女性の姓(氏)の問題、いわゆる「選択的夫婦別姓(氏)制度」については、国会で議論されることも難しく、もう30年も続いているテーマです。石破総理は、「別姓に前向き!」と期待した人も多かった中、ちょっと後退気味になったかのような印象も…。武蔵野市長も務めた立憲民主党・松下玲子衆議院議員に、「選択的夫婦別姓」議論をどう進めていくか、お聞きしました。
お話を聞いたのは…
立憲民主党 松下玲子議員1970 年生まれ、実践女子大学文学部卒業後、サッポロビール入社。2004 年 早稲田大学大学院経済学研究科修了、松下政経塾での研修を経て、2005 年・2009 年 武蔵野市選挙区で都議会議員選挙に当選。2017 年 市民の要請により武蔵野市長選に立候補して当選、2021 年に再選、2023 年11 月末退任。現在、立憲民主党東京都第18区総支部長。
>>松下玲子公式HP
―立憲民主党としては、今、どのような「選択的夫婦別姓制度」をご検討されていますか。
松下議員:今、一つの制度の土台となるのは、法務省がこれまで2度、民法の改正案として準備していたものがあると思います。こちらは、子の氏を、婚姻時に決めるというものです。立憲民主党は、旧民主党時代から、子の氏は、出生時に決めるという制度として、法案を何度か出しています。ただ、30年も、この問題、進んでこなかったので、とにかく「別姓制度」を通したい。そのために、これまでの法案ではなく、多くの党と協議して、できるだけ多くの議員が賛同する制度として、法案を作りたいと思っています。
―子どもの氏の選択は、選択的夫婦別姓論議で、大きなポイントになります。
松下議員:婚姻時に決めるということにはどうかなと思うのは、結婚は出産が前提ではないし、子どもはやはり授かりものですから、子どもがほしくても授かれない人も多いですよね。個人的な、そして非常にナーバスなことについて決めることには、やはり抵抗がありますね。それに、これからはシニア婚も増えてきますから、そういう人たちにも、子どもの氏を決めておくのかといえば、まあ、必要はないですよね。
―他には、子どもは全員同じ氏か、後から変えることができるか、変えるとすればどういう方法かなどがありますね。
松下議員:法制審の案は、子どもは全員同じ氏で、未成年であれば家庭裁判所の許可が必要としています。子どもの氏を出生時に決めるとすると、そんな短期間で決められるのかとよく言われますが、決められますよ。下の名前だって決めているんですから。
―そうですね。下の名前も、実際には事前に考えている人も多いと思いますが、氏だってその意味では同じですね。
松下議員:そうです。祖父母まで口出してきて色々揉めても、ちゃんと折り合いをつけられるのですから、それと同じだと思います。ただ、とにかく、この制度、成立させたいので、子どもの氏についても、できるだけ多くの人が賛同できる案を作って、柔軟にしていこうと思っています。
―この議論、長いですよね。ちょうど私がこの仕事(ジャーナリスト)を始めた頃からありました。それでも、夫婦別氏制度が必要だと思われる理由は何ですか。
松下議員:氏(姓)と名前があって、初めて個人として識別能力が高まるんです。「松下」といっても、いっぱいいますよね。「玲子」といったって同じです。「松下玲子」でもちろん同姓同名もいるかもしれないけれど、格段に識別能力が高まります。議事録なども、名前が変わったら、一貫性というものも担保できなくなる。事業継承とか、家の名前を残したいとか、本当に困っている人が、現実にいるんです。別氏制度がないと、事実婚のままの人も増えてきました。そういう方たちは、配偶者が病気になったり、亡くなられたりしても、何の保障もないんですね。困っている方の困りごとは、ちゃんと解決したい。政治の責任と思っています。
―石破総理は、自民党総裁選で別氏制度には前向きに捉えていらっしゃいました。しかし、総理になったら、少し後退しているかなと思う発言も見られます。まずは議論を、といったことですが、国会での議論、ぜひして欲しいと思っています。子どものアンケート調査結果などもありますが、制度について正しく理解するには、まだ国民の理解ももう少し深めないといけないとも思います。
松下議員:経団連が提言したのは大きかったと思います。今まで、どちらかというと反対だったのが、経団連に加盟する企業の女性たちが、特に海外で困っているという実例があったからだと思います。それに加え、男性の中にも、実は改姓や通称使用で苦労している人も増えているんですよね。当事者が増えるというのは、とても大事だと思います。
―そうはいっても石破総理は、今までの政権より前向きに見えますから、ぜひ進めて欲しいですね。
松下議員:この機を逃したら、また30年、できないと思うのです。ですから、できるだけ多くの人が賛同できる案として、立憲民主党も柔軟に対応していきたいと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。