2019年10月2日 11:00
よりよく生きるは無理 緩和ケア医ががんになり気づいたこと
痛みがあれば、胃潰瘍の可能性もあるんですが、私にはなかった。翌朝、病院に行く前には、腹をくくっていましたね」
とはいえ、気は動転していた。妻のあかねさん(51)にどうやって伝えたのかは覚えていないという。必死で冷静さを保って大橋さんは、勤務先の病院を受診した。
「胃がんではなく、ジストという悪性腫瘍。ただ手術ができるという診断だったので、“完治する見込みはある”と希望が持てました」
なんとか手術にたどり着くため、体力もつけなければならない。
「固形物が食べられず、エレンタールという栄養剤を飲んでいたんです。でも、これがまずくて……。
患者さんに処方したこともあったのに、これほどまでとは知らなくて、仕方なく洗面所に“飲んで”もらったこともあります」
そんなときありがたかったのが、あかねさんお手製のコンソメスープだったという。
「私が言うのも何なんですが、どこにでもあるような簡単なスープ。でも、これがおいしくてね。妻が毎日、持ってきてくれました。大学生の息子がふらっと顔を見せにきてくれるのも、すごくうれしかったですね」
命に関わる病気にかかって、それまで意識することもなかった家族との時間をいとおしく感じた。