引越し先で初めて迎える4月、息子は新たな保育園に通い始めた。初めの一週間は慣らし保育というシステムで短時間からスタートする。妻と僕は仕事を調整して対応した。
初日と2日目は9時〜12時、給食を食べてから帰ってきた。行きも帰りも泣かないで踏ん張っていた。
家に着くなりダッシュでブロック遊びを始め、「お父さんも来て〜!」急げ急げと張り切っている。
まるで何事も無かったように過ごしていた。しかし、息子からは一言も保育園でのエピソードが出ない。
僕は「慣れるまでの辛抱だ」と心の中で自分に対してなのか息子になのか曖昧なままつぶやいた。
登園3日目は15時まで、給食を食べて昼寝しておやつを食べて帰ってきた。この日も昨日同様にブロック遊びにまっしぐら。
「お父さんもお母さんも一緒に遊ぼうよ!!」勘ぐりすぎかもしれないけれど、保育園での緊張感を振り払っているように見えた。
「今日はお仕事しないといけないんだ」と僕が言うと泣いてしまったが、妻のフォローでなんとか落ち着きを取り戻した。
その後は驚異のハイテンション。リビングから仕事部屋までは2部屋挟んでいるけれど大声がこだましていた。
登園4日目は16時まで、息子はここにきて忍耐力の限界を迎え始める。保育園に迎えに行くと昼寝から起きた子ども達は教室で思い思いに散らばって遊んでいる。
息子はこちらに背を向けて一人でぽつんと絵本を開いていた。…寂しい。
「こんにちは、田渕です」と挨拶すると息子がクルッと振り返り、友達や先生に聞かれたくないから小さめの声で「お〜と〜お〜う〜さあ〜ん」と軟体動物のように骨抜きになってトロトロと甘えてきた。
この人、相当無理してる!と察知してすぐに教室から連れ出して抱っこする。
息子は抱きつき返しては来ない。もう手も足もトロトロでそんな気力もないのだ。
その後、園門を出ても「お〜と〜お〜う〜さあ〜ん」と甘え続けていた。
門を出て息子を自転車に乗せようとするが、とろけているので危ない。「抱っこがいい〜」と言うので15Kgの息子を左手で抱っこ、右手で荷物をぶら下げた自転車を押して帰る。
今はこれぐらい甘えさせてあげてもいいと思った。5分ほどそうして歩いていると息子の調子が戻ったので自転車に乗せる事ができた。
僕はペダルをこぎながら「僕、もっともっと仕事頑張るから−!!」などとわけも分からない決意を脳内ループさせていた。今ふり返ると自分の情緒も変になっていたと思う。
登園5日目、慣らし保育最終日は17時まで。ここまで来るとほぼフルタイムになる。朝、着替えない、遊び続ける、ご飯を食べない、靴を履かないなどあらゆる手段で登園を拒否する息子。
「前の保育園がいい〜!」とお世話になった先生の名前を叫ぶ。
送り担当の僕がなんとか駐輪場まで連れて行ったが「今日はお母さんと行きたい!!」とごねだし、大泣きに発展、渋々ウチに戻って仕事で急いでいる妻に交代。妻も僕も先行きに不安しか無かった。
激動の5日間をなんとか乗り切った息子は週末の土曜から39度の高熱を出してしまった。その後もなかなか体温が安定しないので義父・義母のサポートを受けながら火曜まで休むことになった。
登園は3週目を迎えた。ある日を境に息子が新保育園の友達の名前を教えてくれるようになった。うれしそうに名前と特徴を話してくれる。
何があったのかは定かで無いが友達と話すきっかけをつかめたようだ。うれしかった。妻と半泣きで話を聞いた。
いつものブロック遊びではマンションか温泉を作る息子はその日、保育園を建設していた。園児をたくさん集めて新保育園の先生の名前も飛び出した。
次の朝、ブロックの保育園は息子が操る怪物が思いっきりぶっ壊していたけれど、3週目からの息子は平常に戻って楽しそうに新保育園に通っている。
長い目で見守っていきたいと思った。。。
つづく