吉沢亮の舞台俳優としての力量をみた 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『マーキュリー・ファー』
ところが、登場人物の全てが愛に飢えている、と後半になるにつれて理解されるのである。
吉沢の演技はケレン味がない。大声を出しても、弟と拳銃のまねごっこ遊びなどでの笑顔も自然さがある。顔立ち、声音から窺える優しさもあるのだろう。だが、仲間のスピンクスを演じた加治将樹と弟ダレンを加えた激しい格闘は皆、一切の手抜きがなかった。喧嘩ごしの演技だった。
その加治だが、迫力ある体格、発声、運動力には驚いた。盲目のお姫さま役・大空ゆうひの美貌と狂気の世界で浮遊するような表情が面白い。
ローラの宮崎秋人、パーティゲストの水橋研二、少年ナズの小日向星一ら脇役陣が個性を競い合い、厚みのある舞台になった。そしてそれら人物の演出、松井るみの美術が光る。
戦争や不安が近づく荒廃した世界では人間は狂気に走るのか。コロナ禍、戦火のウクライナ情勢といった現在の状況を俯瞰すれば7年前の初演より一層、愛の深さに思いが及ぶのである。(1/28所見)
プロフィール
大島幸久(おおしま・ゆきひさ)東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。
現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。