東京大学(東大) と言語交流研究所、および米マサチューセッツ工科大学(MIT)は2月18日、多言語の習得に関わる脳のメカニズムを解明することを目的に共同研究を開始すると発表した。同研究は、東京大学大学院総合文化研究科 相関基礎科学系 酒井邦嘉 教授およびMIT 言語哲学科 スザンヌ・フリン 教授らを中心に行われる。プロジェクト期間は5年間を予定。酒井教授は、人の言語処理の法則性を脳科学として実証する研究に取り組んでおり、これまでに、文法処理に特化すると考えられている左脳の前頭葉の一領域「文法中枢」の活動が、英語習得の初期に高まり、中期にはその活動が維持されるが、文法知識が定着する後期には活動を節約するように変化していることを明らかにしている。またフリン教授は、MITの同僚 ノーム・チョムスキー教授の学説に基づき、30年以上にわたって多言語獲得について心理言語学的視点から研究を行っている。今回の共同研究では、まずMRI(核磁気共鳴画像法)の技術を用いて、多言語の理解および習得中の脳の構造と機能について解析を行う。また、多言語教育を行う言語交流研究所が運営する「ヒッポファミリークラブ」の会員をはじめ、通訳者などの多言語習得者を対象に、言語学習者に見られる言語理解と発音把握などについて、多言語に触れた経験が脳に及ぼす効果を調査する予定となっている。100年以上前に中国のドイツ大使館で通訳として活躍した、60カ国語を話せる男性の死後脳において、大脳皮質の前頭葉にある「ブローカ野」の44野が左右で対象、45野が左右で非対称であったという研究結果が2004年に発表されている。酒井教授によると、44野が対象であることよりも45野がアンバランスであることのほうが、文法の成績に強く影響しているという。「しかしこの研究は死後の脳を使っている。今回の研究では、今現在生きている人の脳をMRIによって調べることで、脳の非対称性が言語能力にどのような影響を及ぼしているか調べていきたい」(酒井教授)またフリン教授は今回のプロジェクトについて、「第一言語の習得に関しては比較的多くのことがわかっているが、多言語習得に関する研究結果はほとんどない。今回の共同研究で多言語の環境にいる方のデータを解析することによって、脳がどのように働いているかということを解明していきたい。また、日本での研究を皮切りに、アメリカやメキシコ、韓国のヒッポファミリークラブ会員のデータも利用し、世界へと広げていければ」とコメントしている。
2016年02月19日山梨大学や北海道大学、熊本県立大学などの研究者で構成される研究チームは2月11日、野生の竹がなぜ節をもつのか、その謎を科学的に解明したと発表した。同成果は、山梨大学 環境科学科の島弘幸 准教授、北海道大学の佐藤太裕 准教授、熊本県立大学の井上昭夫 教授などによるもの。詳細はアメリカ物理学会発行の学術雑誌「Physical Review E」に掲載された。竹は中身が空洞で、ところどころに節を持つことが知られているが、多くの植物の中で竹だけがこうした特徴を有していた。今回、研究チームは、野外調査で得た測定データと、構造力学理論に基づく数理解析を活用して調査を行った結果、互いに隣り合う節と節の間隔が、ある一定のルールに従うよう絶妙に調節されており、結果として、野生の竹が「軽さ」と「強さ」を併せ持つ理想的な構造を「自律的に」形成していることを突き止めたとする。なお、今回の論文は、同誌の注目論文(Editor’s Suggestion)に選ばれているが、島准教授によると、「同じような推論は過去にも提案されたことがあったが、竹林の測定データと、理論的な考察をもとに、『定量的に』その推論を検証したのは我々の成果が初となるはず」とのことで、そうした研究の視点のユニークさと、物理学・工学・森林科学を跨ぐ学際的な研究手法が高く評価された結果によるものだといえる。
2016年02月13日東京医科歯科大学はこのほど、同学の難治疾患研究所・幹細胞医学分野の西村栄美教授らの研究グループが「加齢による薄毛・脱毛の仕組み」を解明したことを明らかにした。同研究成果は、国際科学誌「Science」の2月5日号に発表されている。人間の皮膚は加齢に伴って次第に薄くなり、毛も細く次第に減少していく。これまで老化研究は盛んに行われているが、実際に生体内でどのような変化がおこっているのかは不明で、なぜ老化するのかその仕組みについての解明は困難と考えられてきたという。今回、同研究チームは毛を生やす小器官である毛包(もうほう)が、幹細胞を頂点とした「幹細胞システム」を構築していることと、マウスにおいても加齢によって薄毛が見られることに注目。加齢による薄毛脱毛のしくみを明らかにするために、マウスの毛包幹細胞の運命を生体内で長期にわたって追跡し、ヒトの頭皮の加齢変化と合わせて解析した。その結果、幹細胞を中心とした「毛包の老化プログラム」が存在することがわかった。毛周期ごとに毛包幹細胞が分裂して自己複製すると同時に、毛になる細胞を供給する。その際に生じたDNAの傷を修復するための反応が、加齢に伴って長引く細胞が現れる。このような毛包幹細胞においては、毛包幹細胞の維持において重要な分子であるXVII型コラーゲンが分解される。XVII型コラーゲンの分解により、毛包幹細胞が幹細胞性を失ってしまうと、毛をつくる幹細胞が表皮となって落屑(フケ・垢として脱落)する。これにより毛包幹細胞プールとそのニッチが段階的に縮小し、毛包自体が矮小化(ミニチュア化)するため、生えてくる毛が細くなって失われていくことが明らかになった。研究チームは、毛包幹細胞が幹細胞性を失って表皮角化細胞へと分化するよう運命づけられることをマウスで見出し、ヒトの頭皮の毛包においても同様の現象を確認したという。また、マウスの毛包幹細胞においてXVII型コラーゲンの枯渇を抑制すると、一連の加齢変化を抑制できることがわかった。同学は「この研究成果は、老化の仕組みについて新しい視点を与えると同時に、脱毛症の治療法の開発やその他の加齢関連疾患の治療へとつながることが期待できるものと考えられます」とコメントしている。
2016年02月05日物質・材料研究機構(NIMS)と東北大学(東北大)は1月21日、地震発生域における塩水の電気伝導度を理論的に解明したと発表した。地震発生やマグマ生成のメカニズムの解明に貢献するものであることが期待される。同成果は、物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門 ジオ機能材料グループ 佐久間博 主任研究員と、東北大学大学院 理学研究科 市來雅啓 助教らの研究グループによるもので、1月20日付けの米科学誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」オンライン版にて掲載された。岩盤中に塩水があると、断層がすべりやすくなって地震発生に影響を与えたり、岩石の融点が下がって火山噴火に影響すると言われているが、地震発生域のような地下深部はボーリング調査が難しく、塩水の存在を直接調べることは難しい。このため、塩水などの流体の電気伝導度が固体よりも6桁ほど大きいことを利用し、電気伝導度の計測によって塩水の存在を知る調査が行われているが、地殻の地震発生域のような高温高圧条件下での塩水の電気伝導度は知られておらず、電気伝導度の計測データと塩水の存在を関連づけられないという問題があった。今回、同研究グループは、水の超臨界状態を再現する分子モデルを利用し、海水の1/6~3倍のNaCl濃度の範囲で、673~2000K/0.2~2GPaといった高温高圧下での塩水の電気伝導度を分子動力学計算から導出することに成功。一般的に、温度が上昇するとイオンが動きやすくなり電気伝導度が上がるといわれているが、シミュレーションの解析から、高温ではNaイオンとClイオンがペアを作り、電気的に中性となるため、電気伝導度が低下することがわかった。また、今回得られた電気伝導度データを用いると、東北日本西側の高電気伝導度異常は、4wt%以上の質量パーセント濃度の塩水の存在で説明できることがわかった。この塩濃度は海水の塩濃度(3.4wt%)に近い値であり、この地域では地殻深部から海水に近い塩濃度を持つ塩水が供給されている可能性があることを示唆している。
2016年01月21日基礎生物学研究所と生理学研究所は12月24日、温度によってオスとメスが決まる「ミシシッピーワニ」の性決定の仕組みを解明したと発表した。同成果は、基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門/総合研究大学院大学の大学院生 谷津遼平 氏、宮川信一 助教、荻野由紀子 助教、井口泰泉 教授、生理学研究所 細胞生理研究部門 齋藤茂 助教、福田直美 氏、富永真琴 教授、米サウスカロライナ医科大学 河野郷通 助教、Louis J. Guillette Jr 教授、Innovative Health ApplicationsのRussell H. Lowers 博士、北海道大学 勝義直 教授、鳥取大学 太田康彦 教授らを中心とする研究グループによるもので、12月18日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。ヒトを含む多くの動物は、性染色体の組み合わせなどといった遺伝的な要因によって性が決まるが、ワニやカメなど一部の爬虫類では、卵発生中の環境温度によって性が決まる「温度依存型性決定」があることが知られていた。たとえば、ミシシッピーワニは、33.5℃で孵卵するとすべてオス、30℃ではすべてメスになる。今回の研究では、ミシシッピーワニの卵発生中の胚がどのように外部温度を感じるのか、温度受容因子の実体の探索とその仕組みの解明を目指し、温度を感じるセンサータンパク質である「TRPイオンチャネル」を環境温度を感じる分子の候補として解析を進めた。この結果、ワニの性決定時期の生殖腺では、受容温度域が異なる5種類のTRPチャネル遺伝子が働いており、なかでもTRPV4というTRPチャネルが一番顕著に存在することがわかった。TRPV4チャネルは哺乳類では30℃から34℃付近の温度を受容することが報告されており、ワニの温度依存型性決定と関連する温度域に相当している。そこで実際にTRPV4チャネル遺伝子をワニからクローニングし、どのような温度域で活性化されるかを調べたところ、ワニのオスが産まれる温度付近で活性化されることがわかった。また、野生のワニの卵を採取して、TRPV4チャネルの阻害剤あるいは活性化剤を塗布し、オスになる温度とメスになる温度で卵を育て、数週間後に性分化への影響を調べたところ、TRPV4チャネルの活性を操作することで、特にオス化に重要な遺伝子の発現が変化することが明らかになった。さらに、オス産生温度で孵卵しても、TRPV4チャネルの阻害剤を塗布すると、メス化した個体が認められたという。同研究グループはこれらの結果から、ワニの性決定においては、TRPV4イオンチャネルが環境温度を感じる実体として関与すると結論づけた。今後、動物の性決定様式の多様性や、環境と生物の間の相互作用を考えるうえで、発生学・生態学・環境学に大きく貢献できるとしている。
2015年12月24日東北大学(東北大)は12月14日、遺伝性ミオパチーのひとつである筋変性疾患ジスフェルリン異常症を引き起こす遺伝子群を解明したと発表した。同成果は、同大学大学院医学系研究科 神経内科学分野 青木正志 教授らの研究グループ、および遺伝医療学分野 新堀哲也 准教授、青木洋子 教授らによるもので、12月10日付の米科学誌「Neurology Genetics」オンライン版に掲載された。ミオパチーは病状の進行とともに筋力の低下や筋肉の萎縮が生じる筋疾患の総称。成人で発病する遺伝性ミオパチーのなかで患者数の多いものが、肢帯型筋ジストロフィーと遠位型ミオパチーで、ジスフェルリン異常症は、DYSF遺伝子変異によっておこる肢帯型筋ジストロフィー2B型や三好型遠位型ミオパチーの総称となっている。ジスフェルリンは、筋細胞膜の傷害後の修復過程で重要な役割を持つタンパク質とされており、ジスフェルリン異常症の患者においては、ジスフェルリンの機能が失われることで、筋細胞の炎症や変性が生じると考えられている。先行研究では、ジスフェルリン異常症が疑われる160人のPCR-SSCP法によるDYSF遺伝子検査を行ってきたが、そのうちDYSF遺伝子に変異が確認できたのは約60%で、残りの患者では変異が確認されていなかった。今回の研究では、これらの患者を対象に、次世代シークエンサーを用いて筋疾患と関連することが知られている42遺伝子の翻訳領域を対象に遺伝子の配列決定を行い、原因遺伝子を探索した。この結果、解析した64名のうち新たに38名で症状と関連が疑われる原因遺伝子変異が確認された。骨格筋組織でジスフェルリンの発現の低下が確認されている90名の横断的解析では、その70%にDYSF遺伝子、10%にCAPN3遺伝子、5%にほかの遺伝子の変異が認められ、ジスフェルリン異常症を引き起こす遺伝子の種類やその割合などの具体的な遺伝子背景が明らかとなった。今後は解析を継続することで、ジスフェルリンの機能と密接に関わる新たな分子が明らかとなり、ジスフェルリン異常症の筋細胞膜の修復障害の病的機序が明らかとなる可能性があるという。
2015年12月15日国立天文台は12月4日、天の川銀河中心に潜む超巨大ブラックホール周囲の磁場構造を解明したと発表した。同成果は、国立天文台水沢VLBI観測所 秋山和徳 博士と本間希樹 教授を含む国際研究チームによるもので、12月3日付けの米科学誌「Science」に掲載された。同研究グループは今回、天の川銀河中心に存在する超巨大ブラックホール「いて座A*」を観測。いて座A*は、地球からおよそ2万5000光年の距離にある地球に最も近い超巨大ブラックホールで、太陽のおよそ430万倍もの質量をもつ。しかし、その直径はおよそ2600万kmと、太陽の約20個分の幅となっており、地球から見たときの見かけの大きさはわずか10マイクロ秒角。ブラックホールの強い重力によって空間がゆがむため、ブラックホールの姿も5倍程度に拡大されて見えると考えられてるが、それを考慮しても周囲の様子を明らかにするためには非常に高い解像度の望遠鏡が必要であった。そこで今回、米カリフォルニア州にある「CARMA」、アリゾナ州にある「SMT」、ハワイ州にある「SMA」と「JCMT」という3カ所4台の電波望遠鏡を「超長基線電波干渉法(VLBI)」という技術を用いて結合させ、直径4000kmに相当する巨大な電波望遠鏡を構成し、波長1.3ミリメートルの電波の観測を実行。約50マイクロ秒角の解像度を実現した。観測の結果、いて座A*のブラックホール半径の6倍程度の領域から出る放射が、直線的に偏光している様子が初めて計測された。また今回計測された偏光の度合いから、いて座A*のまわりの磁力線は一部が渦を巻いていたり複雑に絡み合ったりしていることが明らかになった。これについて同研究チームは「絡まったスパゲッティのようだ」とコメントしている。国立天文台は今回の成果について、今後ブラックホールそのものを直接撮像する「Event Horizon Telescope」計画にとって重要な一歩となったとしている。
2015年12月04日京都大学は11月24日、難治性の白血病が発症するメカニズムを解明したと発表した。同成果は同大医学研究科の奥田博史 特定助教、同 横山明彦 特定准教授らの研究グループによるもので、英科学誌「Nature Communications」電子版に掲載された。白血病の発症には、赤血球・白血球の基となる前駆細胞において、前駆細胞に必要な遺伝子の発現を調節しているMLLというタンパク質が関与しているとされ、MLL遺伝子が異なる遺伝子と融合して生じるMLLキメラという異常タンパク質が働くと難治性の白血病が引き起こされる。今回の研究では、まず、MLLキメラタンパク質のどの部分が細胞を白血病化する機能をもっているのか明らかにするために、マウスの造血前駆細胞内にさまざまなMLLキメラの変異体を導入し、その活性を調査した。その結果、MLLキメラと結合するAF4と呼ばれるタンパク質の構造の一部分が白血病の発症に必須の役割を果たしていることがわかった。さらに、独自開発のタンパク質精製技術を使い、AF4中の白血病発症に重要な役割を果たしている部位に結合するタンパク質を探索したところ、SL1と呼ばれるタンパク質複合体がAF4と結合することを発見。これらの結果から、MLLキメラはSL1を利用してさまざまな遺伝子の発現を活性化し、細胞を白血病化させることがわかった。MLLキメラ遺伝子が原因の白血病は乳児の急性リンパ性白血病の80%を占め、強い抗がん剤を用いた治療や骨髄移植をおこなっても再発しやすいことが知られており、同研究の成果が新たな白血病治療薬の開発に繋がることが期待される。
2015年11月25日九州大学はこのほど、マウスをモデル動物として妊娠前糖尿病が胎児に先天性心疾患を引き起こすメカニズムを解明したと発表した。同成果は同大学大学院医学研究院の目野主税 教授、蜂須賀正紘 医師らの研究グループによるもので、9月8日に「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。これまでの研究から、妊娠前糖尿病が胎児・新生児に対し、臓器形態の左右非対称性の異常である内蔵錯位を伴う先天性心疾患の発症リスクを増大させることが知られている。臓器の左右非対称性は、胚発生初期に形成される左右軸によって確立されることから、今回の研究ではマウス糖尿病モデルおよび全胚培養によって糖尿病が左右軸・心臓形成に与える影響を解析した。解析の結果、糖尿病雌マウスでは、最初の左右非対象形態形成である心臓ルーピングなどの左右性が逆転した胚が出現し、臓器の左右情報に関わるPitx2という遺伝子の胚左側の発現が消失していた。Pitx2発現消失は、左側臓器形態の右側化および先天性心疾患につながることが知られている。さらに、左右軸異常に至るメカニズムを解析するため、グルコースを高濃度に添加した培養液で高血糖状態のマウス胚を発生させた結果、この高グルコース胚では、左右軸情報が生み出されるノードという構造におけるNodalという遺伝子の活性が激減していた。NodalはPitx2を誘導する遺伝子であるため、その活性が抑制されることが、左右軸形成異常に至る原因であることがわかった。また、Nodalなどの発現を誘導するNotchシグナルも抑制されていたことから、高グルコースは左右軸形成期のNotchシグナルを抑制し、これが妊娠前糖尿病における先天性心疾患を伴う内蔵錯位発症の一因になっている可能性があると考えられるという。同研究グループは「本研究から、ヒトにおいても血糖値の逸脱が一過的であっても先天性心疾患が発生する可能性が示唆されます。また、妊娠前糖尿病では様々な種類の先天異常の発症リスクが高まることが知られていますが、その原因の多くは不明のままです。本研究の知見が、他の局面における高血糖の作用を解明する糸口となり、妊娠前糖尿病における先天異常の予防につながることが期待されます」とコメントしている。
2015年09月14日岡山大学は8月18日、イネが籾殻にケイ素を優先的に分配・蓄積するための仕組みを解明したと発表した。同成果は同大学資源植物科学研究所の山地直樹 准教授、馬建鋒 教授らと農業環境技術研究所の櫻井玄 研究員の研究グループによるもので、8月17日付(現地時間)の「米科学アカデミー紀要」オンライン版で公開された。植物は土壌からケイ素を吸収し、葉の表面などにシリカとして沈着させる。このシリカ沈着はさまざまなストレスから植物を保護する働きを持つ。特にイネは多くのケイ素を蓄積する性質があり、その蓄積は米の生産性に極めて重要とされている。イネは蒸散の少ない籾殻に高濃度のケイ素を蓄積する仕組みを持っており、その中で葉と茎の接点である「節」の働きが重要であることがこれまでの研究でわかっている。しかし、その具体的なメカニズムは断片的にしか明らかにされていなかった。今回の研究では、すでに明らかにされているケイ酸を透過する輸送体Lsi6に加えて、ケイ酸を細胞外に排出する輸送体Lsi2とLsi3の計3種類の輸送体タンパク質が節でのケイ酸の分配に協調的に働くことがわかった。具体的には、Lsi6は葉につながる肥大維管束の周縁部にある「木部転送細胞」の導管に面した側面に、Lsi2は肥大維管束を包む細胞層「維管束鞘」の外側面に、Lsi3は肥大維管束と上の節または穂につながる「分散維管束」の間の複数の細胞層に発現していた。このことから、葉へと続く肥大維管束の導管にケイ酸を含む蒸散流が流れ込むと、まずLsi6によって選択的にケイ酸が木部転送細胞に取り込まれ、続いてLsi2とLsi3によって上の節や穂へと続く分散維管束の導管に再び積み込まれる、ケイ酸の「維管束間輸送」が行われていると考えられた。また、「肥大維管束」の肥大による蒸散流の減速、「木部転送細胞」のひだ状構造による表面積と輸送体発現の増加など、「節」の特徴的な構造が効率的な「維管束間輸送」に寄与していることも判明。特に、Lsi2が発現する「肥大維管束」の「維管束鞘」に新たに見出された、細胞間の水や溶質の透過を妨げるバリアーは、Lsi6とLsi2-Lsi3の連携によって「分散維管束」側へとケイ酸を濃縮するために欠かせない堤防の役割をしていることがわかった。このケイ素の分配メカニズムは、他のミネラル元素の分配メカニズムを理解するためも重要なモデルケースになると考えられている。今回の成果をベースに、それらのメカニズムを解明し、各栄養素や毒性元素の殻粒への分配を選択的にコントロールできれば、イネ科作物の生産性や栄養価、安全性の向上が期待できる。
2015年08月19日花王は8月4日、日本人女性のしなやかな髪質の要因を解明したと発表した。同成果は10月22~23日に開催される「繊維学会秋季研究発表会」で発表される予定。同社は約40年にわたり10~60代の日本人女性の髪質実態調査を実施しており、今回の研究では「しなやかな髪質」を先天的に保有する人とそうでない人のうち、特徴的な10人の毛髪の内部構造を解析した。その結果、「しなやかな髪質」の毛髪では、表層付近に繊維がねじれて並んだコルテックス細胞が、内部に繊維が平行に並んだコルテックス細胞が多く配された二層構造であるという特徴を見出した。コルテックス細胞は、髪のしなやかさ・形・色などの性質に関連していることで知られる。この二層構造により「表層は柔軟で内部は弾力がある」という物理的性質が生まれていることが「しなやかな髪質」の要因の1つになっていると考えられるという。花王は、「今後もヒト(意識・行動・髪質実態)と物質(健康で美しい髪質を保つ技術)の大きく二つの側面からの研究知見を深化・融合させて、髪質の本質を追究する研究に注力するとともに、元の髪質によらず、誰もが理想の髪質を実感できるための技術についても研究知見を積み重ねていきます。」とコメントしている。
2015年08月04日岡山大学は7月31日、「人類最古の農業」で収穫されていたと考えられている栽培オオムギの起源を解明したと発表した。同成果は、農業生物資源研究所農業生物先端ゲノム研究センター作物ゲノム研究ユニットの小松田隆夫 上級研究員と岡山大学資源植物科学研究所の佐藤和広 教授らの研究グループと世界6カ国の研究機関の共同研究によるもので、7月31日付(現地時間)の科学誌「CELL」に掲載された。野生オオムギの実は成熟すると落ちるため、収量が少なくなってしまう。人類が収集した野生オオムギの中に実が落ちない突然変異が起きたオオムギがあるのをみつけ、それを植え始めたことが「人類最古の農業」の始まりだと考えられており、イスラエルやシリアなどでは野生オオムギに栽培オオムギが1割以上含まれた1万年前ころの遺跡が発見されている。岡山大学ではこれまでの研究で、野生オオムギの実が落ちることに2つの遺伝子が関わっており、それらが野生オオムギの自生地の西と東で集められた栽培オオムギ品種で異なっていることを発見していた。今回の研究では、ゲノム情報、遺伝学的解析および分子生物学的な証明を組み合わせることで、この2つの遺伝子のDNA配列を決定。さらに、多くの野生オオムギと栽培オオムギについて、2つの遺伝子のDNA配列の変化を比べたところ、栽培オオムギの祖先となった野生オオムギが、約1万年前に南レバント(イスラエル)で突然変異し、その後、北レバント(北西シリアから南東トルコ)で別の突然変異が起こったことを突き止めた。現在、栽培オオムギの品種は大きく2つのグループに分類されており、両突然変異の子孫を利用して、「人類最古の農業」が始まったと考えられるという。さらに、実が落ちることに関わる 2 つの遺伝子の進化の起源を調べるために、オオムギの同遺伝子とイネ科の類似遺伝子を比較。その結果、同遺伝子の進化がムギ類に特有で、数千年前に起きたことがわかった。また、2つの遺伝子が、穂の軸の節でのみ働き、細胞壁を薄くもろくする役割を持つことも判明した。南北レバントで別々に生まれた栽培オオムギの子孫は互いに性質が異なっているため、今後、それぞれの子孫の品種グループにない性質を積極的に交配することで、多様性が生まれるなど、品種改良の効率が加速することが期待される。
2015年07月31日日本人の三大疾病のひとつである、“がん”。死因の第1位になり、日本国民の3人に1人は、がんで死亡すると言われていますよね。しかし、日本の医療技術は目覚ましい進歩を続けています。抗がん剤よりも負担が少ない治療法が出ているのです。■高齢化でがん患者が10万人も増加がんに罹患する人は年々増加傾向にあり、国立がん研究センターのがん対策情報センターによると、2015年に新たにがんと診断される数は推定98万2,100人。これは2014年に出された予測よりも約10万人も増加しており、その原因は高齢化によるものだそうです。身近な病気となってしまったがんですが、昔と違い必ず死ぬというわけではなく、早期発見、早期治療により、完治できるようになりました。それでも、やはりがんにはなりたくないものです。もし、自分ががんになったり、身近な人がなったりしたらどうしますか?医学が進んだ現代。その治療法はさまざまで、内科的処置、外科的処置などの他にも、選択肢はありますが、保険が適用されるものはごく一部に限られています。世界中でがんに対する研究はされているものの、日本の治療は欧米諸国からは「ずいぶん遅れている」とかねてから言われており、患者にとっては歯がゆい状況です。■欧米と日本の一般的ながん治療の違い現在、欧米では“放射線治療”がファーストステップと言われている中で、日本での治療は手術、抗がん剤治療がまだまだポピュラー。一言でがんと言っても、できる部位は異なり、欧米では、皮膚がん、肺がん、前立腺がん、乳がんが多く、日本は胃がんがトップです。そのため、放射線治療よりも手術をする方が早いとされてきたことが、放射線治療を第一に考えなかったのも原因のひとつと考えられます。手術は痛みもあり、傷跡も残り、見た目にもよくありません。抗がん剤は、髪の毛が抜けたり、副作用があったり、全身への負担が大変大きく、なるべく使いたくないと思われる方がほとんどでしょう。しかし最近では、食生活の欧米化、生活スタイルの変化により、胃がん以外のがんにかかる人が増え、あらゆるがん治療が検討されるようになり、放射線治療への関心が高まり導入も進んできています。■放射線治療と従来の治療の大きな違いそれでは、この放射線治療は、手術や抗がん剤と比べてどんなメリットあるのでしょうか?簡単にまとめると以下の通り。・ピンポイントで照射するため正常な細胞を壊すことが少なく体への負担が少ない・治療期間、治療時間が短いため、入院しなくても良い・抗がん剤のような副作用の心配が少ない・手術をしたあとの傷跡が残ることがないもちろんメリットだけでなく、がんの部位、病変によっては対応できない場合や、保険治療できないこともあり、デメリットがないわけではありません。それでも、今後のがん治療として、放射線治療が主流になっていき、選ぶ人が増えていくことは間違いないでしょう。■注目の放射線治療は“トモセラピー”!さらに、放射線治療の中でも注目したいのが、トモセラピー。これは、元巨人軍・角盈男氏が前立腺がんで取り入れた治療法で、新聞に掲載されたあとに問い合わせが殺到したほどです。放射線治療とトモセラピーの違いは、複数のがんに対しても、対応可能であることの他に、他の放射線治療機で対応できない部位でも対応できる可能性があるということ。(適応外もあります)誰もが、健康で長生きしたいと考えます。もし、がんになって、手術をして入院になり、長期療養を余儀なくされる、抗がん剤を使用して苦しい思いをする、というのは、生きていても楽しいと思えるでしょうか?仕事をしながら、美味しいものを食べて、普通の生活をしながら、体への負担が少なく治療ができたらそちらの方が絶対にいいですよね。放射線の治療が注目され、増えつつある今、新たな治療法としてトモセラピーも増えていくはず。がんになったとき、女性が辛いのは頭髪が抜ける、手術跡が残る、といった副作用。負担はできるだけ少なくしたいもの。ひとつの治療法として、頭に入れておきたいですね。(文/Jeana)【参考】※トモセラピー-日本アキュレイ株式会社
2015年07月27日東京大学(東大)と東京工業大学(東工大)は6月26日、大腸菌が餌に反応する際に生体内で情報が果たす役割を定量的に解明することに成功したと発表した。同成果は、東大 工学系研究科の沙川貴大 准教授と東工大 大学院理工学研究科の伊藤創祐 日本学術振興会特別研究員らによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。物理学者マクスウェルが示唆した「マクスウェルの悪魔」は、熱力学第2法則を破ることができることを示したものだが、長い間パラドックスであると考えられていた。しかし、近年、実際に実験により、この悪魔を実現できるようになったほか、「情報量」の概念を熱力学に取り入れることで、悪魔が熱力学第2法則と矛盾しないことも明らかになり、そこが情報処理過程にも適用できるように拡張された熱力学「情報熱力学」の発展につながっている。この情報熱力学を用いることで、分子レベルでの情報処理をする際のエネルギーコストを明らかにすることが可能となる。一方、大腸菌は細胞内で情報を上手く処理することで、環境の変化に適応しながらエサを探す「走化性」というメカニズムの存在が知られている。こうした生命の情報伝達メカニズムは、正確な誤り訂正が常に行われているわけではないが、大腸菌の走化性におけるシグナル伝達にはフィードバック制御が組み込まれており、これが悪魔と類似の働きをしているとみなすことができると考えられてきた。今回、研究グループはこうした類似性に着目し、情報熱力学によって生体内の情報伝達のメカニズムを解明することに成功したとのことで、これにより大腸菌の細胞内を流れる情報量が、大腸菌の適応行動が外界からのノイズに対してどの程度安定であるのかを決める、という関係を明らかにし、その差異、情報量を定量化するために「移動エントロピー」を用いることが重要であることも分かったとする。また、大腸菌の適応のメカニズムは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることを突き止めたとする。なお、これらの成果について研究グループは、生体内でも定量化可能な物理量を用いて生体内の情報処理メカニズムを解明するための、新たなアプローチの第一歩になると説明しているほか、近年、マクスウェルの悪魔が実験的に実現されていることから、生体内の悪魔のメカニズムを人工的な情報処理に応用できる可能性があるとしている。
2015年06月26日理化学研究所(理研)は6月16日、原子レベルの超格子薄膜技術を用いてイリジウム酸化物の電子相を制御し、磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることを解明したと発表した。同成果は、理研 石橋極微デバイス工学研究室の松野丈夫 専任研究員、東京大学 理学系研究科の髙木英典 教授、東京大学 物性研究所の和達大樹 准教授(研究時は東京大学工学研究科特任講師)、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究センターの石井賢司 研究主幹、トロント大学 物理学科のHae-Young Kee教授らによるもの。詳細は、「Physical Review Letters」に掲載された。イリジウム酸化物は、低消費電力デバイスを実現する材料として期待されるトポロジカル絶縁体の1種で、電子のスピンと軌道運動の磁気的な相互作用である「スピン-軌道相互作用」と、電子同士の相互作用である「電子相関」を併せ持つ物質として知られているが、これまでその結晶構造の種類が少なかったため、イリジウム酸化物全体の性質を体系的に理解できていなかった。今回、研究グループは、原子レベルでイリジウム薄膜とチタン酸化物薄膜を交互に積み重ねた超格子構造を作製し、イリジウム酸化物の電子相を精密に制御することが可能であることを示し、磁性を持った絶縁体相から特殊な金属の一種である半金属相へと電子相が変化していく様子を連続的にとらえることに成功したという。この結果、イリジウム酸化物における磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることが判明したとのことで、これにより、イリジウム酸化物において期待されるさまざまな電子相を超格子構造によって自在に制御する可能性が示されたとする。なお、研究グループでは今回の成果を受けて、理論で予測されながらも発見されていない新たな種類のトポロジカル絶縁体の実現、さらには低消費電力デバイスへの応用が期待できるようになるとしている。
2015年06月18日東京大学(東大)と国立天文台は6月9日、アルマ望遠鏡と重量レンズのかけ合わせで、117億光年の距離にある銀河の内部構造を解明したと発表した。同成果は東京大学理学系研究科の田村陽一 助教と大栗真宗 助教および国立天文台の研究グループによるもので、6月9日付けの「日本天文学会欧文研究報告」に掲載された。重力レンズとは、質量が時空の歪みを介して光を曲げる減少で、非常に重い天体の周囲で生じ、その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質がある。今回の研究では、今年2月にアルマ望遠鏡がとらえた117億光年の距離にあり、爆発的に星を生み出しているモンスター銀河「SDP.81」の画像を、同研究グループが提案した重量レンズ効果モデルを用いて解析した。その結果、「SDP.81」では差し渡し200~500光年の塵の雲が、およそ長さ5000光年の楕円状の領域に複数分布していることがわかった。この塵の雲は、巨大分子雲と呼ばれる、恒星や惑星が生まれる母体だと考えられるという。また、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に質量が太陽の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することも判明した。今後、アルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせで、なぜモンスター銀河が形成されるのか、どのように超巨大ブラックホールが成長するかの解明につながることが期待される。
2015年06月09日岡山大学は5月29日、光化学系Iというタンパク質複合体の構造を解明したと発表した。同成果は同大大学院自然科学研究科(理)の沈建仁 教授(同大光合成研究センター長)、菅倫寛 助教と中国科学院植物学研究所の共同研究グループによるもので、5月29日付け(現地時間)の米科学誌「Science」に掲載される。光化学系Iタンパク質複合体は、酸素発生型光合成において、太陽光を生物が利用可能な化学エネルギーに変換する役割を担い、水からの電子と光エネルギーを利用して、二酸化炭素を糖に変換するために必要な還元力を作り出している。高等植物の光化学系I複合体は14個のタンパク質と90個以上のクロロフィル(葉緑素)、22個のカロテノイドなどで構成されており、外側に光エネルギーを集める集光性アンテナタンパク質が4つ結合し光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体が形成されている。光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体における光エネルギーの高効率吸収・伝達の機構を明らかにするためには、同複合体の立体構造を解明する必要がある。同研究グループは、エンドウ豆の葉から精製・結晶化した光化学系I複合体を、大型放射光施設SPring-8を利用することで2.8 Å分解能で立体構造を解析。その結果、155個のクロロフィル分子を同定し、これまで分かっていなかった多くのカロテノイド、脂質分子などの配置を解明した。さらに、詳細な構造が分かっていなかった多くのタンパク質サブユニットの構造を明らかにし、光エネルギーを吸収し、反応中心へ伝達する経路を同定することに成功した。同研究グループは今回の研究成果について、光合成の機構解明や人工光合成での光エネルギー利用効率の向上だけでなく、他の巨大膜タンパク質の結晶構造解析にも重要な知見を提供することになるとしている。
2015年05月29日東京大学(東大)は5月27日、一般相対性理論から導き出される重力の基礎となる「時空」が、さらに根本的な理論の「量子もつれ」から生まれる仕組みを計算を用いて解明したと発表した。同成果は、同大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の大栗博司 主任研究員、カリフォルニア工科大学数学者のマチルダ・マルコリ教授と大学院生らの物理学者と数学者からなる研究グループによるもの。詳細は米国物理学会が発行する学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。世界は、「電磁気力」「強い力」「弱い力」「重力」の4つの力が存在しているとされているが、このうち重力を除く3つの力については量子力学を基礎とした理論を用いて統一的に説明できることが分かっていたが、重力も含めて統一的に説明するためには、重力も量子化する必要があった。一般相対性理論では、ある時空に含まれる情報は、その内部ではなく表面に蓄えられるとする原理「ホログラフィー原理」により、量子効果から重力現象の基礎となる時空が生じるとされてきたが、その仕組みはよくわかっていなかったという。今回、研究グループは、量子効果から時空が生じる仕組みの鍵は量子もつれであることを見出し、中でもエネルギー密度のような時空中の局所データが、量子もつれを用いて計算できることが示されたとしており、これにより、量子もつれが重力現象の基礎となる時空を生成することが示されたとする。なお研究グループでは、今回の成果について、一般相対性理論と量子力学とを統一する理論の構築に向けた研究の前進に寄与することが期待されるとコメントしている。
2015年05月28日理化学研究所(理研)と東京大学は4月9日、メタボリックシンドロームに関連する分子として注目されているアディポネクチン受容体の立体構造を解明したと発表した。同成果は理研横山構造生物学研究室の横山茂之 上席研究員と、東京大学大学院医学系研究科の門脇孝 教授、山内敏正 准教授らの共同研究グループによるもので、4月8日(現地時間)付の英科学誌「Nature」オンライン版に掲載される。アディポネクチン受容体は、細胞膜に存在する膜タンパク質で、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンというホルモンによって活性化し、細胞において糖と脂質の代謝を促進し、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用を発揮する。タンパク質の立体構造を知ることは、創薬において有用とされる。特に、膜タンパク質は細胞外からの情報を細胞内へと伝達する役目を担っているため、薬の標的分子として注目されている。しかし、アディポネクチンは試料調整が難しく、その立体構造情報を得ることができていなかった。同研究では、高純度の膜タンパク質を大量に製造する手法や、結晶化手法などを使い、アディポネクチン受容体の結晶化に成功。この結晶を大型放射光施設「SPring-8」を用いてX線解析することでその立体構造を調べたところ、同受容体は現在までに知られている膜タンパク質とは異なり、膜貫通部位に亜鉛イオンを結合するなど新規の構造をしていることが判明した。今回の研究成果はアディポネクチン受容体の情報伝達メカニズムの解明につながるだけでなく、メタボリックシンドローム・糖尿病の予防薬や治療薬の開発に有益な情報となることが期待される。
2015年04月09日岡山大学は、1920年代に開発され、未だに既存の治療薬が効かないてんかん患者に効果を発揮する難治性てんかん治療薬である「ケトン食療法」の仕組みを解明することに成功し、ケトン食療法に基づく新たなてんかん治療薬が開発可能であることを示すことに成功したと発表した。同成果は、同大大学院医歯薬学総合研究科(薬)の井上剛准教授、佐田渚大学院生らの研究グループによるもの。詳細は2015年3月20日付で米国科学振興協会(AAAS)発行の科学誌「Science」に掲載された。てんかんは、脳が発する電気活動の過剰興奮を特徴とし、全人口の約1%が罹患していると言われているが、そのうちの約3割の患者は、既存のてんかん治療薬でコントロールできない難治性てんかん患者で、そうした患者には1920年代に開発されたケトン食療法が効果的であることが知られていた。今回、研究グループはケトン食が引き起こす代謝変化が、どのように脳の電気活動を変化させるのか調査。その結果、脳内のグリア細胞から神経細胞へ乳酸を運ぶ代謝経路が、電気活動に重要であることを発見したほか、この乳酸経路上に位置する乳酸脱水素酵素を阻害することで、電気活動が抑制され、てんかんマウスの発作が抑えられることを確認したという。さらに研究グループは、乳酸脱水素酵素を阻害する化合物の探索も実施。その結果、小児の難治性てんかんの治療薬として近年承認されたスチリペントールが、乳酸脱水素酵素の阻害剤であることを見出したほか、スチリペントールの化学構造を変化させることで、より強力な抗てんかん作用を示す乳酸脱水素酵素阻害剤となることを見出したとする。今回の結果について研究グループでは、乳酸脱水素酵素とスチリペントール類似体を用いることで、新たなてんかん治療薬開発の具体的な道筋を示すことができたとしており、今後、今回の知見を生かし、代謝を制御する分子(代謝酵素)を標的とする新たなコンセプトのてんかん治療薬の開発が期待できるようになるとコメントしている。
2015年03月24日岡山大学はこのほど、マラリア原虫の薬剤耐性タンパク質の働きを解明したと発表した。同成果は同大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の森山芳則 教授、表弘志 准教授、自然生命科学研究支援センターの樹下成信 助教らの研究グループによるもので、3月2日付け(現地時間)の「米科学アカデミー紀要」電子版に掲載された。3大感染症の1つとされるマラリアは現在でも世界で年間2億人が感染し、60万人以上が死亡している。近年、抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫が出現し、対策が困難となってきている。マラリア原虫の抗マラリア薬に対する耐性の原因としてPfCRTタンパク質の遺伝子変異が知られているが、マラリア原虫の遺伝子が特殊であることや、膜タンパク質の生産が難しいことからタンパク質レベルでの解析ができず、PfCRTの働きについてはわかっていなかった。今回の研究では、PfCRTの遺伝子を合成し、岡山大学が開発した膜タンパク質の生産システムに導入。PfCRTを大腸菌に大量に作らせ、精製し、その機能を測定することに成功した。その結果、PfCRTは薬物を輸送するだけでなく、アミノ酸やポリアミンなどの栄養物質を輸送するトランスポーターであることがわかった。アミノ酸はマラリア原虫が生きていくために必須な栄養素で、抗マラリア薬はこの働きを阻害することで効果を発揮していたことが示唆された。今回、PfCRTが運ぶ物質が特定されたことで、同タンパク質を標的とした新しい抗マラリア薬の開発につながることが期待される。
2015年03月03日情報通信研究機構(NICT)は2月25日、ヒトの協力行動における前頭前野の機能を解明したと発表した。同成果はNICT脳情報通信融合研究センターの春野雅彦 主任研究委員らによるもので、米科学誌「The Journal of Neuroscience」の2月25日号に掲載される。なぜヒトは協力するのかという問題に対しては近年まで、「自分の取り分を増やしたいと活動する古い脳(皮質下)の働きを、理性的な新しい脳(前頭前野)が抑制して協力が生じる」という説が有力視されていた。春野主任研究員らは2010年に行った研究で、皮質下に位置する扁桃体が「不平等」に反応し、その活動が協力行動の個人差に関係することを報告しており、従来説が必ずしも正しくないことを示していた。一方、前頭前野が協力行動に関わるという報告も多くあり、その機能は謎とされていた。今回、春野主任研究員らは近年の経済学で「不平等」とともに重要性が指摘されている「罪悪感」に着目し、41名の被験者に、新たに考案した信頼ゲームを行わせ、この時の脳の血流をfMRI装置によって観測した。このゲームは2名のプレイヤーA、Bがペアになって行う。まず、Aがゲームへ参加するか不参加かを決定し、次にBが協力するかどうかを決める。それぞれのプレイヤーは選択に応じて異なるお金が配分される。なお、参加を選ぶAはBが協力するかどうかの期待確率を答える。つまり、Bは協力する場合としない場合の両プレイヤーへの配分額とAの期待度を知った上で行動を決めることになる。配分額はAの場合、"Bが協力した時"が最も多く、次に"Aが参加しない場合"、"Bが協力しない場合"の順で設定。一方、Bの配分額は、"Aに協力しない時"が最も多く、次に"Aに協力するとき"、"Aが参加しない時"の順になるように設定した。したがってAが参加を選択した場合、一番多い配分額を期待してBの協力に信頼を寄せることになる。また、Bは"協力しない"を選択した場合、Aの信頼を裏切り、高い配分を受けるので「罪悪感」を感じる事になる。同研究では、配分額をゲームごとに変更することで、プレイヤーBが感じる「不平等」と「罪悪感」の程度を操作できるようにした。これにより得られたデータを解析したところ、右前頭前野の活動が「罪悪感」と、扁桃体と側坐核の活動が「不平等」と連動していることが判明した。これは行動決定における前頭前野の機能が「罪悪感」の計算であることを示唆している。研究ではさらに、22名の別の被験者に対し、前頭前野へ電流刺激を行いながら信頼ゲームを実施し、電流刺激を行わなかった場合と比較した。電流刺激によって「罪悪感」に基づく協力行動が増加するのに対し、「不平等」に基づく協力行動は変化せず、右前頭前野の脳活動が示す「罪悪感」と協力行動の間の因果関係が示された。同研究グループは今回の知見について、ヒトに固有な大規模な社会やコミュニケーション能力が進化したメカニズムの理解や社会認知と深く関係する発達や精神疾患の類型化に貢献することが期待されるとしている。
2015年02月25日京都大学は2月2日、イエネコの移動経路・各品種の起源を解明するための有用な指標となる内在性レトロウイルス(ERV)を発見したと発表した。同成果は同大学ウイルス研究所の宮沢孝幸 准教授、医学研究科博士課程学生4年の下出紗弓氏(日本学術振興会特別研究員 DC2)、東海大学の中川草 助教らの研究グループによるもので、2月2日付の国際学術誌「Scientific Reports」に掲載された。イエネコの祖先は中東に生息するリビアヤマネコであるとされており、約1万年前に農耕の発達と共にねずみ対策として家畜化され、その後貿易商人やバイキング、仏教徒などと共に世界を旅したことで世界中に広がっていったと考えられている。しかし、どのように世界各地に移動し、約100種もの品種が作られたのかは明らかにされていない。研究グループが着目したERVは、生殖細胞にレトロウイルスが感染すると、ゲノムの一部として子孫へ遺伝する。宮沢准教授らは、全てのイエネコが保有しているERVである、RD-114ウイルスの分布を評価することで、ネコの移動過程を解明できると考えた。その結果、アジアのネコは約4%しか保持していないRD-114ウイルス関連配列(RDRS)を、欧米では約半数が保持していることが判明。このことから、中東で家畜化したイエネコのうち欧米へ向かった一部の集団にのみこの新しいRDRSが侵入したと推測された。また、ヨーロピアンショートヘア(ESH)、アメリカンショートヘア(ASH)、アメリカンカール(AC)は共通してE3染色体にRDRSを保有していた。ESHの元となったスカンディナビア半島のネコはイギリスへ渡った後、メイフラワー号に乗ってアメリカに上陸し、ASHやACが作られたと言われており、新しいRDRSが各品種の起源を知る上で有用なマーカーとして使用できることがわかった。研究グループは今回の成果について、RDRSはイエネコの起源・歴史を解明するだけでなく、品種ごとの特徴・違いの理解にも役立つとしている。
2015年02月03日国立がん研究センターは1月20日、肺がんの悪性化に関る新たな分子メカニズムを解明したと発表した。同成果は、同センター難治進行がん研究分野の江成政人 ユニット長らの研究グループによるもので、米国科学アカデミー紀要に掲載された。同研究では新たに、肺がん細胞から分泌される因子によってがん周辺間質の主要な細胞である線維芽細胞のがん抑制因子p53の発現が抑制されることを発見。p53の発現が低下した線維芽細胞では、TSPAN12というタンパク質が増加し、線維芽細胞とがん細胞との細胞間接触依存的に肺がん細胞の浸潤能および増殖能を促進していることが判明した。さらに、TSPAN12は分泌性因子であるCXCL6の発現を誘導し、これら線維芽細胞由来の分泌性因子も肺がん進展に協調的に働くことも明らかとなった。今後、TSPAN12およびCXCL6はがん周辺の間質の有用な治療標的となり得ると考えられ、これらのタンパク質に対する抗体、ペプチド、低分子化合物などが、既存の抗がん剤との併用で治療効果をもたらすことが期待される。
2015年01月20日北海道大学(北大)は1月5日、生体内でB型肝炎ウイルス(HBV)が認識される仕組みを解明したと発表した。同成果は北大、名古屋市立大学、国立感染症研究所、米ロックフェラー大学、東京都医学総合研究所、フェニックスバイオらによるもので、12月31日付(現地時間)の米免疫学雑誌「Immunity」に掲載された。同研究グループは、HBVがヒト肝細胞に感染した際のセンサー分子は何か、またHBVを認識した後にどのような免疫応答が発生するのかについて、自然免疫に着目して研究を進めた。その結果、DNAウイルスであるHBVが、細胞内のRNAセンサーとして知られるRIG-Iによって認識されることを発見。その下流で抗ウイルス活性のあるインターフェロンを産生し、感染防御を誘導することがわかった。また、RIG-Iは、センサー分子として働くだけでなく、直接的にウイルスの複製を阻害する働きを持っていることも判明した。さらに、この複製阻害の仕組みに基づいたB型肝炎治療の創薬を支持する結果が、ヒト肝臓を移植したヒト化マウスモデルを用いた実験で得られたという。今回、生体内での分子センターを同定し、その認識機構の一端を明らかにしたことに加え、ウイルスの抑制の可能性を示唆する結果も得られたことによって、新たな視点でのHBV治療薬の開発につながることが期待される。
2015年01月05日東京大学と東北大学は、鉄系高温超伝導体において、これまで明らかになっていなかった超伝導電子の電子状態を解明したと発表した。同成果は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の水上雄太助教、芝内孝禎教授(京都大学大学院 理学研究科 客員教授兼任)、東北大学 金属材料研究所の橋本顕一郎助教らによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。2008年に発見された鉄系超伝導体は、その発見以降、短期間で膨大な量の研究がなされたにもかかわらず、その超伝導発現機構と密接に関係する超伝導電子の電子状態が未解明だった。今回、純良単結晶に電子線を照射して、その照射量を増やすに伴い超伝導電子の数が非単調に変化することを初めて観測したことによって、"s±(エスプラスマイナス)"型の対称性であることが明らかとなった。これは磁気揺らぎを主な機構とする超伝導において提案されたものであるという。今後、より高い温度での超伝導の実現を目指し、この機構を用いた超伝導体の設計指針につながることが期待されるとコメントしている。
2014年12月02日東北大学は11月27日、超高分解能顕微鏡観察と第一原理計算の併用により、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)単結晶表面の電子状態の解明に成功し、電子密度の空間分布がエネルギーに依存して変化していることを明らかにしたと発表した。同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の濱田幾太郎助教(現 物質・材料研究機構 MANA研究者)、一杉太郎准教授らによるもの。日本学術振興会の清水亮太特別研究員と共同で行われた。詳細は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。チタン酸ストロンチウムをはじめとした金属酸化物は、微細加工の限界に達しつつあるシリコンに代わるエレクトロニクス素子の基幹物質として注目されている。しかし、酸化物の表面構造を原子レベルで制御することが極めて困難なため、表面の原子配列と電子状態の理解が十分とはいえず、高性能化や実用化への障害となっていた。研究グループは、これまでの研究によって、試料の調製方法を最適化することにより、原子レベルで制御されたチタン酸ストロンチウム基板表面を作製することに成功している。そして、今回の研究では、まず原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡を用いて表面の観測を行った。その結果、チタン原子と酸素原子が整然と並び、大小2つの穴が交互に並ぶ市松模様となっていることが分かった。また、実験結果とは独立して物質の電子構造を計算する第一原理電子状態計算を組み合わせる手法を用いて、チタン酸ストロンチウム表面の電子状態を調べたところ、表面電子状態の空間分布がエネルギー状態によって、リング状から四葉のクローバー状へ変化することを明らかにしたという。今回の研究成果は、原子レベルで制御されたチタン酸ストロンチウムの表面における原子配列と電子状態を初めて解明した画期的な成果であり、酸化物エレクトロニクスの発展につながる。そして、酸化物表面や異種酸化物界面で発現する電気伝導性、磁性、超伝導といった物理現象のメカニズム解明にもつながるとコメントしている。
2014年12月01日大阪大学は11月20日、運動がうつ病予防・改善に役立つメカニズムを解明したと発表した。同成果は、同大学大学院医学系研究科解剖学講座(神経細胞生物学)の近藤誠 助教、同 島田昌一 教授らによるもので、11月18日(現地時間)付けの国際科学誌「Molecular Psychiatry」オンライン版に掲載された。うつ病にはセロトニンという神経伝達物質が関わっていると考えられている。セロトニンは運動によって脳で増加することが知られているが、脳内でどのように働いているかはわかっていなかった。今回の研究では、セロトニンの受容体に着目し、マウスを用いて運動が脳にもたらす変化の仕組みを調べた。セロトニン受容体を欠損したマウスを用いて、運動後に海馬の神経細胞とマウスの抑うつ行動を解析した結果、セロトニン3受容体が、運動のもたらす抗うつ効果や海馬の神経細胞の新生に重要な役割を果たしていることが判明した。同研究グループはこの結果について「うつ病などの精神疾患の予防やメンタルヘルスの維持・健康増進に貢献することが期待される」とコメントしている。
2014年11月20日京都府立医科大学と科学技術振興機構は11月11日、マウスES細胞を用いて細胞分化と密接に関連した体内時計の発生メカニズムを解明したと発表した。同成果は、同大学大学院医学研究科 八木田和弘 教授、同 梅村康浩 助教、米テキサス大学のジョセフ・タカハシ 教授、大阪大学の安原徳子 博士(現 医薬基盤研究所)らの共同研究によるもの。11月10日(現地時間)の米科学雑誌「アメリカ科学アカデミー紀要」のオンライン速報版に掲載された。体内時計は、「昼と夜」という地球の環境周期を予測し、これに先んじて身体の機能を適応させることで生体機能を維持する役割を担っている。哺乳類では、睡眠覚醒リズムのみならず、内分泌やエネルギー代謝、循環器機能や消化器機能など様々な生理機能の約24時間周期のリズム(概日リズム)を生み出している。シフトワーカーなど、不規則な生活を長年続けることによる体内時計の乱れは、様々な健康問題を引き起こすことが分かっている。哺乳類の体内時計は、全身のほとんどの細胞に備わっている、普遍的な細胞機能でもある。体内時計は一生にわたって時を刻み続けるが、発生初期段階では体内時計のリズムが見られず、発生過程を通して形成されると考えられている。しかし、体内時計の発生メカニズムは今までほとんど分かっていなかった。八木田教授は、マウスES細胞を用いたこれまでの研究で、ES細胞に体内時計のリズムが見られないこと、培養皿上で分化誘導培養すると細胞自律性に約24時間周期の体内時計リズムが形成されることを世界で初めて発見していた。この発見から、体内時計の発生が細胞分化制御と何らかの関連があるのではないかということが示唆されていた。同研究グループは今回、マウスES細胞を用いた研究で、細胞分化に関連する遺伝子を欠損したES細胞では、分化誘導によっても体内時計が正常に形成されないことを突き止めた。また、体内時計リズムがない細胞には共通して、周期的に核内に蓄積されるはずの「PERIOD(PER)」というタンパク質が細胞質に留まり、その結果核内蓄積が起こらないことが判明した。この現象の制御する鍵因子を同定するために研究を進めたところ、タンパク質の核内への移行を制御し、細胞分化制御に必須の役割を果たすインポーチンの一種に異常が起きると、PERタンパク質の細胞内局在パターンにも異常を来すことが確認された。同研究グループは、細胞分化と体内時計という普遍的な細胞機能に、これまで考えられていなかった新たな関係性を見いだしたことで、これまで統一的見解が無かった体内時計と「がん」との関係の理解や、新たな体内時計の活用法開発などの応用にもつながると期待されるとしている。
2014年11月11日東京農工大学は10月10日、大型台風にも耐えられる最強のイネとして知られる「リーフスター」の強さの謎を解明したと発表した。同研究成果は同大学大学院農学研究院生物生産科学部門の大川泰一郎 准教授と、名古屋大学、富山県農林水産総合技術センター、農業生物資源研究所との共同研究によるもので、10月9日(現地時間)の英科学誌「Scientific Reports 」に掲載された。「リーフスター」は同大学と農業生物資源研究所が2008年に共同育成した品種で、「中国117号」と「コシヒカリ」を親に持ち、非常に強い茎をもちながら、消化性・糖化性の効率を低下させるリグニンという化合物の含有率が少ないという特長をもつ。消化性は飼料として、糖化性はバイオ燃料原料として利用する際に必要な性質で、多用途のイネをつくるためにはリグニンの含有率を抑える必要がある。しかし、リグニンは植物にとって構造的な強度を高めるのに重要な物質であることが知られており、なぜ「リーフスター」は強度の高い茎を持ちながらリグニン含有率が低いのかわかっていなかった。「リーフスター」は親の「中国117号」と同様、籾と茎の部分が黄褐色に着色するゴールドハル形質を見せるが、これがリグニン合成酵素の変異によって生じることが最近報告された。そこで同研究グループは、「リーフスター」とその両親におけるリグニン合成酵素の遺伝変異と低リグニン性の関係、低リグニンでも強い茎を持つ「リーフスター」特有の新形質を調べたという。その結果、「リーフスター」のゴールドハル形質は「中国117」号からの遺伝ではなく、偶発的に異変が生じたことが判明。調査を進めたところ、「リーフスター」は茎の細胞壁を構成するセルロース、ヘミセルロースの密度が高く、茎の外周部分に位置する皮膚繊維組織がよく発達しているだけでなく、内側の柔組織細胞も厚く発達していた。この形質は茎が細く強度が弱いながらも、皮膚繊維組織がよく発達する「コシヒカリ」に由来することがわかったという。今後は、セルロース、ヘミセルロース密度を高める原因遺伝子の特定、皮層繊維組織の発達に関わるメカニズムを解明し、大型台風でも倒伏しにくい多収、高バイオマスの食用、飼料、バイオマスエネルギー用イネ品種の改良を目指す」とのこと。
2014年10月10日