプリは株式会社ホリプロインターナショナルと専属契約し、ヒロイン 夜凪景役で舞台デビューとなる。また、オーディションは新型コロナウイルス感染拡大による状況を鑑みて、予選は在宅環境からも参加出来る、”リモートオーディション”が導入される。●マツキタツヤ(原作者)コメントアクタージュという作品への拘りから応募されると、却ってその方自身や舞台そのものの色んな可能性を狭めてしまいそうですので、俳優として末長く活躍したいと考えてる方の一つの入り口のような作品になることを願ってます。●松井周(演出)コメント舞台版の脚本・演出を担当する松井です。「アクタージュ act-age」は俳優という「仕事」の話です。俳優はときに奇跡を起こします。でもそれは魔法によって起きるわけではありません。「アクタージュ act-age」では「演劇ってこんなふうに魔法っぽく作られているのだろうな」というなんとなくのイメージではなく、俳優がどこからヒントをもらって、何を考えてそれを表現に落とし込むのか、といった点が丁寧に描かれています。登場人物たちが俳優という「仕事」を通して、自分の居場所を求める姿を面白く描けたらと思っています。演劇は集団創作です。人が集まることで創作は始まり、人と会うことから不思議と力が湧きます。作るということはどこまでも自由です。そこで大事なことは、誇張することも卑下することもない「自分」です。そんな「自分」が集団の中でどんなふうに変化していくか、そしてまた、他の誰かが変化していくことを楽しんでもらいたいです。今まで知らなかった「自分」の居場所が思ってもみないところに見つかるという事が、演劇ではよくあります。応募者の方には、このオーディションを通してそういう居場所を見つけてほしいし、自分そのままの魅力を発揮してもらいたいです。僕は俳優もするのですが、舞台や人前でどう振る舞うかより、ふっと力が抜けた時の「隙」にこそ、その人の姿が見えてくるし、そこが面白いと思っています。自分に才能があるかはわからないけど、演じるのって面白いなと感じている方は、ぜひ挑戦してみて欲しいです。●梶山裕三(プロデューサー)コメント以前に週刊少年ジャンプ掲載の人気漫画「DEATH NOTE」をミュージカル化させていただきました。舞台化を発表したとき、原作ファンの皆様からたくさんのコメントを頂き、そのほとんどがネガティブなものでした。当時、漫画を原作にした舞台は今ほど多くなかったので、その反応も想定はしていましたが、想像以上の反応に身が引き締まったのを覚えています。我々は原作をリスペクトしながらも、「原作を舞台で再現する」のではなく、「観に来てくださったすべてのお客様を楽しませる舞台」を追求しました。その結果、ミュージカル版デスノートには原作を知らない演劇ファンの皆様にも、普段劇場に足を運ぶことがない原作ファンの皆様にもご支持いただき、5年間で3度の上演を重ね、海外でも上演される作品に成長しています。今回は、現在連載中の人気漫画の舞台化なので、前回以上にプレッシャーを感じていますが、原作者のマツキ先生と、作・演出の松井周さんの舞台化に対するビジョンが一致しているので、素晴らしい舞台になると期待しています。「夜凪景」という役は、ダイヤモンドの原石のような役です。これから女優を目指したいという方にはこれ以上ない最高のデビューになるのではないでしょうか。松井周さんは、俳優の些細な表情や心情の変化を見逃さない眼力の持ち主です。オーディション応募者の隠れた魅力を見抜き、ダイヤモンドに磨き上げてくれることでしょう。「アクタージュ act-age」を読んで演技に興味が沸いている方全員にチャンスがあるオーディションですので、皆様のご応募お待ちしています。●矢田部行庸(ホリプロインターナショナル 取締役)コメントまずはこの度のコロナウィルスの中、日々戦っておられる医療従事者の皆様に心より感謝の意を申し上げますと共に、コロナウィルスの終息を心より願っております。今回のオーディション開催にあたり、現在世界中が直面しております状況を鑑みまして、開催自体を非常に悩みました。しかしながら、自宅にて日々自粛をして閉塞感をもち生活をする中で、少しでも未来に希望を感じて頂きたい、そして我々エンターテインメント業界においてはここで文化や新たな才能を根絶やしにせず、その状況に応じて出来うる方策での開催をと思った次第です。本オーディションは、オーディション参加者及びご家族の皆様が安心できるリモート環境のもとでの取り組みになります。沢山のスターを夢みる皆さんのご応募をお待ちしております。我々ホリプロインターナショナルは「世界に通用するスペシャリストの創出」を企業理念に、ホリプログループの国際事業の窓口として2018 年6 月に設立され、海外進出を視野に入れた様々な分野のタレントが在籍しています。今回、舞台『アクタージュ act-age~銀河鉄道の夜~』ヒロイン「夜凪景」役 オーディションで全国に広く募集をする事にいたしました。日本国内そして世界に舞台・ミュージカル女優として本格的に挑戦出来うる女優の卵の発掘です。舞台『アクタージュ act-age~銀河鉄道の夜~』は『デスノート THE MUSICAL』や『ミュージカル「生きる」』など話題作を多く手がけるホリプロの公演事業部が制作を手掛け、2010 年『自慢の息子』で第55 回岸田國士戯曲賞を受賞し、現代社会のあり様をありのままに受け止める作風で人気注目を集める作家・演出家・俳優の松井周氏が脚本と演出を務める本格的な舞台作品となります。必ずグランプリ受賞者にとっての代表作となる事を確信しております。世界で大成功をおさめた日本人女優はまだいません。勿論そんな事務所もありません。我々と共に本気で国内外のトップを目指す逸材を探しています。一緒に“アクターストーリー”を進みたいあなたのアクション、お待ちしております!■舞台「アクタージュ act-age ~銀河鉄道の夜~」ヒロイン「夜凪景」役オーディション・応募期間2020年6月1日(月)00:00~2020年7月10日(金)23:59・グランプリ特典1.舞台『アクタージュ act-age~銀河鉄道の夜~』のヒロイン「夜凪景」役にてデビュー2.ホリプロインターナショナル専属契約となり国内のみならず世界を目指す女優として活動・応募資格2020年7月10日時点で満12歳~満17歳までの芸能活動に興味がある女性で国籍問わず日本語での日常会話が可能(ネイティブレベル)の人物。※英語or中国語での会話可能な者は歓迎。・オーディションスケジュール1次審査:WEBプロフィール書類審査2次審査:ビデオ審査3次審査からは2020年12月以降を予定。※上記審査スケジュールは変更の場合あり。
2020年06月11日