山田太一さんが病床で構想した『ふぞろい』VI…還暦版「老いらくの林檎たち」に
頭木さんはこう語る。
「先生は謙虚で、僕だけではなく誰に対しても優しく親切で、取材の後は一緒にお昼を食べに出たりしていました。とんかつがお好きでしたね。本当に元気でいらしたのに……。残念でなりません。『ふぞろいの林檎たちV』は以前、コピーをいただき、存在は知っていましたが、先生の書庫で現物を見て“本物だ!幻のシナリオだ”と思いました。’19年の8月9日に見つけたとメモしています」
Vでは主人公・良雄の母が幽霊となって登場。良雄はお見合いパーティに参加し、陽子(手塚理美)と再会するストーリーだ。
《ドラマの冒頭、電車の中で、母親の姿を見た良雄の内心の声。 「お母ちゃん。お母ちゃんは時々、こんなふうに俺を見ている。それも俺が、あんまり、お母ちゃんに見られたくないことをする時にね」》(未公開シナリオ集より)
■山田先生は「もっとあってもよかったかも……」と
頭木さんが解説してくれた。
「良雄はIVで結婚しますが、1年7カ月で離婚して、さらにそれから5年たっています。 電車の中、自分が見られたくないことをするときに、幽霊となった良雄の母が現れるんです。《人は死んでも影響を与え続ける》という先生の考えがあるんです。