生きること、愛することの答えを探す残酷な寓話 ―『マーキュリー・ファー Mercury Fur』観劇レポート
と彼が連れてきた“お姫さま”(大空ゆうひ)、そしてパーティゲスト(水橋研二)。新たな人物が現れるたびに不穏さが増し、それぞれが語る惨たらしい過去の体験、その想像の情景が動悸を誘う。背徳の匂いただよう怪しげなパーティは強引に始められ、怒声や悲鳴の飛び交うなか、残忍な暴力が繰り返されていく。
左から、小日向星一北村匠海撮影:細野晋司
シアタートラムで上演された初演は、肌感覚で迫り来る恐怖、臨場感に震える体験だった。世田谷パブリックシアターへと空間が拡大された今回は、不気味さが広がる天井高、扉の奥の見えない別室、異世界への抜け道のような出入り口など、舞台上のさまざまな情報が殺伐とした冷気を生んで、深淵な闇の奥の幻想に引き摺り込まれる趣だ。
手前:宮崎秋人、奥:吉沢亮撮影:細野晋司
前評判こそ兄弟役の人気者ふたりに視線が集中したが、キャスト全体のバランスが非常に良く、巧者が揃った。各人の色鮮やかな個性と確かな技量が、どの人物も寓話の世界のリアルな住人であることを信じさせてくれる。とくにローラを演じた宮崎の、心の傷が見え隠れする繊細な立ち居振る舞い、寂寥ただよう存在感に惹きつけられた。本作が初舞台である北村の安定感は驚くばかりで、ハイトーンボイスが無邪気な少年のひたむきさを際立たせ、いじらしく、もの悲しい。