10作目:“性別”の枠を超えた愛とは。二度と訪れない、二人の青年の一夏を描く『君の名前で僕を呼んで』| GOOD CINEMA PICKS
なぜか、オリヴァーに意地悪ばかりしてしまうエリオだが、自分のなかにある気持ちに正直になり、二人は一夜をともにする。
また、原作は過去の思い出を振り返るスタイルで描かれている一方、この作品は、ストーリーが現在進行形で進んでいく。スクリーンの前に座る観客は、二度と戻らない瞬間を、その瞬間にしか感じることのできない感情を抱きながら生きているエリオやオリヴァーたちの世界に、スクリーンを通して入り込んでしまうのだ。オリヴァーとの別れに悲しむエリオに父パールマンは、「痛みを葬るな。感じた喜びも忘れずに」と声をかける。エリオとオリヴァーのすごした1983年の夏はもう二度と来ない。その夏に感じた悲しみも喜びも、同じ感情はもう感じることはできないのだ。しかし、その感情を、心にしまうことはできる。
数えきれないほどの感情を重ねながら、私たちは少しずつゆっくりと大人になればいいのだ。
▶︎これまでのGOOD CINEMA PICS・9作目:「エイズ問題」を見て見ぬふりをする政府や、製薬会社に抗議する若者を生々しくエモーショナルに描いた映画『BPM ビート・パー・ミニット』・8作目:摂食障害、セクシュアリティ、鬱。