■「夜が来るのが怖い…」寝かし方が間違っていたかも!?
――なかなか子どもが寝てくれない、夜泣きがひどいなどで「夜が来るのが怖い」というお母さんが多いようです。
森戸先生:アジア全域では、子どもに添い寝して家族みんなで寝るのが一般的ですね。日本もしかりで、赤ちゃんが寝るまで親は寝かしつけをし、夜泣きをしたら抱っこしてあやすなどをお母さんはしているでしょう。
しかし、寝つくまでに何時間もかかる、夜泣きで度々起きなければいけないなどで、お母さんの多くは「夜が怖い」と感じてしまいます。そういった生活が続き寝不足になるお母さんが陥りやすいのが「産後うつ」や「育児ノイローゼ」です。
実は、このお母さんの行動こそが赤ちゃんが寝つきにくく、夜も頻繁に起きる原因ではないかといわれています。子どもとしたら、起きている限りお母さんはずっとそばにいてくれるし、泣けばずっと相手をしてくれるわけですから。なかなか寝なくなるのは当然かもしれません。
日本流の寝かしつけや夜泣き対応をしていると、子どもは1人で寝る学習がなかなかできないわけです。
――夜泣きについて、先生は著書で「消去法」を推奨されていますね。
森戸先生:消去法というのは、欧米で取り入れられている子どもの睡眠方法。生まれて数日したら親子は別々の部屋で夜を過ごし、子どもは1人で寝る練習をするというものです。
この消去法では、赤ちゃんが泣いてもなるべく手を出さないようにして様子を見ることが大事。まるっきり一人にする必要はなく、赤ちゃんの様子を観察しつつ、なるべく抱っこしないようにします。そうすることで、一人では眠れない、泣いたらママが来てくれるといった入眠の誤学習を防ぐ方法です。
眠りのトレーニングを生まれてすぐすることで、こうやって眠ればいいんだと子どもは生後3〜4カ月までには習得するようです。
――泣いても相手をしてあげないと、愛情を感じずサイレント・ベビー(無表情で言葉も遅い赤ちゃん)になってしまうのではないかと心配するお母さんもいるようです。
森戸先生:このサイレント・ベビー説は日本で長年信じられてきた育児神話の一つですが、医学的根拠が大変薄いのです。一小児科医が提唱した考えなので科学的根拠もありませんし、その説が正しいとしたら、消去法を取り入れている欧米の子どもはみんなサイレント・ベビーになってしまいます(笑)。
赤ちゃんが夜、長時間ぐっすり寝られるように、海外には、夜用の腹持ちのいいミルクもありますよ。日本では、母親が子どものために尽くすことが美徳のようにいわれますが、お母さんも人間なので睡眠はとても大事です。
生活リズムを子どもに合わせていたら寝られないし働けないというのなら、そこは大人に合わせてもらうのでいいと思います。子どもの安全を確認しつつ、一人で寝かせてもいいのではないかと考えます。
例えば、夜8時に寝かしつけを始めたけれど、結局10時まで寝ないというお母さんが相談に来られるんですけど、その2時間があったらお母さんはいろいろなことができますよね。
夜8時に寝かせようと頑張る母親と絶対に寝ないと頑張る子どもの戦いが毎日(笑)。それなら、9時半に寝かしつけるようにしてもいいと思うのです。
育児が思い通りにならないと、イライラしてキーっとお母さんもなってしまいますよね。それでは、お母さんも子どももお互いがつらくなってしまいます。それより、多少理想とは違う子育てになっても、お母さんと子どもの両方が楽でうれしい方を選んでいいと思います。
例えば『完璧なおやつを手作りしたいからキッチンへ来ないで』と子どもを追い出すよりも、2人でスナック菓子でも食べていた方がお母さんも子どもも幸せではないでしょうか。インナー姑に従って自己満足のためにやる育児ではなく、子どもと親の両方が笑顔で過ごせる方法は? という観点で優先順位を考えた方がいいですね。
■「叱った後はやさしく抱きしめる」は本当に正しいの?
――子どもへのしつけですが、よく育児書に「子どもを叱った後はやさしく抱きしめてあげましょう」と書いてありますが、その通りなのでしょうか? それは、DV夫が暴力・暴言の後に「ごめんね」と妻にやさしくなるのと一緒ではないかとモヤモヤするお母さんもいるようです。
森戸先生:そうですね、叱られてすぐに抱きしめられたら、子どもは混乱しそうですよね。さっきまで叱っていたお母さんが急に抱っこするので「どうして?」と子どもは思います。それに、最終的にやさしく抱っこされるのなら、子どもは何をしたら叱られるかという基準がわからなくなるかもしれません。
それに、大きな声やきつい言葉で叱るなどはエスカレートしやすいですし、人前で恥をかかせる行為にもなるので、子どもには逆効果となります。
好ましくない言動をしたらお母さんがかまってくれると子どもが誤解しないように、叱るのではなく目を合わせない、話しかけても答えないなど、「無視」が効果的だといわれています。
また、タイムアウト法といって、子どもを別部屋に連れていくなど1人にして考える時間を与えるというのも保育園などで取り入れられています。
ただし、ほかの人や物、自分自身にも害が及ぶような危険な言動を子どもがした場合には、直ちに止める必要があります。
――叱らず相手にしないのが効果的とのことですが、おでかけ先で子どもが泣いたり暴れたりしたとき、親が叱らないと「何だあの親は」と周囲は思いますよね。
森戸先生:日本では、周囲へのパフォーマンスとして親の強く怒ってる姿を見せなければいけないというのがあるかもしれませんね。
周囲に迷惑をかけるようなら、乳幼児の場合は外に出る、あやすなどの対応をし、言い聞かせることができる年齢の子なら、繰り返し穏やかな声で「静かにしなさい」と短くわかりやすく指令を伝えるブロークンレコードという手法をおすすめします。
ただし、周囲へのパフォーマンスとして大声で強く叱ったりする必要はありません。
でも、そういった子連れに対して文句を言う人たちは、手を貸してくれるわけではないですし、何か起こったときに責任を取ってくれるわけでもありません。だから、お母さんはあまり気にしなくていいと思います。
実は、そういった文句だけの人は少数派だと思います。多くの人が『子どもが泣いてお母さん大変そうだな』『元気な子どもでかわいいな』って思ってる人の方が多いけれど、『うるさいな』というマイノリティーの言葉の方が目立つだけではないでしょうか。
だから、そういうお母さんに対する周りの圧力みたいなものは気にしなくていいと思います。
――家ではいろいろできそうですが、外では見逃してしまいそうです。
森戸先生:それをしてしまうと、子どもは『外なら泣いたり暴れたりしても大丈夫』と覚えてしまうので、お母さんは外でも一貫性を示す必要があるでしょう。場所がどこであっても『やってはいけないことはやってはいけません。お母さんはもう知りません』という態度を示せるといいですね。なかなか難しいとは思いますが…。