2016年8月15日は終戦記念日。今年で戦後71年目をむかえます。憲法改正をめぐるニュースも報道されていることから、あらためて平和について考えさせられる方も多いことでしょう。
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あの悲惨なできごとを風化させないためにも、家族で読みたい絵本を紹介します。
■『まちんと』(偕成社)文・松谷みよ子 絵・司修
原爆投下直後の広島。まもなく3歳になる女の子はトマトを口に入れてもらうと「まちんと、まちんと」とねだります。お母さんは焼け崩れた街にトマトを探しにいきましたが、なかなかみつかりません。
ようやく、たった1つだけみつけて戻ったとき、その子は、「まちんと、まちんと」といいながら、もう息をひきとっていました…。
“まちんと”とは、「もうちょっと」という意味の方言を幼い子が舌たらずにしゃべっている感じのことばです。
よけいな説明はなく、原爆で燃えあがる街でトマトを欲しがる女の子を描写するだけのシンプルな構成です。だからこそ、傷ついて息も絶えそうな幼子が求めるトマトの冷たい感触やみずみずしさが強調され、原爆の残酷さを歴史上の物語ではなく、実際に起こった悲劇してとらえることができるのではないでしょうか。
極限の状況で出てくることばに混じる、ふるさとなまりの「まちんと」。その語感がかなしく懐かしい響きに思えてなりません。
■『チロヌップのきつね』(金の星社)文・絵 たかはしひろゆき
太平洋戦争末期、北の孤島「チロヌップ」を舞台に、漁に来たおじいさん、おばあさんと兵隊に襲われるきつね一家の交流を描く物語です。
作者の高橋宏幸は、兵士として1944年の暮れに千島のウルップ島に上陸しました。そこは、たくさんのきつねが暮らす美しい島だったそうです。
ある日、密猟者のしかけた鉄のわなに子きつねの白骨体がかかっているのを見つけ、どこにもぶつけようのない激しい怒りを感じたそう。その体験が『チロヌップのきつね』を生み出すきっかけとなったのだとか。
実話をもとにつくられた創作童話だからでしょうか、静かな迫力とかなしみにあふれています。
鳥や獣が人間のことばを話す物語はよくあります。『チロヌップのきつね』は擬人化されていないにもかかわらず、坊やのきつねを探すため、銃声がこだまするなかへ飛びこむ父きつねの勇敢な姿や、わなにかかった娘のきつねを救おうとする、けなげな母きつねに胸が熱くなります。
戦争だけでなく、親子の結びつきや環境問題についても考えさせられる名作です。