パパも頑張っています! 男性歌人がうたう「育児と子育て」の短歌
© hakase420 - Fotolia.com
前回は、子育てまっさかりの女性歌人がうたった子育て短歌をご紹介しました。今回は、パパになった男性歌人にうよる子育て短歌です。
赤ちゃんが産まれる前からお腹の中で育てている女性にとって、つわりに苦しみ、陣痛に耐えて、ようやく対面したわが子は自分の分身のような存在。ところが男親にとっては、わが子の誕生はうれしい反面、戸惑うことも多いようです。
現代歌壇で活躍中の男性歌人たちは、父親になることや育児、子育てをどのように考えているのでしょうか?
父になる違和感?
「陰暦の八月みたいにずれている 二十五歳の父であること」 吉川宏志『夜光』
吉川氏は父親になった不思議さを、太陰太陽暦にたとえました。
陰暦とは、日本では明治5年まで使われていた暦(旧暦)です。月の満ち欠けを基準に「月」を決め、太陽の動きをもとにして「年」を数えます。
よって毎月1日はかならず新月になり、15日頃が満月になります。
そのため現在の暦よりも1ヶ月ほど遅れます。だから、陰暦の8月を新暦に直すと秋になってしまいます。
慣れ親しんでいる暦なら、真夏の8月に鈴虫が鳴き、すすきが生えているのは、なかなか理解しがたい感覚ですよね。
「乳足らぬ 夜に鮎太が泣きはじむ 歯のない歯茎を我は見ており」 同上
まだ、歯の生えていない新生児の口のなかはまっくら闇。そこにピンクの歯茎があるのは、なまなましく見えるものです。泣き出した息子をながめながら、作者は「歯がない歯茎」を発見した自分自身を客観視している、そんな歌です。ママよりもパパは、わが子を客観的に観察しているのかもしれませんね。
しかし、歌集はクールな作品ばかりではありません。
「頭(ず)の中で石の割れたる感じして 子の頬を撲つ飯食わぬ子を」同上
「遊びたい 寝るのは嫌と子は泣けり こんなにわれは眠りたいのに」 同『海雨』
子育てを歌にして詠むことで、人間くさい本心が見え隠れして、作品世界に奥行きが広がっています。