水産資源を守りたい!
MSC認証とMSC「海のエコラベル」を広める
そこで当時32歳だったすーさんは、
東京大学大学院の農学生命科学研究科で学びながら、
MSC(海洋管理協議会)という国際的な非営利団体の日本事務所であるMSCジャパンに入ります。
MSC認証とは、
持続可能な漁業に関する認証プログラムのこと。その漁業で獲られた水産物に
MSC「海のエコラベル」が付けられます。スーパーでも青い魚とMSCと書かれたラベルが付いている商品を見たことがある方もいるかもしれません。
左:すーさん 右:MSC認証を取得した高知の151明神丸の漁労長さん
MSCの商品を選んで買うことは、
過剰な漁獲をしないなど水産資源を守りながら持続可能な漁業をおこなっている漁業者を支援することにもつながっていきます。すーさんはこの認証プログラムとMSC「海のエコラベル」を広める活動を進めていきます。
「MSCジャパンに入ってすぐの頃、東京オリンピックの選手村で調達する食材について議論されていました。2016年のリオオリンピックでは、MSC認証の魚を100%調達するという方針が決まっていたので、東京でもそうしようと進めていきました。
世の中的にも徐々にSDGsが叫ばれるようになり、2019年には
マクドナルドのフィレオフィッシュ®にMSC「海のエコラベル」が付くなど、この5~6年でだいぶ認知されるようになってきました」
全国の漁協に行って、
将来のために水産資源を守りながら漁獲することの大切さについて説いたり、漁師さんに現状について話を聞いたりしながら、地道にMSC認証の取得を漁業者に勧めていったすーさん。
しかし、興味は示してくれても実際にMSC認証取得にはお金がかかったり、基準が厳しくてハードルが高い部分も。そこで2019年にMSCジャパンを退職し、MSCなどの国際認証をサポートする
「日本漁業認証サポート」を立ち上げます。
カツオの一本釣りって実はサステナブル?!
伝統漁業を発信、漁師さんと消費者の架け橋に
「ちょうど高知と宮崎のカツオの一本釣り漁業がMSC認証取得を目指していたのですが、実務をやる人がいなくて、それならと独立してサポートすることにしました。じつは
カツオの一本釣りってすごくサステナブルな漁法なんです! 1本1本、お腹の空いているカツオだけを釣り上げるので、
群れを獲り尽くすということもないし、海鳥やウミガメなどを混獲してしまうこともありません。
そういう日本の伝統漁業を伝えていきたいという漁師さんの気持ちも知っていたので、MSC認証を通じてPRにつながればと思っていました」
漁師さんたちをサポートする活動をしながらつぎに立ち上げたのが、「
日本サステナブルシーフード協会」。頑張っている漁師さんたちのことをもっと消費者に伝えるために、学びと交流の場を作りたいと考えたそうです。
「ここ数年、漁業法が改正されるなど、漁業の法律やルールについて活発に議論されているんですけど、議論しているのは水産庁の職員さんや漁業の業界団体の方などに限られていて、ふだんお魚を食べている一般消費者にはちっとも届いていないと思っていたんです。
ちょうどコロナ禍に入ったタイミングだったので一気に
オンライン化が進んだことや、学校に行けなくなって自宅で時間を持て余している子どもが増えたことも重なり、まずは子どもから伝えたらお父さんやお母さんも聞いてくれるかもしれない! と、オンライン授業の“
おさかな小学校”をスタートさせました」
「1匹から膨らむ想像力」が世界を広げる!
オンライン授業の「おさかな小学校」
おさかな小学校では、毎月、マグロやサケなどの身近な魚をひとつ取り上げ、生き物、漁業、食文化、歴史、環境問題などの話をしています。
実物を用意して観察したりさばいてみたり。ときには漁師さんや研究者などのゲストが来ることも。
おさかな小学校の様子
「魚をさばく様子って、大人が見ると気持ち悪いと感じることもありますが、子どもたちは興味津々で見ています。胃の中から捕食した小魚が出てきたり骨があったり、すごくたくさんの学びがある。
子どもがそうやって魚に興味を持つようになると、親御さんもつられて一緒に勉強して、美味しい魚を見極める
目利きが育つようになり、スーパーに行って
旬の魚を選ぶようになったとか、
これはまだ小さいんじゃないの? と気にするようになったという話も聞きます」
そうやって
私たち消費者がまずは魚に関心を持つことが、未来の水産資源を守る第一歩。海の問題を少しずつ解決することへとつながっていきます。
「僕の5歳の娘ももともとお肉の方が好きだったのですが、アジの塩焼きを
丸ごと出したらおいしい! と食べて、そこからすごく変わったんです。
丸々一匹魚を食卓に出すというのは大事。そこから少しでも魚を好きになれば魚を残さなくなるし、水族館でみたときや海に行ったときも、
違った関心を持つようになります。1匹の魚でさまざまなことが想像できるようになってほしいと願ってやっています。
僕は長いこと漁業に関わってきましたが、乱獲や環境問題以外にも
後継者不足など、長い時間をかけて解決しなければならない問題がたくさんあります。でも逆にいうと、それだけ可能性やチャンスが広がっているということ。
魚が暮らす海は日本だけでなく、世界中の人にとって
たった1つしかない宝物。豊かな海をどうやって残していくか、子どもたちの中からすごいアイデアが生まれるかもしれません」
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2030年までの達成を目指している
SDGsの目標14は
“海の豊かさを守ろう”。これから先も美しい海を眺めておいしい魚を食べられるように、
私たち一人ひとりが魚の世界に関心を持って想像力を膨らませていくことが大切です。
後編では、楽しみながら学べるように、
クイズ形式で魚や海のために私たちができることなどをご紹介します。
「いただきます!からはじめる おさかな学 〜1匹の魚から海の未来を考えよう」(リトルモア刊)
国語、算数、理科、社会… おさかな! 海にかこまれた島国で生きる私たちの必修、SDGsにも食育にも欠かせない「おさかな学」の1日授業を体感できる一冊です。
魚を見るのも食べるのも、100倍楽しくなる! 海の問題がもっと「自分ごと」になる。図鑑や絵本から、さらに一歩ふみこんで、魚と海のことをお子さんと一緒にしっかり学んでみませんか?(漢字にふりがな付き※小学5年生以上向け)
【おさかな学の時間割】
1時間目:マグロがみんなの食卓に来るまで ⇒ 流通
2時間目:漁師さんはどうやって魚をとるの? ⇒ 漁業
3時間目:魚の値段はどうやってつけられる? ⇒ 市場・セリ・直接取引
4時間目:日本の海はなぜゆたか? ⇒ 海流・海洋大循環・食物連鎖
お昼ごはん:魚をさばいて料理して食べよう!
5時間目:ぼくたちは海とともにくらしてきた ⇒ 食文化・技術の進歩
6時間目:未来のおさかなを考えよう ⇒ 環境問題・SDGs
保育園などの施設・団体限定!「TAN-SUのこどもの食育わくわく企画!第2弾」紙芝居をプレゼント!