連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記
子どものやる気スイッチはそう都合よく見つからない【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第14話】
モーは相変わらずひょうひょうとしているように見えたが、受験が近づくにつれ“第二志望の学校に行ってもこういう楽しみがある……”などと精神的なセーフティネットを用意し始めたので、発破をかけたり、なだめたり、ほったらかしたりした。受験前日、さすがに顔が緊張していたモーに「君ならできる。そしてできなくても君だ」というと「それ全部のパターン言っただけじゃん」と的確に返してきたので、よし、まだ余裕があるな、と確認。
そんなこんなで迎えた試験当日。最近の学校はハイテクで、試験を受けたその日にネットで合否が発表されることになっていた。仕事から早々に帰って、モーとパソコンの前でそのときを待つ。定刻。リロードとともに現れたリンクをクリックすると、画面には「合格おめでとうございます」の赤い文字。
「……おおおっ!!!」と同時に声をあげた。
そもそも学力相応と思われる学校を選んでいたので合格してもらわなければ困るところだったのだが、それでもやっぱり、手を取り合って喜び合った。長きに渡る戦い(と言えるほど奮闘したかと言われると微妙なところだけれども)が、ひとまず、幕を閉じた。
受験のタイミングに合わせて、なりたい自分、進みたい未来が見え、自動的にやる気スイッチが押されるというスムーズな展開が望ましいけれど、現実にはそうそう都合よくいくとも限らない。実際、中学受験は自分で決めた私も、大学受験については最後の最後で、進学したその先にある自分の姿が描けず、受験を辞めているのである。
モーは、小さな田舎町で育った私とは違い、東京の真ん中で、小さいときからたくさんの大人に触れて育ってきた。早くに生き方の多様性を知っているからこそ、ギリギリまで一つを選べなかったのかもしれないとも思う。でも、だからってそれが、必ずしも悪いこととは思わない。
こうしたい!これをやりたい!と、早くに一つを選び、やる気スイッチでブーストをかけ成果を上げるやり方もあれば、のらりくらり長い時間をかけた結果、気づけばこれだけは飽きずに続けている、ということが、掘り出されるように見えてきたりもする。そうやって出てきたものを、大切に育てていくやり方だってあるのだ。そしてその場合に、元となるものが大きければ大きいほど、骨太なものが掘り出されるんじゃないかとも思う。
いずれにしても、これからモーは色々な局面で「どう生きたいのか?」という難問と向き合っていくことになるんだろう。悩まなくていい、とは言わない。「自分はダメだ……いや、天才かも」の行き来を何度となく繰り返し、大いに悩んで欲しいものである。
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