それ以外は捨てて行くぐらいの大胆な気持ちでいれば、ケムリ研究室ならではの『砂の女』が作れるのではないか、と思ったんです」と緒川は語る。
そこに欠かせなかったのが、男を演じる仲村の存在。仲村も出演を快諾したものの、「最近原作を読み終えたんですが、これは安請け合いしてしまったな」と苦笑いを浮かべる。男という役どころに関しては、「虫を追いかけてあんなところにまで行くなんて僕には理解出来ませんが、何かから逃れる理由、大義名分として虫を追いかけていたとしたら…。僕も名もなき人になってみたいという願望を一瞬くらいは抱いたことがありますし、男の気持ちも少しわかる気がします」と、難役への手がかりを明かす。
一方の女について、緒川はこう読み解く。「今の状況に甘んじている、どこかイライラさせる女というものの奥にある、非常にたくましく魅力的なもの。そこをどうやったら匂わせられるのか、ずっと考えているところです。
そして女の、“男を陥れた張本人”という立ち位置とはまた違う、“当事者意識のない不思議なもの”という部分も大事にしていけたらと思います」
取材・文:野上瑠美子